通常、不動産の売却には本人の意思が不可欠です。そのため、本人が認知症になってしまうと、その人の不動産は売却できなくなってしまいます。
しかし、介護費用の捻出や、維持管理に費用がかかるといった理由で、「認知症になった親の不動産を売りたい」という人は少なくありません。
認知症の親がもつ不動産を売却したいときは、「法定後見制度」を利用することで、売却が可能になります。法定後見制度は、裁判所で後見人を選任してもらう制度で、財産管理の一環として不動産売却が可能です。
家族であれば誰でも申し立てられますが、法的な知識が必要になるので、まずは弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談しましょう。
また、後見人が決まった後は、不動産会社選びも必要になります。スムーズかつ高値で売却するためには、複数の不動産会社を比較することが大切なので、まずは一括査定で各社の査定を比べてみましょう。
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- 認知症になった親がもつ不動産は、「法定後見制度」を利用することで売却できる。
- 後見制度の利用は、後見人の負担や裁判所での手続きなどがあるため、利用前は慎重に検討するべき。
- スムーズに不動産を売却したいなら、弁護士・司法書士などの法律家や、後見制度に詳しい不動産会社へ相談するのがおすすめ。
目次
認知症の親の不動産売却は「法定後見制度」の利用が必要
認知症になった親の不動産は、そのままでは売却できません。これは、不動産の売却が名義人以外にはできないためです。
名義人である親自身が、自分の意思で売却しなければいけませんが、認知症患者は正常な意思判断ができません。よって、売却しても契約無効とみなされます。
しかし、認知症患者の財産管理や日々の生活を支援する「後見人」を選ぶことで、不動産の売却が可能になります。そして、後見人を選任するための手続きとしてあるのが、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2つです。
法定後見制度 | ・認知症になった人の家族などが、家庭裁判所に後見人の選任を申し立てる制度。選ばれた人は「成年後見人」と呼ばれる。 ・後見人の権限は法律によって定められている。 |
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任意後見制度 | ・本人が認知症になる前から後見人を指名しておく制度。選ばれた人は「任意後見人」と呼ばれる。 ・後見人の権限は契約内容次第であり、任意に決められる。 |
任意後見人は、親本人が元気なうちに準備しておく制度なので、認知症になってからでは利用できません。詳しくは記事の後半で解説します。
親が認知症になってから「不動産を売りたい」と思ったときは、法定後見制度による後見人の選任を行いましょう。
法定後見制度が必要な理由
不動産売却には次の2つが前提としてあり、これらが「法定後見制度が必要な理由」となっています。
- 不動産は本人に「意思能力」がないと売却できないため
- 本人以外が勝手に売却すると損害賠償の恐れがあるため
法律の話になるので少し複雑ですが、適切な手続きで不動産を売るためにも、上記の理由をしっかり把握しておきましょう。
不動産は本人に「意思能力」がないと売却できないため
当事者の意思表示によって法的な効果(売買なら所有権の移転など)を起こす行為を「法律行為」といい、法律行為をおこなうには「意思能力」が必要とされています。
意思能力は、自分の行為にどのような意味があるのか、正しく認識できる能力のことです。認知症や知的障害、精神障害をもつ人は、意思能力が不十分だとみなされます。
民法では、意思能力が不十分な状態でおこなわれた法律行為は、無効になると定められています。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
つまり、認知症患者が不動産を売却しても、その売買契約は無効になってしまうのです。
本人以外が勝手に売却すると損害賠償の恐れがあるため
本人には無理だからといって、家族が勝手に不動産を売ることはできません。生計を共にする夫婦でも、血縁のある親兄弟でも、自分の財産以外を勝手に処分することは認められないのです。
家族が本人に代わって売却する場合、委任契約を結んで代理人になる必要があります。しかし、委任契約も法律行為にあたるため、認知症になってからは不可能です。
委任契約がないまま本人の代理人と偽って売却した場合、「無権代理行為」となります。無権代理による売買契約をおこなうと、相手側に次の権利が発生します。
- 本人に契約が有効であるか確認する(追認の請求)
- 無権代理を行った人に損害賠償を請求する
無権代理行為であっても、本人が後から了承(追認)すれば契約は有効となりますが、その本人は認知症であれば追認ができません。よって、無権代理をおこなった人は、相手方に損害賠償を請求される恐れが高くなります。
法定後見制度の費用はいくらかかる?
法定後見制度の必要性を理解したところで、次は手続きに必要な費用を見ていきましょう。法定後見制度にかかる費用は、大きく「申し立て費用」と「後見人等の報酬」にわけられます。
申し立て費用
申し立て費用は、裁判所に支払う手数料や、選任手続きにかかる諸費用があります。下記は、東京家庭裁判所の申し立て費用です。
- 申立手数料及び後見登記手数料:3,400円(印紙で納付)※1
- 審判書などの書類送付費用:3,270円(切手で納付)※1
- 医師による鑑定費用:10万円~20万円程度※2
- 診断書の作成費用:数千円程度
- 住民票や戸籍抄本の取得費:数百円程度×枚数分
- 登記されていないことの証明書の発行手数料:300円(印紙で納付)
※1:印紙・切手の額面と枚数に指定あり。
※2:裁判所が必要と判断したときのみ。審理で不要となった場合は支払わなくてよい。
参照:裁判所「申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター 第1 申立てにかかる費用(成年後見・保佐・補助)」
地域によって多少変わる可能性があるので、詳しくは申し立てる家庭裁判所に問い合わせましょう。
後見人等の報酬
後見人等の報酬は、後見事務の対価として支払われ、後見事務が続く限り発生します。
金額は管理する資産額などで変わりますが、おおむね月2万円~6万円程度が目安です。被後見人(後見を受ける本人)の財産から支払われるため、家族などに直接的な負担はありません。
なお、後見人が家族でも、弁護士などの専門家でも、報酬をもらうには後見人自身が裁判所で申し立てをする必要があります。逆に言えば、無報酬で後見事務をするのも可能ということです。
ただし、後見事務は決して楽なものではなく、煩雑な業務も多々あります。家族であっても、後見人になれば正当な対価を求めるのは当然の権利なので、必要であれば遠慮せず報酬の申し立てをしましょう。
参照:裁判所「申立てにかかる費用・後見人等の報酬について 東京家庭裁判所後見センター 第2 後見人等の報酬」
法定後見制度を使うときの注意点
認知症患者の不動産売却を可能にする法定後見制度ですが、下記のようにいくつかの注意点もあります。
- 誰が後見人になるのかは選べない
- 居住用建物の売却は裁判所の許可が必要
- 1年ごとに後見事務の報告が必要
- 後見事務は本人が死亡するまで終わらない
制限なく不動産売却ができるわけではないので、しっかりと注意点を把握したうえで申し立てをおこないましょう。
誰が後見人になるのかは選べない
法定後見制度では、誰が後見人になるかは裁判所が決定します。申し立てる際、候補者をあげることはできますが、その候補者が選ばれるとは限りません。
選任は必要な支援内容によって判断され、弁護士や司法書士といった法律家や、福祉関係の専門資格者などが選ばれることがあります。
なお、後見人には「欠格事由」があり、以下に該当する人は家族でも第三者でも選任されることはありません。
- 未成年者
- 成年後見人等を解任された人
- 破産者で復権していない人
- 本人に対して訴訟をしたことがある人や、その配偶者または親子
- 行方不明である人
居住用建物の売却は裁判所の許可が必要
売却したい不動産が居住用建物(被後見人のマイホーム)である場合、後見人の判断だけで売却はできず、裁判所の許可が必要となります。生活の本拠となるマイホームが処分されると、被後見人の生活が脅かされるかもしれないからです。
「現在住んでいる家」だけでなく、「将来的に居住する可能性の高い家」「一時的に住めていないが戻る可能性のある家」なども含まれます。
裁判所の判断は総合的な事情を考慮されますが、施設に入居していて家に戻る見込みが皆無な場合や、介護資金などを捻出するために家を売却するしかない場合などは許可が出やすいでしょう。
なお、賃貸用物件など居住用建物以外の財産であれば、後見人の判断で処分できます。ただし、後見監督人が選任されている場合は、その同意が必要です。
1年ごとに後見事務の報告が必要
後見人に選任されると、年に1回、後見事務の報告が必要となります。あらかじめ報告時期が定められ、期限を守らない場合は事前連絡が必要です。
報告では、次にあげる書類を作成・提出します。
- 後見等事務報告書
- 財産目録
- 預貯金通帳のコピー
- 本人収支表
上記のほか、前回の報告から変化があった財産があれば、その資料も添付します。不動産の売買であれば、全部事項証明書(登記簿謄本)や売買契約書のコピーなどです。
弁護士などの場合は適切な報告もできますが、家族が後見人になった場合、書類作成に苦労するケースが多々あります。報告を怠ると、後見人を解任されたり、業務上横領を疑われて刑事責任を問われたりする恐れがあるため、確実に報告するようにしましょう。
参照:裁判所「後見人等の職務,裁判所への報告 年1回の自主報告による後見等監督」
後見事務は本人が死亡するまで終わらない
後見人に選任されると、原則として被後見人が死亡するまで後見事務を続ける必要があります。目的の不動産売却が終わっても、途中で辞めることはできません。
後見事務には、銀行や役所、税務署での手続きなど、平日にしかできないような面倒事もあります。これらを自分の仕事や家事の合間に行う必要があるので、負担に感じることも多いでしょう。
ただし、「正当な理由」があれば辞めることも可能です。例えば、体調悪化や遠方への転居、自分の親の介護など、後見事務の継続が不可能なケースは正当な理由とみなされます。
法定後見制度を使った不動産売却の流れ
法定後見制度の申し立てから不動産売却までの流れは、次の通りです。
- 裁判所へ「後見開始」の申し立てをする
- 裁判所による審理・医師による鑑定がおこなわれる
- 法定後見人が選任される
- 不動産を査定にだす
- 売却活動をおこなう
- 売買契約を締結する
- 代金決済・物件引き渡しを行う
後見人が選任された後は、基本的に通常の不動産売買と同じです。高額かつスムーズに売るため、優良な不動産会社を探しましょう。
各ステップを詳しく解説していきます。
1.裁判所へ「後見開始」の申し立てをする
まずは裁判所に、「後見開始」の申し立てを行います。被後見人の住所地を管轄する家庭裁判所が申し立て先です。
申し立てができる人は、次にあてはまる人です。該当者以外は申し立てられないので注意しましょう。
- 本人
- 配偶者
- 4親等内の親族
- 任意後見人、任意後見受任者、成年後見監督人など
- 市区町村長
- 検察官
また、申し立てに必要な書類は以下の通りです。
- 後見開始申立書
- 本人情報シート(ケアマネージャーなどに作成してもらうもの)
- 医師の診断書
- 戸籍謄本(全部事項証明書)
- 本人および後見人等候補者の住民票または戸籍の附票
- 本人が登記されていないことの証明書(後見人が付いていないことの証明書)
- 本人の健康状態に関する資料(介護保険被保険者証の写しなど)
- 本人の財産等に関する資料(財産目録や収入・支出がわかる書類など)
- 手数料の印紙、書類送付用の切手
申し立て準備に不安がある場合は、弁護士などの専門家に相談しましょう。
2.裁判所による審理・医師による鑑定がおこなわれる
申し立て後、書類審査を経て家庭裁判所での面接に移行します。申立人と後見人等候補者が出席しますが、場合によっては本人やその介護者、司法書士や弁護士なども同席する場合があります。
「参与員」という裁判所の職員が担当し、所要時間はおおむね1~2時間ほどです。現在の状況や申し立てに至るまでの経緯、後見事務の方針などについて聞かれます。
裁判所側の判断によっては、親族への意向照会や、本人の判断能力について鑑定を行い、審理の参考にします。
3.法定後見人が選任される
申し立てからおおむね1~2ヶ月程度で後見開始の審判が下り、家庭裁判所によって法定後見人が選任されます。
結果は書面で通達され、関係者に届いてから2週間で法的効力が確定します。親族などで審判に不服がある場合は、この2週間以内に不服申し立て(即時抗告)の手続きを取らなければいけません。
法的効力の確定後、裁判所から法務局への依頼により審判結果が登記されます。後見人であることの証明書が必要な場合、法務局で登記事項証明書を申請しましょう。
4.不動産を査定にだす
後見人が決まれば、後は通常の不動産売却とほぼ同じ流れです。まずは、売りたい物件を不動産会社に査定してもらいます。
各社の査定額やその他の売却条件、担当者の対応などから信頼できそうな不動産会社を選び、売却を依頼します。
なお、不動産会社との契約には「仲介(媒介契約)」と「買取(売買契約)」の2種類があり、それぞれ売却方法が異なります。
仲介 | ・不動産会社が買主を探し、成約までのサポートを行う。 ・相場価格で売れるが仲介手数料が発生する。また、売れるまで時間がかかることも多い。 |
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任意後見制度 | ・不動産会社が買主となり、物件を直接買い取る。 ・早ければ数日で現金化できるが、基本的に相場価格より安くなる。 |
なるべく高く売りたい場合は仲介、急いでいるときや訳あり物件を売りたいときは買取と、状況に合わせて使い分けるとよいでしょう。
5.売却活動をおこなう
仲介の場合、不動産会社と契約後に売却活動をおこないます。
基本は不動産会社に任せられますが、売主として、次のポイントには注意しましょう。
- 不動産会社がしっかり営業しているか
- 広告などの物件情報に過不足はないか
- 物件をきれいに保っているか
不動産会社からの報告で状況をチェックしたり、物件の掃除を徹底したりなど、売主側も責任をもって売却活動に関わることで、より良い買主が見つかります。
6.売買契約を締結する
買主が決まれば、売買契約を締結します。買主側がローンを使う場合、まずは仮契約を結んで手付金を支払ってもらい、ローンの審査に通ってから本契約を行うのが一般的です。
契約締結は、原則として売主・買主が顔を合わせて行います。ただし、不動産会社が双方の間を行き来する「持ち回り契約」や、ビデオチャットなどを使った電子契約も可能です。
不動産会社が売買契約書を作成するので、それに署名・捺印すれば契約成立です。成立後の変更はできないので、契約書の内容はしっかり確認しましょう。
被後見人の居住用建物を売るときに必要なもの
売却するのが被後見人の居住用建物の場合、先述した通り裁判所の許可が必要です。売買契約を結ぶ前に、申し立ての手続きをおこないましょう。
許可をもらうための申し立てには、以下のものが必要となります。
- 居住用不動産処分許可申立書
- 収入印紙(800円)
- 郵便切手(84円)
- 不動産の全部事項証明書
- 不動産売買契約書の案
- 不動産の評価証明書
- 不動産業者が作成した査定書
7.代金決済・物件引き渡しを行う
契約で定めた日時に従い、売却代金の決済と物件引き渡しを行います。買主がローンを組んだ金融機関に、当事者や不動産会社の担当者、司法書士を集めて行うのが一般的です。
司法書士が書類などをチェックした後、買主のローン融資が実行され、合わせて代金決済が行われます。決済の確認後、買主に鍵や権利証を引き渡します。
司法書士が所有権移転の登記を申請し、1~2週間ほどで受理されれば売却は完了です。
認知症の親が持つ不動産をスムーズに売るコツ
「認知症の親が持つ不動産を売りたい」という状況は、法定後見制度という複雑な制度を利用する分、どうしても時間がかかってしまいます。
そこで、不動産をなるべくスムーズに売るコツとして、次の3つを押さえておきましょう。
- 弁護士や司法書士に相談する
- 相続や後見制度に詳しい不動産会社を探す
- >内見対策を忘れずおこなう
弁護士や司法書士に相談する
法定後見制度は、認知症患者の家族や親類であれば資格不要で申し立てられます。しかし、申し立て書類の作成には法律の知識が必要ですし、裁判所での手続きに緊張や不安を感じる人もいるでしょう。
そこで頼れるのが、法律家である弁護士や司法書士です。これらの法律家に代行を依頼すれば、抜け漏れのない適切な書類を作成してもらえますし、成年後見制度について詳しいアドバイスをもらえます。
とくに、「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」に加盟する司法書士は、成年後見制度について専門的な研修を受けたスペシャリストです。同組織は独自に会員の指導監督も行っているので、不正の心配もほぼありません。
一方、弁護士は司法書士より対応できる業務が幅広いため、親族の間で資産を巡ったトラブルが発生しているときや、何億という高額資産を扱う場合に向いています。
申し立てを依頼する際の費用は、司法書士ならおおむね10万円程、弁護士ならおおむね30~40万円程になります。選任後に発生する後見人報酬とは別であり、申立人が支払わなければならないので注意しましょう。
後見制度に詳しい不動産会社を探す
不動産会社を選ぶ際、後見制度など法律問題に詳しい企業を選ぶことで、スムーズに売却できる可能性があります。
後見制度について知識がある担当者であれば、購入希望者に物件を案内するとき適切な状況説明をしてもらえますし、各種手続きで時間がかかったときの段取り調整もしてくれるでしょう。
また、裁判所の許可が必要な居住用建物の売却では査定書の提出が必要ですが、知識のある不動産会社なら安心して相談できます。
法定後見制度の申し立て自体には関係ありませんが、知識を持った不動産会社に依頼することで、丁寧なサポートが期待できるのです。
「一括査定」なら高額かつスムーズに売却できる不動産会社が見つかる
不動産会社はそれぞれに強みがあり、どこに依頼するかで売却結果が大きく変わるため、なるべく多くの業者を比較することが大切です。しかし、何の手がかりもない状態から優良業者を探すのはむずかしいでしょう。
そこでおすすめなのが、複数の不動産会社にまとめて査定を依頼できる「一括査定サイト」です。オンラインから、いつでも好きなときに査定を申し込めます。
各社の査定額を比べることで相場がわかりますし、もっとも高値で売れる業者を見つけることも可能です。スムーズに売るだけでなく、高額売却のためにも一括査定の利用はおすすめなのです。
とくに、下記リンクから申し込める「イエウール」なら、全国2,000社以上もの優良業者と提携しているため、高確率で高額かつスムーズに売却できる不動産会社が見つかります。
「すぐに売却したい」という人から「まずは価格だけでも調べたい」という人まで誰でも使えるので、不動産の売却を検討しているときは気軽に活用してみましょう。
内見対策を忘れずおこなう
不動産売却では、購入希望者が物件を見に来る「内見」があります。内見は成約するかどうかが決まる重要な場面なので、良い印象を与えられるよう準備しておくことが大切です。
内見対策の基本かつもっとも効果的なコツは、掃除を徹底することです。不用品を整理し、ホコリや汚れは取り去り、換気で臭い対策も行いましょう。
居住中の家を売る場合は、生活感がでないように整理整頓をすることや、照明をつけて室内が明るく見えるようにすることも肝心です。
認知症患者の不動産売却は、後見制度の申し立てなど何かと大変ではありますが、売買の基本である「売り物を良く見せる工夫」を忘れないようにしましょう。
認知症になる前~軽度症状のときにできる事前対策
ここまでは、主に「認知症になってしまった後」の対応を中心に解説してきました。
しかし、本人が認知症になる前、あるいは軽度症状のときであれば、下記のように他の選択肢があります。
- 本人の意思表示が可能なうちに売却する
- 任意後見制度を準備する
- 家族信託を利用する
これらの事前対策を取っておけば、認知症が発症してからあれこれ動くより、スムーズに不動産の売却が可能です。高齢者やその家族の人は、上記の対策についてぜひ一度話し合ってみましょう。
本人の意思表示が可能なうちに売却する
本人の意思表示が可能なうちに売却すれば、面倒なことは一切なくなり、すぐに売却が可能です。売却して現金化しておけば、管理負担の軽減や、遺産分割の争いを避けることにもつながります。
ただし、「生活に大きな支障はないものの認知症の兆候が現れてきた」という段階の場合、本人に意思能力があるかどうかは慎重な判断が必要です。
売却する不動産の種類や価格、売却の目的などをしっかり説明できるのであれば、基本的に意思能力に問題はありません。より慎重を期すなら、売買契約前に医師に診断してもらうとよいでしょう。
任意後見制度を準備する
任意後見制度とは、本人が自分の意思で後見人を指名し、具体的にどのような後見をしてもらうか決めておく制度です。
法定後見制度と比べると、次のような違いがあります。
任意後見 | 法定後見 | |
---|---|---|
誰がどのような手続きをするか | 1.本人が後見人を指名し、任意後見契約を結ぶ(公正証書と登記が必要) 2.本人の判断能力が低下した後、任意後見人が家庭裁判所に申し立て |
任意後見を受任した人や親族などが家庭裁判所に申し立てる |
後見開始の条件 | 裁判所が任意後見監督人を選任したら開始 | 後見開始の審判が確定したら開始 |
後見人の権限 | 契約で定めた内容による | 財産関連の法律行為全般 |
後見人の選択 | できる | できない(候補者の推薦は可能) |
後見人の報酬 | 契約による | おおむね月2~6万円程度 |
任意後見人は、欠格事由に該当しなければ誰でも指名できます。親類や法律家のほか、信頼できる友人などを選ぶことも可能です。
公正証書の作成が要件となっているので、契約内容の原案をまとめたら、まず公証役場に持ち込みます。原案をもとに作成された公正証書に公証人の面前で署名捺印することで、任意後見契約が成立します。
任意後見契約の締結後、公証人から法務局への依頼によって、後見契約を結んだことが登記されます。
本人の意思能力が低下し、後見が必要になったら、任意後見人が家庭裁判所へ「任意後見監督人選任の申立て」を行うことで、後見が開始されます。
任意後見制度の費用
任意後見制度を利用する場合、費用は次のような内訳になります。
- 公証人手数料:1万1,000円
- 登記手数料:1,400円
- 印紙代:2,600円
- その他雑費:数千円
- 司法書士などの報酬(契約書作成を依頼した場合):おおむね10万円前後
- 申立手数料:800円
- 登記手数料:1,400円
- 鑑定費用(必要なときのみ):10万円~20万円程度
- 切手代:3,000~4,000円程度
- 司法書士などの報酬(申し立てを依頼した場合):おおむね10~15万円前後
- 後見人報酬:契約による(目安は法定後見制度と同じ月2~6万円)
契約内容や、本人の資産状況などにより、多少の変動があることに注意しましょう。
家族信託を利用する
家族信託とは、家族に財産を託し、管理や処分の権限を預ける方法です。あらかじめ家族信託をしておくことで、認知症などで本人の意志能力が低下しても、不動産の売却が可能になります。
家族信託の特徴は、「委託者」「受託者」「受益者」という3つの当事者がいることです。
委託者 | 財産を託す人(所有者) |
---|---|
受託者 | 財産を管理する人 |
受益者 | 財産による利益を受け取る人(賃料収入を受け取るなど) |
委託者が同時に受益者となり、財産の利益を得るのが一般的ですが、それぞれ別の人に設定することも可能です。例えば、父親が委託者、子供が受託者となり、財産の利益を母親が受け取るという形式もできます。
遺言効果もあり、財産を誰が引き継ぐか指定できます。この指定は遺言書よりも優先されるうえ、次の後継者や、更にその次の後継者以降まで指定も行えます。
家族の中で柔軟な財産管理・承継が可能であり、高齢化に伴う様々な財産トラブルに対応できる制度です。
ただし、受託者に負担がかかることや、受託者に選ばれなかった親族から不満がでることもあるなどのデメリットもあるので、注意が必要です。
まずは弁護士や司法書士にアドバイスをもらい、親族間で十分に話し合ってから信託契約を締結するようにしましょう。
まとめ
認知症になった親の不動産は、法定後見制度の利用で売却が可能になります。各種手続きで時間がかかるため、売却を検討しているならなるべく早めに行動を起こすことが大切です。
個人で手続きをすることもできますが、書類作成などは法律の知識がないとむずかしいところが多いため、弁護士や司法書士へ相談するのがおすすめです。
やることが多くて余裕もなくなりがちですが、不動産会社選びや内見対策もスムーズな売却には大切なので、時間に余裕をもって売却にあたりましょう。
焦らず一つひとつのステップをクリアしていけば、最後には必ず不動産の売却が可能です。
認知症と不動産売却についてよくある質問
通常、認知症になった親の不動産は売却できません。本人に意思能力がなく、適切な判断が下せないためです。しかし、法定後見制度を使って後見人が選任されれば、売却が可能になります。
法定後見制度とは、認知症などで意思能力が不十分な人の財産管理などをサポートする制度です。裁判所が後見人を選任し、法律で定められた権限のもと、後見事務を行います。なお、後見人は家族がなるとは限らず、法律家などの第三者が選任されることもあります。
家庭裁判所に「後見開始」の申し立てを行います。2.裁判所による審理や、医師による鑑定が行われ、裁判所が後見開始の審判を下すことで、後見事務がスタートします。
売却したい不動産が居住用建物(被後見人のマイホーム)である場合、後見人の判断だけで売却はできず、裁判所の許可が必要となります。その他の不動産も、あくまで「本人の利益」を目的とした場合に限られます。
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