リースバックで居住用の3,000万円特別控除は使えるのか?

「リースバック」とは、自宅を売却した後、賃貸物件として同じ家に住み続けられるサービスです。一方、自宅を売却したときは譲渡所得税が課される場合があり、その軽減制度として「居住用の3,000万円特別控除」があります。
リースバックは「リースバック業者への不動産売却」なので、居住用の3,000万円特別控除を使用可能です。課税対象である譲渡所得(自宅の売却益)から最大3,000万円を差し引けるので、譲渡所得が発生するときは忘れず使用しましょう。
この記事では、リースバックで3,000万円特別控除を適用する要件や、全体の流れを詳しく解説していきます。
この記事のポイント
- リースバックでも居住用の3,000万円特別控除は使える。
- 居住用の3,000万円特別控除を使うには、譲渡相手などの要件がある。
- 居住用の3,000万円特別控除を使うときは、確定申告が必要。
目次
リースバックでも居住用の3,000万円特別控除は使える
リースバックでも居住用の3,000万円特別控除は利用できます。
リースバックは、リースバック業者と売買契約を結び不動産を譲渡します。譲渡した対価として譲渡金を受け取ることになるため、通常の売却と変わりはありません。よって、売却益(譲渡所得)が発生して一定の要件を満たせば、3,000万円特別控除が適用できます。
リースバックとは売却した家を賃貸して住み続けられるサービスのこと
リースバックとは、売却した家を賃貸して住み続けられるサービスのことを言います。
通常、不動産を売却したときは、引き渡し前に退去しなければいけません。しかし、リースバックでは売却と同時に新たな家主と賃貸借契約を結ぶことで、そのまま家に住み続けるられます。
リースバックを使えば、引っ越しの手間なく家を売却できて、まとまった資金を確保できます。また、契約内容によっては、売却した家を将来的に買い戻すことも可能です。
リースバックは、老後資金や事業資金の調達、住宅ローンの解消、管理費や維持費負担費の削減といった目的に有効な方法です。
通常売却との違い
リースバックと通常の不動産売却を比べると、さまざまな相違点があります。ここでは、通常売却との違いを改めて整理しておきましょう。
- ①売却後も住み続けられる
- ②不動産業者への売却となる
- ③仲介手数料は掛からない
- ④相場より安くなるケースが多い
- ⑤契約次第では買い戻しができる
①売却後も住み続けられる
通常売却との違い一つ目は、売却後も住めることです。
自宅を売却したら退去するのが普通ですが、リースバックは新たな家主と賃貸借契約を交わすので、退去する必要はありません。
ただし、売却後に交わす賃貸借契約には、契約期間が概ね2~3年の「定期借家契約」と、契約期間の更新を前提とした「普通借家契約」があります。普通借家契約では、退去の意思を示さない限り住み続けることができますが、定期借家契約では再契約ができなければ退去を迫られます。
よって、売却後の居住期間、売却金額とその後居住するための賃料設定などを考慮し、自分のライフプランに合った契約形態を選ぶようにします。
②不動産業者への売却となる
通常売却の場合、不動産会社が買主を探す「仲介形式」が主流ですが、リースバックは不動産業者の直接買取が基本となります。
不動産業者への売却となるため、広告や内見などの売却活動はありません。査定額がそのまま買取価格になり、宣伝活動が不要なため最短数日で売却できます。
③仲介手数料は掛からない
前述の通り、リースバックは直接買取が主流なため、仲介手数料は掛かりません。
持ち出しのお金が不要なので、手元の資金が少ない場合も問題なく自宅を売却できます。
④相場より安くなるケースが多い
リースバックの売却金額は、一般的な市場相場より安くなる傾向があります。殆どのケースで、相場価格の60%~80%程度となります。
これは、リースバック業者にかかる買取のコストや、その物件を転売した場合の利益を確保するためです。
また、リースバックは元の所有者が賃借人としている間は、リフォームなど資産性アップにつながるような対策を施せず、単に建物の劣化が経過していくことになるため、資産下落のリスクを負っています。よって、これら要素により売却金額は低く設定されています。
⑤契約次第では買い戻しができる
リースバックでは、契約次第では買い戻しができます。
買戻しをするには、リースバックの売買契約時に買い戻しができる特約条項を入れておきます。また、予め買い戻し金額も設定します。
なお、買い戻し金額は、一般的にリースバックの売却金額に対し1.1~1.3倍程度が相場です。つまり、売却した金額より高い金額での買い戻しとなります。
「居住用の3,000万円特別控除」は譲渡所得から最大3,000万円を差し引ける制度
居住用の3,000万円特別控除とは、居住用財産を売却後に発生した譲渡所得(売却益)から最大3,000万円を差し引ける制度です。
居住用財産とは、実質的居住が求められ所有期間や居住期間が問われることはありません。
譲渡所得には、通常所有期間により譲渡所得税(所得税と住民税、復興税も含む)が課せられますが、最大3,000万円を差し引けることで課税譲渡所得を減じることができ、節税に繋がります。
ただし、この制度は3年に一度しか適用できないなどの条件があるため、利用できるか不安なときは税理士、もしくは税務署へ相談してみましょう。
譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、下記の算出式にて求められます。
譲渡収入金額とは、土地・建物の譲渡代金、固定資産税・都市計画税の精算金となります。
なお、あくまで慣習的な取り決めなので、契約内容によっては精算しない場合もあります。
譲渡費用とは、売却するために直接掛かった費用です。譲渡費用に該当する主な項目は、下記になります。
- 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- 印紙税で売主が負担したもの
- 土地などを売るために古屋などを解体した費用や建物の損失額
- 土地売却時に要した測量費用
譲渡所得から特別控除を差し引いたものが、課税譲渡所得です。この時点で、課税譲渡所得が0円であれば譲渡所得税は掛かりません。
取得費の計算方法
取得費の計算方法は2通りあり、金額の多くなる方(譲渡所得を多く減らせる方)を採用できます。
一つは、概算法です。概算法は、購入当時の金額やその他取得に要した費用がわからない時に利用します。概算法では譲渡収入金額の5%を取得費として計算し、次のように計算します。
次に、実額法です。実額法は、土地や建物の購入代金、購入時の仲介手数料など取得に要した費用の合計金額から、建物の減価償却費を差し引いた金額となります。
取得に要した費用に該当する項目は、主に下記になります。これらを全て足したものが取得に要した費用です。
- 土地や建物の購入代金
- 古家の解体、整地などの工事費用
- 増改築のリフォーム費用
- エアコン、給湯器など建物に付属する設備
- 購入時に支払った仲介手数料
- 不動産取得税
- 所有権の移転登記や抵当権設定登記時の登録免許税や登記手数料
- 売買契約書や金銭消費貸借規約書に添付した印紙代
- 固定資産税や都市計画税の精算金
また、建物分の減価償却費は、下記にて算出できます。経過年数は6か月以上の端数は1年とし、6か月未満は切り捨てます。
※非事業用資産の減価償却費計算のみ0.9を乗じる。
※償却率は、木造(非事業用)で0.031、鉄筋コンクリート造(非事業用)で0.015。
譲渡所得税の税率と計算方法
譲渡所得税率は、所有期間の違いにより異なります。
短期譲渡所得(5年以下) | 長期譲渡所得(5年超) | 長期譲渡所得(10年超) |
---|---|---|
39.63%
(所得税30.63%、住民税9%) |
20.315%
(所得税15.315%、住民税5%) |
課税譲渡所得6000万円以下の部分 14.21%(所得税10.21%、住民税4%) 課税譲渡所得6000万円超の部分 20.315%(所得税15.315%、住民税5%) |
所有期間の計算、実際に所有した期間ではなく、譲渡した年の1月1日時点の所有期間で計算します。例えば、所有期間自体は5年超であったとしても、譲渡した年の1月1日時点に5年超でなければ短期譲渡所得の税率を採用します。
以下に、計算例をご紹介します。
(例)譲渡収入金額を3,000万円、取得費を2,000万円、譲渡費用を200万円、所有期間7年の場合の譲渡所得税はいくらか?
譲渡所得=3,000万円-(2,000万円+200万円)=800万円
【特別控除が適用できる場合】課税譲渡所得=800万円-3,000万円→課税譲渡所得なし=譲渡所得税は掛からない
【特別控除が適用できない場合】課税譲渡所得=800万円
譲渡所得税率=800万円×20.315%=162万5,200円
この場合に負担する譲渡所得税は、162万5,200円となります。
控除適用に「所有期間」や「リースバックの賃貸借期間」は影響する?
3,000万円特別控除適用に「所有期間」や「リースバックの賃貸借期間」は、影響しません。
所有期間が影響するのは、特別控除適用後の譲渡所得税計算時のみです。また、リースバックの賃貸借期間は売却後になるので、全く関係ありません。
リースバックで3,000万円特別控除を使うための要件4つ
リースバックで3,000万円特別控除を使うためには、以下の適用要件があります。
- ①マイホームであること
- ②譲渡する相手が夫婦や親族でないこと
- ③他の特例を受けていないこと
- ④連年適用でないこと
①マイホームであること
3,000万円特別控除を使うには、マイホームであることです。つまり、現在主として住んでいる自宅を売却したときとなります。
また、リースバックの場合にはあまりないケースですが、現在空き家などになっている場合には、居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の年末までの売却することが適用要件です。
②譲渡する相手が夫婦や親族でないこと
売却して譲渡する相手は、夫婦や親族ではないことです。親や子などの直系血族、生計を一にする親族、同族会社等の特殊関係者でないことになります。
③他の特例を受けていないこと
特定の居住用財産の買換え特例など、他の特例を昨年と一昨年に受けていないことです。他にも「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」、「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」が該当します。
④連年適用でないこと
最後に、連年適用ではないことです。3,000万円特別控除は、3年に一度しか適用はできません。
これまで挙げた4つの適用条件を全て満たすことで、リースバックの売却で3,000万円特別控除が適用できます。
リースバック契約から3,000万円控除適用の流れ
リースバック契約から3,000万円控除適用の流れは以下の通りです。
- ①リースバックを行う不動産会社などの査定を受ける
- ②納得した条件を提示した業者に売却する(売買契約を締結)
- ③売却した業者と賃貸借契約を結ぶ
- ④確定申告をする
リースバックに限らず、居住用の3,000万円特別控除を使うときは確定申告が必要なので、忘れず申告しましょう。
①リースバックを行う不動産会社などの査定を受ける
はじめに、リースバックを行う不動産会社などをピックアップし、希望の業者が見つかったら問い合わせをします。問い合わせ時には、一般的に所有物件の状況や売却価格、家賃などの希望条件を確認されます。また、担当者と相談し問題がなさそうであれば、査定を受けてみましょう。
なお、査定の際には土地や建物面積、固定資産税額、マンションの場合には管理費や修繕費なども確認されるので、答えられるようにしておきましょう。査定が終わると、売却価格と家賃の提示があり、希望条件との擦り合わせを行っていきます。
また、リースバックの査定は必ず複数社受けておきましょう。業者により売却価格や家賃、契約形態などに違いがあるためです。複数社の査定内容などを比較し検討するのがおすすめです。
②納得した条件を提示した業者に売却する(売買契約を締結)
次に、納得した条件を提示した業者に契約の意思を伝えます。その後、必要書類の確認と契約日の日程調整を行い、売買契約及び賃貸借契約を結びます。
売買契約後、売買代金の支払いが完了すると所有権の移転登記が行われます。
③売却した業者と賃貸借契約を結ぶ
所有権の移転登記をした日と同日に、売却した業者と賃貸借契約を結びます。その日以降、自宅の賃貸開始です。
なお、賃貸借契約が始まると新たな家主のルールにて生活しなければなりません。増改築などには家主の許可が必要となります。
賃貸借契約時には、改めて家賃の金額や引き落とし日、居住のルールなどを確認しておきましょう。
④確定申告をする
最後は、3,000万円特別控除を利用のための確定申告です。
申告は、不動産を売却した翌年の確定申告期間(一般的に2月16日~3月15日)に行います。例えば、令和4年2月に売却したのであれば、翌年の令和5年2月16日~3月15日の間に確定申告となります。
申請に必要な書類
3,000万円の特別控除を申請する際の必要書類は、下記のとおりです。
- 確定申告書、譲渡所得の内訳書
- 譲渡した土地、建物の全部事項証明書(法務局で取得する)
- 売買契約書のコピー(購入時と売却時のもの)
- 戸籍の附票(役所で取得する)
確定申告できる期間は限られているため、必要書類を早めに準備して確定申告できるようにしましょう。
まとめ
リースバックで3,000万円特別控除は使えます。ただし、適用には居住用財産の売却であるなど、一定の要件があるので利用には注意します。
手続きに不安がある人は、専門家である税理士へ相談することをおすすめします。大幅な節税ができる制度なので、適切な手続きを行い、確実に利用できるようにしましょう。
「リースバック 3,000万円特別控除」に関してよくある質問
-
リースバックで居住用の3,000万円特別控除は使えるのか?
リースバックで3,000万円特別控除は使えます。なぜなら、リースバックはリースバック業者への売却であるからです。
不動産を売却して売却益(譲渡所得)があり、一定の要件を満たせば適用となります。 -
リースバックとはどのような制度か?
リースバックとは、売却した家を賃貸して住み続けられるサービスのことです。通常売却との違いは、下記となります。
・売却後も住み続けられる
・相場より安くなるケースが多い
・不動産業者への売却となる
・仲介手数料は掛からない
・契約次第では買い戻しができる -
居住用の3,000万円特別控除とは、どのような制度か?
居住用の3,000万円特別控除とは、居住用財産を売却後に発生した譲渡所得(売却益)から最大3,000万円を差し引ける制度です。課税譲渡所得を抑えられることで節税となります。
-
リースバックで3,000万円特別控除を受けられる適用要件とは何か?
リースバックで3,000万円特別控除を受ける適用要件は、下記に挙げた事項です。
・マイホームであること
・譲渡する相手が夫婦や親族でないこと
・他の特例を受けていないこと
・連年適用でないこと
詳細は、本編にてご紹介しています。 -
リースバック契約から3,000万円控除適用を受けるまでの流れは?
リースバック契約から3,000万円特別控除を受けるまでの流れは以下のとおりです。
・①リースバックを行う不動産会社などの査定を受ける
・②納得した条件を提示した業者に売却する(売買契約を締結)
・③売却した業者と賃貸借契約を結ぶ
・④確定申告をする
なお、特別控除を受けるには下記書類を用意します。また、確定申告の期間は限られています。予め書類を準備し、確定申告の期間を迎えられるようにしましょう。
・確定申告書、譲渡所得の内訳書
・譲渡した土地、建物の全部事項証明書(法務局で取得する)
・売買契約書のコピー(購入時と売却時のもの)
・戸籍の附票(役所で取得する)