共有名義不動産を売却する際、売買契約の締結と所有権移転登記の手続きには、共有者全員の立ち会いが必要です。
しかし「仕事が忙しい」「入院して外に出られない」「遠方に住んでいるので行けない」などの事情で、立ち会いが難しい人もいるでしょう。
その場合、委任状を作成し代理人に手続きを進めてもらう方法があります。代理人は家族や親戚などの他、弁護士など法律の専門家に依頼するのが一般的です。
「弁護士と連携した不動産会社」なら、委任状の作成や代理人の選任なども適切なサポートが可能です。
また、共有者と不動産売却について揉めている場合、自分の持分のみ売却することも検討してみましょう。専門の買取業者なら、持分のみでも最短数日での高額買取が可能です。

- 共有名義の不動産を売却するときは、売買契約の締結や物件引き渡しに共有者全員の立ち会いが必要。
- 立ち会いができない共有者は、代理人を立てることができる。
- 代理人を立てるときは委任状の作成が必要。
目次
委任状を作成すれば不動産売却の手続きを代理人に任せられる
不動産売却は、本人の意思に基づいておこなわれることが原則です。事情があって手続きを別の人に依頼した場合の、依頼された人が「代理人」と呼ばれます。
このとき、本人がたしかに依頼したことを証明する書類が「委任状」です。
委任状を作成することで、本人が立ち会うことなく不動産売却の手続きをおこなえます。
以下の項目から、実際に委任状が作成されるケースを紹介します。
委任状を作成すべきケース
共有名義不動産売却における委任状は、下記4つのケースで作成されることが多いです。
- 共有者が多くて予定を合わせられない
- 忙しくて売買契約・所有権移転登記時の立ち会いができない
- 他の共有者と顔を合わせたくない
- 売却する不動産が遠方にある
次の項目から、それぞれの方法を解説しています。
共有者が多くて予定を合わせられない
共有名義不動産の売却時に最も多いのが「共有者が多くて予定を合わせられない」ケースです。
売買契約を結ぶとき、残金決済・引渡しをするときには、共有者全員が立ち会う必要があります。
しかし、それぞれ仕事や家庭があるなか、全員の予定はなかなか調整できません。
そこで、代理人を立てることで、手続きを任せられます。このとき、それぞれが代理人を立てるのではなく、共有者全員がまとめて1人の代理人を立てることが多いです。
1人の共有者を代表者として代理人としたり、弁護士や司法書士などの専門家に依頼するケースが多いです。
忙しくて売買契約・所有権移転登記時の立ち会いができない
「仕事が忙しい」「病気療養中で入院している」「介護で家をあけられない」といった事情で時間が取れないケースです。
とくに、共有者が多くいれば、全員の予定を調整することは困難でしょう。
そのような場合は、委任状を作成することで、共有名義不動産の売却にかかる諸々の手続きを代理人に任せられます。
他の共有者と顔を合わせたくない
「もともと他の共有者との関係性がよくない」「離婚するので配偶者と会いたくない」など他の共有者と顔を合わせたくないといった個人的な事情でも代理人に任せられます。
不動産売却の委任に、特別な理由は必要ありません。委任状が正しく作成されていれば、不動産売却を委任できます。
ちなみに、共有者と顔を合わせず不動産を売却したいなら、自分の持分のみ売却する方法もあります。
持分売却なら自分の意思のみで可能であり、他共有者に知らせる必要もありません。早ければ数日程度で、自分の持分のみ現金化できます。
売却する不動産が遠方にある
相続によって共有名義不動産となっている場合、共有者が全員、その不動産に住んでいることはほとんどありません。
それぞれが他に住む場所を持っており、同時に、共有名義不動産の共有者になっている状態が多いです。
そのため、売却する共有名義不動産の所在地からは遠いところに住んでいて、立ち会いにまで来られない場合があります。
そのようなときにも、委任状を作成して代理人に任せられます。
委任状への記載内容と委任状作成の依頼先
それでは、実際に共有名義不動産の売却で、委任状を作成する際に必要な記載内容を解説します。
これから説明する項目は、委任状へ最低限記載する必要があります。
もしも不足があれば、正式な委任状として認められなかったり、代理人との意見の相違によってトラブルにつながる恐れがあるので、記載漏れのないようにしましょう。
1.委任者と受任者の住所・氏名
委任状には「どこの誰から」「どこの誰に」委任するかを明確に記載する必要があります。
どちらかの情報が欠けている場合「本当に本人が委任したのか」「本当にその人が委任されたのか」が判断できません。
また、記載した委任者と受任者の情報が正しいことを証明するために、委任者は住民票の写し、受任者は免許証などの本人確認書類も別途用意が必要です。
記載した住所と突き合わせて確認するので、住所は省略したものではなく、公的書類に記載されている正式な住所を書かなければならないので注意してください。
2.代理人に委任する権限
「決まった売却条件に関して同意するのみ」なのか「買主からの価格交渉に応じるか否かの決定ができる」のか、代理人に委任する権限を明確に記載します。
たとえば「不動産売却に関して権限を委任する」と曖昧な記述だった場合、代理人と委任者との間に解釈の差があり、委任者の意図と異なる売買契約が交わされる恐れがあります。
曖昧な記載はトラブルの元ですので、誰が読んでも同じ意味で通じるよう明確に記載しましょう。
3.共有名義不動産の情報
「どの不動産に関する売却か」を明確にするため、共有名義不動産の情報を記載します。
このとき、建物も土地も登記簿謄本のとおり間違えることなく記載する必要があります。具体的に記載すべき項目は以下のとおりです。
土地:所在・地番・地目・地積
誤った内容で委任状を作成した場合、無効とみなされる恐れがあるので注意しましょう。
4.売却条件
代理人が勝手に売却条件を決定・変更しないために、売却条件を詳細に記載します。
このとき、下記のような項目を記載しておくと希望する条件での売却を実現できるでしょう。
- 売却価格
- 手付金の金額
- 引渡予定日
- 違約金の金額
- 公租公課の分担起算日
- 手付金や売却代金の入金方法や固定資産税の清算金などの金銭の取扱い
- 所有権移転登記申請手続き
- 条件に変更が発生する場合の対応方法
5.委任状の有効期限
委任状に有効期限も明確に記載します。委任状の有効期限は法律で定められているわけではないので、有効期限の記載がない場合、いつまでもその効力が続いていると解釈されます。
共有名義不動産の売却が問題なく終われば、とくにトラブルにはなりません。
しかし、代理人による売却で何か問題が発生したとき、委任状の作成日が古いことから「有効性がない」とみなされて買主と代理人、委任者の3者間で複雑なトラブルとなりえます。
そのような事態を避けるため「2021年10月31日まで有効」のように明確にしましょう。
もしも、売却完了までに時間がかかって有効期限を超えそうなときには、その前に期限更新の手続きを伸ばせば問題ありません。
委任状は司法書士などの専門家に作成してもらうと安心
ここまで説明したように、委任状には記載する項目が多く、すべて明確かつ正確であることが求められます。
委任状を作ったことがなければ「間違わずに委任状を作成できるか」不安に感じるかもしれません。
そのような場合には委任状の作成だけでも、弁護士や司法書士などの専門家に依頼してみてはいかがでしょうか。記載すべき内容を相談しながら、委任状を作成できるので安心です。
共有名義不動産の売却を代理人に委任する際の注意点
代理人による共有名義不動産の売却は、共有者当人が手続きする必要がないため、手間なく売却できます。
かといって委任状の情報が不足していたり、適当に代理人を選定すると、思わぬトラブルが起きる恐れがあります。
代理人へ委任する際は、以下の5点に注意すべきです。
- 委任状の記載内容に誤りがないことを確認する
- 代理人は信頼できる人物を選ぶ
- 白紙委任しない
- 委任状への加筆・変更を防ぐ対策を取る
- 委任者が認知症の場合は委任状では対応できない
以下の項目から、それぞれの注意点を具体的に見ていきましょう。
委任状の記載内容に誤りがないことを確認する
1つ目は、委任状への記載内容についてです。
これまでの説明でも何度か触れてきたように、委任状は正確な情報で作られている必要があります。
委任者・受任者の氏名、不動産の情報、売却条件のどれか1つでも誤りがあれば、有効な委任状として認められなかったり、想定とは違う売却価格になる恐れがあります。
そのため、委任状を代理人へ渡す前に、記載内容に誤りがないかを繰り返し確認しましょう。
代理人は信頼できる人物を選ぶ
2つ目は、代理人を誰にするかです。
法律上、代理人として権限を委任できる人に制限はありません。
親族や他の共有者だけでなく、友人や先輩後輩、近所に住んでいる人でも、お互いに了承すれば不動産売却の手続きを委任できます。
かといって、いい加減に代理人を選んでしまうと、売却価格や売却代金の入金方法でトラブルになる恐れがあります。
ですので代理人を選定する際は、弁護士や司法書士などの専門家への依頼をおすすめします。
白紙委任しない
白紙委任とは委任内容が空白の委任状を作成することです。
重要な委任内容が書かれていないので、あとから受任者が自分の望む権限を記載して効力を主張する恐れがあります。
急いでいて、委任者から「あとから書いておきますね」といわれても署名・押印はせず、委任内容を明記したあとで対応しましょう。
この対応は、委任者が弁護士や司法書士などの専門家であっても同じです。
委任状への加筆・変更を防ぐ対策を取る
委任状に権限を明記していても、あとから委任者が内容を修正したり、書き足す恐れもあります。
そのようなことを避けるため、委任状を作成したあとは「以下余白」と記載しておくと安心です。
また、書類の改ざんを防ぐために、捨印は避けましょう。
捨印がある場合、委任状の内容に訂正が加えられても、それを委任者が認めたとみなされる恐れがあります。
委任者が認知症の場合は委任状では対応できない
判断能力がない認知症の人とみなされた場合、その人が作成した委任状は無効です。委任者が認知症の場合、代理人は不動産売却の手続きを進められません。
不動産全体を売却したい場合には「成年後見制度」を利用する必要があります。
成年後見人は判断能力が低下した人を守り、法律行為ができるように代理人を家庭裁判所が選ぶ制度です。
成年後見人の選任には3ヶ月以上かかることが多いです。
そのため、今すぐ共有名義不動産を現金化したい場合には、不動産全体ではなく、共有者それぞれが持分を単独で売却する必要があります。
委任状さえあれば「どんな状況でも効力を持つわけではない」ので注意してください。
代理人に共有名義不動産の売却を依頼する場合でも共有者本人がやるべきこと
最後に、共有名義不動産の売却を代理人に依頼した場合でも、共有者本人がやらなければならないことを解説します。
簡単にいえば「委任状に記載した権限範囲外のこと」です。
- 不動産の共有者を特定する
- 不動産売却に必要な書類を集める
- 売却条件を決める
- 売却益の確定申告をする
以下の項目から、詳しく解説します。
不動産の共有者を特定する
共有名義不動産を売却する際には、共有者全員の同意が必要です。
このとき共有者が誰かを特定し、同意を得るまでの対応は共有者本人がします。
相続したばかりであれば、共有者を特定し、売却について話し合うことは難しくないでしょう。
しかし、先祖代々受け継いできた不動産の場合、相続人が10人以上にもなり、相続登記が正しくされていない恐れもあります。
登記簿謄本を確認して、すでに亡くなった人が共有者として記載されていれば、その相続人の特定から進める必要があり、手間も時間もかかります。
もしも、共有者の特定が難しい権利関係が複雑な不動産の場合には、弁護士や司法書士などの専門家へ相談しましょう。
共有者と連絡が取れないなら「共有持分のみの売却」もおすすめ
共有者とどうしても連絡が取れず、不動産全体の売却ができない場合、自分の共有持分のみ売却することも検討してみましょう。
自分の持分のみであれば、共有者の同意や確認を得なくても売却可能です。
ただし、共有持分のみの売却は特殊な不動産取引となるため、一般的な仲介業者では売れないケースがほとんどです。
そのため、高額かつスピーディーに現金化ができる「共有持分専門の買取業者」に相談しましょう。弁護士と連携している買取業者なら、権利関係や法的手続きの悩みも相談できます。
不動産売却に必要な書類を集める
不動産の売却には、以下の書類が必要です。
- 登記済権利証・登記識別情報
- 検査済証
- 境界確認書
- 固定資産税・都市計画税納税通知書
- 共有者の印鑑証明書
これらの書類は共有者の誰かが持っていますので、代理人ではなく本人が集めなければなりません。
ただし、書類が見当たらない場合は、弁護士や司法書士に相談することで、解決策を教えてもらえます。
売却条件を決める
「売却代金は何円にするのか」「引渡予定日はいつにするのか」「契約不適合責任を負う期間は何ヶ月にするのか」などの売却条件は共有者本人で決めます。
委任状で代理人に売却条件の決定まで任せられますが、その場合、納得できない条件で売却される恐れもあります。
売却後のトラブルを避けるため、共有名義不動産の売却を代理人に委任する際には、売却条件を明確に定めます。
そして、売却条件から変更が発生しそうな場合には代理人が決断するのではなく、共有者に連絡のうえ、共有者の意思に従うことを記載しておくと安心です。
売却益の確定申告をする
不動産売却で得た収益は譲渡所得として確定申告が必要です。
確定申告は共有者それぞれが個人でおこなうもので、代理人に任せられません。
土日の関係で前後することはありますが、基本的に売却した翌年の「2月16日から3月15日」までが期限ですので、忘れずにおこないましょう。
なお無申告の場合、延滞税のほか無申告加算税といった追徴課税の対象となり、通常の納税額よりも非常に高い税額が課せられます。
まとめ
共有者全員が1人の代理人に委任すれば、共有者全員の立ち会いなしで不動産を売却できるようになります。
このとき、トラブルなく売却を成立させるためには「信頼できる人を代理人に選ぶこと」「委任状に委任内容を明確に記載すること」の2つが重要です。
また、委任状の作成に不安がある場合は、弁護士・司法書士などの専門家へ依頼すれば安心です。
専門家に依頼することで、委任状の作成に関する手続きをまるごと代行してもらえます。
不動産売却と委任状についてよくある質問
委任状とは、自分の法律行為を他者に委任する(代理人を立てる)ときに作成する書類です。不動産売却では、委任状を作成して代理人を立てることで、必要な手続きを任せることができます。
契約締結や物件引き渡しには所有者(共有不動産なら共有者全員)の立ち会いが必要ですが、実際は立ち会えない人も多いでしょう。立ち会いが難しいとき、委任状を作成して代理人を立てることで本人の立ち会いが不要となります。
代理人の権限を明確にしておくことが重要です。価格設定など売却条件をすべて任せてしまうと、極端に安価で売却されたり、不利な条件を付けられたりするかもしれません。
代理人に必要な資格はないので、信頼できる人物を選びましょう。基本的には家族や親戚、もしくは弁護士・司法書士に依頼します。共有不動産の売却では、共有者のなかから代表者を決めて、共有者全員の代理人とする場合があります。
弁護士と連携している不動産業者であれば、委任状の作成も含めて安心して任せられるでしょう。買取業者なら一括支払いになるので、最短数日での売却も可能です。→【弁護士と連携!】共有持分専門の買取業者はこちら
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