共有物分割請求における価格賠償とは?共有名義を解消する方法を解説

共有名義の不動産は、管理や処分に共有者同士の話し合いが必要となるため、意見が対立しトラブルが起こりやすくなります。
そのため、できるだけ早めに共有名義を解消することをおすすめします。
共有名義を解消する方法としては、持分売却など4つの方法があり、状況や自分の希望に合わせた方法を選択することが大切です。
また、すべての共有者は、共有物分割請求訴訟という方法で分割を求めることもできます。
この記事では、価格賠償など、共有物分割請求訴訟でおこなわれる分割方法についても解説するので、ぜひ参考にしてください。
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この記事のポイント
- 共有不動産のまま放置すると「管理や処分に共有者との話し合いが必要」「共有者が増えて権利関係の把握が困難」といったリスクがある。
- 共有物分割請求訴訟は「共有不動産を分割して共有名義を解消する」ことを求める訴訟。
- 共有物分割請求訴訟による分割方法は「現物分割」「価格賠償」「代金分割」の3つ。
共有状態のまま放置するデメリット
被相続人(亡くなった人)の遺産に不動産が含まれている場合は、相続割合に応じて遺産を分割することが容易ではありません。
そのため、不動産を相続人全員の共有状態にするケースも多いです。
共有状態でも共有者は不動産を使用できるので「共有状態のままでも問題ないのでは?」と思っている人も多いと思います。
しかし、共有状態のまま放置することはあまりおすすめしません。
その理由は、共有状態を放置することには以下の2つのデメリットを伴うためです。
- 共有者の把握が困難になる
- 売却についての同意を得にくくなる
それぞれのデメリットを詳しく見ていきましょう。
共有者の把握が困難になる
1つ目のデメリットは共有者の把握が困難になるという点です。
共有状態のまま放置すると、第二相続、第三相続が発生します。
例えば、被相続人の遺産を配偶者と子供2人が相続したケースで考えてみましょう。
最初の共有者は3人ですが、子供が亡くなった場合には亡くなった子供の配偶者と子供が共有者に加わります。
このように第二相続、第三相続と相続が繰り返された場合、共有者が次々と増えて不動産の共有者が誰なのかを把握することが困難になります。
不動産の今後を共有者同士で話し合おうと思っても、共有者を探すのに苦労する可能性が高いため、早めに共有状態を解消しておいた方が良いでしょう。
売却についての同意を得にくくなる
2つ目は売却についての同意を得にくくなるという点です。
共有持分を有している人は、通常通りの使用や経年劣化に対する日常的な修繕などは他の共有者の同意を得ずに単独で行うことが可能です。
しかし、賃貸物件として貸し出す利用行為、リフォームやリノベーションなどの改良行為は過半数の同意、売却や抵当権の設定などの処分行為は全員の同意を得なくてはなりません。
相続した当初の共有者は人数も少なく、意見しやすい関係性ですが、第二相続、第三相続で共有者が増えると、相続人全員の同意を得ることは厳しくなります。
不動産を誰も使用しておらず、将来的に不動産の売却を視野に入れている場合は、一時的な共有状態は問題ありませんが、早めの共有状態の解消をおすすめします。
共有状態の4つの解消方法
共有状態を早く解消した方が良いと言われても、どうやって共有状態を解消すればいいか分からない人も多いと思います。
共有状態の解消方法には、以下の4つがあります。
- 共有持分のみの売却
- 共有者への売却
- 共有者に贈与
- 不動産の一括売却
それぞれの解消方法の特徴について詳しく見ていきましょう。
単独でも可能な共有持分のみの売却
自身が有する共有持分のみの売却の場合、他の共有者の同意を得ずに済むため、4つの中で比較的容易に取り組みやすい解消方法です。
しかし、共有持分のみを売却する場合には、取得した第三者は他の共有者と共同で不動産を使用する権利を有するだけなので、取得するメリットはありません。
そのため、共有持分のみを買い取ってくれるのは、最終的に売却することによって得られる利益を目的とした業者や不動産投資家に限られます。
買い手が見つかりにくい、買取価格が安いため、他の解消方法が選択できない場合における最終手段と捉えておきましょう。
高く売れる可能性がある共有者への売却
共有状態の不動産を1人の共有者が独占している場合、独占している共有者に共有持分を買い取ってもらえる可能性があります。
独占している共有者は、不動産の改良、利用などを行いたいと思っても他の共有者の同意を得なくてはなりません。
そのため、不動産を独占している共有者の中には、他の共有者の共有持分を買い取ることで不動産を完全に自分だけのものにしたいと考えている人も。
共有持分のみを売却する場合とは違い、市場の相場に近い価格で買い取ってもらえるため、少しでも多く現金を手に入れたいという人におすすめの解消方法です。
しかし、必ず買い取ってもらえるとは限りません。
共有者に共有持分を買い取るほど資金に余裕がある場合に限られているので注意が必要です。
とにかく共有状態を解消したい人は共有者に贈与
共有持分を有する人の中には、他の共有者とのトラブルを避けたいのでなるべく速やかに共有状態を解消したいと考えている人もいます。
そのような人におすすめするのが他の共有者に贈与するという方法です。
共有持分を受け取る共有者は資産が増えるので、贈与に応じない可能性はほとんどないと考えられます。
そのため、共有状態を解消したいという目的の達成は期待できるものの、他の解消方法とは異なり、現金が手に入らないという点に注意が必要です。
また、共有持分を贈与された側は、共有持分の資産価値次第では贈与税が課される可能性も。
事前に相談なく贈与した場合、贈与された側が困る可能性もあるため、事前に相談してから贈与しましょう。
最も高く売れる可能性がある不動産の一括売却
不動産に誰も住んでいないケースでは、そのまま放置していても固定資産税や都市計画税、修繕費用、水道光熱費などの費用がかかります。
そこでおすすめするのが不動産を一括売却するという方法です。
共有持分のみを業者に売却または他の共有者に買い取ってもらう場合は、市場価格よりも低くなるのが一般的です。
しかし、不動産を一括売却する場合、市場価格とほぼ同様の価格での売却が期待できるため、多くの現金が手に入ります。
そのため、共有状態を解消する際に少しでも多くの現金を手に入れたい人には一括売却がおすすめですが、他の共有者全員の同意が必要であることを覚えておきましょう。
同意が得られない場合は共有物分割請求訴訟を提起する
共有状態を解消するにあたり「少しでも現金を多く手に入れたい」と考えている人も多いと思います。
しかし、買い取りの場合には提案を受けた共有者、一括売却の場合には共有者全員の同意を得られなければ多くの現金を手に入れることはほぼ不可能です。
そこで登場するのが共有物分割請求訴訟です。
共有物分割請求訴訟とは何なのかについて詳しく見ていきましょう。
合理的な裁定を仰ぐことが目的
共有物分割請求訴訟とは、共有者の同意を得られずに共有状態を解消できていない状況で、裁判所を通じて共有状態の解消を目指すための訴訟です。
通常の訴訟はどちらか一方の勝敗を判断するものですが、共有物分割請求訴訟は裁判所に合理的な裁定を仰ぐことを目的としています。
合理的な裁定には以下の3つがあります。
- 現物分割
- 価格賠償
- 代金分割
それぞれの裁定の違いについて詳しく見ていきましょう。
共有物をそのまま分割する現物分割
現物分割とは共有物である不動産を持分割合に応じて分割するという方法です。
例えば、被相続人の有していた不動産を配偶者と子供2人で相続する際のそれぞれの法定相続割合は以下の通りです。
配偶者は2分の1の共有持分、子供は2分の1の持分を分割して4分の1ずつ共有持分を有することになります。
参照:法定相続の割合について
相続したのが資産価値3,000万円の土地の場合、配偶者1,500万円、子供750万円ずつを取得すれば法定相続割合通りなので特に大きな問題はありません。
しかし、不動産が土地ではなく建物が残っている場合は現物分割が現実的ではありません。
また、相続した土地が小さすぎる場合も、分割することによって資産価値が下がる可能性が高いです。
そのため、上記のようなケースでは、現物分割ではなく他の2つの方法を提案されます。
特定の共有者に取得させる価格賠償
価格賠償は部分的価格賠償と全面的価格賠償の大きく2つに分かれます。
部分的価格賠償とは、共有物を現物分割した際に生じた際を現金で補うことです。
現物分割可能な不動産を相続して法定相続割合通りに分け合ったとしても、道路の面し方、日当たりなどによって価値に多少の差異が生じることがあります。
このようなケースでは、資産価値の高かった側が資産価値の低かった側の不足分を現金で補うことによって公平性を図るようにします。これが部分低価格賠償です。
全面的価格賠償とは、共有者の1人が他の共有者の共有持分を買い取り、不動産の所有権を全て1人に集結させることです。
相続した不動産が土地の場合は部分的価格賠償が可能ですが、建物の残る不動産の場合は現物分割を前提とした部分的価格賠償が現実的ではありません。
全面的価格賠償であれば現物分割を伴わないため、どのような不動産でも選択できるのが大きなメリットです。
しかし、裁判所は価格賠償を強制できません。
価格賠償は分割可能な不動産なのか、買い取りを希望する共有者がいるかをチェックして達成可能な場合のみに限定されているということを覚えておきましょう。
競売による代金分割
建物の残っている不動産で現物分割できない、分割可能な土地であっても分割することで資産価値が大幅に下がるケースでは、競売による代金分割が提案されます。
不動産を競売によって売却し現金に換えてから、持分割合に応じて再分配します。
共有物分割請求訴訟では、現物分割が選択されるのが原則です。
しかし、現物分割が合理的な裁定とは言えないケースも多く、そのような場合は代金分割が選択されます。
参照:民法258条
民法上に価格賠償について記載されていませんが、最近は価格賠償を合理的な裁定とするケースも増えています。
いずれにしても、共有物分割請求訴訟を提起すれば、共有持分のみを売却する以外の方法も可能となるため、より良い条件での共有状態の解消が期待できるでしょう。
信頼できる弁護士や不動産会社に相談しよう
共有物分割請求訴訟は、他の共有者のいずれかの住所地を管轄する地方裁判所または共有不動産の所在地を管轄する地方裁判所に提起します。
訴訟の提起は自身で行うことも可能ですが、裁判で判決が下されるまでは数ヶ月の期間を要する、手続きに手間と時間がかかるため、自身で行うことはおすすめしません。
スムーズに共有物分割訴訟を提起して共有状態を解消するためにも、信頼できる弁護士や不動産会社に相談することをおすすめします。
まとめ
不動産を相続する際は、相続割合に応じて分割することが容易ではないため、相続人全員の共有状態にしているケースも多いと思います。
しかし、共有状態のまま放置すると、売却したいと思っても他の共有者の同意を得られず、売却できなくなる可能性もあるため、早めに共有状態を解消することをおすすめします。
共有状態を解消する方法はいくつかありますが、他の共有者の同意も必要となるため、必ず希望する方法になるとは限りません。
同意を得られない場合は共有物分割請求訴訟を提起し、現物分割、価格賠償、代金分割から合理的な裁定を裁判所に提案してもらえます。
しかし、共有物分割請求訴訟は手間と時間がかかるため、信頼できる弁護士や不動産会社に相談しましょう。
共有物分割請求訴訟に関するQ&A
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共有物分割請求訴訟とはなんですか?
共有物分割請求訴訟とは、共有不動産の分割を他共有者に求める訴訟です。最初に共有者同士で協議をおこない、そこで合意が得られなかった場合に、調停や訴訟を申し立てられます。
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共有物分割請求訴訟における価格賠償とはなんですか?
共有不動産の分割にあたって、代償金を支払う方法のことです。1人が不動産をすべて取得する代わりに他共有者へ代償金を支払う「全面的価格賠償」と、分筆で共有不動産そのものを切り分けた際、発生した差額の穴埋めとして支払う「部分的価格賠償」があります。
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共有物分割請求訴訟の提起にはどのくらいの費用がかかりますか?
共有物分割請求訴訟を提起する場合は、裁判所に印紙代として費用を納めます。土地は固定資産税評価額の6分の1、建物は3分の1として計算して、最終的に共有持分で割った価格をもとに印紙税を算出します。100万円で1万円、300万円で2万円となります。
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共有物分割請求訴訟を弁護士に依頼する場合はどのくらいの費用がかかりますか?
弁護士費用は弁護士事務所に異なるため、一概に言い切れません。着手金という費用が30万円程度、報奨金という費用が経済的利益(依頼内容により異なる)×5 ~10%程度が1つの目安です。
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裁判の判決が下るまでにどのくらいの期間がかかりますか?
判決が下るまでの期間は、案件によって異なります。訴訟を提起してから最初の裁判が行われるまでに1ヶ月程度かかるため、最短でも1ヶ月は想定しておく必要があります。案件によっては2~3回裁判が開かれることもあるため、3ヶ月程度を想定しておくと良いでしょう。