共有物分割請求訴訟の要件とは?手続きの流れと注意点

「共有者との話し合いで意見が対立している」「共有者の1人が独占的に不動産を利用している」などの理由で、不動産の共有名義を解消したい人も多いでしょう。
そこで使えるのが、共有物分割訴訟です。裁判所に訴え出て、共有不動産の分割方法を決めてもらうことができます。
共有物分割訴訟を起こすための要件は、事前に共有者間で分割に向けた協議をおこなうことです。まずは共有者に、共有不動産の分割を提案しましょう。
共有物分割訴訟の注意点は、分割方法を選べない点です。自分の希望とは異なる分割方法になっても、したがわなければいけません。
また、訴訟には時間も費用もかかるため、なるべく早めに共有名義を解消したければ「持分売却」を検討しましょう。専門の買取業者なら、最短2日で共有持分を買い取ってくれます。
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この記事のポイント
- 共有物分割請求訴訟とは、共有不動産の分割方法を決める訴訟。
- 共有者の協議で話がまとまらなかったとき、訴訟を起こすことができる。
- 訴訟で下された判決には強制力があり、拒否することはできない。
目次
共有物分割請求訴訟とは裁判所を通じて共有状態を解消する方法
「共有物分割請求訴訟」とは、裁判所を通じて共有状態を解消する方法です。
土地の明け渡しを求める一般的な訴訟に比べて、裁判所の裁量が大きいことが特徴です。
当事者から、その共有不動産の分割方法を具体的に明示して訴訟したとしても、裁判所の判決はその内容に制限されません。
「当事者としての提案」にとどまり、実際の状況を踏まえて裁判所が独自に判決を出せる点が通常の訴訟と異なる点です。
判決は「換価分割」「代償分割」のほかに「現物分割」があり、後ほどあわせて解説します。
共有物分割請求訴訟をおこなうための要件
共有物分割請求訴訟で出された判決には、強制力があります。
「共有持分を手放したくない」と考えていても、裁判所の判決が「競売」であれば、その判決に従わなければなりません。
そのため、訴訟できる権利を濫用されないように、民法第258条で一定の要件が定められています。
民法258条
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
引用:e-Gov法令検索、民法258条
わかりやすく言い換えれば、下記3つの要件いずれかを満たした場合に、共有物分割請求訴訟を起こせます。
- 共有物分割協議が決裂したこと
- はじめから拒否する共有者がいて共有者全員で協議できないこと
- 共有物分割協議で合意した内容が長期間履行されていないこと
それぞれ解説していきます。
共有物分割協議が決裂したこと
1つ目は「共有物分割協議が決裂したこと」です。
条文で「共有者間に協議が調わないとき」とあるように、訴訟を起こす前に共有物分割協議がおこなわれている必要があります。
共有者間で話し合うことなしに、共有物分割請求訴訟を起こすことはできません。
なお、協議は必ずしも共有者全員が集まる必要はありません。
海外・県外など遠方に住んでいたり、仕事や家庭で忙しくて予定の調整が難しい場合には、電話やメールでのやり取りも認められています。
はじめから拒否する共有者がいて共有者全員で協議できないこと
2つ目は「はじめから拒否する共有者がいて共有者全員で協議できないこと」です。
「協議が調わない」の解釈には「協議できない」も含まれています。
したがって「共有物分割協議の開催を通知したのに無視される」「そもそも連絡がつかない」などの場合には、共有者全員での協議なしに、共有物分割訴訟を起こせます。
通知を送る際には、その事実を裁判所へ証明できるように、内容証明郵便を利用することをおすすめします。
共有物分割協議で合意した内容が長期間履行されていないこと
3つ目は「共有物分割協議で合意した内容が長期間履行されていないこと」です。
一度、共有物分割協議が成立したあと、その分割方法が長期間実現されない場合も「協議が調わない」として、共有物分割請求訴訟が認められます。
とはいえ、実際に「長期間」が「何年間」か明確に規定されているわけではありません。
個別の事情によるところも大きいので、共有物分割請求訴訟を起こす際には、事前に弁護士のような専門家への相談をおすすめします。
共有物分割請求訴訟により共有不動産を分割する手続きの流れ
次に、共有物分割請求訴訟を起こす際の流れを説明します。
ここで説明するのは、共有物分割協議が決裂したあとに進める手続きです。
裁判所からの判決が下るまで、手続きは下記のとおり4つあります。
- 裁判所に訴訟を申し立てる
- 裁判所に答弁書を提出する
- 裁判所へ出頭する
- 裁判所から判決が下される
各手続きの詳細を解説します。
1.裁判所に訴訟を申し立てる
共有物分割請求訴訟は「共有不動産の所在地」もしくは「被告の住所地」を管轄する地方裁判所に申し立てます。
このとき、共有者全員が「原告」または「被告」になっていることが必要です。
原告は複数でも構わないので、あなたと意見が合う共有者の1人を合わせた2人が「原告」となり、残りの共有者が「被告」となっても問題ありません。
また、訴訟の申立て時には以下の書類等が必要です。
- 訴状(裁判所用と被告用の部数)
- 収入印紙
- 郵便料
- 固定資産評価証明書
- 共有不動産の全部事項証明書
- 戸籍謄本
なお、必要な収入印紙は訴額、郵便料は裁判所によって異なります。
確実に手続きを進めるため、事前に裁判所の窓口へ問い合わせてください。
2.裁判所に答弁書を提出する
「答弁書」は、被告が訴状に対する自分の言い分を書いた書面です。
そのため、あなたが「被告」となった場合に提出します。
答弁書の様式は決まっているので、もしも自分で作成する場合には、様式に合うようにします。
通常であれば答弁書は、裁判所から訴状と一緒に用紙が送られてくるので、それを利用するとよいでしょう。
また、答弁書の提出期日は、口頭弁論の1週間前までとなっています。提出を忘れないようにしてください。
3.裁判所へ出頭する
口頭弁論の日に裁判所へ出頭します。
第1回口頭弁論は、答弁書を提出していれば被告の出頭は不要です。答弁書の内容に反論があり、2回目以降の口頭弁論が実施される際には被告も出頭する必要があります。
また、訴訟の手続きを弁護士に依頼している場合、出頭するのは依頼した弁護士です。あなたがいく必要はありません。
4.裁判所から判決が下される
訴状、答弁書、口頭弁論をもとに、裁判所から判決が下されます。
判決は、現在の共有不動産の状況を踏まえて「共有者全員に利益が平等にいき渡ること」を前提に検討されたものです。
そのため、原告の請求どおりに判決が下されるわけではありません。
訴状で共有不動産の「現物分割」を求めたとしても「代償分割」を命じる判決が出るケースがあります。
そこで、できるだけ自分の希望どおりの判決を引き出したい場合には、共有不動産に詳しい弁護士へ相談するとよいでしょう。
裁判所から下される共有不動産の分割方法は3通り
共有物分割請求訴訟で裁判所から下される判決は
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
の3通りです。
裁判所では、最初に「現物分割」が検討され、難しい場合に「代償分割」または「換価分割」が検討されます。
それぞれの分割方法がどのような内容か、以下の項目で解説します。
現物分割
「現物分割」は、共有物分割請求訴訟で最初に検討される分割方法です。共有不動産を物理的に分割します。
例えば、持分割合に応じた評価額となるように土地を分筆するような分け方です。
しかし、建物は分割できません。そのような場合には、このあとで説明する「代償分割」または「換価分割」が検討されます。
物理的に分割できないケースのほか、分割で共有不動産の価格が大きく下がる恐れがあるときも同じく「代償分割」または「換価分割」の判決が下されます。
代償分割
「代償分割」は、特定の共有者に他共有者の持分を取得させて単独名義とする、共有状態の解消方法です。
持分を取得する共有者は、他共有者から持分を買取ります。
このときの適切な価格は市場価格に基づく金額です。
とはいえ、不動産に決まった価格はありませんので、不動産鑑定士に評価してもらった価格をもとに決めることをおすすめします。
換価分割
「換価分割」は、共有不動産を競売にかけて現金化したあと、共有者間で分割する方法です。
競売の対象となるのは共有不動産全体です。
したがって、共有不動産を残したいと考えていても認められません。判決どおり競売にかけなければなりません。
売却額を分割するときには、持分割合に応じて分割することが原則です。
また、競売での落札価格は、一般市場で不動産を売却する場合に比べて、低い傾向があります。
共有物分割請求訴訟する際の注意点
共有物分割請求訴訟は強制力を持った共有状態の解消方法です。共有者間で意見が全くまとまらないときでも解決できます。
しかし、判決によっては他共有者の意見を無視する場合もあり、関係悪化の要因となる恐れがあります。
自分の望んだ結果にならないリスクも存在します。
そこで、ここから共有物分割請求訴訟する際の注意点を解説します。
他共有者との関係が悪化しやすい
共有物分割協議で意見がまとまらないから、共有物分割請求訴訟を起こします。
そのため、裁判所の判決に納得できない人も出てくるでしょう。それでも判決には従わなければなりません。
その結果、他共有者との関係が悪化する恐れが高いです。
判決が下されるまで日数がかかる
共有物分割請求訴訟にかかる期間は、共有不動産の状態や各共有者の意向によっても異なります。
意見が対立し、口頭弁論が何度も開催される場合には、それだけ時間がかかります。
スムーズに手続きが進んだとしても、判決が出るまで半年程度かかります。
そのため、共有物分割請求訴訟を起こす際には、解決まで時間がかかることを理解しておきましょう。
訴訟費用が高額になる恐れがある
訴訟費用に含まれる印紙代は「訴額」によって決まります。
共有物分割請求訴訟の訴額は、固定資産税から算出できます。計算式は下記のとおりです。
このときの訴額は以下のように求められます。
(2,100万円 × 1/6 × 1/4 ) + (1,200万円 × 1/3 × 1/4 ) = 275万円
275万円が訴額の場合、印紙代は1万9千円となっています。
このように、共有不動産の評価額と所有している持分割合によって訴訟費用が高額になる恐れがあります。
なお、上記以外の訴額における印紙代は、裁判所に資料が掲載されていますので、参考にしてください。
参照:手数料額早見表(裁判所)
「権利濫用」として訴訟が認められないケースがある
共有物分割請求訴訟は、共有者に認められた権利ですので、原則的に訴訟は制限されません。
しかし、訴訟を起こすことで他の共有者へ著しい不利益を与えたり、不合理な結果をもたらす場合には「権利濫用」として、訴訟が認められないことがあります。
例えば、下記のようなケースです。
- 母親と娘で区分マンションが共有状態
- 母親が区分マンションに居住中
- 母親は娘の持分を買い取る財力はない
- 娘は区分マンションを売却したい
このとき、母親の財力から共有不動産の分割方法は「競売による換価分割」しかありません。
ところが、もしも区分マンションが競売にかけられると、母親の住む場所がなくなってしまいます。
これは「著しい不利益」として認められません。
このように、訴訟が制限される場合があることを覚えておいてください。
共有状態の解消が目的なら持分のみ売却も検討する
共有物分割請求訴訟を申立てれば、共有状態は解消できます。
しかし、共有者全員の意向が反映されるわけではないので、関係が悪化するデメリットがあります。
そのほか、判決が下されるまで長い時間がかかり、口頭弁論で裁判所への出頭など手間もかかります。
もしも「とりあえず共有状態から自分だけでも抜け出したい」と考えているのであれば「持分のみ売却」も検討してみてください。
共有不動産全体を売却するには、共有者全員の同意が必要ですが、持分のみであれば、自分の判断で売却できます。買取業者であれば1週間程度で現金化できるのでおすすめです。
ただし、買取価格は業者によって差が出ます。高価買取を実現するため、共有持分を専門に取り扱う買取業者へ査定を依頼するとよいでしょう。
まとめ
共有物分割請求訴訟は、共有不動産をどのように分割するか、裁判所に判断を委ねるものです。
原則として、共有物分割協議で意見がまとまらない場合に活用できます。
しかし、訴状に分割方法を記載していたとしても、その内容はあくまで「提案の意義」であり、判決の内容を制限するものではありません。自分が望む内容とは異なる判決が下されるリスクがあります。
他共有者との関係性が悪化する可能性が高く、申立てから判決まで半年から1年程度はかかるので、共有物分割請求訴訟を起こす際には、慎重に検討することをおすすめします。
共有状態の解消であれば「持分のみ売却」という方法もあります。どのような手段があなたの状況に適しているか、共有持分の実績が豊富な不動産会社や弁護士などの専門家に相談してみてください。
共有物分割請求訴訟でよくある質問
-
共有物分割請求とは?
共有物分割請求訴訟とは裁判所を通じて共有状態を解消する方法です。
-
共有物分割請求訴訟の要件は何?
「共有物分割協議が決裂したこと」「はじめから拒否する共有者がいて共有者全員で協議できないこと」「共有物分割協議で合意した内容が長期間履行されていないこと」の3つが共有物分割請求訴訟の要件です。
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共有物分割請求訴訟はどんな流れ?
「1.裁判所に訴訟を申し立てる」「2.裁判所に答弁書を提出する」「3.裁判所へ出頭する」「4.裁判所から判決が下される」の流れでおこなわれます。
-
共有不動産はどう分割されるの?
「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3つがあります。この3つから裁判所が選ぶため、自分の希望通りの判決が得られるとは限りません。
-
共有物分割請求以外に共有状態を解消する方法はないの?
共有物分割請求訴訟を申立てれば、共有状態は解消できます。しかし「関係が悪化する」「手間やお金がかかる」といったデメリットがあるため、持分のみを売却して共有状態から抜けることも検討してみてください。→【持分だけでも売れる!】共有持分の買取査定窓口はこちら