「共有物分割請求」は、裁判によって共有状態の解消をおこなう方法です。
裁判を起こす際には申立手数料がかかり、その算出に使われる金額が「訴額」です。また、弁護士費用の計算でも訴額が使われます。
そのため、共有物分割請求でかかる費用を把握するためには訴額の算出が必要です。この記事では「訴額」の計算方法と、共有物分割請求訴訟でかかる主な費用について解説していきます。
なお、共有物分割請求には多額の費用と1年以上の時間がかかるため、原告側の負担も大きくなります。
訴えを提起する手間なくスムーズに共有名義を解消したいのであれば、共有持分の専門買取業者に自分の共有持分だけを売却してしまうのもひとつの手段です。
共有持分を手放してしまえばあとは不動産のエキスパートに全て後のことをお任せできるので、共有者と直接争いたくない人や難しい訴訟をしたくない人は、以下のリンクから買取の相談だけでもしてみるとよいでしょう。
目次
共有物分割請求の「訴額」は原告が持つ共有持分価格のこと
「訴額」とは、原告が主張する利益を金銭的に評価した額のことです。
共有物分割請求においては、共有不動産全体の価格ではなく「原告の共有持分価格」に基づいて算出されます。
「訴額」は原則、訴えの提起にかかる申立手数料を算出するための金額です。そのため、訴訟によって得られる利益と同じになるとは限りません。
訴額より高額な利益を得られることもあれば、反対に少ない利益しか得られない場合もあるので覚えておきましょう。
「訴額」によって訴訟提起にかかる手数料が異なる
訴訟の申立手数料は、訴額に応じて細かく定められています。下記は、一部を抜粋した表です。
訴額 | 手数料 |
---|---|
90万円超100万円まで | 1万円 |
480万円超500万円まで | 3万円 |
950万円超1,000万円まで | 5万円 |
1,900万円超2,000万円まで | 8万円 |
訴額が高ければ、手数料も高くなるように設定されています。
なお、手数料は原則、収入印紙で訴状に貼り付けて納付します。
参照:裁判所「手数料」
「訴額」によって弁護士費用が異なるケースが多い
法律事務所では、費用の計算に「訴額」を利用しているところが多々あります。
弁護士の報酬に関する規定で「経済的利益、事案の難易、時間及び労力その他の事情に照らして適正かつ妥当なもの」と定められており、経済的利益が通常「訴額」にあたるためです。
弁護士費用には「着手金」「報酬金」の大きく2種類があり、どちらの費用も「訴額」に基づいて算出するケースが一般的です。
訴額に対する割合は法律事務所によっても異なり「訴額×一定割合+○○円」のように設定されている事務所もあるので、詳細な費用は依頼しようと考えている弁護士に確認してください。
参照:日本弁護士連合会「弁護士費用(報酬)とは 弁護士の報酬に関する規程」
共有物分割請求における訴額はなぜ知っておく必要がある?
共有物分割請求訴訟を提起する際に、なぜ訴額を知っておく必要があるのでしょうか。
その主な理由は訴額がわからなければ、手続きを進められないからです。
先ほど説明したように、訴額によって「訴訟提起にかかる手数料」が変わります。
手数料は訴訟の提起に必須ですので訴額を知っている必要があります。
また、訴額によって弁護士費用も変わるため、弁護士に依頼して手続きを進める場合でも、訴額の算出は必要です。
なお、一般的な訴訟では、訴額が140万円を超えるかどうかで訴えを「地方裁判所」「簡易裁判所」に出すか定められていますが、不動産に関する訴訟の場合は140万円以下であっても地方裁判所に提出できます。
したがって、不動産に関する共有物分割請求訴訟は訴額によらず、地方裁判所へ訴えを出して問題ありません。
土地と建物における共有物分割請求訴額の計算方法
共有物分割請求の訴額は、土地と建物で以下のように計算方法が異なります。
- 建物:固定資産税評価額×持分割合×1/3
- 土地:固定資産税評価額×持分割合×1/6
土地と建物で分けて計算する必要があるので注意してください。
なお、タイミングによっては軽減措置が取られている場合もあります。
計算する際には裁判所のホームページを確認したり、お住まいの地域を管轄する裁判所に問い合わせて、最新の情報を確認しましょう。
以下で説明する計算方法は、2022年3月時点の内容です。
建物は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」
訴額の算出では通常「取引価格」を「目的物の価額」として用います。
しかし、不動産に同一のものは存在せず、実際に売却するまで「取引価格」が決まりません。
そのため、固定資産税評価額のある不動産は、その評価額を「目的物の価額」として用いると定められています。
また「形成の訴え」である共有物分割の訴額は「分割前の目的物の原告持分の価額の1/3」です。
以上より、建物に対する訴額は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」の計算式で算出します。
土地は「固定資産税評価額×持分割合×1/6」
訴訟の目的物が「土地」の場合「1994年(平成6年)4月1日から当分の間、評価額は1/2」となっており、この決定は2022年3月時点でも有効です。
それ以外の計算方法は建物と同一です。
厳密には「固定資産税評価額×1/2×持分割合×1/3」という式ですが、乗算部分をまとめると「固定資産税評価額×持分割合×1/6」になります。
固定資産税評価額は「固定資産税評価証明書」で確認できる
共有不動産の固定資産税評価額は、毎年自治体から届く「納税通知書」に同封されている「課税明細書」で確認できます。
この納税通知書は原則「共有資産代表者」のみに届きます。
そのため、代表者以外が固定資産税評価額を調べたい場合、共有不動産の所在地にある役所で「固定資産税評価証明書」を取得します。
共有持分がある人は全員「納税義務者」ですので、本人確認できる書類のみ提示すれば取得できます。
郵送でも取得できるので、詳しい手続きは各自治体に問い合わせてください。
訴額は裁判所へ問い合わせてもわかる
固定資産税評価額と持分割合がわかれば、訴額の算出が可能です。しかし、訴額の計算結果に自信を持てない場合もあるでしょう。
その場合は、訴えを提起する予定の裁判所へ問い合わせてみてください。書記官から訴額や訴額の計算方法を教えてもらえるので、その内容に従えば確実です。
裁判所の連絡先一覧は下記ページにまとめられています。
共有物分割請求で「訴額」以外にかかる主な費用
共有物分割請求では「訴額」以外にも費用がかかります。
主な費用は以下のとおりです。
- 内容証明料
- 弁護士費用
弁護士に依頼しなければ弁護士費用はかかりませんが、できるだけ自分が希望する判決となるように、弁護士へ依頼することをおすすめします。
内容証明料
内容証明料は内容証明郵便を利用する際にかかる費用です。内容証明郵便は「共有者に分割の話し合いを申し入れた」ことの証明に利用します。
話し合いに応じてもらえないことも「共有物分割協議が調わなかった」に該当するので、共有物分割請求訴訟を提起する要件を満たせます。
内容証明料は1通あたり440円です。共有者全員に送る場合は、人数分の内容証明料がかかります。また、内容証明料とは別に郵便の基本料がかかることも忘れないようしましょう。
弁護士費用
弁護士費用の内訳は大きく「相談料」「着手金」「報酬金」の3種類です。
- 相談料:弁護士に話を聞いてもらうための料金
- 着手金:弁護士に業務をおこなってもらうための料金
- 報酬金:弁護士のおかげで得られて利益に応じて支払う料金
それぞれ詳しく見ていきましょう。
「相談料」の相場は1時間1万円程度だが無料も多い
「相談料」の相場は1時間1万円程度です。
ただし、現在は初回相談は無料としている法律事務所も増えています。
法律事務所によって無料となる事件や相談時間が変わるので、事前にWebサイトなどで確認しましょう。
「着手金」の相場は30万円
「着手金」は弁護士に依頼する際にかかる費用です。判決の結果にかかわらず発生します。
相場は30万円程度です。ただし、相談料と同様に着手金も無料としている法律事務所はあります。
一方、着手金を受け取らない法律事務所は、次に解説する報酬金高めに設定する傾向があります。
「報酬金」の相場は経済的利益の5.5%~11%
「報酬金」は、弁護士に依頼したことで得られる利益から一部を支払う成功報酬です。仮に原告が希望する分割方法ではなかったとしても、得られてた利益に応じて請求されます。
原告の「経済的利益」の5.5%~11%が相場です。共有物分割請求の場合、依頼者に帰属する共有持分の価額を基準に算出します。
また、経済的利益を「共有不動産の時価×持分割合×1/3」を基準に算出する弁護士もいます。
前者のほうが報酬金額は安くなりますが、代わりに着手金を高めに設定している傾向があるようです。
費用総額が高額になるケースもあるので訴訟の提起は慎重に
訴額を計算すると、共有物分割請求訴訟全体でかかる費用の概算を算出できます。
訴額が高いほど、申立手数料・弁護士費用はあがり、費用総額が高額になるケースもあります。
共有持分の現金化を期待して訴訟を起こす場合、高額な費用がかかれば、金銭的なメリットはほとんど得られません。
共有物分割請求訴訟を起こす際には、訴額を計算して、訴訟するだけのメリットがあるか慎重に検討しましょう。
共有不動産を自分の単独所有にしたいのではなく、共有状態を解消して現金化することを期待するなら、次で説明する「持分のみ売却」も有効です。
共有状態を解消するなら「持分のみ売却」も有効
共有物分割請求は、訴えを起こしてから判決が出るまで時間がかかるケースも少なくありません。
判決が「競売による換価分割」となった場合、判決のあとで別途、競売の手続きを進めます。
そのため、共有状態を完全に解消し、現金を得られるまで1年程度かかるでしょう。
かかる時間と費用、それに対して得られる現金を考えると、あまりメリットはありません。
そこで、共有状態の解消に有効な手段が「持分のみ売却」です。
自分の持分のみであれば、他の共有者が売却を認めていなかったとしても、手続きを進められます。
専門の買取業者なら最短2日で持分売却が可能
共有持分の売却で問題となるのが需要の低さで、一般的な不動産会社に相談しても買主はなかなか見つかりません。
しかし、共有持分専門の買取業者へ売却すれば、最短2日での現金化もできます。
専門の買取業者には、取得した持分をより高く売却するなど有効活用するノウハウが豊富にあるので、スムーズかつ高値での買取ができるのです。
手間なく共有名義を解消したいのであれば、ぜひ共有持分専門の買取業者に相談してみましょう。
まとめ
以上、共有物分割請求における訴額の計算方法と知っておくべき理由について説明しました。
訴額は、固定資産税評価額と原告の持分割合に基づいて計算するので「不動産の評価額が高い」「持分割合が大きい」場合に、訴訟のための申立手数料や弁護士費用が高くなります。
そのため、共有物分割請求を起こす際に、訴額の計算は必須です。
しかし、裁判で共有状態を解消する場合はお金以外に長い時間がかかります。
「裁判にお金をかけたくない」「迅速に共有状態から抜け出したい」などと考えている場合は、自分の意思だけで取引できる「持分のみ売却」を検討してみましょう。
共有物分割請求についてよくある質問
共有者に対して、共有名義の解消を求めるための手続きです。協議から始まり、解決しない場合は訴訟を起こすことができます。
訴額とは、訴訟において原告が主張する利益を金銭的に評価した額のことです。「原告の共有持分価格」に基づいて算出され、訴訟の申立手数料を決めるときに使われます。また、法律事務所の料金体系で訴額を基準にしているケースも一般的です。
建物の場合は「固定資産税評価額×持分割合×1/3」で、土地の場合は「固定資産税評価額×持分割合×1/6」で計算します。
弁護士費用の内訳は大きく「相談料」「着手金」「報酬金」の3種類に分けられ、法律事務所によって料金体系が異なります。相談料は1時間1万円(初回無料)としているケースが多く、着手金は30万円が相場、報酬金は経済的利益(依頼者の共有持分の価額)の5.5%~11%としているケースが一般的です。
自分の共有持分のみ売却する方法なら、他共有者との話し合いや訴訟手続きがないためスムーズに共有名義を解消できます。共有持分専門の買取業者に依頼することで、最短2日での現金化も可能です。→【共有者とトラブルがあってもOK!】共有持分の買取相談窓口はこちら
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