アパートを相続することになったものの、相続税が払えなくて困っている人は少なくありません。
相続財産のなかに現金があればそこから納税できますが、相続するものが不動産しかない場合、自分の預貯金から支払うのが一般的です。
しかし、現金が手元になくても分割して納税する「延納」や、不動産などをそのまま納める「物納」といった方法もあります。
また、アパート自体が不要であれば、売却してその利益から相続税を納めることも可能です。
弁護士と連携した買取業者なら相続登記の前でも売却相談が可能なので、アパートを売って相続税を納めたい場合は気軽に問い合わせてみましょう。
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- 延納を申請すれば最長20年の分割が可能。
- 物納を申請すれば不動産などの現物で納税できる。
- アパートが不要なら売却するのがおすすめ。
アパートの相続税が払えないときの対処法5つ
アパートの相続税が払えないときの対処法として、下記の5つがあげられます。
- 延納で最長20年の年払いをおこなう
- 相続財産から「物納」で納税する
- 金融機関から納税費用を借り入れる
- アパートを売却する
- アパートを相続放棄する
それぞれにメリットとデメリットがあるので、1つずつ詳しい内容を解説していきます。
1.延納で最長20年の年払いをおこなう
延納とは、1年ごとの分割払いで相続税を納める方法です。最長20年の分割ができるので、少しずつなら相続税を支払える場合はおすすめの方法です。
下記の要件をすべて満たしていると、延納の申請が可能になります。
- 相続税の税額が10万円を超える
- 相続人自身の預貯金を使っても相続税を支払えない
- 延納税額と利子税の総額に相当する担保がある
- 相続税の納付期限(相続開始の翌日から10ヶ月以内)までに申請する
担保については相続財産であるアパートでも構いませんし、それ以外の財産でも大丈夫です。相続財産ではなく、相続人が元々持っていた財産でも担保にできます。
具体的には、次のような財産を担保として提出できます。
- 国債・地方債
- 社債やその他有価証券で税務署長が認めるもの
- 土地
- 建物や船舶など(保険に入っているもの)
- 鉄道財団、工場財団など
- 税務署長が認める保証人の保証
なお、相続税額が100万円以下かつ、延納期間が3年以下の場合は担保が不要になります。
参照:国税庁「相続税の延納」
メリット:1回あたりの支払額が少なくなる
延納のメリットは、1回あたりの支払額が少なくなるので、まとまった資金がなくても相続税を納付できる点です。
支払いをアパートの収益でまかなえば、相続税の自己負担をなくすこともできます。
「金銭的な余裕がない」「相続税のために自分の財産を処分したくない」という場合に向いている方法です。
デメリット:利子税がかかる
延納は期間に応じて利子税がかかるため、通常の納付より支払総額が多くなります。
利子税の利率と最高延納期間は、相続財産における不動産の割合に応じて次のように決まっています。
区分 | 延納期間 | 延納利子税割合 | 特例割合 | |
---|---|---|---|---|
不動産等の割合が75%以上 | ①動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.40% | 0.70% |
②不動産等に係る延納相続税額(③を除く) | 20年 | 3.60% | 0.40% | |
③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.20% | 0.10% | |
不動産等の割合が50%以上75%未満 | ④動産等に係る延納相続税額 | 10年 | 5.40% | 0.70% |
⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く) | 15年 | 3.60% | 0.40% | |
⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 20年 | 1.20% | 0.10% | |
不動産等の割合が50未満 | ⑦一般の延納相続税額(⑧、⑨および⑩を除く) | 10年 | 6.00% | 0.80% |
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(⑩を除く) | 10年 | 4.80% | 0.60% | |
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.20% | 0.50% | |
⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 | 5年 | 1.20% | 0.10% |
参照:国税庁「相続税の延納」
上記表の「特例割合」が実際に適用される利率ですが、市場の実勢金利に合わせて都度修正されるため、申し込んだ時期によって変動します(上記は2022年時点の利率)。
例えば「相続財産がアパートのみ」で「500万円の相続税を5年間で延納」した場合のシミュレーションは次の通りです。
年数 | 利子税 | 支払額 | 支払い後の元金 |
---|---|---|---|
1年目 | 500万円×0.4%=2万円 | 102万円 | 400万円 |
2年目 | 400万円×0.4%=1万6,000円 | 101万6,000円 | 300万円 |
3年目 | 300万円×0.4%=1万2,000円 | 101万2,000円 | 200万円 |
4年目 | 200万円×0.4%8,000円 | 100万8,000円 | 100万円 |
5年目 | 100万円×0.4%=4,000円 | 100万4,000円 | 0円 |
利子税の総額 | 6万円 |
元金に応じて1年ごとに利子が付くため、延納期間が長いほど利子税も増加します。
仮に上記と同じ条件で延納期間を20年とした場合、合計で21万円の利子税がかかってしまいます。
2.相続財産から「物納」で納税する
物納とは、相続財産のうち金銭以外のものから相続税を納める制度です。相続財産が不動産や有価証券などばかりで、現金がない場合に利用できます。
物納できる財産としては、
- 不動産
- 船舶
- 国債証券
- 地方債証券
- 社債・株式・証券投資信託など
などがあげられます。
延納と同じく、相続税の納付期限(相続開始の翌日から10ヶ月以内)までに申請することが原則です。
参照:国税庁「相続税の物納」
メリット:現金の用意が不要
物納は、相続税を納めるにあたって現金を用意する必要がありません。相続財産のなかから納めるため、相続人の出費は不要となります。
また、相続財産のうち不要なものだけ物納することで、納税と処分を一緒におこなえるのもメリットといえるでしょう。
「相続財産の一部だけ手元に残れば良い」「アパート以外の相続財産はいらない」という場合に検討すべき方法です。
デメリット:アパート以外の相続財産がないと不可能
物納のデメリットは、残したい財産以外の相続財産も必要である点です。アパートを手元に残したくても、アパート以外に相続財産がなければ物納はできません。
物納する財産は必ず相続財産でなくてはいけないため、延納のように「相続人自身が元々持っていた財産」で物納することも不可能です。
また、境界が不明瞭な土地や、権利関係でトラブルを抱えている物件など、財産の状況によっては物納を認められない場合もあります。
3.金融機関から納税費用を借り入れる
銀行や信用金庫などから融資を受けて、相続税の納税費用を用意する方法もあります。延納の利子税と比べて、銀行の金利が低いときは検討すべき方法です。
反対に、銀行金利が利子税より高いときは、延納を申請したほうがよいでしょう。利子税も銀行金利も時期によって変動するため、その時々で利率を調べて判断する必要があります。
金融機関によっては下記のように、相続税専用のローンを設けている場合もあります。
金融機関 | 商品名 | 借入金額 |
---|---|---|
川口信用金庫 | かわしん相続税支払資金ローン | 30万~1,000万円 |
千葉興業銀行 | 相続税支援ローン | 10万~1,000万円 |
上記のようなローンがない金融機関でも、相続税目的の融資を受け付けているケースは多いので、まずは普段使っている銀行などに問い合わせてみましょう。
メリット:返済額が一定になる
金融機関から借り入れるメリットとしては、返済額が一定になることがあげられます。
延納の返済額は「残りの元金」で変わりますが、銀行ローンは返済額が最後まで一定になる「元利均等方式」なので、返済計画は立てやすくなります。
また、延納の支払い日は1年ごとになるため、「年払いより1ヶ月ごとに請求されたほうが支払いやすい」という人は、借入を利用する価値があるでしょう。
デメリット:審査に落ちる恐れがある
金融機関から借り入れるデメリットは、確実に借り入れられるとは限らない点です。
一般的なローンと同じように審査を受ける必要があるため、自身の経済状況によっては借入を拒否されるかもしれません。
また、審査に時間がかかると相続税の納付期限に間に合わないリスクもあります。通常なら長くても1ヶ月程度で終わりますが、申込書類の不備などで審査が長引く場合もあるので注意が必要です。
4.アパートを売却する
アパートを処分しても構わないのであれば、相続に合わせて売却するとよいでしょう。
相続税の申告・納付期限は相続開始から10ヶ月以内なので、それまでに相続登記~売却まで終わらせれば売却益を使って納税ができます。
売却に時間がかかると納税期限に間に合わなくなってしまいますが、物件を直接買い取る「買取専門の不動産業者」に依頼すれば、最短2日での売却も可能です。
メリット:アパートの管理責任を負わずまとまった現金を取得できる
売却の大きなメリットは、アパートの管理責任を負わなくて済む点です。
賃貸経営には専門的な知識が必要であり、普段の管理や入居者の対応、修繕費のコストなど、オーナーに多くの負担がかかります。
アパートを売却すればこれらの負担をゼロにして、まとまった売却益を手に入れることが可能です。
売却益で別の不動産を購入することもできますし、生活費や子供の学費に充てることもできます。用途に縛られず、自由に相続財産を活用できるでしょう。
デメリット:アパートを手元に残せない
売却のデメリットはアパートを手元に残せない点で、賃貸経営が順調なアパートだと家賃収入を捨ててしまうことになってしまいます。
利回りが良く、維持費や税金を差し引いても十分な利益を上げている物件であれば、そのまま保有していたほうがお得でしょう。
逆にいえば、老朽化で建物の修繕が必要であったり、入居者が減って空室が多い場合などは、持っているだけで損失が続いてしまいます。
上記のような低収益物件であれば、早期の売却が損失を抑えることにつながります。訳あり物件専門の買取業者なら低収益物件でも積極的に買い取ってもらえるので、まずは無料査定で相談してみましょう。
5.アパートを相続放棄する
アパートを処分する方法としては、売却の他に「相続放棄」があります。相続放棄は「相続する権利」ごと放棄するため、遺産分割に関するトラブルもすべて避けることが可能です。
相続放棄をするときは、被相続人の最後の居住地を管轄する家庭裁判所に申述します。相続開始(正確には相続が開始したと知ったとき)から3ヶ月以内が申述期間です。
ただし、自分以外に相続人がいない状況で相続放棄をする場合、裁判所に申し立てて相続財産管理人を選任する必要があります。
選任には約20~100万円程の費用がかかるうえ、手続きが終わるまで相続人は財産の管理は行わなければいけません。
相続財産管理人については下記の記事で詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。

メリット:借金の相続を回避できる
相続放棄のメリットは、借金の相続を避けられる点です。
相続では、被相続人が借金をしていたり、連帯保証人になっていたりすると、それらも引き継ぐ必要があります。
相続放棄はそれらも一緒に放棄できるため、相続財産全体でマイナスとなる場合は放棄することで借金を抱えることを避けられます。
「借金を抱えてでもアパートが欲しい」という状況でもない限り、相続財産のトータルがマイナスのときは相続放棄をしたほうが良いでしょう。
デメリット:相続財産をすべて放棄することが必要
相続放棄のデメリットは、相続財産をすべて放棄する必要がある点です。つまり、「アパートだけ放棄して他の財産は相続する」といったことはできないのです。
そのため、相続財産がトータルでプラスとなる場合や、どうしても引き継ぎたい財産がある場合は、相続放棄をしないほうが良いでしょう。
また、「アパートの賃貸管理が面倒」という理由だけの場合も、相続放棄はおすすめできません。不要なアパートでも売却すればまとまった現金が手に入るので、一旦は相続することを検討した上で、それでもデメリットが大きいと感じた場合に放棄することをお勧めします。
親が生きている内にできるアパート相続の節税方法
相続税は、被相続人が存命中のときから節税することができます。なるべく多くの財産を残したい親世代や、相続の手間を減らしたい子世代は、早めに対策をおこないましょう。
具体的な節税方法として、次の2つを紹介します。
- 「資産の組み換え」をおこなう
- 生前贈与で「相続時精算課税制度」を利用する
1.「資産の組み換え」をおこなう
資産の組み換えとは、保有している資産を別の資産に変える方法のことです。とくに、現在持っている不動産を売却して、別の不動産に買い替えることを指します。
古いアパートは市場価値に比べて相続税評価額が高い傾向にあるため、市場価値と相続税評価額が釣り合った物件に買い替えることで、相続税を節税できます。
また、仮に築古アパートを売却して都心の築浅ワンルームに買い替えた場合、次のような効果があります。
- 家賃を高く設定できる
- 賃貸需要が高いので入居者を見つけやすい
- 1室だけなので賃貸管理がしやすい
上記のように、資産の組み換えは相続税の節税をしつつ収益物件としての価値を高める方法として、とても有益といえるでしょう。
2.生前贈与で「相続時精算課税制度」を利用する
相続時精算課税制度とは、親から子へ財産を贈与したときの課税を、相続が発生するまで先延ばしにする制度です。
相続時精算課税制度を利用すると、贈与を受けた側に課せられる贈与税が2,500万円まで控除されます(超過分は一律20%)。
控除された分は相続が発生したとき相続税の計算で加算されますが、相続税は基礎控除で「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」が非課税となるので、トータルで大幅な節税が可能です。
相続時精算課税制度については下記の関連記事でも解説しているので、詳しくはこちらを参考にしてください。

まとめ
相続税を払えるだけの現金がなくても、延納や物納などで納付することが可能です。
しかし、アパートの相続では、相続税を払ってまで引き継ぐべきはしっかりと考える必要があります。
賃貸管理にはさまざまな手間がかかりますし、修繕費や固定資産税などのコストも大きな負担です。築古などで収益性の低いアパートであれば、相続に合わせて売却したほうが良い場合もあります。
大切な相続財産だからこそ、相続する自分にとって一番メリットのある方法で相続をおこないましょう。
アパートの相続税についてよくある質問
税務署に「延納」を申請することで、年払いでの納税が可能です。延納期間は最長20年間で、相続財産における不動産の割合に応じて利子税が課せられます。
「物納」を申請することで、相続財産内の不動産や船舶による現物納付が可能です。ただし、権利関係にトラブルを抱えているなど、資産の状況によっては物納を認められないケースもあります。
はい、可能です。ただし、延納より金利が高い場合もあるのでその時々で利率をしっかりと調べましょう。
はい、可能です。相続税の納付は「相続開始から10ヶ月以内」なので、それまでに売却できれば納税できます。なお、急いで売却したい場合は物件を直接買い取る「不動産買取業者」に依頼するのがおすすめです。→【最短2日で高額売却】不動産買取窓口はこちら
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