賃貸借契約では、貸主から借主に対して「賃料増額請求」が可能です。現在の賃料が近隣相場より低い場合など、正当な理由があれば賃料の値上げを請求できます。
しかし、賃料の増額には借主の同意が必要なため、増額を拒否された場合は調停や裁判も検討しなければなりません。
調停や裁判では数十万円の費用がかかるなど、貸主側の負担も大きくなります。また、調停や裁判をおこなっても、希望通りの金額まで値上げできるとは限りません。
そのため、賃料増額請求がむずかしいときは、現状のまま物件を売却するなど他の方法も検討しましょう。
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- 賃料の増額には借主の同意が必要。
- 借主の同意が得られない場合は調停や裁判をおこなう。
- 賃料増額請求がむずかしい場合は物件の売却も検討すべき。
賃料を増額するための要件とは?
原則として、賃料の変更はいつでも請求することが可能です。貸主は増額請求を、借主は減額請求を、いつでも自由に請求できます。
しかし、請求したからといって必ず増額・減額ができるわけではありません。とくに、貸主からの増額請求では次の要件を満たすことが必要となります。
- 貸主・借主双方で合意していること
- 正当な理由があること
- 賃料増額を禁止する特約がないこと
- これまでの賃料と比べて大幅な値上げではないこと
それぞれの要件を詳しく解説していくので、賃料を増額できる基準を把握しましょう。
【要件1】貸主・借主双方で合意していること
賃貸借契約でもっとも重要なのは、当事者間の合意です。賃料の上限額を具体的に定める法律はないため、貸主・借主が双方納得したうえで賃料を決定します。
そのため、「借主の同意」さえあれば、他の要件を満たしていなくても賃料の増額は可能です。
極端にいえば、周辺の家賃相場より大幅に高い賃料に設定しても、貸主と借主が同意すれば問題ないといえます。
ただし、実際に賃料総額請求をおこなった場合、大半の借主は納得しないでしょう。賃料の増額は借主にとってデメリットしかないため、なかなか同意を得られないケースがほとんどです。
借主に拒否されている場合は賃料増額を強行できない
借主から同意が得られない場合、賃料を増額するには調停や裁判が必要になります。調停や裁判の流れは後ほど解説しますが、多くの費用や時間がかかります。
また、賃料増額を拒否されたからといって、入居者を強制的に追い出すことはできません。強制退去は長期間の賃料滞納など特殊な事情が必要なので、「値上げに同意しないなら追い出す」という対処はできないのです。
借主に賃料値上げを拒否されたときの対処法については、下記の記事も参考にしてください。

【要件2】正当な理由があること
不動産の賃貸借契約について定める借地借家法では、賃料増額を請求できる正当な理由として次の3つを例示しています。
- 不動産に対する固定資産税などが増減した
- 不動産の価値もしくは経済事情が変動した
- 近隣の類似物件と比べて賃料が不相当となった
参照:e-Govポータル「借地借家法第11条第1項、第32条第1項」
裁判になった場合、上記の理由を満たしているかどうかが結果を決めるポイントとなります。
上記の理由以外でも賃料を増額できることもありますが、さまざまな観点から「値上げはやむを得ない」という状況に限られます。
賃料増額の正当理由については下記の記事でも解説しているので、ぜひ参考にしてください。

【要件3】賃料増額を禁止する特約がないこと
借地借家法では「増額禁止特約がある場合はその定めに従う」というルールも定めています。
つまり、正当な理由があっても「一定期間は賃料を増額しない」という特約を結んでいる場合、特約のほうが優先されるのです。
なお、このルールは増額請求のみを対象にしているため、借主からの減額請求には適用されません。賃料の減額を禁止する特約があっても、借主は賃料減額請求が可能ということになります。
借地借家法は基本的に借主の保護を目的としているので、このように借主有利のルールとなっています。
参照:e-Govポータル「借地借家法第11条第1項、第32条第1項」
【要件4】これまでの賃料と比べて大幅な値上げをしないこと
賃料の値上げでは、値上げ幅を適正な金額にすることも重要です。あまりにも大幅に値上げすると借主も納得できませんし、裁判に移行した場合は却下される恐れがあります。
適正な値上げ幅の基準は個別のケースによって変わりますが、とくに重要なのは「これまでの契約で設定していた賃料」です。
裁判では、従来の賃料やその賃料で契約を結んだときの経緯が考慮されます。
そのため、近隣の相場と比べて賃料が低くても、相場相当の賃料まで増額できないケースがあります。
値上げ幅については下記の関連記事で解説しているので、詳しくはこちらを参考にしてください。

賃料増額請求の流れ
賃料増額請求の流れは、次の3段階に分けられます。
- 入居者に値上げを通知する
- 裁判所に調停を申し立てる
- 裁判所で裁判を起こす
交渉で合意できなければ調停へ移行し、調停でも解決しなければ裁判をおこなうという流れです。
賃料増額請求では裁判の前に必ず調停をおこなう「調停前置主義」があるため、交渉から裁判へ直接移行できないことは覚えておきましょう。
1.入居者に値上げを通知する
まずは入居者へ値上げを通知し、交渉をおこないます。通知方法に決まりはありませんが、調停や裁判となったときに「通知した証拠」として使える内容証明郵便を利用しましょう。
通知時期についても、法律上の決まりはありません。入居者とのトラブルを避けるためには、なるべく早く通知するようにしましょう。
通知の時点で入居者に納得してもらえれば、賃料の増額は成功です。一方、スムーズに了承してもらえないときは、次回の更新料をなくすなど相手方のメリットになる条件を提示してみましょう。
通知時期や値上げ交渉のコツについては、下記の関連記事で詳しく解説しています。

2.裁判所に調停を申し立てる
直接交渉で同意が得られなかった場合、簡易裁判所に調停を申し立てます。調停とは、裁判官や調停委員(裁判所に任命された各種専門家など)を間に挟んでおこなう話し合いです。
調停の目的はお互いの合意による紛争解決なので、裁判のように強制的な判決が下されることはありません。客観的な意見を参考にしつつ、双方が納得できる和解案を決定します。
おおむね2~3回の話し合いがおこなわれ、3ヶ月程度で結論を出すのが一般的です。どうしても和解できない場合は調停不成立となり、裁判へ移行することになります。
3.裁判所で裁判を起こす
調停不成立となった場合、簡易裁判所もしくは地方裁判所で裁判を起こします。
裁判では、現在の賃料がいかに不相当であるかや、適正な賃料はいくらになるのかを、客観的な資料を用意して立証しなければいけません。
有効な資料としては、下記の例があげられます。主張する内容に合わせて、根拠となる資料を集めましょう。
- 不動産鑑定士の鑑定書
- 数年分の固定資産税証明書
- 近隣にある類似物件の賃料一覧
これらの資料や、貸主と借主の主張をもとに、裁判官が判決で最終的な結論を下します。例え希望に沿わない判決でも、当事者は従わなければいけません。
判決が出てから2週間以内であれば控訴・上告も可能ですが、第一審の判決を覆すためには新しい証拠が必要であり、逆転できるケースは少ないのが実情です。
賃料増額請求で必要な費用
賃料増額請求にあたって必要な費用は、以下の3つがあげられます。
- 調停・裁判の申し立て費用
- 弁護士費用
- 不動産鑑定士費用
借主との直接交渉で解決すれば費用はほとんどかかりませんが、調停・裁判になると数十万円の出費もありえます。
コストに見合うだけの増額ができるかどうか、慎重に検討したうえで請求をおこないましょう。
調停・裁判の申し立て費用
調停や裁判をおこなうときは、裁判所に手数料を支払います。手数料は訴額等(調停・訴訟で主張する利益を金銭に置き換えたもの)によって、次のように定められています。
訴額等 | 調停の申し立て手数料 | 裁判(訴えの提起)の手数料 |
---|---|---|
10万円まで | 500円 | 1,000円 |
20万円 | 1,000円 | 2,000円 |
30万円 | 1,500円 | 3,000円 |
40万円 | 2,000円 | 4,000円 |
50万円 | 2,500円 | 5,000円 |
60万円 | 3,000円 | 6,000円 |
70万円 | 3,500円 | 7,000円 |
80万円 | 4,000円 | 8,000円 |
90万円 | 4,500円 | 9,000円 |
100万円 | 5,000円 | 1万円 |
訴額の算出方法は申立先の裁判所によって異なるので、直接問い合わせるか弁護士に聞いてみましょう。
また、手数料の他に当事者への連絡に使う郵便料金も必要です。金額は2,500円程度から、当事者の人数に応じて増えるのが一般的です。
手数料は収入印紙、郵便料金は郵便切手で納めます。郵便切手は券種の内訳が指定されている場合もあるので、こちらも申立先の裁判所に確認しましょう。
弁護士費用
調停や訴訟をおこなうときは、弁護士に依頼するのが一般的です。弁護士に依頼すれば各種手続きを代行してもらえるので、調停・訴訟の負担を大幅に軽減できます。
弁護士によって報酬体系が変わるため、どれくらいの費用がかかるかは一概にいえません。例えば、東京都のみずほ中央法律事務所では次のように設定されています。
経済的利益※の額 | 着手金 | 成功報酬 |
---|---|---|
300万円以下の場合 | 経済的利益の8.8% (ただし最低額44万円) |
経済的利益の17.6% |
300万円を超え3,000万円以下の場合 | 経済的利益の5.5%+9万9,000円 | 経済的利益の11%+19万8,000円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 | 経済的利益の3.3%+75万円9,000円 | 経済的利益の6.6%+151万8,000円 |
3億円を超える場合 | 経済的利益の2.2%+405万9,000円 | 経済的利益の4.4%+811万8,000円 |
※経済的利益は次のうち金額の小さいほうが適用されます。
- 請求する差額もしくは認められた差額の7年分
- 請求する差額もしくは認められた差額の想定される支払い期間相当分
参照:弁護士法人みずほ中央法律事務所「不動産に関する案件の弁護士費用 賃料増額・減額請求に関するご依頼」
上記はあくまで一例ですが、どこの弁護士に依頼しても数十万円の費用はかかるでしょう。
不動産鑑定士費用
不動産鑑定士とは、不動産の資産価値を評価できる国家資格者です。賃貸物件の資産価値を正確に把握し、適正な新賃料を設定するためには、不動産鑑定士による鑑定が必要です。
交渉や調停の段階だと必須ではありませんが、裁判では適切な賃料を主張するために鑑定をおこなうケースがほとんどです。
依頼する不動産鑑定士によって料金は変わりますが、相場はおおむね20万~30万円が一般的です。鑑定する物件の広さや種類によって変わる場合もあります。
例えば、埼玉県にある赤熊不動産鑑定所では、賃料の鑑定費用を次のように設定しています。
鑑定内容 | 費用 |
---|---|
新規家賃 | 33万円~ |
継続家賃 | 38万5,000円~ |
新規地代 | 27万5,000円~ |
継続地代 | 30万8,000円~ |
賃料増額請求をするときの注意点
ここまで賃料増額請求の基本的な要点を解説しましたが、他にも押さえておきたい注意点がいくつかあります。
- 賃料増額請求中に更新時期を迎えると「法定更新」となる
- 請求から裁判での決着までは既存の賃料が支払われる
- 駐車場やコンテナ置き場は賃料増額請求ができない
賃料増額請求で発生するデメリットや、そもそも請求ができないケースがあります。実際に請求をおこなうか判断するときの参考にしましょう。
賃料増額請求中に更新時期を迎えると「法定更新」となる
貸主のなかには「借主が賃料値上げに同意しなければ更新を拒絶して追い出せばいい」と考える人もいます。
しかし、更新拒絶と強制退去には「貸主が建物を使用するやむを得ない事情」などが必要であり、賃料の値上げに同意しないだけでは認められません。
仮に更新を拒絶し続けても、借主は「法定更新」によってそのまま住み続けることが可能になります。
法定更新が成立すると、これまでと同じ賃料で契約が更新されたものとみなされます。また、期間の定めがなくなるため、今後は更新料をもらえないというデメリットもあります。
法定更新を避けるためには、更新拒絶を交渉に持ち出さないようにしましょう。
参照:e-Govポータル「借地借家法第26条第1項、第28条」
請求から裁判での決着までは既存の賃料が支払われる
賃料増額請求で裁判までもつれ込んだ場合、その期間の賃料は既存の金額で支払われることになります。
建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる(後略)
トラブル中であっても借主が賃料を納める義務は残るため、もし長期間の滞納をされたら、強制退去をおこなうことも可能です。
ただし、強制退去をおこなう場合も裁判所への申し立てが必要となるので、自分で対処せず弁護士へ相談するようにしましょう。
裁判で決定した賃料との差額は1割増しで清算する
裁判で賃料の増額が認められた場合、増額を請求した日からそれまでに支払われた賃料との差額を、年1割の利息を加えて支払ってもらえます。
(前略)その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。
賃料の差額は「5万×12ヶ月=60万円」となり、そこに年1割の利息が加わるので合計で66万円が支払われます。
増額を請求した日は「借主に通知が届いた日」とするのが一般的なので、正確な期間を算出するために内容証明郵便を使った通知をおこないましょう。
駐車場やコンテナ置き場は賃料増額請求ができない
土地を駐車場やコンテナ置き場として貸している場合、ここまで解説した賃料増額請求の対象外となるので注意しましょう。
賃料増額請求は借地借家法で定められている権利ですが、この法律は「建物の所有」を目的とした賃貸借契約が対象です。
この法律は、建物の所有を目的とする地上権及び土地の賃借権の存続期間、効力等並びに建物の賃貸借の契約の更新、効力等に関し特別の定めをするとともに、借地条件の変更等の裁判手続に関し必要な事項を定めるものとする。
借地借家法の適用を受けない賃貸借契約では、賃料の増額について法律上の決まりはありません。当事者の話し合いで合意できなければ、基本的に賃料の増額はできないということになります。
駐車場やコンテナ置き場以外では、ゴルフ場に借地借家法が適用されるか争った判例があります。
地上権設定契約及び土地賃貸借契約において、ゴルフ場経営を目的とすることが定められているにすぎず、当該土地が建物の所有と関連するような態様で使用されていることもうかがわれないという事実関係の下においては、借地借家法11条の類推適用をする余地はない。
上記は借主側からの賃料減額請求による裁判ですが、ゴルフ場経営は「建物の所有を目的とした土地の賃貸借契約ではない」とみなされ、借地借家法の適用が否定されています。
賃料の増額がむずかしい場合は「そのまま売却」もおすすめ
賃料の増額は、調停・訴訟まで発展すると多くのコストや時間がかかります。また、仮に裁判で値上げを認めてもらえても、思い通りの金額になるとは限りません。
しかし、現状の家賃では利回りが低く、収益が少ない場合や赤字になっている場合も多いでしょう。そのような人は、現状のまま物件を売却することをおすすめします。
赤字が続けば損失が膨らむだけですし、仮にいまは黒字でも老朽化が進めば修繕や建て替えの費用がかさみます。
売却してまとまった現金が入れば、より利回りのよい物件に再投資することも可能です。売却は損切りだけでなく、投資効率を上げるための効果的な方法でもあるのです。
「訳あり物件専門の買取業者」なら低収益物件でも高値で売却できる
低収益物件を売却するにあたって悩ましいのが、購入希望者の少なさです。需要が低ければ売れるまで時間がかかりますし、価格も安くなってしまいます。
また、不動産売却では買主を探す代わりに手数料を取る「仲介業者」に依頼するのが一般的ですが、売りにくい物件に対しては売却活動の手を抜かれる恐れもあります。
そのため、低収益物件を売るときは自社買取をおこなう「買取業者」への依頼がおすすめです。買取業者が物件を直接買い取るため、相談から数日程度で現金化できます。
とくに、訳あり物件専門の買取業者であれば、賃料の低い物件や劣化の激しい物件でも積極的に買い取ってもらえます。物件を再生・活用する知識が豊富にあるため、高額での買取も期待できるでしょう。
まずは無料査定を利用して、買取価格がいくらになるか調べてみましょう。査定額に納得できれば、そのままスピーディーに売却できます。
まとめ
賃料増額請求は、貸主側からの一方的な通知だけでは認められません。借主が拒否する場合、調停や訴訟をおこなう必要があります。
しかし、調停や訴訟をおこなったとしても確実に値上げできるとは限りません。思ったより増額できず、かえって弁護士費用などで損をする場合もあります。
賃料増額請求がむずかしければ、物件を売却するなど他の方法も検討してみましょう。訳あり物件専門の買取業者であれば、低収益物件でも高値での売却が可能です。
賃料の増額にこだわりすぎず、長期的な視点で利益のある方法を選ぶことが大切です。
賃料増額請求についてよくある質問
はい、可能です。借主の同意があれば、賃料を増額することができます。ただし、同意を得られない場合は調停や裁判をおこなう必要があります。
いいえ、確実に値上げできるとは限りません。近隣の賃料相場や、貸主・借主の契約におけるこれまでの経緯など、複数の要素から公平な賃料が判断されます。
借主との直接交渉で話がまとまれば費用はかかりません。調停や訴訟になった場合、裁判所への手数料がかかるほか、弁護士費用などで数十万円はかかります。
いいえ、できません。更新を拒絶しても「法定更新」によって借主は住み続けることができます。
訳あり物件を専門に取り扱う買取業者なら、低収益物件でも短期間での高額買取が可能です。さらに弁護士と連携している業者なら、賃料値上げや入居者との調停・訴訟など、法律面のアドバイスもしてもらえるのでおすすめです。→【低収益物件でも高値で売却!】訳あり物件の買取相談窓口はこちら
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