不動産を貸し出していると、何らかの事情で「家賃を値上げしたい」と考える状況があります。しかし、具体的にどこまで家賃を上げられるのかわからないというオーナーも多いでしょう。
家賃の値上げ幅に法的な上限はありませんが、目安として不動産鑑定士による鑑定評価を基準にするのが一般的です。
ただし、鑑定評価では「賃貸借契約の経緯」も考慮されるため、現状の家賃が周辺物件より低くても、相場通り値上げできるとは限りません。
また、値上げ交渉で借主とトラブルになれば、調停や裁判で多くのコストがかかります。
「家賃の値上げがむずかしい」という場合は、物件を売却するなど別の対処方法も検討しましょう。売却益で別の物件に買い替えることで、スムーズに収益を増やすことも可能です。
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- 家賃の値上げは不動産鑑定による「継続賃料」が基準。
- スムーズに家賃を値上げするためには「誠実な交渉」が大切。
- 家賃の値上げが困難なときは売却など別の対処法が必要。
家賃値上げの上限は相場と契約経緯を考慮した「継続賃料」で決まる
不動産は細かい要因で価値が変わるため、家賃の上限に統一された決まりはありません。極端にいえば、どれだけ高額な賃料でも貸主と借主が同意すれば成立し、上限はないといえます。
しかし、なにかしらの基準がないと各自で好き勝手に家賃を決めてしまい、賃貸市場が混乱します。
そのため、賃料の設定は不動産鑑定士が使う「不動産鑑定評価基準」をもとに算出するのが一般的です。
不動産鑑定評価基準には「新規賃料(正常賃料)」と「継続賃料」という2つの賃料があり、それぞれ以下のような違いがあります。
賃料の種類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
新規賃料(正常賃料) | 「新しく賃貸借契約を結ぶ」と仮定した場合に適正と考えられる賃料。 | 市場の賃料相場がより重視される。 |
継続賃料 | すでに締結されている賃貸借契約を継続するにあたって適正と考えられる賃料。 | 市場の賃料相場に加えて「これまでの契約経緯」も考慮される。 |
新しく賃貸借契約を結ぶときの新規賃料は、市場相場をもとに算出すればおおむね適正な賃料といえます。
しかし、家賃の値上げ幅を決める継続賃料は、市場相場だけでなく「契約当初および更新時の状況」や「貸主・借主の関係性」など、個別の経緯も評価に加える必要があります。
継続賃料の計算方法
継続賃料の計算方法は、次の4つに分けられます。
- 差額配分法
- 利回り法
- スライド法
- 賃貸事例比較法
家賃を値上げしたい理由や、調査可能な資料など、個々の事情に応じて上記の計算方法を使い分けます。
それぞれの詳しい計算方法を見ていきましょう。
差額配分法
差額配分法は、現在の賃料と新規賃料の差額をもとに計算する方法です。
差額をそのまま値上げするのではなく、差額が発生した原因などを考慮した「差額配分率」をあてはめるのがポイントです。計算式は次のようになります。
差額配分率は細かい要因を分析したうえで決めるのが原則ですが、実務上は簡略化のために1/2や1/3とするのが一般的です。
差額配分率は賃料の値上げ幅を抑え、借主の負担が急激に増大するのを防ぐ効果があります。
利回り法
利回り法は、最初に賃貸借契約を結んだときの利回りを現時点の不動産価格に当てはめる計算方法です。
例えば、5,000万円の不動産を月25万円(年間300万円)で賃貸し、修繕費などの諸経費が年間50万円だとします。この場合の利回りは「(300万円-50万円)÷5,000万円×100=5%」です。
しかし、不動産価格が上昇して7,500万円となった場合、賃料がそのままだと「(300万円-50万円)÷6,500万円×100=3.33%」となり、利回りが下がってしまいます。
そこで、契約当初の利回り5%を現在の不動産価格にあてはめて賃料を計算すると「6,500万円×5%+50万円=375万円」となり、年375万円(月31万2,500円)が継続賃料となります。
スライド法
スライド法は、賃料が不相当となった原因の経済的事情をもとに、継続賃料を求める方法です。計算式は以下のどちらかを使います。
変動率は物価や経済情勢が基準となり、具体的にはGDPや消費者物価指数、賃金指数などの指標を参考にします。
最初の賃貸借契約から現時点までに消費者物価指数が3%上がれば、その数値を変動率にあてはめて計算する、という方法です(実際にはさまざまな指標を総合的に考慮します)。
賃貸事例比較法
賃貸事例比較法は、類似している物件の賃貸借事例と比較して賃料を決める方法です。
なるべく条件が近くなる物件を調べますが、実際にまったく同じ物件はないため、比較対象に合わせて以下のような補正をかけます。
補正 | 内容 |
---|---|
事情補正 | 「親戚から格安で借りている」「特殊な使用方法を前提としている」などの固有条件を補正 |
時点補正 | 比較事例から現時点までの時間経過で発生した価格変動を補正 |
地域要因の比較 | 所在地や交通条件の差異を補正 |
個別的要因の比較 | 規模・構造・形状などを補正 |
類似物件の事例が豊富にあれば相場に合った賃料を出せますが、データが少ないと適用できないというデメリットがあります。
また、補正のかけ方も評価する人の主観によるところが大きいので、恣意的な判断にならないよう注意することが必要です。
適切な値上げ率を出すには不動産鑑定士への依頼が必要
ここまで解説した通り、家賃の値上げ幅は個別の事情を考慮して決める必要があります。単純に近隣の物件と比べるだけでは、適切な値上げ率とはいえません。
とくに、値上げ交渉で揉めて裁判になった場合、適切な値上げ率でなければ却下される恐れもあります。
そのため、借主と家賃交渉を進めるときも、裁判になったときも、不動産鑑定士に継続賃料を鑑定してもらうことが大切です。
不動産鑑定士の鑑定結果は、裁判でも有力な証拠となります。自己判断で値上げ率を決めず、専門家に適切な値上げ率を算出してもらうようにしましょう。
不動産鑑定士費用の目安
不動産鑑定士の料金は依頼先にもよりますが、おおむね20万~30万円程度が相場です。
例えば、埼玉県にある赤熊不動産鑑定所では、家賃や地代の鑑定費用を次のように設定しています。
鑑定内容 | 費用 |
---|---|
新規家賃 | 33万円~ |
継続家賃 | 38万5,000円~ |
新規地代 | 27万5,000円~ |
継続地代 | 30万8,000円~ |
物件の規模や立地で変動するため、まずは見積もりを出してもらい、具体的な費用を把握してから依頼するようにしましょう。
スムーズに家賃を値上げするために必要なこと
適切な方法で値上げ幅を決めても、必ず値上げを実行できるわけではありません。家賃の値上げは、借主の合意が必須となります。
借主の合意を得るためには交渉が必要ですし、交渉で話がまとまらなければ調停や裁判といった法的措置が必要です。
交渉や調停・裁判をスムーズに進めるためには、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 入居者とは誠意を持って交渉にあたること
- 正当な理由で値上げを請求すること
- 弁護士と相談しながら交渉や調停・裁判にあたること
1.入居者とは誠意を持って交渉にあたること
不動産鑑定評価による賃料はあくまで「客観的な目安」であり、実際の交渉では貸主と借主の合意が優先されます。
そのため、家賃をスムーズに値上げするには、いかに借主に納得してもらうかが重要です。「貸してやっている」という態度ではなく、対等な相手として借主と交渉しましょう。
誠実な交渉をおこなううえで大切な要素の1つが、値上げを通知する時期です。可能な限り早く通知することで、借主も対応を考える余裕が生まれます。
適切な通知時期や交渉のコツについては下記の記事で解説しているので、よろしければ参考にしてください。

入居者に拒否された場合は調停・裁判が必要になる
値上げ交渉で入居者に拒否された場合、裁判所に調停や裁判を申し立てることになります。
調停は裁判官や調停委員を間に挟んだ話し合いで、第三者の意見を交えながら和解案を決める手続きです。通常3ヶ月程度で結論を出しますが、双方が納得できなければ強制的に和解させられることはありません。
調停が不成立となった場合は裁判に移行し、各種証拠や当事者の主張をもとに裁判官が改定家賃を決定します。
以下の記事で,値上げを拒否されたときの対処法を詳しく解説しているので、借主とトラブルになった際はぜひ参考にしてください。

なお、裁判や調停をおこなっても希望通りに値上げできるとは限らず、むしろ値上げを却下される場合があります。また、判決まで1年以上かかりますし、後ほど解説する弁護士費用も必要です。
「値上げ交渉に時間や費用をかけたくない」という場合は、現状維持や物件の売却など、他の対処法も検討しましょう。
2.正当な理由で値上げを請求すること
家賃の値上げ請求自体はいつでもできますが、その請求が裁判などで認められるには「値上げがやむを得ない」と判断できる正当な理由が必要です。
家賃を値上げする正当な理由については、法律で下記のように例示されています。
- 物件に対する固定資産税などが上昇した
- 経済事情の変動などで物件の資産価値が上がった
- 近隣の家賃相場より賃料が低い
上記はあくまで例ですが、基本的に上記3つの状況にあてはまらなければ値上げはむずかしいと考えましょう。
下記の記事でも正当な理由を詳しく解説しているので、よろしければ参考にしてください。

正当な理由でも「値上げを禁止する特約」があると値上げできないので注意
賃貸借契約で「一定期間は値上げしない」という特約を設けている場合、例え正当な理由があっても家賃の値上げはできなくなります。
(前略)一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。
上記の通り、特約の期限が切れるまで値上げはできなくなります。請求をおこなう前に、このような値上げ禁止特約がないか確認しておきましょう。
3.弁護士と相談しながら交渉や調停・裁判にあたること
「借主とは誠実な交渉が大切」と解説しましたが、お互い感情的になってしまい、話がこじれてしまうケースは少なくありません。
冷静かつ適切な交渉を進めるためには、法律の専門家である弁護士に依頼しましょう。弁護士に交渉を代行してもらうことで、トラブルの可能性を減らせます。
また、裁判を起こす場合も、弁護士に依頼すれば代理人として出廷してもらうことが可能です。
負担を大幅に軽減できるので、家賃の値上げをするときは積極的に弁護士へ相談するようにしましょう。
弁護士費用の目安
依頼する弁護士によって費用は変わりますが、一般的に30万~40万円程度はかかります。
例えば、東京都にあるみずほ中央法律事務所では、賃料増額請求の交渉・調停・裁判について、次のように料金設定しています。
経済的利益※の額 | 着手金 (代理人交渉は2/3もしくは33万円) |
成功報酬 |
---|---|---|
300万円以下の場合 | 経済的利益の8.8% (ただし最低額44万円) |
経済的利益の17.6% |
300万円を超え3,000万円以下の場合 | 経済的利益の5.5%+9万9,000円 | 経済的利益の11%+19万8,000円 |
3,000万円を超え3億円以下の場合 | 経済的利益の3.3%+75万円9,000円 | 経済的利益の6.6%+151万8,000円 |
3億円を超える場合 | 経済的利益の2.2%+405万9,000円 | 経済的利益の4.4%+811万8,000円 |
※経済的利益は次のうち金額の小さいほうが適用されます。
- 請求する差額もしくは認められた差額の7年分
- 請求する差額もしくは認められた差額の想定される支払い期間相当分
参照:弁護士法人みずほ中央法律事務所「不動産に関する案件の弁護士費用 賃料増額・減額請求に関するご依頼」
上記の報酬に、裁判所への手数料など実費がかかります。
場合によっては費用総額が数百万円になる場合もあるため、それだけのコストかけても値上げをおこなうべきか、長期的な利益も考えて検討しましょう。
家賃の値上げができないときの対処法
「家賃を値上げする正当な理由がない」「調停や裁判でコストをかけたくない」など、家賃の値上げがむずかしい人もいるでしょう。
少しでも収益があるなら現状維持も選択肢の1つですが、赤字になっているなら、損失を抑えるためにも早期に売却することをおすすめします。
早めに売却すれば、その分の利益を別の投資に回すことも可能です。家賃の値上げにこだわらず、柔軟に対処して利益を最大化していきましょう。
賃貸経営が赤字なら売却して損切りしたほうが良い
不動産は保有しているだけで維持費や税金がかかるため、低収益の賃貸物件は持っているだけで損失となります。早めに売却して、損切をしたほうがよいでしょう。
わずかな赤字でも長期間続くと大きくなるため、油断は禁物です。仮に年間収益が-10万円程度でも、その状態が10年続けば100万円の損失となります。
さらに、建物は老朽化によって年々価値を下げていきます。10年で経てば1,000万円以上の値下がりもあるため、下落以上の収益が見込めないなら早めに処分することが大切です。
例えば、空き室の多いアパートを一棟持っているなら、売却して都市部のワンルームマンションに買い替えたほうが安定的な収益を見込めるでしょう。
売却は損切りだけでなく、効率的な資産運用としても効果的な方法といえるのです。
低収益物件でも「訳あり物件専門の買取業者」なら高値でスピード売却ができる
低収益物件を売却するうえで問題となるのが、需要の少なさによる売りにくさです。実際に売り出してみたものの、1年以上買い手がつかないというケースは珍しくありません。
しかし、一般的な不動産業者である「仲介業者」ではなく、自社で物件を直接買い取る「買取業者」に依頼することで、この問題をクリアできます。
仲介業者 | ・広告などで買主を探して仲介手数料を取る。 ・市場相場で売れるが、買い手が見つからなければ売却できない。 |
---|---|
買取業者 | ・自社で直接買取をおこなう。 ・市場相場より安くなるのが一般的だが、早ければ数日で売却できる。 |
家賃が低く利回りの悪い物件は仲介業者に依頼しても売れないことが多いため、確実に売却したいなら買取業者がおすすめです。
とくに、訳あり物件専門の買取業者であれば、低収益物件でも再生・活用する知識があるので、高額で買い取ってもらえる可能性があります。
ほとんどの買取業者は無料査定をおこなっているので、まずはいくらで買い取ってもらえるか調べてもらい、売却に向けたアドバイスを聞いてみると良いでしょう。
経営状態が黒字なら現状維持もあり
家賃の値上げができなくても黒字になっているなら、そのまま現状維持するのも良いでしょう。賃貸経営は副業として優秀なので、収益があるうちは持ち続けたほうがお得です。
ただし、先にも解説した「老朽化による価値の下落」は避けられませんし、空き室になって収入がなくなる恐れもあります。
賃貸経営を続けるなら長期的な計画を立てて、最終的な出口戦略まで想定しておきましょう。
コストカットや空き室対策で収益を向上できないか検討しよう
家賃の値上げがむずかしくても、コストカットで収益を向上させる方法もあります。
例えば、
- 金利の安いローンに借り換える
- 管理業務はできるだけ自分でおこなう
- 設備の点検業者を見直す
- 火災保険などを見直す
というように、可能な範囲でコストを抑えて、収益を向上させましょう。
また、安定した収益を得るためには、空き室を減らす努力も必要です。
具体的には、
- 募集条件を緩和する
- フリーレントを導入する
- 募集資料を見直す
- リフォームやリノベーションをおこなう
といった方法があります。
ただ物件を保有するだけでなく、積極的に動いて収益を上げていきましょう。
まとめ
家賃の値上げに法的な上限はありませんが、不動産鑑定における基準はあります。不動産鑑定の基準はあくまで目安ですが、裁判では重要な判断材料の1つです。
値上げで適切な家賃を設定するためには、不動産鑑定士に鑑定評価を依頼しましょう。
ただし、鑑定評価では賃料相場だけでなく個別の事情も影響するため、自分の思う通りに値上げができない場合もあります。
値上げがむずかしい場合は、売却など他の方法も検討しましょう。無理に値上げを進めるより、売却して別の物件に買い替えたほうが、収益をスムーズに向上できる場合もあります。
賃料の値上げについてよくある質問
はい、可能です。ただし、近隣の家賃相場と比べて著しく賃料が低いなど、値上げするのが妥当となる「正当な理由」が必要です。
法的には「物件の固定資産税が増えた」「経済事情の変動で物件価値が上がった」「近隣の家賃相場と比べて安すぎる」の3点があります。実際は、客観的に「値上げが妥当である」と判断できることが重要です。
いいえ、必ず値上げできるとは限りません。賃料の値上げには入居者の同意が必要なため、拒否された場合は交渉が必要になります。
不動産鑑定士に依頼し、適正な賃料を評価してもらうのが一般的です。鑑定評価では近隣の相場だけでなく、賃貸借契約の経緯など個別の事情も考慮されます。
訳あり物件を専門に取り扱う買取業者なら、低収益物件でも短期間での高額買取が可能です。さらに弁護士と連携している業者なら、賃料値上げや入居者との調停・訴訟など、法律面のアドバイスもしてもらえるのでおすすめです。→【低収益物件でも高値で売却!】訳あり物件の買取相談窓口はこちら
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