アパート経営を長期間行っていると必ず訪れるのが、建物の老朽化による建て替えです。建て替えをするには、入居者に立ち退きをしてもらうことが必要となります。
立退き交渉は家主の代理人である弁護士が、入居者と個別に交渉を重ねていき合意する形になります。しかし、なかには立ち退きを拒否されてしまうケースがあります。
立ち退きを拒否されてしまうと、話しあいを継続的に行っていくことや、話し合いでは解決の糸口がみつからないときには裁判になることもあります。こうなると時間だけが過ぎていき、立ち退き完了後の建て替え計画にも大きく影響します。
さらに、家主としては賃料収入を満足に得る機会が失われ今後の賃貸経営にも大きく影響するので、家主としては是が非でも避けたいところです。よって、立ち退きを拒否されてしまったあとの対処法が、立ち退きを一刻も早く完了させるポイントになります。
では、立ち退きを拒否された場合の対処にはどのような方法があるのでしょうか?また、立ち退き拒否から裁判に発展しないための交渉の進め方について解説していきます。
目次
入居者が立ち退きを拒否できるのはなぜか?
入居者が立ち退きを拒否できるのは、日本では借地借家法により入居者を保護する形になっているからです。賃貸借契約を更新する際に、入居者側に特段の契約違反等がなく更新の意思を示せば、原則住み続けることができるからになります。
つまり、家主から何も理由なく更新を拒むことはできず、退去させるには正当事由が必要となります。このように、入居者有利の法律となっているため、老朽化による立ち退きであっても拒否できてしまいます。
よって、このような入居者と交渉するときには、立ち退き料という名目での金銭的な解決が一般的です。
入居者が立ち退きを拒否する主な理由3つ
では、入居者はなぜ立ち退きを拒否するのでしょうか?まずは、入居者の側になって考えてみます。
古いアパートの入居者には、高齢者が居住しているケースが良くあります。高齢者が古いアパートに居住する理由は、年金暮らしであることから家賃が安いアパート暮らしで助かっていることです。他には、体力が落ちていることや長く住んでいるところから動くのが面倒という考えが根本的にはあることが多いようです。
このような観点を踏まえて、拒否する理由を考察していきます。
- ①今の家を気に入っている
- ②引っ越ししたくない
- ③突然の立ち退き勧告にどのように対応すればよいのかがわからない
①今の家を気に入っている
まずは、今の家を気に入っていることがあります。さらに、家賃が安いことで経済的な負担が少なく、生活がしやすいという利点もあります。賃貸住宅とは言え、長く住んでいる家であれば家主とも顔なじみになり、近所の人とも顔なじみになれることから総じて住み心地が良くなります。
近隣に親しい人がおり住み心地がよければ、今の家から動きたいとは思いません。また、長く住んでいることから、総じて住みやすく気に入っているという理由もあります。
②引っ越ししたくない
次に、引っ越ししたくないという理由です。引っ越しはただでさえ体力を使う作業となります。また、転居することで各種住所の変更やライフラインの切替えなど、転居に伴う手続きはけっこうあります。
よって、引っ越し自体が総じて面倒という考えが根本にはあるようです。以下に、入居者が引っ越ししたくない代表的な理由を挙げていきます。
入居者が引っ越ししたくない理由
古いアパートに住む高齢の入居者が引っ越しを拒む理由について、紹介していきます。
- A.いまさら動きたくない、面倒
- B.退去期限までに次の物件がみつかるのか不安
- C.家賃が上がってしまうのではないか
- D.今の生活リズムを崩したくない
A.いまさら動きたくない、面倒
まずは、先述にて何度か紹介しておりますが、「いまさら動きたくない」という気持ちが強く、総じて面倒・億劫ということがあります。
引っ越し費用は家主の負担となるにしても、引っ越しをするのはそこの部屋に住む入居者が行います。また、引っ越し屋さんが荷物の搬出などは行うものの、引っ越しや退去に向けての準備をするのはそこに住む当人です。
よって、引っ越しをすることで何かしら体力的な負担は強いられてしまいます。また、高齢になると足や手が不自由となり思うように動けないことや、体力的にも落ちていることが多くあります。
つまり、このような観点から考えると引っ越しは面倒且つ億劫なものでしかなくなります。
B.退去期限までに次の物件がみつかるか不安
次に、「退去期限までに次の物件がみつかるか」の不安があります。
日本国内の民間賃貸住宅では、今でも高齢者NGとしている物件が多くあります。これは、高齢者に住居を貸すことで将来的に孤独死が起きるリスクが高いからになります。
賃貸住宅の一室で万が一孤独死が起きてしまった場合には、孤独死が起きた部屋が事故物件となるリスクだけでなく、他の入居者の退去が増えることや新たな入居者が集まりにくくなることがあります。つまり、賃貸住宅のどこかの部屋で事故が起きてしまうと、その影響が全体に波及することがあり、賃貸経営の根幹を揺るがす事態になりかねないのです。
入居率や賃料収入が落ちてしまうと賃貸経営の収支に狂いが生じ、最悪売却などを検討しなければなりません。さらに、アパートローンを組んでいる状態であれば、家賃収入の下落などは致命傷となり、売却してもローンが残ってしまう事態も考えられます。
よって、家主は事故物件となるリスクを避けるために、高齢者に貸すことをNGにしていることが多くなります。このようなことから、高齢者が民間の賃貸を転居先にて確保することは、ハードルが高く見つかる可能性が低くなります。さらに、比較的高齢者が入居しやすい市営や県営住宅、UR賃貸住宅なども空きがある保証はありません。
したがって、高齢者は退去期限までに次の転居先がみつかるかの漠然とした不安があります。
C.家賃が上がってしまうのではないか
続いて、「家賃が上がってしまい生活に行き詰まるリスクがある」と考えるからです。
物件が違えば、家賃が上がってしまうことも当然に考えられます。転居先が限られてしまうことで、自由に物件選びができず、入居することを優先すると家賃を妥協するケースも出てくるでしょう。
D.今の生活リズムを崩したくない
最後に、「今の生活リズムを崩したくない」という思いがあります。
近所の人との付き合いもさることながら、いつも行く朝の散歩コースや公園、近所の人との趣味のサークル活動や社会奉仕活動、日常的に使い慣れたスーパーや図書館など、生活のリズムの中で構築された多くのことをリセットしたくないということです。
つまり、新たな転居先にて一から作り上げていくことに億劫さもあります。
③突然の立ち退き勧告にどのように対応すればよいのかがわからない
入居者が退去を拒否する3つ目の理由は、突然の立ち退き勧告に「どのように対応すればよいのかわからない」というのがあります。
賃貸に居住していて、自らに落ち度がないにも関わらず退去勧告されることは、あまりないでしょう。つまり、これまで経験したことがないことに戸惑いがあるようです。
このような場合は実際、立ち退きが必要な理由や建て替えが必要な理由、それに伴う立ち退き料などの補償などを丁寧に説明していけば、立ち退き交渉は成功するケースが殆どとなります。
立ち退き交渉が拗れると裁判になることも
立ち退き交渉は、入居者側と慎重かつ丁寧な交渉を行う必要があります。しかし、一瞬でも交渉を間違うと入居者の機嫌を損ね、話し合いにすらならない事態は、これまでの立ち退き交渉では少なくなりません。
また、裁判になってしまえば立ち退き交渉の長期化が懸念されます。立ち退きの原因が建物の老朽化であれば、建物の劣化はどんどん進み、やがて入居者への安全性も担保できない状態になってしまいます。よって、裁判は今後の建て替え計画にも大きく影響することから、家主的には絶対に避けたいところです。
裁判を行うリスク
ここでは、立ち退き交渉が裁判となることで負うリスクについて紹介します。下記リスクがあることから、裁判は絶対に避けるべきでしょう。
- ①判決までに時間が掛かることがある
- ②裁判費用が余計に掛かる
①判決までに時間が掛かることがある
まずは、裁判になると判決までに時間が掛かってしまいます。これまでの立ち退き交渉自体で半年から年単位の時間を費やしてきたことに加えて、さらに裁判を行うことで時間が掛かることで、立ち退きの解決時期が遅れてしまうことや建て替え計画自体が狂ってしまいます。
また、その間の賃料収入を見込めず維持費のみ掛かることから、家主としては立ち退きや建て替え期間はなるべく短くしたいというのが本望となります。
②裁判費用が余計に掛かる
次に、裁判費用が余計に掛かってしまうことです。立ち退きには、立ち退き料や弁護士費用などに多額の出費があるにも関わらず、さらに裁判費用の追加は家主にとっては懐が痛みます。
また、裁判を行えば両者に遺恨が残ることは確実であり、後味の悪さが残るでしょう。
家主が裁判に勝訴するとどうなる
裁判で家主の主張が認められた場合、入居者には立ち退きに応じるように命令されます。つまり、入居者は決められた時期までに建物を家主に引き渡すことになります。
家主が裁判に敗訴するとどうなる
裁判で家主の主張が認められない場合、入居者はそのまま住み続けることができ、立ち退きや建て替え計画自体が凍結する可能性が高くなります。入居者の退去を待つか、立ち退き料を見直すなどの再交渉が必要です。
判決前に和解に持ち込むのが得策
立ち退き裁判の多くは、判決前に和解協議を行うのが一般的です。判決を受けどちらかが痛みを受ける前に、和解に持ち込むのが得策とされています。
立ち退きを拒否された場合の対処法3つ
では、立ち退きを拒否されてしまった場合には、どのような初期対応が必要になるのでしょうか?ここでは立ち退きを拒否された場合の対処法について解説します。
- ①解決を急がず入居者に寄り添って話し合いを行う
- ②立ち退き料を見直す
- ③立ち退き料以外の条件を提示する
①解決を急がず入居者に寄り添って話し合いを行う
一つ目は、解決を急がず入居者に寄り添って話し合いを行うことです。
まずは立ち退きを完了させることを優先せずに入居者とのコミュニケーションを深めることや、入居者が立ち退き勧告についてどのように思っているのかを丁寧に聞き出すことが必要となります。なぜ立ち退きを拒否したのかなどその理由や、立ち退きについての率直な意見や思いなどを話しの中で聞き出してみましょう。
その中から、解決の糸口を探していきます。まずは、入居者ときちんと膝をついて話しができる関係性を作り上げることが先決です。
②立ち退き料を見直す
二つ目は、解決の糸口が見つかりそうであれば、立ち退きを解決する最終手段である立ち退き料について見直しを行います。
例えば、これまで家賃の6カ月相当分の金額であったところを、立ち退きに合意し2カ月以内に退去してもらえれば立ち退き料を家賃12カ月相当分にするなどです。立ち退き料の見直しを行い金額が増えることで、立ち退き交渉が一気に纏まるケースは少なくありません。
③立ち退き料以外の条件を提示する
最後に、立ち退き料に付帯するものとして他の条件を提示することです。
例えば、次の転居先の情報提供や斡旋、建て替え完了後の物件に優先的に入居できるなどになります。入居者にとってメリットになるような条件を提示することで立ち退き料プラスαの好条件となることから、立ち退きを要求された入居者に安心感などを与えられます。
立ち退き交渉をスムーズに進めるためのコツや注意点4つ
立退き交渉を進めるなら、トラブルなくスムーズに進めていきたいところです。ここでは、立ち退き交渉をスムーズに進めるためのコツや注意点などを紹介していきます。
- ①立ち退き交渉に強い弁護士を選任する
- ②立ち退き交渉は計画的に行う
- ③立ち退き理由を明確に示す
- ④立ち退きは入居者にとっては迷惑な話であると心得る
①立ち退き交渉に強い弁護士を選任する
まずは、立ち退き交渉に強い弁護士を選任することです。
立ち退き交渉では、さまざまな入居者と対峙する必要があり、交渉毎に多くの展開が予想されます。立ち退き交渉のノウハウや経験が豊富な弁護士であれば、今後の展開を予測し家主にとって少しでも良い条件で交渉を行えます。
総じて、立ち退き交渉に強い弁護士であれば、立ち退き交渉が予定通りに進む可能性が高くなります。よって、立ち退き交渉では弁護士の選任が大きなポイントです。
立ち退き交渉に強い弁護士に依頼する理由
ここでは、立ち退き交渉に強い弁護士に依頼する理由について、下記3点を取り上げ解説していきます。
- A.法律の専門家であるから
- B.第3者が介入することで冷静に交渉を展開できる
- C.妥当な立ち退き料を算出できる
A.法律の専門家であるから
一つ目は、法律を扱う専門家であるからです。
立ち退き交渉は、借地借家法という法律が絡んできます。法律の解釈に則って交渉を進めるには、弁護士の力が欠かせません。
B.第3者が介入することで冷静に交渉を展開できる
二つ目は、第3者が介入することで冷静に交渉を展開できることです。
当事者同士の話し合いになると、いつしか感情のもつれから交渉自体が拗れる可能性があります。交渉ができなくなると立退き自体も進まずに建て替え工事にも大きな支障となります。よって、常に冷静な対応と論理的に話すことができる弁護士が必要です。
C.妥当な立ち退き料を算出できる
最後に、妥当な立ち退き料を算出できます。
立ち退き料には相場がなく、そのものの金額を計算することは難しい作業です。特に、実費で掛かったこと以外の費用の算出には、一定の論理的な見解ができる弁護士の力が必要となります。
立ち退きに掛かる弁護士費用
立ち退きに掛かる弁護士費用は、どの弁護士事務所に依頼するかで金額は異なります。
なお、一般的に初期の商談料は30分で5000円~、着手金は20万円~、立ち退き完了後の成功報酬の金額は契約形態や弁護士事務所により大きく違ってきます。
②立ち退き交渉は計画的に行う
続いて、立ち退き交渉は計画的に行うことです。
立ち退きは、入居者にとっては青天の霹靂に近いことになります。つまり、住まいを追われることについて漠然とした不安を抱く人が殆どとなります。よって、立ち退き交渉は十分な時間を使い、少しずつ進めていくことがポイントです。
③立ち退き理由を明確に示す
次に、立ち退きの理由を明確に示すことです。
入居者を立ち退きさせるには、明確な理由を示し理解を得ることから始まります。立ち退きがなぜ必要なのか、具体的な立退きの時期などを説明していきます。入居者に対し、一定の理解を取り付けることでその後の交渉がスムーズに進みます。
④立ち退きは入居者にとっては迷惑な話であると心得る
最後に、立ち退きは入居者にとっては迷惑な話であると心得ることです。
立ち退きは原則、家主の都合で行うことになり、入居者にとっては迷惑な話しとなります。費用の負担が家主からあるとはいえ、退去するのは面倒です。よって、立ち退き交渉は入所者側に寄り添ったスタンスで進めていくのがセオリーになります。
立ち退きを拒否されたアパート、立ち退き交渉や建て替えが面倒であれば当社が買い取ります
立ち退きを拒否されたアパート、また立ち退き交渉や建て替えが面倒であれば、当社で買取りができます。
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まとめ
立ち退きを拒否された場合には、冷静に対処することが重要です。
このようなときには、立ち退きを完了させることを急がずに、まずは入居者の意見や主張を聞くなど相手側に寄り添った姿勢を示すことが重要となります。お互いの主張や意見を再度すり合わせ、立ち退き料の見直しや立ち退き料以外の条件を示すことで、合意できるポイントを探求していきます。これにより、立ち退き交渉をスムーズに進めることや、裁判を回避することに繋がります。
なお、立ち退き交渉で立ち退きを拒否されることは、よくあると考えましょう。このようなときは、弁護士とよく話し合い冷静かつ慎重に交渉を進めていくことが重要となります。
「立ち退き 拒否された」に関してよくある質問
借地借家法では、入居者が退去の意思を示さない限り賃貸借契約を更新できるとされており、家主側から正当事由なく退去勧告することはできません。つまり、入居者保護の考え方が強く、原則契約違反なく平穏に日常を過ごす入居者を家主側から退去させるのは難しくなります。また、正当事由もただの老朽化では認められないケースもあり、入居者が立ち退きを拒否できる一因にもなっています。
以下に挙げた理由が考えられます。
・今の家を気に入っている
・引っ越ししたくない
・突然の立ち退き勧告にどのように対応すればよいのかがわからない
老朽化アパートに居住する人は高齢者が多く、長く住んでいることや年齢的に体力も落ちていることから、総じて「今さら動きたくない」ということや、「次の転居先が見つかるのか」などの漠然とした不安があるからになります。
以下に挙げたリスクが考えられます。
・判決までに時間が掛かることがある
・裁判費用が余計に掛かる
つまり、これまでの立ち退き交渉に時間が掛かっていたことに加えて裁判となると余計に時間が掛かり、立ち退き完了の遅れや建て替え計画自体も後ろ倒しになり、賃貸経営に大きな影響を及ぼします。
以下に挙げた対処法が、おすすめになります。
・解決を急がず入居者に寄り添って話し合いを行う
・立ち退き料を見直す
・立ち退き料以外の条件を提示する
以下に挙げたものがコツや注意点になります。
なお、立ち退き交渉自体は弁護士が行うので、立ち退きに強い弁護士の選任が必須です。また、家主は立ち退き自体を計画的に行うことや、入居者側に寄り添う姿勢が重要となります。
・立ち退き交渉に強い弁護士を選任する
・立ち退き交渉は計画的に行う
・立ち退き理由を明確に示す
・立ち退きは入居者にとっては迷惑な話であると心得る
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