店舗の立退は、老朽化した建物を建て替えるため、若しくは家主自らが店舗スペースを使うためや知人や友人などに店舗スペースを貸したい人がいるなど、一般的には家主の都合となります。
立退をするということは、そのお店は立退期間中には営業することができず、収益は0円となります。また、雇っていたアルバイトは一時解雇するなど経営的にはマイナスなことばかりです。
さらに、新しい物件への引っ越しは大変です。例えば飲食店の場合、厨房機器の移動や店舗内で使用中の椅子やテーブル、食器などの多くの備品の移動があり、その労力は相当なものとなります。なおかつ、移転先の立地によってはお店の収支にも影響があることから、今の立地で経営的に安定しているお店であれば、なおさら移転は避けたいと思うところです。
では、店舗の立退交渉をスムーズに進めるための立退料の相場とは、いったいどのくらいになるのでしょうか?また、根本的に立退料が必要なケースや立退交渉の進め方などについても知りたいところです。
この記事では、先述の他にも一般的な立退料の内訳や立退交渉を進める上でのポイントなど、店舗の立退全般について解説していきます。
目次
店舗の立退に立退料は必要
店舗の立退に、立退料は必要となります。
理由は、家主の正当事由を補完する役目が立退料であり、また経済的・経営的損失を被る店舗を説得するには、金銭負担での解決しか一般的に方法がないからになります。
原則、賃借人である店舗側は定期借家契約でない限り、更新する意思を示せば家主側は拒むことはできません。つまり、家主は店舗側から退去の意思がない限り、店舗スペースを貸し続けるというのが原則となります。よって、家主は店舗側の家賃滞納や店舗以外での使用、若しくは他の契約違反等がない限り、退去を迫ることはできません。
このように、賃借人は借地借家法の賃借人保護の考え方により強力に守られていることから、立退交渉は終始賃借人有利で進むことが多くなります。仮に、賃借人は家主から立退要求があったとしても拒むことができ、居座ること自体は全く問題になりません。
そこで、登場するのが立退料による金銭的な解決となります。家主は、賃借人が被る経済的・経営的損失を立退料という名目で実質的に負担することで、立退自体を納得させ交渉をスムーズに進める必要があります。
立退となる主な理由4つ
ここでは、店舗が立退になる主な理由について4つ取り上げ、各々を解説していきます。
- ①建物の老朽化
- ②再開発
- ③道路の拡幅など都市計画によるもの
- ④土地の売却、家主の廃業
①建物の老朽化
まずは、建物の老朽化です。
店舗として建つ建物も築年数を経過すれば、外壁や内装、各所設備などに老朽化が目立ち始めます。建物の老朽化は、賃借人の安全性の確保などの問題から、一刻も早く取り壊し新しく建て直す必要があります。
②再開発
次に、再開発です。
主要駅の周辺や街の一区画が再開発で商業一帯のテナントビルや大型マンションなどに開発されるケースが、最近多く見受けられます。再開発エリアに入り家主が立退に合意すると、賃借人は退去しなければなりません。
厳密には家主の都合ではなく、事業者の都合であるため家主も事業者と立退交渉を行っています。その際には、店舗の移転費用や迷惑料なども含めて交渉を行うのが一般的です。
③道路の拡幅など都市計画によるもの
続いて、道路の拡張など都市計画によるものです。
主要な都道や県道沿いでは、しばしば道路拡張が行われることがあります。これらは、事前に決められた都市計画に則り、道路沿いの土地の用地買収を進めていくことになります。その道路拡張の計画に建物が入っている場合に、建物自体の立退と取り壊しとなります。
こちらも厳密には家主の都合ではなく、都市計画を実行する自治体の都合であるため、先述と同じく家主は立退交渉を自治体と行っています。建物の所有者である家主は、店舗の移転費用や迷惑料などを含めたものを立退料として交渉を進めていきます。
家主が立退に合意したら、今度は家主が賃借人と立退交渉を行います。
④土地の売却、家主の廃業
最後に土地の売却、家主の廃業です。
テナントの経営を辞めるときには、オーナーチェンジで売却するか一旦すべての入居者を立退させ不動産として売却するかの2通りがあります。オーナーチェンジは、買主が物件の状態を確認できないまま売却となるためリスクが高いことから、売却価格は安価になることがあります。
一方で、立退後の売却では不動産として相場並みに売れる可能性が高いため、オーナーチェンジより高く売れます。しかし、立退料の支払いや弁護士への報酬の支払いなど余計に掛かる出費があるため、売却価格や入居世帯の数、立退料などの出費などを鑑み、総合的に得か否かを判断が必要です。
立退料が支払われるケース
立退料が支払われるケースは、賃借人が家賃滞納や近隣とのトラブルを起こしていないなど、契約違反をしていないときです。さらに、家主からの立退要求について正当事由を満たしていないときに、そこを補完するために立退料が支払われます。
なお、立退料の支払いは義務ではないため、家主は立退料を負担せずとも立退交渉を進めていくことは可能です。しかし、立退は平穏に店舗を経営していた賃借人にとっては迷惑な話しであり、引っ越しする必要がないにも関わらず退去することは面倒且つ億劫なことになります。
よって、これら賃借人側の実質的な損害額や迷惑料を立退料として負担することは、交渉を進める上では当然の策であることは明白です。
立退料が支払われないケース
立退料が支払われないケースは、先述でも触れていますが入居者に家賃滞納など重大な契約違反がある場合です。このようなとき家主は、賃借人である店舗側に対し強制退去を求めることができ、当然に立退料などはありません。
店舗の立退料に相場はない
店舗の立退料に相場はありません。
なぜなら、立退により被る損害額は店舗により異なるからです。また、迷惑料の金額も人により価値観の違いがあるため、原則は双方の合意した金額となります。下記では、立退料の決め方やその内訳について解説します。
立退料はどのようにして決めていくのか
では、立退料はどのようにして決めていくのでしょうか?
立退料に含まれるのは、主に次の店舗への移転費用、新店舗の改装費用、立退期間の売り上げの損害賠償、迷惑料になります。立退料に相場がないのは、これら店舗の移転費用や改装費用、立退期間に見込まれる売り上げ金額などが、店舗の規模感・店舗の集客数・客単価などにより大きく違ってくるからになります。
つまり、一店一店お店の規模感や売り上げは異なるため、必然的に補償する金額は異なってしまいます。
立退料の内訳とは
下記は、立退料に含まれる主な項目となります。各々、解説していきます。
- ①次の貸店舗物件への移転費用
- ②新店舗の改装費用
- ③立退期間の損害補償
- ④迷惑料
①次の貸店舗物件への移転費用
一つ目は、新店舗への移転費用です。
まずは、新たな移転先を探し賃貸借契約を結びます。このときに仲介手数料の支払いや敷金・礼金が掛かります。また、移転時には主に引っ越しなどの費用があり、これら費用が原則立退料に含まれます。
②新店舗の改装費用
二つ目は、新店舗の改装費用です。
例えば飲食店の場合、店舗は厨房機器や店舗の備品を移しただけでは営業はできません。新たに厨房やカウンター、飲食スペースを作り、空調機器や換気扇の設置、外壁にはデジタルサイン看板などあらゆる工事が必要です。
これら新店舗の改装費用も原則負担することになります。
③立退期間の損害補償
三つ目は、立退期間の損害補償です。
具体的には、立退から新店舗開業までの期間の減収分の補償と、立退期間中にも必要となる移転先の家賃負担などの固定費や従業員の休業手当などになります。
売り上げが実質0円で固定費や給与だけの負担があれば事業継続は当然に難しくなってしまいます。また、新店舗の移転先によっては得意先を失い売り上げが落ちることも予想されます。このような場合には、補償が必要になります。よって、これら費用相当分が立退料に含まれます。
④迷惑料
最後は、迷惑料です。
迷惑料は、上記3つの項目と異なり実費で掛かった費用以外のものとなります。迷惑料がどの程度に設定されるかは交渉次第になりますが、金額のベースとなるのは現在の家賃の何か月分を負担するかになります。
なお、立ち退き交渉は迷惑料の金額次第で立退料を抑えることができます。一方で、立退料を渋ることで交渉が長期化するリスクもあるので、原則は入居者が納得する可能性が高い金額を提示するのがセオリーです。
なお、立退料の総額としては、家賃の3年分以上を負担するケースが多くあるようです。家賃20万円であれば、700万円~1000万円位となるでしょう。
店舗の立退交渉の進め方
実際に店舗の立退をスムーズに進めるには、立退交渉の全般を把握しておく必要があります。ここでは、実際に店舗の立退交渉行う手順を紹介していきます。
- ①弁護士を選定する
- ②弁護士と顧問契約を結び、立退交渉を開始する
- ③家主が立退に関する書面をテナント側に送付する
- ④弁護士がテナント側とコンタクトを取り交渉日を設定する
- ⑤立退交渉を弁護士と入居者で行う
- ⑥立退に合意できたら、書面を交わす
- ⑦立退が完了したら、家主は立退料を入居者に支払う
①弁護士を選定する
まずは、弁護士の選定です。立退交渉では、立退に強い弁護士の選定が交渉をスムーズに進めるポイントになります。では、なぜ弁護士を選定する必要があるのでしょうか?
立退交渉を弁護士に依頼する理由
立退交渉を弁護士に依頼する理由は、立退交渉が借地借家法という法律を下に交渉を展開していくからになります。なお、立退交渉は家主や管理会社などでも行えます。しかし、家主などは法律の専門家でないことで論理的な交渉が難しいことや、家主当人が交渉に応じると感情的となり交渉相手との関係が拗れる可能性があります。
これにより、立退交渉の長期化や建て替え計画の大幅な変更を余儀なくされます。よって、立退交渉を弁護士に依頼することで、立退交渉を冷静且つ慎重に展開できるメリットがあります。
②弁護士と顧問契約を結び、立退交渉を開始する
弁護士を選任できたら顧問契約を結び、立退交渉が開始となります。立退交渉前には、立退交渉を開始する時期や完結する時期など立退のスケジュール感について、打ち合わせします。
③家主が立退に関する書面をテナント側に送付する
まず、立退交渉開始に先駆けて、立退に関する書面をテナント側に送付します。
④弁護士がテナント側とコンタクトを取り交渉日を設定する
立退に関する書面が届いた頃に、弁護士がテナント側とコンタクトを取り交渉日を設定します。交渉は何度も行い、合意を取り付けることが最大の目的となります。
⑤立退交渉を弁護士とテナント側で行う
立退交渉は、弁護士とテナント側で行います。
交渉では、まず立退に至る経緯や理由など、立退が必要な本当の理由を伝えます。家主側の説明に嘘や隠しごとがあると交渉に失敗する可能性があるからです。
次に、テナント側の事情をしっかりと聞くことです。交渉は、一方通行ではなく相手側の主張にも耳を傾けます。相手の話しを聞くことで、立退による移転によりどのような支障があるのかがわかります。
これにより、相手が立退について不安に思っていることなどを補填するような提案をすることで、交渉がスムーズに進む可能性が高くなります。また、お互いの譲歩できるポイントが定まってくると、立退交渉が合意に向けて大きく前進します。
よって、立退料以外の部分もサポートするような提案をすることで、テナント側も前向きな気持ちとなるでしょう。
- A.立退条件の交渉
- B.立退料の交渉
A.立退条件の交渉
立退条件の交渉とは、立退に向けてテナント側が前向きになっているときに行う交渉です。テナント側がいつまで営業したいか?移転先の立地などの希望、建て替え後に優先的に入居できるなど、立退に向けた諸々の条件を詰めていきます。
B.立退料の交渉
立退料の交渉は、立退条件の交渉と同時に行っていきます。立退料は、主に「実費で掛かった費用+迷惑料」です。これらの費用は、賃料をベースに合理的な金額を決めていきます。
⑥立退に合意できたら、書面を交わす
立退に合意できたら、必ず書面で合意文書を取り交わします。書面で残す理由は、後々に「合意した・合意していない」などのトラブルを防止するための証拠を作るためです。合意文書には、立退完了の時期、立退料、立退料以外の諸条件などが記載されます。
⑦立退が完了したら、家主は立退料をテナント側に支払う
立退が完了したら、家主は明け渡しの日に立退料の支払いを行います。なお、合意内容によっては立退料の一部を前もって受領する場合もあります。
立退交渉が決裂すると裁判になることもある
なお、立退交渉が決裂すると裁判になることもあります。裁判になると、立退自体の解決時期が遅れ、且つ建て替え計画の大幅な変更や見直し、裁判費用など余計な費用が掛かってきます。
特に、余計に時間が掛かってしまうことで、家主の賃貸経営に大きな影響があります。よって、裁判となる前に家主側が大幅に譲歩し、解決に尽力するケースが多くなります。
店舗の立退交渉を進める上でのポイント6つ
店舗の立退交渉をスムーズに進めるためには、いくつかのコツとなるポイントがあります。原則は、テナント側が不安に思っていることなどを一緒に解決できるようなスタンスが良いでしょう。
ここでは、立退交渉のポイントを6つ取り上げて解説します。
- ①テナント側の立場になって交渉を進めていく
- ②立退交渉に強い弁護士を選任する
- ③テナント側に契約違反がなければ入居時の敷金は返還が必要
- ④立退となる正当な理由をテナント側に伝える
- ⑤立退後の移転先情報を提供する
- ⑥立退の準備期間は長めに設定する
①テナント側の立場になって交渉を進めていく
一つ目は、テナント側の立場になって交渉を進めていくことです。
立退要求は、一般的に家主の都合で行うことになります。突然立退を要求されたテナント側は、今後の移転先についての対応や従業員への休業中の対応など、やるべきことがたくさんあります。
よって、まずはテナント側の立場となり交渉を進めていくことが大事です。テナント側の都合や主張など、意見や提案をまずは聞き入れることがポイントになります。
②立退交渉に強い弁護士を選任する
二つ目は、先述でも触れていますが立退交渉に強い弁護士を選任することです。
立退交渉は、一件ごとにさまざまな展開があります。案件により立退料の提案金額や、立退料以外の提案は異なります。よって、テナント側からの要求と家主の希望を鑑み、妥協点を探るのが一番の仕事です。
これら妥協点の見極めや、妥協点からの交渉の展開は弁護士自体に立退交渉の経験やノウハウが豊富にあることで、家主側の想定通りに誘導できる可能性が高くなります。また、弁護士の経験が豊富であれば、立退交渉を拗らせることなくスムーズに進めることが可能です。
よって、立退交渉には交渉経験が豊富であるなど、交渉に強い弁護士が良いということになります。
③テナント側に契約違反がなければ入居時の敷金は返還が必要
三つ目は、テナント側に契約違反がなければ入居時の敷金は返還が必要です。
敷金とは、家賃滞納や退去時の原状回復費用などの未払いに備えて家主が予め預かるお金のことを言います。今回の場合、テナント側に家賃滞納など契約違反がないのであれば、敷金の返還が必要となります。
このことは、最初の交渉時にはっきりと伝えておくのが良いでしょう。
④立退となる正当な理由をテナント側に伝える
四つ目は、立退となる正当な理由をテナント側にしっかりと伝え、立退について理解を得ることです。
立退要求の理由が施設や建物の老朽化であれば、建物自体を検査したときに発見した腐食個所や経年劣化箇所を画像で提示することがよいでしょう。
さらに、設備の更新費や改装をおこなったとしても、建物自体の老朽化が総じて激しく安全性を保障できない状態である、など立退と建て替えの必要性について嘘偽りなく伝えることが重要です。
⑤立退後の移転先情報を提供する
五つ目は、立退後の移転先情報を提供することです。
具体的には、近隣で同じような店舗面積や家賃の物件、近隣になければ同じような集客が見込める物件など、できる限り情報を集め提供するのが良いでしょう。周辺に同じような条件の物件が幾つかあれば、移転についての抵抗感は和らぎます。
⑥立退の準備期間は長めに設定する
最後に、立退の準備期間は長めに設定することです。
テナント側が立退に合意したとしても実際に引っ越しするには、相当な準備期間が必要となります。移転先の確保、引っ越し業者の手配、休業期間の従業員への補償、移転先の告知などになります。
よって、立退に掛かる準備期間は、テナントの都合を聞きつつ設定するようにします。
建て替えや立退交渉が面倒な店舗物件は、買取りがおすすめ
建物の老朽化が進み、今後建て替えや立退交渉が面倒だと思っているのであれば、当社での買取りがおすすめです。
当社では、老朽化が著しい店舗物件などを現況のまま買取りします。よって、面倒な立退交渉や建て替えを行う必要はありません。㈱クランピーリアルエステートでは、老朽化した店舗物件、所有に困っている店舗物件などの買取り相談を無料で行っています。詳しくは公式HPをご参照ください。
まとめ
店舗の立退には、原則立退料が必要です。なお、立退料に相場はありません。立退料の決め方は、移転に掛かる実費の費用や月間の売上げ相当金額など損害を被った金額、他に迷惑料となります。よって、1件ごとに立退料の金額は異なります。
また、立退交渉は弁護士に任せるのがベストです。立退交渉に強い弁護士を選任することや、入居者に寄り添う姿勢などが立退交渉をスムーズに進めるポイントと言っても良いでしょう。
「立退料 相場 店舗」に関してよくある質問
原則、店舗の立退に立退料は必要となります。店舗側が家賃滞納など契約違反をしている場合は除きます。
主に建物自体の老朽化や家主が使用するなど、家主の都合であることが多くあります。また、なかには周辺の再開発エリアや道路拡張エリアに入っていることで立退となることもあります。
相場はありません。理由は、立退料の大まかな内訳は、店舗が被った損害額と移転費用、それに加えて迷惑料が主な項目となるからです。店舗毎に集客数や売上げ金額などは異なることから損害額には違いがあります。また、迷惑料は各々価値観に違いがあるため、合意できる金額も異なってくるからです。
店舗の立退は、以下の手順で進めていきます。
・①弁護士を選定する
・②弁護士と顧問契約を結び、立退交渉を開始する
・③家主が立退に関する書面をテナント側に送付する
・④弁護士がテナント側とコンタクトを取り交渉日を設定する
・⑤立退交渉を弁護士と入居者で行う
・⑥立退に合意できたら、書面を交わす
・⑦立退が完了したら、家主は立退料を入居者に支払う
以下に挙げたことが、交渉を進める主なポイントになります。
・テナント側の立場になって交渉を進めていく
・立退交渉に強い弁護士を選任する
・テナント側に契約違反がなければ入居時の敷金は返還が必要
・立退となる正当な理由をテナント側に伝える
・立退後の移転先情報を提供する
・立退の準備期間は長めに設定する
コメントを残す