事故物件の定義とは?新ガイドラインでの告知義務や売却時の注意点

事故物件の定義とは?新ガイドラインでの告知義務や売却時の注意点

家を買う・借りるときに、対象の不動産が事故物件かをチェックしたという人は多いのではないでしょうか。しかし、どのような問題があれば「事故物件」に該当するのか、その範囲や定義についてはっきりと答えられる人はそう多くありません。

所有している不動産が事故物件の場合、売却・貸出するためには買主・借主にその事実を伝える義務を負うことになります。対して、不動産を購入・賃貸する人は、事故物件であるかを知っておく権利を有します。そのため、事故物件であることを売主・貸主が隠して取引した場合、買主・借主に損害賠償や慰謝料を請求されかねません。

具体的には、「自殺や他殺による死亡事案があった」「社会に大きな影響を与えた事故・事件が発生した」「特殊清掃が入った」という場合は、賃貸で原則3年間、売買で無期限の告知義務が発生します。反対に、誰かが亡くなっていても、自然死や不慮の事故による死であれば、事故物件としては扱われず、賃貸でも売却でも告知する義務はありません。

ただし、賃貸であっても告知義務がないケースであっても、入居希望者から質問されたり、入居の判断に影響するような重大な事件・事故だったりすれば、事件・事故が起きた事実を期間を問わず伝える必要があります。つまり、借りる側・買う側であれば、きちんと確認をすることで、知らずに事故物件を契約してしまうということは基本的には起きません。

本記事では、事故物件の定義・基準から、買主・借主に伝えるべき範囲や期間まで分かりやすく解説します。どのような事件・事故が発生したら、事故物件となり、どのように買主・借主に告知するのか、どう売却すれば良いのか確認しましょう。

自身が不動産を購入・賃貸する際に事故物件を見分ける方法やチェックすべき項目についても併せてお伝えします。

目次

事故物件の定義は「自然死や不慮の事故死以外の死」や「特殊清掃が必要になる死」が発生した物件

一般的に、事故物件とは「自然死・不慮の事故による死以外の死」と「特殊清掃が必要な死」が発生した不動産を指します。具体的には、下記の3点に当てはまる場合は、事故物件として扱われます。

  • 自殺や他殺による死亡事案があった物件
  • 社会に大きな影響を与えた事故・事件が発生した物件
  • 特殊清掃が入った物件

不動産業界や裁判、行政などでは、「心理的瑕疵物件」や「心理的瑕疵がある(発生した)物件」などと呼びます。心理的瑕疵(しんりてきかし)とは、人が心理的に抵抗感や嫌悪感、不安感を抱く可能性のある状態のことです。

ただし、心理的瑕疵物件には、近隣に火葬場や刑務所、暴力団事務所などの嫌悪施設があるケースも含まれるため、厳密にいうと事故物件と完全にイコールとは言い切れません。事故物件は、心理的瑕疵物件の一種で、人の死にまつわる事件・事故が起きた物件と考えるとわかりやすいでしょう。

なお、事故物件も心理的瑕疵も法律用語ではなく、その定義も法的に定められているわけではありません。

自殺や他殺、火災のような不良の事故死以外の死亡事案があった物件

事故物件の代表的な例が、自殺や他殺といった死亡事案が発生した物件です。いずれも、自然死・不慮の事故による死とはいえません。一般的に、自然死・不慮の死以外の死亡事案は、心理的嫌悪感や抵抗感が大きいことから、事故物件として扱われます。

自殺や他殺の場合、自宅で発見され、搬送先の病院で亡くなった、死亡が確認されるというケースも珍しくありません。この場合、軽微ではあるものの、自宅で自殺・他殺が発生したという事実には変わりないため、心理的瑕疵が認められた過去の判例があります。そのため、搬送先で亡くなった場合も事故物件として扱われると考えてよいでしょう。

なお、自殺・他殺のほか、火災による死亡があった際も、不慮の事故以外の死に該当するため事故物件となります。

参考:イエコン「首吊り自殺のあった家の価格や売却方法をくわしく解説!」

社会に大きな影響を与えた事故・事件が発生した物件

事故物件か否かの判断では、人が亡くなったこと自体よりも、買主や借主の判断に大きな影響を与えるかがポイントになります。よって、社会に大きな影響を与えた事件・事故であれば、心理的瑕疵が大きく、買主・借主が把握しておくべき事案だと判断され、自殺・他殺以外でも事故物件として扱われることがあります。

ニュースに取り上げられたりメディアにネットで拡散されたりして、全国的に事件・事故が知られた場合、社会的な影響の大きさから住み心地に影響を与えることが考えられるため事故物件として扱われます。例えば、著名人の死や世間から疑惑をかけられていた人物の死であれば、理由を問わず注目を集めることとなります。

また、集合住宅の場合、一般的に事故物件として扱われるのは、事件・事故が発生した部屋のみです。共有部で死亡事件・事故が発生した場合も原則としては事故物件とはなりません。しかし、社会的な影響が大きい事件・事故が発生した場合、その大きさから建物全体が事故物件として扱われるケースもあります。

特殊清掃が入った物件

自然死(老衰)や病死、日常生活における不慮の事故による死は、発生しても原則として事故物件としては扱われません。しかし、心理的瑕疵として扱われない事案であっても、特殊清掃が入った場合は、事故物件として扱われるようになります。

特殊清掃とは、原状回復のために行われる清掃で、市販されていない業務用の薬剤や機器を使用して、汚染物質の除去・清掃・除菌・殺菌・脱臭まで実施されます。

人の体は亡くなってから数時間で腐敗が始まるといわれており、季節にもよりますが、数日で体液や血液、汚物、害虫が発生し出すため、通常の清掃では誰かが住める状態にはできません。遺体の発見までの期間によっては、特殊清掃だけでなく、大規模リフォームが必要となるケースもあります。

特殊清掃が必要になるということは、室内が多くの人が抵抗感や嫌悪感を覚える状態になっているということを意味します。そのため、亡くなった経緯に事件性や社会的な影響がなくても特殊清掃が実施されれば事故物件として扱われます。

参考:イエコン「死体のシミが残る事故物件はどうすればいい?清掃費用や売却方法を解説します」

事故物件の判断基準は国土交通省のガイドライン

法的な規定がないことから、どのような事案のどこまでを心理的瑕疵として扱うのか、どうしても曖昧になってしまいます。そのため、事件・事故が発生した際に、事故物件に該当するのかしないのかの判断が明確にならず、トラブルに発展するケースもありました。

また、近年は高齢化に伴って自宅での自然死が増加傾向にあり、トラブルの増加が懸念されていたことから、2021年10月国土交通省は、「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定。事故物件の判断基準や、心理的瑕疵の告知義務の期間を明確なものにしました。

心理的瑕疵のうち、ガイドラインに定められた事案が発生した場合、売主・貸主は買主・借主に対して心理的瑕疵が発生した事実を伝える義務が課せられています。国交省のガイドラインで定められた内容について詳しく確認していきましょう。

事故物件の賃貸・売却時には告知義務が生じる

心理的瑕疵のうち、先述した「自殺や他殺による死亡事案があった場合」「社会に大きな影響を与えた事故・事件が発生した場合」「特殊清掃が入った場合」では、売主・貸主は取引時に買主・借主(入居希望者)に心理的瑕疵が発生した事実を伝える義務が生じます。

加えて、「買主・借主に過去の事件・事故の有無を問われた場合」「買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると判断できる場合」も告知しなければなりません。やはり、買主や借主の判断に大きな影響を与えるか事件・事故であるかが告知義務の有無を考える際の基準となります。

具体的には、下記について契約前に告知することが求められます。

  • 事案が発生(発覚)した時期・場所
  • 死因
  • 特殊清掃の実施の有無

参考:事故物件の告知義務は何年?時効はある?義務の範囲を詳しく解説

告知義務を負う期間は、賃貸は約3年・売却は無期限

ガイドラインでは、告知義務の期間についても明記されており、賃貸の場合はおおむね3年、売却は期間の定めはなく無期限で告知義務を負うことになっています。

賃貸の場合は、”おおむね”と付いているように、事案によっては3年を超えても告知義務があると判断されるケースもあります。まず、入居希望者から問い合わせがあった場合は、事案の発生・発覚の時期に限らず、事件・事故を伝えなければなりません。

また、買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると判断できる場合も、期間に限らず賃貸でも取引相手に知らせる義務が発生します。買主・借主が把握しておくべき特段の事情があると判断される場合とは、事件の重大性や周知性が高い、または社会的な影響が大きく、告知の有無で買主・借主の判断が変わる可能性があるケースです。

事故物件について告知義務を怠り、契約不適合責任を問われた判例もある

事故物件であることを隠したまま買主・借主に気づかれず、取引できてしまうこともないわけではありません。しかし、告知義務を怠り、買主・借主に適切に心理的瑕疵の説明を行わなかった場合、売主・貸主から契約不適合責任を問われる可能性があります。

■契約不適合責任とは
契約不適合責任とは、取引によって引き渡された目的物が、契約内容と異なる場合に、買主・借主が売主・貸主に対して負う責任を指す。具体的に、買主・借主は、契約不適合責任により、売主・貸主に対して下記のような請求が認められている。
・ 履行の追完請求権(修補の実施や代替物の納品など)
・代金の減額請求
・契約解除請求
・損害賠償請求
2020年の民法改正により、従来の「瑕疵担保責任」に代わって導入された。

また、事件・事故が発生していたにも関わらず、虚偽の情報を伝えた場合は「不法行為」とみなされる恐れがあります。契約不適合責任は契約上の違反に対して責任を負いますが、不法行為があった場合は、契約関係を前提とせず、相手の権利を違法に侵害していれば責任を追及されます。

なお、不動産業者が売却する際には、心理的瑕疵の告知義務や、重要な情報を適切に伝える説明責任・義務もあります。不動産業者が義務を怠った場合には、契約解除請求や損害賠償請求のほか、刑事処分や行政処分を受ける可能性もあります。

実際に、告知義務を怠ったことによって裁判となり、売主・貸主が負けた判決は多くあります。過去にどのようなケースで売主・貸主の責任が問われたのかみていきましょう。

殺人事件の判例

【事例1】殺人事件が告知されず、債務不履行(違約)により契約は解除、代金の返還と違約金の請求が認められた

■契約状況
売主:個人
買主:不動産業者
売買物件:マンションの一室
売買金額:2,800万円

■事案の内容
8年9ヶ月前にマンションで発生した他殺が疑われる2名の死亡事件について、売主は買主に事件の告知をせず売却した。売主は、事件当時の所有者ではなかったが、該当マンションを取得する際に元所有者から事件の告知を受けていた。買主は、売主に対して告知義務違反を理由に売買契約の違約解除を請求。

■裁判所の判断
事件の存在が売買の価格に大きく影響することを認知していたにもかかわらず、売主が事件を買主に伝えなかったことは告知義務違反に当たる。よって、買主への売買代金の返還に加え、売買代金の10%(=280万円)の違約金の支払い請求を認めた。

参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構「続・心理的瑕疵に関する裁判例について」平成18年12月19日 大阪高裁 RETIO 69-52 判例時報1971-130

【事例2】殺人事件の事実を隠したことで、売主の不法行為が認められた

■契約状況
売主:個人
買主:不動産業者
売買物件:古家
売買金額:5,575万円

■事案の内容
7年前に建物内で殺人事件が発生していたが、売買契約時に買主が事件・事故の有無を尋ねた際に、売主は事件の事実を伝えなかった。売買成立後に買主は殺人事件があったことを知り、売主に損害賠償を請求。

■裁判所の判断
殺人事件は社会通念上不動産の売買価格に大きな影響を与え、契約内容や成約の可否を左右するものであるにもかかわらず、売主が告知しなかったことが不法行為に当たると認めた。売主には、市場価格との差額1,575万円と弁護士費用160万円の支払い請求を認めた。

参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構「続・心理的瑕疵に関する裁判例について」平成28年7月29日 神戸地裁 RETIO105-90 判例時報2319-104

自殺の判例

【事例1】自殺の告知が行われず、買主の損害賠償請求が認められた

■契約状況
売主:個人
買主:個人
売買物件:中古住宅
売買金額:7,100万円

■事案の内容
戸建て住宅で売買の5ヶ月前に首つり自殺が発生していたが、売主は買主に伝えないまま売却。売買後に買主が事故の事実を知り、契約解除を求めたが、売主が拒否したため、買主は建物を取り壊して第三者に売却。売主に対して1,611万円の損害賠償を請求した。

■裁判所の判断
事故が発生した時期が最近であることも考慮し、転売による損失額と建物取り壊し費用の合計893万円について買主に対する損害賠償を認めた。

参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構「続・心理的瑕疵に関する裁判例について」 平成9年8月19日 浦和地裁川越支部 RETIO40-79 判例タイムズ960-189

【事例2】自殺の告知が行われず、不動産仲介業者の瑕疵担保請求(現在の契約不適合請求)が一部が認められた

■契約状況
売主:不動産業者
買主:不動産業者
売買物件:住宅・事務所ビル
売買金額:2億2,000万円

■事案の内容
売買の1年11ヶ月前に、元所有者の家族が建物内で自殺を図り、病院に運ばれたが2週間後に亡くなった。売主・不動産仲介業者は事故の事実を知らなかったが、買主は売買後に事故があったことを近隣住民から聞き、売買契約の解除、または4,400万円の損害賠償を請求。

■裁判所の判断
建物内の自殺ではあったが、実際に亡くなったのは建物内でなかったこと、売買時点で事故から2年近く経過していたことから、買主の契約解除の請求は棄却された。ただし、事故があったことは事実であり、極めて軽微ではあるが隠れた瑕疵があったことが認められ、売買金額の1%の損害賠償を認めた。

参考:一般財団法人不動産適正取引推進機構「続・心理的瑕疵に関する裁判例について」平成21年6月26日 東京地裁 RETIO80-140 ウエストロー・ジャパン

新ガイドライン上、売却時に告知義務が生じないとされる3つのケース

ここまで、国交省のガイドラインで記載されている、売買・賃貸で売主・貸主が買主・借主に告知が発生するケースについて事例を含めて解説しました。一方で、ガイドラインでは、告知義務が発生しないケースについても明記されています。

  • 老衰・病死のような自然死
  • 不慮の事故による死
  • 隣接した部屋や使用頻度が低い共用部で発生した事案

上記のように、事件性や社会的な影響がなかったり、事件・事故と物件が直接的に関係していなかったりする場合には、売主・貸主に告知義務は生じません。もちろん、いずれにおいても「事故物件の賃貸・売却時には告知義務が生じる」でお伝えした通り、買主・借主に事件・事故の有無を問われたり、買主・借主の把握しておくべき特段の事情があると判断される際には、告知義務が発生します。

老衰・病死のような自然死

自然死(老衰)や病死の場合は売主・貸主に告知義務が発生しません

人間は生きている限り、自然死や病死は当然発生するものです。人の死が関連する事案であっても、事件性がなく、生き物として自然な範囲の死であれば、心理的な嫌悪感や抵抗感が低いものとして扱われます。

ただし、人によって死に対する捉え方はさまざまなので、質問されれば自然死・病死があった事実は伝えなければなりません。また、自然死・病死であっても、先述の通り特殊清掃や大規模リフォームが必要になった場合には告知義務が発生します。

参考:イエコン「病死が起きたら事故物件になる?告知義務・価格相場・売却方法を解説」

不慮の事故による死

不慮の事故による死も、日常生活を送る中で起こり得るもので、事件性もないため告知義務は生じません。不慮の事故には、階段からの転落や転倒、入浴中の溺死、食事中の誤嚥、自然災害などが該当します。

ただし、発見までに時間がかかり、特殊清掃や大規模リフォームが必要になったり、メディアで大々的に報道されたりした場合は、不慮の事故であっても告示義務が発生します。

隣接した部屋や使用頻度が低い共用部で発生した事案

取引する物件(専有部分)への直接的に関係しない場所で起きた人の死に関しても、告知義務はありません。具体的には、隣接した部屋や使用頻度が低い共用部、建物前の道路などで発生した事件・事故は、心理的な嫌悪感や抵抗感が少なく、過去の裁判でも告知義務の対象外として判決が出ています。

ただし、共用部で起きた事案に関しては、使用頻度が問われるので判断はケースバイケースで分かれます。

例えば、集合住宅の一部屋のみの売却・賃貸の場合、エントランスやエレベーターに関しては、通常使用することが明白なので告知義務が生じます。一方で、廊下や階段、ベランダなどの共有部は、事案が発生した部屋との距離や建物の構造などによって、通常利用するかが異なります。また、建物全体の取引では、どこで事件・事故が起きていても建物内に含まれるため、告知しなければなりません。

事故物件を売却する際の注意点

所有している不動産が事故物件になってしまうと、不動産としての価値が下がるほか、心理的な抵抗感や嫌悪感が生まれてしまうため、手放したいと考える人は多いでしょう。事故物件を売却する場合、告知義務の範囲・期間や伝え方、伝える内容についても注意が必要です。

ここからは、事故物件を売却するときの注意点を5つお伝えします。

  • 告知義務は入居者・持ち主が入れ替わっても継続する
  • 告知義務違反をすると損害賠償請求される可能性がある
  • 口頭だけでなく書面でも伝える
  • 故人や遺族の個人情報は伝えない
  • 建物を解体して更地にしても告知義務はなくならない

適切に告知ができないと、裁判になったり売却で得た金額以上の支払いが必要になったりと、売主の責任が問われることになります。重複する情報も含まれますが、注意点は丁寧に確認しておきましょう。

告知義務は入居者・持ち主が入れ替わっても継続する

事件・事故が発生した後に、入居者が入れ替わっても、賃貸なら事案発生からおおよそ3年、売却なら無期限の告知義務を負うことになります。その間、入居者・所有者が変わったとしても、告知義務が消えてなくなることはありません。

以前の不動産業界では、告知義務の期間や基準があいまいで、状況や慣習によって個々に判断・運用されてきたことから、トラブルに発展するケースが多々ありました。例えば、事件・事故の後の最初の入居者のみに告知義務があり、誰かが一度でも住めば、告知義務がなくなる」という独自の慣習が存在していました。そのため、短期間だけ入居者を入れて告知義務をなくす手段が取られることもあったようです。

2021年に発表された新ガイドラインにより、告知義務の期間や基準が示されたことで、現在は事件・事故後の入居者や持ち主の変更が告知義務の継続に影響しないことが明確になっています。売主がガイドラインに沿って告知を行えば、今後は同様のトラブルは減少するでしょう。

告知義務違反をすると損害賠償請求される可能性がある

■契約不適合責任とはでも軽く触れましたが、心理的瑕疵の告知義務違反を犯すと、買主・借主から損害賠償請求をされる可能性があります。

損害賠償に含まれる費用は、売買契約までに買主が負担した費用や、売買契約を結んだことで買主が負担した費用、正常に契約が履行されれば買主が得たであろう利益など、買主に生じたあらゆる損害が含まれます。

損害賠償の範囲の例

  • 契約書の印紙代
  • 登記費用
  • 退去・引越し費用
  • 取引代金の市場価格との差額
  • 転売時の損失額
  • 建物取り壊し費用
  • 心理的苦痛に対する慰謝料
  • 弁護士費用(不法行為があった場合) など

ただし、これらは一例であり、実際には事案の内容や個別の諸事情が考慮されて、賠償すべき範囲や賠償額が決まります。

参考:イエコン「自殺で事故物件化したらオーナーは遺族に損害賠償請求可能│金額の目安は?」

口頭だけでなく書面でも伝える

心理的瑕疵の内容は、売買契約書に明記をして、売主が告知したこと・買主が告知内容を確認したことが書面で残るようにしましょう。

心理的瑕疵について口頭で伝えただけでも、告知義務は守られたと認められます。ただし、口頭での告知は、告知したことの証拠が残りません。売買成立後に買主が告知を受けていないと主張しても、告知した証拠を提出できなければ「言った」「言わない」の水掛け論になり、場合によっては売主に不利になる可能性も考えられます。

確実に告知したことがわかるよう、必ず契約書に心理的瑕疵の有無や心理的瑕疵の内容について明記しておきましょう。

故人や遺族の個人情報は伝えない

心理的瑕疵がある事実や事案の内容は買主に伝える義務はありますが、故人や遺族のプライバシーや名誉を傷つけないように配慮する必要があります。事件・事故時の様子や発見状況を詳細に伝える必要はなく、自然災害のように死亡時期や死因が明確にわからないケースにおいてはその旨を伝えれば問題ありません。

具体的に伝える必要のない情報は、故人や遺族の名前・年齢・住所・勤務先・家族構成などの個人情報です。

個人情報や死者の尊厳を傷つける情報を伝えてしまうと、別のトラブルを招く恐れがあるため、必要最低限の情報のみを伝えるようにしましょう。特に、遺族の個人情報は個人情報保護法の対象なので注意が必要です。今はSNSを通じて情報が拡散されやすい時代なので、事故・事件の詳細を知っていても伝えないことが得策といえます。

建物を解体して更地にしても告知義務はなくならない

「問題のある物件を取り壊してしまえば告知しなくてもいいのでは?」と考える人もいるでしょう。しかし、告知すべき事件・事故が起きた建物を取り壊しても、心理的瑕疵がなくなるわけではないため告知義務も残ることに注意が必要です。

もちろん、心理的な抵抗感や嫌悪感の元となる建物が物理的になくなることで、買い手が見つかりやすくなったり、売却金額が上がったりすることはあります。ただし、建物の解体費用は、構造や広さにもよりますが、一軒家で100~300万円が平均です。更地にしても売却金額が多額の解体費用分アップするとは限らないので、結果的に損する可能性もあります。また、再建築不可物件だと、建物を取り壊してしまうと新たに建物を建築できないため、余計に売りにくくなる可能性もあります。

事件・事故が起きたからといって建物を取り壊しても、心理的瑕疵も告知義務も消えることはないため、安易に解体するのは控えましょう。

物件購入や賃貸契約時に事故物件を見分けたいなら「物件情報」を確認しよう

ここまで、事故物件を売却する際に知っておきたい注意事項を中心に解説してきましたが、不動産を購入・賃貸する際に事故物件か見分けたいというケースも多いでしょう。

そこで、物件情報から事故物件の疑いがある物件を見分けるポイントを6つ紹介します。

  1. 物件情報に「告知項目あり」のような記載がないか
  2. 相場より安すぎないか
  3. 物件名が非公開でないか
  4. 以前と物件名が変わっていないか
  5. 一部だけリフォームしているような不自然な形跡がないか
  6. 賃貸の場合、フリーレント・定期借家になっていないか

国交省の新ガイドラインで告知義務が厳しくなったため、基本的には心理的瑕疵や告知義務のない事故の有無は取引前に問い合わせれば、回答を得ることができます。しかし、なかにはさまざまな人の手を渡る中で売主でも事件・事故の発生を把握できていなかったり、故意に事件・事故の発生を隠したりするケースがないわけではありません。

後から事故物件と分かっても、実際の損害や心理的な苦痛に見合う賠償が認められるとは限らないため、まずは取引前に事故物件でないかをしっかり調査しておくことが重要です。

1.物件情報に「告知項目あり」のような記載がないか

物件探しをする際には、物件情報に「告知項目あり」の記載がないかをチェックしましょう。告知項目の内容の多くは心理的瑕疵です。もっとストレートに「心理的瑕疵」「事故物件」という表記や、事件・事故の内容が記載されているケースもあります。

不動産業者の場合、告知義務違反・説明義務違反をすると宅地建物取引業法に反する違法行為となり、刑事罰・行政処分を受けるリスクもあるため、よほど問題のある業者でなければガイドラインに沿った対応をしています。

「重要事項の説明等」
宅地建物取引業者は、宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の相手方若しくは代理を依頼した者又は宅地建物取引業者が行う媒介に係る売買、交換若しくは貸借の各当事者(中略)に対して、その者が取得し、又は借りようとしている宅地又は建物に関し、その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(中略)を交付して説明をさせなければならない。
e-Gov法令検索 宅地建物取引業法第35条

「業務に関する禁止事項」
宅地建物取引業者は、その業務に関して、宅地建物取引業者の相手方等に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
一 宅地若しくは建物の売買、交換若しくは貸借の契約の締結について勧誘をするに際し、又はその契約の申込みの撤回若しくは解除若しくは宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため、次のいずれかに該当する事項について、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為

e-Gov法令検索 宅地建物取引業法第47条1項

2.相場より安すぎないか

相場と比較して安すぎる価格が付いている物件も事故物件の可能性が考えられます。利便性が悪かったり築年数が古かったりすることで、周辺の住宅よりも価格が低い物件は存在しますが、事故物件の場合は入居者が非常に集まりにくいため不自然なほど安い点が特徴です

同地域の同等程度の築年数・間取り・設備の物件と比較して3割以上安ければ、事故物件の可能性があるため注意しましょう。事故物件ではなくても、安すぎる理由が何かあるため、建物や設備、周辺の環境に心理的瑕疵以外の問題を抱えている可能性もあります。

3.物件名が非公開でないか

物件名が公開されていない場合も要注意です。「Aマンション」「(地名)アパート」のように、建物名を明かさないことで、事前に事件・事故の有無を調べられないようにしているケースがあります。

ただし、物件名を伏せて問い合わせを増やしたい場合や、新築物件で建物名が決まっていないだけの場合もあるため、名称が公開されていない場合は瑕疵の有無を確認するようにしましょう。

4.以前と物件名が変わっていないか

物件名が非公開になっているのと同様に、物件名が変わっている物件も気を付ける必要があります。

売買の場合、物件名を変えたからといって告知義務がなくなるわけではありませんが、賃貸の場合は3年程度で告知義務がなくなるので、物件名を変更されるとこちらから問い合わせない限り事件・事故の有無を確認できません。

ただし、所有者が変わると物件名も変更されるケースは多いため、事故の有無を確認する際に、物件名が変わった理由を教えてもらうとよいでしょう。そのほか、物件名ではなく、住所で調べるのも一手です。

5.一部だけリフォームしているような不自然な形跡がないか

内見・内覧する際に、物件内の一部だけ不自然に真新しい状態になっていないかも確認するとよいでしょう。とくに、浴室のみ・特定の部屋のみ・壁や床の一部のみリフォームした形跡がある場合は、事件・事故によって特殊清掃やリフォームが必要になった可能性があります。

ただし、築年数が古い物件だと、資産価値を高め、入居者が入りやすいように設備を新しくしたり、リノベーションしたりすることは珍しくありません。部分的なリフォーム跡や設備の交換がある場合は、リフォーム理由を問い合わせてみるとよいでしょう。

6.賃貸の場合、フリーレント・定期借家になっていないか

フリーレント・定期借家になっていないかも、事故物件を見分けるときのチェックポイントです。

フリーレントとは、一定期間の家賃が無料になる賃貸契約の一種です。一般的には2ヶ月以内の家賃が発生しない設定となっています。フリーレントの期間は家賃収入が発生しないため、本来であれば貸主にとって何のメリットもありません。それでも無料期間を設けているということは、入居者が決まらない何らかの問題を抱えている可能性があります。

築年数の古さやエリアの需要の低さから、入居者を集めやすくするためにフリーレントを採用しているケースもありますが、3ヶ月以上のフリーレント期間が設定されている場合は事故物件を疑ってもよいでしょう。

対して、定期借家とは、賃貸期間が入居時から決まっている賃貸契約です。事故物件で定期借家になっている物件の多くは賃貸期間が数ヶ月~1年の短期で決まっています。住める期間が決まっているため、事故物件でなくても定期借家であれば賃料は相場よりも安い傾向があります。

新ガイドラインで告知義務の期間や基準が明示されるまでの不動産業界では、短期で安く1人目の入居者を入れて、2人目の入居者から賃料を相場の金額に戻して心理的瑕疵の告知を行わないという「ルームロンダリング」が多く行われていました。現在では、心理的瑕疵が発生した後に入居者が何人入ろうが、最低でも3年は必ず告知が必要となっているため、ルームロンダリングを行う意味がなくなり、この手法が使えなくなっています。

しかし、稀ではありますが、国交省の発表したガイドラインの基準を守らない、または把握していない売主・貸主がいないとも限らないため、念のため定期借家になっている理由を聞いておくと安心でしょう。

事故物件かどうか調べる4つの方法

最後は、物件情報を見る以外の方法で、事故物件かどうかを調べる方法を4つ紹介します。

  1. 担当者に直接聞く
  2. 事故物件検索サイトで調べてみる
  3. 実際に物件に行き、花やお菓子などが供えられていないか確認する
  4. 物件の周囲にある飲食店・商店で聞いてみる

いずれも難しい方法ではないため、不動産の購入・賃貸を考えている人はぜひ実践してみてください。

1.担当者に直接聞く

事故物件かどうかは、不動産仲介業者の担当者に直接聞くのが1番です。先述の通り、売主・不動産業者は、事案の内容や発生からの期間を問わず、買主・借主に質問されたら必ず心理的瑕疵や告知義務のない事件・事故の有無を答えなければなりません。

万が一、取引後に故意に事件・事故の発生を伝えなかったとなれば、売主・不動産業者も大きなダメージを負いかねません。そのため、心理的瑕疵の有無を知っていれば、隠さず教えてもらえるでしょう。

ただし、所有者や管理業者が変わる際に引継ぎがうまくできておらず、売主・不動産業者も心理的瑕疵の存在を把握していない可能性もゼロではありません。地域密着型の不動産会社ならまず知らないということはないので、同じ物件でも複数の不動産業者を回って、心理的瑕疵の有無を確認してみるとよいでしょう。

2.事故物件検索サイトで調べてみる

告知義務の期間を過ぎた物件だと、物件情報に心理的瑕疵の有無が記載されていないことがほとんどです。しかし、不動産業者に気になる全ての物件の心理的瑕疵を問い合わせたり、店舗まで足を運んだりするのは面倒でしょう。そこで事故物件かのチェックで活用できるのが、事故物件検索サイトです。

事故物件検索サイトとは、全国の事故物件の情報をまとめたサイトです。安心して使える有名どころのサイトは「大島てる物件公示サイト」や「特別募集住宅(UR都市機構)」です。

個人が運営しているサイトもありますが、信ぴょう性に欠けるため、参考程度に留め、気になる場合は不動産業者で事実確認するほうがよいでしょう。

3.実際に物件に行き、花やお菓子などが供えられていないか確認する

事件・事故から日が浅い場合は、お供え物の有無で事件・事故の有無を判断できるかもしれません。他殺や著名人の死、メディアで大々的に取り上げられた事件・事故の場合、現場にお花やお菓子、飲み物などのお供え物がされていることがあります。

また、共用部にお札が貼ってある物件もあるため、売主や不動産業者にお札がある理由を聞いてみるとよいでしょう。

4.物件の周囲にある飲食店・商店で聞いてみる

実際に物件周辺に足を運び、周囲の飲食店や商店で、気になっている物件について聞いて回ることで、リアルな情報を入手できます。

事件・事故が起きれば、警察や救急、やじ馬が集まるため、地域で噂が回ります。人の生死に関わる事件・事故であれば、そうそう忘れられるものでもありません。事件・事故が起きた物件なら、何軒か回って「あそこに住もうと思っている」と世間話をすれば教えてもらえるでしょう。

心理的瑕疵がなくても、地域の治安や住みやすさ、利便性について教えてもらえる可能性もあります。

まとめ

今回は、事故物件の定義について、詳しく解説しました。事故物件の法的な定義はありませんが、一般的には人が亡くなっており、告知義務のある心理的瑕疵を持つ物件を指します。事故物件の告知義務は、賃貸なら事件・事故の発生からおおよそ3年間、売却なら無期限で課せられます。事故物件の告知義務を怠ると、契約不適合責任や損害賠償責任により、売主には契約の解除や慰謝料の支払いが求められる可能性があります。

告知義務の基準は明示されたものの、事件性や周知性、社会への影響、買主・借主の判断への影響によって判断が難しいケースもあります。告知義務がないと自己判断してしまわず、売却時には不動産業者や法律事務所に相談するようにしましょう。

訳あり物件を専門に買い取っている株式会社クランピーリアルエステートでは、買い手が見つからなかった事故物件や、すぐにでも手放したい事故物件でも高値で買い取りを行っています。事故物件への需要は低く、買い手を探してもなかなか見つかりません。クランピーリアルエステートでは、売主の契約不適合責任を免責して売買できるため、売却後に損害賠償請求されるリスクも抑えられます。

また、不動産を購入する・借りるという場合は、基本的には売主・不動産業者に問い合わせれば、告知義務の有無にかかわらず人の死にかかわる事件・事故を教えてもらえます。その他、事故物件検索サイトの活用や物件周辺での聞き込みをしながら、問題がない物件かをチェックするのがおすすめです。

事故物件の定義に関するよくある質問

事故物件はいくらで売却できる?

発生した事件・事故の内容によって異なりますが、事故物件の売買価格は、相場の10~50%程度低下します。一般的に、事件の重大性や社会的な影響が大きいほどより抵抗感や嫌悪感を抱きやすくなるため売却価格の下落率は大きくなります。

死因 売却価格の下落率
他殺 30~50%
自殺 20~30%
自然死(特殊清掃が入った場合) 20%
病死・自然死・不慮の事故による死 10~20%

参考:イエコン「自殺で事故物件化したらオーナーは遺族に損害賠償請求可能│金額の目安は?」

告知義務があるのは心理的瑕疵がある物件だけ?

売主・貸主は、心理的瑕疵以外にも、「環境的瑕疵」「物理的瑕疵」「法律的瑕疵」についても買主・借主に対して告知義務を負うことになります。

環境的瑕疵 建物・土地に問題がないが、近隣施設からの騒音・振動・異臭・日照問題・眺望障害・嫌悪施設/遊戯施設/暴力団事務所の存在など環境的な問題を抱えている状態
物理的瑕疵 建物・土地自体に問題があり、雨漏り・害虫被害・耐震強度の不足・排水管の破裂・土壌汚染・地盤沈下などの物理的な問題を抱えている状態
法律的瑕疵 建築基準法・都市計画法・消防法に違反している、または法律により規制や使用の制限があったりと法的な問題を抱えている状態

売却したい物件が事故物件に該当するか判断する方法は?

自身が所有する物件が事故物件に該当するかは、国交省の策定した「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」で確認できます。

しかし、事件・事故の重大性や周知性、社会的影響の大きさ、買主・貸主への影響の大きさによって、事故物件になる物件・ならない物件が分かれます。事故物件に精通していないと事故物件に該当するか否かの判断は難しいため、契約後のトラブルを避けるためにも事故物件に強い不動産業者や不動産業界に精通している弁護士への相談がおすすめです。

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