入居者を退去させる方法はある?退去を拒否されたときの対応についても解説

賃貸経営をしていると、「この入居者に退去してもらいたい」と考える場面が出てくることがあります。
しかし、日本の賃貸借契約では借主の居住権が強く守られており、たとえオーナーであっても、一方的に退去を命じることはできません。
入居者を退去させる方法は大きく分けて二つあります。
一つ目は任意交渉による合意です。これは入居者と直接話し合い、立退料や退去期限などの条件を提示して合意を得る方法です。立退料の相場は家賃の6か月〜1年分程度とされますが、物件の立地や契約内容、退去理由などによって大きく変動します。さらに、解約を申し入れる際は少なくとも6か月前までに通知する必要があり、相手の事情に配慮した柔軟な条件を示すことで合意に至りやすくなります。ただし、交渉がまとまらなければ退去は実現できず、高額な立退料を求められるケースもあります。
二つ目は裁判による強制退去(明渡訴訟)です。これは「正当事由」が認められた場合に、裁判所の判断を得て強制的に退去させる方法です。正当事由には、自己使用、建物の老朽化、再開発計画、賃料不払いなどが含まれます。ただし、正当事由があるからといって必ず認められるわけではなく、貸主と借主それぞれの事情を比較衡量したうえで、裁判所が総合的に判断します。また、訴訟には時間や費用がかかり、家賃未回収のリスクもある点に注意が必要です。
そのため、まずは任意交渉での合意を目指すのが一般的であり、どうしても合意が得られない場合に裁判や、場合によっては「入居者付きのまま物件を売却する」という選択肢も検討することになります。
本記事では、入居者を退去させるための具体的な手順や必要な条件、立退き料の相場と内訳、税務上の取扱い、強制退去の際の注意点、さらに合意が難しい場合の代替策まで、賃貸物件オーナーが知っておくべきポイントをわかりやすく解説します。
目次
入居者に退去を求めるときは、まず任意交渉から
賃貸物件のオーナーであっても、入居者に対して一方的に退去を命じることは法律上認められていません。借主の居住権は強く保護されており、退去を実現するには、まず入居者との話し合いを通じて合意を得ることが原則です。
法的には直ちに訴訟を提起することも可能ですが、実務上はいきなり裁判に進むのではなく、まず入居者との話し合いを通じて合意を得る努力をするのが一般的です。これは「正当事由」がある場合であっても同様で、任意交渉を経て双方が納得できる解決策を探ることが、円満な解決への第一歩となります。
退去交渉のきっかけには、物件の建替えや大規模修繕の必要性、老朽化による安全性の懸念、家賃滞納や用法違反、近隣住民への迷惑行為などの契約違反行為が挙げられます。
交渉の際は、退去を求める理由や立退き期限、立退料の有無といった条件を明確に提示し、入居者の生活事情も踏まえて進めることが大切です。信頼関係を保ちながら円満な合意を目指すことが、後のトラブル防止にもつながります。
入居者に退去を求める方法と流れ
入居者に退去を求める際は、下記のような適切な手順を踏むことが重要です。
手順 | 内容の概要 |
---|---|
通知をおこなう | 契約終了の6か月前までに書面で通知。理由や期日、立退料などを明記し、内容証明郵便で送ると安心。 |
任意交渉で合意を目指す | 退去理由と希望期日を伝え、入居者の事情も考慮。立退料など補償条件を提示し、冷静に話し合う。 |
合意に基づき退去 | 合意内容を契約書に明記。退去日・立退料・原状回復などを記載。合意できない場合は弁護士相談や明渡訴訟。 |
1.通知をおこなう
入居者に退去を求める場合、まず必要となるのが「通知」です。賃貸借契約では、貸主が一方的に契約を終了させることはできず、法律上、解約日の6か月前までに契約を更新しない旨を入居者へ伝える義務があります。
これは借主の居住権を保護するための規定で、突然の退去要求による生活の混乱を防ぐ目的があります。そのため、仮に建替えや修繕、自己使用など正当な理由があったとしても、遅くとも6か月前までには書面や内容証明郵便など、記録が残る方法で通知することが望ましいでしょう。
特に、法的手続きを行う可能性がある場合は、内容証明郵便で送付して証拠を残すことが推奨されます。文面の作成は貸主本人でも可能ですが、法的に適切な表現やリスクを回避するためには、弁護士に依頼して作成してもらうと安心です。
通知には、契約を更新しない理由や退去を希望する期日、必要に応じて立退料の提示などを明記し、誤解を避けるため簡潔かつ具体的な内容にします。
通知文例1.(自己使用を理由とする場合)
〒000-0000
住所
〇〇 殿
〒000-0000
住所
通知人 □□
通知書
令和△年△月△日に貴殿と通知人との間で締結した貸借契約に基づき、下記物件の賃貸をしてまいりました。本契約は、令和□年□月□日をもって契約満了となります。
記
所在地:〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
建物名:〇〇
部屋番号:〇〇号室
通知人の居住の必要が生じたため、本物件を自己使用することとなりました。つきましては、令和□年□月□日をもって賃貸借契約を終了させていただきたく、同日までに退去くださいますようお願い申し上げます。
※上記の通知例文はあくまでもサンプルです。実際に使用する際は、内容の正確性や法的有効性を確保するため、必ず弁護士など専門家のチェックを受けることをおすすめします。
通知文例2.(契約違反を理由とする場合)
〒000-0000
住所
〇〇 殿
〒000-0000
住所
通知人 □□
通知書
令和△年△月△日に貴殿と通知人との間で締結した貸借契約に基づき、下記物件の賃貸をしてまいりましたが、貴殿は□年□月分以降の合計〇ヶ月分の賃料のお支払いがありません。
記
所在地:〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
建物名:〇〇
部屋番号:〇〇号室
通知人は貴殿に対して、本書面到達後〇日以内に未払いの賃料全額をお支払いいただくよう催告いたします。期日までに全額お支払いいただけない場合には、賃貸借契約を解除し、本物件の明渡しをご請求いたします。
※上記の通知例文はあくまでもサンプルです。実際に使用する際は、内容の正確性や法的有効性を確保するため、必ず弁護士など専門家のチェックを受けることをおすすめします。
2.任意交渉による合意を目指す
通知後は、入居者との任意交渉によって円満な合意を目指すことが重要です。交渉では、まず立退きを求める理由を明確に伝えます。たとえば、建物の老朽化や建替え、自分や家族の居住、契約違反など、背景を具体的に説明することで納得を得やすくなります。
次に、退去してほしい期日を提示しますが、入居者の生活事情も考慮し、柔軟な調整を行う姿勢が必要です。さらに、合意形成のためには立退料の提案を行います。立退料は移転費用や新居の初期費用、慰謝料などが含まれる場合が多く、金額は事案に応じて設定します。
交渉の際は、感情的にならず冷静に話し合い、譲歩できる条件をあらかじめ整理しておくとスムーズです。また、トラブル防止のために、やり取りの内容は書面や録音で記録を残しておきましょう。
3.合意に基づき期日までに退去してもらう
入居者との交渉で退去に関する合意が得られた場合は、その内容を明文化した「合意契約書」を締結します。契約書には、退去日、立退料の金額と支払方法、明け渡し方法、その他特約事項などを明確に記載し、双方が署名・押印することで証拠力を持たせます。これは後のトラブル防止に不可欠です。契約書の締結後は、賃貸契約終了の手続きを進め、鍵の返却や室内確認、敷金精算なども期日までに行います。
一方、任意交渉で合意に至らなかった場合は、「正当事由」があるかを確認したうえで、弁護士に相談し、明渡訴訟など法的手段を検討します。訴訟は時間や費用がかかるため、可能な限り交渉での解決を目指すことが望ましいですが、やむを得ない場合には裁判所の判断を仰ぎ、強制的な明け渡しを実行する流れになります。
合意契約書の見本
合意契約書は、下記の見本を参考にしてください。
退去に関する合意契約書
本合意契約書(以下「本契約」という)は、以下の当事者間において、賃貸借契約の終了および退去に関し、次のとおり合意が成立したことを証するものである。
第1条(当事者)
貸主(甲):□□太郎(□県□市□町□丁目□番□号)
借主(乙):〇〇花子(〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号〇〇号室)
第2条(賃貸借契約の終了)
甲乙間で締結された当該物件に関する賃貸借契約は、令和〇年〇月〇日をもって終了する。
当該物件
所在地:〇県〇市〇町〇丁目〇番〇号
建物名:〇〇
部屋番号:〇〇号室
第3条(退去期日)
乙は、令和〇年〇月〇日までに本物件を明け渡し、鍵を返還するものとする。
第4条(立退料)
甲は、乙に対し、本契約に基づく退去の対価として、立退料金500,000円を2025年8月31日までに乙の指定口座へ振込支払いする。
第5条(原状回復)
乙は、本物件を通常の使用に伴う損耗を除き、原状に回復した上で甲に返還するものとする。
第6条(清算)
本契約に定める事項を履行した場合、甲乙間における本物件に関する債権債務は全て消滅するものとする。
第7条(その他)
本契約に定めのない事項については、甲乙協議の上、誠意をもって解決する。
本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙各自署名押印の上、各1通を保有する。
令和□年□月□日
甲(貸主):□□太郎 印
乙(借主):〇〇花子 印
※上記の合意文書はあくまでもサンプルです。実際に使用する際は、内容の正確性や法的有効性を確保するため、必ず弁護士など専門家のチェックを受けることをおすすめします。
入居者に対する立ち退き交渉をする際のポイント
立ち退き交渉では、入居者の事情を踏まえた譲歩案の提示と、合意内容を記録に残すことが重要です。これにより、合意形成が進み、後のトラブル防止にもつながります。
相手の事情も考慮した上で、譲歩できる点を探す
立ち退き交渉を円滑に進めるためには、貸主側の都合だけでなく、入居者の生活状況や事情を踏まえた提案が重要です。退去に伴う負担を軽減できる条件を提示することで、合意に至る可能性が高まります。
譲歩の具体例としては、まず退去時期の調整があります。新居探しや引越し準備に時間がかかる場合には、退去期限を延長することで入居者の安心感を高められます。また、立退料の金額を増額したり、支払時期を引越し前に早めることで、引越し資金を確保しやすくする方法もあります。さらに、退去までの期間の家賃を減額または免除することも効果的です。
これらの譲歩は貸主にとって一定のコスト負担となりますが、長引く交渉や訴訟による時間的・金銭的な損失を回避しやすくなります。
交渉内容は書面や録音に残しておく
立ち退き交渉では、口頭だけのやり取りに頼ると、後になって「言った・言わない」の争いになるリスクがあります。そのため、話し合いの内容は必ず書面や録音で記録を残しておくことが重要です。
書面にする場合は、退去理由や期日、立退料の金額や支払方法など、合意した条件を具体的に明記し、双方が署名・押印することで証拠力が高まります。また、交渉の途中段階でも議事録のような形でまとめ、相手に確認してもらうと誤解防止につながります。
録音の場合は、日時や場所、参加者がわかるようにして保存し、必要に応じて証拠として提出できる状態にしておくと安心です。
こうした記録は、後日条件の認識に相違が生じた場合や、万一法的手段に発展した場合にも有力な証拠となり、トラブルを未然に防ぐ効果があります。
立ち退き料の一般的な相場と内訳
立ち退き料は、退去に伴う入居者の経済的・精神的負担を補うために支払われるもので、一般的な相場は家賃の6か月〜1年分程度とされています。ただし、金額は物件の立地や契約内容、退去理由、入居者の事情などによって大きく変動します。
内訳には、引越しに必要な移転費用や新居の初期費用、精神的負担に対する慰謝料、借家権の損失補償、店舗の場合は営業利益の損失補償などが含まれます。どの項目をどの程度補償するかはケースごとに異なるため、交渉の際は双方が納得できる形で条件を明確にしておくことが重要です。
以下では、それぞれの内訳項目について詳しく解説します。
項目 | 内容 | 相場・算定例 |
---|---|---|
移転・引越し費用 | 引っ越し業者費用、荷物運搬費など。世帯構成や時期により変動。 | 単身:約3万円、家族:約8万円、繁忙期:最大12万円程度 |
慰謝料・迷惑料 | 引越しによる精神的・身体的負担への補償。学区変更や生活環境の変化なども考慮。 | 家賃の3〜6か月分程度が目安 |
新居にかかる初期費用 | 敷金・礼金・仲介手数料・火災保険・ネット開通費用など新居契約に伴う費用。 | 礼金:家賃1〜2か月分、仲介手数料:家賃1か月分まで |
借家権の損失補償 | 賃借権という財産的権利を失うことへの補償。生活基盤喪失への配慮。 | 収益還元方式や割合方式で算定 |
営業利益の損失補償(店舗の場合) | 移転・休業による売上や利益の損失補填。固定費や常連客喪失リスクも対象。 | 例:年商3,000万円×15%×1年=約450万円(家賃の数年分に相当する場合もあり) |
移転・引越し費用
立ち退き料の内訳として重要な「移転・引越し費用」は、入居者が新居へ移る際に現実的にかかる各種費用を補填するためのものです。まず、引っ越し業者への依頼費用があり、単身であれば3万円前後、家族(4人程度)では8万円前後が標準ですが、繁忙期には約12万円になることもあります。
これらは、入居者が退去後も同程度の生活環境を確保できるようにするための補償であり、世帯構成や物件の条件によって金額が大きく変動するため、交渉時には具体的事情に応じた柔軟な見積もりが求められます。
慰謝料・迷惑料
立ち退き交渉における「慰謝料・迷惑料」は、入居者が引っ越しを余儀なくされることで生じる精神的・身体的な負担を金銭的に補償する目的で支払われる費用です。具体的には、新しい住居探しに伴う労力、住み慣れた環境からの喪失感、そして生活環境の変化がもたらす心理的ストレスに対する配慮が念頭に置かれます。たとえば、家族がいる家庭で学区の変更や新たな通勤ルートの構築が必要になるような場合、その精神的負荷についても考慮されます。
また、相場としては明確に定められているわけではありませんが、賃貸住宅の立ち退きでは家賃の3〜6か月分が目安とされることが多く、状況によってはこの範囲を超えるケースもあります。
新居にかかる初期費用
立ち退き料の内訳に含まれる「新居にかかる初期費用」は、入居者がスムーズに次の住まいへ移れるよう経済的負担を補うための補償です。具体的には、敷金・礼金・仲介手数料といった賃貸契約に伴う初期費用が挙げられます。礼金は地域によりますが家賃の1〜2ヶ月、仲介手数料は家賃1ヶ月分までが相場とされます。
さらに、入居者にとって住環境変更によるストレスや費用負担を軽減する観点から、新居への移転で発生する費用全般、例えば火災保険や地震保険、インターネット回線の開通費用なども考慮される場合があります。
物件の立地や契約条件、入居者の事情によって初期費用の必要額は変動するため、交渉時には具体的な見積もりをもとに丁寧に話を進めることが重要です。
借家権の損失に対する補償
借家権とは、賃借人が賃貸契約によって得る「住む権利」であり、これは重要な財産的権利とみなされます。立ち退きによってこの権利を失う場合、移転費用とは別に、借家権の消失に対する補償が必要になるケースがあります。これは、入居者が築いてきた生活基盤や住環境を奪われることへの合理的な配慮です。
具体的には、立ち退き料の内訳に「権利の補償」として借家権分の金額設定が含まれるのが一般的です。損失額の算定方法としては、現在の賃料と類似物件の賃料差をもとに適切に補償額を割り出す「収益還元方式」や、土地・建物価格に借地・借家権割合を掛け合わせる「割合方式」などが用いられます。
営業での利益損失に対する補償(店舗の場合)
店舗経営者が立ち退きを余儀なくされる際には、「営業での利益損失に対する補償(営業補償)」が立ち退き料の重要な内訳となります。これは移転に伴い店舗が休業することで失われる売上や利益、さらに営業再開のための準備費用を補うものです。具体的には、以下のような項目が考慮されます。
補償項目 | 内容 |
---|---|
休業期間に本来得られた利益 | 移転に伴う休業期間中に失われる想定利益を補填します。 |
休業期間にかかる固定費 | 従業員の給与や店舗賃料、設備維持費など、営業が停止しても発生する費用も対象となります。 |
常連客の喪失リスクなどの補償要素 | 新しい立地への移転によって既存の固定客が離れてしまう可能性も補償対象とされることがあります。 |
算出方法の一例として、「年間売上高 × 営業利益率 × 補償年数」という計算式が用いられるケースもあります。年商3,000万円・営業利益率15%・補償1年の場合で計算すると、1年分の補償額は約450万円となります。
相場は業種や立地、規模によって異なりますが、店舗の場合は住宅より高額になりやすく、家賃の数年分に相当する額が支払われるケースもあります。金額は事業継続に支障が出ない水準を目安に、入居者と貸主が協議して決定することが重要です。
立ち退き料にかかる税務上の取扱い
立ち退き料は金額が大きくなる傾向があり、貸主・借主双方に税務上の影響が及びます。そのため、受け取った場合・支払った場合の取り扱いを正しく理解しておくことが重要です。
貸主側は原則として支払った立退料を経費として計上でき、課税所得の圧縮につながります。一方、借主側は立退料を所得として申告する必要があり、その性質によって所得区分や課税方法が異なります。
理解しやすいように下記に表にしてまとめます。
立場 | 税務上の取扱い | 所得区分 | 備考 |
---|---|---|---|
貸主側(支払う側) | 支払った立退料は、事業に関連する支出として必要経費に算入可能 | ― | 賃貸事業における建替えや再開発、契約解除に伴う支払いなどが対象。私的理由による支払いは経費算入不可の場合あり |
借主側(受け取る側) | 受け取った立退料は所得として課税対象 | 所得区分は状況により異なる(事業所得・譲渡所得・一時所得など) | 住宅賃貸の場合は一時所得となることが多いが、店舗など事業用物件の場合は事業所得や譲渡所得に分類される場合もあり。確定申告が必要 |
貸主側
貸主が支払う立退料は、原則として賃貸事業に必要な支出とみなされ、必要経費として計上することができます。
ただし、経費として認められるのは「事業上必要な支出」に限られ、貸主の個人的理由や私的利用のための立退きなどは対象外です。また、支払額はその年分の経費とするのが原則ですが、支出目的や契約内容によっては資本的支出とされ、資産計上し減価償却の対象となる場合もあります。
経費処理する際は、立退料の支払い理由や金額、相手方との合意内容を明記した契約書や領収書などの証拠書類を必ず保存しておくことが重要です。
借主側
借主が受け取った立退料は、税務上「所得」として扱われ、所得区分に応じて確定申告が必要です。
住宅用物件の場合、立退料は一時的に得た収入とされるため「一時所得」に分類されることが多く、特別控除額(最高50万円)を差し引いた上で、その2分の1が課税対象となります。
一方、店舗や事務所など事業用物件の場合は、営業補償を含む立退料は「事業所得」として扱われ、全額が課税対象となります。また、借家権を譲渡したとみなされる場合は「譲渡所得」に分類されるケースもあります。
いずれの場合も、課税方法や控除額が異なるため、用途や契約内容によって正しい区分判定が不可欠です。
入居者を強制的に退去させるためには「正当事由」が必要
入居者を強制的に退去させるには、貸主側に「正当事由」があることが法律上の要件とされています。ただし、この正当事由には明確な定義がなく、物件の利用状況や貸主・借主双方の事情、社会的な妥当性など複数の要素を総合的に判断して認められるかどうかが決まります。
判断基準としては、貸主が物件を必要とする度合い、借主の居住継続の必要性、立退料などの提供条件などが考慮されます。
代表的な正当事由の例として、貸主自身や家族が居住・利用せざるを得ない場合、建物の老朽化による修繕・建替えの必要性、都市開発法に基づく再開発事業、そして家賃滞納や用法違反などの契約違反行為があります。
以下では、これらのケースごとに、正当事由として認められる可能性や判断ポイント、そして契約解除の法的根拠について詳しく解説します。
貸主が物件を自己使用せざるを得ない事情がある
貸主やその家族が物件を自ら使用する必要がある場合でも、それだけで必ず正当事由として認められるわけではありません。借地借家法第28条では、貸主・借主双方の使用状況や必要性、これまでの経緯などを総合的に考慮して判断すると定められています。
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
たとえば、貸主が高齢の親の介護のために物件を利用する必要がある場合は、自己使用の必要性が高いと評価されやすくなります。一方で、借主が長年住み続け生活基盤を築いている場合は、その使用の必要性も重視されます。
裁判では、双方の必要性の比較に加え、立退料の提供条件なども判断材料となります。
建物の老朽化で修繕または建て替えが必要
建物が老朽化している場合でも、築年数が古いという理由だけでは正当事由としては認められません。倒壊や重大な損傷の危険があり、居住者の生命や安全に差し迫った危険があるなど、安全性の観点から修繕や建替えが必要と判断されることが求められます。
具体的には、耐震性不足や雨漏り・腐食による構造劣化など、現状のままでは生活に支障をきたすレベルの問題が該当します。裁判では、建物診断結果や専門家の意見、修繕の困難性などの客観的証拠が重要となり、加えて立退料の提示や代替住居の提供など、借主への補償内容も判断に影響します。
再開発事業計画がある
都市開発法などに基づく再開発事業が決定した場合、事業計画で定められた明け渡し期限までに入居者は立ち退く必要があります。これは公共性や公益性の高い事業であり、借地借家法第28条の正当事由の判断にも強く影響します。
再開発に伴う立退きでは、借主の使用継続の必要性よりも事業遂行の必要性が優先されることが多く、行政手続きや事業者との協議を経て退去時期が確定します。ただし、入居者保護の観点から、立退料や代替物件の提供などの補償措置が講じられるのが一般的です。
賃貸契約に違反している
入居者が賃貸契約に違反している場合、正当事由として退去請求が認められる可能性があります。
代表的な違反例として、下記のようなケースがあげられます。
- 騒音や悪臭、暴言など近隣住民への迷惑行為
- 賃料の長期滞納
- 用途を守らない用法違反(住居を無断で店舗や事務所として使用するなど)
これらは先に挙げた借地借家法第28条のほか、民法第541条(債務不履行による解除)を根拠に契約解除が可能です。
(催告による解除)
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
ただし、軽微な違反ではなく、信頼関係が破壊されたと認められる程度の重大な違反であることが必要です。
交渉で合意に至らなかった場合の対応
任意交渉で退去の合意が得られない場合には、法的手段を視野に入れる必要があります。まずは不動産や借地借家法に詳しい弁護士へ相談し、状況に応じた解決策や必要な証拠の整理方法、今後の交渉方針を確認します。
それでも解決が難しい場合は、「明渡訴訟」を提起し、裁判所の判断を仰ぐことになります。明渡訴訟では、正当事由の有無や契約違反の内容、立退料の提示条件などが総合的に判断され、請求が認められれば強制執行によって退去が実現します。
それぞれの対応について、以下で解説します。
弁護士に相談する
交渉で合意に至らない場合は、不動産や借地借家法に詳しい弁護士へ相談することが有効です。弁護士は、退去請求の法的可否や正当事由の有無を判断し、必要な証拠や書類の収集、交渉代理、内容証明郵便による通知、さらには訴訟提起まで幅広く対応します。専門的知識を持つ弁護士が介入することで、交渉がスムーズに進みやすく、感情的な対立も避けられます。
また、手続きの不備による請求棄却リスクを軽減できる点も大きなメリットです。事務所によっては初回相談を無料で受け付けている場合もあり、早期に相談することで適切な解決方針を立てやすくなります。
明渡訴訟を提起する
任意交渉で合意に至らない場合、貸主は裁判所に「明渡訴訟」を提起し、法的に退去を求めることができます。訴訟では、借地借家法第28条に基づき正当事由の有無や契約違反の内容、立退料の提示条件などが総合的に判断されます。
明渡請求が認められるのは、貸主の必要性が高く、借主の使用継続の必要性を上回ると判断された場合や、重大な契約違反がある場合です。
勝訴判決が確定しても借主が任意に退去しないときは、民事執行手続によって強制的に明け渡しを実行できます。ただし、訴訟には時間と費用がかかるため、事前に弁護士へ相談して進めると良いでしょう。
入居者の強制退去に関する注意点
入居者を強制退去させる場合は、高額な費用や家賃回収の不確実性、違法な自力救済のリスクなどに注意が必要です。そのため、まずは任意交渉を重ね、それでも解決できない場合は弁護士に相談して適法な手続きを進めることが重要です。費用や時間の負担を避けるため、入居者を残したままの物件売却も選択肢となります。以下で、それぞれの注意点について詳しく解説していきます。
強制退去させるまでに高額な費用がかかる
入居者を強制退去させるには、以下のようにさまざまな費用が発生します。
費用項目 | 内容・目安 |
---|---|
弁護士費用 | 着手金20〜50万円、報酬金20〜50万円(合計で40〜100万円程度が目安) |
訴訟費用 | 印紙代1〜3万円、郵券代5,000〜1万円ほど |
強制執行費用 | 執行官手数料約3〜5万円、立会日当5,000円〜1万円程度 |
鍵交換費用 | シリンダー交換で1〜3万円、特殊鍵だと5万円以上かかる場合も |
運搬・保管料 | 荷物運搬費用10〜20万円、保管料は1ヶ月あたり2〜5万円が相場 |
動産処分費用 | 処分量によって5〜20万円程度 |
その他 | 立退き完了までの家賃滞納分や管理費の補填 |
これらを合算すると、総額で50万円〜100万円以上になるケースも多く、事案によってはさらに高額化する可能性があります。
民事執行法第42条では強制執行の費用は原則として債務者(入居者)が負担すると定められていますが、実務では貸主が一時的に立て替えるのが一般的で、回収できない場合もあります。
そのため、費用をかけてでも強制退去を進めるべきかは、必ず弁護士に相談し、経済的合理性を踏まえて判断することが重要です。場合によっては、入居者を残したまま物件を売却する「買取サービス」を利用するほうが、費用面・時間面で有利になることもあります。
家賃を全額回収できるとは限らない
強制退去の判決や和解で家賃や滞納分の支払い命令が出ても、入居者に十分な資力がなければ回収できない場合があります。給与や預金を差し押さえるには強制執行の手続きが必要ですが、財産がなければ執行しても回収は困難です。
特に、無職や低収入、既に多額の債務を抱えている入居者の場合、回収不能となるリスクが高まります。また、回収のためには追加の費用や時間もかかり、結果的に貸主の負担が増えることもあります。そのため、退去交渉時には家賃全額回収を前提とせず、立退料との相殺や分割支払いなど柔軟な解決策を検討することが重要です。
自力救済は違法行為となる
入居者が家賃を滞納していたり契約違反をしている場合でも、貸主が独断で行う「自力救済」は違法です。自力救済には具体的に次のような行為が含まれます。
- 鍵を交換して入居者の立ち入りを制限する
- 入居者の荷物を外に運び出す
- 水道・ガス・電気など生活に必要な設備を停止させる
- 無断で室内の扉や窓を施錠する
これらは民法や判例上、権利の濫用や不法行為とみなされ、貸主自身が損害賠償責任を負う可能性があります。強制的に退去させる場合は、必ず裁判所の手続きを経て、明渡判決や強制執行に基づいて行わなければなりません。そのため、まずは任意交渉を重ね、それでも解決できない場合は弁護士に相談し、適法な手続きを進めることが重要です。
入居者の退去が認められた判例
過去の判例を見ると、入居者の退去が認められるには、建物の安全性や使用状況、契約違反の有無など、客観的かつ具体的な事情が重視されていることがわかります。以下では、建物老朽化による事例と、雨漏りと賃料不払いが重なった事例について、それぞれの経緯や裁判所の判断ポイントを整理します。
建物の老朽化を理由に退去が認められたケース
老朽化を理由に退去が認められた判例には、安全性の重大な問題が認められ、なおかつ適切な補償が提示されたケースがあります。以下の表に、その内容を整理しました。
判例概要 | 裁判所の判断 | 立ち退き料 |
---|---|---|
築後45年を経過したアパート(木造) | 老朽化が進み安全性に懸念あり。ただし、正当事由の補完として、立ち退き料の提供が重要と判断された。 | 約100万円の立ち退き料が支払い条件として許容された |
築50年超のアパート | 老朽化を理由とし、借主と既に契約終了の合意があった場合に、家賃6ヶ月分の立退料が正当事由の補完とされた。 | 家賃6ヶ月分が提示されたことで、立ち退きが認められた |
これらの裁判例に共通するのは、単なる築年数の経過ではなく、安全性や生活基盤への影響が具体的に示された点、そして十分な金銭的補償(立ち退き料)が用意されていることが、正当事由として認められる重要な要素であることです。
雨漏りと賃料不払いによる明渡が認められたケース
東京高裁の事例では、飲食店を営む借主が、雨漏りを理由に賃料を支払わなかった点が争われました。
判例内容 | 裁判所の判断 | 備考 |
---|---|---|
雨漏りにより賃料支払い義務がないと主張 | 借主の主張を退け、賃料支払義務および明渡請求を認容 | 雨漏りは部分的かつ一時的で、明渡の正当事由とされた |
契約解除および未払賃料請求を認める一方、違約金の請求は「暴利行為」として否定 | 支払い義務は存在するものの、過剰な損害賠償(約定違約金)は適切でないと認定 | 違約金の調整が裁判所によって判断された |
この判例からは、雨漏りなどによる被害があっても、それが全面的な使用不能には至らず、一部の使用には支障がない限り、賃料支払い義務を免れることは難しいという判断基準が示されています。その上で、明渡しや未払賃料の請求は認められる一方、違約金などの請求が過度と判断されれば、裁判所によって相応に制限される可能性があることがわかります。
交渉が難航する場合は入居者を残したまま物件売却も選択肢に
賃貸物件の退去交渉が思うように進まない場合、入居者を残したまま売却する道も検討できます。この方法では、売却後に専門業者が借主との交渉や明け渡し対応を引き継ぐため、オーナー自身が入居者と直接やり取りを続ける必要はありません。交渉の負担やトラブル対応を手放せる点で、オーナーにとっては大きなメリットとなります。
その反面、一般市場で買主を探すのではなく、買取業者へ直接売却する形となるため、売却価格は一般の相場より20〜40%ほど低くなる傾向がある点には注意が必要です。
以下では、このような直接買取の手法を用いた場合のメリット・デメリット、活用に適したケースについて、さらに「立ち退き不動産買取サービス」の内容を紹介します。
■メリット
- 入居者との交渉を自分で行う必要がない(業者が代行)
- 現状のままでも早期に現金化できる(迅速な売却が可能)
- 交渉失敗によるリスクやトラブルを回避できる
■こんなケースでの検討がおすすめ
- オーナー自身が遠方に住んでいる、高齢で交渉が困難な場合
- 交渉の手間や時間を最小限に抑えたい場合
- 正当事由の証明や交渉が難航し、売却自体が難しくなっている場合
特に、立ち退きが必要な老朽化物件など、通常の売却が難しい訳あり物件については、専門の買取業者に相談することで柔軟かつスピーディに対応してもらえることが多いです。
株式会社クランピーリアルエステートでは、入居者がいる状態でもそのまま物件を買い取るサービスを提供しています。オーナー様に代わって専門スタッフが借主との交渉から明け渡し対応まで一括で対応するため、煩雑なやり取りや法的手続きを自分で行う必要がありません。
老朽化物件や訳あり物件など、通常の売却が難しいケースにも柔軟に対応し、スピーディな現金化が可能です。
退去交渉でお困りの方、早期売却を希望される方は、まずは無料査定をしてみてはいかがでしょうか。こちらから気軽に査定依頼できます。
まとめ
賃貸物件の退去請求は、オーナーが一方的に進められるものではなく、まずは6か月前までの事前通知と任意交渉で入居者との合意形成を目指すことが基本です。任意交渉での退去請求を進める際は、双方の立場を整理し、補償内容を明確に示すことが成功の鍵となります。
任意交渉でも退去を拒否される場合は、裁判所に退去を訴える方法があります。裁判で退去の判決を得るための正当事由として認められるのは、オーナー自身や家族の自己使用、建物の老朽化や安全性の問題、再開発や建て替え計画、入居者による契約違反などです。しかし正当事由があるからといっても必ず退去が認められるわけではなく、裁判所は、入居者側の生活実態や補償条件を総合的に考慮して判断します。
交渉や訴訟には時間や費用、家賃未回収のリスクも伴います。そのため、退去交渉が難航した場合の選択肢の一つとして、入居者を残したままの物件売却も考えられます。入居者ありの物件でも市場で需要があり、オーナーの負担を軽減しつつ現金化が可能です。入居者ありの売却を検討される際には、専門的に取り扱う弊社クランピーリアルエステートにご相談いただくと安心です。