入居者を強制退去させたい!条件や手続きの流れを徹底解説

強制退去とは、家賃滞納や契約違反などの事情がある借主に対して、オーナーが裁判所を通じて法的に建物から退去させる手続きを指します。オーナーの単独の意思だけで自由に行うことはできず、必ず裁判所の許可を得て、執行官が実際の明け渡し作業を行う必要があります。
強制退去を認めてもらうためには、「正当事由」が必要です。正当事由とは、賃貸契約の更新を拒否したり契約解除を申し入れたりする際に、裁判所が合理的と認める理由のことを指します。主な正当事由には以下のようなものがあります。
理由 | 具体的な内容 |
---|---|
家賃滞納 | 家賃を3か月以上継続して滞納している場合(一般的な目安) |
契約違反 | 無断でペットを飼う、建物を改築する、又貸しを行うなど賃貸契約に違反する行為 |
迷惑行為 | 近隣住民に対して継続的な騒音や悪影響を与える行為 |
建物の老朽化 | 建物の安全性確保や耐震性確保のために改修・建て替えが必要な場合 |
貸主の使用 | 所有者自身が居住する、介護や事業に利用する、借金返済のために建物を活用するなど合理的な理由 |
ただし、正当事由があっても必ず強制退去が認められるわけではありません。裁判所はオーナーと入居者双方の状況を比較衡量し、入居者の居住継続の必要性が高いと判断されれば、退去が認められない場合もあります。こうした場合には、立ち退き料(家賃の6か月~1年分が目安)を提示することで、入居者との合意が得やすくなったり、裁判所の判断がオーナー側に有利に働くこともあります。金額や条件は個別の事情によって異なるため、専門家に相談することが望ましいでしょう。
また、入居者の立ち退きは通常一足飛びに行うものではなく、まずは電話や書面で改善を求める任意交渉から始まり、それでも解決しない場合には内容証明郵便で契約解除を通知し、最終的には裁判と強制執行へと進められます。最も望ましいのは、早い段階で任意交渉による合意を得ることであり、これにより時間的・金銭的な負担を大幅に減らすことができます。
一方で、オーナーが独断で鍵を交換したり荷物を処分したりする「自力救済」は法律で禁止されており、損害賠償を命じられた判例も存在します。そのため、強制退去を行う際には必ず正規の手続きを踏み、弁護士など専門家に相談しながら慎重に進めることが重要です。
本記事では、これらの基本知識から実際の手続きの進め方、費用の詳細、注意点まで、オーナーが知るべき重要なポイントを実例と判例を交えて詳しく解説します。
目次
強制退去を実行できる条件(正当事由)
強制退去を裁判所に認めてもらうには、まず「貸主と借主の信頼関係が完全に壊れていること」や「建物の老朽化により建て替えが必要なこと」などを立証する必要があります。これを法律では「正当事由」と呼びます。
賃貸借契約は信頼関係を基盤としているため、違反行為があっても軽微なものであれば契約は直ちに終了しません。信頼が修復困難なほど損なわれていることや、居住が危険となるほど老朽化していることなど、重大な理由であることが求められます。
さらに、正当事由があっても即座に退去が命じられるわけではありません。裁判所は貸主・借主双方の事情や利益を比較衡量し、退去の可否を慎重に判断します。
以下では、この「正当事由」について、具体的にどのような場合に認められるのか、裁判所がどのような点を考慮するのかを詳しく解説していきます。
入居者の契約違反がある場合
入居者による契約違反が信頼関係の破綻を招く代表的なケースには、以下のような行為があります。これらの違反行為は、単発的なものではなく、継続性や悪質性、改善への対応状況などを総合的に評価して判断されます。
- 家賃滞納(目安:おおむね3ヶ月以上)
- 近隣への迷惑行為の反復
- 無断譲渡・転貸・改築・ペット飼育等の重大違反
家賃滞納(目安:おおむね3ヶ月以上)
毎月必ず支払わなければならない家賃を、おおむね3ヶ月間以上滞納した場合が該当します。家賃の支払いは借主にとって最も基本的な義務であり、これを怠ることは信頼関係に重大な影響を与えるとされているためです。
ただし、滞納期間が明確に法律で決まっているわけではなく、信頼関係が破綻しているかがポイントとなります。この判断基準の目安が3ヶ月以上の家賃滞納とされており、「どれくらいの期間借りていたか」「滞納額がいくらか」「なぜ滞納したのか」など、さまざまな事情を裁判所が総合的に判断します。
なお、再三の催促や注意にも関わらず入居者が対応しない場合や、支払う意思が全く見られない状況では、信頼関係破綻の認定がより強くなる傾向があります。
近隣への迷惑行為の反復
近隣住民に迷惑行為を繰り返していることがポイントとなります。単発的な軽微な問題行為では信頼関係破綻には至りませんが、継続的で改善の見込みがない場合には強制退去の根拠となります。
具体的には、騒音の発生、悪臭の放置、暴力的行為、共用部分の不適切な使用などが該当します。入居者の迷惑行為により他の入居者が退去を余儀なくされたり、近隣住民からオーナーが苦情や訴訟を受けるリスクもあるため、放置は避けたほうがよいです。
迷惑行為の程度や周辺住民への影響、借主の改善意識(警告への対応状況等)を総合的に判断して、信頼関係破綻の有無が決定されます。
無断譲渡・転貸・改築・ペット飼育等の重大違反
賃貸借契約に明確に違反する行為として、以下のような重大な契約違反が強制退去を実行できる可能性のある理由となります。
無断譲渡・転貸
無断譲渡・転貸とは、借主が勝手に第三者に賃貸物件を使用させる行為で、民法612条1項で禁止されています。当事者間の信頼関係を前提とする賃貸借契約において、極めて強い背信性をもつ行為として位置付けられており、多くの判例で契約解除が認められています。ただし、親族の一時的な居住など、やむを得ない事情がある場合は例外的に解除が認められない場合もあります。
無断増改築
無断増改築は、既存の建物に変更や損傷を与える行為で、オーナーの所有権を直接侵害することです。契約違反にとどまらず、物理的な財産権の侵害を伴うため、正当事由としても認められやすい傾向にあります。このため、ごく小規模で原状回復が容易な場合を除き、原則として信頼関係の破綻が認められるでしょう。
用途違反
用途違反とは、居住用建物を店舗や事務所として使用するなど、用法順守義務(民法616条で準用する民法594条1項)に違反する行為です。本来の賃貸目的とは全く異なる用途での使用は、逸脱の程度に応じて信頼関係の破綻と判断されます。
ペット無断飼育・入居定員オーバー
ペット無断飼育・入居定員オーバーは、契約書に明記されたペット禁止条項や入居定員の規定に違反する行為です。これらは契約違反と同時に用法順守義務違反にも該当し、違反の程度や継続期間、改善への対応状況等を総合的に考慮して判断されます。
なお、これらの契約違反があっても、その程度が軽微である場合には解除できない場合もあることには注意が必要です。違反の程度、経緯、改善への努力などを総合的に評価して最終判断が行われる点に留意しておきましょう。
入居者の違反が無くても貸主側に正当事由がある場合
入居者に特段の契約違反がなくても、オーナー側に正当な事情がある場合には強制退去が認められる可能性があります。
正当事由が認められる可能性のある主なケースは以下の通りです。
正当事由として認められる可能性があるケース | 貸主都合で正当事由が認められにくいケース |
---|---|
・貸主本人が物件を使用する事情がある ・物件を売却せざるを得ない事情がある |
・単に親族を住まわせたい ・老朽化の度合いが深刻ではない ・好条件の買主が見つかったので売却したい |
貸主の自己使用(居住・事業)
貸主の自己使用も場合によっては強制退去を実行できます。この際、強制退去の正当事由として認められる可能性が高いケースとしては、以下のような状況が挙げられます。
- 貸主が介護を必要とするようになり、介護してくれる家族を住まわせる必要がある
- 貸主が高齢のため賃貸業から引退し、自ら居住する必要がある
- 事業上の必要性から、貸主が物件を使用せざるを得ない状況にある
一方で、単に「親族を住まわせたい」「更地にして家を建てたい」といった貸主の都合のみでは、正当事由として認められる可能性は低くなります。貸主側の事情の切迫性と借主の居住継続の必要性を総合的に判断して、最終的な可否が決定されます。
自己使用を理由とする立ち退き要求では、立ち退き料として現在の家賃の6ヶ月~1年分程度が相場とされており、新たな住居の契約費用や引っ越し業者への依頼費用などが含まれます。
建て替え・大規模修繕が不可避な場合(安全性の観点)
築年数が古いというだけでは正当事由として認められません。倒壊の危険があり、住人に命の危機が迫っているなど、安全性の観点から建て替えが必要と判断される必要があります。
正当事由として認められる可能性が高い建物の状況は以下の通りです。
- 老朽化が深刻で、建て替えや取り壊しの必要性が客観的に認められる
- 新耐震基準を満たしておらず、地震による倒壊の危険が高い
- 構造的な欠陥により、居住者の安全が脅かされる状態にある
- 修繕では対応できないほどの深刻な損傷がある
反対に、以下のようなケースでは正当事由として認められる可能性は低くなります。
- 老朽化の度合いが深刻ではない場合
- 単に「建て替えで資産価値を高めたい」という経済的な理由
- 通常の修繕で対応可能な程度の損傷
建物の安全性に関する客観的な証拠(建物診断書、構造計算書等など)の提示が重要となり、専門家による調査結果に基づいた立証が求められます。
都市再開発・公的事業による立退き(都市計画等)
都市計画法に基づく再開発の場合は、立ち退きを拒否することが困難になります。法律で定められた手続きによる再開発では、最終的には土地が強制的に買い取られることになり、強制退去を実行することが可能になるためです。
具体的なケースとしては、以下のような公的事業が該当します。
- 道路の拡張に伴う土地の収用
- 都市再開発事業による区域整備
- 公共施設の建設に伴う用地取得
- 防災上必要な都市計画事業
これらの場合、補償が他の開発と比較して低くなりがちなため、地権者や入居者が納得して退去してくれないことが多く見られます。しかし、最終的には土地収用法等に基づく強制的な手続きが可能となるため、法的には立ち退きを拒否することは難しいとされています。
ただし、適正な補償や代替地の提供など、関係者の権利保護についても法的に配慮されており、一定の手続きを経た上で実行されることになります。
強制退去を実行する前にまずは任意交渉による解決を目指す
強制退去の法的手続きに入る前に、まずは入居者との任意交渉による解決を試みることが重要です。段階的なアプローチを取れば、問題の早期解決と関係者間のトラブル防止を図れます。
任意交渉による解決方法は主に以下の3つの段階で進めていきます。
- 電話やメール、口頭での任意交渉
- 内容証明郵便で賃料督促や契約解除通知を送付
- 連帯保証人への連絡
これらの段階を適切に踏むことで、法的手続きに進んだ際にも有利な証拠を残せます。
電話やメール、口頭での任意交渉
最初の段階では、未払い賃料の支払いを要求したり、契約違反や近隣トラブルの原因を改善するよう、口頭や手紙で何度も促すことから始めます。この段階では、入居者とのコミュニケーションを重視し、問題解決を図ることが最も重要です。
効果的な任意交渉を行うためのポイントは以下の通りです。
- 穏やかで冷静な対応を心がける
- 問題の具体的な内容と改善期限を明確に伝える
- 入居者の事情にも耳を傾け、現実的な解決策を模索する
- 交渉内容は記録として残しておく
ただし、執拗に交渉したり、感情的になったりすることでトラブルへ発展する恐れがあるため注意が必要です。適度な間隔を置いて継続的にコミュニケーションを図り、相手の立場も考慮した対応を心がけることが重要です。
内容証明郵便で賃料督促や契約解除通知を送付
口頭や書面での交渉でも改善されない場合は、賃料督促や契約解除通知を内容証明郵便で送付します。内容証明郵便は、送付した内容と送付日を証明するもので、法的な証拠として有効です。
内容証明郵便の主な特徴と効果は以下の通りです。
- 郵便局が送付内容と日付を公的に証明
- 賃貸借契約を解除する意思表示をしたことの証明が可能
- 裁判でも必要な書類となる重要な証拠
- 入居者に対して法的手続きへの移行を示唆する心理的圧力
内容証明郵便では、賃貸借契約の解除通知もあわせて行い、正式に契約を解除する旨を伝えます。後々、裁判所に強制退去を申し立てるとき、前もって賃借人に督促した事実を証明できるため、この段階での適切な手続きが重要になります。
なお、内容証明郵便の申し込みは、地方郵政局長が指定した集配郵便局で行い、同じ内容の書類を3部(賃借人用・郵便局の保管用・自分用)用意して、封をせずに提出する必要があります。
※立ち退き通知書の具体的な作成方法については、立ち退き通知書の例をご参照ください。
連帯保証人への連絡
借主が家賃を支払わない場合は、連帯保証人に支払いを求めることも可能です。家賃滞納や無断で増改築し賃貸物件を破損させた等のケースでは、連帯保証人に滞納分の請求または破損の弁償を請求できます。
連帯保証人への連絡を行う際の重要なポイントは以下の通りです。
- 事前に借主に連帯保証人への連絡を予告する
- 予告することでトラブルを避け、関係者間の信頼関係を保つ
- 連帯保証人に対して迅速かつ適切な対応を求める
- 家賃保証会社との契約がある場合は、そちらを優先的に活用する
予告なく保証人に連絡すると、入居者が感情的になる可能性があるため、事前に入居者に対して保証人への請求を予告しておくことが望ましいでしょう。
また、連帯保証人が不明な場合や連絡が取れない場合には、借主に新たな連帯保証人を立てるよう請求できます。契約書に連帯保証人を立てることが定められている場合、借主に対して新たな連帯保証人を立てるよう請求する権利が民法450条第2項で定められています。
なお、賃借人の中には「家賃保証会社」と賃貸保証契約を締結している場合もあります。家賃保証会社であれば、賃借人の家賃滞納や破損の弁償へ迅速に対応するため、個人の連帯保証人よりも確実性が高いといえます。
立ち退き通知書の例
立ち退き通知書は、強制退去手続きにおいて重要な法的書類となります。内容証明郵便で送付することで、後の訴訟において適切な催告を行った証拠として活用できます。
以下に、状況別の立ち退き通知書のテンプレートを示します。実際の作成時は、個別の状況に応じて内容を調整してください。
家賃滞納による立ち退き通知書
契約解除通知書
令和○年○月○日
○○○○ 殿
貸主:○○○○
住所:○○○○
貴殿と当方との間で締結した下記建物の賃貸借契約について通知いたします。
物件の表示
所在地:○○市○○町○丁目○番地○号
建物名:○○アパート○○○号室
契約年月日:令和○年○月○日
貴殿は、上記賃貸借契約に基づく賃料として、令和○年○月分から令和○年○月分までの○ヶ月分、金○○万円の支払いを滞納しております。
つきましては、本書到達後○日以内(令和○年○月○日まで)に上記滞納賃料を完済されるよう催告いたします。
万が一、上記期限までに完済されない場合は、賃貸借契約を解除いたします。
以上
契約違反による立ち退き通知書
契約解除通知書
令和○年○月○日
○○○○ 殿
貸主:○○○○
住所:○○○○
貴殿との間で締結した下記建物の賃貸借契約について通知いたします。
物件の表示
所在地:○○市○○町○丁目○番地○号
建物名:○○アパート○○○号室
貴殿は、上記賃貸借契約第○条に違反し、下記の行為を行っております。
- ○○(具体的な契約違反行為を記載)
- ○○(必要に応じて追加)
つきましては、本書到達後○日以内(令和○年○月○日まで)に上記違反行為を改善されるよう求めます。
上記期限までに改善されない場合は、賃貸借契約を解除いたします。
以上
強制退去(明渡)まで手続きの流れ
強制退去手続きは法的な段階を踏んで進める必要があり「契約解除通知 → 明渡訴訟提起 → 強制執行」の順序で実施しなければなりません。全体の所要期間は一般的に6ヶ月から1年程度を要します。
手続きの段階 | 内容 | 期間の目安 | 主な作業 |
---|---|---|---|
証拠収集・準備 | 訴訟に必要な証拠の収集と整理 | 1〜2ヶ月 | 契約書、催告書、証拠写真等の準備 |
契約解除通知 | 内容証明郵便による正式な契約解除 | 2〜4週間 | 解除通知書の作成・送付・期限経過 |
明渡請求訴訟 | 裁判所への訴訟提起と判決取得 | 3〜6ヶ月 | 訴状作成・証拠提出・口頭弁論・判決 |
強制執行申立て | 執行文付与・強制執行の申立て | 2〜4週間 | 執行文取得・申立書提出・執行官決定 |
強制執行実施 | 催告期日・断行期日の実施 | 3〜4週間 | 催告・公示・強制退去・鍵交換 |
これらの手続きには多額の費用が発生し、原則として家主側が負担することになります。執行官や業者の人件費、出張費、家財家具の運搬費など、さまざまな費用を考慮したうえで手続きを進める必要があります。
訴訟に必要となる証拠や資料の収集
強制退去を請求する前には、訴訟時に必要となる客観的な証拠を十分に収集しておく必要があります。問題を確認した日時、問題行動の内容、写真、録音、他の入居者からの証言など、第三者が見ても事実関係が明確に分かる証拠を準備することが重要です。
証拠収集のチェックリスト
分類 | 必要書類・証拠 |
---|---|
基本書類 | 賃貸借契約書、重要事項説明書、入居時の状況写真 |
家賃滞納関連 | 家賃振込記録、催告書、内容証明郵便、配達証明書 |
契約違反関連 | 違反行為の写真・動画、日時記録、警告書面 |
近隣迷惑関連 | 苦情記録、証言書、録音データ、被害状況写真 |
物件関連 | 不動産登記簿謄本、固定資産評価額証明書、建物図面 |
その他 | 管理会社との連絡記録、連帯保証人への通知書面 |
証拠は時系列で整理し、それぞれに日付や状況の詳細な説明を付けておくことが重要です。また、証拠の改ざんを疑われないよう、オリジナルの保管と適切な記録管理を心がけてください。
賃貸契約の解除を実施
契約解除通知で示した期日までに状況が改善されなければ、賃貸契約の解除を実行します。解除通知は配達証明付き内容証明郵便を使用し、到着予定日の1週間程度後を支払期日として設定します。
解除通知には以下の内容を明記する必要があります。
- 滞納期間と滞納額の詳細
- 支払期限の明確な指定
- 期限までに支払わない場合の契約解除予告
- 法的手続きに移行する旨の通知
期限までに弁済がなく、滞納期間が長期にわたり催告から相当期間が経過していれば、基本的に支払期日が経過した時点で契約は解除となります。
建物明渡請求訴訟を提起
借主が賃貸契約解除後も居座る場合は、建物明渡請求訴訟を提起します。訴状と証拠を用意して管轄の裁判所に申し立てを行います。管轄の裁判所は不動産の所在地を管轄する地方裁判所や、固定資産税評価額によっては簡易裁判所となる場合があります。
訴訟に必要な書類は以下の通りです。
- 不動産登記簿謄本(登記事項証明書)
- 固定資産評価額証明書
- 代表者事項証明書(原告または被告が法人の場合)
- 予納郵便切手
- 収入印紙
- 証拠書類(建物賃貸借契約書、内容証明郵便、配達証明書など)
手続きに不備がなければ1ヶ月程度先の日に裁判期日が設定されます。相手が裁判に出廷せず答弁書も提出しない場合は、原告の主張を認めたものとして1週間程度で判決が出ることもあります。
強制執行を申し立て
貸主が勝訴したにも関わらず、退去せずに居座り続ける場合は、強制執行を申し立てます。勝訴判決をもらっても借主が自主的に退去するとは限らないため、法的強制力を行使する必要があります。
強制執行の申立てには以下の準備が必要です。
- 執行文の付与申請
- 送達証明書の取得
- 強制執行申立書の作成
- 必要書類の添付
- 予納金の準備
申立書が受理され特に問題がなければ執行官が決まり、執行補助者との打ち合わせを行います。相手や物件の状況を説明し、注意事項などを共有して催告期日の日時を決定します。
裁判所の執行官による借主への立ち退き催告
執行官が対象物件に足を運び、相手方に直接催告を行います。室内に入り執行に必要な人員などの見積もりを立て、壁など目立つところに執行断行日を書いた公示書を貼り付けます。
催告期日での主な作業内容は以下の通りです。
- 室内の状況確認と記録
- 公示書の貼付
- 断行期日の告知
- 任意退去の促し
- 必要な作業員数・機材の見積もり
相手が留守であっても合鍵や解錠技術者による解錠で室内に入って手続きを行います。家賃の滞納者が催告書を受け取った後は、指定の期日までに部屋を明け渡さなければなりません。
強制執行の実施
執行断行日までに自主的に退去しない場合は、強制執行が実行されます。執行補助者はトラックや複数の作業員を連れて臨場し、入居者が未だ退去せずに占有している場合は強制的に退去させることになります。
強制執行当日の流れは以下の通りです。
- 執行官による最終確認と退去命令
- 入居者の強制退去(必要に応じて警察の応援要請)
- 家財道具の梱包・搬出作業
- 物件の清掃と原状回復
- 鍵の交換と債権者への引き渡し
- 執行完了の公示
執行官は相手が多少抵抗していても退去させる権限をもち、場合によっては警察の応援も要請して明渡を実施します。荷物については多人数の作業員が効率よく梱包・撤去し、ワンルームであれば1時間程度、一戸建てであっても2〜3時間で作業が完了することが多いです。
撤去された荷物は事前に借りてある倉庫などに保管され、期限内に引き取られなければ売却や廃棄となります。このように相手が仮に判決に従わなかったとしても、確実に明け渡しを実現できます。
建物明渡請求が認められた判例
強制退去に関する法的判断を理解するために、実際に建物明渡請求が認められた代表的な判例を紹介します。これらの判例は、どのような状況で裁判所が強制退去を認めるのか、その判断基準を知るうえで重要な参考となります。
以下では、賃料未払いや迷惑行為、建物の老朽化といった異なる理由による明渡請求が認められた事例を、実際の裁判所の判断とその根拠を含めて詳しく解説していきます。
判例①:賃料の一部しか支払わない借主に対する建物明渡請求が認められた事例
項目 | 内容 |
---|---|
①貸主が建物の明け渡しを求めた理由 | 借主が地下のライブハウスからの騒音を理由に賃料の一部しか支払わず、未払賃料が1048万円余に達したため |
②判決の内容 | 借主の慰謝料請求200万円を一部認めたものの、契約解除と建物明渡請求を認容。未払賃料1062万円余の支払いを命令 |
③判例の概要 | 東京地裁 平成26年9月2日判決(一部認容) 騒音被害による慰謝料請求があっても、賃貸借契約上の賃料支払義務は免れないとした事例 |
この判例では、借主が「下の階のライブハウスがうるさいから」という理由で家賃を一部しか払わず、3年間で未払い金額が1000万円を超えてしまいました。裁判所は借主の騒音被害による精神的苦痛を認めて200万円の慰謝料を認定しましたが、それでも賃料支払義務は免れないと判断しました。
重要なのは、賃貸借契約において賃料の支払いは借主の基本的義務であり、騒音等の問題があっても「貸主との新たな合意なしには賃料が当然に減額されるものではない」という法的原則が確認されたことです。この判決は、環境問題があっても契約上の義務履行が求められることを示す重要な判例となっています。
判例②:迷惑行為をした借主に対する建物明渡請求が認められた事例
項目 | 内容 |
---|---|
①貸主が建物の明け渡しを求めた理由 | 借主が夜中や明け方に他の部屋を訪問し、インターホンを鳴らす、玄関ドアをたたく等の迷惑行為を繰り返し、他の2部屋の住人が退去したため |
②判決の内容 | 契約約款の解除事由(粗野又は乱暴な言動、信頼関係の著しい損傷)に該当するとして契約解除と建物明渡請求を認容 |
③判例の概要 | 東京地裁 令和3年6月30日判決(認容) 賃借人の迷惑行為により他の入居者が全て退去した事案で、契約約款に基づく解除を有効とした事例 |
この判例では、借主が入居後わずか2ヶ月で理由もなく夜中や明け方に他の部屋を訪問し、インターホンを鳴らしたり玄関ドアをたたく等の迷惑行為を継続的に行いました。警察への通報が何度も行われ、最終的には全4部屋のうち他の2部屋の住人が迷惑行為を理由に退去する事態となりました。
裁判所は、契約約款に明記された「粗野又は乱暴な言動により他の入居者に迷惑・不快の感を抱かせる行為」および「信頼関係が著しく損なわれた場合」の解除事由に該当すると判断しました。この事例は、契約書に迷惑行為禁止条項と解除条項を明記することの重要性を示すとともに、継続的な迷惑行為が他の入居者の退去を招いた場合の法的責任を明確にした重要な判例です。
判例③:ビルの老朽化に伴う建物明渡請求が認められた事例
項目 | 内容 |
---|---|
①貸主が建物の明け渡しを求めた理由 | 築40年以上の旧耐震建物で耐震診断の結果、地震による倒壊・崩壊の危険性が高く、特定緊急輸送道路沿いの建物として建て替えが必要なため |
②判決の内容 | 4000万円余の立退料支払いをもって正当事由が認められ、建物明渡請求を認容 |
③判例の概要 | 東京地裁 令和元年5月12日判決(認容) 特定緊急輸送道路沿いの旧耐震建物について、安全性の観点から建て替えの必要性が認められた事例 |
この判例では、昭和49年に建築された築40年以上の旧耐震建物について、耐震診断の結果、構造耐震指標(Is値)が各階平均0.11~0.29となり、地震による倒壊・崩壊の危険性が高いことが判明しました。特に建物が特定緊急輸送道路沿いに位置することから、東京都の耐震化推進条例に基づく建替え要請があり、安全性の観点から建替えの必要性が客観的に認められました。借主は美術品販売業を営み、店舗立地による営業上の必要性を主張しましたが、裁判所は相当な宣伝等により類似環境での営業継続も可能と判断しました。
この事例は、単なる築年数の古さではなく、客観的な耐震診断結果と公的な建替え要請がある場合に、相当額の立退料支払いを前提として正当事由が認められることを示す重要な判例です。
強制退去にかかる費用の内訳と相場
強制退去手続きには複数の段階で費用が発生し、その総額は数十万円から百万円を超える場合もあります。事前に費用の全体像を把握しておけば、適切な判断を行うことが可能です。
以下が強制退去にかかる主要な費用の内訳と相場です。
手続きの段階 | 費用項目 | 費用相場 | 備考 |
---|---|---|---|
任意交渉段階 | 内容証明郵便の送付 | 1,300円~ | 郵便局での手続きの場合 |
訴訟段階 | 明渡請求訴訟 | 2万円~4万円 | 収入印紙代・予納金・切手代等 |
弁護士費用(訴訟) | 30万円~40万円 | 着手金・報酬金含む | |
強制執行段階 | 強制執行の実施 | 30万円~50万円 | 部屋の大きさや家財量で変動 |
その他 | 諸経費・実費 | 5万円~15万円 | 交通費・調査費用・書類取得費等 |
これらの費用は基本的にオーナーが最初に支払うことになり、滞納された家賃と合わせると、かなりの出費になってしまうため、強制退去を検討する際は、費用対効果を慎重に検討しましょう。
弁護士への依頼費用
弁護士への依頼費用は、強制退去手続きの中で最も高額になる項目の一つです。一般的な相場は30万円~40万円程度ですが、事案の複雑さや地域によって変動します。
弁護士費用の内訳は以下の通りです。
- 着手金:15万円~25万円(事件受任時に支払い)
- 報酬金:15万円~25万円(事件解決時に支払い)
- 日当:1万円~3万円(裁判期日1回あたり)
- 実費:交通費、書類取得費、通信費等
また、内容証明郵便の作成を弁護士に依頼する場合は、約5万円の費用が別途発生します。ただし、弁護士費用だけは法律上「強制執行の費用」に含まれないため、借主に請求することができません。これは実務上よく間違われるポイントです。
内容証明郵便の送付費用
内容証明郵便は、契約解除通知や賃料督促において重要な証拠となる書面です。郵便局で直接手続きを行う場合の費用は1,300円程度と比較的低額ですが、弁護士に依頼する場合は作成費用が加算されます。
郵便局での手続き費用の詳細内訳は以下の通りです。
- 内容証明料:420円
- 書留料:420円
- 配達証明料:300円
- 郵便料金:80円(基本)
- 追加料金:2枚目から1枚増すごとに250円
内容証明郵便は、いつ、いかなる内容のものを誰から誰へ宛てて差し出したかを日本郵便が証明する制度で、裁判では必ず必要な書証類となるため、適切な手続きで送付することが重要です。
明渡請求訴訟にかかる費用
建物明渡請求訴訟では、裁判所に対する手数料や予納金などの費用が発生します。一般的な相場は2万円~4万円程度ですが、訴額や物件数によって変動します。
明渡請求訴訟の費用内訳は以下の通りです。
- 収入印紙代:訴額に応じた手数料(数千円~数万円)
- 予納金:基本額65,000円(物件や相手方が増すごとに25,000円追加)
- 予納郵便切手:約6,000円
- 書類取得費:不動産登記謄本、固定資産評価額証明書等
また、法人が当事者となる場合は代表者事項証明書の取得費用も必要になります。これらの費用は訴訟提起時に裁判所に納付する必要があり、事前の資金準備が不可欠です。
強制執行にかかる費用
強制執行の実施には、執行官の費用や荷物撤去・保管費用など多額の費用が発生します。一般的な相場は30万円~50万円程度ですが、部屋の大きさや家財の量によって大きく変動します。
強制執行費用の主な内訳は以下の通りです。
- 執行官費用:催告期日・断行期日の手数料
- 執行補助者費用:作業員の人件費・トラック使用料
- 荷物撤去費用:家財道具の梱包・搬出作業
- 保管費用:倉庫等での一時保管料
- 廃棄費用:引き取りがない荷物の処分費
ワンルームでも最低30万円程度、一戸建てや荷物が多い場合は100万円を超える場合もあります。これらの費用は事前に予納する必要があり、執行前に相当額の資金準備が求められます。
強制退去にかかる費用は借主に請求できる場合もある
法律上は強制退去にかかる費用を借主に請求することが可能です。民事執行法第42条に「強制執行の費用で必要なものは、債務者の負担とする」と明記されており、これが費用請求の法的根拠となります。
しかし、実際の回収には以下のような困難が伴います。
- 借主の資力不足:家賃を滞納していた借主は経済的に困窮している場合が多い
- 自己破産のリスク:借主が自己破産すると費用請求ができなくなる
- 所在不明:強制退去後に借主と連絡が取れなくなるケース
- 弁護士費用の除外:弁護士費用は強制執行費用として認められない
結果的に貸主の負担になってしまうケースが大半であるため、費用回収を前提とした計画は現実的ではありません。強制退去を検討する際は、これらの費用を全て貸主負担として考慮し、家賃滞納分と合わせた総損失額を把握したうえでの判断が重要です。
費用請求が可能な場合でも、回収の実現性を慎重に検討し、専門家と相談しながら適切な対応策を検討することをおすすめします。
強制退去を実行する際の注意点
強制退去を実行する際には、法的リスクを回避するための重要な注意点があります。適切な手順を踏まずに進めると、逆にオーナー側が法的責任を問われる可能性があるため、以下の点に十分注意する必要があります。
- 自力救済はNG!貸主側が不利になる可能性あり
- 強制退去の執行前は話し合いで解決する必要がある
- 入居者の自己破産を理由に強制退去は迫れない
- 店舗の立ち退きは立退料が高額になる場合もある
これらの注意点を無視して進めると、損害賠償請求や刑事責任を問われるリスクがあります。法的手続きを正しく理解し、専門家のアドバイスを受けながら慎重に対応することが不可欠です。
自力救済はNG!貸主側が不利になる可能性あり
貸主が勝手に鍵を交換したり、借主の荷物を無断で撤去するような「自力救済」は認められていません。どれほど正当な理由があっても、法的手続きを経ずに実力行使を行うことは違法行為となります。
自力救済が禁止される理由と具体的なリスクは以下の通りです。
- 住居侵入罪:借主が留守中に無断で室内に立ち入る行為
- 器物損壊罪:借主の荷物を勝手に処分・移動する行為
- 不退去罪:貸主が借主の部屋に居座り退室しない行為
- 損害賠償責任:違法行為による精神的・財産的損害の賠償義務
実際に自力救済が違法と判断された重要な判例があります。東京地裁平成22年10月15日判決では、管理会社が長期不在の借主の家財等を処分し、鍵を付け替えた行為について、「自力救済は原則として法の禁止するところであり、緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ例外的に許される」と判示されました。
この事例では、借主がアルコール依存症の治療で入院中に、管理会社が異臭を理由に室内の荷物を処分し鍵を交換しましたが、裁判所は以下の理由で違法な自力救済と認定しました。
- 賃貸借契約に自力救済を認める条項があっても直ちに適法とはならない
- 害虫の発生や異臭の流出は現実化しておらず、緊急性が認められない
- 福祉事務所に連絡すれば借主の所在を確認できたのに措置を講じなかった
結果として管理会社は、財産的損害40万円、精神的損害60万円、弁護士費用10万円の合計110万円の損害賠償を命じられました。この判例は、契約条項があっても自力救済は原則違法であることを明確に示しています。
強制退去の執行前は話し合いで解決する必要がある
強制退去が執行される前の段階では、任意交渉をし、自主的に退去を促すしか方法がありません。賃借人は生活の拠点を失う以上、どんなに自分に原因があると感じていても抵抗する可能性が高いため、粘り強い交渉が必要です。
効果的な任意交渉のポイントは以下の通りです。
- 感情的にならず、冷静で理性的な対応を心がける
- 借主の事情にも耳を傾け、現実的な解決策を模索する
- 契約違反の事実と法的手続きの可能性を明確に伝える
- 自主退去に応じた場合のメリットを提示する
もし交渉がうまく進まない場合は、弁護士に依頼する方がスムーズに解決できる可能性があります。弁護士を賃借人との交渉役にすれば、理性的な話し合いができる他、賃借人は法的手続きへの移行を意識してプレッシャーを感じ、自主的な退去に応じる可能性が高まります。
また、強制退去にまで至れば、裁判所の執行官や専門業者が撤去を行い、賃借人が抵抗しても執行官は警察に応援を要請して手続きを進めます。このような事態を避けるためにも、早期の任意交渉が重要です。
入居者の自己破産を理由に強制退去は迫れない
入居者の自己破産を理由に、賃貸契約解除はできません。自己破産で部屋を解約して退去しなければいけない事態となれば、賃借人は生活の拠点を失い、路頭に迷う事態となってしまいます。
自己破産と賃貸借契約の関係について重要なポイントは以下の通りです。
- 居住権の保護:自己破産しても居住する権利は保護される
- 契約継続の原則:家賃を支払い続けていれば契約は継続される
- 解除事由の限定:破産それ自体は契約解除事由にならない
- 信頼関係破綻の必要性:別途の契約違反が必要
入居者が自己破産しても家賃を支払い続けていれば、入居者は賃貸物件に住み続けられます。ただし、賃借人が自己破産前に家賃を滞納していたなど、賃貸人との信頼関係を破壊するような事実がある場合は、その契約違反を理由として賃貸借契約の解除や強制退去の手続きを進めることが可能です。
つまり、自己破産自体ではなく、家賃滞納や契約違反といった別の正当事由が必要となります。この点を正しく理解して対応することが重要です。
店舗の立ち退きは立退料が高額になる場合もある
店舗の立ち退きでは、居住用物件と比較して立退料が高額になる場合があります。営業を行っている店舗の場合、単純な引っ越し費用だけでなく、営業上の損失も考慮されるためです。
店舗と住宅用賃貸の立退料の主な違いは以下の通りです。
項目 | 住宅用賃貸 | 店舗用賃貸 |
---|---|---|
引っ越し費用 | 家財移転費・新居契約費 | 店舗設備移転費・新店舗契約費 |
営業補償 | なし | 休業補償・減収補償・営業権補償 |
設備関連 | 一般家具・家電 | 専門設備・内装工事・看板等 |
その他 | 一時的な宿泊費等 | 顧客への通知費・従業員対応費 |
店舗の立退料が高額になる理由は以下の通りです。
- 営業権の価値:長年培った顧客基盤や立地の商業的価値
- 休業損失:移転期間中の売上減少や機会損失
- 設備投資:専門的な店舗設備や内装の移設・再構築費用
- 借家権価格:商業地域での権利金相当額
店舗の立退料の目安は、一般的に住宅用の2〜5倍程度とされ、業種や立地により数百万円から数千万円に及ぶ場合もあります。特に以下のような要素が金額に大きく影響します。
- 営業年数と売上規模
- 立地の商業的価値
- 代替物件取得の困難性
- 顧客基盤の移転可能性
- 設備の特殊性と移設費用
店舗の立ち退きを検討する際は、住宅用賃貸とは大きく異なる高額な立退料が必要となることを十分に理解し、事前に専門家に相談して適切な金額を算定しましょう。
強制退去を弁護士に任せるメリット
強制退去手続きは法的な複雑さを伴うため、専門家である弁護士に依頼することで多くのメリットが得られます。法律知識の不足や手続きのミスによるリスクを回避し、効率的で確実な問題解決を図ることが可能です。
弁護士に依頼する主なメリットは以下の通りです。
- 強制退去にかかる交渉や手続きの負担を軽減できる
- 早期解決につながる可能性がある
- 法的知見をもとに最適な提案が受けられる
特に強制退去は大家にとって精神的な負担が大きい手続きであり、法的トラブルに発展するリスクも高いため、専門家のサポートを受けることで安心して問題解決に取り組めます。
強制退去にかかる交渉や手続きの負担を軽減できる
弁護士に依頼すれば、借主との交渉や手続きを任せられるため、手間も精神的負担も軽減できます。弁護士は法律に基づいて適切な交渉を行うため、大家が不利な条件で和解してしまうリスクを減らせます。
弁護士に任せられる具体的な内容は以下の通りです。
手続き段階 | 弁護士が対応する内容 | オーナーの負担軽減効果 |
---|---|---|
任意交渉段階 | ・借主との直接交渉 ・内容証明郵便の作成・送付 ・連帯保証人への連絡 |
・感情的な対立を回避 ・精神的ストレスの軽減 |
訴訟準備 | ・証拠資料の整理・分析 ・訴状の作成 ・必要書類の取得 |
・専門知識不要 ・時間の節約 |
訴訟手続き | ・裁判所への出廷 ・法廷での主張・立証 ・和解交渉 |
・法廷出席不要 ・専門的対応の安心感 |
強制執行 | ・執行文付与申請 ・執行官との調整 ・執行立会い |
・複雑手続きの代行 ・現場対応の負担軽減 |
また、強制退去は大家にとって精神的な負担が大きい手続きです。弁護士に依頼することで、交渉だけでなく手続きに関する一切の事務を任せられるため、精神的な負担を大幅に軽減できます。特に借主との直接的な対立を避けられることで、感情的なトラブルに発展するリスクも回避できます。
早期解決につながる可能性がある
弁護士に依頼することで、早期に問題を解決できる可能性が高くなります。弁護士は強制退去に関する専門知識と経験をもっており、手続きをスムーズに進められるためです。
早期解決につながる具体的な理由は以下のような点にもあります。
- 専門知識の活用:法的要件を満たした適切な手続きを最初から実行
- 経験に基づく判断:類似事例の経験から最適な戦略を選択
- 効率的な書類作成:法的に有効な書面を迅速に作成
- 裁判所との円滑な連携:手続きの遅延やミスを防止
- 心理的プレッシャー:借主に対する法的手続きへの意識づけ
強制退去は法的な手続きであるため、誤った対応をすると法的なトラブルに発展する可能性があります。弁護士は強制退去の手続きを熟知しており、交渉をスムーズに進めて手続きの遅延やミスを防ぎ、迅速かつ確実な強制退去が実現できます。
また、弁護士が代理人として介入すれば、借主に対して「法的手続きに移行する可能性」を明確に示すことができ、任意退去に応じる確率も高まります。
法的知見をもとに最適な提案が受けられる
状況に応じて、費用と時間がかからない代替案を提案してくれる可能性があります。弁護士の経験と知識を活用することで、効率的かつ効果的な解決策を見つけられます。
弁護士が提案する代替的解決方法の例は以下の通りです。
- 調停手続きの活用:裁判所での話し合いによる円満解決
- 分割払い合意:滞納家賃の現実的な回収方法
- 任意退去の条件交渉:一定の譲歩による早期解決
- 保証会社との連携:代位弁済後の効率的な処理
- 和解による解決:訴訟費用を抑えた合意形成
また、強制退去を行う場合でも、最も費用対効果の高い方法を選択し、不要な支出を抑えることが可能です。具体的には以下のような提案を受けられます。
- 事案の性質に応じた最適な法的手続きの選択
- 証拠収集の効率化と費用削減
- 執行方法の工夫による執行費用の最適化
- 回収可能性を考慮した現実的な戦略立案
法律の専門家として、個別の事情を総合的に判断し、最もリスクが少なく効率的な解決方法を提案してもらえるため、結果的に時間とコストの両面で大きなメリットを得られるでしょう。
まとめ
強制退去は賃貸物件オーナーにとって最終手段であり、適切な法的手続きを経て実行する必要があります。家賃滞納や契約違反があっても、催告、契約解除通知、訴訟提起、強制執行という段階的な手続きを必ず踏まなければなりません。
強制退去を進めるうえで重要なポイントを以下の通りです。
- 強制退去の条件は信頼関係の破綻が前提となり、家賃滞納は3ヶ月以上が目安
- 手続き全体には6ヶ月から1年程度の期間と数十万円から数百万円の費用が発生
- 自力救済は法的に禁止されており、必ず適正な手続きを経る必要がある
- 費用は法律上借主に請求できるが、実際の回収は困難なケースが多い
- 店舗の立ち退きは住宅用と比較して高額な立退料が必要となる場合がある
強制退去は複雑な法的手続きであり、一つのミスが重大なリスクを招く可能性があります。問題のある借主への対応でお悩みの場合は、早期に弁護士に相談することを強く推奨します。専門家のサポートを受ければ、法的リスクを回避しつつ適切な解決を図ることができるでしょう。
強制退去に関するよくある質問
入居者と連絡が取れない場合はどうすればいい?
入居者と連絡が取れない場合の対処の流れは以下の通りです。
段階 | 対応内容 |
---|---|
①関係者への連絡 | ・連帯保証人への連絡 ・緊急連絡先への確認 ・入居者の家族への連絡 ・職場への状況確認(可能な範囲で) |
②現地確認 | ・警察への相談・同行依頼 ・室内の状況確認(安全確認のため) ・郵便受けの確認 ・近隣住民への聞き取り |
③法的手続きの準備 | ・所在不明の証拠収集 ・公示送達の申し立て準備 ・契約解除の意思表示 ・弁護士への相談 |
公示送達とは、住所不定の場合において内容証明郵便などでの意思表示ができないため、一定期間裁判所の掲示板に掲示することで意思表示する方法です。民法98条1項に基づき、簡易裁判所で2週間公示することで契約解除の意思表示が可能になります。
また、不慮の事故により音信不通になっている場合もあるため、関係者に連絡を取って入居者の状況を把握するケースもあります。ただし、自力救済は禁止されているため、室内への立ち入りは必ず適切な手続きを経て行う必要があります。
夜逃げされた場合はどうしたらいい?
入居者に夜逃げされた場合でも、勝手に残置物を処分することはできません。民事訴訟による賃貸借契約解除の手続きと強制執行が必要となります。
夜逃げされた場合の対処法は以下の通りです。
ステップ | 具体的な対応 |
---|---|
夜逃げの確認 | 連帯保証人への連絡と協力要請 |
警察への相談と同行依頼 | |
室内確認による夜逃げの事実確定 | |
夜逃げの証拠保全(写真撮影等) | |
契約解除手続き | 公示送達による契約解除通知 |
民事訴訟による契約解除請求 | |
裁判所への夜逃げ証拠提出 | |
契約解除の判決取得 | |
残置物の処分 | 強制執行の申し立て |
執行官による残置物撤去 | |
撤去費用の負担(基本的にオーナー負担) | |
原状回復工事の実施 |
重要な点として、連帯保証人に対する建物の明渡請求は認められません。連帯保証人は金銭的な保証責任は負いますが、物件の明け渡し義務まで負うものではありません。
また、撤去費用や原状回復費用は基本的にオーナー負担となってしまうため、夜逃げによる損失は相当額になる可能性があります。このような状況では、法的手続きの適正性を確保するために弁護士への相談が不可欠です。