離婚時の財産分与で共有名義不動産はどうするべき?共有名義の解消方法や財産分与の手順

離婚時の財産分与で共有名義不動産はどうするべき?共有名義の解消方法や財産分与の手順

離婚をする場合、「財産分与の際には共有名義の不動産はどうやって分配するのか」「共有名義状態のままでもよいのか」などと考えることでしょう。

そもそもですが、離婚時の財産分与で分配されるのは、結婚生活で夫婦が協力して形成された共有財産です。結婚生活で購入した不動産であれば出資した金額などにかかわらず、原則共有名義の不動産は離婚時の財産分与で分配される共有財産となります。

そして、分配の割合は夫婦で話し合って決定されますが、財産分与では「おおかた1:1ずつで分配する」という考えが一般的であるため、夫婦の共有持分にかかわらず共有名義の不動産は半分ずつで分配されるのが基本です。

つまり、離婚時の財産分与では、基本的に夫婦の共有財産が半分ずつ分配され、それに基づいて共有名義の不動産をどのように分けるかを離婚相手と話し合って決めていくことになります。

なお、共有名義状態を放置して財産分与を進めるのは避けるべきです。共有名義状態を放置することにはリスクがあり、そのまま財産分与を進めると将来的にトラブルが起きる可能性があるからです。

当記事では、「離婚時の財産分与で共有名義不動産をどうするべきか」をテーマに、共有財産を財産分与する流れや共有名義状態を解消する方法について解説していきます。

共有名義の不動産を財産分与することで発生する税金についても解説するため、離婚の財産分与をする場合には参考にしてみてください。

目次

離婚時の財産分与では共有持分は関係なし!共有名義不動産は半分ずつで分与される

離婚時の財産分与の際に、「共有名義の不動産は共有持分の割合で分配するのか」などと考えている人もいることでしょう。

離婚時の財産分与では、共有名義の不動産の共有持分は関係ありません。財産分与の割合は、基本的にお互い2分の1ずつと考えられているからです。

極端な例ですが、3,000万円の共有名義不動産を財産分与する場合、基本的には夫婦それぞれに1,500万円ずつ分配されます。そのため、出資した金額にかかわらず、財産分与の際には共有名義の不動産は分配されるのが一般的です。

ただし、財産分与の割合は法律などで定められているわけではなく、あくまで夫婦間での話し合いで決定されます。財産分与の割合の目安として2分の1とされているだけであり、お互いが合意しているのであればどのように財産を分配しても問題ありません。

財産分与の種類によって共有名義不動産の分配が変わる

前提として離婚の際の財産分与には、「清算的財産分与」「扶養的財産分与」「慰謝料的財産分与」の3種類があります。財産分与の話し合いでは、これらのいずれかの種類をもとに共有財産の分配割合が決定されます。

財産分与の種類 概要
清算的財産分与 結婚生活の間に夫婦で協力して築いた共有財産を夫婦それぞれの貢献度に応じて公平に分配する方法。
財産分与の際に最も取られやすい。
扶養的財産分与 離婚によってどちらかの生活が困窮する場合、経済的に余裕がある方がより多く共有財産を渡す方法。
慰謝料的財産分与 慰謝料請求としての意味も持つ財産分与の方法。夫婦間で紛争が起きている場合に取られやすい。

どの財産分与の種類を取るかによって、共有名義の不動産の分配割合が変わるケースがあります。多くのケースでは清算的財産分与が選択されますが、「相手が専業主婦(主夫)である」といった場合には扶養的財産分与、「慰謝料の請求問題が起きている」という場合は慰謝料的財産分与が取られるのが一般的です。

ここからは、財産分与の3種類について、それぞれ詳しく解説していきます。

清算的財産分与なら2分の1ずつが原則

「財産分与の際には原則2分の1ずつ共有財産が分配される」と前述しましたが、これは清算的財産分与に基づいた考え方です。

清算的財産分与(せいさんてきざいさんぶんよ)とは、結婚生活の間に夫婦で協力して築いた共有財産を夫婦それぞれの貢献度に応じて公平に分配する方法のことです。離婚の財産分与の際には、主に清算的財産分与の考え方が取られます。

清算的財産分与を簡単にまとめると、「収入や不動産購入の出資金額などで夫婦間に差があったとしても、財産分与の割合は2分の1になる」というものです。そのため、共働きであっても専業主婦(主夫)であっても、共有財産は基本的に2分の1ずつ分配されます。

たとえば、配偶者が働いており自身に収入がない場合、配偶者の収入によって生計を立てることになります。だからといって自身の共有財産の割合が極端に少なくなるのではなく、清算的財産分与の考えから、共有名義不動産を含めた財産を半分受け取ることが可能です。

扶養的財産分与なら経済的に弱い立場が多く分配される

扶養的財産分与(ふようてきざいさんぶんよ)とは、離婚によってどちらかの生活が困窮する場合、経済的に余裕がある方がより多く共有財産を渡す方法のことです。

清算的財産分与の考えから2分の1ずつ共有財産を分配すると、離婚後の生活が経済的に困窮してしまう場合があります。そのような場合、離婚後の生活が経済的に苦しくなる人に対して、共有財産を2分の1以上渡して財産分与が行われるのです。

具体的には、下記のようなケースで扶養的財産分与が取られるのが一般的です。

  • どちらかが専業主婦(主夫)であり収入がない
  • どちらかが病気によってすぐに働けない状態にある
  • 高齢であるため就職先が見つかりづらく働くのが難しい
  • 子どもが幼いため離婚後すぐに働くのが難しい

扶養的財産分与による共有財産の分配割合は、夫婦間の話し合いによって決定されます。「離婚後の生活がどの程度困窮するのか」などを考慮したうえで、「共有財産を2分の1ずつ分配して、離婚後も一定期間⚪︎⚪︎円を一方が支払う」のような内容になるのが一般的です。

慰謝料的財産分与では慰謝料も考慮して分配される

離婚する原因が不倫やDVなどである場合、夫婦間で慰謝料の請求問題が起きるケースがあります。そのような際には、慰謝料的財産分与の考えをもとに財産分与が行われるのが一般的です。

慰謝料的財産分与(いしゃりょうてきざいさんぶんよ)とは、慰謝料請求としての意味も持つ財産分与の方法のことです。

前提として、慰謝料の請求と財産分与は、基本的にそれぞれ別の法律問題として考えられます。しかし、離婚の原因に対する慰謝料の請求については、その事情を考慮して財産分与を行うのが妥当とされています。

具体的には、「慰謝料の支払い義務がある方が共有財産を多く渡す」「共有財産を2分の1で分配したうえに金銭や自動車、家などを渡す」といった形で慰謝料的財産分与が行われます。

共有名義の不動産などの共有財産を財産分与する流れ

「離婚時の財産分与ではどのように共有財産を分配するのだろう」と考える人もいることでしょう。そこで、共有名義の不動産などの共有財産を財産分与する流れをまとめました。

あくまで大まかな流れにはなりますが、下記のような流れで財産分与は行われます。

  1. 財産分与の対象となる財産をリストアップして「財産目録」を作成する
  2. 共有名義の不動産に住宅ローンが残っている場合は金融機関に連絡する
  3. おおかた1:1になるように共有財産を分配するための話し合いをする
  4. 離婚協議書を作成する
  5. 夫婦間での話し合いでは解決が難しいなら弁護士や司法書士に相談する

ここからは、共有名義の不動産などの共有財産を財産分与する流れについて、それぞれ解説していきます。財産分与の流れがわからない場合には参考にしてみてください。

財産分与の対象となる財産をリストアップして「財産目録」を作成する

財産分与の際には、まず財産分与の対象となる共有財産をリストアップしておきます。リストアップしたものを「財産目録」といいます。

「財産目録はこのように作成しなければならない」のような定めはなく、夫婦間だけで作成も可能です。イメージとしては下記のように財産目録は作成されます。


引用元:国税庁「「財産目録」の書き方

財産分与の対象となる共有財産には、結婚生活の間に夫婦で形成した財産すべてが該当します。共有名義の不動産のようにプラスの財産だけではなく、住宅ローンなどのマイナスの財産も該当するため注意が必要です。

一例にはなりますが、財産分与の対象になり得る共有財産には下記が挙げられます。

対象になり得る財産 ・不動産
・現金
・預貯金、定期預金
・株式、有価証券
・自動車
・生命保険の返戻金
・退職金
・住宅ローン、自動車ローン、教育ローンなどの借金
対象にならない財産 ・相続や贈与により取得した財産
・婚姻する前から持っていた財産
・別居中に作った財産

財産分与の対象になるのは、夫婦の協力で形成された財産であるため、「結婚前から持っていた」「親などからもらった」などの財産は財産分与の対象にはなりません。

なお、財産分与のリストアップや財産目録は、弁護士や司法書士に作成を依頼することも可能です。目安として5万円~10万円ほどの費用がかかりますが、「財産が多すぎてリストアップが難しい」というような場合には弁護士や司法書士への依頼を検討してみてもよいでしょう。

共有名義の不動産に住宅ローンが残っている場合は金融機関に連絡する

共有名義の不動産に住宅ローンの残債がある場合には、その金融金機関への連絡が必要です。

住宅ローンが残っているにもかかわらず、金融機関の同意なしで不動産の名義人を変更したり、契約者や保証人が物件から出ていってしまったりすると、契約違反となり残債の一括返済を求められる可能性があります。

そのため、財産分与の前には住宅ローンの金融機関に連絡をして、「今後は誰が主債務者となるのか」「連帯保証人はどうするのか」などを交渉しておく必要があるのです。

なお、共有名義の不動産に住宅ローンが残っている場合、下記のいずれかで契約していると考えられますが、金融機関に連絡をしなければどの場合においても契約違反になり得ます。

  • ペアローン:夫婦ともに債務者となり、1つの不動産に2つの住宅ローンが契約されている状態
  • 連帯保証:夫妻のどちらかが債務者となり、他方が連帯保証人となっている状態
  • 連帯債務:夫婦ともに債務者となり、1人が主債務者で他方が連帯債務者として1つの不動産に1つの住宅ローンが契約されている状態

おおかた1:1になるように共有財産を分配するための話し合いをする

前述したように、財産分与の分配割合は清算的財産分与の考えから、おおかた1:1になるのが基本的です。そのため、リストアップした共有財産を1:1に分配できるように、どのように財産を分けるかを夫婦間で話し合いをします。

たとえば、下記のように共有財産を所有している場合を想定します。

  • 資産価値3,000万円の共有名義不動産で、住宅ローンが1,500万円残っている
  • 預貯金が1,000万円、資産価値500万円の自動車を所有している

このケースの場合、夫が共有名義不動産と住宅ローンの残債(合計1,500万円)、妻が預貯金と自動車(合計1,500万円)を受け取ることで、おおかた1:1で共有財産を分配できます。

なお、扶養的財産分与や慰謝料的財産分与の考えから財産分与をする場合、財産分与の分配割合は1:1にならないケースもあります。あくまで夫婦間での話し合いによって分配割合は決定されるため、お互いが納得できるように話を進めていきましょう。

離婚協議書を作成する

話し合いだけでは後にトラブルが起きる可能性があるため、財産分与の際には離婚協議書を作成しておくのがよいでしょう。

離婚協議書とは、夫婦間での離婚条件を整理し確認するための合意書のことです。一方が勝手に作成することはできず、夫婦間での合意があってから作成できます。

離婚協議書は司法書士や弁護士に依頼せず、夫婦間だけで作成することも可能です。書式に法的な定めはなく、下記のように作成されます。

                    離婚協議書

夫⚪︎⚪︎(以下甲という)と妻⚪︎⚪︎(以下乙という)は、甲乙間の離婚の解消に関する件で、以下のとおり合意する。

第○条 (離婚の合意)
甲及び乙は、本日協議離婚をすることに合意し、本協議書作成後、離婚届に所定の記載をして各自署名押印するものとする。

第○条 (財産分与)
甲は乙に対し、財産分与として、金⚪︎円の支払義務があることを認め、これを一括し
て、令和⚪︎年⚪︎月末日限り、乙名義の⚪︎銀行⚪︎支店の普通預金口座(口座番号:⚪︎⚪︎⚪︎)に振り込む方法で支払う。

夫婦間での話し合いでは解決が難しいなら弁護士に相談する

財産分与は夫婦間の話し合いで行われ、お互いの合意のもとでどのように財産を分配するのかが決まります。「絶対に〇〇のように分配する」と定められているわけではないため、場合によっては夫婦間で話がこじれてしまうこともあります。

夫婦間だけで財産分与が解決できないような場合、弁護士に相談することも検討してみてください。弁護士に依頼することで、依頼者の代理人として他方との交渉を行ってもらえるため、夫婦間での話し合いが難航した場合には得策です。

また、離婚問題が調停や裁判に発展してしまった場合には、依頼者の代理人としてさまざまな手続きを代行してもらえます。

あくまで一例ですが、下記のような状況であれば弁護士に相談することを検討してみてください。

  • 財産分与に関してお互いの意見がまとまらず、話し合いで解決できる状態ではない
  • 相手がストーカーのような状態になっている
  • 離婚の原因がDVなどで、相手に会って話し合うことすら難しい

離婚時の財産分与では共有名義状態を放置せずに解消するべき

離婚の財産分与をする人のなかには、「不動産の共有名義状態はどうするべきか」と考える人もいることでしょう。なかには、「登記手続きなどが面倒だから共有状態のまま放置しよう」と考えている人もいるかもしれません。

結論からいえば、離婚時の財産分与では、不動産の共有名義状態を放置せずに解消するべきといえます。不動産の共有名義状態を放置してしまうことには、下記のようなリスクがあるためです。

  • 売却などの際に同意が必要なため離婚した後も夫婦間でやり取りが必要
  • 共有名義の代表者が住んでいないと維持管理費のトラブルが起きる可能性がある
  • 共有者が増えてしまい相続時にトラブルが起こりやすい
  • どちらかが住宅ローンを滞納すると最終的に共有名義不動産が差し押さえられる
  • 住宅ローンの契約違反に該当して一括返済を求められる可能性がある

ここからは、離婚時の財産分与では共有名義状態を放置せずに解消するべき理由を、それぞれ詳しく解説していきます。

売却などの際に同意が必要なため離婚した後も夫婦間でやり取りが必要

「民法第251条」でも定められているように、共有名義不動産のような共有物に何かしらの変更がある場合には、共有者からの同意が必要になります。

たとえば、共有名義の不動産に関して、売却や単独名義への変更、賃貸借などを行う場合、共有者である元配偶者に同意を得る必要があるのです。

これは離婚後も同様で、何かしら共有名義不動産の変更をしたい場合、その度に元配偶者に連絡をしなければなりません。場合によっては、「離婚後に連絡はとりたくない」というケースもあるかもしれませんが、共有名義状態を放置すると連絡が必要になる可能性があるため、基本的には単独名義に変更しておくのがよいでしょう。

共有名義の代表者が住んでいないと維持管理費のトラブルが起きる可能性がある

不動産を所有している場合、下記のような維持管理費がかかります。

  • 固定資産税
  • 都市計画税
  • 物件の修繕費
  • 火災保険料
  • 地震保険

これらの費用は共有名義の代表者に支払い義務があり、その不動産での居住に関わらず支払いをしなければなりません。

財産分与後に代表者が共有名義不動産に住んでいる場合であれば大きな問題にはならないでしょう。しかし、代表者が共有名義不動産に住まない場合、維持管理費のトラブルが起きる可能性があるのです。

具体的には、「支払書が届いていることを代表者に伝えなかったため滞納してしまった」「住んでいない不動産の納税はしたくないと支払いを拒否された」といったケースが考えられます。

このようなトラブルが起きるのを未然に防ぐためにも、離婚の財産分与の際には共有名義状態を解消しておくのが得策です。

共有者が増えてしまい相続時にトラブルが起こりやすい

不動産は、遺産相続の対象となる財産です。万が一、共有名義状態で共有者のどちらかが死亡した場合、その親族も不動産の共有者となります。

そのため、現状よりも不動産の共有者が増えてしまい、権利や管理の関係でトラブルが起こりやすくなるリスクがあるのです。

たとえば、共有名義状態を放置して離婚後に夫が亡くなったケースを想定します。夫の再婚後の配偶者や子どもがおり誰も相続放棄をしなければ、その全員が不動産の共有者となります。

共有名義状態の不動産を売却したり、賃貸借したりするには、共有者からの同意が必要です。そのため、夫の再婚後の配偶者や子ども全員に連絡をして、同意をもらう必要があります。

さらに、その配偶者や子どもから同意を得られなければ、「共有名義の不動産を活用したくてもできない」という状態になります。

つまり、現状よりも不動産を活用しづらいうえに、トラブルの原因にもなり得るため、共有名義状態は解消しておくべきといえるのです。

どちらかが住宅ローンを滞納すると最終的に共有名義不動産が差し押さえられる

財産分与のパターンとして、「片方が共有名義状態の不動産に住み、出ていく片方が住宅ローンの残債を負担する」というケースが考えられます。このケースで住宅ローンの負担者が返済を支払わなくなる可能性も0とはいえません。

住宅ローンの滞納が数か月続いてしまうと、最終的に共有名義不動産が差し押さえられてしまい、物件を手放さなければなりません。

住居を失ってしまい、生活に悪影響を及ぼしてしまうリスクもあるため、離婚の財産分与をするのであれば共有名義状態は解消しておくのが得策です。

住宅ローンの契約違反に該当して一括返済を求められる可能性がある

住宅ローンの契約内容によっては、「契約者が物件に住んでいること」と定められています。夫婦ともに契約者となる「ペアローン」「連帯債務」で住宅ローンを組んでおり、離婚によってどちらかが不動産から出ていく場合、契約内容に反してしまいます。

この場合、契約違反となる可能性があり、住宅ローンの残債の一括返済を求められることも考えられます。

なお、このようなリスクを回避したいからといって、住宅ローンの債権者となる金融機関に連絡せずに単独名義に変更することは認められません。

そのため、住宅ローンが残っている場合、まずは金融機関に連絡をして契約内容の変更などを交渉したうえで、共有名義状態を解消するようにしましょう。

不動産の共有名義状態を解消する方法

「共有名義状態を放置するべきではないとわかったけど、実際にはどうすればいいの」と考える人もいることでしょう。

共有名義状態を解消する方法には、「不動産を単独名義に変更する」「不動産全体を売却する」の2つが挙げられます。そのため、離婚後に不動産をどのように活用するかに応じて、共有名義状態を解消する方法を選択するとよいでしょう。

  • 夫婦のどちらかが物件に住む場合:単独名義に変更する
  • 離婚後に居住などの予定がない:不動産を売却する

ここからは、不動産の共有名義状態を解消する方法について、それぞれ詳しく解説していきます。

夫婦のどちらかが物件に住む場合は単独名義に変更する

共有名義状態は、持分移転登記をすることで単独名義にできます。「共有名義状態を解消して離婚後は物件に住み続けたい」という場合には、共有名義不動産を単独名義に変更するのがよいでしょう。

ただし、共有名義不動産に住宅ローンが残っているかどうかで、単独名義に変更する手順が変わります。そのため、共有名義不動産を単独名義に変更したい場合、住宅ローンの残債があるか否かに対応した手順を確認してみてください。

住宅ローンの残債がない場合は持分移転登記を行う

共有名義不動産の住宅ローンが残っていない場合は、持分移転登記をすることで単独名義に変更できます。持分移転登記とは、不動産の一部の名義を変更するための手続きのことです。

たとえば、共有名義不動産を「夫が3分の2」「妻が3分の1」と所有しているケースを想定します。このケースで財産分与によって夫が単独所有する場合、妻の持分である3分の1を夫に移転する持分移転登記をする必要があります。

なお、財産分与の際には基本的に1:1となるように財産が分配されるため、単独名義のために持分を移転させる場合、それと同等の財産を受け取れるのが一般的です。たとえば、1,000万円の持分を移転させた場合、約1,000万円分自動車や預貯金などを受け取れます。

持分移転登記は、不動産があるエリアを管轄する法務局で手続き可能です。不明な点があれば窓口で相談も可能なため、持分移転登記の際には最寄りの法務局に問い合わせてみるとよいでしょう。

住宅ローンが残っている場合は金融機関との交渉が必要

前述したように、住宅ローンが残っている場合に金融機関の同意なしで不動産に関わる変更を行うと、契約違反とみなされて一括請求を求められる可能性があります。

そのため、共有名義不動産の住宅ローンが残っている場合は、まず金融機関と契約内容の変更を交渉して、そのうえで単独名義のための手続きをするようにしましょう。

契約内容を変更する交渉については、名義人の変更を認めてもらえるかを相談してみてください。離婚後に不動産に住む予定の人だけを名義人として設定できれば、その人を単独名義にすることで契約違反にはならず、共有名義状態も解消できます。

離婚後に居住などの予定がなければ不動産を売却する

離婚後に居住や賃貸借などとして共有名義の不動産を活用しない場合、物件を売却して手放すことも共有名義状態を解消する方法です。不動産全体の売却であれば、共有名義状態を解消できるだけでなく、不動産における財産分与を公平に行えるメリットもあります。

たとえば、共有名義状態の不動産が3,000万円で売れた場合、離婚の財産分与をすれば基本的には夫と妻でそれぞれ1,500万円ずつ分配できます。

ただし、共有名義の不動産を売却するには、売却にかかる手続きをほかの共有者と共に行わなければなりません。場合によっては、「極力顔を合わせずに離婚をしたい」というケースも考えられるため、そのような方にはデメリットともいえるでしょう。

なお、弁護士などを代理人として立てて、売却にかかる手続きを代行してもらえば、ほかの共有者に会わずとも共有名義不動産を売却できます。極力顔を合わせずに共有名義不動産を売却したい場合には、代理人を立てることも検討してみてください。

財産分与や共有名義状態の解消が難しいなら共有持分のみを専門の買取業者に売却する

「離婚相手に関わりたくない」「住宅ローンの残債があって単独名義にできなかった」など、共有名義状態の解消が難しいケースもあることでしょう。このような場合、自分の共有持分のみを専門の買取業者に売却することも1つの手です。

共有持分であれば、ほかの共有者の同意を得ることなく自由に売却が可能です。そのため、離婚相手に関わることなく、自身は共有名義状態から抜け出せます。

また、共有持分のみだと需要の低さから一般的な買取業者に売却するのは難しいですが、共有持分を専門とする買取業者であれば売却に期待できます。

さらに、「共有持分を現金化できる」「専門業者であればほかの業者よりもスピーディーな売却に期待できる」といったメリットもあります。

基本的に、共有持分を専門とする買取業者では、「自身の所有する共有持分が売却できるのか」「いくらほどで売却できそうか」などを無料で相談できます。共有名義状態の解消が難しい場合、共有持分のみを専門の買取業者に売却することを検討してみてください。

共有名義不動産の財産分与によって発生する税金

離婚時に共有名義の不動産を財産分与する場合、状況によっては税金がかかることがあります。そのケースと発生する税金については下記のとおりです。

  • 単独名義に変更する場合:登録免許税がかかる
  • 財産分与後に物件を所有する場合:固定資産税や都市計画税がかかる
  • 共有名義不動産を売却する場合:譲渡所得税がかかる可能性がある

決して少額とはいえないほどの金額にもなり得るため、共有名義不動産の財産分与をする場合は事前に「自身の状況では税金がかかるのか」「どの程度の税金を納める必要があるのか」についてを把握しておくことも大切です。

ここからは、共有名義不動産の財産分与によって発生する税金について、それぞれ解説していきます。

単独名義に変更する場合は登録免許税がかかる

共有名義の不動産を単独名義に変更する場合、不動産があるエリアを管轄する法務局で名義変更の手続きをしなければなりません。その手続きをする際には、「登録免許税」という税金を納める必要があります。

登録免許税の金額は手続き内容によって変わりますが、共有名義の不動産を単独名義に変更する際には「固定資産税評価額×2%」の式で算出されます。

固定資産税評価額とは、固定資産税を決定する基準となる評価額のことです。各市区町村が定めており、納税通知書や固定資産税評価証明書から確認できます。

たとえば、固定資産税評価額が3,000万円の共有名義不動産を離婚の際に単独名義とする場合、「3,000万円×2%=60万円」と登録免許税を計算できます。

財産分与後に物件を所有する場合は固定資産税や都市計画税がかかる

「離婚後は共有名義状態だった不動産に住みたい」と考える場合もあることでしょう。このように、財産分与後に物件を所有する場合は固定資産税や都市計画税が毎年かかります。

固定資産税や都市計画税は、固定資産税評価額に一定の税率をかけることで算出できます。

  • 固定資産税:固定資産税評価額×税率1.4%
  • 都市計画税:固定資産税評価額×税率0.3%

たとえば、固定資産税評価額が3,000万円の不動産の場合には、固定資産税が「3,000万円×1.4%=42万円」、都市計画税が「3,000万円×0.3%=9万円」と計算できます。

なお、一般的な一戸建てやマンションの場合、固定資産税などの特例控除が適用されているのが一般的です。そのため、上記の計算式を用いて算出した金額よりも、実際に納税する金額は少なくなることが予測されます。

共有名義不動産を売却する場合は譲渡所得税がかかる可能性がある

 
離婚後は共有名義不動産に住まずに売却することを検討している場合、譲渡所得税がかかる可能性があることを覚えておきましょう。

譲渡所得税とは、不動産の売却によって得た利益(譲渡所得)に課税される税金のことです。譲渡所得税は下記の計算式で算出が可能です。

  • {不動産の売却による収入金額ー(取得費+譲渡費用)}×一定の税率

譲渡所得税は、共有名義不動産を売却したことで得られた金額から物件の取得や譲渡にかかった費用を差し引いた金額に課税されます。簡単にいえば、不動産の売却によって得られた利益が多ければ多いほど譲渡所得税は増えるのです。

譲渡所得税を算出する際の一定の税率については、共有名義の不動産を所有している期間によって下記のように変動します。

5年以下(短期譲渡所得) 39.63%
5年超(長期譲渡所得) 20.32%
10年超(10年超え所有軽減税率適用) 14.21%

参照元:国税庁「短期譲渡所得の税額の計算」「長期譲渡所得の税額の計算」「マイホームを売ったときの軽減税率の特例

たとえば、共有名義の不動産を所有している期間が10年を超えている場合、割合は14.21%となります。

なお、共有名義不動産の売却にかかる税金の詳細については、税務署に相談することで調べられます。共有名義不動産を売却する場合、売却によってどの程度の譲渡所得税がかかるのかを事前に調べておくのもよいでしょう。

まとめ

離婚時の財産分与では、お互い2分の1ずつ共有財産が分配されるのが一般的です。そのため、基本的には共有持分にかかわらず、共有名義の不動産は夫と妻で半分ずつ分配されます。

財産分与の際には、共有名義不動産だけでなく、結婚生活において夫婦が協力して形成された財産すべてが分配されます。財産分与をする場合には、事前に共有名義の不動産以外の共有財産もリストアップして、「どのように財産を分配するか」を相手と話し合って決めていきましょう。

なお、「手続きをする時間がない」「なるべく早く財産分与を終わらせたい」などと考えても、共有名義状態を放置するのは避けてください。共有名義状態を放置することにはさまざまなリスクがあるため、将来さらに大きな手間やトラブルに発展してしまう可能性があります。

離婚時の財産分与は時間がかかりやすい手続きですが、同時に共有名義状態を解消するための手続きも進めておくようにしましょう。

離婚の財産分与での共有名義不動産におけるFAQ

夫名義で購入した不動産も財産分与の対象になりますか?

共有財産は「結婚生活で協力して形成された財産」であるため、名義人にかかわらず財産分与の対象になるのが一般的です。

共有名義不動産に残っている住宅ローンは夫のみにできますか?

財産分与の際に、おおかた1:1となるように財産が分配されるよう話し合いが進んでいれば問題ありません。ただし、借入先の金融機関に連絡をして、契約内容を変更できるか交渉する必要があります。

共有名義状態を解消したいのですが、手続きのための時間が取れない時はどうするべきでしょうか?

依頼人の代理人になれるため弁護士に依頼することを検討してみてください。離婚相手や金融機関との交渉や、離婚協議書の作成などを代行してもらえます。

共有名義不動産の土地は親から自分がもらったのですが、共有財産になるのでしょうか?

夫婦で形成したものではないため、共有財産に該当しないと考えられます。

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