共有名義のリフォームには贈与税がかかる?軽減する方法や注意点について解説
共有名義の不動産をリフォームする場合、贈与税が発生するケースがあります。自分が所有する不動産であるにもかかわらず、贈与税がかかる可能性がある点に疑問を感じる方は多いでしょう。
共有名義の不動産をリフォームする場合、自分の持分割合に応じたリフォーム費用を出すことが基本です。そのため、以下のようなケースでは、リフォームの際に贈与税がかかってしまいます。
リフォームで贈与税がかかるケース | 具体的例 |
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共有者の一人がリフォーム費用の全額を負担 |
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リフォーム費用の負担が共有持分を超えている場合 |
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しかし、さまざまな事情からリフォーム資金を援助してもらったり、共有者である配偶者が多く支払うといったケースもあるでしょう。その場合、贈与税の課税は免られませんが、贈与税の負担を軽減することは可能です。共有名義の不動産のリフォームで発生する贈与税を軽減する方法に下記が挙げられます。
リフォーム前に持分を移転 |
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リフォーム後に持分で代物弁済 |
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リフォーム資金を貸付として処理 |
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住宅取得等資金の非課税制度の利用 |
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贈与税の基礎控除110万円の範囲に抑える |
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本記事では、共有名義の不動産をリフォームする際に贈与税が発生するケースや贈与税を軽減する方法、贈与税の計算方法やケース別のシミュレーションを解説します。
目次
共有名義の家をリフォームすると贈与税が発生することがある
共有名義の家をリフォームする場合、共有者の1人が相手の持分を超えた費用を負担すると、その費用が贈与とみなされて贈与税が発生します。
まずは、贈与税が発生する仕組みや税率などを解説します。
自分の持分を超えてリフォーム費用を負担するのは共有者に対する「贈与」に当たる
そもそも贈与とは、自分が所有する財産を無償あるいは特定の条件のもとで相手方に贈ることです。基本的には相手方に無償で贈られることが多いですが、贈与によって財産を得た側の人には「贈与税」が課せられます。無償で得た財産に税金が課せられ、受け取った側がそれを納める仕組みです。
なお、贈与税は、毎年1月1日から12月31日までの1年間に受けた贈与の合計額から基礎控除額110万円を引いた金額に対して課税されます。そのため、1年間の贈与の合計額が110万円以下であれば贈与税は発生せず、申告も不要です。
贈与税の税率と控除額
贈与される財産には「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の2種類があります。
一般贈与財産 |
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特例贈与財産 |
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「一般贈与財産」と「特例贈与財産」では、110万円の基礎控除後の課税価格と適用税率、控除額が異なります。一般贈与財産には一般税率が適用され、控除額は最高で400万円です。一方、特例贈与財産には特例税率が適用され、控除額は最高で640万円となります。
基礎控除後の課税価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
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税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
基礎控除後の課税価格 | 2000万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | – | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
共有名義のリフォームで贈与税がかかるケース
共有名義の不動産をリフォームする際に、贈与税がかかるケースは主に以下2パターンです。
リフォームで贈与税がかかるケース | 具体的例 |
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共有者の一人がリフォーム費用の全額を負担 |
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リフォーム費用の負担が共有持分を超えている場合 |
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2つのケースを詳しく解説します。
共有者の一人がリフォーム費用の全額を負担
共有名義の不動産のリフォームは、それぞれの持分に応じてリフォーム費用を負担することが基本です。そのため、下記のように共有者の一人がリフォーム費用の全額を負担する場合は贈与扱いとなり、贈与税か発生します。
- 夫婦共有名義の不動産のリフォーム費用を夫が単独で全額負担する
- 親子共有名義の不動産のリフォーム費用を親または子どもが全額負担する
共有者の一人が全額負担すると、費用を出さなかった共有者は本来支払うべき費用分を贈与された扱いになります。自分の持分がある不動産を無償でリフォームしたことになるため、贈与税を支払わなければならないのです。
リフォーム費用の負担が共有持分を超えている場合
共有者全員がリフォーム費用を出していたとしても、自分の持分以下の費用しか出していない場合にも贈与税が発生します。
たとえば、夫婦が1/2ずつの持分で家を所有しており、リフォームに1,000万円かかる場合は、それぞれが持分割合に応じて500万円ずつリフォーム費用を出すことが基本です。しかし、夫が800万円、妻が200万円の割合で費用を分担したとしましょう。この場合、妻は本来負担すべき300万円分を夫から贈与されたとみなされます。そのため、贈与扱いとなる300万円分から基礎控除額110万円を引いた190万円に贈与税が適用されます。
本来負担すべき費用を他の共有者に出してもらうことは、見方を変えれば負担してもらった側の財産が増える行為です。これを「経済的利益」といい、金額の大小関係なく、経済的利益を受けているかで贈与であるかが判断されます。
そのため、他の共有者が自分の持分を超えてリフォーム費用を負担した時点で、負担してもらった側は経済的利益を受けたとして贈与税の課税対象となるのです。
共有名義のリフォームで贈与税を軽減する方法
共有名義の不動産をリフォームするにあたって、必ずしも持分に応じた費用を負担するとは限らないでしょう。贈与税が発生してしまう場合は、贈与税を軽減する方法もあります。
リフォーム前に持分を移転 |
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リフォーム後に持分で代物弁済 |
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リフォーム資金を貸付として処理 |
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住宅取得等資金の非課税制度の利用 |
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贈与税の基礎控除110万円の範囲に抑える |
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リフォーム前に持分を移転
リフォーム費用の負担割合に応じて、持分割合を移転する方法があります。これを「所有権移転」といい、所有権移転に際しては贈与税が発生します。
しかし、所有権移転による贈与税は固定資産税の評価額をベースに計算されるため、リフォーム費用にかかる贈与税に比べて負担を軽減できます。なぜなら、固定資産税の評価額は築年数とともに低下するからです。
リフォームが必要な物件ということは築年数が経過しているケースも多いでしょう。築年数が20〜30年ほど経過している不動産のリフォームであれば、持分の移転によって発生する贈与税の方が額を抑えられるメリットがあります。
リフォーム後に持分で代物弁済
代物弁済とは、債務を返済する代わりに別のものを給付することによって、肩代わりした債務の弁済とする契約です。代物弁済にすることで、お金ではなく物で同等の対価を返済できます。
この方法では、リフォーム費用を多く出した共有者に対し、多く出した分に相当する自分の持分を譲渡します。リフォーム費用を「持分」という価値によって弁済することで、贈与税の負担が回避できます。
リフォーム資金を貸付として処理
リフォーム費用を全額あるいは多く負担するのではなく、その分を貸付として処理することで贈与としない方法です。貸付は贈与には該当しないため、もちろん贈与税もかかりません。そのため、他の共有者がリフォーム費用を全額支払ったとしても、贈与税は一切課税されないのです。
ただ貸付という形で何の処理もしないままですと、贈与税を逃れるための貸付と疑われてしまう恐れがあります。そのため、貸付であることの信ぴょう性を高めるためにも、借用書を作成し、返済した証拠も残しておきましょう。
住宅取得等資金の非課税制度の利用
父母や祖父母といった「直系尊属」にあたる親族からリフォーム資金を援助してもらった場合、非課税にできる方法もあります。そもそも、年間110万円までの援助であれば贈与であっても非課税となりますが、非課税制度の利用によって110万円を超えた分も非課税にできます。
この非課税制度は「住宅取得等資金贈与の特例」といい、最大1,000万円までの贈与が非課税の対象です。リフォームのほか、住宅の購入や新築も適用範囲となります。なお、「住宅取得等資金贈与の特例」における非課税限度額は、以下のとおりです。
贈与対象の住宅 | 非課税限度額 |
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省エネ等住宅 | 1,000万円 |
それ以外の住宅 | 500万円 |
国が提示する下記の省エネ等基準に適合し、住宅性能証明書など一定の書類を贈与税の申告書に添付することで省エネ住宅であることとが証明されます。
- 断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上であることと
- 断熱等性能等級4以上または一次エネルギー消費量等級4以上であること。(令和5年12月31日までに建築確認を受けた住宅又は令和6年6月30日までに建築された住宅)
- 耐震等級(構造躯体の倒壊等防止)2以上または免震建築物であること。
- 高齢者等配慮対策等級(専用部分)3以上であること。
また、リフォームにおいては下記要件を満たすことも必要です。
- 増改築等後の住宅用の家屋の登記簿上の床面積(マンションなどの区分所有建物の場合はその専有部分の床面積)が40平方メートル以上240平方メートル以下で、かつ、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が受贈者の居住の用に供されるものである。
- 増改築等に係る工事が、自己が所有し、かつ居住している家屋に対して行われたもので、一定の工事に該当することについて、「確認済証の写し」、「検査済証の写し」または「増改築等工事証明書」などの書類により証明されたものである。
- 増改築等に係る工事に要した費用の額が100万円以上である。
- 増改築等の工事に要した費用の額の2分の1以上が、自己の居住の用に供される部分の工事に要したものである。
なお、この非課税制度は令和4年1月1日から令和5年12月31日までとされていましたが、令和6年1月1日から令和8年12月31日までに適用期限が延長されています。
贈与税の基礎控除110万円の範囲に抑える
贈与税の基礎控除110万円の範囲に収めることで、贈与税が発生しません。つまり、1月1日から12月31日までの1年間にかかるリフォーム費用を110万円以内に抑えることで、贈与税の負担がなくなります。
大規模なリフォームでは難しいですが、壁紙や床の張替え、洗面化粧台の交換といった軽微なリフォームであれば、1年のリフォーム費用を110万円以内に抑えられるでしょう。ただし、リフォームを数回に分けたことで気づいたら110万円を超えてしまった、リフォーム費用以外にも援助を受けて110万円を超えてしまったといったケースには注意が必要です。
【ケース別】リフォームによる贈与税の計算方法
贈与を受けた場合、110万円までは非課税となりますが、超えた分は申告と納税が必須です。ここでは、リフォームによる贈与税の計算方法を2つのケースからシミュレーションし、解説していきます。
親が成人の子どもに援助する場合
30歳の夫が父親からリフォーム資金として500万円の援助を受け、リフォーム費用を全額夫が負担するケース |
基礎控除後の課税価格:500万円−110万円=390万円
贈与税額:390万円×15%−10万円=48.5万円
まずは、500万円から非課税分となる110万円を差し引きます。そして、差し引き後の390万円に対して、贈与税の税率がかけられます。この場合、18歳以上の子が直系尊属である父から贈与を受けるため、特例贈与財産の税率での計算となります。
夫婦の一方がリフォーム費用を負担する場合
共有持分が1/2ずつの共有不動産のリフォーム費用500万円を全額夫が負担するケース |
基礎控除後の課税価格:500万円−110万円=390万円
贈与税額:390万円×20%−25万円=53万円
この場合も計算手順は同じです。先ほどのケースとの違いは、夫婦間の贈与となるため一般贈与財産の税率で計算となることです。
共有不動産のリフォーム時にかかる贈与税に関する注意点
共有不動産のリフォーム時にかかる贈与税に関して、下記2点に注意しましょう。
- 所有権の持分割合に基づいて分担する
- 住宅取得等資金の非課税制度の対象になるか確認する
所有権の持分割合に基づいて分担する
共有不動産のリフォームでは、所有権の持分割合に応じて費用を分担することが基本です。たとえば、1/3と2/3の共有名義で不動産を所有する場合、リフォーム費用も1:2の割合で分担する必要があります。
この比率に反した費用を分担した場合、持分割合以下の費用を負担した側に贈与税が課されます。今所有している不動産の持分割合がわからない場合は、法務局で発行される登記簿謄本(登記事項証明書)から確認できます。
また、今から不動産を購入する方で、将来のリフォームもふまえて共有持分を決めたいという場合は、こちらの記事も参考にしてください。
住宅取得等資金の非課税制度の対象になるか確認する
援助を受けたリフォーム資金を「住宅取得等資金贈与の特例」によって非課税にしたい場合、適用要件を満たしているかの確認が必要です。
「住宅取得等資金贈与の特例」は子や孫が新たに住宅を購入した際、または住宅を改築・増築にする際に、直系尊属である両親か祖父母が援助したケースで適用されます。そのため、親や祖父母の住宅のリフォームを子や孫が援助したり、直系尊属以外の親族や第三者が援助したりした場合は適用されない点に注意しましょう。
まとめ
共有名義の不動産をリフォームする場合、自分の持分割合に応じた費用を負担しない場合に贈与税が発生します。なぜなら、本来支払うべき費用を相手が払っていることで、その分経済的利益を受けているとみなされるからです。
ただし、贈与税が発生するのは、1月1日から12月31日までの1年間で110万円以上の援助を受けた場合です。贈与税には基礎控除として110万円が設定されており、110万円を下回る場合は贈与税が発生しません。
それ以外のケースでは贈与税が課税され、申告・納税は必須です。しかし、贈与税の負担を軽減する方法はあるため、最適な方法を選択してみてください