入居者を強制退去させたい!条件や手続きの流れを徹底解説

入居者を強制退去させたい!条件や手続きの流れを徹底解説

賃貸における強制退去とは、家賃滞納や契約違反などを理由に賃貸借契約を解除した後も入居者が退去しない場合に、裁判所の手続きを通じて建物を明け渡してもらうことを指します。

借地借家法では借主の権利が保護されているため、入居者に問題があっても、オーナーの判断だけで退去させることはできません。入居者が任意に退去しない場合は、建物の明渡しを命じる判決などを得たうえで、執行官による強制執行を申し立てる必要があります。

オーナーが退去を求められるケースは、大きく「入居者に契約違反がある場合」と「貸主側の事情で契約の終了を求める場合」に分けられます。家賃滞納や迷惑行為などの契約違反がある場合は、その程度や継続期間、催告後の対応などから、貸主と借主の信頼関係が破壊されたといえるかが重要です。一方、建物の老朽化や貸主自身による使用などを理由に普通借家契約の更新拒絶や解約を求める場合は、「正当事由」が必要になります。

強制退去は、まず入居者への連絡や催告、任意退去の交渉から始めるのが一般的です。それでも解決しなければ、契約解除、建物明渡請求訴訟、強制執行へと進むため、解決までに数か月以上かかることもあります。

なお、入居者が退去に応じないからといって、オーナーが無断で鍵を交換したり、家財を撤去・処分したりする「自力救済」は原則として認められません。損害賠償を請求されるほか、行為によっては刑事責任を問われる可能性もあるため、必ず法的な手順に沿って進める必要があります。

なお、時間や費用をかけてまで裁判をしたくない、今すぐトラブルから解放されたいという場合は、「入居者が居座った状態のまま物件を売却する」のも手段の1つです。

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本記事では、強制退去が認められる条件や具体的な手続きの流れ、実際の判例、必要な期間・費用、オーナーが注意すべきポイントを詳しく解説します。

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目次

強制退去が認められる条件

入居者の強制退去を裁判所に認めてもらうには、「入居者の契約違反によって、貸主と借主の信頼関係が破壊されていること」や「貸主からの更新拒絶・解約申入れに正当事由があること」を立証する必要があります。

強制退去が認められる主な条件は、以下のとおりです。

入居者の契約違反がある場合 ・家賃滞納(目安:おおむね3ヶ月以上)
・近隣への迷惑行為の反復
・無断譲渡・転貸・改築・ペット飼育等の重大違反
貸主側に正当事由がある場合 ・貸主の自己使用(居住・事業)
・建て替え・大規模修繕が不可避な場合(安全性の観点)
・都市再開発・公的事業による立退き(都市計画等)

賃貸借契約は信頼関係を基盤としているため、入居者の違反行為が軽微なものであれば、直ちに契約解除や強制退去が認められるとは限りません。違反の程度や継続期間、注意・催告後の改善状況などから、賃貸借契約を継続できないほど信頼関係が破壊されているかが判断されます。

また、貸主側の事情によって契約の更新を拒絶したり、解約を申し入れたりする場合は、建物を使用する必要性、賃貸借に至った経緯、建物の利用状況や現況、立退料の提示などを踏まえ、正当事由があるかが判断されます。

なお、入居者に契約違反があることや、貸主に自己使用・建て替えなどの事情があることだけで、直ちに退去が命じられるわけではありません。契約違反の場合は信頼関係が破壊されているか、貸主側の事情による場合は貸主・借主双方の事情や利益を比較衡量して、退去の可否が判断されます。

ポイント

【外国人入居者でも、強制退去が認められる条件は原則として同じ】

入居者が外国人であっても、強制退去が認められる条件は日本人の入居者と原則として同じです。家賃滞納や迷惑行為、無断転貸などの契約違反があり、貸主と借主の信頼関係が破壊されたと認められるかをもとに判断されます。

外国人であることや日本語での意思疎通が難しいこと、在留期間が短いこと、更新期限が近いこと、文化・生活習慣に違いがあることなど、それだけを理由に強制退去を求めることはできません。

入居者の契約違反がある場合

入居者による契約違反が信頼関係の破綻を招く代表的なケースには、以下のような行為があります。

  • 家賃滞納(目安:おおむね3ヶ月以上)
  • 近隣への迷惑行為の反復
  • 無断譲渡・転貸・改築・ペット飼育等の重大違反

契約解除が認められるかは、違反の内容や程度、継続性、悪質性、貸主から注意・催告を受けた後の改善状況などを総合的に考慮して判断されます。

家賃滞納(目安:おおむね3ヶ月以上)

家賃の支払いは借主の基本的な義務であり、滞納がおおむね3ヶ月以上続くと、貸主との信頼関係が破壊されたと判断される一つの目安になります。

ただし、契約解除が認められる滞納期間は法律で一律に定められていません。裁判所は、滞納期間や滞納額、これまでの支払状況、滞納理由、催告の有無や催告後の対応などを総合的に判断します。

なお、繰り返し支払いを求めても入居者が滞納を解消せず、連絡や支払いの相談にも応じない場合は、信頼関係が破壊されたと判断されやすくなります。

近隣への迷惑行為の反復

入居者が迷惑行為を繰り返し、貸主が注意や警告をしても改善されない場合は、信頼関係が破壊されたとして、強制退去が認められる可能性があります。

外国人入居者も同様に、ごみ出しや騒音などの生活ルールを多言語や平易な日本語で説明しても違反が続く場合は、信頼関係の破壊を判断する事情の一つになります。

具体的なケースは次のとおりです。

  • 深夜や早朝に大音量で音楽を流す、怒鳴り声や大きな物音を繰り返す
  • 室内やベランダ、廊下などに大量のごみを放置し、悪臭や害虫を発生させる
  • 他の入居者や管理人に対して、暴言・威嚇・暴力・つきまといなどを行う
  • 廊下や階段などの共用部分に私物を置き続け、通行や避難の妨げとなる

ただし、一度のごみ出し間違いや、通常の生活で生じる程度の足音・物音など、軽微な行為だけで直ちに契約解除や強制退去が認められるとは限りません。一方、暴力や脅迫などは、一度の行為でも内容が重大で、契約を継続することが困難と認められれば、解除理由となる可能性があります。

迷惑行為の内容や程度、発生した回数・期間、他の入居者や近隣住民への影響、寄せられた苦情の内容、注意・警告後の対応などを総合的に考慮し、信頼関係が破壊されているかが判断されます。

無断譲渡・転貸・改築・ペット飼育等の重大違反

賃貸借契約に明確に違反し、契約解除や建物明渡請求の理由となる可能性がある主な行為は、以下のとおりです。

【無断譲渡・転貸】
無断譲渡・転貸とは、借主が貸主の承諾を得ずに賃借権を第三者へ譲り渡したり、賃貸物件の全部または一部を第三者へ転貸したりする行為で、民法612条1項で禁止されています。

たとえば、契約者が帰国・転居した後に友人や知人へ部屋を使用させるケースや、契約者本人が居住せず第三者が生活しているケース、物件を民泊や又貸しに利用するケースなどです。

無断譲渡・転貸は、当事者間の信頼関係を前提とする賃貸借契約において、信頼関係を損なう重大な契約違反とされるため、契約解除が認められる可能性があります。

【無断増改築】
無断増改築は、貸主の承諾を得ずに建物へ変更を加え、建物の状態や資産価値に影響を与える行為です。

たとえば、貸主に無断で壁や柱を撤去する、間取りを変更する、給排水設備を移設する、敷地内に工作物を設置するなどの行為が該当します。

建物の構造・安全性に影響する変更や、原状回復が難しい工事は、重大な契約違反として解除が認められる可能性があります。一方、小規模で容易に原状回復できる場合は、信頼関係の破壊まで認められないこともあります。

【用途違反】
用途違反とは、居住用物件を店舗や事務所として使用するなど、契約で定められた用途に反して使用する行為です。民法616条により準用される民法594条1項の用法遵守義務に違反します。

たとえば、居住用として借りた物件を貸主に無断で店舗・事務所・倉庫として使用するケースや、不特定多数の人を宿泊させる民泊に利用するケースなどです。

本来の用途からの逸脱が大きく、貸主から改善を求めても使用を続ける場合は、信頼関係が破壊されたとして契約解除が認められる可能性があります。

【ペットの無断飼育】
ペットの無断飼育は、契約書に定められたペット禁止条項や、飼育できる種類・頭数などの条件に違反する行為です。

たとえば、ペット禁止物件で犬や猫などを継続的に飼育するケースや、貸主の承諾を得ずに飼育する種類・頭数を増やすケースなどが該当します。

飼育期間や臭い・騒音、建物の損傷、貸主から注意を受けた後の対応などを踏まえ、信頼関係が破壊されているかが判断されます。

【入居定員オーバー・無断同居】
入居定員オーバーや無断同居は、契約書に定められた入居人数の制限や、同居人の届出義務などに違反する行為です。

たとえば、届け出た人数を大幅に超える人数が継続的に居住するケースや、貸主に届け出ずに同居人を増やすケースなどが該当します。外国人入居者では、同居予定者や入居人数に関する契約内容が十分に伝わっていないことで、こうした問題が生じることもあります。

実際の居住人数や居住期間、契約者本人の居住実態、周囲や建物への影響、注意後の改善状況などから、契約解除が認められるかが判断されます。

なお、これらの契約違反があっても、その程度が軽微であれば、解除が認められないこともあります。違反の程度や経緯、注意後の改善状況などを総合的に考慮して判断されます。

貸主側に正当事由がある場合

普通建物賃貸借では、入居者に契約違反がなくても、貸主側に正当事由がある場合は、契約の更新拒絶や解約申入れによって退去を求められる可能性があります。

正当事由として考慮される主な事情は、以下のとおりです。

  • 貸主の自己使用(居住・事業)
  • 建て替え・大規模修繕が不可避な場合(安全性の観点)
  • 都市再開発・公的事業による立退き(都市計画等)

ただし、貸主側の使用目的や必要性が具体的でない場合、老朽化が軽微で修繕しながら使用を続けられる場合、収益性を高めたい・好条件で売却したいといった経済的な都合だけの場合は、それだけで正当事由が認められる可能性は低いです。

裁判所は、借地借家法28条に基づき、貸主・借主双方が建物を使用する必要性、賃貸借に至った経緯、建物の利用状況や現況、立退料の提示などを総合的に考慮し、正当事由の有無を判断します。

立ち退きの正当事由については、次の記事も参考にしてみてください。

貸主の自己使用(居住・事業)

貸主本人や親族が住む、貸主の事業で使うなど、建物を自ら使用する具体的かつ切迫した必要がある場合は、正当事由として考慮されます。

裁判所は、貸主が建物を使用する必要性と、借主が居住や事業を継続する必要性を比較し、賃貸借に至った経緯、建物の利用状況、立退料の提示なども踏まえて判断します。

自己使用を理由に居住用物件の立ち退きを交渉する場合、立退料は月額賃料の6ヶ月〜1年分程度が一つの目安となることがあります。新居の契約費用や引越し費用などを踏まえて金額を検討しますが、実際の金額は個別の事情によって異なります。

貸主側の使用の必要性が認められる可能性がある主なケースは、以下のとおりです。

  • 貸主本人が現在の住居を失うなど、自ら居住する必要性が高い
  • 介護や扶養などの事情から、貸主本人や親族が居住する必要性が高い
  • 事業の継続や移転のため、貸主自身が建物を使用する必要性が高い

貸主側の使用の必要性が弱い場合や、借主が建物を使い続ける必要性の方が強い場合は、自己使用を理由としても正当事由が認められないことがあります。

たとえば、単に「親族を住まわせたい」「更地にして家を建てたい」といった貸主の都合だけでは、正当事由が認められるのは難しいでしょう。

立退料については、次の記事も参考にしてみてください。

建て替え・大規模修繕が不可避な場合(安全性の観点)

老朽化や耐震性の問題により安全な居住を続けることが難しく、建て替えや大規模修繕のために明渡しが必要な場合は、正当事由を補強する事情になります。

正当事由として認められる可能性がある建物の状況は、以下のとおりです。

  • 老朽化が深刻で、建て替えや取り壊しの必要性が客観的に認められる
  • 旧耐震基準で建築され、耐震診断によって耐震性の不足や倒壊の危険性が確認されている
  • 構造的な欠陥により、居住者の安全が脅かされる状態にある
  • 通常の修繕では対応できないほどの深刻な損傷がある

反対に、以下のようなケースでは正当事由として認められる可能性は低くなります。

  • 老朽化の度合いが深刻ではない場合
  • 単に「建て替えで資産価値を高めたい」という経済的な理由
  • 通常の修繕で対応可能な程度の損傷

なお、正当事由を主張するには、建物診断書や耐震診断結果、損傷箇所の写真、修繕・建て替えの見積書など、建物の危険性や工事の必要性を示す客観的な資料が重要です。

建て替えによる立ち退きについては、次の記事も参考にしてみてください。

都市再開発・公的事業による立退き(都市計画等)

都市再開発や公的事業により建物を賃貸し続けられなくなった場合は、貸主からの更新拒絶・解約申入れに正当事由が認められる可能性があります。

具体的には、以下のような事業が該当します。

  • 都市計画道路の新設や拡張に伴う土地の収用
  • 市街地再開発事業による既存建物の取り壊しや区域整備
  • 公園・学校などの公共施設の建設に伴う用地取得
  • 防災上必要な都市計画事業による建物の移転・除却

都市計画事業では、都市計画法69条により土地収用法が適用されます。用地取得の話し合いがまとまらない場合は、法律に基づく収用手続が進められ、明渡裁決が出ると、所有者や入居者は定められた期限までに土地・建物を明け渡す必要があります。

また、第一種市街地再開発事業では、都市再開発法87条に基づき、もとの土地・建物の権利が、原則として再開発後の建物などの権利へ置き換えられます。その後、工事のために明渡しが必要になると、都市再開発法96条に基づき、事業の施行者が所有者や入居者に期限を定めて土地・建物の明渡しを求めることができます。

このように、都市計画や再開発事業が具体的に進み、実際に法律上も土地・建物の明渡しが必要な段階になれば、入居者に退去を求める理由として認められやすくなります。

ただし、都市計画や再開発の予定があるだけでは、入居者にすぐ退去を求めることはできません。事業の認可や補償、明渡期限の通知などの手続きを経て、実際に土地・建物の明渡しが必要な段階になることが求められます。

強制退去までの手続きの流れ

強制退去手続きは法的な段階を踏んで進める必要があり、一般に「契約解除等の通知 → 明渡訴訟提起 → 強制執行」の順で進みます。全体の所要期間は一般的に6ヶ月から1年程度です。

手続きの段階 期間の目安 主な作業
訴訟に必要となる証拠や資料の収集 1〜2ヶ月 賃貸借契約書、入金記録、督促・交渉記録、写真・動画、苦情記録などを収集・整理する
内容証明郵便で契約解除通知を送付 2〜4週間 契約違反の内容や履行期限、期限までに履行・改善しない場合は契約を解除する旨を記載し、配達証明を付けた内容証明郵便で送付する
賃貸借契約の解除を実施 上記期間に含む 通知の到達や催告期限の経過を確認し、通知内容に従って賃貸借契約を解除する
建物明渡請求訴訟を裁判所に提起 3〜6ヶ月 訴状の作成、証拠の提出、口頭弁論への対応を行い、判決や裁判上の和解などによって債務名義を取得する
強制執行を申し立て 2〜4週間 必要に応じて執行文や送達証明書などを準備し、物件所在地を管轄する地方裁判所所属の執行官へ申し立てる
裁判所の執行官による借主への明渡しの催告 上記期間に含む 執行官が現地を確認し、借主に明渡しを催告するとともに、公示書の掲示や断行予定日の指定などを行う
強制執行の実施 3〜4週間 借主が断行予定日までに退去しない場合、執行官の指揮のもとで家財道具を搬出し、物件を貸主へ引き渡す

※上記の期間はあくまで目安です。契約違反の内容や入居者の対応、裁判所の進行状況などによって、実際の期間は異なります。

訴訟や強制執行に必要な費用は、貸主がいったん納付・予納する必要があります。詳しくは「強制退去にかかる費用の内訳と相場」で解説しますが、弁護士費用のほか、執行官へ納める予納金、作業員の人件費、家財道具の搬出・運搬・保管費用などを考慮したうえで手続きを進める必要があります。

ポイント

【訴訟・強制執行の前に任意交渉を試みる】

強制退去の手続きを進める前に、まずは入居者との任意交渉で解決できないか試みましょう。建物明渡請求訴訟や強制執行には時間と費用がかかりますが、任意交渉で合意できれば、費用を抑えながら早期に解決できる可能性があります。

交渉時のポイントや弁護士へ依頼する判断については、「強制執行の前に話し合いによる解決を目指す」で詳しく解説します。

訴訟に必要となる証拠や資料の収集

まずは、契約解除や建物明渡請求訴訟に備え、入居者の契約違反や、貸主が改善を求めた経緯を裏付ける証拠・資料を収集します。

問題を確認した日時、問題行動の内容、写真、録音、他の入居者からの証言など、第三者が見ても事実関係が明確に分かる証拠を準備することが重要です。

【証拠・資料のチェックリスト】

分類 主な書類・証拠の例
契約関係 賃貸借契約書、更新契約書、特約を記載した書面
家賃滞納関係 家賃の入金記録、滞納額の一覧、督促状、内容証明郵便、配達証明書
契約違反関係 違反行為を撮影した写真・動画、発生日時や状況の記録、警告書面、入居者とのやり取り
迷惑行為関係 苦情の受付記録、管理会社の対応記録、録音データ、被害状況の写真、近隣住民などの陳述書
物件・訴訟手続関係 登記事項証明書、固定資産課税台帳登録事項証明書(評価証明書)、物件を特定するための資料
その他 電話・メール・面談による交渉記録、保証会社や連帯保証人への連絡・通知記録

証拠や資料は時系列に整理し、いつ、どこで、誰が、どのような状況を確認したのかがわかるように記録します。写真や動画、録音データは、証拠の改ざんを疑われないよう、編集・加工前の元データも保存しておきましょう。

内容証明郵便で契約解除通知を送付

賃料の支払いや契約違反の是正を求める期限を設け、期限までに履行・改善されなければ契約を解除する旨を内容証明郵便で通知します。

内容証明郵便は、いつ、誰から誰宛てに、どのような内容の文書を差し出したかを証明するもので、催告や契約解除の意思表示を行ったことを示す証拠として利用できます。相手方へ配達された事実も残すため、一般的には配達証明を付けて送付します。

内容証明郵便の主な特徴と効果は、以下のとおりです。

  • 日本郵便が送付した文書の内容と差出日を証明する
  • 配達証明を付けることで、相手方へ配達された事実を証明できる
  • 催告や契約解除の意思表示をした経緯を証拠として残せる
  • 法的手続きへ移行する可能性を伝え、入居者に対応を促せる

通知書には、滞納期間や滞納額、契約違反の内容、履行・改善を求める期限などを記載します。あわせて、期限までに履行・改善されない場合は契約を解除する旨を明確に伝えることが重要です。

内容証明郵便の利用は法律上必須ではありませんが、建物明渡請求訴訟で、入居者に催告や契約解除の意思表示をした経緯を示す証拠として役立ちます。

郵便局の窓口から差し出す場合は、集配郵便局または日本郵便の支社が指定した郵便局に、入居者へ送付する内容文書1通、差出人と郵便局が保管する謄本2通、宛名を記載した封筒などを提出します。すべての郵便局で取り扱っているわけではないため、事前に確認しておきましょう。

契約違反による立ち退き通知書の例

契約違反を理由に立ち退きを求める場合は、契約違反の内容や改善期限を具体的に示し、期限までに履行・改善されなければ賃貸借契約を解除する旨を通知します。

通知書に記載する主な内容は、以下のとおりです。

  • 賃貸借契約や対象物件を特定する情報
  • 家賃滞納や契約違反の具体的な内容
  • 賃料の支払いや契約違反の改善を求める期限
  • 期限までに履行・改善されない場合は契約を解除する旨
  • 契約解除後に物件の明渡しを求める旨

以下は、家賃滞納またはその他の契約違反について、履行・改善を催告するとともに、期限までに対応がない場合の契約解除を通知する場合の記載例です。

催告書兼賃貸借契約解除通知書

令和○年○月○日

○○○○ 殿

通知人:○○○○
住所:○○○○

通知人と貴殿との間で締結した、下記建物の賃貸借契約について通知します。

【対象物件】
所在地:○○市○○町○丁目○番○号
建物名・部屋番号:○○アパート○○○号室

【契約年月日】
令和○年○月○日

貴殿には、上記賃貸借契約について、以下の契約違反があります。

【家賃滞納の場合】
令和○年○月分から令和○年○月分までの賃料等○か月分、合計金○○万円が未払いとなっています。

【その他の契約違反の場合】
貴殿は、上記賃貸借契約第○条に違反し、次の行為を行っています。
契約違反の内容:○○○○
発生日時・状況:令和○年○月○日、○○○○
これまでの注意・警告:令和○年○月○日、○○○○

つきましては、令和○年○月○日までに、滞納賃料等の全額を支払い、または上記契約違反を改善してください。

上記期限までに支払いまたは改善がない場合は、期限の経過をもって上記賃貸借契約を解除します。

賃貸借契約が解除された場合は、速やかに上記建物を明け渡してください。任意に明け渡されない場合は、建物明渡請求訴訟などの法的手続きを行うことがあります。

以上

上記は一般的な記載例です。家賃滞納の場合は「家賃滞納の場合」、その他の契約違反の場合は「その他の契約違反の場合」の記載を残し、該当しない部分を削除して使用します。

履行・改善を求める期限は一律ではなく、契約違反の内容や程度などに応じて相当な期間を設定する必要があります。無断転貸や重大な迷惑行為などでは、催告の要否や通知内容が異なる場合があります。

また、この通知書を送付すれば、必ず賃貸借契約を解除できるわけではありません。解除の有効性は、違反の内容や程度、これまでの経緯などを踏まえて判断されるため、実際に送付する際は弁護士へ内容を確認してもらいましょう。

賃貸借契約の解除を実施

契約解除通知で示した期限を過ぎたら、滞納賃料が支払われたか、契約違反が改善されたかを確認します。

解除通知が入居者に到達し、期限までに支払いや改善がなく、契約違反の程度などから貸主と入居者との信頼関係が破壊されたと認められる場合は、期限の経過によって契約解除の効力が生じます。解除の有効性について争いがある場合は、最終的に裁判所が判断します。

この段階で入居者が任意に退去し、家財道具の搬出や鍵の返却まで済んで物件の明渡しが完了すれば、建物明渡請求訴訟に進む必要はありません。一方、契約解除後も入居者が退去しない場合は、建物明渡請求訴訟を提起することになります。

契約違反を理由に建物の明渡しを求めるには、賃貸借契約が有効に解除されていることが前提です。催告や契約解除通知の送付から期限経過後の確認までの手続きは、契約解除に至った経緯を明確にし、建物明渡請求訴訟に備えるための重要な準備となります。

建物明渡請求訴訟を裁判所に提起

賃貸借契約を解除しても借主が任意に退去しない場合は、建物明渡請求訴訟を提起します。訴状と契約解除の経緯を裏付ける証拠を用意し、管轄する裁判所へ提出します。

訴訟は、原則として借主の住所地を管轄する裁判所のほか、物件所在地を管轄する裁判所にも提起できます。訴額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所が第一審の裁判所となります。

訴訟に必要となる主な書類・資料は、以下のとおりです。

  • 訴状、当事者目録、物件目録
  • 登記事項証明書または物件を特定するための情報
  • 固定資産課税台帳登録事項証明書など、訴額の算定に必要な資料
  • 資格証明書類(原告または被告が法人の場合)
  • 賃貸借契約書、契約解除通知書、内容証明郵便、配達証明書などの証拠
  • 申立手数料

必要な書類や申立手数料は、裁判所への提出方法や事案によって異なるため、提起先の裁判所へ事前に確認しましょう。

訴状に形式的な不備がなければ、裁判所が最初の口頭弁論期日を指定し、借主へ訴状や呼出状を送付します。

借主が期日に出席せず、答弁書なども提出していない場合は、原告の主張した事実を争わないものとして扱われ、原告の請求に沿った判決が出る可能性があります。ただし、借主が欠席すれば必ず明渡請求が認められるわけではなく、裁判所が訴状や証拠を確認したうえで判断します。

強制執行を申し立て

判決や裁判上の和解で定められた期限を過ぎても借主が任意に退去しない場合は、建物明渡しの強制執行を申し立てます。

強制執行には、執行力のある判決正本や和解調書など、明渡しを命じる債務名義が必要です。判決に仮執行宣言が付いていない場合は、原則として判決が確定してから申し立てます。

強制執行の申立てに必要となる主な準備は、以下のとおりです。

  • 強制執行申立書、当事者目録、物件目録の作成
  • 執行力のある債務名義の準備
  • 債務名義の種類に応じた執行文や送達証明書の取得
  • 法人の登記事項証明書や執行場所の略図などの添付
  • 予納金の準備

申立先は、物件所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官です。申立て後は、執行官が貸主や代理人と協議して執行開始日時を決めます。家財道具の搬出が見込まれる場合は、執行官の指示に従い、搬出・運搬・保管を行う業者などを手配します。

裁判所の執行官による借主への明渡しの催告

指定された執行開始日時になると、執行官が対象物件を訪問し、借主による占有の状況を確認します。

強制執行を開始できる場合は、執行官が借主に引渡期限を示し、期限までに任意に退去するよう明渡しの催告を行います。

明渡しの催告時に行われる主な作業は、以下のとおりです。

  • 室内や占有状況の確認・記録
  • 家財道具などの状況確認
  • 明渡しの催告
  • 引渡期限と断行予定日の指定
  • 公示書の掲示
  • 搬出に必要な作業員や車両などの確認

借主が不在の場合でも、執行官の判断と指揮のもと、必要に応じて合鍵を使用したり、解錠業者に鍵を開けてもらったりして手続きを進めることがあります。

明渡しの催告で定められる引渡期限は、原則として催告の日から1ヶ月後です。ただし、引渡期限と、実際に強制執行を実施する断行予定日は同じ日とは限りません。借主が断行予定日までに任意に退去すれば、断行は行われません。

強制執行の実施

借主が断行予定日までに任意に退去しない場合は、執行官が建物明渡しの強制執行を実施します。

断行では、執行官が借主による物件の占有を解き、貸主に物件を引き渡します。搬出業者や鍵業者などは執行官の指揮に従い、家財道具の搬出や鍵の交換などを行います。

強制執行当日の主な流れは、以下のとおりです。

  • 執行官による占有状況の最終確認
  • 借主が残っている場合の退去対応
  • 家財道具などの梱包・搬出
  • 必要に応じた家財道具の運搬・保管
  • 鍵の交換
  • 貸主への物件の引渡し

借主が抵抗するなどして執行に支障がある場合は、執行官が必要に応じて警察へ援助を求めることがあります。ただし、実際の対応は現場の状況や執行官の判断によって異なります。

室内に残された家財道具は、原則として借主本人やその代理人へ引き渡します。引き渡すことができない場合は、執行官の指示に従って搬出・保管し、所定の手続きを経て売却などが行われることがあります。

貸主が残された家財道具を自己判断で廃棄したり、持ち出したりすることはできません。残置物の処理は、必ず執行官の指示に従って進める必要があります。

建物明渡請求が認められた判例

強制退去に関する法的判断を理解するために、実際に建物明渡請求が認められた代表的な判例を紹介します。これらの判例は、どのような状況で裁判所が建物の明渡しを認めるのか、その判断基準を知るうえで重要な参考となります。

以下では、賃料の一部不払いや迷惑行為、建物の老朽化を理由に、建物明渡請求が認められた3つの事例を紹介します。

  • 判例①:賃料の一部しか支払わない借主に対する建物明渡請求が認められた事例
  • 判例②:迷惑行為をした借主に対する建物明渡請求が認められた事例
  • 判例③:ビルの老朽化に伴う建物明渡請求が認められた事例

なお、判例は個別の事情に基づいて判断されたものであり、同じような事情があっても、必ず建物明渡請求が認められるとは限りません。

判例①:賃料の一部しか支払わない借主に対する建物明渡請求が認められた事例

項目 内容
①貸主が建物の明渡しを求めた理由 借主が上階からの漏水事故を理由に賃料を一方的に減額し、貸主からの支払催告にも応じなかったため
②判決の内容 賃貸借契約の解除を有効とし、建物明渡し、未払賃料、契約解除後の使用料相当損害金などの請求を認容
③判例の概要 東京地裁 令和3年2月26日判決(認容)
漏水事故が発生したものの、借主が貸主との合意なく賃料を一方的に減額して支払うことは認められないとした事例

この判例では、借主が上階からの漏水事故によって部屋が「事故物件」になったと主張し、月額7万2,000円の賃料を3万7,500円に減額して支払い続けました。

貸主は未払賃料の支払いを催告し、期限までに支払わなければ契約を解除する旨を通知しましたが、借主が応じなかったため、賃貸借契約を解除して建物の明渡しなどを求めました。

裁判所は、借主が自ら適正と判断した金額だけを支払うことは認められず、貸主による契約解除は有効であるとして、建物明渡しや未払賃料などの請求を認めました。

物件に不具合があった場合でも、借主が自己判断で賃料を減額できるとは限りません。賃料の減額について当事者間で合意できない場合は、法的な手続きによって解決する必要があることを示す事例です。

参考:一般財団法人 不動産適正取引推進機構「賃料の一部不払いに関する判例解説」

判例②:迷惑行為をした借主に対する建物明渡請求が認められた事例

項目 内容
①貸主が建物の明渡しを求めた理由 借主が夜中や明け方に他の部屋を訪問し、インターホンを鳴らす、玄関ドアをたたく等の迷惑行為を繰り返し、他の2部屋の住人が退去したため
②判決の内容 契約約款の解除事由(粗野又は乱暴な言動、信頼関係の著しい損傷)に該当するとして契約解除と建物明渡請求を認容
③判例の概要 東京地裁 令和3年6月30日判決(認容)
賃借人の迷惑行為により他の入居者が全て退去した事案で、契約約款に基づく解除を有効とした事例

この判例では、借主が入居後わずか2ヶ月で理由もなく夜中や明け方に他の部屋を訪問し、インターホンを鳴らしたり玄関ドアをたたく等の迷惑行為を継続的に行いました。警察への通報が何度も行われ、最終的には全4部屋のうち他の2部屋の住人が迷惑行為を理由に退去する事態となりました。

裁判所は、契約約款に明記された「粗野又は乱暴な言動により他の入居者に迷惑・不快の感を抱かせる行為」および「信頼関係が著しく損なわれた場合」の解除事由に該当すると判断しました。

この事例は、契約書に迷惑行為の禁止条項と解除条項を明記することに加え、注意した経緯や他の入居者への影響を記録しておくことの重要性を示しています。

参考:一般財団法人 不動産適正取引推進機構「他の入居者が退去するまでの迷惑行為を行った賃借人に対する賃貸人の建物明渡し請求が認められた事例」

判例③:ビルの老朽化に伴う建物明渡請求が認められた事例

項目 内容
①貸主が建物の明渡しを求めた理由 築40年以上の旧耐震建物で、耐震診断により地震による倒壊・崩壊の危険性が高いと判定され、特定緊急輸送道路沿いのビルと一体的に建て替える必要があったため
②判決の内容 4,047万円の立退料の支払いを条件として正当事由を認め、建物明渡請求を認容
③判例の概要 東京地裁 令和元年12月5日判決(認容)
特定緊急輸送道路沿いのビルと一体的に建てられた旧耐震建物について、安全性や建て替えの必要性、立退料などを考慮して正当事由を認めた事例

この判例では、昭和49年に建築された旧耐震建物について、耐震診断の結果、地震による倒壊・崩壊の危険性が高いことが判明しました。

この建物は、特定緊急輸送道路沿いにある別のビルと一体的に建てられていました。耐震診断では、特定緊急輸送道路沿いのビルのIs値が平均約0.11、明渡しの対象となった建物のIs値が平均約0.29となり、いずれも耐震性が不足していると判定されました。

借主は美術品販売業を営み、現在の店舗で営業を続ける必要性を主張しましたが、裁判所は、類似する環境の移転先で宣伝などを行えば営業を継続できる可能性があると判断しました。そのうえで、借家権価格や移転費用、営業損失などを踏まえ、4047万円の立退料の支払いを条件として正当事由を認めました。

単に建物が古いだけではなく、客観的な耐震診断結果や建て替えの必要性があり、相当額の立退料を提供した場合に明渡請求が認められた事例です。

参考:一般財団法人 不動産適正取引推進機構「旧耐震建物の建て替えに伴う明渡請求に関する判例解説」

強制退去にかかる費用の内訳と相場

強制退去の手続きでは、契約解除通知の送付や建物明渡請求訴訟、強制執行などの段階で費用が発生します。弁護士へ依頼し、家財道具の搬出・保管を伴う強制執行まで進む場合は、総額が数十万円から100万円を超えることもあります。

主な費用の目安は、以下のとおりです。

手続きの段階 費用項目 費用相場 備考
催告・契約解除通知 内容証明郵便の送付 1,420円~ 謄本1枚の定形郵便に配達証明を付けて、郵便局の窓口から送付する場合。文書の枚数などにより加算される
建物明渡請求訴訟 裁判所へ納付する申立手数料 2万円~4万円程度
※訴額や請求内容などにより異なる
郵便費用を含む申立手数料を原則としてペイジーで納付する
弁護士費用 30万円~50万円程度 相談料、着手金、報酬金、日当、実費など。事務所や事案、依頼する範囲によって異なる
強制執行 予納金、家財道具の搬出・運搬・保管費用など 30万円~50万円程度 物件の広さや家財道具の量、必要な作業員・車両、保管期間などによって大きく変動する

※上記はあくまで目安です。登記事項証明書などの取得費用、交通費、鍵交換費用、調査費用などが別途発生する場合があります。

強制執行まで進むと費用も大きくなるため、未払賃料の回収見込みや費用対効果、任意交渉で解決できる可能性も踏まえて判断しましょう。

ポイント

【強制執行費用は借主に請求できる場合もあるが、回収を前提にしない】

民事執行法42条1項では、強制執行に必要な執行費用は、原則として借主である債務者の負担とされています。

執行官の手数料や解錠費用、家財道具の搬出・運搬・保管費用などは、必要な範囲で借主へ請求できる場合があります。訴訟費用についても、判決で借主の負担とされた場合は、執行費用とは別に請求できることがあります。

一方、弁護士費用や任意交渉、内容証明郵便の送付にかかった費用は、民事執行法上の執行費用には原則として含まれません。

また、請求できる費用であっても、借主の資力不足や所在不明、破産手続などにより、実際には回収できないこともあります。費用の回収を前提にせず、貸主がいったん負担するものとして資金を準備しておきましょう。

弁護士への依頼費用

弁護士費用は、強制退去の手続きにかかる費用の中でも大きな割合を占める項目です。建物明渡請求訴訟まで依頼する場合は、着手金と報酬金を合わせて30万円~50万円程度が一つの目安となります。

弁護士費用の主な内訳は、以下のとおりです。

費用項目 費用の目安 支払うタイミング
着手金 15万円~25万円 弁護士へ依頼する際に支払う
報酬金 15万円~25万円 明渡しの実現など、一定の成果が得られた場合に支払う
日当 1万円~3万円 裁判所への出廷や出張などが発生した際に支払う
実費 交通費、書類取得費、通信費など、実際にかかった金額 依頼時に概算額を預けるか、発生時または手続き終了後に精算する

なお、訴訟まで依頼せず、内容証明郵便による催告書や契約解除通知書の作成・送付のみを依頼することも可能です。その場合の弁護士費用は、5万円程度が一つの目安ですが、文書の内容や事実関係の確認、相手方との交渉を含むかどうかによって異なります。

弁護士報酬には一律の基準がなく、事案の難易度や依頼する範囲、法律事務所によって金額は異なります。相談時には、表示された料金に報酬金や日当、実費、強制執行への対応費用まで含まれているかを確認し、複数の事務所から見積もりを取って比較しましょう。

内容証明郵便の送付費用

内容証明郵便を郵便局の窓口から、謄本1枚の定形郵便に配達証明を付けて送付する場合は、1,420円からです。

郵便料金の主な内訳は、以下のとおりです。

  • 基本料金:110円
  • 一般書留の加算料金:480円
  • 内容証明の加算料金:480円
  • 配達証明の加算料金:350円
  • 謄本が2枚以上の場合:2枚目以降、1枚につき290円加算

上記は、謄本1枚の定形郵便を郵便局の窓口から差し出す場合の料金です。郵便物の重量や謄本の枚数などによって金額は異なります。

明渡請求訴訟にかかる費用

建物明渡請求訴訟では、裁判所へ納める申立手数料や、必要書類の取得費用などが発生します。申立手数料は2万円~4万円程度となるケースもありますが、建物の固定資産評価額をもとに算定した訴額や、被告の人数などによって異なります。

明渡請求訴訟にかかる主な費用の目安は、以下のとおりです。

費用項目 費用の目安 備考
申立手数料 数千円~数万円程度 訴額や被告の人数などによって異なる
登記事項証明書の取得費用 1通600円 法務局の窓口で書面請求する場合。明渡しを求める建物が未登記の場合は不要
固定資産評価証明書などの取得費用 1件200円~300円 訴額の算定に必要。金額や証明書の名称は自治体によって異なる
法人の資格証明書の取得費用 1通600円 原告または被告が法人の場合に必要となることがある
その他の実費 実際にかかった金額 証拠書類の複写費用や交通費など

申立手数料は訴訟提起時に納付し、登記事項証明書や固定資産評価証明書などは事前に取得します。実際に必要な金額や書類は請求内容によって異なるため、訴訟を提起する前に管轄する裁判所や依頼する弁護士へ確認しましょう。

また、法人が当事者となる場合は、代表者事項証明書の取得費用も必要になります。申立手数料の納付や必要書類の取得など、訴訟提起までに複数の費用がかかるため、事前の資金準備が不可欠です。

強制執行にかかる費用

建物明渡しの強制執行では、執行官へ納める予納金のほか、家財道具の搬出・運搬・保管などに費用がかかります。一般的な費用の目安は30万円~50万円程度ですが、物件の広さや家財道具の量によっては、100万円を超える場合もあります。

強制執行にかかる主な費用は、以下のとおりです。

費用項目 費用の目安 備考
執行予納金 6万5,000円~ 執行官の手数料や旅費などに充てられる。東京地方裁判所では、債務者1名または物件1個が増えるごとに4万円加算される
搬出・運搬費用 数万円~数十万円程度 家財道具の量や作業員・車両の数によって変動
保管費用 数万円~数十万円程度 家財道具の量や保管期間によって変動
解錠費用 数万円程度 鍵業者の手配や作業内容によって変動
売却・処分費用 事案によって異なる 家財道具を債務者へ引き渡せない場合に、執行官の手続きに従って発生することがある

執行予納金には、作業員の日当や家財道具の搬出・運搬・保管費用などは含まれず、別途支払いが必要です。予納金は裁判所や申立内容によって異なり、手続きの途中で追加予納を求められることもあるため、申立先の執行官室へ事前に確認しましょう。

強制退去を実行する際の注意点

入居者に退去を求め、強制執行まで進める場合は、法律に沿った手続きを踏まなければなりません。適切な手順を踏まずに進めると、貸主側が法的責任を問われる可能性があるため、以下の点に十分注意する必要があります。

  • 自力救済は貸主側が責任を問われる可能性がある
  • 強制執行の前に話し合いによる解決を目指す
  • 入居者の自己破産だけを理由に強制退去は迫れない
  • 貸主都合による店舗の立ち退きは立退料が高額になる場合もある

これらの注意点を無視して進めると、損害賠償を請求されるほか、行為によっては刑事責任を問われる可能性もあります。貸主だけで判断して実力行使に及ばず、必要に応じて早めに弁護士へ相談しましょう。

自力救済は貸主側が責任を問われる可能性がある

貸主が自ら鍵を交換したり、借主の荷物を無断で撤去・処分したりする「自力救済」は、原則として認められません。

家賃滞納や重大な契約違反があっても、貸主だけの判断で借主を室内から締め出すことは避け、契約解除や建物明渡請求訴訟、強制執行などの法的手続きを進める必要があります。

法的手続きを経ずに借主の占有を排除すると、損害賠償責任を負うほか、行為の内容によっては刑事責任を問われる可能性もあります。

問題となる可能性がある主な責任は、以下のとおりです。

  • 住居侵入罪等:貸主が正当な理由なく、借主の意思に反して室内に立ち入った場合
  • 器物損壊罪等:貸主が借主の家財を勝手に壊したり、廃棄したりした場合
  • 不退去罪:貸主が室内に立ち入り、借主から退去を求められても応じなかった場合
  • 損害賠償責任:貸主が鍵を交換したり家財を処分したりして、借主に財産的・精神的な損害を与えた場合

実際に自力救済が違法と判断された裁判例があります。東京地裁平成22年10月15日判決では、管理会社が長期不在の借主の家財等を処分し、鍵を付け替えた行為について、自力救済は原則として禁止されており、緊急やむを得ない特別な事情がある場合にのみ例外的に許されると判断されました。

この事例では、借主がアルコール依存症の治療で入院中に、管理会社が異臭を理由に室内の荷物を処分し、鍵を交換しましたが、裁判所は以下の理由で違法な自力救済と認定しました。

  • 賃貸借契約に自力救済を認める条項があっても、直ちに適法とはならない
  • 害虫の発生や異臭の流出は現実化しておらず、緊急性が認められない
  • 福祉事務所に連絡すれば借主の所在を確認できたにもかかわらず、管理会社が確認しなかった

結果として管理会社は、財産的損害40万円、精神的損害60万円、弁護士費用10万円の合計110万円の損害賠償を命じられました。この裁判例は、契約に自力救済を認める条項があっても、それだけで鍵の交換や家財の処分が適法になるわけではないことを示しています。

強制執行の前に話し合いによる解決を目指す

強制退去に至る前は、まず任意交渉を行い、借主に自主的な退去を促します。とはいえ、借主は生活の拠点を失うため、自分に契約違反の原因があると認識していても、すぐに退去へ応じるとは限りません。そのため、相手の事情にも配慮しながら粘り強く交渉する必要があります。

まずは電話やメール、対面で連絡を取り、滞納賃料の支払期限や契約違反の是正期限、任意退去の時期などを話し合います。

効果的な任意交渉のポイントは以下のとおりです。

  • 感情的にならず、冷静な対応を心がける
  • 借主の事情にも耳を傾け、現実的な解決策を模索する
  • 契約違反の事実と法的手続きへ進む可能性を明確に伝える
  • 退去期限など、自主退去に応じやすい条件を提示する

なお、家賃滞納が問題となっている場合は、契約内容に応じて家賃保証会社へ連絡したり、連帯保証人へ滞納賃料などの支払いを求めたりすることも検討しましょう。

一方的に要求したり、感情的に責めたりすると、かえってトラブルが大きくなる可能性があります。相手の反応を見ながら、冷静に交渉を進めましょう。

交渉がうまく進まない場合は、弁護士に依頼することでスムーズに解決できる可能性があります。弁護士を借主との交渉窓口にすれば、法的根拠に沿って冷静に話し合えるほか、借主が訴訟や強制執行への移行を現実的に意識し、自主的な退去に応じるきっかけになる場合もあります。

入居者への交渉については、次の記事も参考にしてみてください。

入居者の自己破産だけを理由に強制退去は迫れない

貸主は、入居者が自己破産したことだけを理由に、賃貸借契約を解除したり、退去を求めたりすることは原則としてできません。自己破産は借金を整理するための手続きであり、それ自体は賃貸借契約上の義務違反にあたらないためです。

自己破産と賃貸借契約の関係は、以下のように整理できます。

  • 自己破産しただけの場合:貸主から賃貸借契約を解除することは原則としてできない
  • 契約を継続する場合:入居者は自己破産後も、家賃の支払いなど契約上の義務を守る必要がある
  • 別の契約違反がある場合:家賃滞納などによって信頼関係が破壊されたと認められれば、契約解除や明渡請求が認められる可能性がある

つまり、入居者が家賃を支払い、その他の契約上の義務を守っている限り、貸主側から自己破産だけを理由に退去させることはできません。

一方、自己破産前から家賃を長期間滞納していた場合や、自己破産後に家賃を支払わなくなった場合は、自己破産ではなく、家賃滞納という契約違反を理由に契約解除や明渡請求を進められる可能性があります。

貸主都合による店舗の立ち退きは立退料が高額になる場合もある

貸主側の事情で店舗の明渡しを求める場合は、居住用物件と比べて立退料が高額になることがあります。居住用物件では引越し費用や新居の初期費用などを中心に立退料を検討しますが、店舗では設備の移設費用や営業上の損失なども考慮されることがあるためです。

店舗の立退料が高額になりやすい主な要因は、以下のとおりです。

  • 休業・減収による損失:移転準備から新店舗の開業まで営業できない期間の売上減少や、営業再開後に売上が回復するまでの損失
  • 店舗設備や内装の費用:厨房機器、専門設備、什器、内装、看板などを移設・再設置するための費用
  • 立地変更による影響:移転によって既存の顧客が離れたり、これまでと同じ集客が見込めなくなったりすることによる損失
  • 代替物件の確保にかかる費用:同じ地域や条件で営業できる物件を探し、保証金や敷金、仲介手数料などを支払うための費用

店舗やオフィスなどの事業用物件では、立退料は家賃の2〜4年分程度が一つの目安とされることもあります。たとえば、家賃が月額30万円の場合、単純計算では720万〜1,440万円程度です。

ただし、これは法令で定められた基準ではありません。実際の金額は、業種や売上規模、営業年数、立地、設備の内容、移転による売上への影響、代替物件の見つけやすさなどによって大きく異なります。

貸主都合で店舗の立ち退きを求める場合は、想定される損失や正当事由の程度を踏まえ、弁護士や不動産鑑定士などの専門家に相談しながら交渉条件を検討しましょう。

強制退去を弁護士に任せるメリット

強制退去を進めるには、契約解除の可否を判断したうえで、借主との交渉や証拠の収集、建物明渡請求訴訟、強制執行などの手続きを進める必要があります。

弁護士に依頼すれば、法的な判断や複雑な手続きを任せられるため、貸主の負担を抑えながら、状況に応じた対応を進めやすくなります。

弁護士に依頼する主なメリットは、以下のとおりです。

メリット 具体的な内容
交渉や手続きの負担を軽減できる 借主や連帯保証人との交渉、内容証明郵便の作成・送付、証拠の整理、訴状の作成・提出、裁判や和解交渉、強制執行の申立てや執行官との調整などを任せられます。借主と直接やり取りする機会も減るため、手続きにかかる時間や精神的な負担を軽減できます。
早期解決につながる可能性がある 契約解除に必要な要件や証拠を確認し、適切な書面や手続きを準備してもらえるため、不備によるやり直しや遅延を防ぎやすくなります。また、弁護士が交渉窓口になることで、借主が訴訟などへの移行を現実的に認識し、自主的な退去に向けた話し合いが進む場合もあります。
法的知見をもとに解決方法を検討できる 契約違反の内容や証拠、費用、解決までの期間などを踏まえ、任意交渉、滞納家賃の支払方法や退去期限の調整、民事調停、訴訟上の和解、強制執行などから、状況に応じた方針を提案してもらえます。

ただし、弁護士に依頼しても、必ず早期に退去が実現するとは限りません。契約違反の内容や証拠、借主の対応、裁判所の進行状況などによって、解決までの期間や結果は異なります。

依頼する際は、対応してもらえる業務の範囲や弁護士費用を確認したうえで、強制退去や賃貸トラブルの対応実績がある弁護士へ相談しましょう。

強制退去に関するよくある質問

入居者と連絡が取れない場合はどうすればいい?

入居者と連絡が取れない場合でも、貸主の判断だけで室内へ立ち入ったり、鍵を交換したりすることは避けなければなりません。電話やメール、書面などで連絡を試みた日時や結果を整理したうえで、以下の対応を進めます。

段階 対応内容
1.関係者への確認 契約書に記載された連帯保証人、緊急連絡先、家賃保証会社などへ、必要な範囲で入居者の状況を確認する
2.安否確認 異臭や長期間の生活反応の消失など、入居者の生命・身体への危険が疑われる場合は、警察や消防へ相談する
3.法的手続きの検討 必要な調査をしても所在がわからない場合は、公示送達による契約解除通知や建物明渡請求訴訟を検討する

公示送達とは、必要な調査をしても入居者の所在がわからず、通常の方法では契約解除などの意思表示を到達させられない場合に利用できる手続きです。

入居者の所在がわからない場合は、原則として最後の住所地を管轄する簡易裁判所へ申し立てます。申立てが認められ、所定の掲示から2週間が経過すると、通知が入居者へ到達したものとして扱われます。

ただし、入居者の所在がわかっているものの、郵便物を受け取らないだけの場合は利用できません。また、建物明渡請求訴訟を予定している場合は、契約解除通知のみの公示送達が不要になるケースもあるため、弁護士へ確認しましょう。

夜逃げされた場合はどうしたらいい?

入居者に夜逃げされた場合でも、勝手に残置物を処分することはできません。原則として、賃貸借契約を解除したうえで、建物明渡請求訴訟と強制執行の手続きを進める必要があります。

夜逃げされた場合の対処法は、以下のとおりです。

ステップ 具体的な対応
夜逃げの確認 ・連帯保証人や緊急連絡先、家賃保証会社への連絡
・郵便物の返送状況や生活反応の確認
・生命・身体への危険が疑われる場合は、警察や消防へ相談
・連絡を試みた日時や方法、確認した状況などの記録・証拠保全
契約解除・訴訟手続き ・入居者の所在がわからない場合は、公示送達による契約解除通知を検討
・建物明渡請求訴訟の提起
・家賃滞納や連絡状況などの証拠を裁判所へ提出
・建物の明渡しを命じる判決などの債務名義を取得
残置物の処理 ・強制執行の申立て
・執行官の指揮のもとで残置物を搬出・保管
・搬出・運搬・保管費用を貸主がいったん負担
・物件の明渡し完了後に原状回復工事を実施

なお、物件を占有していない連帯保証人には、原則として明渡しを求められません。ただし、滞納家賃や原状回復費用などは、保証契約の範囲で請求できる場合があります。

夜逃げ後の契約解除や残置物の処理には法的な手続きが必要となるため、早めに弁護士へ相談しましょう。

まとめ

入居者に退去を求める際は、まず、家賃滞納や迷惑行為などの契約違反を理由とするのか、自己使用や建て替えなど貸主側の事情を理由とするのかを整理することが重要です。退去を求める根拠によって、確認すべき条件や必要な対応が異なります。

入居者との話し合いで解決できない場合は、契約解除や建物明渡請求訴訟、強制執行を見据え、証拠や通知の内容を適切に準備しなければなりません。貸主の判断だけで明渡しを実行することはできないため、費用や解決までの期間も踏まえて慎重に進めましょう。

契約解除の可否や必要な手続きに迷う場合は、対応を進める前に、賃貸トラブルに詳しい弁護士へ相談することが大切です。早い段階で方針を確認することで、不要な対立や手続きのやり直しを防ぎやすくなります。

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