共有者が所在不明の場合に不動産を売却する方法|手続きの流れも解説

共有者が所在不明の場合に不動産を売却する方法|手続きの流れも解説

共有不動産を売却するためには共有者全員の同意が必要なので、他の共有者の所在が1人でもわからないと不動産全体を売却することはできません。共有不動産を売却したいのに共有者の所在がわからず困っているという人もいるのではないでしょうか。

実は、共有者の所在がわからない不動産が増えていることから、2023年4月より新たに「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」という制度が施行され、他の共有者が不動産を買い取ったり、第三者に売ったりできるようになりました。そのため、共有者の所在がわからない場合、所在等不明共有者持分取得制度・所在等不明共有者持分譲渡制度の利用が最有力の対処法といえます。

共有不動産は自分の持分のみであれば他の共有者の同意なしに売却できるため、共有持分専門の買取業者に売ることも可能です。共有物分割の裁判を起こしたり、不在者財産管理人を選任したりして売却する方法もありますが、手続きの費用や時間、手間を考えると新たな制度を使わない場合は専門業者への売却がおすすめです。

本記事では、所在不明の共有者がいる場合の売却方法を詳しく解説します。そのほか、居場所がわからない共有者を探す方法や、各種手続きの流れについてもみていきましょう。

株式会社クランピーエステートは、共有持分の買取専門業者です。スピーディな査定・買取だでけでなく、士業とのネットワークを活かして、他の共有者とトラブルになっている不動産の買取も行っています。所在不明の共有者がいる場合でも買取が可能ですので、お困りの場合はぜひご相談ください。

共有不動産の共有者が所在不明の場合のリスクとは

共有不動産の他の共有者の所在がわからない場合、今管理をしている共有者や所在がわかっている他の共有者は、下記のようなリスクを負うことになります。

  • 共有不動産全体の売却ができない
  • 所在のわかる共有者同士で不動産の管理負担を引き受ける必要がある
  • 相続が発生すると権利関係がより複雑になる
  • 自治体に「特定空き家」に指定される可能性がある

実際に、共有不動産の所有・管理ではトラブルが頻発しており、「共有名義にするのは危険」「共有状態は早めに解消するべきだ」といわれています。

まずは、なぜ共有不動産が推奨されていないのか、起こり得るリスクを確認しましょう。

共有不動産全体の売却ができない

共有名義の不動産は、共有者全員が所有者の状態にあるため、全員の同意がないと不動産全体を売却できません。単独の共有者が売りたいと考えても、他の共有者が反対すれば、強制的に所有が維持されるのです。
これは、民法251条で共有者の権利(共有持分権)を守る規定があるためです。

「共有物の変更」
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条

この「共有物の変更」には、売却や建替え、解体を含む処分行為も含まれます。そのため、共有者のうち1人でも行方不明になると、共有者全員の合意が得られず、共有不動産を売却できなくなる事態を招きます。

所在のわかる共有者同士で不動産の管理負担を引き受ける必要がある

共有不動産を所有している場合、その不動産の日々の維持管理は共有者全員の責任です。具体的な維持管理には、定期的な見回りや植物の手入れ、設備の修繕などが含まれます。そして、維持管理にかかる費用は、持分割合に応じて全共有者が支払います。共有不動産の維持管理にかかる費用とは、主に修繕費や固定資産税、都市計画税です。

共有不動産に関する負担については、民法253条によって規定されています。

「共有物に関する負担」
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
e-Gov法令検索 民法第253条

民法上、実際に管理している共有者は、他の共有者から持分割合の維持管理費を受け取ることができます。しかし、所在不明の共有者がいる場合、費用を請求できないため、残された共有者が不動産の維持管理に関する責任と負担を全て引き受けなければなりません。

不動産は所有しているだけで税金がかかるうえ、老朽化や自然災害による破損・損壊が起こります。所在不明の共有者がいる共有不動産では、維持管理や処分に制限がかかるにもかかわらず、経済的・時間的な負担が増加するリスクがあります。

相続が発生すると権利関係がより複雑になる

共有不動産の持分は相続によって遺産分割の対象となります。そのため、共有不動産の共有者であった被相続人が亡くなり、相続人が複数いる場合、共有持分は細分化され、共有者が増えることになります。

2人で共有していた不動産だと、2人ともが亡くなって、それぞれ3人の相続人に遺産分割された場合、不動産の共有者は一気に6人にまで増えることになるのです。共有者が増えれば増えるほど、全員の所在が掴みづらく、維持管理や処分に関する協議が難航することは想像に難くありません。実際に、兵庫県姫路市では、長年空き家が放置された末、相続によって共有者が93人にまで膨れ上がってしまった空き家が発生しています。

共有不動産を所有している人は、日ごろから共有不動産の適切な管理と相続計画の策定を行っておく必要があります。しかし、何年も使っていない遠方の実家などの場合、他の共有者と集まって話をする機会は少なく、自分が亡くなった後の権利関係の複雑化を避けるために、他の共有者と連携して適切に維持管理を行ったりトラブルにならない相続計画を立てたりと対策できている人はそう多くありません。

自治体に「特定空き家」に指定される可能性がある

全国的に空き家が問題になっていることをニュースや新聞で目にしたことがある人は多いでしょう。空き家になっている共有不動産が行政から「特定空き家」に指定されると、税金の増額や、罰金・高額な解体費用を請求されるリスクがあります。

■特定空き家とは
特定空き家とは、長期的に放置されている空き家のうち、景観上・安全上・衛生上の問題を起こす可能性のある空き家を指します。行政が調査を行い、基準と照らし合わせて認定します。認定基準には、「放置すると倒壊など保安上の危険がある」「衛生上有害になる」「適切な管理が行われていない」「著しく景観を損なっている」などが挙げられます。

「定義」
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法

特定空き家に指定された後、行政から「助言・指導」が入り、改善が行われないとより厳しい「勧告」が行われます。勧告が入った時点で翌年からの固定資産税の軽減措置を受けられなくなり、固定資産税が最大6倍になることもあります。

勧告を無視すると、「命令」が下されますが、この命令を無視すると50万円以下の罰金が科せられます。

所有者によって特定空き家の状況が改善されないと、最終的には「行政代執行」によって市町村側が特定空き家の解体を行い、その費用が所有者に請求されます。行政代執行による解体費用は、普通に解体業者に依頼するよりも高額になるのが一般的です。

特定空き家に対しては、2023年3月時点で行政代執行が累計180件、略式代執行が415件行われました。略式代執行は、緊急性が高い場合に、行政が所有者に代わって必要な措置を講じること、つまり所有者の許可を取らずに解体などを行うことを指します。略式代執行となると、措置後に所有者や相続人に費用が請求されます。

共有不動産の維持管理を適切に行っていなかった場合、特定空き家に指定され、行政を巻き込んだ大きな問題に発展してしまうのです。

所在不明の共有者がいる場合に不動産を処分する方法

それでは、所在不明の共有者がいる共有不動産を所有している場合、どのように処分すればよいのでしょうか。処分方法は、大きく以下の5つがあります。

  • 所在等不明共有者持分取得制度で持分を買い取って売却する
  • 所在等不明共有者持分譲渡制度で所在不明の共有者の持分も含めて第三者に売却する
  • 不在者財産管理人制度を活用して不在者の代わりに売却に同意してもらう
  • 失踪宣告を行う
  • 自分の持分を買い取り専門業者に売却する

優先順位が高いのは、「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」です。2023年4月1日から新たに施行された制度で、共有者の所在不明の共有不動産が増加していることから、管理や処分を円滑に進めるために作られました。

従来、「不在者財産管理人制度」や「失踪宣告」でも、所在不明の共有者がいる不動産を売却することができましたが、利用しづらい面も多く、法改正によって他の共有者が所在不明の共有者がいる不動産を処分しやすくなっています。なお、早く共有状態を解消したいという場合は、自己持分を買取業者に売却するのがおすすめです。

新しい制度・従来の方法と、自己持分の売却についてそれぞれ詳しくみていきましょう。

所在等不明共有者持分取得制度で持分を買い取って売却する

「所在等不明共有者持分取得制度」とは、他の共有者が裁判手続きによって、所在不明者の持分を買い取ることができる仕組みです。

所在不明者は売却によって発生した代金を受け取れないため、供託金として国が預かることになります。この供託金は、買い取ることになる所在等不明者の自己持分の時価相当額が設定されるのが一般的です。なお、所在不明者の持分の買取代金となる供託金の金額は、裁判所が決定します。

他の共有者の持分を購入することで、不動産の単独所有が可能になる方法なので、買取後に不動産を売却する予定がない、不動産を活用したいという場合におすすめです。

「所在等不明共有者の持分の取得」
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
e-Gov法令検索 第262条の2

所在等不明共有者持分譲渡制度で所在不明の共有者の持分も含めて第三者に売却する

「所在等不明共有者持分譲渡制度」とは、他の共有者が裁判手続きによって、自分の共有持分と所在不明共有者の共有持分を第三者に売却できる仕組みです。

ただし、相続によって取得した不動産に関しては、相続開始から10年間はこの所在等不明共有者持分譲渡制度を利用できないことになっています。

また、裁判所は売却権利の取得には動いてくれますが、実際に不動産を売るための売却活動をするのは共有者自身です。そして、所在不明者以外の共有者が複数いる場合、全員の同意が得られないと売却することはできません。

不動産の売却では、買い取り後の運用が制限される自己持分のみの売却よりも、不動産全体の売却のほうが、買取金額が高くなります。そのため、所在がわかっている共有者間で、最終的な売却の合意がなされている場合は、所在等不明共有者持分譲渡制度を利用して不動産全体を売却するのが得策といえます。

「所在等不明共有者の持分の譲渡」
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。
e-Gov法令検索 第262条の3

不在者財産管理人制度を活用して不在者の代わりに売却に同意してもらう

「不在者財産管理人制度」とは、行方不明者の代わりに不在者財産管理人を設定し、財産管理を行う仕組みです。不在者財産管理人は、所在不明の共有者の代わりに不動産の管理行為・保存行為に関する判断を行う権限を持ちます。変更(処分)行為の権限はなく、不動産を処分するためには裁判所の許可を得なければなりませんが、不在者財産管理人は処分のための許可を裁判所に申請できるため、不在者財産管理人を選任すれば共有不動産の売却も可能になるのです。

■共有不動産の管理行為・保存行為とは
管理行為とは、共有物の性質を変えずに、利用・改良を目的とした行為。共有不動産の賃貸や、建物の改装、宅地の整地など。
保存行為とは、共有物の現状を維持するための行為。不動産の修理・修繕、法定相続登記、不法占拠者への明け渡し請求など。

不在者財産管理人制度を利用するためには、家庭裁判所に申し立てが必要です。その際には、申立書のほか、行方不明者の戸籍謄本・附票、不在者財産管理人候補者の住民票・戸籍の附票、申立人との関係を証明する資料、不在の事実を証明する資料などが必要です。不在の事実を証明する資料とは、警察署の「行方不明者届出証明書」や、職権消除された戸籍附票・住民票などが該当します。

不在者財産管理人を選任できれば共有不動産を扱いやすくなる制度ですが、候補者が不在者財産管理人として選任されなかったり、親族以外が不在者財産管理人になる場合は報酬が発生したりとデメリットもあります。不在者財産管理人を弁護士や司法書士に依頼する場合、依頼する範囲によって月額1~5万円が相場です。

さらに、申し立ての後には、行方不明者の不在の事実の調査のため、2~3ヵ月の期間を要します。その他の手続きを含めるとかなりの時間を要するため、使いやすい方法とはいえないでしょう。

失踪宣告を行う

「失踪宣告」とは、生死不明な人を法的に死亡とみなす仕組みです。失踪宣告が行われると、行方不明者の共有持分は相続人に引き継がれることから、相続人から合意を得て共有不動産の売却をすすめることができます。

ただし、行方不明者が死亡したであろう危険な状況に巻き込まれたことが認められない限り、失踪宣言は行方不明になってから7年経過しなければ手続きできません。失踪宣言を裁判所に申し立てても、調査官による調査後、3ヵ月以内に行方不明者本人や知情者(内情を知っている人)からの届出がないか待つ必要があり、失踪宣言が正式に認められるには時間がかかります。

また、失踪宣告者に相続人がいない場合は、相続財産管理人が選定が行われた後、財産分与が行われることになるため、共有不動産の売却について協議・合意に至るには気が遠くなるほどの手続きと工程を進めなければなりません。こちらも、不動産の売却を達成するには、かなり使いにくい方法といえるでしょう。

自分の持分は買い取り専門業者に売却がおすすめ

できるだけ手間をかけずに、共有不動産の所有を止めたいという場合は、自分が所有する自己持分を専門買取業者に売ってしまうという方法もあります。

不在者財産管理人制度や失踪宣言はもちろんのこと、所在等不明共有者持分取得制度・所在等不明共有者持分譲渡制度であっても裁判所を通した手続きが必要になります。そのため、手続きの手間や時間がどうしてもかかってしまいます。対して、買取業者に売却する場合、見積もり・査定が終わり、契約すれば、後はお金の振込を待つだけです。自己持分のみの売却であれば、他の共有者の合意を得る必要はありません。

ただし、自己持分のみの売却では、買取後の活用が制限されるうえ、共有状態解消のための手続きが必要になるため、売却額が下がりがちです。一般的な不動産買取業者であれば、買取自体を断られる可能性もあります。できるだけ高く売るためには、不動産の共有持分を専門に買い取っている業者を利用するようにしましょう。

当社クランピーリアルエステートは、共有持分不動産を専門に買い取っている不動産会社です。弁護士や税理士などの士業との連携が強みで、共有者と連絡が付かない場合でも買取できます。トラブルを抱えた共有持分を積極的に買い取っている業者は少ないので、共有者の所在がわからない場合はぜひ一度ご連絡ください。

 

所在不明の共有者を探す2つの方法

共有者の所在さえわかれば、必要な手続きや手間が軽減されます。そのため、共有者が所在不明のまま手続きを進める前に、共有者と本当に連絡が取れないのか確認したほうがよいでしょう。

所在不明の共有者を探す方法は、主に下記の2つがあります。

  • 共有不動産の登記簿で確認する
  • 弁護士に依頼して住民票または戸籍を取得する

それぞれの方法についてみていきましょう。

共有不動産の登記簿で確認する

不動産の登記簿情報は、共有者や利害関係者でなくても、誰でも取得が可能です。登記簿を見れば、共有者の住所を確認できます。また、登記簿に記載された住所に居住していなかった場合でも、該当地域の役所で住民票を取得して本籍地を調べ、本籍地の役所で戸籍の附票を取得することで、移転履歴から現在の居住地を調べることができます。

所在不明者の住民票や戸籍の附票は、利害関係者であれば取得が可能なので、共有不動産の処分のために共有者と連絡を取りたい旨を伝えれば問題なく取得できるでしょう。少し手間はかかりますが、裁判所を通した手続きよりも、簡単で時間もかかりません。

弁護士に依頼して住民票または戸籍を取得する

自分で所在不明者を探すのが難しい・各手続きをする時間がないという場合は、弁護士に依頼するとよいでしょう。弁護士は職務上請求権限を持つため、職務を遂行するために必要な範囲で、第三者の住民票や戸籍の附票を取得が可能です。

弁護士に頼めば、所在不明者の現住所を調査するだけでなく、本人に連絡を取ったり、不動産売買についての交渉を進めたりといった、その後の対応まで任せられます。あまり親交のない親戚や全く面識のない人が所在不明者だった場合は、どのような人なのかもわからないため、弁護士に居場所探しから依頼したほうが安心でしょう。

所在者等不明共有者との関係を解消する裁判手続きの流れ

最後は、「所在等不明共有者持分取得制度」と「所在等不明共有者持分譲渡制度」の手続きを行うときの手順を解説します。異なる制度ではありますが、手続きの手順に大きく違
いはありません。

  1. 不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる
  2. 裁判所による公告が行われる
  3. 供託金を納付する
  4. 登記手続きを行う

順を追ってみていきましょう。

不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる

まずは、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、 所在等不明共有者持分取得の申立て、または所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申し立てを行います。申し立ては、共有不動産の他の共有者であれば誰でも可能です。

・申立書
所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立書
所在等不明共有者持分取得決定申立書

・費用
申立て時には、申立て料には印紙代や予納金、郵便切手代などがかかります。 所在等不明共有者持分取得の申立てと、所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申し立てで若干異なるため、下記を参考にしてください。

参考:裁判所「所在等不明共有者持分取得申立てについて」
参考:裁判所「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて」

裁判所による公告が行われる

申立てが行われると、「裁判所は申立てがあったこと」「申し立てに異議がある場合は一定期間内に裁判所に届出が出せること」「届出がない場合は裁判が行われること」の3点を裁判所が公告します。これは、裁判による共有持分の取得や譲渡は、所在不明とはいえ不動産の共有者としての権利を侵害しかねない手続きとなるためです。このときに登記簿上の共有者に対しては、個別に通知も発送されます。

なお、異議申立てができる公告期間は、最低でも3ヵ月と定められています。ただし、実際には、所在不明者が裁判所の広告に気づき、異議申し立てを行うことはそうありません。

「所在等不明共有者の持分の取得」
裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。

3裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
e-Gov法令検索 非訟事件手続法 第87条 2項・3項

供託金を納付する

広告期間が終わって申立てが認められたら、「供託金の納付通知」がなされるため、申立て人は供託金を納付します。

「所在等不明共有者持分取得制度で持分を買い取って売却する」で説明した通り、供託金は所在不明者の持分の買取金額です。供託金の金額や納付期限は裁判所によって決められます。裁判所は、申立人が提出した不動産鑑定士の不動産評価書や、不動産業者の査定書などを参考に時価相当額を算出します。ただし、所在不明者以外にも共有者がいる場合、共有状態であることを理由に減額されるのが通常です。

供託金を納付したら、証明書を裁判所に提出します。

登記手続きを行う

裁判が行われ、判決が確定したら、所在不明者の持分を取得または譲渡する権利を獲得します。裁判所から交付された書類を持って、登記申請(名義変更)を行いましょう。

なお、持分譲渡権限付与の裁判の場合は、裁判が確定した後2か月以内にすべての持分を第三者に譲渡しなければなりません。

「所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与」
所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
e-Gov法令検索 非訟事件手続法 第88条 3項

不動産の名義変更は、自分で手続きすることも可能ですが、日中に役所や法務局に行く必要があり、必要書類の取得や申請書の作成も必要です。依頼料はかかりますが、スムーズに完了させるには司法書士に依頼するのがおすすめです。

まとめ

本記事では、共有不動産の共有者の所在がわからない場合に、共有不動産をどう処分するのかについて解説しました。

従来の方法だと、不在者財産管理人の選定や失踪宣告を行うことで、なんとか処分する道がありました。しかし、いずれも手続きが複雑で手間や時間がかかるうえ、確実に共有不動産の取得や売却ができるとは限りません。

共有者の所在がわからないことで、大規模な修繕や処分ができない不動産が増えたこともあり、2023年4月からは他の共有者が所在不明な共有者の持分を取得できる「所在等不明共有者持分取得制度」や、第三者に譲渡できる「所在等不明共有者持分譲渡制度」が始まりました。現在のところ、所在不明者がいる共有不動産全体を処分したいという場合は、所在等不明共有者持分取得制度か所在等不明共有者持分譲渡制度を選択するのが現実的でしょう。

新たに創設された制度も裁判手続きが必要で、従来の方法に比べるとまだ負担が少ないとはいえ、手間や時間がかかります。「自己持分だけでも売却したい」「共有不動産の維持管理にかかる負担がストレス」「できるだけ早く手放したい」という人は、共有持分専門の買取業者に相談しましょう。

共有者の所在がわからない共有不動産は、売りたくてもなかなか買い手が付かないことが珍しくありません。自己持分だけでも売却したい方は、ぜひ共有名義不動産買取の専門業者クランピーリアルエステートにご相談ください。

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