共有名義人が認知症になった際の売却方法!成年後見制度や売却の流れをわかりやすく解説

認知症の共有名義人がいる場合、共有名義不動産全体の売却が難しくなるのが実情です。
なぜなら、認知症の進行次第では、本人が意思能力を有していないと判断されてしまうことがあり、その場合には不動産の売買契約が法的に無効になってしまうためです。
実際に弊社でも「共有名義人が認知症になり、不動産を売れるか不安」とご相談いただいた際には、そのままでは不動産全体の売却が難しい可能性を正直にお伝えしています。
しかし、共有名義人が認知症であっても必ず売却できないわけではありません。法定後見制度を利用して必要な権限を持つ成年後見人等が選任されれば、認知症の共有名義人の代わりに売却手続きを進められるため、全体売却ができる可能性が出てきます。
法定後見制度は、申立てから審判までおおむね1~2か月程度かかり、鑑定や追加調査が必要な場合はさらに期間を要します。買主探しや売却条件の調整も必要となり、居住用不動産を売却する場合は家庭裁判所の許可も得なければならないため、早めに準備を始めることが大切です。
なお、自分の共有持分のみを売却して共有関係から抜け出す方法もあります。「成年後見制度の手続きに対応する時間と費用が厳しい」「他の共有名義人と話し合うのも難しい」といった場合は、他の共有名義人の同意なく手続きを進められるこちらの方法も検討してみてください。
本人に意思能力が残っている段階であれば、任意後見契約や家族信託によって将来の不動産売却に備えることも可能です。
本記事では、共有名義人が認知症になった場合に不動産を売却できるか、法定後見制度を利用した売却の流れ、自分の共有持分のみを売却する方法、認知症になる前にできる対策などをわかりやすく解説します。
目次
共有名義人が認知症になると不動産売却が難しくなる理由
共有名義人が認知症になると、通常の不動産よりも不動産売却が難しくなります。その理由としては、認知症が原因で意思能力が低下しやすく、共有名義不動産の売却に必要な同意を得るのが難しくなるからです。
共有名義不動産全体を売却するには、原則として「売却には共有名義人全員の同意が必要(民法第251条)」です。
この同意が法的に有効となるのは、同意した時点で各共有名義人が「意思能力」を欠いていないことが前提です。
共有名義人が売買契約や同意をした時点で、認知症によって意思能力を欠いていた場合、その意思表示は法的に無効になります。当然ながら、本人の代わりに家族が勝手に同意したり、契約書へ署名したりすることもできません。
つまり、共有名義人が認知症になると、本人から法的に有効な同意を得るのが難しいケースがあるため、共有名義不動産全体の売却も難航してしまうことがあるのです。
実際に、認知症の影響を受けた不動産売買契約が無効とされた裁判例もあります。
裁判所は、売主が住む家や家賃収入を失い、生活費も手元に残らないことや、買主が売主の切迫した状況と信頼を利用して大きな利益を得たことなどを重く見て、経済的に著しく不合理な取引であり、公序良俗に反する暴利行為にあたるとして売買契約を無効とした。
一方で、共有名義人が認知症になったからといって、直ちに不動産を売却できなくなるわけではありません。認知症の診断は意思能力を判断する重要な材料ですが、診断の有無だけで契約の効力が決まるものではないためです。
とはいえ、共有名義人が認知症によって売買に必要な意思能力を欠いている場合、不動産売却のハードルが高くなるのは事実です。本人から有効な同意を得るのが難しいときは、判断能力の程度に応じて、成年後見制度の利用を検討します。
共有名義人が認知症で判断能力が低下している場合、「不動産における共有持分割合の過半数の同意」が必要となる「管理行為(民法第252条)」を行うのも難しくなる可能性があります。
管理行為に該当するものは、「共有名義不動産の使用方法や管理ルールを決める」「形状や効用を著しく変えない範囲で改修する」などです。
委任状を作成していたとしても売買契約が無効になることがある
委任状を作成し、認知症の共有名義人の代わりに売却に同意する代理人を立てたとしても、売買契約が無効になるケースが少なくありません。法的に有効と認められる委任状を作成するにも、意思能力が必要だからです。
委任状を作成して代理人を立てる行為は、「委任契約」という法律行為に該当します。つまり、認知症で意思能力が欠けている共有名義人が委任状を作成しても、他の契約行為と同じく無効になります。
例えば、認知症の親の印鑑を子どもが用いて委任状を作成し、共有名義不動産を売却したとしても、後日その親に意思能力がなかったと判明すれば法的には契約が無効になります。
共有名義人が認知症で売却手続きが難しい場合は成年後見制度を検討する
認知症の影響で共有名義人本人だけでは有効な売却手続きを進めるのが難しい場合は、「成年後見制度」の利用を検討してみてください。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などによって「判断能力」が不十分な人について、財産管理や契約などを法律面からサポートする制度です。法定後見制度は、本人、配偶者、一定範囲の親族などが家庭裁判所へ申し立て、家庭裁判所が成年後見人等を選任することで利用できます。
成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。
| 法定後見制度 | 任意後見制度 | |
|---|---|---|
| 主な違い | 本人が自分で決めるのが難しくなった後でも利用できるが、手助けする人を本人が自由に選べるとは限らない | 手助けしてもらう人や任せる内容を自分で決められるが、本人が自分で契約できるうちに準備しておく必要がある |
| 手助けする人の決め方 | 家庭裁判所が選任するため家族が希望した人が必ず選ばれるとは限らない | 将来手助けしてもらいたい人を本人が選び任意後見契約を締結しておく |
任意後見契約を事前に締結しておらず、共有名義人の判断能力がすでに不十分になっている場合は、法定後見制度の利用を検討するのが一般的です。
任意後見制度は、共有名義人の判断能力が正常な状態で任意後見契約を締結しなければなりません。一方で法定後見制度は、すでに共有名義人が認知症になって自分で物事を決めるのが難しい状態でも進められます。
◻︎判断能力と意思能力の違いについて
判断能力は「本人の財産管理や契約に関する全体的な能力」のことです。認知症による判断能力の低下は、個別の法律行為に必要な意思能力を欠いていると判断される要因の1つになりえます。
逆に言えば、認知症で判断能力が低下している状態でも、不動産売買の内容や結果を理解して判断できる状態であれば、本人の意思能力が認められることがあります。本記事においては、判断能力=意思能力ではないという程度の理解で問題ありません。
法定後見制度によって共有名義不動産を売却できる可能性が生まれる理由
不動産売買における法定後見制度は、簡単に言えば「認知症を患った人の代わりに、不動産売却を進めてくれる人を選任する仕組み」です。
家庭裁判所は、本人の心身や生活・財産の状況、必要となる支援の内容、候補者との関係などを総合的に考慮し、成年後見人等として最適な人を選任します。その後、選任された人が付与された権限に基づいて本人側の手続きを行い、その他の共有名義人も売却に同意すれば、全員分の同意を得たということで民法第251条の規定を満たしたことになります。
そして法定後見制度は、共有名義人がすでに認知症で意思能力が欠けている状態であっても申し立てることが可能です。
「急激に認知症が進行した」「長期間連絡を取らないうちに判断能力が大きく低下していた」といった状況に困っている場合でも、法定後見制度を利用すれば全体売却を検討しやすくなります。
ただし、法定後見制度を利用したからといって、認知症の共有名義人がいる共有名義不動産を必ず売却できるとは限りません。
選任された人が「不動産の売却が本人のためになるか」「本人の意向や従前の希望に反しないか」といった部分を確認した後、本人の利益にならないと判断した場合は手続きを進められない可能性があります。
また、共有名義人が住んでいたり将来住む予定だったりする「居住用不動産」を売却する場合だと、家庭裁判所の許可も別途得なければ売却できません。
判断能力の程度によって共有名義人が売却を判断できる範囲が異なる
法定後見制度は、制度の対象となる本人の判断能力に応じて後見・保佐・補助の3つの類型が設けられています。本人を支援する者として、後見の場合は成年後見人、保佐の場合は保佐人、補助の場合は補助人が家庭裁判所によって選任されます。
| 類型 | 対象となる人 | 選任方法 | 家庭裁判所の手続きを始める際に本人の同意が必要か |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態の人(民法7条) | 家庭裁判所が申立てを受けて選任 | 不要 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な人(民法11条) | 同上 | 原則不要(ただし代理権付与には本人の同意が必要) |
| 補助 | 判断能力が不十分な人(民法15条) | 同上 | 原則必要 |
参考:法務省「Q3~Q15 「法定後見制度について」」
法定後見制度を利用するからといって、売却に関するすべての判断を必ず成年後見人等に委ねるわけではありません。
例えば、「共有名義人が補助の対象」「不動産売買について補助人に同意権・代理権が付与されていない」という場合、本人に意思能力が認められれば、本人自身が契約手続きを行える可能性があります。
一方、後見の場合は、成年後見人が本人の意思・希望を最大限尊重したうえで、法定代理人として売買契約を締結するのが基本です。
最終的にどの類型になるかは、申立内容や診断書、本人の生活状況などを踏まえて、家庭裁判所が判断します。
法定後見制度を利用して共有名義不動産を売却する流れ
法定後見制度を利用して共有名義不動産を売却する場合、以下のステップを踏む必要があります。
- 共有名義人に不動産売却の意思があるかを確認する
- 認知症を患う共有名義人の判断能力を確認する
- 家庭裁判所へ後見・保佐・補助開始等を申し立てる
- 家庭裁判所による審理と調査が行われる
- 成年後見人等が選任される
- 居住用不動産に該当する場合は家庭裁判所の許可を得る
- 仲介や買取で共有名義不動産を売却する
なお、申立てから審判まではおおむね1~2か月程度が目安ですが、鑑定や追加調査が必要な場合はさらに時間を要します。
共有名義人に不動産売却の意思があるかを確認する
法定後見制度の申立てを進める前に、認知症の共有名義人以外の人が不動産全体の売却を希望しているかを確認しておきましょう。
共有名義人の中に1人でも売却に反対する人がいれば、不動産全体の売却ができないためです。
「全員に売却する意思があるのか」「売却価格や代金の分配について大きな対立がないか」といった部分をあらかじめ確認しておきましょう。
この際に、本人が売却について希望を示せる場合は、家族や支援者がその意向を可能な限り確認します。認知症によって判断能力が低下していても、本人の希望を聞かずに、他の共有名義人だけで売却方針を決めてよいわけではないためです(民法第858条)。
成年後見制度の対象になっていることを理由に、本人の売却代金の取り分が減るわけではありません。共有名義不動産を売却した場合は、原則として各共有名義人の持分割合に応じた売却代金を分配します。
例えば、住宅ローンや売却費用などを精算した後の残額が3,000万円で持分が2分の1ずつであれば、原則として共有名義人それぞれが受け取るのは1,500万円ずつです。
成年後見人が本人を代理して受領する場合も、成年後見人や家族の財産にはならず、本人名義の口座で管理します。
認知症を患う共有名義人の判断能力を確認する
法定後見制度を申し立てるには、制度の対象となる共有名義人本人が財産管理や重要な契約をどの程度自分で判断できるかを確認する必要があります。
家族が本人と会話をして「受け答えができるから問題ない」「認知症と診断されたから契約できない」と判断するだけでは不十分です。
法定後見制度の申立てでは、通常、本人の判断能力を確認する資料として、本人情報シートの作成を福祉関係者に、成年後見制度用の診断書の作成を医師に依頼します。
本人情報シートは、本人の日常生活や金銭管理、意思疎通などの状況を医師や家庭裁判所へ伝え、診断書の作成を補うための書類です。医師は、このシートや診察・検査の結果などを踏まえ、本人が契約等の意味・内容をどの程度理解して判断できるかについて、診断書へ医学的な意見を記載します。
なお、後見・保佐・補助のどの類型が適切かは、家庭裁判所が診断書、本人情報シート、日常生活や財産管理の状況、本人・申立人等への面接や照会、必要に応じて行う鑑定などを踏まえて判断します。
家庭裁判所へ後見・保佐・補助開始等を申し立てる
判断能力や必要な支援の内容を確認したら、本人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、後見・保佐・補助開始等を申し立てます。申立てができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長など、法律で定められた人です。
| 書類名 | 概要 |
|---|---|
| 後見・保佐・補助開始等申立書 | 希望する類型や申立ての理由を家庭裁判所へ伝える書類 |
| 申立事情説明書 | 申立てに至った事情や本人の生活状況や必要な支援を説明する書類 |
| 代理行為目録・同意行為目録 | 保佐人や補助人に代理権や同意権を付与する場合に対象行為を指定する書類 |
| 親族関係図・親族の意見書 | 本人と親族の関係や制度利用に対する親族の意向を示す書類 |
| 後見人等候補者事情説明書 | 候補者の職業や本人との関係や財産管理を行える状況を説明する書類 |
| 財産目録 | 本人の預貯金や不動産や保険や負債などを一覧にした書類 |
| 収支予定表 | 本人の収入と生活費や施設費や税金などの支出見込みを示す書類 |
| 本人の戸籍謄本・住民票等 | 本人の身分関係や住所や申立先の家庭裁判所を確認する書類 |
| 成年後見制度用の診断書 | 本人の症状や契約内容を理解して判断できる程度を医師が示す書類 |
| 本人情報シートの写し | 本人の日常生活や意思疎通や金銭管理の状況を福祉関係者が示す書類 |
| 成年後見等の登記がされていないことの証明書 | 本人について後見や保佐や補助などの登記がないことを確認する書類 |
| 財産・収支を裏付ける資料 | 通帳や不動産登記事項証明書や固定資産評価証明書や年金通知書など |
参考:裁判所「後見・保佐・補助開始の審判の申立てについて」、「後見開始の申立書」
実務上は、この段階で不動産会社へ査定を依頼して、「この不動産はいくらくらいで売れそうか」を確認しておくとよいでしょう。
売却価格の目安や住宅ローン残高、諸費用を差し引いた後に本人の手元へいくら残るかといった情報があれば、成年後見人等が売却の必要性や条件を検討する際の参考になります。
なお、保佐人や補助人が本人の代わりに売買契約を結ぶ場合は、不動産売却を代わりに行うための「代理権」も家庭裁判所から与えてもらう必要があります。家族など本人以外の人が代理権の付与を申し立てる場合は、原則として本人の同意も必要です。
家庭裁判所による審理と調査が行われる
申立てを受けた家庭裁判所は、申立書、診断書、本人情報シートなどを確認し、必要に応じて本人・申立人・成年後見人等の候補者から事情や意見を聴きます。親族への意向照会や家庭裁判所調査官による調査、医師による鑑定が行われる場合もあります。
裁判所の案内によると、申立てから審判まではおおむね1か月~2か月程度が目安です。
医師による鑑定や追加の調査が必要な場合は、さらに期間が加わります。これは審判までの目安であり、不動産の売却完了までの期間ではありません。
審判書謄本を受け取った日の翌日から原則として2週間以内に不服申立てがなければ、審判が確定し、成年後見人等の職務が始まります。
成年後見人等が選任される
法定後見制度では、後見・保佐・補助開始の審判と同時に成年後見人等が選任されるのが原則です。申立人は親族などを候補者として挙げられますが、最終的な人選は家庭裁判所が行います。
家庭裁判所は、本人の心身や生活、財産の状況、候補者の職業・経歴、本人との利害関係、本人の意見などを考慮して成年後見人等を選任します。
共有名義不動産の売却を予定している場合は、候補者が本人と共同で不動産を所有していないか、売却によって候補者自身が利益を得る関係にないかなども確認されます。
親族が選ばれることもありますが、親族の候補者がいない場合や、専門的な財産管理が必要な場合などには、弁護士・司法書士・社会福祉士などが選任されます。希望した候補者が選任されなかっただけでは、不服の申し立てはできません。
なお、次の欠格事由に該当する人は、成年後見人等になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所から法定代理人・保佐人・補助人を解任された人
- 破産手続開始決定を受けて復権していない人
- 本人に対して訴訟をしている人または過去にした人とその配偶者・直系血族
- 行方の知れない人
居住用不動産に該当する場合は家庭裁判所の許可を得る
成年後見人等が本人に代わって「居住用不動産」を売却する場合は、本人の住まいや生活を保護するため、民法第859条の3に基づく家庭裁判所の許可が必要です。もし許可を得ずに居住用不動産を売却した場合、その売却は無効になります。
本人が現在住んでいる不動産だけでなく、施設へ入所する前に住んでいた不動産や、将来戻って住む可能性がある不動産も居住用不動産に含まれます。
許可を申し立てるタイミングは、買主や売却価格などの条件がほぼ決まり、売買契約書案を作成した段階です。
家庭裁判所では、主に次の内容や資料を確認します。
- 居住用不動産を売却する必要性
- 売却に対する本人の同意や意向
- 売却後に本人が暮らす場所
- 売却価格や契約条件の妥当性
- 監督人が選任されている場合の同意
申立てには、売買契約書案、不動産会社の査定書、固定資産評価証明書、登記事項証明書などを添付します。
売却価格が査定価格を下回る場合は、早期売却の必要性や物件の状態、契約条件などを踏まえ、「なぜその価格で売却するのか」を説明できるようにしておくことが重要です。
本人が過去に住んだことがなく、将来住む予定もない投資用不動産などは、原則として居住用不動産処分許可の対象外です。
ただし、許可が不要だからといって、成年後見人等が自由な価格で売却できるわけではありません。売却の必要性や他の方法の有無、本人の財産状況、売却価格の妥当性などを確認し、本人に不利益が生じないよう慎重に判断します。
仲介や買取で共有名義不動産を売却する
売買条件が整い、居住用不動産について家庭裁判所の許可が得られたら、正式な売買契約を締結します。
成年後見人は本人の持分について、本人に代わって売買契約を締結します。保佐人・補助人が代理する場合は、不動産売却を対象とする代理権が必要です。
成年後見人等の代理権や家庭裁判所の許可は、その他の共有名義人の持分には及びません。共有名義不動産全体を売却する場合は、その他の共有名義人も売主として手続きに参加します。
許可後の流れは、次のとおりです。
- 買主と正式な売買契約を締結する
- 決済日に売却代金を受領して不動産を引き渡す
- 買主への所有権移転登記を行う
- 本人の持分に対応する代金を本人名義の口座で管理する
- 家庭裁判所の指示に従って売却結果を報告する
売買契約書、売却代金の入金記録、登記関係書類などは、家庭裁判所へ報告できるよう保管しておきましょう。
成年後見人等が共有名義不動産の売却に反対している場合は、まず反対理由を確認し、売却価格や本人の手取り、売却後の住まいなどの条件を見直して再協議します。
合意できない場合は、自分の共有持分のみを売却する方法や、共有物分割請求によって共有状態を解消する方法を検討します。
法定後見制度を利用する前に知っておきたい注意点
法定後見制度は、本人の判断能力がすでに大きく低下した後でも利用を申し立てられる一方、不動産の売却だけで終了する制度ではありません。申立てに実費がかかるほか、家庭裁判所が報酬付与を認めた場合は、成年後見人等への報酬が本人の財産から支払われる点にも注意が必要です。
法定後見制度は不動産売却後も原則として続く
共有名義不動産の売却が完了しても、法定後見制度が自動的に終了するわけではありません。本人の判断能力が回復して家庭裁判所が後見等開始の審判を取り消すか、本人が亡くなるまで原則として続きます。
ただし、補助については、補助人に付与された同意権や代理権がすべて不要となり、家庭裁判所がこれらを取り消した場合に、補助開始の審判も取り消されることがあります。
成年後見人等は、売却後も本人の財産や生活状況を確認し、原則として少なくとも年1回、家庭裁判所へ報告しなければなりません。
そのため、申立て前には、不動産売却後も制度が継続することや、成年後見人等への報酬が本人の財産から支払われる可能性を踏まえて検討する必要があります。
一度選任された成年後見人等は自由に辞任・交代できない
法定後見制度が続いている間は、選任された成年後見人等を本人や親族の希望だけでは、自由に辞任・交代させることはできません。
成年後見人等は、病気や高齢、職業上の事情による遠隔地への転居など、後見等の事務を続けることが難しい正当な事由がある場合に、家庭裁判所の許可を得て辞任できます。
辞任する場合は、家庭裁判所へ「辞任許可の申立て」が必要です。辞任によって成年後見人等が不在となり、後任者が必要な場合は、辞任許可の申立てと併せて、新たな成年後見人等の選任を申し立てます。
また、成年後見人等に不正な行為や著しい不行跡、その他後見等の任務に適しない事由がある場合は、家庭裁判所によって解任され、別の成年後見人等へ交代することもあります。
申立費用や成年後見人等への報酬がかかる
法定後見制度は公的な制度ですが、申立てには手数料や郵便料などがかかります。
- 申立手数料:後見開始は800円
- 後見登記手数料:2,600円
- 郵便料・戸籍謄本・住民票・診断書などの取得費用:申立先や取得先によって異なる
- 鑑定費用:家庭裁判所が鑑定を必要と判断した場合のみ発生
- 弁護士・司法書士への依頼費用:依頼内容や事務所によって異なる
成年後見人等への報酬は自動的に発生するものではなく、報酬付与の申立てを受けた家庭裁判所が、本人の財産状況や後見事務の内容などを踏まえて決定します。
親族が成年後見人等になり、報酬を求めずに職務を行うケースもあります。一方、制度が長期間続き、報酬付与が繰り返し認められた場合は、累計の負担が大きくなるかもしれません。
報酬は原則として本人の財産から支払われます。資力が乏しい場合は、市区町村の成年後見制度利用支援事業によって、申立費用や報酬の助成を受けられる可能性もあります。
実際に弊社へご相談いただいた方のなかには、法定後見制度が不動産売却後も続くことや、専門職が選任された場合に報酬が発生する可能性を知り、「親の判断能力が十分なうちに売却を検討したい」と話された方もおられました。
法定後見制度以外で共有名義不動産を売却する方法
共有名義人が重度の認知症を患い、その人の持分を含めて不動産全体を売却する場合は、原則として法定後見制度を利用し、本人側の売買手続きを行える状態にする必要があります。
法定後見制度は手続きだけではなく、買主探しや居住用不動産処分許可などを含めると、売却完了まで非常に時間がかかる可能性があります。
一方、自分の共有持分だけであれば、認知症の共有名義人から同意を得なくても売却できるメリットがあります。
また、本人が契約内容を理解して判断できるうちであれば、任意後見契約や家族信託などによって、将来の財産管理や不動産売却に備える方法も検討できます。
自分の共有持分だけを売却する
共有名義不動産全体を売却するには、原則として共有名義人全員の同意が必要です。一方、自分に帰属する共有持分だけであれば、その他の共有名義人の同意を得ずに売却できます。
そのため、認知症の共有名義人がいて不動産全体の売却が難しい場合でも、自分の共有持分を売却して共有関係から抜け出せる可能性があります。
ただし、共有持分だけを購入しても不動産全体を自由に使用・処分できないため、一般の不動産と比べて買主が限られ、仲介による売却は難しくなる傾向があります。
他の共有名義人や親族が買い取れない場合は、共有持分を専門に扱う買取業者への売却が現実的な選択肢の一つです。
共有持分を第三者へ売却すると、認知症の共有名義人と買主が新たな共有関係になります。そのため、査定価格だけでなく、売却後の権利関係や買主の対応方針についても説明を受け、納得した上で売却先を選ぶことが大切です。
弊社クランピーリアルエステートでも、共有名義人が認知症で不動産全体の売却が難しいケースについて、共有持分を買い取った事例があります。
<他の共有名義人に売却する>
共有持分を他の共有名義人へ売却し、共有関係を整理する方法もあります。
他の共有名義人が持分を取得すれば、不動産を利用・処分しやすくなるため、専門の買取業者へ持分だけを売る場合よりも高い条件を期待できることがあります。
ただし、個人間で時価より著しく低い価格で持分を売買すると、時価と売買価格との差額が贈与とみなされ、買主に贈与税が課される可能性があります。価格を決める際は、査定などによって根拠を残しておきましょう。
共有名義人が認知症で意思能力を失う前に対策をしておく
共有名義人が高齢で将来の判断能力低下が心配な場合は、契約の意味や効果を理解して判断できるうちに対策しておくことが重要です。
任意後見契約や家族信託を事前に利用すれば、本人の判断能力が低下した後も、あらかじめ定めた範囲で財産管理や不動産売却を進められる可能性があります。
任意後見契約に基づき任意後見人が売却する
任意後見制度は、本人が判断能力のあるうちに公正証書で契約を結び、将来の任意後見人や代理してもらう行為を決めておく制度です。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任すると契約の効力が生じます。
任意後見人に共有持分を売却してもらうには、任意後見契約で不動産売却に関する代理権を定めておくことが必要です。
ただし、任意後見人が自由に共有持分を売却できるわけではありません。契約で与えられた権限を確認し、本人の利益に配慮しながら任意後見監督人へ相談して手続きを進めます。
なお、法定後見制度とは異なり、任意後見人が本人の居住用不動産を売却する際に、民法第859条の3に基づく家庭裁判所の許可は必要ありません。
家族信託に基づき受託者が売却する
家族信託は、不動産や金銭などの財産を家族などへ託し、信託契約で定めた目的に従って管理・処分してもらう方法です。
家族信託には、財産を託す委託者、財産を管理・処分する受託者、信託財産から利益を受ける受益者という役割があります。委託者と受益者を同じ本人にする設計も可能です。
共有名義不動産について、すべての共有名義人が各自の持分を同じ受託者へ信託し、信託契約で不動産全体の売却権限を定めておけば、受託者が契約内容に従って売却手続きを進められる可能性があります。
一部の共有持分だけを信託しても、受託者がその他の共有名義人の持分まで売却できるわけではありません。不動産全体を処分するには、信託されていない持分を持つ共有名義人の同意と売買手続きへの参加が必要です。
また、受託者の権限は信託契約の内容によって決まるため、不動産の管理だけでなく、売却、売却代金の管理、信託終了時の取扱いなども具体的に定めておく必要があります。
家族信託も、本人が契約内容を理解して判断できるうちに準備しなければなりません。法律・登記・税務に関わるため、弁護士・司法書士・税理士などへ相談しながら設計しましょう。
共有名義人が認知症の場合の不動産売却でよくある質問
共有名義人が認知症で不動産売却が難しい場合はどうすればよいでしょうか?
認知症の共有名義人が意思能力を欠き、成年後見人などの法定代理人もいない場合は、民事訴訟法35条に基づく「訴訟上の特別代理人」を選任し、共有物分割訴訟を提起できる可能性があります。選任された特別代理人が、認知症の共有名義人に代わって訴訟に対応します。
ただし、選任には、法定代理人がいないことに加え、手続きの遅れによって損害を受けるおそれがあることを裁判所へ示さなければなりません。成年後見制度を利用したくないという理由だけで、当然に認められるものではありません。
共有物分割訴訟では、現物分割や、一部の共有名義人が他の共有名義人の持分を取得して対価を支払う価格賠償などが検討されます。これらの方法で分割できない場合や、不動産の価値が著しく下がるおそれがある場合は、競売が命じられることもあります。
利用できるかは個別事情によって異なるため、検討する場合は弁護士へ相談しましょう。
売却ではなく放棄でも認知症を患う共有名義人に関係なく持分を手放せますか?
実務上、共有持分の放棄による解決は困難です。
確かに、共有持分の放棄は他の共有名義人の同意なく進められます。しかし、放棄した持分は他の共有名義人全員に帰属する関係上、所有権を移転する際には、認知症の方を含めた全員による共同申請が必要です。
そして、認知症の方による登記手続きは認められないため、結局のところ成年後見制度の利用が必要となり、持分を放棄するメリットはほとんどありません。
むしろ、認知症の方に不動産取得税や贈与税を負わせる形となり、親族間トラブルや法的な問題に発展するリスクも非常に高いといえます。
事前に共有持分を他の共有名義人に贈与しておくのは有効ですか?
本人に意思能力があるうちに、他の共有名義人へ共有持分を贈与しておくことは、将来の共有トラブルを防ぐ方法の1つです。例えば、親の持分を子へ贈与して子の単独名義にすれば、子は原則として他の共有者の同意を得ずに売却や活用を判断できます。
ただし、贈与を受けた人には贈与税が課される可能性があります。暦年課税では、原則として「(1年間に受けた贈与財産の価額-基礎控除110万円)×税率-控除額」で計算します。
一定の年齢・続柄の要件を満たす親子・祖父母と孫の間では、相続時精算課税も選択できます。この場合の贈与税は、原則として「(その年に受けた贈与財産の価額-年110万円の基礎控除-累計2,500万円までの特別控除残額)×20%」で計算します。
不動産の贈与では、贈与税のほかに登録免許税や不動産取得税などもかかるため、贈与と売買のどちらが適しているか、事前に税理士や司法書士へ相談しましょう。
まとめ
共有名義不動産を売却するには、共有名義人全員の合意が必要です。認知症で意思能力が不足している共有名義人がいる場合、通常の売却手続きは難しくなりますが、法定後見制度を利用すれば売却できる可能性があります。
ただし、成年後見制度の手続きは裁判所への申し立てが必要です。早期に共有状態を解消したい場合は、自分の持分を第三者に売却することも検討した方がよいでしょう。
また、そもそも共有名義人が認知症になる前に、任意後見契約や家族信託を利用するといった対策を講じておくことも重要です。

