立ち退き不動産の売却ガイド!正当事由・立ち退き交渉・スムーズに売るコツを解説

「立ち退いてもらわないと不動産が売れないのに、どう進めたらいいか分からない」「立ち退き交渉がうまくいかず売却が進まない」のようにお悩みの方もいることでしょう。

立ち退きが必要な不動産であっても、売却ができないわけではありません。貸主や借主の状況に合わせた方法を選ぶことで、立ち退きが必要な不動産を売却することも可能です。

立ち退きが必要な不動産を売却する具体的な方法としては、下記の方法が挙げられます。

  • 正当事由を明確にし、立ち退き料を提示して立ち退きをしてもらってから売却する
  • 訳あり物件に特化した買取業者に立ち退きの交渉から任せて売却する

当記事では、借地借家法や判例を踏まえた立ち退き交渉の基本、立ち退き不動産を売却する方法、さらにトラブルを避けるためのポイントまでを詳しく解説します。「立ち退きが進まずに不動産を売却できない」という場合には参考にしてみてください。

目次

立ち退きが必要な不動産でも売却は可能

結論から述べれば、立ち退きが必要な不動産を所有している場合でも、その不動産を売却できないことはありません。

借主がいる以上は通常の不動産よりも売却の難易度は高くなることが予測されますが、立ち退き交渉をして退去してもらってから売却する、または借主がいる状態で売却するという方法で売却を進められます。

なお、借家人の保護を重視する法律である「借地借家法」では、借主の居住権は強く保護されています。

詳しくは「不動産売却で立ち退きを要求するには正当事由として認められる理由が必要」の見出しで解説しますが、借主に立ち退きを求めるには正当事由が必要になります。

そのため、借主に立ち退きをしてもらってから不動産を売却する場合には、正当な理由があるのかどうかが売却を実現するための重要なポイントになります。

立ち退き不動産を売却する具体的な方法

立ち退きが必要な不動産でも、状況に応じた方法を選ぶことで売却を実現できます。立ち退き不動産を売却する具体的な方法には、下記が挙げられます。

方法 向いているケース
立ち退きが完了した後に通常物件として売却する ・時間的な余裕があり、物件をできるだけ高く売りたいケース
・交渉のために弁護士に依頼することも可能なケース
立ち退きの手続きを業者に任せて不動産を売却する ・立ち退き不動産の売却に時間や手間をかけたくないケース
・借主との交渉に不安があるケース
・なるべく早く不動産を売却したいケース

ここからは、立ち退き不動産を売却する具体的な方法について、それぞれのメリット・デメリットを踏まえて解説していきます。

立ち退きが完了した後に通常物件として売却する

立ち退き不動産を売却する方法として、借主の立ち退きが完了した後に売却することが挙げられます。

まずは立ち退きが完了した後に通常物件として売却することのメリット・デメリットをまとめましたので参考にしてみてください。

メリット ・幅広い層に売却をアプローチできる
・賃貸借契約に関するトラブルを予防できる
・内見やリフォームを自由に行えるため、販売活動の自由度が高い
デメリット 借地借家法第28条に基づく「正当事由」が必要になり、立ち退き交渉が難航する可能性がある
・立ち退きの合意が得られなければ、裁判に発展する可能性もある
・退去のために立ち退き料の支払いが必要になるのが一般的

立ち退きが完了した後であれば通常物件として扱われるため、住宅用としても事業用としても幅広い層の買主に販売することが可能です。居住用物件を探している一般の人も買い手になることも考えられるため、他の方法よりも買い手が見つかりやすい方法とも言えます。

ただし、借主との立ち退き交渉が必要になるため、ある程度の時間と労力が必要です。借地借家法第28条に基づく「正当事由」が必要となり、借主が退去を拒む場合には、最終的に訴訟に発展するケースもあります。

立ち退きの手続きを業者に任せて不動産を売却する

立ち退き不動産を売却する方法として、立ち退きの手続きを業者に任せて不動産を売却することが挙げられます。

まずは立ち退きの手続きを業者に任せて不動産を売却することのメリット・デメリットをまとめましたので参考にしてみてください。

メリット ・借主との交渉を自分で行う必要がない
・現状のままでも早期に現金化できる
・交渉が失敗するリスクを抑えられる
デメリット ・一般相場より売却価格が市場価格よりも20%〜40%ほど下がる傾向がある
・悪質な買取業者と契約すると、後のトラブルを招くおそれがある

不動産買取業者のなかには立ち退き不動産を買取の対象にしている業者もあります。そのような業者であれば、立ち退きが必要である現状を理解したうえで買い取りを行い、借主への交渉や明け渡し対応をすべて引き受けてくれます。

この方法のメリットとしては、借主への立ち退き交渉を自分で行う必要がないことが挙げられます。借主との交渉に直接関与することがないため、交渉の手間や時間がかかりません。

そのため、遠方に住んでいるオーナーや高齢で交渉が困難な方にとって、この点はメリットになるでしょう。

一方で、立ち退きにかかるコストを踏まえて買取を行うため、買取業者に依頼した場合には市場価格より20%〜40%ほど下がるのが一般的です。

また、多くの買取業者が貸主と借主の利益を優先して手続きを行っていますが、なかには自社の利益を最優先とする悪質な業者も潜んでいます。そのような業者に依頼してしまうと、借主とのトラブルの原因になるおそれもあるため、業者選びには慎重な判断が求められます。

不動産売却で立ち退きを要求するには正当事由として認められる理由が必要

借地借家法では、借主の居住権が強く保護されており、貸主が一方的に立ち退きを求めて不動産を売却することは原則としてできません。そして、立ち退きを伴う不動産売却を行うには、「正当事由」が必要であることが定められています。

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
引用元 e-Gov「借地借家法」

正当事由は、立ち退きを求めるに足るだけの合理的理由があり、かつ借主側の事情と比較してもそれが上回ると判断される場合に認められます。不動産売却においては、下記のような理由で売却する場合には正当事由があるとみなされる可能性があります。

  • 借金返済のための資金作り
  • 相続税の支払い
  • 遺産分割のために不動産の取り壊しなどが必要
  • 借主が契約違反をしている
  • 貸主や家族がその不動産に居住する必要がある

たとえば、単に貸主側の都合で不動産を売却する場合、正当事由とはみなされずに借主への立ち退き要求は認められません。「借金返済や相続税の支払いのためにどうしても売却が必要」のようなケースでなければ、立ち退き要求の正当事由とはみなされないのが一般的です。

ここからは、不動産売却を目的とした立ち退き要求において、正当事由として認められうるケースについてそれぞれ解説していきます。

借金返済のための資金作り

貸主が借金返済のために不動産を売却せざるを得ないために、借主の立ち退きが必要なケースも考えられます。この場合、立ち退きを要求する正当事由として認められる可能性があります。

ただし、このケースで正当事由として認められるのは、貸主が不動産を売却しなければ生活が成り立たないほど経済的な困窮に陥っている場合です。

東京地判の判例を参考にすると、単なる経済的な困窮では正当事由とは認められなかった例もあるため、緊急性や不可避性が判断のポイントになると考えられます。

相続税の支払い

相続税の納付資金を調達するために不動産を売却するケースも、場合によっては立ち退き要求の正当事由と認められることがあります。

とくに、不動産の売却以外に相続税を納める手段がないような状況であれば、貸主側のやむを得ない事情として考慮されると予測されます。

しかし、相続税支払いの必要性のみで直ちに正当事由が認められるわけではなく、借主の生活状況や契約期間、賃料の支払い状況などから総合的に判断されます。

遺産分割のために不動産の取り壊しなどが必要

遺産分割協議を行う際に、共有状態の不動産を売却して遺産を分割することもあります。その場合、貸主側の事情として一定の合理性があるとされ、立ち退き要求の正当事由として認められる可能性があります。

さらに、建物自体の老朽化や安全性に問題がある場合は取り壊しの必要があるため、正当事由として認められる可能性が高いといえます。

借主が契約違反をしている

借主が賃貸借契約に違反している場合、契約解除および立ち退き要求の正当事由として認められる可能性があります。たとえば、無断転貸、家賃滞納、用法違反などが繰り返されているケースが該当します。

この場合は「正当事由」としての主張に加え、契約違反による解除事由そのものが有効と認められると考えられるため、立ち退き要求が比較的スムーズに進む可能性があります。

貸主や家族がその不動産に居住する必要がある

貸主自身やその家族が不動産に居住しなければならないような、やむを得ない事情がある場合、立ち退き要求の正当事由として認められる傾向があります。

とくに、「現住居が老朽化して住めなくなった」「介護の必要があるため近くに住まなければならない」といった場合には、借主の事情と比較して貸主側の必要性が上回ると判断されやすくなります。

最高裁の判決では、貸主の居住の必要性と借主の生活状況を比べた際、貸主の請求が認容された事例もあります。

正当事由として認められるには立ち退き料が重要!立ち退き料の相場は?

借主に立ち退きを要求するには正当事由が必要と解説しましたが、貸主の事情だけで正当事由として認められるケースは少ないです。というのも、借地借家法において借主の立場は強く守られており、基本的には貸主よりも借主の事情が考慮されるためです。

そのため、借主に対して立ち退き要求をする際には、正当事由を補強するためにも立ち退き料を貸主から提示するのが原則となります。実際に、最高裁の判例でも「立ち退き料の提供は正当事由の有力な事情」とされています。

あくまで貸主が借主に立ち退きを要求するための要素の1つにすぎないため、立ち退き料の金額には法的な定めはありません。また、実際に支払われる立ち退き料は、立ち退きを求める理由や、貸主および借主の事情によって大きく変動します。

立ち退きの事例はケースバイケースのため相場も一概にいえませんが、住居用物件においては家賃の6か月〜12か月分程度、事業用物件においては12か月〜24か月分以上が一般的とされています。

なお、立ち退き料の金額は以下などをもとにして判断されるのが基本です。

  • 立ち退きによって借主が負担する引っ越し・移転の費用
  • 新たな賃貸契約に伴う初期費用
  • 長期居住者への慰謝料
  • 営業を行っている場合の営業損失補償

立ち退き料は、単に高額な金銭を提示すればよいわけではなく、借主の生活状況や契約内容を踏まえたうえで、相当と認められる金額であることが求められます。相当と考えられる金額は状況によって変わるため、不動産売却や賃貸実務に精通した弁護士に相談するのが無難です。

借主への立ち退き交渉は契約期間満了の6か月〜1年前までに行うのが原則

借主に立ち退きを求める場合、当然ですが可能な限り早期の連絡が大切です。借地借家法では、更新拒絶または契約の解約申入れは、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に行う必要があると定められています。

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において、当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし、その期間は、定めがないものとする。
引用元 e-Gov「借地借家法」

この期間に通知がなければ、賃貸借契約は自動的に更新されます。仮に、通知をするのが6か月前を過ぎた場合、更新拒絶や立ち退き要求は原則法的に認められません。

また、賃貸借契約の期間中の立ち退き交渉は、原則として困難と考えておくべきです。そもそも借主は借地借家法によって強く守られており、さらに賃貸借契約が結ばれている状態では、それ以上と認められる正当事由が必要になるためです。

立ち退きが必要な不動産を売却する場合、借主との契約満了日を正確に把握しておき、遅くとも6か月には行動を開始することが大切です。

不動産売却で立ち退きを要求してから退去になるまでの一般的な流れ

立ち退き要求は貸主や借主の状況によって、どのような手続きが必要になるのかが異なります。

そのため、「必ずこの流れで行われる」のように手順を説明することはできませんが、不動産売却で立ち退きを要求してから退去になるまでの一般的な流れとしては下記となります。

  1. 正当事由として認められるかどうかを確認しておく
  2. 借主に対して立ち退きの経緯を書面で伝えたうえで交渉をする
  3. 合意が得られれば合意書を作成する
  4. 退去の手続きを行う

ここからは、不動産売却で立ち退きを要求してから退去になるまでの一般的な流れについて、それぞれ解説していきます。

1. 正当事由として認められるかどうかを確認しておく

前述したように、借主に立ち退きを要求するには正当事由が必要です。

正当事由は立ち退き要求をするのが相当であるとみなされる必要があります。そのため、ここまでで解説したように、自身の状況が立ち退きを要求するほどの正当事由に該当するのかどうかを確かめておくのがよいでしょう。

なお、立ち退きの要求が法的に通用するかどうかについては、弁護士などの専門家に相談できます。専門的な知識が必要になるため、基本的には弁護士などの専門家に相談しておくのが無難と言えるでしょう。

2. 借主に対して立ち退きの経緯を書面で伝えたうえで交渉をする

正当事由があると判断できた場合、借主に対して書面で立ち退きの理由や背景を伝えることが必要です。この書面には、以下の内容を明記しておくのが一般的です。

  • 立ち退きを求める理由(相続対策、取り壊しなど)
  • 契約の終了希望日
  • 提示する立ち退き料の金額
  • 立ち退き要求に関する交渉の今後の進め方

そして、通知後は借主と直接交渉し、立ち退きの条件について合意を目指します。

なお、前述したように、立ち退き要求の通知は契約終了の6か月〜1年前までに行うことが原則です。期限を守らないと更新が自動的に成立してしまうのが基本であるため、遅くとも契約終了の6か月前には通知を出しておくようにしましょう。

3. 合意が得られれば合意書を作成する

貸主と借主から立ち退き条件に関して合意が得られた場合には、「立ち退き合意書」または「退去に関する覚書」などの形で文書を取り交わします。合意書には以下を明記します。

  • 退去日
  • 支払う立ち退き料の金額と支払時期
  • 原状回復の範囲や条件
  • 敷金や保証金の扱い

なお、これらを書面に残しておくことで、借主とのトラブルを防止することにもつながります。また、法的証拠としても有効であるため、必ず書面を作成しておくようにしましょう。

4. 退去の手続きを行う

合意書を作成した後は、交渉によって定められた日付に退去の手続きを行います。退去時には以下の点を確認しましょう。

  • 鍵の返却と明渡し確認書の受領
  • 原状回復として設備・建物の確認
  • 敷金や保証金の清算

退去が完了した後は、通常の不動産として売却手続きを進められます。

正当事由があるからといって必ず立ち退きを実現できるわけではない!立ち退き交渉が難航した場合の対処法

正当事由があるからといって必ず立ち退きが実現するとは限りません。たとえ正当事由があっても、借主からの合意が得られなければ立ち退きは進みません。

そのため、立ち退きを実現するには、借主からの合意を得ることが最も重要ともいえるのです。

場合によっては、立ち退き交渉が難航してしまうことも考えられます。その場合、下記のような対処法を検討してみてください。

  • 感情的にならずに誠実な対応を心がける
  • 立ち退き料を上乗せして借主に交渉する
  • 弁護士などの専門家に立ち退き交渉を依頼する

ここからは、借主との交渉が難航した場合の具体的な対処法を紹介していきます。

感情的にならずに誠実な対応を心がける

交渉が難航してしまう原因の1つとして、貸主と借主の間の感情的な対立が挙げられます。

とくに、長年住んでいた借主にとって立ち退きは大きな不安要素になります。借主の立場からすれば、生活の基盤を失うことになるため、防衛的な姿勢を取るのは当然ともいえるでしょう。

とはいえ、貸主にもさまざまな事情があるために立ち退き要求に至っています。そのため、借主に立ち退きを求める際には、立ち退きに至った正当事由を丁寧に説明し、誠実な態度で交渉をすることが必要不可欠といえます。

たとえば、「立ち退き後の新居探しの相談に乗る」「引越し期間に十分な猶予を与える」などの配慮が立ち退きを実現するためのポイントになります。

立ち退き料を上乗せして借主に交渉する

前述したように、正当事由を補強するためにも立ち退き料の支払いは原則必須です。

その金額は貸主や借主の状況によって変わり、立ち退きに相当とみなされるほどの理由とともに立ち退き料が必要です。実際に、東京地裁の判例では、立ち退き料の金額が不十分だったために正当事由が認められなかったケースもあります。

逆に言えば、立ち退き料を増額することは正当事由を補完することにもつながるのです。まずは相当と考えられる金額を提示しつつ、借主が難色を示す際には、その金額よりも高い金額を提示することで交渉を進めることにつながるでしょう。

弁護士などの専門家に立ち退き交渉を依頼する

交渉が難航した、またはそれが予測される場合には、弁護士や不動産に強い専門家に依頼することも検討してみてください。

法律の専門家であれば、立ち退き交渉の落としどころを把握しており、適切な立ち退き料の水準や文書作成、交渉方針のアドバイスを受けられます。また、専門家が間に入ることで冷静な対話が可能になり、貸主・借主の対立を和らげる効果も期待できるでしょう。

立ち退き不動産をスムーズに売却するなら訳あり物件専門の買取業者も検討する

立ち退きを完了させた後に不動産を売却する場合、借主との交渉や正当事由の立証などが必要です。そのため、通常物件の売却よりも手間と時間がかかりやすく、難易度の高い取引です。

「早く売りたい」「立ち退き交渉が長期化している」といった場合には、訳あり物件を専門に扱う買取業者への売却を検討することも現実的な選択肢になります。

訳あり物件専門の買取業者とは、通常物件よりも売りにくい不動産を専門として買い取る業者のことです。立ち退き不動産だけでなく、事故物件や再建築不可物件なども該当します。

訳あり物件は一般の不動産仲介会社では取り扱いを断られるケースもありますが、専門の買取業者であれば再販や収益化のための独自のノウハウを持っているため、積極的な買取に期待できます。

また、訳あり物件専門の買取業者に立ち退き不動産を売却することには、以下のようなメリットもあります。

メリット 概要
立ち退き交渉を代行してくれる業者もある 専門の買取業者は、買取後に借主との交渉や明渡し手続きまでを一括で対応してくれるのが一般的。そのため、貸主自身が交渉をする必要がない。
専門家が交渉することで、スムーズに立ち退き交渉を進められることにも期待できる。
基本的には契約不適合責任に問われない 訳あり物件を専門とする買取業者であれば、物件自体に欠損などがあっても、それを踏まえたうえで買取を行ってもらえるのが一般的。そのため、買取後に損害賠償を請求されるリスクが軽減される。
最短数日〜1週間で現金化できる業者もある 仲介での売却では6か月〜1年以上かかるケースもあるが、買取業者は現金での直接取引のため、スピード感のある決済が可能。
業者によっては最短数日〜1週間で現金化できることもある。

立ち退き不動産を売却する場合にかかる費用・税金

立ち退き不動産を売却する場合、立ち退き料以外にも費用がかかります。また、税金がかかるケースもあるため、事前にどのような費用がどの程度かかるのかを把握しておくのがよいでしょう。

立ち退き不動産を売却する場合にかかる費用・税金としては、下記が挙げられます。

  • 譲渡所得税
  • 仲介手数料
  • 印紙税

ここからは、立ち退き不動産を売却する場合にかかる費用・税金について、それぞれ解説していきます。

譲渡所得税

不動産売却によって利益が出た場合には原則譲渡所得税を納めなければなりません。譲渡所得税は個人でも算出することは可能ですが、簡単に算出できるわけではなく、手順を踏んで算出していく必要があります。

譲渡所得税の算出は、不動産の売却によって得られた利益である「譲渡所得」の計算から始めます。譲渡所得は「買い手から受け取った金額-(不動産の取得費+譲渡にかかった費用)」の式で算出可能です。

たとえば、「取得費2,000万円」「譲渡費用150万円」「売却金額3,000万円」の場合を想定すれば、「3,000万円ー(2,000万円+150万円)=850万円」と計算できます。この際、譲渡所得が0になるケースもあり、その場合は売却による利益が出ていないため譲渡所得税はかかりません。

次に、譲渡所得に一定の税率をかけて、譲渡所得税を算出します。一定の税率は、不動産の所有期間によって下記のように変わります。

所有期間 所得税率
5年超 15%
5年以下 30%

先ほどの条件である譲渡所得が850万円であれば、所有期間が5年以下の場合は「850万円×30%=255万円」、所有期間が5年を超えていれば「850万円×15%=127.5万円」と算出します。

なお、不動産会社では、「譲渡所得税が発生するかどうか」「確定申告でどのような手続きをするのか」などを相談できる場合もあります。不動産を売却する場合、譲渡所得税や確定申告についても相談しておくとよいでしょう。

仲介手数料

立ち退きが完了した後に不動産を売却する場合、通常物件として売却が可能です。そのため、不動産会社に仲介を依頼するケースもあることでしょう。

不動産会社に仲介を依頼して売却する場合、その業者に仲介手数料を支払うのが一般的です。仲介手数料の金額は不動産会社によって異なりますが、上限額は宅地建物取引業法で定められています。

売買価格 仲介手数料の上限
200万円以下 売買価格×5%+消費税
200万円超400万円以下 売買価格×4%+2万円+消費税
400万円超 売買価格×3%+6万円+消費税

仲介手数料は、不動産の売却価格から差し引かれて支払われるのが一般的です。場合によっては数万円〜数十万円になることもあるため、不動産の売却を依頼する不動産会社を決めた後は、仲介手数料がどの程度かかるのかを相談しておくのが良いでしょう。

印紙税

印紙税とは、不動産を売却する際に売り手と買い手の間で交わす不動産売買契約書に対して課税される税金のことです。不動産の売却価格に応じた印紙を貼る形で印紙税を納めます。

売却金額 本則税率 軽減税率
10万円を超える~50万円以下 400円 200円
50万円を超える~100万円以下 1千円 500円
100万円を超える~500万円以下 2千円 1千円
500万円を超える~1千万円以下 1万円 5千円
1千万円を超える~5千万円以下 2万円 1万円
5千万円を超える~1億円以下 6万円 3万円
1億円を超える~5億円以下 10万円 6万円
5億円を超える~10億円以下 20万円 16万円
10億円を超える~50億円以下 40万円 32万円
50億円を超えるもの 60万円 48万円

たとえば、不動産が1,000万円で売れた場合、通常収入印紙の金額が1万円となります。

なお、不動産売買の印紙税には軽減措置が設けられており、平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成された売買契約書であれば、軽減率が適用されます。売却価格が2,000万円で軽減措置がとられた場合、収入印紙の金額が1万円から5,000円になります。

まとめ

立ち退きが必要な不動産でも、適切な手続きを踏むことで売却できる可能性はあります。まずは借地借家法に基づく「正当事由」があるかを確認し、立ち退き料の提示や誠実な交渉で借主との合意を目指すようにしてみてください。

また、交渉が難航する場合でも、弁護士などの専門家に依頼することで、感情的な対立を回避し、スムーズな解決が期待できます。

さらに、どうしても時間や交渉の手間を避けたい場合は、訳あり物件専門の買取業者に売却することで自身で交渉をせずに売却を完了させることも可能です。

不動産の状況、借主との関係、売主側の事情によって、最適な売却方法は異なります。トラブルを防ぎ、納得できる売却を実現するためにも、早い段階から専門家への相談をおすすめします。

立ち退き不動産の売却に関するFAQ

立ち退き交渉が難航した際には、強制的に退去させられるのでしょうか?

原則、立ち退きが成立するのは借主から合意が得られた場合です。交渉が成立していない倍には、強制的な退去は難しいです。

借主が立ち退きに同意しない場合、裁判所に明渡訴訟を提起するのが基本です。ただし、その際も正当事由の有無や立ち退き料の提示などが厳しく審査され、貸主にとっては非常に時間と費用がかかるケースもあります。

訴訟を避けて交渉だけで立ち退きを実現させるには、まずは誠実な交渉を行うことが重要です。

借主がいる状態でも売却できますか?

はい、可能です。

ただし、借主の賃貸借契約がそのまま新しい所有者に引き継がれる「オーナーチェンジ物件」としての売却になります。この場合、通常よりも売却価格が下がる傾向があります。

また、立ち退き手続きを含めて買主に引き継ぐケースでは、訳あり物件専門の買取業者への相談が有効です。

不動産会社に相談するだけでも費用はかかりますか?

一般的に、初回相談は無料で対応している不動産会社や専門業者が多いです。とくに立ち退きや相続などが絡む複雑なケースでは、弁護士や税理士などの複数の専門家に相談して、納得できる対応方針を立てることをおすすめします。

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