共有名義人の持分が差し押さえられた場合の対処法とは?他の共有者への影響も解説
債務の返済や税金・保険料などの支払いを滞納すると、不動産が差し押さえられる可能性があります。差し押さえ対象の不動産が共有名義の場合、他の共有者に影響が出てしまうのか不安になるでしょう。
共有名義の不動産の差し押さえが発生する場合、差し押さえは債務者の共有持分のみが対象です。そのため、債務者以外の持分や不動産全体が差し押さえられることはありません。
しかし、共有者の持分が差し押さえられ競売にかけられた場合、新しい買主と共有状態になることが想定されます。その際に、以下のようなことが発生しトラブルに発展する可能性があります。
- 新しい共有者から賃料を請求される
- 新しい共有者が差し押さえ対象以外の持分を安値で買い取ろうとする
- 新しい共有者(知らない人)が敷地に入ってくる
- 新しい共有者から共有物分割請求訴訟を起こされる
これらのリスクを解消する方法として、5つの対処法が挙げられます。
対処法 | 所有したい or 手放したい | 概要 |
---|---|---|
差し押さえ前に債務者の持分を購入する | 所有したい | ・債務者から直接買い取れる ・差し押さえ直前の買取は「詐害行為取消」の対象となる ・差し押さえが迫る前に早めの買取が必要 |
差し押さえ前に共有者の負債を支払う | 所有したい | ・債務を肩代わりして差し押さえを回避する方法 ・肩代わりした債務は後から返還請求できる ・資金力がある場合におすすめの手段 |
差し押さえ後に競売で落札する | 所有したい | ・債務者の持分を落札して自分のものにする方法 ・第三者との共有状態を回避できる ・落札価格の予測が難しい |
差し押さえ前に共有者全員で協力して不動産を売却する | 手放したい | ・通常の市場価格で売却できる ・ローンが残っている場合は「任意売却」が利用できる ・差し押さえ直前は「詐害行為取消」の対象となる可能性がある |
差し押さえ前でも後でも自分の持分を売却する | 手放したい | ・他の共有者の同意なしに売却できる ・落札者との共有関係を解消できる ・売却後に発生する他共有者との話し合いや手続きを買取業者に任せられる |
この中でも対処法の一つとしておすすめなのが、持分の売却です。クランピーリアルエステートは共有持分の専門買取業者であり、共有持分のスピーディーかつ高額での買取に対応しています。
本記事では、共有名義の不動産の差し押さえとは何かをふまえ、他の共有者への影響や対処法について解説します。共有名義の不動産が差し押さえの対象となった場合、たとえ他の共有者に直接的な影響がなくとも、今回ご紹介する対処法を検討することがおすすめです。
共有名義不動産の差し押さえとは
差し押さえとは、債権者が債務者から返済を受けられない場合に債務者の財産をお金に変えるために行われる手続きです。債権者の優先権を確保するために行われる手続きであり、滞納している返済にあてるための財産を法律にのっとって強制的に回収するための手続きともいえます。
不動産は、差し押さえが可能な財産の一つです。「差し押さえの登記」が行われると、不動産の所有者である債務者が対象の不動産を自由に売却・処分できなくなります。
債務や税金などを滞納すると差し押さえられる
差し押さえは、債務や税金などを滞納した場合に実行されます。下記で差し押さえの主な2ケースをみていきましょう。
債務を滞納した場合
たとえば、住宅ローンを借りた場合ですと、金融機関は購入物件に抵当権をつけます。抵当権とは、借金の担保のことです。つまり、債務者が住宅ローンを返済できなくなった場合、債権者は抵当権がついた物件の差し押さえ、競売を行うことで、貸し付けたお金を回収します。
また、抵当権をもたない一般の債権者でも、債務の返済が滞った場合は債務者の財産の差し押さえが可能です。抵当権をもたない債権者が差し押さえを行うためには、以下の債務名義の取得が必要です。
確定判決 | 訴訟により、債権の存在が認められる判決が確定すること。 |
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仮執行宣言付判決 | 訴訟の最終判決が確定する前に、執行が認められる判決が得られること。 |
和解調書 | 訴訟中に和解が成立した場合に作成され、内容に従った弁済が行われない場合に執行できるもの。 |
調停調書 | 裁判所での調停で作成され、内容に沿った弁済が行われない場合に執行できるもの。 |
執行認諾文言付公正証書 | 当事者の合意に基づき、公証役場で作成された公正証書により、裁判を経ずに債権の執行が可能なもの。 |
仮執行宣言付支払督促 | 裁判所からの支払督促に対し、相手方から異議が出されなかった場合に、執行力が認められるもの。 |
税金や各種保険料を滞納した場合
税金や各種保険料など公的なお金の滞納については、国や地方自治体により滞納処分が行われます。滞納処分では、差し押さえた財産を公売し、強制的に税金や保険料を回収します。公売は官公庁が行う売却手続きのことで、競売に類似する手続きです。官公庁による差し押さえは、債権名義などがなくとも実行できます。
なお、税金や各種保険料の滞納による差し押さえは数回の未納でいきなり行われるわけではなく、裁判所からの通知が届いてから3ヶ月ほどで実行されるといわれています。
滞納者名義の持分だけが差し押さえの対象となる
ある不動産の共有者の一人が債務を滞納した場合、差し押さえの対象となるのは共有者の持分のみです。そのため、滞納者以外の持分には直接的な影響はありません。
しかし、共有名義における「共有」とは、不動産の物理的な共有ではなく、持分に応じて共有者全員が不動産全体を利用する権利を持つことです。つまり、差し押さえを受けた人以外の共有者に間接的な影響が出てしまう場合もあります。この点については、別章で詳しく解説しています。
差し押さえられた共有持分は競売にかけられることが一般的
差し押さえられた持分は競売にかけられ、専門業者によって低価格で落札されるケースが多いです。競売とは、借金の返済が滞ったり支払い義務が履行されなかったりした場合に、裁判所が債権者の申し立てを受けて、債務者の財産を強制的に売却し、その売却代金から債権者に返済を行う手続きのことです。特に不動産が競売の対象となるケースが多く見られます。
共有名義不動産は、持分を所有していても利活用するにあたって他の共有者の同意が必要となるため、使い勝手が良くありません。そのため共有持分のみの買取価格は「不動産全体の市場価格×共有持分の割合×1/2〜1/3」程度まで安くなってしまうこともあります。また、競売という性質上、強制的に早期売却を目指すため、十分に高値を引き出す余裕がありません。市場での価格調整ができないため、結果的に市場価格よりも安く売却されることが多いです。
他共有者の持分が差し押さえられた場合の自分への影響は?
差し押さえられた共有持分が落札されると、落札者となる第三者が共有名義に加わり、落札者との間に共有関係が生じます。通常、落札者は業者です。
第三者が共有名義に加わることで、不動産の管理や処分に関してデメリットが発生する可能性があります。なぜなら、共有名義の不動産は共有者の数によって持分が決められ、管理や変更などの行為を行う際は、内容に応じて必要数の同意が必要になるからです。
行為 | 内容 | 同意の有無 |
---|---|---|
保存行為 | 建物の修繕など、不動産の現状を維持する行為 | 他の共有者の同意は不要 |
管理行為 | 建物の貸し出しなど、不動産を利用する行為 | 共有者の過半数の同意が必要 |
軽微な変更行為 | 屋根の修繕など軽微な変更にとどまる行為 | 共有者の過半数の同意が必要 |
大規模な変更行為 | 売却や増改築など大規模な変更を伴う行為 | 共有者全員の同意が必要 |
たとえば、新たな共有者である落札者との間に意見の相違が生じると、共有不動産の処分や解体、大規模な修繕などの重要な決定が困難になる恐れがあるでしょう。
そのほか、下記のような影響が生じるケースもあります。
- 賃料を請求される
- 差し押さえ対象以外の持分を安値で買い取ろうとする
- 知らない人が敷地に入ってくる
- 共有物分割請求訴訟を起こされる
共有している不動産に共有者の一人のみが居住している場合、新たな共有者から賃料を請求される可能性があります。なぜなら、一部の共有者が独占して不動産を利用している場合、他の共有者は占有者に対して「持分に応じた賃料相当額」を請求できるからです。
また、新たな共有者である業者が不動産全体を売却したいなどの目的で、持分を安値で買い取ろうとしてくる可能性も考えられるでしょう。さらに、持分の売却や買取に応じない場合、新たな共有者が「共有物分割請求訴訟」を起こし、単独で不動産全体を所有しようとする可能性もあるかもしれません。
「共有物分割請求」とは、強制的に共有名義を解消する裁判のことです。共有名義の不動産に対して、各共有者に訴訟を起こす権利があります。
ただし、共有持分が差し押さえられても、他の共有者には基本的に影響が生じないケースも多くみられます。あくまで、差し押さえや競売(公売)の対象となるのは、差し押さえられた持分のみです。そのため、他の共有者の持分や不動産全体が差し押さえられたり、落札によって明け渡しを求められたりすることはありません。
他共有者の持分が差し押さえられる場合の5つの対処法
他共有者の持分が差し押さえられる場合、「所有を続けるか」「手放すか」によって対処法が異なります。そのため、まずは共有名義の不動産を所有し続けるのか手放すかを決めましょう。
対処法 | 所有したい or 手放したい | 概要 |
---|---|---|
差し押さえ前に債務者の持分を購入する | 所有したい | ・債務者から直接買い取れる ・差し押さえ直前の買取は「詐害行為取消」の対象となる ・差し押さえが迫る前に早めの買取が必要 |
差し押さえ前に共有者の負債を支払う | 所有したい | ・債務を肩代わりして差し押さえを回避する方法 ・肩代わりした債務は後から返還請求できる ・資金力がある場合におすすめの手段 |
差し押さえ後に競売で落札する | 所有したい | ・債務者の持分を落札して自分のものにする方法 ・第三者との共有状態を回避できる ・落札価格の予測が難しい |
差し押さえ前に共有者全員で協力して不動産を売却する | 手放したい | ・通常の市場価格で売却できる ・ローンが残っている場合は「任意売却」が利用できる ・差し押さえ直前は「詐害行為取消」の対象となる可能性がある |
差し押さえ前でも後でも自分の持分を売却する | 手放したい | ・他の共有者の同意なしに売却できる ・落札者との共有関係を解消できる ・売却後に発生する他共有者との話し合いや手続きを買取業者に任せられる |
【所有を続けたい場合】差し押さえ前に債務者の持分を購入する
共有名義の不動産が自宅となる場合、共有持分の差し押さえにより不便が生じる可能性があるでしょう。そうした場合の対処法として、共有者の持分が差し押さえられる前に買い取る方法があります。
差し押さえ前であれば不動産の売買は問題なく、債務者の持分の直接買取が可能です。ただし、差し押さえが迫った状態での買い取りは「詐害行為取消」の対象となり、買取行為が取り消される可能性があります。
詐害行為取消とは、債権者が債務などを回収する権利を守るため、債務者が回収対象となり得る財産を減らそうとする行為を無効にできる制度です。
そのため、共有者間で持分の売買を行う場合、差し押さえの可能性も考慮して滞納がわかった段階で早めに実行することが重要です。
【所有を続けたい場合】差し押さえ前に共有者の負債を支払う
債務者の債務を肩代わりし、完済することで差し押さえを回避できます。肩代わりした負債は、後に返還請求することが可能です。つまり、差し押さえを回避することを第一の目的に、一旦負債を肩代わりする方法といえます。ただし、この方法は資金力がある場合に有効です。
【所有を続けたい場合】差し押さえ後に競売で落札する
差し押さえが実行されてしまったが、所有を続けたい場合は、差し押さえ後に債務者の持分を落札することで不動産を単独名義にできます。落札すれば、第三者と共有状態になることもありません。
競売に参加するのは主に不動産業者であり、業者はできるだけ安く落札しようとします。そのため、不動産業者よりも高値を提示すれば、業者を相手にしても競り落とせる可能性があります。
ただし、必ずしも落札できるとは限らず、入札価格の予測も難しいです。市場価格よりも安くなるとはいえ、十分な資金が必要となります。
【手放す場合】差し押さえ前に共有者全員で協力して不動産を売却する
差し押さえ前であれば、共有者同士で協力して不動産全体を売却する手もあります。不動産全体として売り出せれば、通常の市場価格で売却される可能性が高いでしょう。
この場合、仲介業者で売却することも可能です。基本的には買取業者に売却するよりも高く売れますが、買い手を見つけるまでに時間がかかってしまいます。そのため、差し押さえ前に確実に売却したい場合には、専門の買取業者に依頼することでスピーディーに売却できます。
不動産に抵当権がついている場合は「任意売却」も手段の一つです。任意売却とは、売却代金で諸費用を除いた金額を返済に充てても負債が残ってしまう場合に、金融機関などの債権者の許可を得て不動産を売却する方法です。任意売却では、債権者の許可のもと抵当権が抹消されるため、住宅ローンが残っている状態でも売却が可能となります。
ただし、差し押さえ直前での任意売却は詐害行為と判断されてしまう場合もあるため、慎重な判断が必要です。
【手放す場合】差し押さえ前でも後でも自分の持分を売却する
差し押さえ前、あるいは後でも、自分の持分は共有者の同意なしに売却可能です。そのため、すでに共有者の持分が差し押さえられ、その上で対象の不動産を所有し続ける意思がない場合は、自分の持分を専門の買取業者に売却する方法もあります。売却すれば不動産を所有する権利もなくなるため、落札者との共有関係を解消できます。
また、売却後は他共有者との話し合いを買取業者に任せられるため、手続きが発生した場合も対応不要です。
共有名義の不動産の差し押さえの流れ
共有名義の不動産が差し押さえの対象となってしまった場合、差し押さえは以下の流れで実行されます。
- 督促通知が封書や電話などで届く
- 債務の一括返済請求が封書などで届く
- 法的措置または差し押さえの予告通知が届く
- 裁判所から支払い督促が届く
- 差し押さえが行われる
督促通知が封書や電話などで届く
滞納が続くと、一般的には電話や封書、圧着はがきなどで数回の予告が行われます。最初のうちは電話での連絡となり、繋がらない場合に封書で督促通知が届きます。督促通知の時点で支払い予定を伝え、予定通りに返済すれば差し押さえになることはありません。
債務の一括返済請求が封書などで届く
督促通知を無視し、2〜3ヶ月ほど滞納が続くと、債務の一括返済請求が封書などで届きます。一定期間滞納し続けると「期限の利益」が喪失し、借り入れ額を一括返済しなければなりません。「期限の利益」とは、期限になるまで債務者は返済しなくても良い権利のことです。
たとえば、住宅ローンの場合、基本的には貸付に際して保証会社が立てられています。債務者が一括返済請求にも応じない場合、一旦は保証会社が代位弁済します。代位弁済とは第三者が代わりに返済することですが、これにより今までの債権は「保証委託契約による求償債権」という新しい債権になります。
保証委託契約による求償債権は、一括返済が必要です。つまり、代位弁済によってこれまで督促されていた返済は完了したものの、代わりに返済した保証会社に対して一括返済の義務が発生します。
なお、住宅ローン以外の貸付でも、期限の利益が喪失すれば一括返済しなければなりません。
法的措置または差し押さえの予告通知が届く
一括返済ができずに放置すると、次に「法的措置(訴訟や支払督促)の予告」や「差し押さえ予告」の通知が届きます。
一般の債権者は差し押さえにあたり、まずは訴訟や支払督促を通じて債務名義を取得する必要があります。そのため、いきなり差し押さえではなく、まずは法的措置の予告を行います。
住宅ローンの場合は抵当権が設定されているため、債務名義の取得が不要です。すぐに差し押さえに移行できるため、法的措置の予告なく、いきなり差し押さえの予告が届きます。同じく、税金を滞納した場合もいきなり差し押さえの予告となります。
裁判所から支払督促が届く
抵当権のない一般の債権者は、債権名義取得のために訴訟や支払督促の手続きを行います。債権者が申し立てを行うと、裁判所から債務者宛に封書が届きます。債務者は支払督促を受けた日から2週間以内に返済、または異議の申立てを行わなければなりません。
しかし、債務者が通知を無視したり、応訴に敗訴したりすると債権者の主張が認められます。その後、裁判所から「債務名義」と呼ばれる判決書が発行されます。
差し押さえが行われる
裁判所からの支払督促によって返済に応じたり、異議申し立てを行わないと「仮執行宣言付支払督促」が届きます。さらに、これに対しても異議を申し立てない場合、抵当権者や自治体、債務名義を取得した債権者によって強制執行が開始されます。
強制執行でまず差し押さえられるのは、不動産です。不動産の差し押さえにあたって、債権者は不動産の所在地の管轄裁判所に予納金を納めて申立てを行います。この申立てにより、裁判所は法務局に嘱託を行い、法務局が不動産の差し押さえ登記を実行します。
差し押さえ後、弁済や債務整理、任意売却などにより解決方法が見つかる場合は、差し押さえが取り下げられることもあります。しかし、そのまま放置すると競売が進行し、最終的には第三者に不動産が買い受けられてしまいます。
まとめ
共有名義の不動産が差し押さえの対象となっても、差し押さえられるのは債務者の持分のみです。基本的に他の共有者に影響は生じないものの、差し押さえによって競売にかけられた持分が落札されると、落札者と他の共有者は共有関係になります。そうなると、第三者にも不動産の権利が一部行き渡ってしまうため、不動産の管理や処分に不自由が生じる恐れがあります。
そうした状況を回避するには、共有名義の不動産を手放すことが一つの対処法です。しかし、その不動産に住んでいるなどして所有を続けたい場合には、「債務者の持分を購入する」「差し押さえ前に負債を支払う」「競売で落札する」3つの対処法があります。
共有名義の不動産が差し押さえられることによるデメリットやトラブルを回避するためにも、今回ご紹介した対処法を検討してみてください。
共有名義の不動産を手放したい場合、差し押さえられる前であれば自分の持分、あるいは共有者と協力するすることで不動産全体の売却が可能です。差し押さえ後でも、債務者でない他の共有者は、自分の持分であれば共有者の許可なしに売却できます。
クランピーリアルエステートは、共有名義不動産の共有持分の専門買取業者です。共有持分の差し押さえの可能性があり、売却を検討している場合は、ぜひご相談ください。