共有持分の放棄における訴訟とは?登記引取請求訴訟の条件や流れ、費用を解説

「共有持分の放棄を希望しているのに、他の共有者が登記に協力してくれない」「関係性が悪化しており話し合いができない」といった問題が生じたときに検討されるのが、共有持分放棄訴訟です。
法律上、共有持分の放棄は自分の意思だけで行える権利とされていますが、実務では「放棄を宣言しただけ」で共有名義から抜け出せるわけではありません。
共有持分を放棄する際に最大の障壁となるのは、法務局での名義変更(移転登記)に他の共有者の協力が不可欠であるという点です。実際、弊社も「放棄したいが共有者が協力してくれないため、買取で解決したい」といったご相談を受けたことが何度もあります。
共有持分放棄訴訟は正式名称を「登記引取請求訴訟」といい、裁判所の判決によって強制的に持分を放棄するための法的手続きです。以下の条件をすべて満たしていれば、裁判所に提訴することが可能です。
- 有効な「持分放棄の意思表示」があること
- 放棄が法律上認められる状態であること
- 他の共有者が登記手続きに協力しないこと
裁判で勝訴判決を得ることで、相手の協力なしに単独で移転登記を行い、法的に共有名義から抜け出すことができます。
しかし、専門家の立場から申し上げますと、共有持分放棄訴訟には半年から1年程度の期間がかかるうえ、数十万円単位の弁護士費用の負担が発生するため、簡単な道のりではありません。
また、共有持分放棄訴訟は「不要な持分を他の共有者に強制的に引き取らせる」ことでもあり、関係性の悪化は免れないと認識しておいたほうが良いでしょう。
本記事では、共有持分の放棄における訴訟の具体的な内容や発展するケース、手続きの流れ、費用、注意点までを、実務経験を踏まえて詳しく解説します。共有持分の放棄が進まず悩んでいる方は、ぜひ本記事の内容をご活用ください。
目次
共有持分の放棄における訴訟は「登記引取請求訴訟」を指す
共有持分の放棄における訴訟は、一般に「登記引取請求訴訟」などと呼ばれる手続きを指します。実務上は「持分移転登記手続請求訴訟」として提起されるケースもあります。
そもそも共有持分の放棄とは、民法第255条に基づき、自分の所有する持分を手放して他の共有者に帰属することを指します。法的には「共有持分の放棄は単独の意思表示のみでも成立するもの」と解釈されています。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索
しかし、実務上の問題はここからです。持分放棄の意思表示が成立したとしても、不動産の名義が自動的に変更されるわけではありません。登記簿上の名義を変更するためには、新たに持分の取得者となる共有者の協力が必要です。
ところが、固定資産税や将来的な管理責任の増加、税金など諸費用の負担を懸念して、登記手続きへの協力を拒まれるケースは少なくありません。
このような場合に検討されることがあるのが、登記引取請求訴訟(共有持分放棄訴訟)です。判決による登記については不動産登記法の第63条にて、以下のように定められています。
(判決による登記等)
第六十三条 (中略)申請を共同してしなければならない者の一方に登記手続をすべきことを命ずる確定判決による登記は、当該申請を共同してしなければならない者の他方が単独で申請することができる。
引用元: 不動産登記法|e-Gov 法令検索
つまり、登記引取請求訴訟を起こして判決が確定すれば、共有者の署名や押印がなくても登記手続きを進めることが可能になります。
不動産実務の現場では、「放棄の意思表示をすれば終わり」と考えていた方が、登記が進まずに長期間トラブルを抱えるケースを数多く見てきました。名義変更をしない限り、法的には共有者として扱われるため、固定資産税や管理義務の負担は残り続けます。
登記引取請求訴訟はあくまでも持分を放棄するための最終手段ですが、どうしても共有者の協力を得られないときは、訴訟も視野に入れる必要があると認識しておきましょう。
共有持分放棄の登記引取請求訴訟に発展するケース例
共有持分の買取を専門とする弊社から見ても、持分放棄の登記引取請求訴訟に発展するケースは非常にまれです。しかし、以下のようなケースに当てはまる場合、登記引取請求訴訟に発展することがあるのも事実です。
- 他の共有者が登記手続きに協力してくれない
- 固定資産税や管理費の負担を巡って対立している
- 相続をきっかけに関係が悪化している
- 共有者が所在不明・音信不通で連絡が取れない
他の共有者が登記手続きに協力してくれない
共有持分放棄に関するトラブルの中でも、登記手続きへの協力を拒否されるケースは非常に多く見られます。不動産実務の感覚としても、登記引取請求訴訟に発展する理由のなかで最も多く、体感では40%程度を占める印象です。
前提として、共有持分の放棄自体は単独の意思表示で成立します。しかし、不動産の名義を変更するためには、持分を取得する側となる共有者の協力が必要です。具体的には、登記申請書への署名押印や印鑑証明書の提出などが求められます。
ところが、実務ではこうした手続きに消極的な共有者も少なくありません。一例として、以下のようなケースが当てはまります。
- 署名・押印を拒否する
- 必要書類の提出を渋る
- 連絡を無視する
- 「勝手にすればいい」と言って放置する
共有持分の放棄に明確に反対しているわけではなくても、このような消極的な姿勢により、登記が進まなくなるといったことは珍しくありません。
また、共有者としては、持分を取得すると不動産取得税や贈与税がかかるおそれがあるうえ、固定資産税の負担割合も増えてしまうため、あえて手続きを進めたがらないケースもあります。その結果、持分放棄の意思表示をしているにもかかわらず、名義だけが残り続けてしまうといった状況に陥ります。
このように、登記手続きへの協力が得られない場合には、登記引取請求訴訟によって解決を図ることがあります。
固定資産税や管理費の負担を巡って対立している
固定資産税や管理費の負担をめぐる対立も、登記引取請求訴訟に発展する原因のひとつです。不動産実務の感覚としては、全体の20〜25%程度を占めている印象です。
共有不動産では、固定資産税や管理費、修繕費などの費用について、持分割合に応じて負担するのが原則とされています。
しかし、実際には、特定の共有者が長年固定資産税を立て替えて支払っていたり、管理費や修繕費が未払いのままになっていたりすることも少なくありません。弊社でも「固定資産税の支払いが負担になっており、持分を処分したい」といったご相談を受けることがあります。
こうした状況では「これまで自分が負担してきたのだから、簡単に放棄されても困る」「未払い分を清算してからにしてほしい」といった不満が生まれやすく、登記手続きへの協力を拒否される場合があります。とくに、過去に金銭トラブルを起こしているケースほど、感情的な対立も生まれやすくなります。
このように、固定資産税や管理費の負担をめぐる対立によって登記手続きが進まない場合にも、最終的には登記引取請求訴訟によって名義変更をするケースがあります。
相続をきっかけに関係が悪化している
相続をきっかけに共有状態となり、その後の人間関係の悪化によって登記引取請求訴訟に発展するケースもあります。不動産実務の体感では、全体の15%程度を占める印象です。
相続では、不動産を公平に分ける方法として共有名義が選ばれることがあります。しかし、遺産分割協議で十分な話し合いがされないまま共有状態になった場合、後から問題が起こる可能性があるのです。
あくまでも弊社の経験をもとにした事例ですが、以下のようなケースが該当します。
- 介護負担や生前贈与をめぐって相続そのものに不公平感がある
- 一部の相続人だけが固定資産税や管理を負担している
- 共有者の一部のみが居住・利用している
- 老朽化・空き家化した不要な不動産で、責任の押し付け合いがある
たとえば、親の介護をしていた相続人とそうでない相続人の間で不公平感が残っていたり、生前贈与の有無をめぐって感情的なしこりが生じていたりすることがあります。また、一部の相続人だけが固定資産税や管理費を負担している場合や、特定の共有者が不動産を居住・利用している場合にも、負担や利益の偏りから対立が深まることがあります。
さらに、老朽化した空き家など、いわゆる「負動産」の場合には、管理責任や将来的な処分をめぐって責任の押し付け合いが起きやすくなります。
このような状況では「放棄するのは不公平」「責任から逃げようとしている」といった感情的な反発が生まれやすく、登記手続きへの協力を拒否されることがあります。結果として話し合いによる解決が難しくなり、最終的に登記引取請求訴訟に発展してしまいます。
共有者が所在不明・音信不通で連絡が取れない
共有者の所在が分からない、あるいは音信不通の状態になっていることが原因で、登記引取請求訴訟に発展するケースもあります。
不動産実務の体感としては全体の10%程度ですが、近年は相続登記されていない不動産の数が増えていることもあり、やや増加傾向にある印象です。
具体的には、共有者が行方不明になっているケースや、海外に居住していて連絡が取れないケース、相続が繰り返された結果として共有者の人数が増え、誰が権利者なのかわからないケースなどが挙げられます。
前述のとおり、共有持分の放棄は単独の意思表示で成立しますが、名義を変更するためには取得者となる共有者の協力が必要となります。しかし、共有者と連絡が取れない場合、署名押印や印鑑証明書の提出を求めることができず、登記手続きも進められません。
このような状況では、話し合いによる解決がそもそも難しいため、登記引取請求訴訟によって手続きを進めることがあります。裁判所の判決によって登記義務を確定させることで、相手方の協力がなくても、共有持分の移転登記を申請できるようになるためです。
共有持分放棄の登記引取請求訴訟ができる条件
共有持分放棄の登記引取請求訴訟をするためには、いくつかの条件を満たす必要があります。具体的な条件は以下のとおりです。
- 有効な「持分放棄の意思表示」があること
- 放棄が法律上認められる状態であること
- 他の共有者が登記手続きに協力しないこと
有効な「持分放棄の意思表示」があること
登記引取請求訴訟を行うためには、まず前提として「共有持分を放棄する意思表示」が有効に行われている必要があります。
具体的には「共有持分を放棄するという明確な意思を示していること」「意思表示が他の共有者に到達していること」が重要なポイントとなります。
持分の放棄については、特別な方式が定められているわけではないため、口頭でも成立するものと解釈されています。しかし、口頭のみで伝えると後になって「そのような話は聞いていない」「正式な放棄とは認められない」といった争いになるケースが多いものです。
そのため、訴訟を見据えて手続きを進める場合には、意思表示の証拠を残しておくことが非常に重要です。
実務においては、内容証明郵便を利用して持分放棄の意思を共有者に通知する方法が用いられるケースが多くみられます。内容証明郵便であれば「いつ・誰に・どのような内容を通知したのか」を客観的に証明できるため、訴訟の際に重要な証拠となります。
実際、持分放棄の意思表示を曖昧なまま進めてしまい、訴訟段階で証明が難しくなるケースがあります。将来的に登記引取請求訴訟へ発展する可能性も踏まえ、意思表示の方法や証拠の残し方には注意しておきましょう。
放棄が法律上認められる状態であること
共有持分の放棄は、原則として共有者の自由な意思で行うことができると解釈されています。そのため、基本的には他の共有者の同意がなくても、持分を放棄すること自体は可能です。
しかし、すべてのケースで無条件に持分放棄が認められるわけではありません。たとえば、管理不全となっている不動産の費用負担を一方的に押し付けることだけを目的とした放棄は「権利濫用」とみなされ、認められない場合があります。
また、他の共有者に著しい不利益を与える特殊事情がある場合も同様です。具体的な事例としては「老朽化した建物の解体費用や多額の修繕費が差し迫っている状況で、責任を回避する目的だけで放棄を行うケース」などが該当します。
もっとも、不動産実務の体感としては、持分放棄が「無効」と判断されるケースは少ないものです。多くの場合、放棄の有効性よりも、その後の登記手続きに対する協力の有無が問題となっています。
そのため、登記引取請求訴訟を検討する際には、放棄の目的や経緯が極端に不当なものになっていないかを確認しましょう。
他の共有者が登記手続きに協力しないこと
ここまで解説してきたとおり、登記引取請求訴訟は、共有持分の放棄が有効に成立しているにもかかわらず、他の共有者が登記手続きに協力しない場合に提起される訴訟です。
不動産の共有持分移転登記を行うためには、取得者となる共有者の協力が必要です。登記申請書への署名押印や印鑑証明書の提出などが求められるため、共有者が応じない場合、実務上は登記手続きを進められません。
このような場合には、判決によって名義を変更するために、登記引取請求訴訟が検討されます。
一方、共有者が手続きに素直に応じてくれるのであれば、裁判を行う必要はありません。当事者間で必要書類を集め、共同で登記申請を行えば、名義変更を完了させることができます。
そのため、まずは共有者との話し合いで協力してもらえるよう説得し、どうしても難しい場合にのみ、弁護士などに相談しながら登記引取請求訴訟を検討するという流れになります。
共有持分の放棄から登記引取請求訴訟の流れ
共有持分の放棄に関する登記引取請求訴訟は、いきなり裁判を起こすものではなく、いくつかの手続きを経て進められます。
裁判手続きに入った場合、判決が確定するまでには一定の時間がかかります。内容や裁判所の進行状況にもよりますが、実務上はおおむね6ヶ月から1年程度の期間を要することが多いです。
ここでは、共有持分の放棄から登記引取請求訴訟の判決が確定し、登記申請を行うまでの流れを解説します。
- 共有持分の放棄の意思表示をする
- 弁護士に相談をする
- 裁判所へ訴状を提出する
- 準備書面と証拠を提出する
- 口頭弁論を行う
- 判決が下される
- 判決に基づき単独登記申請を行う
1. 共有持分の放棄の意思表示をする
登記引取請求訴訟を行うためには、まず共有持分の放棄の意思表示を共有者に対して行う必要があります。そもそも放棄が成立していなければ、相手方に対して登記の協力を求める義務を求めることができないからです。
共有持分の放棄は、他の共有者に対して「自分の持分を放棄する」という意思を伝えることで成立します。
法律上は口頭でも成立しますが、実際の現場では後から「聞いていない」「放棄を認めた覚えはない」といった争いになることもあるため、専門家としては内容証明郵便での通知を推奨しております。
その後、相手方が登記手続きに協力してくれる場合は、通常の登記手続きによって共有持分移転登記を行うことになります。
一方、署名押印を拒否されたり、印鑑証明書の提出に応じてもらえなかったりする場合は登記手続きが進まないため、登記引取請求訴訟を検討することになります。
2. 弁護士に相談をする
訴訟手続きは法律的な知識や書類作成が必要になるため、個人で進めるのは難しく、弁護士に相談をするのが基本となります。
事務所によって異なりますが、弁護士への法律相談は、30分あたり5,000円〜1万円程度が目安となります。相談の際には、持分放棄の意思表示が適切に行われているか、登記引取請求訴訟が可能な状況か、今後の手続きの流れはどうなるのかなどについてアドバイスを受けられます。
そのうえで、実際に訴訟を依頼する場合には、弁護士と委任契約を結び、着手金や実費などの費用を支払うことになります。
3. 裁判所へ訴状を提出する
弁護士に相談した結果、登記引取請求訴訟を提起することになった場合は、不動産を管轄する地方裁判所へ訴状を提出します。
訴状には、原告(放棄する人)と被告(他の共有者)の氏名や住所など当事者に関する事項だけでなく、請求の趣旨や請求の原因といった内容を具体的に記載する必要があります。
共有持分放棄に関する訴訟の場合は、放棄した経緯や意思表示の方法、他の共有者に登記手続きへの協力を求めたにもかかわらず応じてもらえなかった事情などを記載します。
なお、訴状の作成には法律的な知識や適切な事実整理が求められるため、個人で作成するのは難しいものです。弁護士に依頼している場合は、訴状の作成から裁判所への提出まで、すべて弁護士が代理人として進めてくれます。
4. 準備書面と証拠を提出する
訴状を提出した後は、裁判の審理に向けて「準備書面」と呼ばれる書面を提出します。準備書面とは、訴状の内容を補足し、自分の主張や事実関係をより具体的にまとめて裁判所に示すための書面です。
登記引取請求訴訟では、共有持分の放棄が適切に行われたことや、他の共有者が登記手続きに協力しなかった事実などを証拠とともに示すことが重要です。そのため、放棄の意思表示を行った経緯や、相手方へ登記手続きへの協力を求めた状況などを準備書面の中で詳しく説明する必要があります。
証拠としては、持分放棄を通知した内容証明郵便の写し、共有者とのLINEやメールなどのやり取り、不動産の登記事項証明書などが挙げられます。なお、弁護士に依頼している場合は、準備書面の作成や証拠の整理も弁護士が中心となって進めます。
5. 口頭弁論を行う
準備書面や証拠の提出が進み、審理の準備が整うと、裁判所で口頭弁論が行われます。口頭弁論では、原告と被告双方の主張を整理し、争点を確認しながら審理が進められます。
なお、民事訴訟法第87条では、口頭弁論は原則として当事者が出廷しなければならないと定められています。
(口頭弁論の必要性)
第八十七条 当事者は、訴訟について、裁判所において口頭弁論をしなければならない。ただし、決定で完結すべき事件については、裁判所が、口頭弁論をすべきか否かを定める。
引用元: 民事訴訟法|e-Gov 法令検索
ただし、弁護士に依頼している場合は、弁護士が代理人として出廷することで、本人の出廷が不要になるケースもあります。事案の内容によって対応が異なるため、具体的な対応は弁護士の指示に従うようにしましょう。
また、口頭弁論は1回で終了することは少なく、数回にわたって行われるのが基本です。口頭弁論期日は通常1ヶ月~2ヶ月に1回程度の頻度で行われるため、判決が出るまでに半年~1年程度の期間を要することが多いです。
6. 判決が下される
口頭弁論や証拠の提出などの審理が終了すると、裁判所がこれまでの主張や証拠を踏まえて判断を下します。そこで「登記引取請求が正当である」と判断された場合、その内容が判決として下されます。
もっとも、判決が出た時点で直ちに登記引取請求権が確定するわけではありません。判決内容に不服がある場合、当事者は判決文の送達を受けた日から2週間以内に控訴することができます。期間内に控訴が行われなければ、判決が確定となります。
7. 判決に基づき単独登記申請を行う
裁判の判決が確定すると、相手方の協力がなくても登記手続きを進めることが可能になります。
確定判決は法的な効力を持つため、法務局へ登記申請を行う際には「登記原因証明情報」として利用することができます。これにより、「持分放棄」を原因とする持分移転登記を単独で申請することが可能になります。
実務上は、裁判の判決確定をもって登記手続きに進むことになります。なお、弁護士に依頼している場合、不動産登記も含めて代行してもらうケースが多いです。
共有持分放棄の登記引取請求訴訟にかかる費用
共有持分放棄の登記引取請求訴訟を行う場合、以下のような費用が発生します。
| 項目 | 費用目安 |
|---|---|
| 裁判所への手数料 | 数万円~数十万円程度 (固定資産税評価額によって異なる) |
| 弁護士費用 | 50万円~100万円程度 |
| 登録免許税・司法書士報酬などの登記費用 | 数万円~数十万円程度 (固定資産税評価額によって異なる) |
| 必要書類の取得費 | 数千円程度 |
費用の内訳や金額の目安を事前に把握しておかなければ、想定外の出費が発生し、手続きを進めるかどうかの判断に影響することもあります。そのため、訴訟を検討する段階で費用の全体像を把握しておくことが大切です。
ここでは、共有持分放棄の登記引取請求訴訟にかかる主な費用の内訳について解説します。
裁判所への手数料:数万円~数十万円程度
共有持分放棄の登記引取請求訴訟において、裁判所へ納める手数料(収入印紙代)は、放棄する持分の固定資産税評価額によって異なります。
不動産実務において、裁判所への手数料は「訴額(裁判で求める目的物の評価額)」に基づいて算出されます。共有持分放棄に関する訴訟では、実務上「固定資産税評価額×放棄する持分割合」を基準として訴額が算定されるケースが多く見られます。
たとえば、不動産の固定資産税評価額が1,000万円で2分の1の持分を放棄するのであれば「1,000万円×1/2=500万円」が訴額となります。訴額に対する手数料については「裁判所の手数料早見表」で確認できます。訴額が500万円となる場合、手数料は3万円です。
上記に加え、裁判所が書類を郵送するために使用する「予納郵券(郵便切手代)」として、数千円から1万円程度を別途納める必要があります。
実務上、評価額が高い不動産の持分を放棄するケースはまれであるため、裁判所の手数料は数万円程度で収まるケースが多いです。しかし、評価額が高い不動産の場合はそれ相応の負担が必要になるため、事前に固定資産税の納税通知書などで評価額を確認しておくようにしましょう。
弁護士費用:50万円~100万円程度
共有持分放棄の登記引取請求訴訟における弁護士費用は、総額50万円〜100万円程度が相場となります。
弁護士費用の内訳としては、主に相談費用・着手金・実費・成功報酬の4つがあります。
相談費用は30分あたり5,000円~1万円が相場となっており、実際に依頼する際の着手金は20万円~30万円程度の弁護士事務所が多いです。実費については交通費や通信費など、訴訟をするために必要な経費であり、基本は数万円程度になります。
成功報酬については、訴訟によって得られた経済的利益の10%〜15%程度がひとつの目安です。たとえば、持分放棄によって固定資産税や管理費用の負担が200万円少なくなると計算された場合、20万円〜30万円が成功報酬となります。
なお、弁護士費用については事務所によって料金体系が異なるため、相談の際に必ず見積もりを取るようにしましょう。
登録免許税・司法書士報酬などの登記費用:数万円~数十万円
共有持分放棄に伴う登記手続きでは、裁判に勝った後であっても、法務局に納める登録免許税と、登記申請を代行する司法書士報酬が必要になります。
まず、登録免許税は「不動産の固定資産税評価額×放棄する持分割合×2%」で算出されます。たとえば不動産の固定資産税評価額が1,000万円、放棄する持分割合が2分の1であれば「1,000万円×1/2×2%=10万円」を登録免許税として納める必要があります。
次に、司法書士への報酬ですが、一般的な登記手続きの費用と同様に、1つの不動産に対して5万円~10万円ほどの費用が発生します。
なお、不動産登記は弁護士でも可能なため、裁判を依頼した弁護士にそのまま登記申請も依頼する場合、司法書士費用が別途発生することはありません。その分、弁護士費用が上乗せになるため、一律で依頼する場合は相談の段階で料金を確認しておきましょう。
必要書類の取得費:数千円程度
共有持分放棄の登記引取請求訴訟において、必要書類の取得にかかる実費は、総額で数千円程度に収まるケースが大半です。主な必要書類は以下のとおりです。
| 必要書類 | 取得費用 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 1通490円~600円 |
| 固定資産評価証明書 | 1通200円~400円 |
| 印鑑証明書 | 1通200円~500円 |
なお、事案の内容によって必要書類が異なるケースもあるため、どのような書類を取得するのかの詳細は弁護士に聞きましょう。
共有持分放棄の登記引取請求訴訟に関する注意点
共有持分放棄の登記引取請求訴訟を起こす際には、いくつかの注意点があります。とくに、以下の点を把握しておかなければトラブルに発展するおそれがあるため、事前にチェックしておきましょう。
- 登記引取請求権には5年の消滅時効がある
- 共有持分を放棄してもその年の固定資産税は支払いが必要になる
- 放棄により共有持分を取得した人には贈与税が課税されることがある
登記引取請求権には5年の消滅時効がある
登記引取請求権については、一般的には5年の消滅時効が問題となると解釈されることが多いため注意が必要です。期間内に権利を行使しなければ、時効によって訴訟を起こすことができなくなる可能性があります。
民法第166条では、債権は「権利を行使できることを知ったときから5年間」または「権利を行使することができるときから10年間」で時効により消滅すると定められています。
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索
共有持分放棄の場合、通常は放棄の意思表示を行った時点で登記引取請求権が発生し、放棄者はその権利を認識していると考えられます。そのため、実務上は「放棄の意思表示をした日から5年以内」に登記引取請求訴訟を提起する必要があると理解しておくとよいでしょう。
放棄の意思表示自体は口頭でも成立しますが、あとから時効や権利発生の時期が問題になる場合があります。そのため、内容証明郵便など、意思表示を行った日時を客観的に証明できる方法で通知しておくことが大切です。
実際の事例として、放棄の意思表示だけ行ったまま登記手続きを進めず、長期間放置してしまうケースもまれに見受けられます。不動産の専門家としては、時効の制約がある以上、放棄の意思を固めた段階で速やかに手続きを進めることを推奨します。
共有持分を放棄してもその年の固定資産税は支払いが必要になる
共有持分を放棄したとしても、その年の固定資産税の負担が消えるわけではありません。固定資産税は「その年の1月1日時点で不動産を所有している人」に対して課税される税金であるためです。
そのため、登記引取請求訴訟によって持分を放棄した年の固定資産税については、放棄した人にも納税義務が生じます。放棄した人が共有不動産の代表者となっている場合は、固定資産税の納税通知書が届くこともあります。
通常の売買や譲渡などであれば、共有者同士の話し合いによって、放棄した日を基準に日割り計算で固定資産税を精算するのが慣習となっています。
しかし、登記引取請求訴訟に発展するような状況では、当事者間の関係が悪化していることが多く、円満に精算できないケースが大半です。
登記引取請求訴訟で持分を放棄した場合、その年の固定資産税は支払う必要があるものと認識しておきましょう。
放棄により共有持分を取得した人には贈与税が課税されることがある
共有持分を放棄した場合、その持分は原則として他の共有者に帰属します。
税務上は、契約による贈与などではなく一方的な放棄であっても「他の共有者の財産が無償で増えたかどうか」が課税するかどうかの判断基準になります。
もしも放棄によって他の共有者が経済的利益を得たと判断されれば、増加分が贈与とみなされ、贈与税の課税対象になる可能性があります。
共有持分の放棄を考えている人の中には「放棄だから税金は発生しない」と考えている方も少なくありません。しかし、税務上は放棄などの形式ではなく、結果として「利益を得たのかどうか」が重視されます。そのため、意図せず贈与税が課されるケースがあるのです。
贈与税は税率が比較的高いため、取得した共有者に多額の税負担が生じるおそれもあります。その結果、共有者間の関係がさらに悪化してしまうケースもあるため、持分放棄を検討する際には税務上の影響についても十分に調査しておくことが大切です。
まとめ
共有持分の放棄は単独の意思表示でも成立しますが、登記手続きを進めるためには他の共有者の協力が必要になります。そのため、話し合いがまとまらない場合には、登記引取請求訴訟を起こし、判決に基づいて登記を行うケースがあります。
しかし、訴訟に発展すると解決までに6ヶ月から1年程度の期間がかかることもあり、弁護士費用や裁判費用などの負担も発生します。
そのため、不動産の専門家としては、まずは持分放棄の意思表示を明確に行い、相手方と十分に協議したうえで解決を目指すことを推奨しております。
また、登記引取請求権には消滅時効があるほか、放棄した年の固定資産税の支払い義務や、取得した共有者に贈与税が課税される可能性がある点にも注意が必要です。
共有持分の放棄や登記引取請求訴訟に関して悩んでいることがある場合は、共有不動産の実績が豊富な弁護士に相談してみてください。
よくある質問
共有者が複数いる場合、全員を相手に訴訟を起こす必要がありますか?
共有持分を放棄した際、その持分は他の共有者全員に対して、それぞれの持分比率に応じて帰属します。そのため、登記を完全に移転するためには、原則として他の共有者全員を被告として訴訟を提起する必要があります。ただし、一部の共有者が登記に協力的な場合には、非協力的な共有者のみを提訴する形で問題ありません。
登記引取請求訴訟にかかった弁護士費用を相手方に請求できますか?
弁護士費用は自己負担となるため、たとえ勝訴判決を得たとしても、相手方に費用を請求することは原則としてできません。ただし、印紙代や郵便切手代などの訴訟費用については、敗訴者に対して請求することが可能です。

