共有者が行方不明でも共有名義不動産は売却できる?方法・手続き・相談先を解説

「行方不明の共有者がいる不動産は売却できないのでは?」と悩んでいる方もいるでしょう。
実際、共有持分の買取を行っている弊社にも、「共有者の一人と長年連絡が取れない」「相続した実家を売りたいが、共有者の所在がわからないため、自分の持分だけでも売却したい」といった相談が寄せられます。
結論からいうと、行方不明の共有者がいる不動産であっても、売却する方法はあります。
不動産全体を売却するには原則として共有者全員の同意が必要ですが、所在確認によって本人の同意を得られる場合や、事案に応じた裁判所手続きを利用できる場合は、全体売却を目指せることがあります。また、自分の共有持分のみであれば、行方不明の共有者の同意を得ずに売却できます。
売却方法の選択肢は、次のとおりです。
| 売却方法 | 概要 |
|---|---|
| 行方不明の共有者の所在を確認して売却の同意を得る | 登記事項証明書や住民票、戸籍の附票などをもとに共有者の所在を確認し、本人の同意を得て不動産全体の売却を目指す方法 |
| 所在等不明共有者持分譲渡制度で行方不明者の持分も含めて売却する | 地方裁判所の決定を得て、行方不明者の持分も含めて不動産全体を第三者へ譲渡する方法 |
| 所在等不明共有者持分取得制度で行方不明者の持分を取得してから売却する | 地方裁判所の決定を得て行方不明者の持分を取得し、行方不明者との共有関係を整理してから売却や活用を検討する方法 |
| 不在者財産管理人制度を利用して売却手続きを進める | 家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、売却許可を得たうえで不動産全体の売却を進める方法 |
| 失踪宣告によって相続関係を整理し、相続人と売却協議を進める | 生死不明の共有者を法律上死亡したものとして扱い、相続人と売却協議を進める方法 |
| 自分の共有持分のみを買取業者に売却する | 行方不明の共有者の同意を得ずに、自分の共有持分だけを買取業者へ売却する方法 |
まずは、登記上の住所や過去の連絡先、親族関係などから共有者の所在を確認できるかを調べましょう。共有者本人と連絡が取れれば、売却の同意を得て不動産全体の売却を進められる可能性があります。一方、所在確認が難しい場合は、別の方法を検討する必要があります。
不在者財産管理人制度に加えて、2023年4月からは「所在等不明共有者持分譲渡制度」「所在等不明共有者持分取得制度」も利用できるようになりました。これにより、所在等不明共有者の持分を含めて第三者に譲渡したり、他の共有者がその持分を取得したりする方法も選択肢に入るようになっています。
ただし、行方不明者の財産管理全体を整理する必要がある場合は、不在者財産管理人制度が向いていることもあります。また、共有者が長期間生死不明で、法律上死亡したものとして相続人との協議に進む必要がある場合は、失踪宣告を検討するケースもあります。
裁判所手続きに時間や費用をかけたくない場合は、行方不明の共有者の同意を得ずに進められる、自分の共有持分のみの売却も選択肢になります。
本記事では、行方不明の共有者がいる共有名義不動産の売却方法について、共有名義・共有持分の買取業者である弊社の実務情報を踏まえながら解説します。行方不明の共有者の所在を確認する方法、所在等不明共有者持分取得・譲渡制度を利用する流れ、相談先、共有者が行方不明のまま不動産を放置するリスクもあわせて紹介します。
目次
共有者が行方不明でも共有名義不動産は売却できる?
共有者が行方不明でも、共有名義不動産を売却する方法はあります。ただし、不動産全体を売却するのか、自分の共有持分だけを売却するのかによって、必要な手続きや売却の進め方は異なります。
共有名義不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。不動産全体の売却は共有物全体を処分する行為にあたるため、共有者のうち一人でも同意を確認できない場合、買主との売買契約や所有権移転登記まで進めることは困難です。
たとえば、兄弟3人で相続した実家を売却したい場合、2人が売却に賛成していても、残り1人が行方不明で同意を確認できなければ、実際の契約や登記手続きで支障が生じます。
ただし、共有者が行方不明だからといって、売却方法がまったくないわけではありません。所在確認によって本人の同意を得る方法のほか、裁判所手続きを経て、不動産全体の売却や共有関係の整理を目指す方法もあります。
また、不動産全体ではなく自分の共有持分だけを売却する場合は、行方不明の共有者の同意がなくても売却できます。
弊社にも、共有者と長年連絡が取れず、不動産全体の売却が進まないという相談は実際に寄せられています。共有持分に関する問い合わせ理由を集計したところ、「共有者の行方不明・音信不通・多人数化」を理由とする相談は全体の5%ありました。
共有者が行方不明のケースでは、全体売却に必要な同意を得られないため、まずは自分の共有持分だけでも現金化できないか検討したいという相談もあります。
データ集計方法:弊社に寄せられた共有持分に関する問い合わせデータを集計
※複数の事情が含まれる相談もあるため、主な問い合わせ理由をもとに分類しています。
共有者が行方不明の場合は、まず「不動産全体を売却したいのか」「自分の共有持分だけでも早く現金化したいのか」を整理しましょう。全体売却を目指すなら所在確認や裁判所手続きの検討が必要になり、自分の持分だけを売却する場合は、一般の買主を見つけにくいため、共有持分の取り扱いに慣れた買取業者へ査定を依頼するのが現実的な選択肢になります。
共有名義不動産の売却については、次の記事も参考にしてみてください。
行方不明の共有者がいる共有名義不動産を売却する方法
共有者が行方不明でも、状況に応じて共有名義不動産を売却する方法はあります。ただし、どの方法を選ぶべきかは、「不動産全体を売却したいのか」「自分の共有持分だけを売却したいのか」「裁判所手続きに時間や費用をかけられるのか」によって変わります。
たとえば、行方不明の共有者の所在を確認できれば、本人の同意を得て通常どおり不動産全体を売却できる可能性があります。一方、所在確認が難しい場合でも、裁判所手続きを利用して不動産全体の売却を目指す方法や、自分の共有持分だけを買取業者へ売却する方法もあります。
実務でも、共有者と連絡が取れないために全体売却が止まり、まずは「所在確認を続けるべきか」「裁判所手続きに進むべきか」「自分の持分だけでも現金化すべきか」を比較するケースがあります。次の表で、それぞれの方法の特徴を整理します。
| 売却方法 | 難易度・向いているケース |
|---|---|
| 行方不明の共有者の所在を確認して売却の同意を得る | 難易度:低~中 共有者の住所を確認できる可能性があり、不動産全体を通常どおり売却したいケースに向いています。ただし、所在がわかっても、売却に同意してもらえるとは限りません。 |
| 所在等不明共有者持分譲渡制度で行方不明者の持分も含めて売却する | 難易度:中~高 行方不明者以外の共有者全員が売却に合意しており、不動産全体を第三者へ売却したいケースに向いています。裁判所手続きや供託が必要です。 |
| 所在等不明共有者持分取得制度で行方不明者の持分を取得してから売却する | 難易度:中~高 行方不明者の持分を取得し、行方不明者との共有関係を整理してから売却や活用を検討したいケースに向いています。裁判所手続きや供託が必要です。 |
| 不在者財産管理人制度を利用して売却手続きを進める | 難易度:高 行方不明者の財産管理全体や遺産分割協議、不在者に代わる売却手続きが必要なケースに向いています。家庭裁判所の関与が必要です。 |
| 失踪宣告によって相続関係を整理し、相続人と売却協議を進める | 難易度:高 共有者が長期間生死不明で、相続人との協議に進む必要があるケースに向いています。失踪宣告後は相続手続きが必要になります。 |
| 自分の共有持分のみを買取業者に売却する | 難易度:低 不動産全体の売却が進まず、早く共有関係から離れたいケースに向いています。行方不明の共有者の同意は不要ですが、不動産全体を売却する場合より価格は低くなりやすいです。 |
行方不明の共有者の所在を確認して売却の同意を得る
共有者が行方不明の場合、まず検討したいのは、共有者の所在を確認して売却の同意を得る方法です。共有者の所在がわかり、本人から売却の同意を得られれば、裁判所手続きを使わずに共有名義不動産全体の売却を進められる可能性があります。
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 登記事項証明書で共有者の登記上の住所を確認する
- 登記上の住所で連絡が取れない場合は、専門家への依頼も含めて、住民票や戸籍の附票などによる所在調査を検討する
- 共有者本人に連絡を取り、売却の意思や希望条件を確認する
- 共有者全員が売却に合意できたら、売却価格・売却時期・必要書類を整理する
- 不動産会社に査定や売却活動を依頼する
行方不明の共有者を探す方法については、「行方不明の共有者を探す・所在を確認する方法」で詳しく解説します。
なお、所在確認をしたからといって、必ず共有者が見つかるわけではありません。登記上の住所が古い、住民票や戸籍の附票を取得できない、親族も現在の連絡先を把握していないといったケースでは、所在確認に時間がかかることがあります。
また、共有者の所在がわかったとしても、すぐに売却できるとは限りません。実務上も、長年連絡を取っていなかった共有者に突然売却の話をすると、「実家を売りたくない」「価格に納得できない」「自分だけ損をしたくない」といった理由で協議が止まることがあります。
そのため、連絡が取れた後は、売却価格の決め方、売却代金の分け方、固定資産税や管理費用の精算、契約・決済時の必要書類などを早めに整理しておくことが大切です。
この方法は、登記上の住所や過去の連絡先、親族関係などから共有者の所在をたどれる可能性があるケースに向いています。たとえば、登記上の住所が実家や親族宅になっている場合、本人とは連絡が取れなくても兄弟・子ども・配偶者などを通じて連絡先がわかる場合があります。
できるだけ裁判所手続きを避けて不動産全体を売却したい場合や、共有者本人と話し合える余地がある場合は、まず所在確認から進めるのが現実的です。
所在等不明共有者持分譲渡制度で行方不明者の持分も含めて売却する
所在等不明共有者持分譲渡制度とは、所在がわからない共有者の持分も含めて、共有名義不動産全体を第三者に譲渡するための制度です。
通常、共有名義不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要です。しかし、共有者の一人が行方不明の場合、本人の同意を確認できず、売却手続きが止まってしまいます。
このような場合でも、一定の要件を満たせば、地方裁判所の決定を得て、行方不明者の持分も含めて第三者に譲渡できる可能性があります。
たとえば、兄弟3人で相続した実家について、1人が行方不明になっているケースを考えてみましょう。所在がわかっている兄弟2人が売却に合意しており、買主候補も見つかっている場合、譲渡制度を利用することで、行方不明者の持分も含めて不動産全体を第三者へ売却できる可能性があります。
所在等不明共有者持分譲渡制度を利用するための主な要件は、次のとおりです。
・共有者の氏名・名称または所在を調査しても確認できないこと
・行方不明者以外の共有者全員が、自分の持分を同じ第三者へ譲渡すること
・不動産の共有者が、地方裁判所に譲渡権限付与の申立てをすること
・裁判所が定めた供託金を納付すること
・裁判の効力が生じた後、原則として2ヵ月以内に第三者への譲渡を成立させること
・所在等不明共有者の持分が、共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に含まれている場合は、相続開始から10年が経過していること
ここでとくに注意が必要なのが「相続開始から10年」というルールです。所在等不明共有者の持分が、共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に含まれている場合は、相続開始から10年が経過していないと、所在等不明共有者持分取得制度・譲渡制度を利用できません。
たとえば「親が数年前に亡くなり、実家を相続したが、兄弟の一人が行方不明」というケースでは、遺産分割前の相続財産にあたる可能性があります。この場合、相続開始から10年が経過していなければ、これらの制度を使って行方不明者の持分を取得したり、第三者へ譲渡したりすることはできません。
そのため、相続した不動産で共有者が行方不明になっている場合は、まず「遺産分割前の相続財産なのか」「すでに遺産分割や相続登記を経て通常の共有状態になっているのか」を確認する必要があります。
相続開始から10年が経過していない場合は、後述する不在者財産管理人制度の利用など、別の方法を検討することになります。
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 行方不明者の所在確認を行い、所在等不明であることを示す資料を整理する
- 不動産の評価資料や固定資産評価証明書などを準備する
- 行方不明者以外の共有者全員で売却方針を固め、買主候補や売却条件を整理する
- 不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、所在等不明共有者持分譲渡権限付与の申立てを行う
- 裁判所による公告・通知、供託金の納付などの手続きを進める
- 裁判の効力が生じた後、原則2ヵ月以内に第三者への譲渡を成立させ、売買契約・決済・所有権移転登記などを進める
所在等不明共有者持分譲渡制度は、申立てをすればすぐに利用できる制度ではありません。裁判所による公告期間だけでも3ヵ月以上必要になるため、申立てから裁判所の決定までには、おおむね4〜6ヵ月程度かかることがあります。
また、譲渡制度を利用する場合は、裁判が確定してから買主を探すのではなく、申立ての段階で売却先や売却条件を具体的に示す必要があります。裁判の効力が生じた後は、原則として2ヵ月以内に第三者への譲渡を成立させる必要があります。
裁判所が、買主探しや売却条件の調整まで代わりに行うわけではありません。買主を探す、売却条件を調整する、契約・決済・登記へ進めるといった実務は、所在がわかっている共有者側で準備する必要があります。
さらに、譲渡制度では、売却後に所在等不明共有者の持分相当額を支払うのではなく、裁判所が定めた供託金をあらかじめ用意する必要があります。供託金は、行方不明者が本来受け取るはずの持分相当額を確保するためのお金です。
この制度は、行方不明者以外の共有者全員が売却に合意しており、買主候補や売却条件の見通しがある程度立っているケースに向いています。
一方で、共有者間で売却方針がまとまっていない場合や買主候補が決まっていない場合は、まず共有者間で売却条件を整理し、状況によっては自分の共有持分のみを売却する方法も含めて検討しましょう。
「所在等不明共有者の持分の譲渡」
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。
e-Gov法令検索 民法第262条の3
所在等不明共有者持分取得制度で行方不明者の持分を取得してから売却する
所在等不明共有者持分取得制度とは、地方裁判所の決定を得て、所在がわからない共有者の持分を他の共有者が取得できる制度です。
所在等不明共有者持分譲渡制度は不動産全体の売却を前提とする手続きですが、所在等不明共有者持分取得制度は、持分取得後に売却するか、活用するかを改めて検討できます。譲渡制度のように、申立て前から買主候補や売却条件を固めておく必要がない点が大きな違いです。
たとえば、兄弟3人で相続した実家について、1人が行方不明になっているケースを考えてみましょう。他の兄弟2人が売却や活用を希望していても、行方不明者の持分が残ったままでは、不動産全体を自由に処分することはできません。取得制度を利用して行方不明者の持分を取得できれば、所在がわかっている共有者間で売却方針を決めやすくなります。
所在等不明共有者持分取得制度を利用するための主な要件は、次のとおりです。
・共有者の氏名・名称または所在を調査しても確認できないこと
・不動産の共有者が、地方裁判所に持分取得の申立てをすること
・裁判所が定めた供託金を納付すること
・行方不明者の持分が、共同相続人間で遺産分割をすべき相続財産に含まれている場合は、相続開始から10年が経過していること
なお、この10年ルールは譲渡制度と同様に重要な注意点です。行方不明者の持分が遺産分割前の相続財産に含まれ、相続開始から10年が経過していない場合は、所在等不明共有者持分取得制度を利用できないため、不在者財産管理人制度など別の方法を検討する必要があります。
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 行方不明者の所在確認を行い、所在等不明であることを示す資料を整理する
- 不動産の評価資料や固定資産評価証明書などを準備する
- 不動産の所在地を管轄する地方裁判所に、所在等不明共有者持分取得の申立てを行う
- 裁判所による公告・通知、供託金の納付などの手続きを進める
- 裁判が確定したら、行方不明者の持分移転登記を行う
- 持分取得後に、不動産全体の売却や活用を検討する
なお、裁判所による公告期間だけでも3ヵ月以上必要になるため、申立てから裁判所の決定までには、おおむね4〜6ヵ月程度かかることがあります。
また、取得制度では、申立人が1人か複数かによって取得後の持分関係が変わります。申立人が1人であればその人が行方不明者の持分を取得し、複数の場合は申立人の持分割合に応じて取得します。
売却を前提にする場合は、取得後の持分関係が複雑になりすぎないよう、共有者のうち1人が申立人となる方法もあります。ただし、単独名義にしてから売却代金の一部を他の元共有者に渡すと、贈与税が発生するおそれがあります。誰が申立人になるのか、取得後の売却代金の扱いに税務上の問題がないかは、事前に税理士や弁護士に確認しておきましょう。
さらに、持分を取得するには、裁判所が定めた供託金を納付する必要があります。供託金は、行方不明者が本来受け取るべき持分相当額を確保するためのお金です。申立人側が希望する金額で必ず認められるわけではなく、不動産の評価資料や事案に応じて裁判所が判断します。
この制度は、行方不明者の持分を取得し、行方不明者との共有関係を整理してから売却条件を検討したいケースに向いています。譲渡制度と異なり、裁判の効力発生後2ヵ月以内に第三者への譲渡を成立させる必要がないため、取得後に査定や売却時期を調整しやすい点が特徴です。
一方で、裁判所手続きや供託金の準備に負担を感じる場合は、自分の共有持分のみを買取業者へ売却する方法も含めて検討しましょう。
「所在等不明共有者の持分の取得」
不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按分してそれぞれ取得させる。
e-Gov法令検索 民法第262条の2
不在者財産管理人制度を利用して売却手続きを進める
不在者財産管理人制度とは、行方不明者の財産を管理する人を家庭裁判所に選任してもらう制度です。
不在者財産管理人が選任されれば、行方不明者本人に代わって財産管理に関する対応を進められる場合があります。ただし、不動産の売却は、行方不明者の財産を大きく動かす行為です。そのため、不在者財産管理人が選任されただけで、すぐに共有名義不動産を売却できるわけではありません。
たとえば、建物の修繕や財産の管理であれば不在者財産管理人の権限で対応できる場合がありますが、不動産を売却するには、原則として家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。家庭裁判所は、売却の必要性や売却条件が不在者にとって不利益にならないかを確認したうえで、許可するかどうかを判断します。
不在者財産管理人制度を利用して、不動産全体を売却する際の主な条件は次のとおりです。
・不在者が従来の住所地や居所を離れ、容易に戻る見込みがないこと
・不在者が自分で財産管理人を置いていないこと
・利害関係人などが、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立てをすること
・不動産を売却する場合は、選任後に家庭裁判所の権限外行為許可を得ること
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 行方不明者の所在確認を行い、不在の事実を示す資料を整理する
- 行方不明者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に、不在者財産管理人選任の申立てを行う
- 家庭裁判所が候補者や事案を確認し、不在者財産管理人を選任する
- 不在者財産管理人が、不動産売却について家庭裁判所に権限外行為許可を申し立てる
- 家庭裁判所の許可が出たら、共有者や不動産会社と売却条件を整理する
- 売買契約、決済、所有権移転登記などを進める
申立てでは、主に次のような書類が必要になります。必要書類は事案によって異なるため、実際に申し立てる際は家庭裁判所や弁護士に確認しましょう。
・不在者の戸籍謄本、戸籍の附票
・不在の事実を示す資料(警察署の行方不明者届出証明書、職権消除された住民票・戸籍附票など)
・不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金残高がわかる資料など)
・申立人との利害関係がわかる資料
・不在者財産管理人候補者がいる場合は、その候補者の住民票または戸籍の附票
注意点は、不在者財産管理人の選任と、不動産売却の許可が別の手続きになる点です。共有者側が売却を希望していても、家庭裁判所が売却の必要性や条件を確認するため、希望どおりに許可されるとは限りません。
また、不在者財産管理人選任の申立てには、収入印紙800円分と連絡用の郵便切手が必要です。郵便料は裁判所によって異なるため、申立先の家庭裁判所に確認しましょう。
不在者財産管理人の報酬や管理費用は、基本的には不在者本人の財産から支払われます。ただし、不在者の財産だけでは費用をまかなえない可能性がある場合は、申立人に予納金の納付を求められることがあります。
なお、不在者財産管理人は親族などが候補者になる場合もありますが、必ず選任されるとは限りません。
弁護士や司法書士などの専門家が選任される場合は報酬が発生し、財産の内容や管理の難しさによって金額が変わります。一般的には月額1万〜5万円程度が目安とされることもありますが、最終的には家庭裁判所の判断によります。
さらに、不在者財産管理人の選任から売却許可まで進める場合、家庭裁判所での確認や追加資料の提出が必要になることもあり、数ヵ月単位の時間がかかることがあります。通常の不動産売却よりもスケジュールを読みにくいため、早めに準備を進めましょう。
この制度は、共有不動産の売却だけでなく、行方不明者の財産管理全体を整理したいケースに向いています。たとえば、遺産分割協議への参加や、預貯金・他の不動産の管理も必要な場合です。
一方で、共有名義不動産の売却だけが目的なら、所在等不明共有者持分取得制度や譲渡制度の方が合う場合もあります。時間や費用がかかりやすいため、弁護士に相談しながら判断しましょう。
失踪宣告によって相続関係を整理し、相続人と売却協議を進める
失踪宣告とは、生死不明の人について、法律上死亡したものとみなす制度です。
行方不明の共有者について失踪宣告が認められると、その共有者は法律上死亡したものとみなされ、共有持分は相続人に引き継がれます。そのため、相続人を新たな共有者として確定し、相続登記を行ったうえで相続人から売却の同意を得られれば、不動産全体の売却を進められます。
ただし、失踪宣告は「連絡が取れない共有者の代わりに売却の同意を得る制度」ではありません。長期間にわたって生死がわからない人について、法律上死亡したものとして扱い、相続関係を整理するための制度です。そのため、共有名義不動産を売却したいという理由だけで、簡単に利用できる制度ではありません。
失踪宣告を利用するための主な要件は、次のとおりです。
・普通失踪:不在者の生死が7年間明らかでないこと
・危難失踪:戦争、船舶の沈没、震災など死亡の原因となる危難が去った後、1年間生死が明らかでないこと
・配偶者、相続人にあたる人、財産管理人、受遺者など、法律上の利害関係人が家庭裁判所に申立てをすること
・不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申し立てること
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 共有者の生死不明期間や行方不明になった経緯を確認する
- 戸籍謄本、戸籍の附票、不在の事実を示す資料などを準備する
- 不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に、失踪宣告の申立てを行う
- 家庭裁判所による調査や公告などの手続きを経て、失踪宣告の審判を受ける
- 失踪宣告後、行方不明者の相続人を確認し、原則として相続登記を行う
- 新たな共有者となる相続人と売却条件を協議し、不動産全体の売却を進める
注意点は、失踪宣告が認められても、すぐに不動産を売却できるわけではないことです。失踪宣告後は、行方不明者の相続人を確認し、登記名義を現在の権利関係に合わせるため、原則として相続登記を行ったうえで、相続人と売却条件を協議する必要があります。
また、失踪宣告の申立てには、収入印紙800円分、連絡用の郵便切手、官報公告料がかかります。官報公告料は5,298円とされており、郵便料は裁判所によって異なるため、申立先の家庭裁判所に確認しましょう。
失踪宣告は、家庭裁判所による調査や、官報への掲載などの長期間の公告を経て慎重に判断されます。そのため、申立てから審判が確定するまでに半年から1年程度、事案によってはそれ以上の時間がかかるのが一般的です。さらに、失踪宣告後も相続人調査、遺産分割協議、相続登記、不動産売却の手続きが続くため、売却までには時間がかかりやすい点に注意が必要です。
この制度は、行方不明者について法律上死亡したものとして扱い、相続人と売却協議を進める必要があるケースに向いています。たとえば、共有者が長期間生死不明で本人との協議が見込めず、相続関係を整理してから不動産全体の売却を進めたい場合です。
一方で、行方不明者が生存している可能性を前提に、本人に代わって売却手続きを進めたい場合は、不在者財産管理人制度が向いています。共有名義不動産の売却だけが目的であれば、所在等不明共有者持分取得制度・譲渡制度、自分の共有持分のみの売却の方が目的に合う場合もあります。
失踪宣告は相続関係にも大きく影響するため、行方不明者が生存している可能性や他制度の利用可否も含めて、弁護士や司法書士に相談しながら慎重に判断しましょう。
自分の共有持分のみを買取業者に売却する
共有名義不動産全体の売却が難しい場合でも、自分の共有持分のみであれば、行方不明の共有者の同意を得ずに売却できます。
共有持分は、共有者それぞれが持つ権利です。不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要ですが、自分の持分だけを売却する場合は、他の共有者の同意は不要です。
ただし、一般的な不動産会社の仲介では、共有持分のみを購入する買主を見つけるのが難しいため、早期売却を目指す場合は、共有持分を直接買い取る買取業者が現実的な相談先になりやすいです。
売却までの大まかな流れは、次のとおりです。
- 共有持分の買取に対応している買取業者へ相談する
- 登記事項証明書や固定資産税納税通知書、共有者との関係性などをもとに査定を受ける
- 買取価格や契約条件、決済時期を確認する
- 条件に納得できれば売買契約を締結する
- 決済後、共有持分の移転登記を行う
共有持分のみを買取業者へ売却する方法は、裁判所手続きを経ずに、自分の持分を現金化できる点がメリットです。
一方で、買取業者に共有持分を売却する場合の価格は、「市場価格 × 持分割合 × 1/3〜1/2程度」がひとつの目安となり、不動産全体を売却する場合よりも価格が低くなる傾向にあります。買取業者は取得後に、行方不明者の所在確認や裁判所手続きなどを検討する必要があり、その手間やコストを査定額に反映するためです。
この方法は、価格よりも早く共有関係から離れることを優先したいケースに向いています。たとえば、行方不明の共有者を探す時間がない、裁判所手続きに費用や手間をかけたくない、固定資産税や管理費の負担から早く解放されたい場合です。
一方で、不動産全体の売却を目指せる状況であれば、通常売却や所在等不明共有者持分譲渡制度の方が価格面で有利になる可能性もあります。早期解決を優先するのか、時間をかけて全体売却を目指すのかを比較して判断しましょう。
共有持分の売却については、次の記事でも詳しく解説しています。
行方不明の共有者を探す・所在を確認する方法

共有者が行方不明の場合は、まず現在の所在を確認できないか調べましょう。共有者の所在がわかれば、本人と連絡を取り、同意を得たうえで不動産全体の売却に進める可能性があります。
行方不明の共有者を探す方法としては、主に次のようなものがあります。
- 登記事項証明書で登記上の住所を確認する
- 住民票や戸籍の附票で現在の住所を確認する
ただし、登記事項証明書に記載されている住所が古い場合や、住民票・戸籍の附票を自分で取得できない場合もあります。共有者の所在確認が難しいときや、所在確認後の連絡・交渉まで任せたいときは、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。
登記事項証明書で登記上の住所を確認する
共有者の所在を確認したいときは、まず不動産の登記事項証明書を取得しましょう。登記事項証明書には、不動産の所在地や所有者の氏名、共有者ごとの持分割合、登記上の住所などが記載されています。
登記事項証明書は、共有者本人や利害関係者でなくても取得できます。対象不動産の地番や家屋番号がわかれば、法務局の窓口やオンライン請求などで取得できます。住所と地番は異なる場合があるため、地番がわからないときは、固定資産税の納税通知書や権利証、法務局の地番照会などで確認しましょう。
取得費用は、書面請求の場合は1通600円、オンライン請求で郵送受取をする場合は1通520円、オンライン請求で窓口受取をする場合は1通490円です。
たとえば、兄弟3人で相続した実家の売却を検討しているものの、共有者の一人と連絡が取れない場合、登記事項証明書を確認すれば、その共有者が登記上どの住所で記録されているかを確認できます。登記上の住所に手紙を送ったり、過去の連絡先と照合したりすることで、連絡の糸口が見つかることがあります。
ただし、登記上の住所が現在の住所とは限りません。共有者が引っ越した後に住所変更登記をしていない場合、登記事項証明書には古い住所が残っていることがあります。実務上も、登記上の住所に書面を送っても戻ってきてしまい、そこから住民票や戸籍の附票による調査が必要になるケースがあります。
住民票や戸籍の附票で現在の住所を確認する
登記事項証明書に記載された住所で連絡が取れない場合は、住民票や戸籍の附票を確認する方法があります。
住民票では現在の住所や前住所を確認でき、過去の住所地の住民票の除票をたどることで、住所の移転履歴を確認できる場合があります。また、戸籍の附票には、その戸籍が作られてから除籍されるまでの住所履歴が記録されています。
そのため、共有者が登記上の住所から転居している場合でも、これらの書類を確認することで、現在の住所をたどれる可能性があります。
ただし、共有名義不動産を売却したいといった私的な理由だけでは、第三者である他の共有者が住民票や戸籍の附票を取得できないのが通常です。第三者請求では、自己の権利行使や義務履行のために必要であることなど、正当な理由や疎明資料を求められます。
実務上は、共有物分割請求などの法的手続きを見据えたうえで、弁護士や司法書士などの専門家に依頼し、職務上請求として合法的に所在調査を進めてもらう方法が一般的です。
たとえば、共有者として不動産の売却協議を進めたいだけでは、役所での第三者請求が認められにくい場合があります。一方で、共有物分割請求や不在者財産管理人の申立てなど、法的手続きの準備として必要性を説明できる場合は、専門家に相談することで調査を進めやすくなります。
自分で調査するのが難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談する方法もあります。所在確認後の連絡や売却条件の交渉まで任せたい場合は、弁護士への相談を検討しましょう。
なお、所在を確認できても、共有者が売却に同意するとは限りません。住所を調べる段階から、連絡が取れた後の話し合い方や、売却方針をどう整理するかまで考えておくことが大切です。
所在等不明共有者持分取得・譲渡制度を利用する流れ

共有者の所在を確認しても連絡が取れない場合は、所在等不明共有者持分取得制度や所在等不明共有者持分譲渡制度の利用を検討できることがあります。
- 所在等不明共有者持分取得制度:行方不明の共有者の持分を他の共有者が取得し、共有関係を整理する制度
- 所在等不明共有者持分譲渡制度:行方不明の共有者の持分も含めて、不動産全体を第三者に譲渡するための制度
どちらも裁判所の関与が必要で、申立てをすれば自動的に認められるわけではありません。所在等が不明であることを示す資料や、不動産の評価資料、他の共有者との関係を整理する資料などを準備する必要があります。
手続きの大まかな流れは、次のとおりです。
- 不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる
- 裁判所による公告・通知が行われる
- 裁判所が定めた供託金を納付する
- 裁判の確定後に持分移転登記や第三者への譲渡を進める
手続きの流れは似ていますが、取得制度と譲渡制度では目指すゴールが異なります。行方不明者の持分を取得してから売却・活用を検討したいのか、買主を見つけて不動産全体を売却したいのかを整理したうえで進めましょう。
不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立てる
所在等不明共有者持分取得制度や所在等不明共有者持分譲渡制度を利用するには、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申立てを行います。
申立てにあたっては、申立書のほか、所在等不明であることを示す資料や、不動産の評価に関する資料などを準備します。必要書類は事案や申立先の裁判所によって異なるため、実際に手続きを進める際は、裁判所や弁護士に確認しましょう。
- 申立書(所在等不明共有者持分取得決定申立書、所在等不明共有者持分譲渡権限付与決定申立書)
- 不動産の登記事項証明書
- 固定資産評価証明書
- 不動産会社の査定書、不動産鑑定士による評価書など、不動産の評価に関する資料
- 共有者の所在を調査した資料
- 他の共有者との協議状況がわかる資料
- 譲渡制度を利用する場合は、売却予定先や売却条件に関する資料
たとえば、登記上の住所に書面を送ったものの返送された記録や、住民票・戸籍の附票を調査しても所在確認が難しかった資料などは、所在等不明であることを示す資料になります。単に「連絡が取れない」と説明するだけでなく、どのような調査を行ったのかを資料で示せるようにしておくことが重要です。
申立てには、収入印紙、官報公告費用の予納金、郵便切手などの費用もかかります。所在不明の共有者1人・対象持分1つのシンプルなケースでは、申立て時点で裁判所に納める実費は、おおむね1万5,000円前後からが目安です。
申立手数料:
・所在等不明共有者持分取得制度:収入印紙1,000円 × 申立て対象となる持分の数 × 申立人の数
・所在等不明共有者持分譲渡制度:収入印紙1,000円 × 申立て対象となる持分の数
官報公告費用の予納金:7,134円〜
郵便切手:6,000円分
※共有者など通知対象となる関係者が1名増えるごとに、郵便切手が追加される場合があります。
上記は申立て時に裁判所へ納める費用の目安であり、所在等不明共有者の持分の対価として納める供託金は別途必要です。
取得制度の場合は、申立人が行方不明の共有者の持分を取得することを目指します。一方、譲渡制度の場合は、行方不明の共有者以外の共有者全員が、自分の持分も含めて第三者へ譲渡することが前提になります。
そのため、譲渡制度を利用する場合は、申立て前の段階で買主候補や売却条件を具体的に整理しておく必要があります。「裁判所の判断が出てから買主を探せばよい」と考えていると、制度利用の前提を満たせないおそれがあります。
参考:裁判所「所在等不明共有者持分取得申立てについて」
参考:裁判所「所在等不明共有者持分譲渡の権限付与の申立てについて」
裁判所による公告・通知が行われる
申立てが受理されると、裁判所による公告が行われます。公告では「所在等不明共有者の持分取得または持分譲渡に関する申立てがあったこと」「異議がある場合は一定期間内に届出ができること」「届出がない場合は持分取得や譲渡権限付与の裁判がされること」などが示されます。
公告期間は、所在等不明共有者や他の利害関係人に異議を述べる機会を確保するためのものです。非訟事件手続法では、この期間は少なくとも3ヵ月必要とされています。そのため、申立てをしてすぐに持分取得や譲渡が認められるわけではありません。
また、裁判所が公告をしたときは、登記簿上で氏名や名称が判明している共有者に対して通知が行われます。この通知は、登記簿上の住所や事務所に宛てて発送すれば足りるとされています。
行方不明とはいえ、共有持分はその人の財産です。そのため、裁判所は公告や通知を通じて、権利を失う可能性のある人や利害関係人に異議を述べる機会を与えます。
「所在等不明共有者の持分の取得」
裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。
裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。
e-Gov法令検索 非訟事件手続法 第87条 2項・3項
実務上は、公告期間中に所在等不明共有者本人や利害関係人から異議が出る可能性もあります。たとえば、行方不明だと思っていた共有者本人から連絡が入った場合は、申立てどおりに手続きが進まないこともあるため、裁判所の判断を待つ必要があります。
裁判所が定めた供託金を納付する
公告期間が経過し、裁判所が持分取得や譲渡権限付与を認める方向で進める場合、申立人は裁判所が定めた金額を法務局などの供託所に預ける必要があります。
供託金とは、所在等不明共有者が本来受け取るべき金銭を確保するためのお金です。行方不明の共有者本人に直接支払えないため、申立人がいったん供託所に預けておき、所在等不明共有者が後から請求できるようにする仕組みです。
たとえば、持分取得制度では、他の共有者が行方不明者の持分を取得するため、その対価にあたる金額を供託します。譲渡制度では、行方不明者の持分も含めて不動産全体を第三者へ売却するため、行方不明者が受け取るはずの持分相当額を、売却前に供託しておく必要があります。
供託金の額は、裁判所が不動産の評価資料などをもとに判断します。不動産会社の査定書や不動産鑑定士の評価書などが参考にされることがありますが、必ず不動産鑑定士の評価書が必要と決まっているわけではありません。どの資料を用意すべきかは、申立ての内容や不動産の状況によって異なります。
ただし、申立人側の希望額や不動産会社の査定額がそのまま認められるとは限りません。裁判所が供託金をどのように判断するかは、提出資料や事案によって異なるため、申立て前に弁護士や不動産評価に詳しい専門家へ相談し、必要な資料を整えておくとよいでしょう。
共有持分の評価額の算定方法については、次の記事でも詳しく解説しています。
裁判の確定後に持分移転登記や第三者への譲渡を進める
供託金を納付し、裁判が確定すると、取得制度では申立人が所在等不明共有者の持分を取得できます。その後、裁判所から交付された書類などをもとに、持分移転登記を行います。
一方、譲渡制度では、裁判が確定しただけで所在等不明共有者の名義が自動的に買主へ移るわけではありません。裁判によって、申立人に所在等不明共有者の持分を第三者へ譲渡する権限が付与されます。
ただし、譲渡制度を利用する場合は、申立ての段階で「誰に・いくらで売却するか」を具体的に示す必要があります。売買契約書の案など、売却先や売却条件がわかる資料の提出を求められるのが一般的です。
つまり、裁判が確定してから買主を探すのではなく、申立て前に買主候補と売却条件を固めておく必要があります。確実に買い取ってくれる第三者が見つかっていない場合は、譲渡制度ではなく、取得制度や不在者財産管理人制度など別の方法を検討することになります。
また、裁判の効力が生じた後、原則として2ヵ月以内に第三者への譲渡の効力が生じないと、その裁判は効力を失います。そのため、裁判確定後に速やかに売買契約や登記手続きへ進められるよう、事前準備を整えておくことが重要です。
「所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与」
所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。
e-Gov法令検索 非訟事件手続法第88条3項
取得制度と譲渡制度では、裁判の確定後に必要な対応が異なります。取得制度では持分を取得したうえで登記を進めますが、譲渡制度では期限内に第三者への譲渡を成立させる必要があります。
実務上は、売買契約、代金決済、登記に必要な書類の確認を短期間で進めることになります。書類の不備や共有者間の認識違いがあると期限内に手続きが進まないおそれがあります。
そのため、譲渡制度を利用する場合は、申立てや法的判断は弁護士、登記手続きは司法書士、売却条件や買主候補の調整は不動産会社に相談するなど、役割を分けて早めに準備しておくことが大切です。
共有者が行方不明の不動産売却は誰に相談すべき?
共有者が行方不明の不動産売却では、状況によって、共有者の所在確認や交渉、権利関係の整理、裁判所手続きが必要になります。そのため、すべてを一人で判断しながら進めるのは簡単ではありません。
売却手続きをスムーズに進めたい、手間や時間をかけられないといった場合は、次のような各専門家の力を借りるのも手です。
- 共有者との交渉や裁判所手続き:弁護士
- 登記や相続関係の確認:司法書士
- 共有持分の査定や売却相談:不動産会社・買取業者
それぞれ対応できる範囲が異なるため、まずは「何に困っているのか」を整理したうえで相談先を選びましょう。
共有者との交渉や裁判所手続きは弁護士に相談する
弁護士に依頼すれば、受任した手続きに必要な範囲での所在調査、売却の同意を得るための交渉、裁判所への申立てなどを任せられます。
次のようなケースでは、弁護士への相談を検討するとよいでしょう。
- 行方不明の共有者の所在を確認し、売却の同意を得るための交渉を依頼したい場合
- 所在等不明共有者持分譲渡制度や所在等不明共有者持分取得制度の利用を検討している場合
- 不在者財産管理人制度を利用して、不在者財産管理人の選任や不動産売却に必要な家庭裁判所の許可を検討したい場合
- 長期間生死がわからない共有者について、失踪宣告の申立てを検討したい場合
共有者が行方不明の場合、所在を調査して本人から売却の同意を得る方法もあれば、所在がわからないことを前提に裁判所手続きを検討する方法もあります。どの方法が適しているかは、共有者の所在確認の状況や、不動産全体を売却したいのか、行方不明者の持分を取得したいのかによって異なるため、弁護士に相談しながら判断するとよいでしょう。
また、登記上の住所や氏名が現在の内容と異なる場合は、売却前に住所変更登記や氏名変更登記が必要になるのが通常です。登記上の情報と印鑑証明書などの本人確認書類の内容が一致しないと、売却時の登記手続きが進まない可能性があるためです。
なお、不動産会社や買取業者は、共有者との法的な交渉代理や裁判所手続きの代理はできません。共有者との交渉や法的手続きが必要な場合は、弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談するメリットについては、次の記事も参考にしてみてください。
登記や相続関係の確認は司法書士に相談する
登記名義や相続関係の確認が必要な場合は、司法書士へ相談しましょう。
次のようなケースでは、司法書士のサポートを受けると手続きがスムーズに進みます。
- 不動産の名義が亡くなった人のままになっている場合
- 現在の共有者や持分割合を把握できていない場合
- 登記上の住所や氏名が現在の内容と異なる場合
不動産の名義が亡くなった人のままになっている場合、その人の持分は相続人に引き継がれています。そのため、不動産全体を売却するには、相続人を確認したうえで相続登記を行い、現在の権利関係に合わせた名義にしておく必要があります。
なお、相続が何代にもわたっている場合は、共有者の人数が増え、誰がどの持分を持っているのかを把握できていないケースもあります。そのような場合は、司法書士に相談し、戸籍関係の書類や登記内容をもとに、現在の名義・相続関係の整理を進める方法があります。
また、登記上の住所や氏名が現在の内容と異なる場合は、売却前に住所変更登記や氏名変更登記が必要になります。登記上の情報と印鑑証明書などの本人確認書類の内容が一致しないと、売却時の登記手続きが進まないためです。
住所変更登記や氏名変更登記は自分で申請できるケースもありますが、住所移転が複数回ある、旧姓のままになっている、相続登記とあわせて手続きが必要になるといった場合は、手続きが煩雑になるため、司法書士に依頼することも検討しましょう。
もっとも、共有者との交渉や紛争性のある対応は、司法書士だけで対応できない場合があります。登記や相続関係の整理は司法書士、交渉や裁判所手続きは弁護士というように、相談内容に応じて使い分けましょう。
共有持分の査定や売却相談は不動産会社・買取業者に相談する
不動産の査定額や売却方法を知りたい場合は、共有名義不動産や共有持分の取り扱いに対応している不動産会社・買取業者へ相談しましょう。
たとえば、次のような相談ができます。
- 行方不明の共有者がいる状態で、不動産全体を売却する場合の価格感や進め方を知りたい場合
- 不動産全体を売却した場合の価格を知りたい場合
- 行方不明の共有者がいる状態で、自分の共有持分だけ売却できるか知りたい場合
- 共有持分のみを売却した場合の価格を知りたい場合
ただし、不動産会社によっては、共有名義不動産や行方不明の共有者がいる不動産に対応できない場合もあります。
一般的な仲介会社では、共有者全員の同意を得て不動産全体を売却するケースを前提にしていることが多く、共有者の所在がわからない状態では、買主探しの前に売却権限や登記手続きの問題で止まってしまうことがあります。
一方で、所在確認や裁判所手続きによって不動産全体を売却できる見込みがある場合や、共有名義不動産の取り扱い実績がある仲介会社であれば、全体売却について相談できることもあります。相談前に、共有名義や所在不明の共有者がいる不動産に対応できるか確認しておくとよいでしょう。
共有名義不動産の買取に対応している買取業者であれば、不動産全体を売却した場合の見込み価格、自分の共有持分のみを売却した場合の査定額、売却までに想定される実務上のハードルなどを相談できます。/span>
ただし、法的手続きの利用可否や申立ての判断は、弁護士などの専門家に確認が必要です。買取業者には、価格面・売却方法・専門家連携の面から相談するとよいでしょう。
弁護士や司法書士と連携している買取業者であれば、法的手続きや登記手続きは各専門家に確認しながら、査定や売却条件の検討を並行して進めやすくなります。
たとえば、弁護士が所在等不明共有者持分譲渡制度などの利用可否を確認し、必要な手続きを踏んだうえで、不動産全体の売却・買取が可能かを買取業者が検討する流れも考えられます。
弊社でも、行方不明の共有者がいる不動産の買取相談を受けることがあります。その際は、不動産全体を売却した場合の見込み価格と、相談者様の共有持分のみを売却した場合の査定額を比較し、どちらの方向で進めるかを検討することもあります。
共有持分の価格は、物件そのものの価値だけでなく、共有者の所在確認の状況、他の共有者の居住・使用状況、相続登記の有無、取得後に必要となる調整の負担などによって変動します。先に査定額を確認しておくことで、不動産全体の売却を目指すか、自分の共有持分だけを売却するかを判断しやすくなるでしょう。
共有者が行方不明のまま共有名義不動産を放置するリスク

共有名義不動産は、複数人で1つの不動産を所有するため、売却や管理、費用負担などについて共有者全員の足並みがそろわないと手続きが進みにくく、トラブルに発展することがあります。
共有者が行方不明の場合はさらに複雑です。売却の同意を得られないだけでなく、所在のわかる共有者に管理や費用の負担が偏ったり、相続によって権利関係が複雑になったりするおそれがあります。
具体的なリスクは次のとおりです。
- 共有名義不動産全体の売却を通常どおり進められない
- 固定資産税や維持管理費の負担が所在のわかる共有者に偏りやすい
- 相続が発生すると共有者が増えて権利関係が複雑になる
- 空き家の場合は管理不全空家等・特定空家等に指定される可能性がある
共有名義不動産全体の売却を通常どおり進められない
共有名義不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。不動産全体の売却は共有物全体を処分する行為にあたるため、共有者のうち一人でも同意を確認できない場合、通常の売却手続きは進められません。
民法251条でも、共有物に変更を加えるには、原則として他の共有者の同意が必要とされています。
「共有物の変更」
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条
そのため、共有者のうち一人でも行方不明になると、本人の同意を確認できず、不動産全体の売却が止まってしまうおそれがあります。
弊社に寄せられた相談でも、次のような事例があります。
相続をきっかけに、兄弟3人で地方の戸建てを共有していた事例です。建物は空き家の状態で、所在がわかっている兄弟2人は早期売却を希望していましたが、残り1人とは長年連絡が取れず、売却の同意を得られない状態でした。
仲介会社にも相談していましたが、共有者全員の同意がそろわないため、不動産全体の売却活動に進めませんでした。その間も固定資産税や草木の管理費用は発生し、所在がわかっている共有者だけで負担し続ける状況となっていました。
最終的には、弁護士などの専門家に相談すべき事項も含めて整理し、不動産全体を売却する方法と、共有持分のみを売却する方法を比較する形で検討を進めました。
このように、行方不明の共有者がいる場合は、売却したい人がいても、通常の方法では不動産全体の売却を進めにくくなります。
所在等不明共有者持分譲渡制度や不在者財産管理人制度など、一定の要件を満たせば裁判所手続きを利用できる場合もあります。ただし、申立てや資料準備、供託、許可取得などに時間や費用がかかることもあるため、早めに売却方法を整理しておくことが大切です。
共有名義不動産が売却できないときの対処については、次の記事でも詳しく解説しています。
固定資産税や維持管理費の負担が所在のわかる共有者に偏りやすい
不動産を所有する限り、固定資産税・都市計画税のほか、建物の修繕費、庭木の手入れ費用、空き家の見回り費用、マンションの管理費・修繕積立金などが継続的に発生します。
固定資産税については、自治体との関係では共有者全員が連帯して納税義務を負います。一方、共有者間の内部負担としては、共有物に関する管理費用や負担を持分割合に応じて分担するのが原則です。
共有者間の負担について、民法253条でも次のように定められています。
「共有物に関する負担」
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
e-Gov法令検索 民法第253条
しかし、行方不明の共有者がいる場合は、固定資産税や維持管理費の実質的な負担が、所在のわかる共有者に偏りやすくなります。共有者の所在がわからないと、費用分担について話し合ったり、立て替えた費用を精算したりすることが難しくなるためです。
とはいえ、固定資産税の納付や最低限の管理を放置できないため、実務上は、所在のわかる共有者がいったん負担せざるを得ないケースもあります。
前述の弊社の問い合わせ理由データでも、固定資産税や維持管理費の負担を理由とする相談は全体の15%にのぼります。共有者が行方不明の場合に限った数字ではありませんが、共有名義不動産では費用負担が現実的な悩みになりやすいことがうかがえます。
弊社に寄せられた相談でも、次のような事例があります。
相続をきっかけに、兄弟3人で空き家となった実家を共有していた事例です。共有者の一人とは長年連絡が取れず、売却の同意だけでなく、固定資産税や草木の管理費用の分担についても話し合えない状態でした。
固定資産税の納税通知書は、共有者の代表者として所在のわかる兄弟のもとに届いていたため、その共有者がいったん固定資産税を立て替えていました。さらに、近隣から草木の越境や建物の老朽化を指摘され、伐採費用や簡易な修繕費も負担することになりました。
所在のわかる共有者は、不動産を所有し続けること自体に負担を感じており、早期に手放したいという希望がありました。そのため、最終的には不動産全体の売却ではなく、自分の共有持分のみを売却する方向で検討が進みました。
このように、行方不明の共有者がいると、不動産の売却や処分が進まないだけでなく、所在のわかる共有者に金銭的・時間的な負担が集中しやすくなります。固定資産税や維持管理費の負担が続いている場合は、放置せず、所在確認や共有持分の売却なども含めて早めに対応を検討しましょう。
相続によって権利関係がさらに複雑になることがある
共有者が亡くなった場合、その人が所有していた共有持分は相続財産になります。民法898条でも、相続人が数人いる場合の相続財産について、次のように定められています。
「共同相続の効力」
相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。
e-Gov法令検索 民法第898条
行方不明の共有者が亡くなって相続が発生すると、共有持分が相続人に引き継がれ、権利関係がさらに複雑になるおそれがあります。登記上は従前の共有者のままになっていても、実体上はその相続人が関係者になるため、売却や管理について誰の同意が必要なのかを確認するだけでも時間がかかることがあります。
とくに、行方不明の共有者がすでに亡くなっている場合、相続によって新たな共有者が生じ、売却協議の相手が増えているケースもあります。共有者が増えるほど、全員の所在確認や意思確認に時間がかかり、不動産全体の売却や維持管理に関する協議も進めにくくなります。
弊社に寄せられた相談でも、次のような事例があります。
親の相続をきっかけに、兄弟3人で地方の土地建物を共有していた事例です。兄弟のうち1人とは長年連絡が取れず、所在がわかっている兄弟2人は不動産全体の売却を希望していましたが、売却の同意を得られないまま時間が経過していました。
その後、所在がわからない共有者がすでに亡くなっていたことが判明し、その配偶者や子どもが持分を承継する可能性が出てきました。その結果、不動産全体を売却するには、行方不明だった共有者本人ではなく、その相続人の範囲や所在を確認する必要が生じました。
不動産自体は使われていなかったものの、固定資産税や管理の負担は続いていたため、全体売却に必要な調査や協議を続けるか、所在がわかっている兄弟2人の共有持分のみを売却するかを比較して検討しました。最終的には、早く共有関係から離れることを優先し、連絡が取れる兄弟2人の共有持分を売却する方向で話が進みました。
このように、共有者が行方不明のまま放置すると、相続によって関係者が増え、売却や管理の話し合いがさらに難しくなることがあります。すでに共有者と連絡が取れない場合は、相続関係がさらに複雑になる前に、所在確認や相続人調査、売却方法の整理を進めておくことが大切です。
空き家の場合は管理不全空家等・特定空家等に指定される可能性がある
共有名義不動産が空き家のまま放置されると、管理不全空家等や特定空家等として扱われ、固定資産税等の住宅用地特例の解除や行政指導につながるおそれがあります。
管理不全空家等・特定空家等とは、適切に管理されておらず、周辺の生活環境に悪影響を及ぼすおそれがある空き家のことです。
- 管理不全空家等:適切な管理が行われていないことにより、そのまま放置すれば特定空家等に該当するおそれがある空き家
- 特定空家等:建物の倒壊、悪臭や害虫の発生、景観の悪化などにより、周辺に迷惑や危険を及ぼすおそれがある空き家
空家等対策の推進に関する特別措置法では、特定空家等について次のように定められています。
「定義」
この法律において「特定空家等」とは、そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態、適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等をいう。
e-Gov法令検索 空家等対策の推進に関する特別措置法第2条
2023年の法改正により、特定空家等になる前段階の「管理不全空家等」についても、行政による指導・勧告の対象になりました。つまり、倒壊の危険があるほど状態が悪化していなくても、管理が不十分な状態で放置されている空き家は、市区町村から改善を求められる可能性があります。
管理不全空家等や特定空家等について市区町村から勧告を受けると、その敷地に適用されていた固定資産税等の住宅用地特例を受けられなくなる場合があります。
たとえば、小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が6分の1に軽減されていますが、勧告によってこの特例の対象外になると、土地の固定資産税負担が大きく増える可能性があります。
さらに、特定空家等に指定された後、行政からの命令に従わない場合は、50万円以下の過料の対象になることがあります。所有者が必要な対応をしない場合、最終的には行政代執行によって市区町村が解体などを行い、その費用を所有者に請求される可能性もあります。
なお、50万円以下の過料の対象になるのは、主に特定空家等について市区町村の命令に従わない場合です。管理不全空家等については、指導・勧告の対象となり、勧告を受けると住宅用地特例が解除される可能性があります。
共有者が行方不明の場合、空き家の管理状態が悪化しても、修繕・伐採・解体・売却などの方針を共有者間で話し合うことが難しくなります。費用を誰が負担するのか、どこまで対応するのかを決められないまま時間が経過し、結果として、管理不全空家等や特定空家等として扱われかねない状態まで悪化してしまうこともあります。
たとえば、次のようなケースが想定されます。
その間に、屋根や外壁の一部が傷んだり、庭木が隣地や道路にはみ出したりすると、近隣から苦情が入る可能性があります。すぐに修繕や伐採をしたくても、費用負担や処分方針について共有者全員で協議できず、対応が遅れてしまうことがあります。
このように、共有者が行方不明の空き家を放置すると、売却が進まないだけでなく、行政指導や固定資産税の負担増加といった問題に発展するおそれがあります。管理不全空家等や特定空家等に指定される前に、所在確認や売却方法、解体・管理費用の負担方法を早めに整理しておくことが大切です。
共有名義不動産のトラブルについては、次の記事でも詳しく解説しています。
まとめ
共有者が行方不明の場合でも、まずは登記事項証明書で登記上の住所を確認し、必要に応じて住民票や戸籍の附票などから所在を調査できるか検討することが大切です。所在が判明し、共有者本人から同意を得られれば、共有者全員の合意によって不動産全体の売却を進められます。
一方で、調査しても共有者の所在がわからない場合は、売却したい範囲や共有者の状況に応じて、所在等不明共有者持分譲渡制度や所在等不明共有者持分取得制度、不在者財産管理人制度などを専門家に確認しながら検討します。
また、不動産全体の売却が難しい場合でも、自分の共有持分のみであれば、他の共有者の同意を得ずに売却できます。不動産全体の売却にこだわらず、早期の現金化や共有関係から離れることを優先したい場合は、共有持分の買取に対応している不動産会社へ相談することも選択肢です。
まずは所在調査の結果と売却したい範囲を整理し、不動産全体を売却したいのか、自分の共有持分だけを売却したいのかに応じて、弁護士・司法書士・不動産会社へ相談しましょう。
よくある質問
共有者の住所はわかるものの連絡が取れない場合も、所在等不明共有者として扱えますか?
制度上は、住所が判明しているものの、電話やメールに応じないだけの場合は、所在等不明共有者として扱えるとは限りません。所在そのものが確認できないケースと、所在はわかっているものの協議に応じてもらえないケースは分けて考える必要があります。
所在等不明共有者持分取得制度や所在等不明共有者持分譲渡制度は、共有者が誰なのかわからない場合や、共有者の所在を調べてもわからない場合に利用を検討する制度です。
そのため、住民票や戸籍の附票などで現在の住所を確認できている場合は、「所在がわからない」というよりも、「連絡が取れない」「売却の同意を得られない」状態として整理した方がよいでしょう。
一方で、登記上の住所しかわからず郵便物が戻ってくる、住所地に住んでいる実態がない、住民票や戸籍の附票をたどっても現在の所在がわからないといった場合は、所在等不明共有者として裁判所手続きを検討できる余地があります。
共有者と連絡が取れず売却を進められない場合は、現在の住所を確認できているのか、所在そのものがわからないのかを整理したうえで、弁護士や司法書士に相談しましょう。
行方不明の共有者の家族や親族の同意があれば売却できますか?
行方不明の共有者の家族や親族から同意をもらっても、それだけで共有名義不動産全体を売却することはできません。
そのため、行方不明の共有者がいる状態で不動産全体を売却したい場合は、親族の同意だけで進めようとせず、不在者財産管理人制度や所在等不明共有者持分譲渡制度など、裁判所手続きの利用可否を弁護士に確認する必要があります。
なお、本人が有効に代理権を与えており、本人の意思確認や本人確認ができる場合は、親族が代理人として売却手続きに関与できる可能性があります。
ただし、古い委任状があるだけでは、現在も本人の意思に基づく代理権があると確認できない場合もあります。不動産売却や登記手続きでは、本人確認や意思確認が重視されるため、事前に不動産会社・司法書士・弁護士へ確認しましょう。
また、自分の共有持分だけであれば、行方不明の共有者やその親族の同意がなくても売却できます。

