共有持分の占有者に明け渡し請求は難しい|できるケースや対処法を解説

共有持分を占有者に明け渡し請求は難しい|できるケースや対処法を解説

共有不動産を占有されている場合、占有者に対して立ち退きを求める明け渡し請求を検討される方もいらっしゃるでしょう。

しかし占有者にも不動産を使用する権利があるため、一般的に共有物の占有に対して明け渡し請求は認められにくいのが実情です。

ただし、以下のようなケースでは占有者への明け渡し請求が認めらる可能性があります。

  • 共有者間での話し合いで決まった方法と異なる使用方法をしているケース
  • 共有物の使用方法に関する協議を拒否し続けているケース
  • 共有の土地に勝手に建物を建てようとしているケース
  • 強引に共有物の占有を続けているケース

さらに民法改正により、すでに共有物を占有している人に対して退去を促すことに共有持分の過半数が合意した場合、占有者は退去しなければならなくなったため、明け渡し請求が認められる場面が増えました。したがって、占有者に対して明け渡し請求をしたい共有者が多い状況であれば、正しい手順を踏めば明け渡し請求が認められる可能性もあります

一方、共有物の占有に対して明け渡し請求が認められないこともあるため、明け渡し請求の代替手段を検討しておくことも必要です。具体的には、以下のような方法が考えられます。

  • 共有物の使用方法についての協議を求める
  • 占有者に対して賃料請求を行う
  • 自己持分を共有物の占有者に売却する
  • 自己持分を共有持分専門買取業者に売却する
  • 共有物分割請求を行う

中でも、自己持分の売却は他の共有者への同意が不要であり、他の共有者と話し合う必要がありません。特に、共有持分専門買取業者は価格さえ合意すればすぐに買い取ってくれるため、共有関係を早く解消したい人におすすめの方法です。

本記事では、共有物の明け渡し請求が認められにくい理由と、明け渡し請求が認められるケース、共有物を占有されている場合に明け渡し請求のほかにできる対処法について解説します。共有物の占有でお困りの方はぜひ最後までお読みください。

共有物の明け渡し請求が認められにくいのは占有者も不動産使用の権利を持っているから

共有物の明け渡し請求が認められにくいのは、占有者も不動産を使用する権利を持っているからです。

というのも、民法249条によれば、不動産の共有者は、各々の持分割合に応じて共有物を使用できる権利を持っています。

(共有物の使用)
第二百四十九条 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

最高裁判例でも、次のように判断が下されています。

共有物の持分の価格が過半数をこえる者は、共有物を単独で占有する他の共有者に対し、当然には、その占有する共有物の明渡を請求することができない。
(引用:裁判例結果詳細「最高裁判所第一小法廷判決 昭和41年5月19日」裁判要旨|裁判所

持分割合の過半数が共有持分の占有に反対していた場合でも、共有物の明け渡し請求が認められにくいのです。

共有物の明け渡し請求が認められるケース

共有物の明け渡し請求が認められるケースとして、次の4つのケースが挙げられます。

  • 共有者間での話し合いで決まった方法と異なる使用方法をしているケース
  • 共有物の使用方法に関する協議を拒否し続けているケース
  • 共有の土地に勝手に建物を建てようとしているケース
  • 強引に共有物の占有を続けているケース

それぞれのケースの詳細について、以下で見ていきましょう。

共有者間での話し合いで決まった方法と異なる使用方法をしているケース

1つ目のケースは、共有者間での話し合いで決まった方法と異なる使用方法を使用しているケースです。共有者間で決まった共有名義不動産の使い方について、共有物の占有者が話し合いでの合意を受け入れることなく、話し合いとは異なる使用方法をしている場合があります。具体的には、話し合いで賃貸物件として活用する旨が決まったものの、共有者の1人が自身の自宅として使用している場合などが当てはまります。このように、話し合いの内容とは異なる使用方法をしているケースでは、共有物の明け渡し請求が認められる可能性があります。

共有物の使用方法に関する協議を拒否し続けているケース

2つ目のケースは、共有物の使用方法に関する協議を拒否し続けているケースです。「まずは共有物の使用方法についての協議を求める」で詳しく解説するとおり、共有物の使用方法は、共有者の協議を経て持分割合の過半数が同意することで決定されます。そのため、占有者が持分割合の過半数を持っていない場合に、他の共有者が占有に反対すると、占有が認められなくなってしまいます。そこで、占有者が協議自体を拒否し「協議が行われていない」ことを理由に、占有を続けようとする可能性があるのです。

しかし、このように協議を拒否することは認められません。そのため、使用方法についての議論を行い、持分割合の過半数が共有物の明け渡しに同意すれば、共有物の明け渡し請求が認められるのです。

共有の土地に勝手に建物を建てようとしているケース

3つ目のケースは、共有の土地に勝手に建物を建てようとしているケースです。共有の土地に建物を立てる行為は「共有物の変更行為」にあたります。共有物の変更行為をするためには、他の共有者全員の同意を得なければなりません

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない

勝手に建物を建てようとする行為は法律違反となるため、建築工事の差し止め請求と原状回復請求が認められやすく、すでに建築が始まっていた場合は建物を撤去できるのです。

ただし、建築工事の差し止め請求と原状回復請求は、どんな場合にも認められるわけではありません。平成12年に出された判例では次のような判断がなされました。

<訴訟の概要>
相続した共有の土地に、共有者の一人が勝手に建てた建物の明け渡し請求などを提起した。<判決>
共有の土地に建てた建物の収去と建物敷地部分の明け渡しは認められない
一方、共有物の占有者に対して、持分割合に応じた賃料相当額の不当利得金・損害賠償金の請求が認められた
(参考:裁判例結果詳細「最高裁判所第二小法廷判決  平成12年4月7日」|裁判所

すでに建築が完了している建物に対して、建物の明け渡し等を求めた事例ですが、すでに建築が完了してしまった場合には建物等の明け渡し請求は認められませんでした。すなわち、建築工事の差し止め請求と原状回復請求が認められるのは、建築途中の建物のみである可能性が高いと言えるでしょう。

強引に共有物の占有を続けているケース

4つ目のケースは、共有持分権の濫用に該当するケースです。共有持分権の濫用に該当するケースの具体例として、以下のような状態が挙げられます。

  • 他の共有者からの反対を無視して、強引に共有物に入居する
  • 同居している他の共有者の生活用品などを勝手に家から出す
  • 同居している他の共有者に知らせず、鍵を勝手に変えて、他の共有者が帰宅できないようにする
  • 他の共有者が自宅に入れないようにするために、バリケードを設置する

このような手段で共有物の占有を続ける場合には、共有持分権の濫用に該当し、共有物の明け渡し請求が認められやすいのです。

占有状態を放置するリスクや起こりえるトラブル

共有者の一人が共有不動産を占有している状態を放置することは、以下のようなリスクやトラブルが起こりえるため、好ましくありません。

  • 共有持分の占有者が他の共有者に対して持分割合に応じた賃料を支払わない
  • 共有不動産を使用していない共有者が管理費用・税金の負担を拒む
  • 長期間の占有により取得時効が認められて占有権が占有者に取られる

それぞれのリスクやトラブルについて、以下で解説します。

共有持分の占有者が他の共有者に対して持分割合に応じた賃料を支払わない

共有物の占有者は他の共有者に、持分割合に応じた賃料を支払わなければなりません。しかし、勝手に共有物を占有している場合、賃料が支払われていないケースがほとんどです。家賃の支払いを拒む占有者と、家賃の支払いを求める他の共有者との間で意見が折り合わず、トラブルに発展してしまうことがあるでしょう。

共有不動産を使用していない共有者が管理費用・税金の負担を拒む

共有不動産にかかる管理費用や税金の負担は、すべての共有者が持分割合に応じて負担する必要があります。しかし、共有不動産を使用していない共有者からすれば、使用していない不動産の管理費用や税金を負担しなければならないことに納得し難いでしょう。このように、管理費用・税金を他の共有者にも負担してほしい占有者と、管理費用・税金を負担したくないとの間で意見が合わず、この点でもトラブルに発展してしまうことがあるでしょう。

長期間の占有により取得時効が認められて占有権が占有者に取られる

勝手に共有物を占有している場合でも、大きなトラブルなく長期間占有していると、取得時効が認められて、占有権が占有者に取られてしまう可能性があるのです。取得時効は民法162条で次のように定められています。

(所有権の取得時効)
第百六十二条 二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

「不動産を所有する意思がある」「平穏かつ公然と占有している」という2つの条件を満たせば、20年間占有を続けることにより取得時効が認められます。加えて、占有を開始した時に共有不動産が自分の物であると信じており、占有している不動産が共有物であることを善意無過失である場合には、10年間の占有で取得時効が認められるのです。

善意無過失:ある事象について知らないことに対して、本人に落ち度がない状態

共有物の占有状態を解消するのが困難な場合などで、共有物の占有にアクションを起こさなければ、占有者は平穏に、かつ、公然と占有できていると判断されてしまう可能性があります。そのため、共有状態の解消が困難だと思われても、共有状態の解消を諦めるのではなく、共有物の解消に向けてアクションを起こし続けなければなりません。10年経過した後ではすでに遅い場合も少なくないため、なるべく早めに解決に向けて行動する必要があるのです。

共有物の占有に対してできる対処

共有物の占有を放置しないためにできる対処として、以下の5つが挙げられます。

  • まずは共有物の使用方法についての協議を求める
  • 占有者に対して賃料請求を行う
  • 自己持分を共有物の占有者に売却する
  • 自己持分を共有持分専門買取業者に売却する
  • 共有物分割請求を行う

共有物の占有によるトラブルを防ぐために、ぜひ参考にしてみてください。

まずは共有物の使用方法についての協議を求める

共有物の使用方法を決めていない状態で共有物を占有されてしまった場合、まずは共有物の使用方法についての協議を求めてみましょう。そもそも、共有物は勝手に使用することができず、持分割合の過半数の合意を得なければならないと規定されています。(民法252条1項より)そのため、共有物の使用について協議を行い、持分割合の過半数が共有持分の占有に反対している場合には、共有物の占有は認められないのです。

それでも、従来のルールでは、共有者の1人がすでに共有物を占有していれば、「共有物の明け渡し請求が認められにくいのは占有者も不動産使用の権利を持っているから」でも解説した通り、占有者も不動産使用の権利を持っているため、共有物の明け渡し請求は認められにくい傾向にありました。

しかし、令和3年の民法改正では、次に示すように民法第252条1項に最後の1文が加わりました。

(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

これにより、共有持分の過半数がすでに共有物を占有している人に対して退去を促すことに合意した場合、占有者は退去を余儀なくされるのです。そのため、すでに共有物を占有されている場合でも、占有者が持分割合の過半数を持っていなければ、退去を促すことができるのです。

占有者に対して賃料請求を行う

他の共有者に共有不動産を占有されている場合、占有者に対して持分割合に応じた賃料請求を行うことも可能です。請求できる賃料は賃貸物件の家賃相場と同じ程度の金額となるため、近隣物件の家賃を調査した上で、金額を算出すると良いでしょう。ただし、自身で算定すると、適当でない金額を算出してしまう場合や占有者に納得してもらえない場合があるため、不動産会社に算定を依頼するのがおすすめです。なお、賃料請求の時効期間は10年となっているため、早めに手続きするようにしましょう。

ただし、例外的に以下のケースでは賃料請求できないことがあるので、注意が必要です。

  • 共有物の占有が使用貸借と判断された
  • 共有物の占有について合意がなされている
  • 相続開始前から被相続人と同居していた

3つのケースについて、以下で見ていきましょう。

賃料請求できないケース① 共有物の占有が使用貸借と判断された

共有物の占有が使用貸借と判断されると賃料請求できないケースがあります。

使用貸借とは、不動産を無償で使用させることです。例えば、共有者が共有不動産に居住しており、他の共有者は賃料を受け取っていない場合に使用貸借が認められることがあります。使用貸借は口頭での約束でも有効性が認められるものであり、仮に契約書がなくても使用貸借が成立します。また、他の共有者が使用貸借を認めていなかったとしても、長期間占有されている状態を黙認していると、使用貸借を認めていると判断されることもあるのです。

使用貸借が認められると不法占拠には当たりません。そのため、共有物の占有が使用貸借と判断された場合には、立ち退き請求も賃料請求も認められません。

共有持分の使用貸借について詳しく知りたい方は、以下の記事をあわせてお読みください。

賃料請求できないケース② 共有物の占有について合意がなされている

共有物の占有について合意がなされている場合も、当然ながら賃料請求ができません。前述の通り、使用貸借は口頭での約束でも有効性が認められるため、使用貸借に関する契約書がなくても使用貸借が認められます。

賃料請求できないケース③ 相続開始前から被相続人と同居していた

相続開始前から被相続人と同居していた場合にも、賃料請求はできません。

具体的には、相続開始前から被相続人と相続人の一人が同居しているパターンなどが挙げられます。被相続人と同居していた相続人との間には、使用貸借契約があったと推認されます。この場合、契約書が作成されているケースはほとんどないと考えられますが、被相続人と同居していた相続人との間で口約束がなされていれば使用貸借が認められるのです。

使用貸借が認められれば、賃料請求も退去請求もできません。ただし、ケース①、②とは異なり、遺産分割の方法が決まった後は決められた方法に従う必要があります。そのため、相続開始前から被相続人と同居していた場合には、遺産分割の方法が決まるまでの期間のみ、賃料請求ができません

自己持分を共有物の占有者に売却する

共有物の占有に対してできる対処法の1つに、自己持分を共有物の占有者に売却する方法も挙げられます。

共有物の占有者に自己持分を売却すれば、共有関係から抜け出せるため、今後、共有関係が引き起こすトラブルに巻き込まれなくなります。また、一定の現金を手に入れられるため、経済的なメリットもあるのです。

一方、共有物の所有権を所持していたい場合は所有権を失ってしまうことがデメリットになるでしょう。不動産の所有権を手放したくない場合には、他の方法を検討する必要があります。加えて、買い取る側(共有物の占有者)に共有持分を買い取るだけの経済力がなければこの方法を採用することは難しいでしょう。

また、自己持分を共有物の占有者に売却する場合、売却価格で揉めやすい点にも注意が必要です。共有持分の売却相場については以下の記事で解説していますので、あわせて確認してみてください。

自己持分を共有持分専門買取業者に売却する

自己持分を共有物の占有者に売却するのが難しければ、共有持分専門買取業者に売却する方法も考えられます。

一般の第三者への売却を検討しても良いのですが、自己持分のみの売却では活用方法がかなり限られてしまうため、買い手がつきにくいのです。しかし、共有持分専門買取業者であれば、価格さえ合意すればすぐに買い取ってくれるため、共有関係を早く解消したい人におすすめです。

共有持分専門買取業者への売却を検討する場合には、弊社クランピーリアルエステートまでご相談ください。弊社では、共有名義不動産をはじめとする訳あり不動産の高価買取を日本全国どのエリアでも実施しています。弁護士との連携を行なっているため、法律が関わるトラブルのある不動産でも買取できます。気になる方はぜひ下記からお問い合わせください。

共有物分割請求を行う

共有物分割請求を行うことも1つの方法です。共有物分割請求とは、共有関係の解消を裁判所に求める訴訟のことです。

共有物分割請求では、次の3つの分割方法から裁判所が適切だと判断した方法が選択されます。

分割方法 内容
現物分割 共有物を物理的に分割する
換価分割 共有物を売却して売却益を分割する
価格賠償 分割の際の差額を金銭などで補償する

裁判による公平な解決が期待できますが、お金も時間もかかる上、裁判をした相手との関係が悪化しやすくなるなど多くのデメリットがあるため、最終手段として検討するのが良いでしょう。

共有物分割請求訴訟の詳しいやり方は、以下の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてみてください。

まとめ

共有不動産を他の共有者に占有されている場合、占有者にも不動産使用の権利があるため、共有物の明け渡し請求は認められにくいです。しかし、占有者の占有方法に正当性を欠く場合は明け渡し請求が認められる可能性があるほか、持分割合の過半数が同意すれば明け渡し請求が認められます。また、明け渡し請求のほかにも、賃料請求や自己持分の売却など、他の選択肢も用意されているため、自身に適した方法でトラブルへの対処をしてみてください。

こんな記事も読まれています