共有不動産の相続トラブルは遺言書で回避!作成時の注意点と具体例を解説

共有不動産の相続トラブルは遺言書で回避!作成時の注意点と具体例を解説

共有不動産の相続が発生すると、「遺産分割協議時に揉める」「共有不動産の管理・処分について共有者同士でまとまらない」といったさまざまなトラブルが想定されます。

もし所有する共有不動産の相続についてトラブルを回避したいときは、遺言書を作成しておくのが効果的です。遺言書の効力は遺産分割協議や法定相続よりも強いため、単独名義になるように遺言書で共有不動産の相続先を指定すれば、共有状態や遺産分割に関する争いを法的に避けられます。

自分が求める遺言を実現するには、共有不動産の所在、地目・種類、面積などの必要情報を遺言書に記したうえで、正しい手続きが必要です。加えて、遺言者本人の判断能力に問題がないこと、遺言書が遺言者本人の真意であることが認められなければなりません。

たとえば自分の手書きで作成できる「自筆証書遺言」だと、遺言書としての形式的要件を満たせずに遺言書が無効になるリスクが高くなります。

遺言書を残すときは、自筆証書遺言よりも「公正証書遺言」とするのがおすすめです。公正証書遺言なら公証人の確認と審査および証人2人以上の確認を得たうえで遺言書を作成できるので、遺言書が無効となるリスクを大きく減らせます。遺言内容について司法書士や弁護士などの専門家からアドバイスを受ければ、遺言書の有効性をより高められるでしょう。

遺言書を作成する以外で不動産の共有状態を解消したいときは、「共有者全体を売却する」「分筆する」「自分の共有持分だけを売却する」といった方法が効果的です。もし共有不動産や共有持分の売却を考えているなら、共有不動産や共有持分の買取に強い弊社「クランピーリアルエステート」の利用もぜひ検討してください。

本記事では、共有不動産相続時の遺言書の作成例、共有不動産相続時の遺言書作成の進め方、共有不動産相続時の遺言書作成時のポイント、共有不動産の相続で想定されるトラブル、共有不動産の共有状態を解消する方法などを解説します。

共有不動産の相続時の遺言書の例

遺言書によって共有不動産の相続先を決めるときは、遺言書に「相続先となる人物」「相続する共有不動産を特定できる情報」を記載する必要があります。遺言書の内容が曖昧だったり相続対象の共有不動産が特定できない内容だったりすると、遺言書が無効になる可能性があるので注意してください。

共有不動産の相続に関する遺言書は、「土地・建物」と「マンション(区分建物)」で書き方が異なる部分があります。土地・建物とマンションでは、不動産の特定の仕方に違いがあるからです。

とはいえ内容自体はほぼ同じであるため、一方の書き方さえ理解すればもう一方も問題なく作成できます。本記事では、土地・建物を相続する際の遺言書の作成例を紹介します。

<想定するケース>

  • 夫婦が共有名義で所有する不動産(共有持分は2分の1ずつ)
  • 土地・建物をどちらも遺言書で指定
  • 配偶者である妻に、夫の共有持分すべてを相続
  • 公正証書遺言にて作成
遺言公正証書


 遺言者A郎は、以下のとおり遺言する。

第1条 遺言者は、その所有する下記不動産の遺言者が有する持分(所有権の2分の1)を、遺言者の妻B子(昭和40年◯月◯日生)に相続させる。

不動産の表示

(1)所在:〇〇市〇〇町〇〇丁目
   地番:〇〇番〇〇
   地目:宅地
  地積:〇〇.〇〇㎡
  遺言者A郎の共有持分:2分の1

(2)所在:〇〇市〇〇町〇〇丁目〇〇番地〇〇
  家屋番号 △△番△
  種類:居宅
  構造:木造瓦葺2階建
   床面積:1階〇〇.〇〇㎡、2階〇〇.〇〇㎡
  遺言者A郎の共有持分:2分の1

第2条 遺言者は、遺言執行者として妻B子(昭和40年◯月◯日生)を指定する。

令和7年◯月◯日

遺言者住所

遺言者氏名 A郎 印

マンションを相続させる場合は不動産の表示として、一連の建物、専有部分の建物、、敷地権の表示を記載します。

単独名義の不動産に関する遺言との違いは、遺言者の共有持分割合を記載する点です。共有持分を明記することで、相続時の共有持分がどれくらい移動するのかがより明確になります。

上記の遺言書の記載例は、あくまで共有不動産の相続のみについて記載したものです。「共有名義以外の財産や負債の相続」「遺言書で指定した相続人が先に死亡していた場合の相続先(予備的遺言)」など、共有不動産関係以外の遺言を残したいときは、第3条以降も記載して指定します。

家族信託などを利用すれば、実質的に二次相続の指定も可能です。

共有不動産相続時の遺言書を作成する流れ

共有不動産の相続を見据えて遺言書を作成する際には、「どのように遺言書を残すのか」「共有不動産を含めた財産には何があるのか」「相続内容はどうするのか」などを決める必要があります。

共有不動産相続時の遺言書を作成する具体的な流れは次の通りです。

  1. 作成する遺言書の種類を決める
  2. 所有している財産を特定する
  3. 相続内容を決定する
  4. 必要書類と証人を準備する
  5. 公証人と打ち合わせをする
  6. 遺言書を作成する

以下では、具体的な流れと各セクションの詳細を見ていきましょう。

本記事では、もっとも安全な遺言である「公正証書遺言」を作成する際の流れを中心に解説します。

作成する遺言書の種類を決める

遺言書として効力を発揮するには、原則として「普通方式」に該当する以下3種類の方法で執筆する必要があります。

遺言書の種類 概要
公正証書遺言 遺言者本人が公証人・証人2人の前で遺言書の内容を口頭で告げ、公証人が記述した遺言書
原則は公証役場で作成するが公証人の出張によって自宅・老人ホームなどでの作成も可能
原本は公証役場で保管される
自筆証書遺言 遺言者本人が自ら遺言書本文を全文自書(手書き)する遺言書
遺言者本人が字を書けない状態だと利用できない
遺言者自らが保管、または自筆証書遺言保管制度を利用し法務局で保管
秘密証書遺言 遺言者本人が遺言の内容を記載した書面(自書でなくても可)に署名押印して封筒に入れ、遺言書に押印した印章と同じ印章で封筒を封印したうえで、公証人および証人2人の前で手続きして作成する遺言書
遺言書の内容を公証人等を含め遺言者以外が知ることがない
遺言者本人が保管

一般的には、公正証書遺言と自筆証書遺言のどちらかを選択します。

共有不動産の相続について遺言書を作成するなら、公正証書遺言がおすすめです。公正証書は専門家が内容を確認したうえで、安全かつ確実に遺言書の効力を発揮できるからです。

公正証書遺言の詳細は、公正証書で作成すると無効となるリスクが低くなるにて詳細を解説しています。

参考:日本公証人連合会「2 遺言

所有している財産を特定する

遺言書を作成する前に、共有不動産を含む所有している財産を特定します。財産の金額や種類が曖昧だと、相続人同士の争いや遺言書の無効などのトラブルに発展する可能性があるからです。不動産が特定できていないと、そもそも相続登記申請ができないケースも考えられます。

たとえば遺言書で戸建ての共有不動産を指定するなら、以下の情報を正確に記載しましょう。

共有不動産で特定する情報 必要な情報
不動産の所在 〇〇市、〇〇町、〇〇丁目、〇〇番地〇〇
不動産の種類・構造 土地:宅地など
建物:木造瓦葺2階建など
面積 土地:地積
建物:それぞれの階層の床面積

上記の情報を記載するときは、法務局から不動産の全部事項証明書を取得し、所在・地積や床面積などの必要事項や数値を正確に記載します。曖昧な数値や略称などの抽象的な表記だと、遺言書の効力がなくなる可能性があります。

第三者である法務局が見ても、「この共有不動産は相続の対象である」と認識がブレないように情報をしっかりと載せることが大切です。

特定した財産が多いときは、財産目録を作成しておくのが一般的です。財産目録を作成すれば、遺言書の作成の簡便化や財産状況の把握などがやりやすくなるメリットがあります。

共有不動産以外の財産の特定には、銀行名、口座番号、株券、取引報告書などを用います。

相続内容を決定する

相続財産を特定できたら、相続内容の詳細を決定します。「何を」「誰に」「どのくらい」を明確にし、遺言が正しく履行されるようにしましょう。

  • 何を:どの共有不動産を、誰の共有持分を
  • 誰に:どの相続人・受遺者へ
  • どのくらい:共有持分割合はどれくらいか

相続内容を決定する際には、「遺言執行者」を決めておくのがおすすめです。遺言執行者を指定しておけば、自分が亡くなった後に第三者の専門家や自分が信頼できる人に遺言内容の遂行を任せられます。遺言執行者に詳細は、遺言執行者を指定しておくにて詳しく解説します。

必要書類と証人を準備する

公正証書遺言の作成のために、必要書類と証人を準備します。遺言者本人が公正証書遺言を作成する際に必要な書類は次の通りです。

必要書類 入手場所など
遺言者本人の印鑑証明書 発行から3か月以内のもの
住所地の市区町村役場や出張所、コンビニ
遺言者本人と相続人との続柄がわかる戸籍謄本や除籍謄本 最寄りの市区町村役場(遺言者本人・配偶者やその直系親族のみ)
遺贈者の住所がわかるもの 相続人以外へ遺贈する場合に必要
住民票などの住所の記載があるもの
法人への遺贈なら法人の登記事項証明書など
共有不動産に関する登記事項証明書 共有不動産を管轄する法務局
共有不動産に関する固定資産税評価証明書
または固定資産納税通知書の課税明細書
共有不動産のある市税事務所や市区町村役場
共有不動産以外の相続財産に関するもの 預貯金や有価証券なら銀行・証券会社名や口座番号がわかるもの
証人関連の資料
(遺言者本人が証人を用意する場合)
証人予定者の氏名、住所、生年月日、職業をメモしたもの

2人以上の証人を自分で用意するときは、公証人の欠格事由に該当しない人物でないかを確認します。

公証人になれないのは、「未成年者」「推定相続人」「受贈予定者」「推定相続人および受贈予定者の配偶者・直系血族」「公証人の配偶者・四親等以内の親族・書紀・使用人」です。欠格事由に該当しない関係者、司法書士、弁護士などから、公証人を選びましょう。謝礼を支払えば、公証役場のほうで公証人を準備してもらえます。

参考:日本公証人連合会「必要書類

公証人と打ち合わせをする

最寄りの公証人役場にて、遺言書作成について公証人と打ち合わせをおこないます。正式な公正証書遺言とするために、まずは公証人と話し合って遺言書の案を作成してもらいましょう。

「誰に相続・遺贈するか」「どのような共有不動産を相続・遺贈の対象とするか」がはっきりわかる資料を、公証人へ提出してください。

公証人と打ち合わせする主な内容は、以下の通りです。

  • 遺言書を作成する目的
  • 遺言書の内容
  • 遺言先となる相続人や受贈者
  • 遺言書作成の日時・場所
  • 証人の準備

遺言書についての打ち合わせをする場所は、原則として公証人役場です。ただし、体調不良、歩行困難、そのほか公証人役場へ行くのが難しいと認められる場合は、公証人が自宅や病院まで出張してくれます。

公証人役場へ直接赴くときは、日本公証人連合会の公証役場一覧にて、最寄りの公証人役場を調べておくとスムーズです。

なお、公証人役場へ公正証書遺言の作成を依頼する際には、手数料がかかります。「法律行為に関する証書作成の手数料」「法律行為でない事実に関する証書作成の手数料」「認証に関する手数料」「そのほかの手数料」などです。共有不動産に関する公正証書遺言を残すときは、おおよそ3万~万円程度かかります(公証人の出張がともなう場合は8万~15万円程度)。

手数料の金額は依頼する内容や相続財産の価額によって変化するので、詳細は公証人役場への問い合わせは公式サイトにて確認してください。

公証人はあくまで公正証書遺言作成の手続きを担当する役目であり、相続関係のトラブルや相続手続きなどの業務範囲外のことは対応できません。相続関係の整理や遺言書の内容などの提案・アドバイスを受けたいときは、別途司法書士や弁護士などの専門家へ相談しましょう。

参考:日本公証人連合会「手数料

遺言書を作成する

公証人との打ち合わせが終わり遺言書の案が固まったら、実際に公正証書遺言を作成していきます。公証人と遺言者が決定した作成日時に、公証役場(出張の場合は出張場所)にて「遺言者」「公証人」「証人2人以上(実務上は2人のケースがほとんど)」で進めます。

公正証書遺言を作成する流れは次の通りです。

  • 公証人が遺言者および証人の本人確認を実施する
  • 遺言者が公証人に対し、証人2人の前で遺言の内容を口頭で告げる
  • 公証人が「判断能力を有する遺言者の真意」であることを確認する
  • 遺言公正証書の案に基づいて事前に準備した遺言公正証書の原本を、遺言者と証人2人の前で読み聞かせるまたは閲覧させて問題がないかを確認する
  • 遺言者と証人2人が遺言公正証書の原本に署名・押印し、公証人も同じく職員を押捺して完成する
  • 完成した公正証書遺言の正本・謄本の交付を受ける
  • 公証人手数料を支払う

遺言書作成の当日は、遺言者が真意を任意に述べやすいよう、ほかの利害関係者は席を外す必要があります。

共有不動産の遺言書を作成する際のポイント

共有不動産の遺言書を作成する際には、ポイントを押さえて作成すると相続時・相続後に遺言者の意図通りに進みやすくなります。共有不動産の遺言書を作成するポイントは次の通りです。

  • 遺言執行者を指定しておく
  • 遺留分を侵害しないように分ける
  • 公正証書で作成すると無効となるリスクが低くなる
  • 専門家に遺言書作成サポートを依頼する

それぞれの詳細を見ていきましょう。

遺言執行者を指定しておく

遺言者が希望する遺産相続を実現するためには、遺言執行者を指定しておくのがよいでしょう。

遺言執行者とは、遺言者が亡くなった後に遺言の内容を実行してくれる人のことです。遺言書にて「〇〇を遺言執行者に指定する」と記載すると、相続財産の管理や遺言執行に必要なすべての行為における権利・義務が遺言執行者に指定された人に発生します。発生した権利・義務についてや遺言執行に関して、ほかの相続人が邪魔することは法的に禁止されています。

(遺言執行者の権利義務)
第千十二条 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
(遺言の執行の妨害行為の禁止)
第千十三条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。
e-Gov法令検索 民法第1012条・1013条

遺言執行者には、破産者や未成年者以外になら誰でも選任可能です。遺言執行者がすでに判断能力がない、あるいは死亡した場合は、家庭裁判所に申立てによって遺言執行者を選任してもらえます。

遺言執行者には、第三者の立場かつ専門的知識を有する弁護士や司法書士、信託銀行などを指定するのがよいでしょう。ほかの相続人から反発が出づらく、複雑な相続調査や遺贈などの手続きもスムーズに進めやすいからです。

遺留分を侵害しないように分ける

遺言書の作成時に忘れてはならないのが、相続人の遺留分です。

遺留分とは、民法第1042条にて定められた「兄弟姉妹以外の各相続人が最低限保証された遺産取得分」です。遺言書は遺産分割協議や法定相続より優先される強い効力を持っているものの、遺留分を超える相続については遺言書より相続人の遺留分が優先されます。

たとえば相続人A・B・Cの3人がいる状態で「Aにすべての遺産を相続させる」と遺言書で指定しても、BとCは自身の遺留分の遺産を取得する権利があります。仮にAが遺言通りに遺産すべてを取得しようとしても、BとCは「遺留分侵害請求」によって侵害された遺留分の金銭相当額を請求が可能です。

遺留分の計算は、相続人ごとに定められた遺留分の割合に応じておこないます。たとえば相続人が「配偶者」と「子ども2人」だった場合、遺留分の割合はそれぞれ「相続財産全体の1/2」です。そして元々の相続割合もそれぞれ1/2であることから、本ケースでの遺留分は次の通りになります。

  • 配偶者:相続割合1/2✕遺留分割合1/2=1/4
  • 子どもA:相続割合1/2✕遺留分割合1/2÷子どもの数2=1/8
  • 子どもA:相続割合1/2✕遺留分割合1/2÷子どもの数2=1/8

相続財産の総額が2,000万円だったときは、配偶者は500万円、子ども2人はそれぞれ250万円が遺留分です。要するに、元々の法定相続割合に遺留分割合を乗じれば、遺留分を算出できます。

相続人の組み合わせごとの遺留分の割合は次の通りです。

相続人の組み合わせ 全体の遺留分の割合 各相続人の遺留分割合
配偶者のみ 1/2 配偶者:1/4
配偶者と子ども1人 1/2 配偶者:1/4
子ども:1/4
配偶者と親 1/2 配偶者1/3
親:1/6
配偶者と兄弟姉妹 1/2 配偶者:1/2
兄弟姉妹:遺留分なし
子どものみ 1/2 子ども:1/2
親のみ 1/3 親:1/3
兄弟姉妹のみ なし なし

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
2 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
e-Gov法令検索 民法

共有不動産で遺留分が関係してくる場合、確認しておきたいのは「遺留分は現金での支払いが原則」という点です、もし共有不動産の相続にて遺留分の侵害が発生しても、遺留分の補填は共有不動産の共有持分割合を渡すのではなく、侵害分の価額を現金で支払う形になります。

そのため、相続人に金銭的な負担を生じさせないためにも、遺留分を侵害しないように相続割合を決めることが大切です。

公正証書で作成すると無効となるリスクが低くなる

共有不動産の相続を遺言書にて指定するときは、公正証書遺言として作成すると遺言が無効になるリスクが低くなります。

また、公正証書遺言なら本人の判断能力および意思を確認したうえで作成するため、仮に被相続人が認知症のままで遺言書が作成される可能性を限りなくゼロにできます。

以下では、公正証書遺言として遺言書を作成するメリットを見ていきましょう。

公正証書|公証人の権限に基づいて内容を証明する文書のこと

一般的にもっとも使用される遺言書の形式は、「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類です。自筆証書遺言は自分で作成できる反面、トラブルによって遺言が正しく遂行できないリスクが懸念されます。

一方で公正証書遺言は、遺言書のなかでもっとも信憑性が高い遺言書です。

公正証書とは、公証人の権限に基づいて内容を証明する文書を意味します。そして公正証書遺言とは、「正式な手続きを経て公証人および証人2人以上に確認してもらって作成する遺言」です。公正証書遺言は遺言者、公証人、証人2人以上の計4人以上で作成するため、遺言書が原因の相続トラブルが発生するリスクを大きく減らせます。

以下では、自筆証書遺言と公正証書遺言のメリット・デメリットを比較しました。

自筆証書遺言のメリット 公正証書遺言のメリット
・紙とペンがあれば空いた時間にいつでも作成できる
・気軽に書き直しができる
・費用がかからない
・遺言書の内容を自分以外に知られることがない
・形式不備などで無効になるリスクが極めて低い
・改ざん、隠匿、紛失を防げる
・被相続人が亡くなった後でも速やかに遺言の内容を実現できる
・手書きが難しい人でも遺言書を残せる
自筆証書遺言デメリット 公正証書遺言のデメリット
・必ず自筆で手書きしなければならない
・日付、記名方法、押印など遺言書の要件を満たしていないと無効になる
・改ざん、隠匿、紛失のリスクがある
・被相続人が亡くなった後に見つけられない可能性がある
・法務局に保管してもらうには「自筆証書遺言書保管制度」を利用する必要がある
・遺言を実現するには家庭裁判所にて「検認」の請求が必要になる
・手数料が発生する
・公証人や証人に遺言書の内容を知られる
・証人の準備が必要になる
・認知症などで遺言者に判断能力が認められないと作成できない

法律事務所や司法書士事務所などへ持ち込まれる自筆証書遺言の多くは、遺言書としての形式的要件が欠如して無効となっているのが実情です。そのため、確実に遺言を実行してもらうためにも、遺言書は公正証書遺言にて作成することを推奨します。とはいえ公正証書遺言にもデメリットは存在するため、メリット・デメリットを確認したうえで選ぶのがよいでしょう。

なお自筆証書遺言の形式について知りたい場合は、法務局の「自筆証書遺言書の様式」をご覧ください。

被相続人の認知症対策にもなる

被相続人が自筆証書遺言を作成したとしても、被相続人に認知症などの判断能力・意思能力の低下が認められるとその遺言書は無効です。

しかし公正証書遺言なら公証人による判断能力・意思能力や真意の確認をおこなったうえで作成するため、仮に遺言者が認知症であってもその場で確認できます。遺言者が認知症であることが見過ごされて、遺言書が作成されるリスクを限りなく低くできます。

専門家に遺言書作成サポートを依頼する

公正証書遺言・自筆証書遺言を問わず、遺言書を作成するときには専門家のサポートを受けるのがおすすめです。弁護士や司法書士などの専門家でも遺言書作成の代理・代筆は認められていませんが、遺言書の内容や相続関係についてアドバイスはできます。

そのため、正式に遺言書を作成する前に遺言書についてのアドバイスを受けておけば、法的に問題のない相続内容や相続先を記載した遺言書としやすいです。公正証書遺言の原本は公証役場側が作成するものの、遺言書の内容を決めるのは遺言者本人です。法的に無効となる、効果的な相続にならないといった遺言書としないためにも、公正証書遺言の内容を考える際には専門家のサポートをうけるのがよいでしょう。

依頼する専門家を選ぶ際には、「共有不動産や相続関係に強いか」「遺言書作成サポートについての実績があるか」を確認します。専門家にもそれぞれ得意分野が異なり、法律に強いからといって共有不動産や遺言関係の実務に精通しているかはわからないからです。共有不動産や遺言書関係の実務経験・実績のある専門家なら、遺言書をスムーズに進められます。

共有不動産の相続に遺言書を作らないことで起こるトラブル例

原則として、共有不動産の相続であっても遺言書作成の義務はありません。遺言書を作らないときは、法定相続に基づき、相続人順位、相続割合、共有不動産の共有持分割合、および遺産分割協議の結果などを考慮して相続がおこなわれます。

しかし共有不動産は通常の不動産よりも権利関係や維持管理方法が複雑化しやすく、遺言書なしの相続だとさまざまなトラブルが発生するリスクが高くなります。

共有不動産の相続時に遺言書を作らないことで起こるトラブル例は、以下の通りです。

  • 遺された相続人が遺産分割協議で揉める可能性がある
  • 相続後も不動産の管理や利用方法で他の共有者と揉める可能性がある
  • 共有者が増え続ける可能性が高くなる

それぞれの詳細を見ていきましょう。

遺された相続人が遺産分割協議で揉める可能性がある

遺言書がない場合、「法定相続通りの相続」または「遺産分割協議に基づいた相続財産の分配」のいずれかで相続がおこなわれます。相続人全員が納得できる相続とするために、遺産分割協議を実施するケースも珍しくありません。

遺産分割協議とは、相続人全員で相続財産の分割について話し合うことです。遺産分割協議なら遺言書と同じく法定相続割合に縛られず柔軟な相続ができるため、相続時にはよく実施されます。ただし遺産分割協議は相続人全員の参加が求められるうえに、相続人全員の合意がなければ成立しません。

そのため、共有不動産を含む相続財産を遺産分割協議で分けようとすると、遺された相続人同士で揉める可能性があります。遺産分割協議で想定されるトラブルの例は次の通りです。

  • 相続人全員が集まらず遺産分割協議を始められない
  • 遺産分割協議の内容がなかなかまとまらない
  • 遺産分割協議で全員の合意が得られないと、遺産分割調停や遺産分割訴訟に発展する可能性がある

一方で遺言書を作成していれば、遺留分侵害請求や遺言書の不備がない限り、遺言書通りの相続が相続人の意思に関係なく遂行されます。共有不動産は通常の不動産より権利関係が複雑になっていることから、遺言書で相続先をあらかじめ指定しておくことで無駄な手続きや争いを避けやすくなるでしょう。

相続後も不動産の管理や利用方法で他の共有者と揉める可能性がある

共有不動産を共有名義のままで相続すると、相続後も不動産の管理や利用方法でほかの利用者と揉める可能性があります。

共有不動産の管理や活用に関しては、ほかの共有者の同意を得なければ実行できない行為が法的に定められています。

たとえば短期間の賃貸借契約や共有物の性質を変化させない程度の改装などは、「管理行為」として共有者の共有持分割合の過半数の同意が必要です。長期間の賃貸借契約や売却、増改築などの「変更行為」になると、共有者全員の同意が必要です。

つまり相続した共有不動産の賃貸活用、売却、現状維持などについて共有者同士で意見が食い違ったり、同意を得られず関係性が悪化したりなどのトラブルが想定されます。加えて共有者の数が多いと、相続後に誰が不動産の維持管理を担当するかでも揉める可能性があります。

上記のトラブルも、遺言書にて共有持分割合の調整や単独名義となるような相続先の指定などをおこなえば回避可能です。

とはいえ共有不動産が実家だと、財産面だけではなく感情面での納得も重要です。トラブルを回避する確率を上げるためにも、被相続人の生前から共有者の間で共有不動産の管理方針や売却の有無など話し合っておき、合意形成を図っておくのがよいでしょう。

共有不動産が管理されず放置される

不動産を相続して名義人となった場合、相続した不動産を活用する予定がなくても、固定資産税・都市計画税などの税金やそのほか維持管理費などのランニングコストの負担が必要です。また、不動産の倒壊、景観の悪化、害虫・害獣の発生などを防ぐための定期的な修繕や草刈りなども求められます。

もし共有不動産を誰も管理せずに放置していると、空き家のまま税金や維持費を払い続けることに加えて、景観・防犯・災害などの面で近隣住民に迷惑をかけるケースが出てくるでしょう。

空き家として放置したままだと、「特定空き家」や「管理不全空き家」に指定される可能性があります。特定空き家や管理不全空き家に指定されると、「住宅用地の特例の対象外になって固定資産税が最大6倍になる」「状態の改善について指導や勧告が入る」「自治体からの命令にしたがわないと過料が科せられる」など、さまざまな対応を迫られるので注意が必要です。

さらに空き家が原因で近隣住民に不利益が出ると、損害賠償請求に発展するかもしれません。

共有不動産だと、費用の負担割合や管理対応について共有者同士で揉めることが想定されます。そのため、遺言書で共有不動産ではなく単独名義で相続するように指定するのが効果的です。

共有者が増え続ける可能性が高くなる

共有不動産の共有持分は、相続においてもほかの不動産と同じ扱いです。たとえば夫婦で共有持分が1/2ずつで1人が死亡したとき、相続人が配偶者と子どもの計2人だと、共有持分1/2をさらに分割してそれぞれ1/4ずつの相続です。

つまり共有不動産を相続する場合、遺言書で相続先を特定の相続人1人に指定しない場合は、相続人の数だけ共有持分が分割されていき権利関係が複雑化します。権利関係が複雑になると、その後の管理や処分が難しくなるでしょう。

仮に共有不動産が実家で売却したいときも、子どもがほかの共有者である兄弟の同意を得られず処分できないケースも想定されます。相続人の数が多ければ多いほど、意思の合致は困難です。

そこで遺言書で特定の人物のみに相続・遺贈させて名義を1本化する方向に働きかければ、共有者を増やさずに配偶者や子どもを困らせるリスクを下げられるメリットがあります。

共有不動産の相続トラブルを避けるには共有状態を解消することがおすすめ

共有不動産の相続トラブルを避けるには、相続時に特定の人物の単独所有となるように指定するのが効果的です。しかし遺言書を作成する以外にも、不動産の共有状態を解消する方法は存在します。

共有状態を解消する相続としては、以下の方法が挙げられます。

  • 共有者全員で協力して共有不動産全体を売却する
  • 相続財産が土地であれば分筆して単独所有にする
  • 自分の共有持分だけを売却する

それぞれの詳細を見ていきましょう。

共有者全員で協力して共有不動産全体を売却する

共有者全員が共有不動産の所有権を手放したい場合は、共有者全員で協力して共有不動産全体を売却しましょう。共有者全員が所有権を手放す前提で共有不動産全体を売却できれば、通常の不動産と同じ市場価格で一般の買主に売却しやすくなります。

また、共有不動産を現金化できれば共有持分割合に応じて売却代金を分配できます。不動産として共有するよりも、公平に利益を分けられるのが大きなメリットです。固定資産税や維持管理費の支払いがなくなる点も、全体売却の特徴と言えます。

ただし、共有者全員の合意がなければ共有不動産全体の売却はできません。共有不動産全体の売却を検討するときは、共有者全員の意思確認や反対する共有者との交渉などが必要になるでしょう。

相続財産が土地であれば分筆して単独所有にする

相続対象の共有不動産が土地なら、分筆して共有者それぞれの単独所有とする方法も、共有状態の解消方法として効果的です。

分筆とは、1つの土地を複数の区画に分割後、分割した区域ごとに単独名義で登記する手続きです。共有不動産を共有持分割合に応じて分筆すれば、割合に応じて公平に分割できます。分筆ならそれぞれの共有者の単独名義となるため、共有者全員が土地に関する完全所有権を得ることが可能です。

たとえば生前に土地を分筆して共有状態を解消しておけば、相続時に共有不動産におけるトラブルで揉める必要がありません。共有不動産について、あらためて遺言書を残す必要もなくなります。

ただし、土地の形状や地積によっては分筆によって土地の資産価値が落ちる可能性があるので注意が必要です。また、建物の場合は区画ごとの分割が物理的に難しいため、建物の分筆は実質的にできないと思っておきましょう。敷地内に建物が存在する土地は、建物が土地の境界に入らないよう配慮することが大切です。

自分の共有持分だけを売却する

「共有不動産全体の売却は同意が得られず難しい」「共有不動産が建物で分筆もできない」という場合、自分の共有持分だけを売却する方法を検討してみてください。

共有不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要な反面、自分の共有持分だけの売却ならほかの共有者の同意は不要です。

もし所有する共有不動産の共有者が相続者や遺贈者の対象者でないなら、自分の共有持分の売却によって所有権を手放せば、その時点で自分の相続人は共有不動産とまったく関係がなくなります。売却で得られた現金を生前贈与や相続で相続人に渡せば、相続人の利益にもつながるでしょう。

売却する以外にも、贈与や放棄によって共有持分を手放すことも可能です。しかし贈与や放棄では売却益が得られず、贈与や放棄先へ贈与税の負担を強いることになります。そのため、共有持分だけを手放すなら、売却が一番おすすめです。

共有持分の売却先には、「ほかの共有者」と「共有持分買取専門業者」の2つが挙げられます。それぞれの詳細を解説します。

共有持分を他共有者に売却する

自分の共有持分をほかの共有者に売却できれば、一般の不動産市場での買主や、共有持分を取り扱ってくれる業者を探す必要がなくなります。

また、ほかの共有者にとって所有する共有不動産の共有持分割合が増えることには大きなメリットがあるため、一般の不動産市場で売却するよりも共有持分でも高額で売却できる可能性が上がります。

ただし、ほかの共有者に買取に意思がなければ取引は成立しません。買取の意思があるときでも、買主側の資金力が必要になります。ほかの共有者へ100%の確率で売却できるわけではないので注意しましょう。

共有持分買取専門業者に売却する

共有持分の売却で一番おすすめなのは、共有持分買取専門業者への売却です。不動産の買取業者とは、不動産会社自身が不動産を買い取るサービスです。

買取業者は「買い取った不動産を活用・売却することで利益を得る」というビジネスモデルであるため、共有持分を商品化できるノウハウと実績を持っています。そのため一般の不動産市場では需要が低く市場価値がない共有持分でも、積極的に買い取ってくれるでしょう。

また、買取業者への売却は「ほかの共有者と顔を合わせる必要がない」「現金化まで長くて約1か月とスピーディーに売却できる」「契約不適合責任が免責になる」といったメリットがあります。ただし、ほかの共有者への売却や不動産仲介を利用した売却よりも売却価格が低くなる傾向があるので注意しましょう。

買取業者への売却を検討する際には、「買取業者が共有持分の買取実績があるのか」「共有持分に関する専門知識を持っているか」などを確認するのがおすすめです。共有持分に関する専門知識や実績のある買取業者なら、共有持分の価格を正しく把握し、適正な査定とスムーズな売却手続きが期待できます。

たとえば弊社「クランピーリアルエステート」は、共有持分を始めとする訳あり物件を専門とする買取業者です。共有持分、共有不動産、相続不動産など、さまざまな訳あり物件を積極的に買い取っています。全国1,500以上の士業との提携による、法的問題への対応力もクランピーリアルエステートの強みです。

共有持分や共有不動産に関する売却なら、ぜひクランピーリアルエステートの無料相談や無料査定を気軽にご利用ください。

まとめ

共有不動産の相続に備えて、遺言書を残すのは効果的です。遺言書で共有不動産の相続先を指定すれば、相続時や相続後のトラブルを回避しやすくなります。

遺言書を残すときは、共有不動産の登記事項証明書などを参考とし、共有不動産に関する情報を正確に記入しましょう。「この共有不動産を相続させること」を明確にし、遺言を正しく進めるために必要だからです。また、遺言書は公証人や証人2人以上の下で作成する公正証書遺言として作成することで、遺言書が無効になるリスクを限りなく低くできます。

公正証書遺言を作成する際には、遺言執行者の指定や専門家への相談などのポイントを押さえることで、遺言書による相続や遺贈をトラブルなく進めやすくなります。共有不動産の相続が発生するときは、遺言書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

共有不動産全体や共有持分の売却を検討している場合は、共有不動産や共有持分などを専門的に取り扱う買取業者「クランピーリアルエステート」にもぜひご相談ください。

こんな記事も読まれています