不動産は相続登記せずに原則売却できない!プロが教える相続登記の流れや費用、税金

不動産は相続登記せずに原則売却できない!プロが教える相続登記の流れや費用、税金

相続した不動産のご相談を受けていると、「相続した家をすぐに売りたいけれど、登記をしていない」「相続登記を飛ばして、そのまま売却できないの?」といった声をよく耳にします。

結論からお伝えすると、相続登記を行わなければ不動産の売却は原則できません
民法177条で「不動産の権利は登記しなければ第三者に対抗できない」と定められているため、被相続人(亡くなった方)の名義のままでは、相続人が所有者であることを証明できないのです。当然、買主への所有権移転登記も進められません。

被相続人から直接買主へ名義を移すことは法的に認められていないため、売却するには必ず「相続登記 → 売却契約 → 所有権移転」という手順を踏む必要があります。

実際の流れを整理すると、次のようになります。

手順 内容 期間目安
①相続登記の実施 被相続人名義から相続人名義への変更 1~2ヶ月
②売却手続き 相続人名義になってから買主との売買契約 3~6ヶ月
③所有権移転登記 相続人から買主への名義変更 1~2週間

さらに、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続を知った日から3年以内に登記を行わないと10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めの手続きが必要です
実際のご相談でも「相続登記はまだ先でいい」と放置した結果、売却時に慌てて対応するケースが少なくありません。

相続登記に必要な費用は、登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)と司法書士への報酬を合わせて10~30万円程度が一般的です。さらに、売却を伴う場合は相続税(発生から10ヶ月以内に納付)や譲渡所得税も関わってくるため、早めに資金計画を立てておくことが欠かせません。

本記事では、なぜ相続登記が売却に必要なのか、具体的な手続きの流れや費用、早期売却のポイント、さらには仲介と買取のどちらが適しているかまで、相続不動産の売却を検討している方が知るべき重要な情報を詳しく解説します。

相続登記の義務化により手続きが必須となった今、適切な知識を身につけて円滑な売却を実現しましょう。

相続登記せずに不動産の売却は法的に認められない

相続した不動産の売却において、相続登記を行わずに売却することは法的に認められていません。その根拠となるのが民法177条です。

民法177条が定める内容は次の通りです。

「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」

相続登記が必要な理由は次のような点にもあります。

  • 被相続人の名義のままでは所有者であることを証明できない
  • 買主や金融機関などの第三者に権利を主張できない
  • 所有権移転登記が法的に実行できない
  • 売買契約自体が成立しない

上記の通り、売却時に必要な所有権移転登記も行うことができず、売買契約自体が成立しないのです。また、相続不動産が複数の相続人による共有名義になる場合、以下に注意しなければなりません。

売却パターン 必要な同意 注意点
不動産全体の売却 共有者全員の合意 一人でも反対すると売却不可
共有持分のみの売却 他の共有者の同意不要 売却価格は市場価格より低くなる

なお、相続不動産の共有持分のみを売却することも法的には可能ですが、その際も事前に相続登記を行い、共有持分を明確にする必要があります。共有持分の売却は他の共有者の同意なく行えますが、買主にとって利用制限があるため、売却価格は通常の取引相場より低くなる傾向があります。

不動産は相続登記してから売却!相続登記の流れを解説

相続不動産を売却するためには、以下の手順を踏む必要があります。

段階 手続き内容 期間目安
①相続財産の確認 被相続人の不動産を特定・調査 1~2週間
②相続人の確定・協議 遺言書確認または遺産分割協議 1~3ヶ月
③必要書類の収集 戸籍謄本など必要書類の取得 2~4週間
④相続登記申請 法務局へ登記申請・完了 1~2週間
⑤不動産売却 仲介業者依頼・売買契約締結 3~6ヶ月

相続税の申告・納税は相続開始から10ヶ月以内に行う必要があるため、早めに手続きを進めることが重要です

以下にて詳しく見ていきましょう。

相続財産を確認する

相続登記の第一歩は、被相続人(亡くなった方)が所有していた不動産を特定し、どのような不動産があるかを確認することです。確認する項目を見てみましょう。

  • 権利証・登記識別情報通知書の確認:被相続人の所有不動産の詳細を把握
  • 固定資産税納税通知書の確認:所有不動産の一覧を確認
  • 登記事項証明書の取得:法務局で不動産の詳細情報を取得
  • 名寄帳の取得:市町村で被相続人名義の不動産一覧を取得

特に、固定資産税納税通知書には被相続人名義の不動産がすべて記載されているため、相続財産の把握には欠かせない書類です。また、登記上の住所と実際の住所が異なる場合もあるため、詳細な調査が必要です。

相続人を確定させ、不動産を引き継ぐ人を決める

相続財産を確認したら、次に相続人を確定し、誰が不動産を引き継ぐかを決定します。この段階では、遺言書の有無によって手続きが異なります。

遺言書がある場合は原則それに従う

遺言書がある場合、原則としてその内容に従って不動産の相続人が決定します。ただし、遺言書を発見しても勝手に開封してはいけません。必ず家庭裁判所で検認手続きを行ってから開封・確認する必要があります

遺言書がある場合の注意点をまとめると以下です。

  • 検認手続きをする:自筆証書遺言は家庭裁判所での検認が必要
  • 遺留分に考慮する:法定相続人には最低限の取り分(遺留分)がある

なお、遺言書で特定の相続人に不動産を相続させる内容であっても、他の相続人には遺留分(法定相続分の2分の1)を請求する権利があります。遺留分を侵害している場合、後にトラブルになる可能性があるため、事前に相続人間で話し合っておくことが大切です

遺言書がない場合は相続人で話し合う

遺言書がない場合、相続人全員の遺産分割協議によって不動産の相続人を決定します。

遺産分割協議の流れは次の通りです。

段階 内容 注意点
法定相続人と相続分の確認 戸籍謄本により相続人を特定 相続人全員の参加が必要
財産目録の作成 すべての相続財産をリスト化 不動産の評価額も調査
遺産分割協議 相続人全員で財産分割を協議 全員の合意が必要
遺産分割協議書の作成 協議内容を書面にまとめる 全員の実印押印が必要

もし遺産分割協議がまとまらない場合は、法定相続分による相続登記も検討できます。ただし、この場合は不動産が共有名義となるため、売却時には共有者全員の同意が必要になり、手続きが複雑になる点に注意が必要です

必要書類を収集し、登記申請書を作成する

相続人と不動産の取得者が決定したら、相続登記に必要な書類を収集し、登記申請書を作成します。

遺産分割協議による相続登記の必要書類は次の通りです。

書類の分類 必要書類 取得場所 費用目安
被相続人関係 ・出生から死亡までの戸籍謄本
・住民票の除票
各市町村役場 1通450円
1通300円
相続人関係 ・全員の戸籍謄本
・不動産取得者の住民票
各市町村役場 1通450円
1通300円
協議書関係 ・遺産分割協議書
・全員の印鑑証明書
自作または専門家作成
各市町村役場
作成費用
1通300円
不動産関係 ・固定資産評価証明書
・登記事項証明書
市町村役場
法務局
1通300円
1通600円
その他 ・相続関係説明図
・登記申請書
自作または専門家作成 作成方法によって異なる

書類に不備があると補正や再提出が必要になり、手続きに要する時間が長くなるので注意しましょう。相続登記は必要書類や手続きが複雑なケースもあるため、不安がある場合には司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

法務局に登記申請を行う

必要書類がすべて揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。

登記申請の流れは次の通りです。

手順 内容 期間
①申請書提出 管轄法務局に必要書類一式を提出 1日
②審査 法務局による書類審査 5~10日
③登記完了 登記識別情報通知書の交付 1~2日

申請を終えると、基本的には1週間程度で手続きが完了します。登記が完了すると、登記識別情報通知書(従来の権利証に相当)が交付され、相続登記が正式に完了します

なお、登録免許税として「不動産評価額×0.4%」の費用が必要になります。ただし、以下のケースでは令和7年3月31日まで登録免許税が免税されます。

  • 相続人が相続登記を行う前に亡くなった場合
  • 不動産の評価額が100万円以下の場合

相続登記をした不動産の売却時に発生する費用・税金

相続不動産を売却する際には、相続税、相続登記費用、売却費用の3つの費用が発生します。これらの費用を事前に把握しておくことで、売却時の手取り金額を正確に計算でき、適切な売却計画を立てられます

以下では、それぞれの費用について詳しく解説します。

相続税

相続税は、相続財産の総額が基礎控除額を上回った場合に課税される税金です。相続税の申告・納付は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります

相続税の基礎控除額の計算方法は次の通りです。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

基礎控除額の具体例を見てみましょう。

法定相続人の構成 人数 基礎控除額
配偶者のみ 1人 3,600万円
配偶者+子1人 2人 4,200万円
配偶者+子2人 3人 4,800万円
子3人(配偶者なし) 3人 4,800万円

相続税の計算は以下の手順で行います。

  • ①課税遺産総額の計算:相続財産総額 – 基礎控除額
  • ②法定相続分による仮計算:各相続人の法定相続分で相続税を計算
  • ③相続税の総額の算出:各相続人の仮計算額を合計
  • ④実際の納税額の計算:実際の相続分に応じて按分

期限内に申告・納付しなかった場合、無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されるため注意が必要です。また、不動産相続の場合は「小規模宅地等の特例」により最大80%の評価減を受けられる場合があります。

相続登記にかかる費用

相続登記を行う際には、以下の費用が発生します。

相続登記の費用内訳は次の通りです。

費用項目 金額 支払い先
登録免許税 固定資産税評価額×0.4% 国(法務局)
司法書士報酬 5~15万円程度 司法書士事務所
必要書類取得費用 3,000~10,000円程度 各役所

必要書類の取得費用の詳細は次の通りです。

  • 戸籍謄本:1通450円(被相続人の出生から死亡まで複数通必要)
  • 住民票・戸籍の附票:1通200~400円
  • 印鑑証明書:1通200~400円(相続人全員分)
  • 固定資産評価証明書:1通200~400円

登録免許税については、相続人が相続登記前に死亡した場合や不動産の評価額が100万円以下の場合、令和7年3月31日まで免税措置が適用されます

なお、司法書士に依頼せず自分で手続きを行う場合は、司法書士報酬は不要となりますが、書類の不備により手続きが遅延するリスクがあるため、専門家への依頼を検討することをおすすめします

不動産売却にかかる費用

相続登記完了後、不動産を売却する際には以下の費用が発生します。

売却時の主な費用は次の通りです。

費用項目 金額の目安 詳細
仲介手数料 売却価格×3%+6万円+消費税 不動産会社への報酬(成功報酬)
印紙代 1,000円~60,000円 売買契約書に貼付する印紙税
譲渡所得税 譲渡益の15~39% 売却益が出た場合に課税
その他費用 数万円~十数万円 測量費、解体費、ハウスクリーニング費など

譲渡所得税の計算方法は次の通りです。

譲渡所得 = 売却価格 – 取得費 – 譲渡費用

譲渡所得税の税率は以下を参照してください。

  • 短期譲渡所得(所有期間5年以下):39.63%(所得税30.63%+住民税9%)
  • 長期譲渡所得(所有期間5年超):20.315%(所得税15.315%+住民税5%)

相続した不動産の場合、被相続人の所有期間も含めて判定するため、相続直後に売却しても被相続人の所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得の税率が適用されます

なお、相続不動産の売却では以下の特例を活用できる場合があるので押さえておきましょう。

  • 相続空き家の3,000万円特別控除:要件を満たす相続空き家の売却で最大3,000万円控除
  • 取得費加算の特例:相続税の一部を取得費に加算可能

ただし、これらの特例には厳格な要件があるため、売却前に税理士等の専門家に相談することをおすすめします

まとめ

相続した不動産を売却するには、必ず事前に相続登記を完了させる必要があります。民法177条により、登記されていない不動産の権利は第三者に対抗できないため、被相続人名義のままでは売却手続きを進めることができません。

相続不動産を効率的に売却するためには、相続登記の手続きと並行して売却活動の準備を進め、司法書士への依頼による手続きの迅速化を図ることが効果的です

売却方法については、仲介と買取の2つの選択肢がありますが、相続のケースでは買取による売却がおすすめです。特に相続税の納付期限が迫っている場合や、築年数の古い物件を相続した場合、買取なら1週間~1ヶ月程度で現金化でき、リフォーム不要かつ契約不適合責任も免責されるため、相続人の負担を大幅に軽減できます。

売却価格は市場価格の7~8割程度になりますが、仲介手数料やリフォーム費用が不要な分、実質的な手取り金額の差は小さくなります。

相続不動産の売却は時間的制約があるケースが多いため、早めの行動が重要です。まず複数の買取業者に査定を依頼し、条件を比較検討することから始めてみてください。

適切な買取業者を選ぶことで、相続手続きの負担を軽減し、円滑な遺産分割を実現できるでしょう。

相続登記未了の売却に関するよくある質問

相続登記を行う前の不動産売却について、よく寄せられる質問にお答えします。

相続登記と所有者移転登記(売買登記)は同時に申請できる?

相続登記と売買による所有権移転登記を同時に申請することは可能です。ただし、1件の申請書で済ませることはできず、それぞれ別々の申請書を作成して同時に提出する形になります。

同時申請の流れは次の通りです。

手順 内容 必要書類
①相続登記申請 被相続人から相続人への名義変更 戸籍謄本、遺産分割協議書など
②売買登記申請 相続人から買主への名義変更 売買契約書、買主の住民票など

同時申請のメリットは次のような点にあります。

  • 法務局への申請が一回で済む
  • 登記識別情報通知書などの書類が1枚で済む場合がある
  • 手続き全体の期間を短縮できる
  • 登録免許税の計算が一括で行える

ただし、手続きが複雑になるため、司法書士等の専門家に依頼することを強くおすすめします。特に、相続人が複数いる場合は、遺産分割協議の内容と売買契約の整合性を確認する必要があります。

相続不動産を売却するには仲介と買取のどちらがおすすめですか

相続不動産の売却方法には「仲介による売却」と「買取による売却」の2つがあります。それぞれの特徴を理解して、状況に応じて適切な方法を選択することが大切です。

仲介と買取の比較表をご覧ください。

項目 仲介による売却 買取による売却
売却価格 市場価格に近い金額 市場価格の7~8割程度
売却期間 3~6ヶ月程度 1週間~1ヶ月程度
買主 一般の個人・法人 不動産会社
仲介手数料 売却価格×3%+6万円+消費税 不要
契約不適合責任 買主との合意により決定 免責されるケースが多い

仲介による売却のメリット・デメリットは次のような点にあります。

  • メリット:市場価格に近い金額で売却可能、買主を広く募集できる
  • デメリット:売却まで時間がかかる、買主が見つからないリスクがある

買取による売却のメリット・デメリットは次の通りです。

  • メリット:短期間で現金化可能、リフォーム不要、契約不適合責任免責
  • デメリット:売却価格が市場価格より安くなる

相続の場合は早期に現金化して遺産分割したいケースが多いため、時間的なメリットがある買取が適している場合が多いでしょう

特に以下の状況では買取をおすすめします。

  • 相続税の納付期限(10ヶ月以内)が迫っている
  • 築年数が古く、リフォームが必要な物件
  • 相続人同士でのトラブルを避けたい
  • 管理費用や固定資産税の負担を早く解消したい

相続登記をした不動産を少しでも早く売却するポイントを教えてください

相続不動産を早期売却するためには、相続登記の手続きと並行して売却活動の準備を進めることが重要です。以下のポイントを押されば、売却期間を大幅に短縮できます。

①相続登記の前から売却活動の準備を進める

相続登記の手続き中でも、以下の準備は並行して行えます。

  • 不動産の査定依頼:複数の不動産会社に査定を依頼して相場を把握
  • 必要書類の準備:固定資産税納税通知書、測量図、建築確認済証などを準備
  • 物件の整理・清掃:内見に備えて物件の片付けや清掃を実施
  • 売却方針の決定:相続人間で売却価格や売却時期について合意形成

②相続登記の手続きを司法書士へ依頼する

相続登記を自分で行うと書類の不備により手続きが遅延するリスクがあるため、司法書士への依頼を強く推奨します。専門家に依頼するメリットは次の通りです。

メリット 詳細
手続きの迅速化 書類の不備による再申請を防止、1週間程度で登記完了
同時申請の対応 相続登記と売買登記の同時申請にも対応可能
複雑な相続への対応 相続人が多数いる場合や相続関係が複雑な場合も安心
売却サポート 不動産会社との連携により、売却手続きも一括サポート

③不動産買取業者へ売却する

仲介による売却では3~6ヶ月かかるのに対し、買取なら1週間~1ヶ月程度で売却が可能です。特に以下の場合は買取が効果的です。

  • 相続税納付期限が迫っている:相続開始から10ヶ月以内の納付期限に間に合わせる
  • 築年数が古い物件:リフォーム不要で現状のまま売却可能
  • 早期現金化が必要:遺産分割や相続人間の合意形成を円滑に進める

売却スケジュールの目安は以下を参考にしてください。

売却方法 相続登記 売却活動 合計期間
仲介(準備並行) 1~2週間 3~6ヶ月 3.5~6.5ヶ月
買取(準備並行) 1~2週間 1週間~1ヶ月 3週間~1.5ヶ月

これらのポイントを押さえておけば、相続不動産の売却期間を大幅に短縮し、相続人の負担軽減と円滑な遺産分割を実現できるでしょう。

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