親子共有名義で生前贈与するべき?贈与税のシミュレーションやメリット・デメリット

親子で共有名義の不動産を持っている場合、将来の相続税を意識して、子どもへ持分を生前贈与すべきか悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

持分を生前贈与して子どもの単独名義にしておけば、相続トラブルの防止や相続税の節税などのメリットが得られます。ただし、贈与税の発生や手続きにかかる費用など、いくつかの注意点もあります。

親子の共有名義で生前贈与をするメリットとデメリットは、主に以下のとおりです。

メリット デメリット
・相続トラブルを防止できる
・共有持分の相続税を抑えられる
・誰に共有持分を贈与するかを選べる
・共有名義が解消されれば不動産を活用しやすくなる
・贈与税が発生するケースがある
・持分移転登記などの手続きに費用がかかる
・必ずしも相続より税金が安くなるわけではない
・共有者以外に贈与をすると権利関係がさらに複雑になる
・相続の際に特別受益とみなされる可能性がある

このように、生前贈与には多くのメリットがある一方でデメリットもあるため、どのようなケースでも選ばれるわけではありません。実務上では、主に以下のようなケースで生前贈与が選ばれる傾向にあります。

  • 将来の相続で兄弟姉妹間のトラブルを避けたい
  • 親の共有持分を特定の子どもに確実に引き継がせたい
  • 親の判断能力があるうちに共有名義を整理しておきたい
  • 将来的に売却や賃貸、建て替えなどの活用予定がある
  • 不動産の評価額が高く、相続税対策を意識している

上記のケースに当てはまる場合、共有持分の買取を専門とする弊社としても、買取以外の選択肢として生前贈与を提示することがあります。反対に、いずれにも当てはまらない方は生前贈与以外の選択肢も検討したほうが良いでしょう。

親子の共有名義で生前贈与をする方法は、共有持分のすべてを1回で贈与する、贈与税がかからない範囲で毎年少しずつ贈与する、相続時精算課税制度を利用するなどがあります。

また、生前贈与で持分を親から子へ移す際には贈与契約書を作成のうえ、法務局で「所有権一部移転登記」という名義変更手続きが必要になります。手続きには専門知識が求められるため、登記の専門家である司法書士に依頼するのが基本となります。

本記事では、親子の共有名義で生前贈与するメリットやデメリット、贈与税のシミュレーション、生前贈与の方法まで詳しく解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

親子の共有名義で生前贈与するメリット

そもそも生前贈与とは、財産を持っている人が生きているうちに、子どもや孫などの家族へ財産を無償で譲り渡すことをいいます。不動産の生前贈与も、相続税対策の一環として行われることがあります。

親子で共有名義の不動産を生前贈与する場合、親が所有する共有持分を子どもに贈与する形になります。共有持分とは、共有不動産における所有権の割合のことであり、登記簿上では「持分2分の1」のように記載されています。

親が所有している持分をすべて子どもに生前贈与すれば、共有状態は解消され、不動産は子どもの単独名義になります。

親子の共有名義で生前贈与するメリットは以下のとおりです。

  • 相続トラブルを防止できる
  • 共有持分の相続税を抑えられる
  • 誰に共有持分を贈与するかを選べる
  • 共有名義が解消されれば不動産を活用しやすくなる

相続トラブルを防止できる

親が所有している共有持分を子どもに生前贈与しておくことで、相続発生時のトラブルを防ぎやすくなります。

親子で共有名義のまま親が亡くなると、親の持分は相続財産となり、「誰がどのように引き継ぐのか」を相続人全員で話し合う必要が生じます。

不動産は公平な分配が難しい財産であるため、「不動産を売却するか」「誰が不動産を引き継ぐのか」「維持管理費はどう負担するか」などで意見が分かれやすいものです。感情的な対立に発展するケースも多く、とくに兄弟姉妹が関わる相続では、関係性が悪化するきっかけになることもあります。

そこで、あらかじめ生前贈与によって親の共有持分を子どもへ移しておけば、不動産は子どもの単独所有となります。結果として不動産は相続財産の対象から外れ、「誰が不動産の持分を相続するのか」といった争いが起こりにくくなります。

共有持分の相続税を抑えられる

親子で共有名義の不動産を生前贈与すれば、相続税対策の一つにもなります。

生前贈与には「暦年贈与」という仕組みがあり、受贈者1人につき年間110万円までであれば贈与税が課税されません。110万円の基礎控除を活用し、毎年少しずつ親の共有持分を子どもへ移していけば、将来の相続財産を計画的に減らすことができます。

たとえば、不動産の評価額が2,000万円で、親の持分が2分の1である場合、1,000万円相当が相続財産として計上されます。さらに、不動産以外に預貯金や有価証券などの財産が残っていれば、相続税の課税対象額が増え、税負担が重くなるおそれがあります。

そこで、あらかじめ生前贈与によって共有持分の割合を減らしたり、最終的に単独名義へ移行したりしておくことで、相続税の課税遺産総額が抑えられます。これにより、共有持分の相続税が軽減される可能性があります。

誰に共有持分を贈与するかを選べる

生前贈与であれば、共有持分を誰に譲るのかを親自身が決めることができます。

相続の場合、協議の結果によっては持分が分散されて共有者が増え、不動産の活用が進まなくなるケースも少なくありません。一方、生前贈与であれば贈与者である親が受贈者を選べるため、将来のことを見据えた承継が可能になります。

たとえば、親と同居している子どもに共有持分を移して単独名義にしておけば、不動産の管理や修繕、売却といった意思決定を行う際に、他の家族と意見が分かれて揉めるリスクを抑えられます。

また、不動産を長期的に活用する予定がある場合には、将来を見据えて孫へ持分を生前贈与しておくという選択肢もあります。そうすると、子どもから孫への相続が発生した際に持分を移す手間が減り、結果的に税負担も抑えられます。

このように、生前贈与では先のことを見越して贈与する相手を選ぶことができ、不動産の活用をしやすくなる点が大きなメリットです。

共有名義が解消されれば不動産を活用しやすくなる

親子の共有名義の不動産で生前贈与を行い、共有名義が解消されれば不動産を活用しやすくなるというメリットがあります。

共有名義の不動産は、売却や増改築、建て替えといった重要な判断を行う際、原則として共有者全員の同意が必要になります。

相続が発生して複数の相続人が持分を取得すると、共有者が増えてしまい、「不動産をどう活用するか」について意見が分かれやすくなります。共有者のうち誰か1人でも反対すれば、売却や建て替えなどの手続きを進めることはできません。

たとえば、共有者の1人は「売却したい」と考えていても、他の共有者に「思い出があるから売りたくない」といった理由で反対されるようなケースです。

そこで、親子の共有名義となっている不動産を生前贈与によって子ども1人の単独名義に変更しておけば、その子どもの判断だけで売却や賃貸、建て替えなどが実行できます。

将来的に不動産の処分や活用を予定している場合には、生前に共有名義を解消しておくことで、共有名義特有のリスクを避けられます。

親子の共有名義で生前贈与するデメリット・注意点

親子の共有名義で生前贈与するのは多くのメリットがある一方、以下のようなデメリット・注意点もあります。

  • 贈与税が発生するケースがある
  • 持分移転登記などの手続きに費用がかかる
  • 必ずしも相続より税金が安くなるわけではない
  • 共有者以外に贈与をすると権利関係がさらに複雑になる
  • 相続の際に特別受益とみなされる可能性がある

贈与税が発生するケースがある

生前贈与には年間110万円の基礎控除がありますが、この金額を超えて贈与を行うと贈与税が発生します。

親子で共有持分を移す場合であっても、不動産を贈与する以上、税金の負担が生じる点には注意が必要です。

親から18歳以上の子どもへ共有持分を生前贈与する場合、「特例贈与財産用」の税率が適用されます。具体的な税率と控除額は以下のとおりです。

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

贈与税は税率が高く設定されているため、一括で持分を移すと高額な税金が課税される可能性があります。

不動産の贈与では、固定資産税評価額をもとに贈与額が算定されます。そのため、評価額が高い不動産ほど、贈与税の負担が大きくなってしまいます。

親子で共有名義の不動産を生前贈与する際は税理士などに相談のうえ、暦年贈与や相続時精算課税制度など贈与税の負担を減らす方法を検討しましょう。

参照:贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

持分移転登記などの手続きに費用がかかる

親子の共有名義不動産を生前贈与する場合、親の共有持分を子どもへ移すためには、法務局で持分移転登記という名義変更の手続きが必要になります。生前贈与は当事者同士の契約だけで完結するものではなく、登記まで行ってはじめて権利関係が確定します。

持分移転登記の手続きでは、登録免許税や司法書士へ依頼する場合の報酬などの費用が発生します。

登録免許税は不動産の固定資産税評価額に対して2%とされており、共有持分の場合は贈与する持分割合に応じた税額がかかります。司法書士報酬は事務所によって異なりますが、持分移転登記の場合は3万円~5万円程度が目安です。

もしも暦年贈与を利用し、毎年少しずつ持分を移転する方法を選ぶ場合には、持分を贈与するたびに登記が必要となるため、その都度これらの費用が発生します。税金を抑えるつもりで分割での贈与を選んだ結果、手続き費用が積み重なるケースもある点には注意が必要です。

さらに、共有持分を取得した側には不動産取得税が課されます。不動産取得税の税率は、固定資産税評価額に対して4%(軽減税率3%)となっており、こちらも持分を取得するたびに納める必要があります。

親子の共有名義で生前贈与を検討する際には、贈与税だけでなく、登記費用や関連する税金も含めてシミュレーションすることが大切です。

必ずしも相続より税金が安くなるわけではない

前述したとおり、生前贈与をすると贈与税が発生するケースがあります。

具体的には、基礎控除の110万円を超える財産を譲渡した際に、その金額に応じて贈与税が課されます。そのため、節税対策で親子共有名義の持分を生前贈与しても、必ずしも税金が安くなるとは限りません。

相続の場合にも相続税はかかりますが、相続税には最低でも3,600万円の基礎控除が設けられています。また、贈与税は相続税よりも税率が高く設定されているため、不動産の評価額や他の相続財産の状況によっては、生前贈与より相続のほうが税負担を抑えられるケースもあります。

生前贈与と相続のどちらが有利かは、不動産の評価額や他の財産状況などによって異なります。税金面で損をしないためにも、事前に税理士へ相談し、具体的なシミュレーションを行ったうえで判断することをおすすめします。

共有者以外に贈与をすると権利関係がさらに複雑になる

親子共有名義の不動産において、共有者以外の人に共有持分を生前贈与すると、権利関係が複雑になる可能性があります。共有者が増えることで、不動産の管理や活用、処分に関する意思決定が難しくなってしまう点にも注意が必要です。

たとえば、親と長男の2人で不動産を共有している状況で、親の共有持分を次男へ生前贈与した場合、不動産は長男と次男の共有名義になります。

この時点では大きな問題がなくても、将来的に長男が亡くなると、その持分は長男の配偶者や子どもへ相続されることになります。結果的に、次男は関係性の薄い人と不動産を共有することになり、権利関係がより複雑化してしまいます。

このように、共有者以外へ持分を贈与すると、世代を重ねるごとに共有者が増え、持分が細分化されていくおそれがあります。不動産の活用が進まなくなったり、話し合いが成立しにくくなったりするため、共有者以外への生前贈与はリスクが高いと認識しておきましょう。

相続の際に特別受益とみなされる可能性がある

親から共有持分の生前贈与を受けた場合、相続の際に「特別受益」として扱われる可能性があります。

特別受益とは、被相続人の生前に、生活の資本として贈与を受けた相続人がいる場合に、他の相続人との公平を図るため、贈与分を相続財産に持ち戻して相続分を計算する制度です。

共有持分の生前贈与が特別受益と判断されると、その分を考慮したうえで相続分が調整されます。結果的に、贈与を受けた相続人の取得分が減ったり、他の相続人に対して金銭で調整を求められたりするケースもあります。

たとえば、親から長男に対して1,000万円相当の共有持分を生前贈与し、それが特別受益とみなされた場合を考えてみましょう。遺産総額が2,000万円で相続人が兄弟2人であれば、本来はそれぞれ1,000万円ずつ取得する計算になります。

しかし、この1,000万円分の持分を遺産に持ち戻すと、遺産総額は3,000万円として扱われます。そのうえで公平に分けると、長男はすでに1,000万円分を受け取っているため追加で500万円、次男は1,500万円を取得する形になります。

このように、生前贈与を受けると特別受益とみなされ、相続時に不利な立場になる可能性があります。後の相続で揉めないためには、生前贈与を行う段階で、持分を特別受益に含めるのかどうかについて、相続人同士で認識を共有しておくことが大切です。

親子の共有名義で生前贈与する場合の贈与税シミュレーション

親子の共有名義で生前贈与する場合の贈与税について、以下の条件でシミュレーションをしていきます。

  • 暦年贈与を利用して毎年少しずつ共有持分を贈与した場合
  • 共有持分を一括で生前贈与した場合
  • 相続時精算課税制度を利用して共有持分を贈与した場合

暦年贈与を利用して毎年少しずつ共有持分を贈与した場合

親が所有する共有持分の評価額が1,000万円で、子ども1人に対して暦年贈与を利用し、毎年110万円以内で少しずつ贈与するケースを想定します。暦年贈与には受贈者1人あたり年間110万円の基礎控除があるため、この範囲内であれば贈与税はかかりません。

基礎控除の範囲内で生前贈与を続けた場合、「1,000万円 ÷ 110万円 = 約10年」ですべての持分の贈与が完了し、子どもの単独名義にすることが可能です。

実際には、毎年110万円ずつ贈与を行うと、9年分で990万円、10年目に残りの10万円分を贈与する形になります。いずれの年も贈与額が110万円以下であれば、基礎控除内に収まるため、各年の贈与税は0円となります。

ただし、毎年同じ金額を同じ時期に贈与していると、税務署に「定期贈与」とみなされ、後から贈与税が課される可能性があります。また、毎年の登記手続きや不動産取得税などの費用は別途発生する点には注意が必要です。

共有持分を一括で生前贈与した場合

親が所有する共有持分の評価額が1,000万円で、その全額を1年で子ども1人に生前贈与するケースを想定します。この場合、適用できるのは暦年贈与の基礎控除110万円のみとなります。

このケースの場合、まず贈与税の課税価格は次のように計算されます。

1,000万円 − 110万円=890万円

上記の890万円が課税価格となるため、これに特例贈与財産用の税率を当てはめ、贈与税を計算します。課税価格が600万円超1,000万円以下の場合、税率は30%、控除額は90万円となるため、計算式は以下のとおりです。

890万円 × 30% − 90万円=177万円

このケースでは、共有持分を一括で生前贈与すると、結果として贈与税は177万円かかることになります。

贈与税は「超過累進課税制度」が採用されているため、持分の評価額が高くなるほど税率も上がり、思わぬ高額納税につながる可能性があります。親子の共有名義を一括で生前贈与する場合、必ず贈与税のシミュレーションを事前に行いましょう。

相続時精算課税制度を利用して共有持分を贈与した場合

相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫に対して財産を贈与する場合に選択できる贈与税の制度です。こちらの制度を利用すると、暦年贈与の基礎控除110万円に加えて、累計2,500万円までの特別控除を使うことができます。

ここでは、親が60歳以上、子どもが18歳以上で、親の共有持分の評価額が3,000万円の場合を想定します。相続時精算課税制度を選択した場合の課税価格は、以下のとおりです。

3,000万円 − 110万円(基礎控除) − 2,500万円(特別控除)=390万円

相続時精算課税制度では、特別控除後の課税価格に対して、贈与税率は一律20%が適用されます。そのため、贈与税の計算方法は以下のとおりです。

390万円 × 20%=78万円

相続時精算課税制度を利用したケースでは、共有持分3,000万円を一括で生前贈与した場合でも、贈与税は78万円と大幅に抑えられることがわかります。

ただし、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、将来の相続時に相続財産へ持ち戻され、相続税の計算対象となります。贈与時の税額だけを見ると負担が軽く感じられても、相続全体の税額に影響する点には注意が必要です。

親子の共有名義で生前贈与が向いている・向いていないケースの例

親子の共有名義で生前贈与が向いている・向いていないケースの例は以下のとおりです。

向いているケース 向いていないケース
・将来の相続で兄弟姉妹間のトラブルを避けたい
・親の共有持分を特定の子どもに確実に引き継がせたい
・暦年贈与を活用し、時間をかけて相続財産を減らしたい
・親の判断能力があるうちに共有名義を整理しておきたい
・将来的に売却や賃貸、建て替えなどの活用予定がある
・不動産の評価額が高く、相続税対策を意識している
・高額な贈与税が発生するのを避けたい
・相続税の基礎控除や特例を使ったほうが節税になる
・贈与後も共有状態が残り、権利関係が整理できない
・生前贈与が特別受益となり、相続時に揉める可能性がある
・登記費用や不動産取得税などの負担をかけたくない

親子の共有名義で生前贈与が向いているケース

親子の共有名義で生前贈与が向いているケースは以下のとおりです。

  • 将来の相続で兄弟姉妹間のトラブルを避けたい
  • 親の共有持分を特定の子どもに確実に引き継がせたい
  • 親の判断能力があるうちに共有名義を整理しておきたい
  • 将来的に売却や賃貸、建て替えなどの活用予定がある
  • 不動産の評価額が高く、相続税対策を意識している

相続が発生したあとに相続人同士で話し合いが必要になる状況を避けたい場合には、親が元気なうちに共有持分を整理しておくことで、将来の対立を未然に防ぎやすくなります。

また、親の共有持分を特定の子どもに引き継がせたいと考えている場合、生前贈与であれば承継先を明確に指定できます。

さらに、親の判断能力があるうちに共有名義を解消しておけば、将来的に認知症などで意思確認が難しくなるリスクにも備えられます。不動産を売却したり、賃貸や建て替えを検討したりする予定がある場合にも、単独名義にしておくことで意思決定がスムーズになります。

そのほか、不動産の評価額が比較的高く、相続税対策を意識している場合にも生前贈与が向いているケースがあります。ただし、すべてのケースで生前贈与が節税になるわけではないため、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。

親子の共有名義で生前贈与が向いていないケース

親子の共有名義で生前贈与が向いていないケースは以下のとおりです。

  • 贈与税が発生するのを避けたい
  • 相続税の基礎控除や特例を使ったほうが節税になる
  • 贈与後も共有状態が残り、権利関係が整理できない
  • 生前贈与が特別受益となり、相続時に揉める可能性がある
  • 登記費用や不動産取得税などの負担をかけたくない

贈与税は基礎控除が低く税率が高いため、税負担をできるだけ避けたいと考えている場合には注意が必要です。とくに、不動産の評価額が高いと非課税枠を超えてしまい、想定以上の贈与税が発生することがあります。

また、相続税には基礎控除や小規模宅地等の特例など、条件次第で税負担を大きく軽減できる制度があります。これらを活用したほうが税金が安くなるケースもあるため、節税のみを理由に生前贈与を選ぶのは控えましょう。

さらに、生前贈与によって取得した共有持分が相続時に特別受益とみなされると、相続の際に調整が必要になり、トラブルの原因になることもあります。このような調整が負担になると感じる場合には、生前贈与は向いていないといえるでしょう。

そのほか、登記費用や不動産取得税など、名義変更に伴うコストをかけたくない場合にも注意が必要です。

税金や手続き費用を含めて総合的に見たときに負担が大きいと感じる場合は、無理に生前贈与を進めず、相続で親の持分を取得することも検討してみてください。

親子の共有名義で生前贈与をする方法

親子の共有名義で生前贈与をする方法は、主に以下の3つがあります。

  • 共有持分のすべてを一度に贈与する
  • 数年にかけて共有持分を段階的に贈与する(暦年贈与)
  • 相続時精算課税制度を利用する

共有持分のすべてを一度に贈与する

共有持分のすべてを一度に贈与する方法は、親が所有している共有持分を1回の生前贈与で子どもへまとめて移転する方法です。持分を分割せずに移すため、贈与後は不動産が子どもの単独名義になります。

一括贈与のメリットは、登記手続きが1回で済む点です。暦年贈与のように毎年手続きを繰り返す必要がなく、手続きの手間や登記に伴う費用を最小限に抑えられます。

一方、不動産の評価額が高い場合には、暦年贈与の基礎控除を超えた部分に対して高額な贈与税が発生する点がデメリットです。とくに、評価額が大きい共有持分を一括で贈与すると、想定以上の税負担になることもあります。

そのため、一括贈与は不動産の評価額があまり高くない場合や、親の年齢や健康状態に鑑みて暦年贈与を長期間続けるのが難しく、早めに生前贈与を完了させたいという場合に向いています。

数年にかけて共有持分を段階的に贈与する(暦年贈与)

数年かけて共有持分を段階的に贈与する暦年贈与は、年間110万円の基礎控除を活用し、親の共有持分を毎年少しずつ子どもへ贈与していく方法です。

贈与額を基礎控除の範囲内に抑えれば、高額な贈与税が発生することはありません。贈与税がかからない場合には、原則として確定申告も不要となります。

注意点として、共有持分を贈与するたびに名義変更が必要となるため、持分移転登記の手続きが毎年必要になり、その際に登録免許税や不動産取得税、司法書士費用が発生します。また、共有持分の移転が完了するまでに年数がかかる点もデメリットといえます。

さらに、毎年同じ時期に同じ金額を贈与していると、税務署から「あらかじめ決められた総額を分割して定期贈与している」と判断され、後から贈与税を課される可能性があります。

税務署から定期贈与と判断されないための主な対策は以下のとおりです。

  • せ以前贈与のたびに贈与契約書を作成する
  • 贈与の時期や金額を毎年変える
  • あえて基礎控除をやや超える金額で贈与し、少額の贈与税を納めておく

暦年贈与は時間と手間はかかるものの、贈与税の負担を抑えながら計画的に共有名義を解消できる方法です。生前贈与を急いでいない場合や、高額な贈与税を回避したい場合に向いています。

相続時精算課税制度を利用する

相続時精算課税制度は、親が60歳以上、子どもが18歳以上の場合に利用できる生前贈与の制度です。

具体的には、累計2,500万円までの生前贈与であれば、親から子どもへ持分を一括で移しても贈与税がかかりません。また、令和6年1月の法改正により、相続時精算課税制度でも年間110万円の基礎控除が適用されるようになりました。そのため、合計2,610万円までは贈与税が発生しない仕組みになっています。

一方、2,500万円を超える部分については、超過額に対して一律20%の贈与税が課されます。通常の贈与と比べると税率は抑えられているものの、不動産の評価額が大きくなると高額な税負担が発生する可能性があります。

注意点として、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は、相続時に相続財産へ持ち戻して相続税を計算する必要があります。この際、不動産の評価額は原則として贈与時点の評価額が用いられ、後から価格が上下しても相続時には変更されません。

たとえば、5,000万円相当の共有持分を生前贈与した場合、そのまま5,000万円を相続財産に加算したうえで相続税を計算する必要があります。ただし、相続時に計算された相続税から、すでに支払った贈与税は差し引かれます。

仮に贈与税として300万円を納め、相続税が400万円だった場合、差額の100万円を納める形になります。反対に、贈与税が400万円で相続税が300万円だった場合には、超過分の100万円が還付される仕組みです。

親が高齢で早めに共有持分を移したい場合や、将来的に不動産の価値が上がることが見込まれる場合には、相続時精算課税制度の利用が向いています。

参照:相続時精算課税の選択|国税庁

親子の共有名義で生前贈与をする場合の流れ

親子の共有名義で生前贈与をする場合、以下の流れが基本となります。

  1. 贈与契約書を作成する
  2. 所有権一部移転登記を行う
  3. 贈与税を申告する

1. 贈与契約書を作成する

親から子どもへ共有持分を生前贈与する場合でも、贈与契約書を作成する必要があります。

贈与契約書には、贈与者と受贈者それぞれの氏名、贈与契約日、不動産の情報、贈与する共有持分の割合などを明記します。これらの内容を記載したうえで、双方が署名・捺印をすれば、贈与契約書の作成は完了です。

なお、暦年贈与を活用して段階的に持分を移す場合、「持分110万円ずつを10年間にわたって贈与する」といった内容にすると、税務署に定期贈与とみなされ贈与税が課されるリスクがあります。

そのため、暦年贈与を行う場合でも、贈与のたびに新たに贈与契約書を作成するようにしましょう。

共有持分の贈与契約書の作成方法については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせてチェックしてみてください。

2. 所有権一部移転登記を行う

贈与契約が成立した後は、法務局で所有権一部移転登記を行います。

贈与契約書を作成しただけでは、不動産の名義は変更されません。登記手続きを行うことで、親から子どもへの共有持分の移転が正式に反映されます。

所有権一部移転登記を行う際には、登記申請書のほか、贈与契約書、印鑑証明書、住民票、固定資産税評価証明書など、複数の書類を準備して法務局へ提出する必要があります。

登記手続きは自分で行うことも可能ですが、書類の不備があると手続きが滞るため、司法書士に依頼するのが基本です。とくに、共有持分の移転は登記内容が複雑になりやすいため、専門家に任せたほうがスムーズに進められます。

3. 贈与税を申告する

共有持分の生前贈与を行った場合、贈与税の課税対象となる可能性があります。具体的には、1月1日から12月31日までの1年間に、親から子どもへ贈与された財産の合計額が110万円を超える場合に確定申告の対象となります。

贈与税の申告期限は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までです。申告と納税は、贈与を受けた子どもなどの受贈者が行います。期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生するおそれがあるため、注意が必要です。

確定申告の際には、確定申告書や贈与契約書、不動産の評価額に関する資料などを提出します。

なお、不動産の評価額の算定や贈与税の計算は複雑になりやすいため、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。

まとめ

親子の共有名義不動産を生前贈与することで、将来の相続トラブルを防止しやすくなり、相続税対策や共有名義の解消につながるというメリットがあります。親の判断能力があるうちに持分を整理しておけば、不動産の管理や活用もしやすくなるでしょう。

一方、基礎控除を超えた生前贈与を行うと贈与税が発生し、登記手続きや不動産取得税などの費用負担も伴います。また、共有者以外へ持分を贈与すると権利関係が複雑になりやすく、特定の相続人にのみ生前贈与を行った場合には、相続時に特別受益として扱われる可能性もあります。

このように、生前贈与にはメリットとデメリットがあり、場合によっては相続にしたほうが良いケースもあります。親子共有名義で生前贈与をするべきかどうかは、不動産の評価額や家族構成、将来の活用予定などによって判断が分かれます。

そのため、生前贈与をするべきかどうか迷ったときは、相続に詳しい税理士や弁護士などの専門家に相談し、アドバイスを受けましょう。

よくある質問

親が認知症になったら生前贈与はできませんか?

生前贈与は、贈与する側に「自分の財産を誰にどのように渡すのか」を判断する意思能力が求められます。そのため、親が認知症になった場合、生前贈与はできません。
親が認知症になった場合、まず家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任する手続きが必要になります。ただし、成年後見制度は本人の財産を保護することが目的であるため、相続税対策などを目的とした生前贈与は原則として認められません。

親子共有名義で住宅ローンが残っていても生前贈与はできますか?

親子共有名義の不動産に住宅ローンが残っていても、法的には共有持分の生前贈与や名義変更は可能です。ただし、不動産には抵当権が設定されているため、金融機関の承諾を得たうえで生前贈与を行う必要があります。
そのため、住宅ローンが残っている不動産の生前贈与を行う場合、まずは金融機関に相談しましょう。

親子共有名義で生前贈与をする際、兄弟姉妹全員の同意は必要ですか?

親子共有名義の不動産で生前贈与を行う際、法的には兄弟姉妹全員の同意は必要ありません。共有持分の贈与は、あくまで親が所有している持分を子どもへ移転する行為で当事者当事者以外の同意は求められないためです。
ただし、特定の子どもにだけ共有持分を生前贈与すると、他の兄弟姉妹から不公平だと受け取られ、相続時にトラブルへ発展する可能性があります。そのため、法的な義務はなくても、生前贈与を行う前に兄弟姉妹へ事情を説明し、同意を得ておくことが望ましいでしょう。

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