共有名義不動産の家賃は請求できる?請求額の計算例や具体的な手続きを解説

「相続した実家に兄だけがタダで住んでいる」「アパートの家賃を1人が受け取り、自分には分配してくれない」など、弊社へ相談いただく方の中には、共有名義不動産の家賃をめぐる悩みを抱えている方も多く見られます。

他の共有者が共有名義不動産の使用や家賃収入を独占している場合、自分の持分に応じた家賃の支払いや、家賃収入の分配を請求できる可能性があります。「自分は使っていないのに、家賃も受け取れない」という状況を、必ずしも我慢し続ける必要はありません。

例えば、共有者が自分の持分を超えて不動産を使っている場合、無料で使うなどの取り決めがなければ、他の共有者に家賃を支払う必要があります。一方で、「家賃を払わずに住んでもよい」といった使用貸借が認められている場合などは、家賃を請求できないこともあります。

一般的に、共有者に家賃請求できるケースとできないケースは次の通りです。

具体例
共有者に家賃を請求できる可能性があるケース ・共有名義不動産の家賃収入を特定の共有者が独占している場合
・特定の共有者が共有名義不動産を占有している場合
共有者への家賃請求が認められない可能性があるケース ・使用貸借が認められる場合
・被相続人と同居してきた相続人がそのまま居住する場合
・不動産を共有していた内縁の夫婦の一方が死亡した場合

まずは書類や通帳などを確認して、「自分のケースでは請求できるのか」「いくら受け取るべきなのか」を整理し、根拠を示して話し合うことが大切です。

もし話し合いで解決できない場合は、内容証明郵便による通知や、調停・訴訟などの対応を検討できます。他の共有者との交渉代理や、内容証明郵便の作成・送付、調停・訴訟への対応などは、弁護士に依頼するのがよいでしょう。

今後も他の共有者による家賃滞納やその他共有名義関係のトラブルが続くことに不安があるなら、共有状態から抜け出すのも選択肢の1つです。

本記事では、共有者に家賃を請求できるケース・できないケースから、具体的な金額を使った計算例、必要な資料と手続きの進め方まで詳しく解説します。

本記事においては読みやすさを重視するために、第三者からの家賃収入と、他の共有者が不動産を使用した分の家賃を、まとめて家賃と表現している部分があります。

共有名義不動産における他の共有者への家賃請求は法的に可能

共有名義不動産において、他の共有者に対する家賃の請求は、法律上認められる場合があります。請求できる家賃とは、主に「賃貸アパートなどの貸し出しで得た家賃収入」と「共有名義不動産を使用した分の家賃」の2つです。

ただし、家賃収入や使用分の家賃を請求するには、原則として請求できるだけの法的な根拠が必要になります。「自分は〇万円多くもらえるはずだ」「あの人は不動産を多く使っているから、もっと家賃を支払うべきだ」などを根拠なく主張しても、その請求が有効になるとは限りません。

では、法的請求ができるかについて何を見て判断するかと言うと、原則として「共有持分割合に応じて自分が受け取るべき金額が、支払われているか」です。

例えば、共有持分を50%所有している場合は、「自分が受け取るはずの50%分よりも、実際に受け取っている金額が少なくないか」「他の共有者だけが家全体を使っているのに、自分には家賃が支払われていないのではないか」を確認しましょう。

もし受け取るべき家賃に不足があれば、他の共有者に支払いを求めることになります。

ただし、共有者間で家賃収入の分配割合や、支払家賃の金額を定めている場合は、その設定したルールから逸脱した金額になっているかで判断します。共有持分割合に応じるのはあくまで原則であり、民法第91条に基づき、共有者間で合意したルールがあればそちらを優先するためです。

そのため、他の共有者に家賃収入や使用分の家賃を請求する場合は、「家賃関係の管理ルールが定められていないか」「そのルールが自分と請求相手との間にも適用されるか」も重要な確認事項になります。

以下では、他の共有者に対して家賃収入および使用分の家賃を請求できる法的根拠や、請求できる原則の基準について解説します。

第三者から得た家賃収入を適切に分けていない場合に請求する

賃貸アパートなどを複数人で経営している場合、得られた家賃収入は各共有者の共有持分割合に応じて分けるのが原則です。

共有持分割合や合意した分配ルールに基づく自分の取り分よりも、実際に支払われた金額が少ない場合は、家賃を受け取っている共有者に不足分を請求できる可能性があります。他の共有者が、法律上の理由なく自分に分けるべき家賃収入まで受け取っている場合、その分が「不当利得」に該当する可能性があるためです。

不当利得に該当する場合は、民法第703条に基づく「不当利得返還請求」が認められることがあります。

■不当利得返還請求とは
法律上の原因なく他人の財産などから利益を得て、そのために他人に損失を与えた人に対し、その利益の返還を求めることです。共有不動産の家賃収入についても、自分に帰属する取り分を他の共有者が受け取ったまま返さない場合などに問題となります。

例えば、あるアパートを兄弟3人が持分割合50%・30%・20%ずつ共有し、月50万円の家賃収入を得ているとします。別段の分配の取り決めがなく、管理費などの費用を差し引く前であれば、それぞれの取り分の基準は次の通りです。

  • A(50%):25万円
  • B(30%):15万円
  • C(20%):10万円

ここで、Aの家賃収入が10万円しか支払われず、Bが15万円多く受け取って30万円になっている場合は、Bに対して15万円分の家賃収入の返還を求めることになります。

もし家賃収入の分け方について事前に共有者間でルールを決めている場合は、合意内容に基づいた分配の通りに支払われていなかった場合に、他の共有者に家賃収入を請求できる可能性があります。

株式会社クランピーリアルエステート 大江 剛 代表取締役 宅地建物取引士

専門家のコメント

家賃収入に関する請求は、自分自身が第三者と直接賃貸借契約を結んでおらず、賃貸契約書に名前がなくても、自分の取り分が支払われていなければ、家賃を受け取っている共有者に支払いを求めることが可能です。

不動産の使用に対して未払いの家賃を請求する

「特定の共有者だけが家を使っているせいで、同じく共有者である自分が使えずに困っている」という場合、他の共有者はその共有者に使用分の家賃を請求できます。

この場合の請求は、不当利得返還請求ではなく、共有物の使用について定めた民法第249条第2項に基づくものです。同項では、自分の持分を超えて共有不動産を使用する共有者に、その分の金銭を他の共有者へ支払う義務を定めています。

(共有物の使用)
第249条第2項 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
e-Gov法令検索 民法第249条第2項

例えば、実家を兄弟3人が持分割合A50%・B30%・C20%で共有し、AとBだけが家全体を使用しているとします。この場合、Cは自分の持分に応じた家賃をA・Bに求められる可能性があります。

なお、この民法第249条第2項に基づく請求でも、金額などについて別の取り決めを共有者間でしている場合は、その内容を踏まえて請求の可否や金額を判断します。

共有名義不動産で共有者に家賃を請求できる具体的なケース

共有名義不動産において家賃請求ができる法的根拠はあるものの、実際にどのようなケースで請求できるのか具体例を知りたい人も多いのではないでしょうか。

共有名義不動産の実務上、共有者に対して実際に家賃請求するケースとして多く見られるのは、以下の2つです。

  • 共有名義不動産の家賃収入を特定の共有者が独占している場合
  • 特定の共有者が共有名義不動産を占有している場合

上記に挙げたケースは、共有者間の関係をこじれさせる原因となります。弊社にも、家賃などの未払いが発端となり、共有状態から抜け出したいと相談いただくことも少なくありません。

家賃請求をきっかけに、相手に支払いや分配のルールを理解してもらい、「今後は決めたとおりに支払おう」と意識してもらえれば、未払いが発生する状況自体を改善できる可能性があります。

「この程度の金額なら我慢すべきか」と耐える前に、「請求を通じて状況が好転する見込みがあるのか」という視点でも、共有者への家賃請求を検討してみてください。

以下では、共有名義不動産で共有者に家賃を請求できる具体的なケースを解説します。

共有名義不動産の家賃収入を特定の共有者が独占している場合

以下に挙げたように、特定の共有者が他の共有者に分けるべき家賃収入を独占しているケースは、共有名義のアパートなどでよく見られるトラブルです。

  • 兄弟で相続したアパートの家賃を兄がすべて受け取り、弟に分配していない
  • 共有者が2分の1ずつ家賃収入を受け取る取り決めなのに、一方の共有者に一部しか支払われていない
  • 家賃を管理する共有者が、内訳のわからない経費を差し引き、他の共有者への分配額を減らしている

このケースでは、家賃収入を独占している特定の共有者に対して、民法第703条に基づき自分や他の共有者が不当利得返還請求を行うことが考えられます。

家賃収入の独占が見られる場合は、まず共有者間で決めた分配方法や支払時期、管理費・修繕費などの負担をチェックし、支払われるべき金額が未払いになっているかを確認してみてください。

差し引かれた経費の内訳がわからない場合は、明細や領収書などの提示を求めましょう。

特定の共有者が共有名義不動産を占有している場合

特定の共有者が共有名義不動産を占有している場合に、その共有者に対して不動産を使っている分の家賃の支払いを求めるのも、共有名義にまつわるトラブルでよく見られるケースの1つです。

以下のような事例では、「特定の共有者が不動産を独占している」と判断され、民法第249条第2項に基づく請求ができる可能性があります。

  • 兄弟が2分の1ずつ相続した家に、兄だけが住んで家全体を使用している
  • 夫婦で購入した共有名義の家に、離婚後も元配偶者だけが住み続けている
  • 共有者の一人が、共有名義の建物全体を自分の店舗や事務所として使用している

ただし、無償使用について合意がある場合は、その内容を確認しましょう。「無料で使ってよい」と合意していれば、家賃を請求できないことがあるためです。

事前に家賃の金額を取り決めている場合は、その金額に沿って支払いを求めることになります。後からトラブルが生じないように、居住を始めた経緯や、当時の話し合いの内容を確認しておいてください。

共有名義不動産の家賃を請求できないケース

特定の共有者が自己持分を超えて使用している場合でも、無償使用の合意などがあれば、他の共有者が家賃を請求できないことがあります。

共有名義不動産の家賃を請求できない主なケースは、以下の3つです。

  • 使用貸借が認められる場合
  • 被相続人と同居してきた相続人がそのまま居住する場合
  • 不動産を共有していた内縁の夫婦の一方が死亡した場合

不動産を占有している共有者に対しても、家賃を請求できるとは限りません。どのような状況の場合に、家賃を請求できないのか確認していきましょう。

使用貸借が認められる場合

共有者同士で使用貸借契約を結んでいる、つまり無償で不動産を使用する合意がなされている場合は、その合意の内容によって家賃を請求できないことがあります。

◾️使用貸借とは
使用貸借とは、無償で物を貸し借りする契約です。不動産においては「親が子どもに土地を貸す」など、無償で土地や建物を使用・収益させ、契約終了時に返還してもらうものを指します。使用貸借契約は、口頭でも書面でも成立します。

使用貸借契約が結ばれていたと認められる場合、その合意が有効な間は、合意した範囲の使用について家賃を請求できません。

ただし、住むことを認めたというだけでは、無償での使用まで認めたことになるとは限りません。家賃を支払う約束があったのか、いつまで、どの範囲を無料で使用してよいと決めていたのかを確認する必要があります。

例えば、親族間で口頭の約束だけをしていると、無償使用の範囲や終了の条件がはっきりせず、「言った・言わない」のトラブルにつながることがあります。

使用貸借については、以下の記事で詳しく解説しています。

被相続人と同居してきた相続人がそのまま居住する場合

不動産の所有者が亡くなる前から、その許諾を得て同居してきた相続人が引き続き居住する場合、特段の事情がない限り、遺産分割が終了するまでの間は家賃を請求できません。

これは被相続人とその相続人との間に、相続開始から遺産分割までを期間とする使用貸借契約が成立していたと推認されるためです。

この点について、最高裁判所は次のように示しています。

共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、右建物について、相続開始時を始期とし、遺産分割時を終期とする使用貸借契約が成立していたものと推認される。

ただし、使用貸借契約が存続すると推認されるのは、原則として遺産分割が終了するまでの間です。

遺産分割後に家賃を請求できるかは、誰が不動産を取得したか、その後の使用について合意があるかなどによって異なります。

ポイント

■法律上の配偶者には、居住権が認められる場合もある

被相続人の法律上の配偶者には、使用貸借とは別に、民法に基づく「配偶者居住権」や「配偶者短期居住権」が認められる場合があります。これらの権利に基づいて無償で居住している場合、その権利の範囲・存続期間内では家賃を請求できません。

不動産を共有していた内縁の夫婦の一方が死亡した場合

内縁の夫婦が共有する不動産を、居住または共同事業のために共同で使用してきた場合、一方が死亡しても、その相続人は残された内縁の相手に家賃を請求できません(無償での使用を認めない約束があった場合などを除く)。

内縁の夫婦間には、一方の死亡後も、他方がそれまでと同じ目的・使い方で単独での無償使用を続ける合意があったと推認されるためです。

この点について、最高裁判所は次のように示しています。

内縁の夫婦がその共有する不動産を居住又は共同事業のために共同で使用してきたときは、特段の事情のない限り、両者の間において、その一方が死亡した後は他方が右不動産を単独で使用する旨の合意が成立していたものと推認される。

例えば、内縁の夫婦AとBが共有する家に一緒に住んでおり、Aが亡くなった後もBが住み続けている場合です。

その無償使用の合意が認められる場合、Aの持分を相続したCは、合意に基づくBの使用について家賃を請求できません。

ただし、内縁関係にあったというだけで、必ず無償使用が認められるわけではありません。また、合意が変更された場合や共有関係が解消された場合は、その後の使用や家賃の扱いを改めて確認する必要があります。

共有者への家賃請求はいくらになる?簡易的なシミュレーションで解説

特定の共有者が共有名義不動産全体を使用している場合、他の共有者が請求できる家賃は「家賃相場×自己の持分割合」で計算するのが基本です。ただし、共有者間で家賃の金額を取り決めている場合は、その内容を踏まえて計算します。

第三者から得た家賃収入の分配を求める場合は、実際の家賃収入を基に、自分の取り分を確認しましょう。いずれの場合も、未払いになっている期間や、すでに受け取った金額などを整理しておくことが大切です。

とはいえ、文章だけでは「いくら請求できそうなのか」「どのような計算で請求額を出しているのか」が分かりづらいと思います。

そこで、ここからは具体的な金額を用いた3つのシミュレーションを紹介します。

株式会社クランピーリアルエステート 大江 剛 代表取締役 宅地建物取引士

専門家のコメント

いずれの事例も、計算方法の基本を説明するための簡易的な架空の例です。実際には、共有持分割合や取り決めに加えて、実際の使用状況、物件の状態、固定資産税・修繕費などの負担が、請求額や最終的な精算額に影響する場合があります。

事例1.家賃収入が分配されていない場合のシミュレーション

兄弟で共有するアパートの家賃を兄がまとめて受け取っているものの、弟への分配が不足しているケースです。

  • 共有持分割合:兄・弟がそれぞれ50%
  • 計算対象の期間:6か月間
  • 6か月間の家賃収入:120万円(全額を兄が受領)
  • 6か月間の管理費:6万円
  • 6か月間の修繕費:18万円
  • 弟がすでに受け取った金額:18万円

ここでは、管理費と修繕費の内容が確認でき、これらを家賃収入から差し引いた残額を半分ずつ分配する取り決めがあるものとします。

弟の取り分を計算したうえで、すでに受け取っている18万円を差し引くと、未分配額を求められます。

【弟への未分配額の計算】
①分配対象となる金額
120万円-管理費6万円-修繕費18万円=96万円②弟が受け取る取り分
96万円×50%=48万円

③すでに受け取った金額を差し引く
48万円-18万円=30万円

この前提では、弟への未分配額は30万円です。家賃収入120万円の半分をそのまま請求するのではなく、取り決めに沿った経費の精算と、受取済みの金額を反映する必要があります。

差し引かれた経費が不明な場合は、まず明細や領収書などを見て、費用の内容や金額を確認しましょう。

事例2.他の共有者だけが住んでいる場合のシミュレーション

続いては、兄弟で共有する家に弟だけが住んでおり、兄に家賃を支払っていないケースです。このケースでは、民法第249条第2項に基づく請求を行います。

  • 共有持分割合:兄・弟がそれぞれ50%
  • 使用状況:弟だけが家全体に住み、兄は使用していない
  • 不動産全体の適正な家賃相当額:月12万円
  • 計算対象の期間:家賃の支払義務がある6か月間
  • 兄がすでに受け取った金額:0円

無償使用や別の家賃額の合意はなく、費用の立替精算などもないものとします。

【兄への未払額の計算】
①兄が受け取る月額
12万円×50%=6万円②6か月分の未払額
6万円×6か月=36万円

この前提では、弟が兄に支払う家賃は月6万円で、6か月分の未払額は36万円です。弟自身の持分に相当する月6万円は、兄への支払いには含めません。

なお、計算に使う家賃相場は、周辺にある物件のうち、建物の種類や広さ、築年数、駅からの距離などの条件が近いものを参考にします。

金額について共有者間で意見が分かれる場合は、不動産会社の賃料査定なども参考にして検討しましょう。

事例3.共有者間で家賃の金額を取り決めている場合のシミュレーション

共有者間で家賃の金額を取り決めている場合は、合意した金額を基準に未払い分を計算します。

例えば、先ほどと同じく弟だけが共有の家に住んでいるものの、兄弟で話し合い、弟から兄へ月4万円を支払うと決めていたケースです。

  • 共有持分割合:兄・弟がそれぞれ50%
  • 不動産全体の適正な家賃相当額:月12万円
  • 合意した家賃:弟から兄へ月4万円を支払う
  • 実際に支払われている家賃:月2万円
  • 支払いが不足している期間:6か月間

この6か月間は月4万円の取り決めが有効に続いており、減額や支払いの免除には合意していないものとします。

【兄への未払額の計算】
①毎月の不足額
合意した家賃4万円-支払済みの家賃2万円=2万円②6か月分の未払額
2万円×6か月=12万円

この前提では、兄への未払額は12万円です。家賃相場と共有持分割合から計算すると月6万円になりますが、月4万円を支払う合意があるため、合意した金額との差額を求めます。

請求する前に、「取り決めた金額」「いつから適用するのか」「途中で内容を変更していないか」なども確認しておきましょう。共有名義不動産の使用についての合意書やメールなどの記録と、実際の入金履歴を照らし合わせると、不足している金額を明確にしやすくなります。

共有者に家賃を請求する方法|必要書類や手続きの注意点も解説

共有者に家賃を請求する場合、まずは共有者同士で話し合いを行い、それでも解決できないなら法的手続きで解決を求めるのが一般的です。

共有者に家賃を請求する方法 概要
共有者同士で話し合う ・資料や取り決めを確認して請求額の根拠を整理
・家賃収入の分配と共有者自身の使用に対する家賃を区別
・電話やメールで金額や支払方法を協議
・未払い分の精算や今後の支払いについて合意書を作成
内容証明郵便で通知する ・請求理由や対象期間・金額・支払期限などを通知
・配達証明を付けて通知内容と配達の記録を保存するのがよい
調停を申し立てる ・裁判所を通じた話し合いで合意を目指す
・成立した調停の調書には原則として確定判決と同じ効力
家賃の支払いを求める訴訟を起こす ・請求の根拠と証拠を示して支払いを求める
・判決後も支払われなければ強制執行による回収を検討
・費用や期間・回収の見込みを確認して弁護士への依頼を検討

請求の根拠は、不動産の使用状況や共有者間の合意などによって異なります。不当利得返還請求のほか、民法249条2項に基づいて持分を超える使用分の家賃を請求する場合や、合意に基づいて支払い・分配を求める場合があります。

以下では、共有者に家賃を請求する方法を具体的に見ていきましょう。

以下は解決に向けた進め方の一例であり、すべての手続きを必ずこの順番で行うわけではありません。

訴訟では、請求の根拠や証拠を整理し、裁判所に主張・立証する必要があるため、争いがある場合は早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。

家賃請求について共有者同士で話し合う

訴訟を起こすとなると、費用も時間もかかるうえ、心身への負担も大きなものとなります。話し合いで解決できるのであれば、それに越したことはありません。

話し合いの前に、請求額の根拠となる資料や、これまでの取り決めを確認しておきましょう。請求に正当な根拠がない場合は、家賃請求自体が難しいうえに、相手側としても「不当に疑われた」と不満を持つ可能性があります。

共有者に家賃請求する際に、確認しておくべき主な資料・情報を、ケース別に以下にまとめました。

対象 確認する主な資料・情報
共通 登記事項証明書、共有持分割合、共有者間の合意書、メール・LINEなどのやり取り
第三者から得た家賃収入の分配 賃貸借契約書、管理会社の送金明細、入金記録、費用の明細・領収書、過去の分配記録
共有者自身の使用に対する家賃 使用開始時期・使用範囲、無償使用などの合意、相続や居住の経緯、類似物件の賃料資料
過去分の請求 未払いの対象期間、過去の請求日、支払いの記録、相手が支払義務を認めたことが分かるやり取り

共有者自身の使用に対する家賃を求める場合は、家賃の取り決めの有無を確認したうえで、周辺の類似物件の賃料相場を参考に請求金額を決めるのが一般的です。

一方、第三者から得た家賃収入の分配を求める場合は、実際の入金額や共有持分割合、分配・費用負担の合意、すでに受け取った金額などを確認してください。

家賃や費用の金額が分からない場合は、家賃を受け取っている共有者に、収支の説明や根拠資料の提示を求めましょう。資料を得られない場合は、手元にある資料やこれまでの経緯をまとめて、弁護士に相談するのがよいでしょう。

請求の根拠を確認したら、共有名義不動産の家賃収入を独占している、または不動産を占有している共有者に対して、電話やメールで家賃請求を行い、具体的な家賃の金額や支払方法などについて話し合います。

協議の際には、現在の状況や根拠となる書類・事実に基づいて冷静に協議することが大切です。

ポイント

話し合いがまとまったら合意内容を書面に漏れなく記載し、署名捺印して合意書を作成します。過去の未払い分の精算に加えて、今後の支払日や分配方法も決めておくと、同じトラブルの再発を防ぎやすくなります。

確認する内容 記載する事項の例
過去の未払い分 精算対象期間、精算額、支払期限、一括・分割の別
今後の家賃収入の分配 分配割合、分配日、振込先、収支報告の方法
共有者自身が使用する場合の家賃 月額、支払日、対象となる使用範囲、見直しの条件
費用負担 管理費・修繕費・固定資産税などの負担方法と精算方法

家賃請求する旨を内容証明郵便で通知する

家賃請求の連絡を行っても、相手から接触を拒絶されたり、すでに金銭トラブルとして揉めて連絡を絶っていたりする場合は、内容証明郵便で家賃の支払い・分配を求める通知を送ることを検討してみてください。

■内容証明とは
内容証明郵便は、いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に対して差し出したのかを証明するサービスです。郵便局の窓口で差し出す場合は、受取人に送る文書と、その写しである謄本2通を用意し、謄本は郵便局と差出人が各1通ずつ保管します。

内容証明郵便であれば、家賃を請求した事実や、請求した内容を客観的に証明しやすくなります。

ただし、内容証明だけでは配達された事実まで証明できないため、配達証明を付けて送るとよいでしょう。裁判になった際も、通知した内容や配達の記録を証拠として提出できます。

なにより、内容証明郵便による通知は、相手に請求へ向き合ってもらうきっかけになる可能性があります。弁護士からの通知で調停や訴訟を検討していることが伝わると、「裁判になるくらいなら…」と話し合いや家賃の支払いに応じてくれるかもしれません。

家賃の支払いについて調停を申し立てる

相手が家賃請求に関する通知を無視したり受取拒否をしたりした場合は、民事調停を検討する方法があります。民事調停とは、裁判官と調停委員が当事者の間に入り、話し合いによって問題の解決を目指す手続きです。

民事調停は、裁判官による判決ではなく、あくまで当事者同士の話し合いが合意に至れば成立します。調停が成立し、合意内容が「調停調書」に記載されると、その記載には確定判決と同じ効力が生じます。

民事調停は、原則として相手方の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立てます。ただし、土地・建物の利用関係をめぐる紛争では、不動産の所在地を管轄する簡易裁判所が申立先となるなど、事件の内容によって異なるので注意してください。

手続きも比較的簡単で、申立て費用も安い傾向にあるのが民事調停のメリットです。しかし、結局のところ当事者同士の合意がなければ解決が難しいため、家賃関係のトラブルが複雑だったり共有者同士の関係が悪化していたりする場合は、調停が不成立となるケースも少なくありません。

合意に至らなかった場合は、不当利得返還請求訴訟といった法的手続きを検討しましょう。なお、調停を先に申し立てる必要がない事件では、調停を経ずに直接訴訟を提起することも可能です。

家賃の支払いを求める訴訟を起こす

調停で合意に至らなかった、相手が欠席して話し合いができなかったといった場合は、家賃の支払いを求める訴訟の提起を検討します。

裁判で家賃請求が認められれば、裁判所は相手に支払いを命じる判決を出します。もし相手が支払わない場合は、確定判決などに基づいて強制執行を申し立て、財産の差し押さえによる家賃の回収を図ることが可能です。

1つ、共有名義不動産における家賃請求が認められた最高裁の判決を紹介します。兄弟が不動産を2分の1ずつ共有していたところ、一方が家賃収入を単独で受け取り、もう一方が自分の取り分の返還を求めた事例です。

受領した家賃収入は合計7,091万1,700円で、原告に帰属する金額は、その半分の3,545万5,850円でした。そこから、相手が立て替えた固定資産税・修繕費・相続税などに関する債権2,151万2,291円を相殺し、最終的に1,394万3,559円の返還請求が認められました。
相手は、家賃全額を自分の収入として申告したことで過大に納めた所得税・住民税も差し引くよう主張しましたが、最高裁はこれを認めませんでした。

参考:裁判所「最高裁平成22年1月19日判決」

家賃の支払いを求める訴訟を提起する場合は、弁護士に依頼するのがよいでしょう。法律の理解と証拠集めが必要であることはもちろん、裁判で適切に主張・立証できないと、請求が認められないおそれがあるためです。

共有名義不動産の不当利得返還請求などの手続きについては、以下の記事で詳細を解説します。

家賃関係のトラブルを回避したい場合は共有状態から抜け出すことも検討する

「これ以上、家賃滞納といった共有名義関係のトラブルに巻き込まれたくない」といった場合は、共有状態から抜け出したり、共有状態自体を解消したりすることも検討してみてください。

共有名義不動産において、共有状態からの抜け出しや共有状態を解消する方法として挙げられるのは、以下の5つです。

方法 概要 向いているケース
共有者全員が合意して不動産全体を売却する 原則として共有者全員の同意が必要だが、持分だけの売却より市場相場に近い価格で売れる可能性がある 共有者全員が不動産を手放したいと考えている
他の共有者の持分を買い取り単独所有にする 売買条件への合意と買取資金が必要だが、不動産を単独名義で所有できる 将来的に不動産を自由に活用したい人
他の共有者に自己の持分を買い取ってもらう 相手の購入意思と買取資金が必要だが、条件によっては買取業者への売却より高く売れる可能性があり、第三者を新たな共有者にせずに済む 他の共有者の中に持分買取について意欲的な人がいる
共有物分割請求訴訟を起こす 共有物の分割について協議がまとまらない場合や協議できない場合に検討できるが、希望する方法での解決が認められるとは限らず競売になる可能性もある 話し合いが難しい、法的手続きによって客観的な判断を下してほしい人
自己の持分を専門の買取業者に売却する 全体売却時の持分相当額より売却価格が低くなる傾向がある一方、条件が整えば早期に現金化がしやすく、権利関係が複雑な持分も買い取ってくれる可能性がある 持分を売却したいものの、全体売却や他の共有者への売却が難しい人

例えば、自分以外の共有者も「賃貸アパートを手放したい」「家賃を支払いながら住み続けるより、売却したい」と考え、全員が売却に合意できる場合は、不動産全体の売却を検討できます。

一方、「賃貸関係の事務や修繕対応は自分でやってもいいから、賃貸アパートを単独名義で所有して収益を総取りしたい」など、将来的に不動産全体の活用を検討している場合は、他の共有者の持分を買い取るのが向いている可能性があります。

なお、共有状態から抜け出しても、過去の未払い家賃や立替費用が自動的に精算されるわけではないため、売却時などにはこれらの扱いも確認しておきましょう。共有していた期間に受け取るべきだった家賃収入や、他の共有者が不動産を使用していた分の未払い家賃は、原則として共有状態から抜け出した後も請求できます。

共有名義の解消方法については、以下の記事で詳細を解説しています。

共有名義不動産の家賃請求に関するよくある質問

家賃を滞納している共有者の持分を民法253条2項に基づいて買い取れますか?

家賃の滞納だけを理由に、民法253条2項に基づいて相手の持分を買い取ることはできません。

民法253条2項は、共有名義不動産の管理費用などの負担義務を1年以内に履行しない共有者がいる場合に、他の共有者が相当の償金を支払って、その持分を取得できる制度です。対象となるのは、固定資産税や必要な修繕費などについて、自分が負担すべき分を支払わない場合です。

共有者自身の使用に対する家賃の未払いや、第三者から得た家賃収入を他の共有者に分配しないこととは区別する必要があります。

ただし、相手と売買価格などに合意できれば、通常の売買によって持分を買い取ることは可能です。合意できない場合は共有物分割請求による解決も検討できますが、必ず自分が相手の持分を取得できるとは限りません。

家賃滞納者が行方不明な場合でも家賃請求ができますか?

家賃を支払う義務がある共有者が行方不明でも、未払い分を請求することは可能です。

まずは、住民票や戸籍の附票などによる住所の調査を検討します。必要な調査を行っても所在が分からない場合は、裁判所で「公示送達」の手続きを利用し、家賃の支払いを求める訴訟を進められることがあります。公示送達とは、一定の方法で公示することにより、相手に訴状などを送達したものとして扱う手続きです。

ただし、裁判で支払いが認められても、必ず回収できるとは限りません。実際の回収には、相手の財産を確認し、必要に応じて強制執行を申し立てるなどの対応が必要です。

所在調査や裁判手続きに加えて消滅時効への対応も検討する必要があるため、未払いの期間や金額が分かる資料を集めておき、早めに弁護士へ相談しましょう。

なお、行方不明の共有者の持分を買い取ることで家賃の問題を解消したい場合は、「所在等不明共有者の持分取得制度」を利用できる可能性があります。

共有者への家賃請求は過去何年間までさかのぼって請求できますか?

共有者への家賃請求は、現行民法では原則として、請求できることを知ったときから5年、または請求できるときから10年のいずれか早い時点で時効が完成します。

時効は、それぞれの未払い分について判断します。古い期間分の時効が完成しても、直近の未払い分まで一律に請求できなくなるわけではありません。また、時効の適用には、原則として相手方が時効の利益を受ける意思を示す「援用」が必要です。

なお、請求権が発生した時期や、その根拠となる契約の時期によっては、改正前の民法が適用される場合があります。

時効が完成する前に、内容証明郵便などによる支払いを求める通知が相手に到達すれば、催告として、その時から6か月が経過するまで時効の完成が猶予されます。ただし、猶予期間中に再度通知を送っても、猶予期間は延びるわけではないので注意しましょう。

家賃トラブルがあると持分を売却するのは難しいですか?

家賃トラブルが発生している場合、自己持分の売却は、トラブルがない場合と比較して難しくなる傾向があります。一般的な不動産会社では、買取に対応していない場合もあります。

しかし、共有持分専門の買取業者であれば、家賃トラブルがある不動産の持分でも買い取ってもらえる可能性があります。トラブルがある自己持分の売却では、買取価格が下がりがちなので、信頼できる、かつ高価買取の実績がある買取業者に依頼するのがポイントです。

共有持分の売却相場を知りたい場合は、下記の記事をご確認ください。

同棲相手やシェアハウスの同居人に、未払いの家賃を請求できますか?

家賃を分担する合意があり、相手が約束した負担分を支払っていなければ、その未払い分を請求できます。

この場合は、不動産の共有持分ではなく、同居する人同士で決めた家賃の分担に基づく請求です。メールやLINEなどで取り決めた金額や支払時期を確認し、実際の支払状況と照らし合わせて、未払い額を整理しましょう。

まとめ

第三者から得た家賃収入が分配されていない場合は、共有持分割合や取り決めを確認し、自分の取り分の支払いを求めましょう。他の共有者が法律上の理由なく自分の取り分まで受け取っている場合には、民法703条に基づく「不当利得返還請求」が認められることもあります。

特定の共有者が自分の持分を超えて不動産を使用している場合は、無償使用などの別段の合意がなければ、他の共有者は民法249条2項に基づいて家賃を請求できます。

請求額を計算する際には、共有者自身の使用に対する家賃なら周辺の賃料相場を、家賃収入の分配なら実際の入金額を確認してください。そのうえで、共有者間の合意や費用負担、未払いの期間、すでに受け取った金額などを踏まえ、請求の根拠となる資料をまとめることが大切です。

まずは資料やこれまでの経緯に基づいて話し合い、解決できない場合は、弁護士に相談して内容証明郵便による通知や調停・訴訟などを検討してください。家賃を請求できるか判断に迷う場合や、収支の資料を得られない場合も、手元にある資料のみでも相談できます。

話し合いがまとまったら、過去の未払い分の精算に加え、今後の支払日や分配方法、費用負担なども書面に残しましょう。受け取るべき家賃を確認するとともに、今後の支払いのルールを明確にすることが、同じトラブルの再発防止につながります。

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