共有名義不動産で不当利得返還請求!家賃を独占された場合の請求額・時効・手続きを解説

「共有名義不動産の家賃収入を他の共有者に独占されている」「自分の持分に応じた家賃を受け取れていない」と悩んでいる方もいるでしょう。
共有者の1人が、本来ほかの共有者にも分配されるべき家賃収入を正当な理由なく独占している場合は、不当利得返還請求によって自分の持分に応じた金額を請求できる可能性があります。
不当利得返還請求とは、法律上の原因なく利益を得た人に対して、その利益によって損失を受けた人が返還を求めることです。なお、共有者自身が不動産に単独で居住・使用している場合は、第三者から得た家賃収入の独占とは法的な扱いが異なり、持分を超えて使用している部分について使用対価の請求を検討します。
共有名義不動産で不当利得返還請求を検討する際に、押さえておきたいポイントは以下のとおりです。
たとえば、月6万円の家賃を3年間独占され、自分の持分が3分の1であれば、請求額は「6万円 × 1/3 × 36ヵ月=72万円」が目安です。
ただし、共有者間で家賃収入の分配について別の合意がある場合などは、不当利得返還請求が認められないことがあります。
また、家賃収入が毎月発生している場合は、古い家賃収入から順に消滅時効を迎える可能性があります。請求できる金額が減ってしまうこともあるため、独占されていることがわかったら早めに対応することが重要です。
本記事では、共有名義不動産で不当利得返還請求が認められる要件や請求額の計算方法、消滅時効、具体的な請求手続き、請求する際の注意点について詳しく解説します。
共有名義不動産の家賃収入を独占された場合は不当利得返還請求ができる
共有者の1人が共有名義不動産に関する利益を独占し、他の共有者に分配していない場合は、原則として自分の持分に相当する金額について不当利得返還請求ができます。(民法703条)
共有名義では、家賃を誰かが独占したり、うまく分配できなかったりするケースは実務上も決して珍しくありません。実際に弊社へ「家賃を独占されていて、話し合いもできないから持分を買い取ってほしい」という相談が寄せられることもあります。
共有名義不動産における不当利得返還請求の典型例は、不動産を第三者に貸し、共有者の1人だけが家賃収入を受け取っているケースです。この場合、「実際の家賃収入 × 自身の持分割合 × 独占期間」が請求額の目安となります。
たとえば、AとBがそれぞれ3分の2と3分の1の持分で不動産を共有し、Aだけが第三者から月6万円の家賃を3年間受け取っていたとします。共有者間で家賃の分配について別の合意がなければ、Bが請求できる金額の目安は以下のとおりです。
そのほか、共有者全員で共有名義不動産を売却し、代表して売却代金を受け取った共有者が、他の共有者に本来帰属する金額を分配していない場合なども、不当利得返還請求の対象となる場合があります。
なお、不当利得返還請求は過去にさかのぼって行うこともできます。ただし、消滅時効があるため、長期間放置すると一部を請求できなくなる可能性があります。詳しくは「消滅時効があるため長期間放置しない」で解説します。
【共有者の居住・使用による独占は不当利得返還請求ではなく「使用対価の請求」となる】
共有者の1人が共有名義不動産に居住するなど、自分の持分を超えて不動産を使用している場合、現在は民法249条2項に基づいて使用対価を請求するのが基本です。
以前は、共有者の居住・使用による独占について、不当利得返還請求などで対処していましたが、2023年4月1日に施行された改正民法により、持分を超えて共有不動産を使用する共有者には、他の共有者へ使用対価を支払う義務があることが明確に定められたためです。
使用対価の請求方法や金額の考え方については、「共有者の居住・使用が問題なら使用対価を請求する」で詳しく解説します。
共有名義不動産で不当利得返還請求をするための4つの要件
不当利得返還請求を成立させるには、民法703条に基づく4つの要件を満たす必要があります。共有名義不動産に当てはめると、次のように整理できます。
とくに重要なのが、「相手が利益を得る法律上の原因がないこと」です。
実務では「家賃を分配してもらえていないから不当利得返還請求ができる」と考えていても、確認してみると「固定資産税や修繕費を負担する代わりに、家賃収入はその共有者が受け取る」と以前に取り決めていたなど、共有者間に別の合意があったことがわかるケースもあります。こうした合意が有効である場合は、その合意の範囲で不当利得返還請求が認められない可能性があります。
不当利得返還請求をする場合は、家賃の分配方法についてどのような合意があったのかが重要になります。そのため、取り決めに関する書面だけでなく、メールやLINEなどのやり取りも確認し、合意の有無や内容を整理しておくことが大切です。
話し合いで解決できず訴訟を検討する場合は、どのような資料が証拠になるかも含めて弁護士に相談するとよいでしょう。
【賃貸借契約書に自分の名前がなくても請求できる】
共有名義不動産を賃貸していても、賃貸借契約書には賃貸手続きを行った共有者だけが賃貸人として記載されている場合があります。ただし、契約書に自分の名前がないことだけで、家賃の分配を請求できないと決まるわけではありません。
不当利得返還請求ができるかは、登記上の持分割合や実際の家賃収入、共有者間の分配合意などを踏まえて判断します。
共有者に不当利得返還請求をする場合の流れ
共有者に不当利得返還請求をする場合は、いきなり訴訟を起こすのではなく、まず持分割合や家賃収入の状況、共有者間の取り決めを確認したうえで、話し合いや書面による請求を進めるのが基本です。
主な流れは、以下のとおりです。
- 持分割合や家賃収入、不当利得返還請求の要件を満たすかを確認する
- 共有者と家賃収入の分配について話し合う
- 話し合いで解決しない場合は内容証明郵便などで請求する
- 請求に応じない場合は調停・訴訟を検討する
- 調停成立・判決後に支払いを求め、応じない場合は強制執行を検討する
- 今後の家賃収入の受取・分配方法を共有者間で取り決める
話し合いで解決できれば、その後の法的手続きへ進む必要はありません。相手が支払いに応じない場合は、書面による請求や調停・訴訟へと進みます。
持分割合や家賃収入、不当利得返還請求の要件を満たすかを確認する
共有者へ請求を始める前に、まずは自分の持分割合や相手が受け取っている家賃収入を確認し、請求できる金額の目安を把握しましょう。あわせて、不当利得返還請求の要件を満たしているか確認する必要があります。
具体的には、登記事項証明書で持分割合を把握し、賃貸借契約書や家賃の入金履歴、管理会社の送金明細などから、実際に発生している家賃収入や受取期間を整理します。
また、共有者間で家賃の分配方法について別の合意をしていないかも確認しておきましょう。実際の買取相談でも、家賃の分配方法について共有者同士の認識が食い違っているケースは少なくありません。「合意はない」と思っている場合でも、過去のメールやLINE、書面などをあらためて見返しておくとよいでしょう。
これらを踏まえて自分の持分に応じた請求額を算出し、共有者との話し合いに進みます。
共有者と家賃収入の分配について話し合う
請求額や不当利得返還請求の要件を確認できたら、いきなり法的手続きへ進むのではなく、まずは家賃収入を受け取っている共有者と話し合います。
共有名義不動産の買取相談でも、親族間で共有しているためにお金の話を切り出しにくく、伝え方によっては関係がこじれてしまうケースがあります。最初から支払いを強く求めるのではなく、自分に分配されるべき金額とその根拠を具体的に伝えつつ、まずは話し合いたい旨を伝えてみましょう。
たとえば、「登記上、私の持分は3分の1です。これまで月6万円の家賃を3年間受け取っているため、私の持分に相当する72万円を基準に、分配額について話し合いたい」といった伝え方です。持分割合・家賃収入・受取期間・請求額を数字で示すことで、何を根拠にいくら求めているのかが相手にも伝わりやすくなります。
家賃の金額や受取期間について認識が食い違っている場合は、賃貸借契約書や入金履歴などを一緒に確認し、事実関係を整理しましょう。また、一括での支払いが難しい場合は、分割払いを提案するなど、支払方法を調整することで話し合いで解決できる場合もあります。
分配について合意できたら、金額や支払期限、支払方法を書面に残しておきましょう。合意した内容どおりに支払いまで完了すれば、それ以上の法的手続きを進める必要はないため、「今後の家賃収入の受取・分配方法を共有者間で取り決める」に進みましょう。
なお、共有者同士での話し合いが難しい場合や、相手と直接やり取りすることに不安がある場合は、この段階から弁護士に相談し、代理で交渉してもらうのも1つの選択肢です。
話し合いで解決しない場合は内容証明郵便などで請求する
話し合いをしても相手が支払いに応じない、連絡を無視されるといった場合は、内容証明郵便などを使って書面で請求します。
内容証明郵便を利用すると、「いつ・誰が誰に・どのような内容の文書を送ったか」を記録として残せるため、不当利得返還請求をした事実や請求内容を後から証明しやすくなります。配達された事実も残したい場合は、配達証明をあわせて利用するとよいでしょう。
たとえば、共有者間で家賃収入の分配について別の合意がなく、共有者の1人が家賃収入を独占している場合は、以下のような内容で通知します。
【内容証明郵便の記載例|家賃収入を独占されている場合】
〇〇 〇〇 様
共有名義不動産〇〇について、貴殿が受け取っている家賃収入のうち、私の共有持分に相当する金額を下記のとおり請求します。
【対象不動産】
所在地:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
【共有持分】
貴殿:3分の2
私:3分の1
【請求内容】
対象期間:〇年〇月~〇年〇月
家賃収入:月額6万円
私の持分に相当する金額:72万円
計算式:6万円 × 1/3 × 36ヵ月 = 72万円
民法703条に基づく不当利得返還請求として、上記72万円を〇年〇月〇日までに下記口座へお支払いください。
【振込先】
〇〇銀行 〇〇支店
普通 〇〇〇〇〇〇〇
口座名義 〇〇 〇〇
〇年〇月〇日
住所:〇〇県〇〇市〇〇
氏名:〇〇 〇〇
※上記は、費用負担などの精算を考慮する必要がないケースを想定した記載例です。実際には状況に応じて内容を調整する必要があります。
ただし、内容証明郵便を送っただけで、相手に支払いを強制できるわけではありません。あくまで請求内容を明確にして記録を残すための手段であり、相手が応じなければ、その後に調停や訴訟などを検討する必要があります。
また、請求額や法的根拠に誤りがあると、その後の交渉や訴訟に影響する可能性があります。請求額が大きい場合や相手と主張が食い違っている場合は、送付前に弁護士へ相談し、内容を確認してもらうとよいでしょう。
請求に応じない場合は調停・訴訟を検討する
内容証明郵便などで請求しても相手が支払いに応じない場合は、裁判所を利用した民事調停や民事訴訟を検討します。民事調停を経てからでなければ訴訟を起こせないわけではないため、相手との話し合いの余地や争っている内容に応じて手続きを選びましょう。
民事調停と民事訴訟の主な違いは、以下のとおりです。
※民事訴訟の手数料は2026年5月21日以降に訴えを提起する場合の金額です。
参考:裁判所「手数料」
たとえば、「家賃収入を受け取っていたことは認めているが、一括では支払えない」といったケースでは、分割払いなどを話し合える民事調停が選択肢になります。
一方、「家賃を分配する義務はない」と請求そのものを否定されている場合や、これまでの交渉状況から話し合いによる解決が見込めない場合は、最初から訴訟を提起することも可能です。
訴訟では、不当利得返還請求の要件を満たしていることを証拠に基づいて主張・立証する必要があります。必要な証拠については、「共有名義不動産で不当利得返還請求をするための4つの要件」で紹介しています。
訴訟は弁護士に依頼せず自分で進めることもできますが、不当利得返還請求では法的な主張や証拠の整理が必要になるため、訴訟まで進む場合は弁護士へ相談・依頼することをおすすめします。
調停・訴訟にかかる費用や弁護士費用の目安については、「請求額と弁護士費用・回収可能性を比較する」で詳しく紹介しています。
【不当利得返還請求は難しい?棄却や和解になることもある】
不当利得返還請求が認められるかは、必要な証拠をそろえて適切に主張・立証できるかに左右されます。また、訴訟になっても必ず判決で決着するわけではなく、途中で和解することもあります。
たとえば、家賃収入の分配について書面がなくても、口頭での合意やこれまでの取扱いなどから「黙示の合意」があったと判断された場合や、家賃額・受取期間などを裏付ける証拠が不足している場合は、請求の全部または一部が棄却される可能性があります。
また、訴訟の途中で支払額や支払方法について双方が合意できれば、裁判上の和解によって解決することも可能です。判決で白黒をつけるだけでなく、証拠の内容や相手の主張を踏まえて、和解も含めた解決方法を検討するとよいでしょう。
調停成立・判決後に支払いを求め、応じない場合は強制執行を検討する
民事調停で合意が成立した場合は調停調書、民事訴訟で不当利得返還請求が認められた場合は判決に基づいて、相手へ支払いを求めます。相手が合意や判決の内容どおりに支払えば、この時点で回収は完了です。
一方、調停成立後または判決後も相手が支払わない場合は、調停調書や確定判決などの「債務名義」に基づいて裁判所へ強制執行を申し立て、相手の財産から回収することを検討します。
強制執行では、預貯金や給与、不動産などを差し押さえて回収する方法があります。たとえば、預貯金を差し押さえる場合は、裁判所へ債権差押命令を申し立て、差し押さえた預貯金から請求額の回収を進めます。
ただし、調停や訴訟で請求が認められても、相手に差し押さえられる財産がなければ実際に回収できないことがあります。さらに、強制執行には別途申立てや費用も必要になるため、相手の財産状況や回収できる見込みも確認したうえで進めましょう。手続きが難しい場合は、弁護士へ相談することをおすすめします。
今後の家賃収入の受取・分配方法を共有者間で取り決める
過去の家賃収入について解決できたら、今後同じトラブルを繰り返さないよう、家賃の受取・分配方法を共有者間で決めておきましょう。
誰が家賃を受け取り、いつ・どのように各共有者へ分配するのかを具体的に決め、書面に残しておくことが重要です。
主に、次の内容を取り決めておくとよいでしょう。
- 家賃を受け取る共有者や管理方法
- 各共有者へ分配する割合
- 分配する時期や振込方法
- 管理費や修繕費、固定資産税などを家賃収入から差し引くか
- 家賃の変更や入居者の退去があった場合の対応方法
たとえば、共有者の1人が代表して家賃を受け取り、必要経費を差し引いたうえで毎月決まった日に持分割合に応じて振り込む、といった形です。管理会社を利用している場合は、家賃の入金状況や管理費などを共有者全員が確認できるようにしておくと、収支についての認識違いも防ぎやすくなります。
口頭だけで取り決めると、後から分配割合や支払時期について再び争いになる可能性があります。合意した内容は、共有者全員が確認できる書面として残しておきましょう。
家賃の受取・分配方法を明確にしておけば再発防止につながります。ただし、実務では一度家賃の分配など金銭面で揉めると、取り決めを見直してもトラブルが続くケースもみられます。その場合は、共有関係の解消もあわせて検討するとよいでしょう。
共有名義不動産で不当利得返還請求をする際の注意点
共有名義不動産で不当利得返還請求をする場合は、請求できる金額だけでなく、共有者間の取り決めや消滅時効、手続きにかかる費用なども確認しておく必要があります。
不当利得返還請求の要件を満たしているように見えても、共有者間の合意内容によっては請求できなかったり、請求できる範囲が限られたりする場合があります。
主な注意点は、以下のとおりです。
- 家賃収入の分配について合意があると請求できない場合がある
- 消滅時効があるため長期間放置しない
- 請求額と弁護士費用・回収可能性を比較する
- 受け取った金銭は確定申告が必要になる場合がある
家賃収入の分配について合意があると請求できない場合がある
共有名義不動産から得られる家賃収入は、原則として各共有者が持分に応じて取得します。ただし、共有者間で「家賃収入は特定の共有者が取得する」など、持分割合とは異なる分配方法について有効な合意がある場合は、その合意の範囲では不当利得返還請求が認められない可能性があります。
不当利得返還請求では、相手が利益を得る「法律上の原因がないこと」が要件の1つとなるためです。
また、合意は必ずしも契約書などで明示されているとは限りません。買取の現場でも、これまでの家賃の受取・分配方法や共有者間のやり取りなどから、家賃収入の取扱いについて「黙示の合意」があったと争われているケースに出会うことがあります。
ただし、長期間にわたって特定の共有者が家賃収入を受け取っていたという事実だけで、当然にその状態を認めていたことになるわけではありません。請求する際は、過去の分配状況やメール・LINEなどのやり取りを確認し、どのような取り決めがあったのか整理しておきましょう。
黙示の合意が成立していたか判断が難しい場合や、共有者同士で認識が食い違っている場合は、不当利得返還請求をする前に弁護士へ相談することをおすすめします。
消滅時効があるため長期間放置しない
不当利得返還請求には消滅時効があるため、家賃収入を独占されていることがわかったら、長期間放置せず早めに対応することが重要です。
民法166条では、債権は原則として、次のいずれかの期間が経過すると時効によって消滅すると定められています。
- 権利を行使できることを知った時から5年
- 権利を行使できる時から10年
※2020年4月1日の改正民法施行前に発生した不当利得返還請求権については、原則として改正前の「権利を行使できる時から10年」が適用されます。
なお、家賃収入が毎月発生している場合は、すべての請求権について一括して時効が進むのではなく、原則として各月分ごとに時効を確認する必要があります。
たとえば、共有者Aが2021年4月から毎月6万円の家賃を受け取り、持分3分の1の共有者Bが当初からその事実を知っていたとします。この場合、Bが請求できる月2万円については各月分ごとに時効が進むため、何も対応しなければ、古い月の請求分から順に時効を迎える可能性があります。
共有持分の売却相談では、家賃収入を長期間独占され、「もう請求できないのでは」と回収を諦めている方から相談を受けることもあります。ただし、一部が時効を迎えていても、すべての請求ができなくなっているとは限りません。
時効が迫っている場合は、内容証明郵便などで催告することで、原則として6ヵ月間は時効の完成が猶予されます。たとえば、4月に時効を迎える請求分について3月1日に催告した場合は、原則として9月1日まで時効が完成しません。
過去の家賃収入が長期間にわたる場合や、どこまでさかのぼって請求できるかわからない場合は、時効が完成する前に弁護士へ相談し、請求できる期間や必要な手続きを確認しましょう。
請求額と弁護士費用・回収可能性を比較する
不当利得返還請求を進める際は、請求できる金額だけでなく、弁護士費用や裁判所に納める費用、実際に回収できる可能性まで確認しておきましょう。
請求が認められても、弁護士費用などを差し引くと、最終的に手元に残る金額が想定より少なくなる場合があります。
弁護士費用に全国一律の基準はありませんが、旧日本弁護士連合会報酬等基準では、経済的利益が300万円以下の場合、着手金8%・報酬金16%とされ、着手金の最低額は10万円とされていました。
たとえば、月6万円の家賃収入を3年間独占され、持分3分の1に相当する72万円を請求して全額回収できたケースを、この基準に消費税10%を加味して試算すると以下のとおりです。
※上記は旧日本弁護士連合会報酬等基準を参考にした試算例であり、現在の一般的な弁護士費用を示すものではありません。実際の弁護士費用は依頼先によって異なり、実費や強制執行などの追加費用が発生する場合があります。
請求額が小さい場合や、相手に十分な財産がない場合は、慎重な判断が必要です。実際に弊社でも、手元に残る金額や回収可能性を考え、不当利得返還請求から持分売却への切り替えを検討する方から相談を受けることがあります。
弁護士へ依頼する前に、請求できる金額や必要な費用、回収の見込みまで確認したうえで、手続きを進めるか判断しましょう。
受け取った金銭は確定申告が必要になる場合がある
不当利得返還請求によって家賃収入の未分配分を受け取った場合は、税務上の扱いにも注意が必要です。
国税庁では、不動産の貸付けによる家賃収入は原則として不動産所得に該当するとしています。そのため、不当利得返還請求によって過去の家賃収入の未分配分を受け取った場合は、確定申告が必要になる可能性があります。
たとえば、給与収入が2,000万円以下で、1か所から給与を受け取り年末調整をしている給与所得者の場合、給与所得・退職所得以外の所得金額の合計が20万円を超えると、原則として所得税の確定申告が必要です。なお、20万円の基準は「受け取った金額」ではなく、必要経費を差し引いた「所得金額」で判断します。
また、過去数年分の家賃収入をまとめて受け取った場合、どの年分の所得として申告するかは、家賃が発生した時期や支払時期、権利関係、争いの内容などによって異なります。判断が難しい場合は、税務署や税理士へ確認するとよいでしょう。
共有名義不動産で不当利得返還請求以外に検討できる対処法
不当利得返還請求は、共有者が独占していた家賃収入などを取り戻すための手段です。ただし、共有者による居住・使用が問題になっている場合や、共有者に退去を求めたい場合、共有関係そのものを解消したい場合は、別の方法を検討する必要があります。
解決したい問題ごとの主な対処法は、以下のとおりです。
以下では、不当利得返還請求以外の対処法について、それぞれ詳しく解説します。
共有者の居住・使用が問題なら使用対価を請求する
共有者の1人が共有名義不動産に単独で居住するなど、自分の持分を超えて不動産を使用している場合は、不当利得返還請求ではなく、使用対価の請求を検討します。
たとえば、兄弟2人がそれぞれ2分の1ずつ所有する住宅に兄だけが単独で住んでおり、その住宅を賃貸した場合の賃料相当額が月9万円であれば、弟の持分2分の1に相当する月4万5,000円が使用対価の目安となります。
ただし、実際の使用対価は、周辺の賃料相場や不動産の状態、持分割合、利用状況などを踏まえて判断します。金額について共有者間で意見が分かれる場合は、不動産会社による賃料査定などを参考にしたり、弁護士へ相談したりするとよいでしょう。
また、共有者間で「無償で居住してよい」などの合意がある場合は、その合意の範囲では使用対価を請求できない可能性があります。買取実務でも「住むことには合意していたものの、長期化して納得できない」といった相談を受けることがあります。こうした場合は、過去のやり取りや共有不動産の利用経緯も確認しておきましょう。
なお、使用対価を請求する場合も、まずは共有者間で話し合い、解決しなければ書面による請求や調停・訴訟を検討するという基本的な流れは、不当利得返還請求と大きく変わりません。
共有名義不動産の家賃請求については、次の記事でも詳しく紹介しています。
共有者に退去を求めたい場合は明渡請求が認められるか確認する
共有者の1人が共有名義不動産を独占的に使用しており、他の共有者の利用を不当に妨げている場合などは、明渡請求が認められる可能性があります。
たとえば、共有者間で決めた使用ルールに違反している、他の共有者の立入りを拒否している、鍵を交換して物理的に入れないようにしているなどの事情がある場合です。こうした事情があるときは、単なる単独居住にとどまらず、他の共有者の使用を妨げている事情として、明渡請求を検討できます。
ただし、共有者には自分の持分に基づいて共有不動産を使用する権利があるため、単に「1人で住んでいる」という理由だけで当然に退去を求められるわけではありません。共有者間の取り決めや利用状況、これまでの経緯などを踏まえて個別に判断されます。
買取の現場でも、明渡請求を検討したものの解決が難しく、共有関係から抜けるために持分売却を相談されるケースがあります。そのような場合は、弁護士へ相談しながら、先ほど紹介した使用対価を請求して賃料相当額を受け取るなど、別の方法も含めて検討するとよいでしょう。
共有者への明渡請求が認められるケースや手続きについては、次の記事で詳しく解説しています。
共有関係を解消したい場合は売却や共有物分割請求を検討する
不当利得返還請求や使用対価の請求で金銭の問題を解決しても、共有状態そのものは残ります。今後も家賃の分配や不動産の利用をめぐるトラブルが続きそうな場合は、共有状態を解消したり、自分が共有関係から抜けたりする方法も検討しましょう。
主な方法は、以下のとおりです。
【宅地建物取引士・大江 剛のアドバイス】
家賃収入を独り占めしている共有者が、そのまま不動産を所有して家賃収入を得たいと考えている場合、不動産全体の売却や相手の持分を買い取る交渉はまとまりにくいことがあります。
現実的な選択肢は、まず家賃収入を受け取っている共有者に自分の持分を買い取ってもらえないか交渉し、難しければ共有持分の買取業者へ自分の持分だけを売却する方法です。
共有者との交渉が難しい場合は、無理に長引かせず、持分売却も含めて早めに出口を検討するとよいでしょう。
共有における不当利得返還請求でよくある質問
家賃収入を独占している共有者に利息も請求できますか?
場合によっては、家賃の未分配分に加えて利息を請求できる可能性があります。
民法704条では、法律上の原因がないことを知りながら利益を得ていた「悪意の受益者」は、受けた利益に利息を付して返還する義務があると定められています。
利息まで請求できるかは、相手がどのような認識で家賃収入を受け取っていたかなどによって判断されるため、弁護士へ確認するとよいでしょう。
共有者が受け取っている家賃収入の金額を教えてくれない場合はどうすればよいですか?
まずは、手元にある資料やこれまでの家賃分配の記録などから、賃料や受取期間を確認します。賃貸借契約書や管理会社の送金明細などが手元にない場合は、家賃収入を受け取っている共有者に金額や資料の開示を求めましょう。
相手が開示に応じず、実際の家賃収入を把握できない場合は、弁護士へ相談し、訴訟も含めて必要な証拠を収集する方法を検討します。
請求額を正確に算出するためにも、推測だけで金額を決めず、確認できる資料をもとに請求することが大切です。
不当利得返還請求をした方がよいのはどのようなケースですか?
家賃収入を独占されていることや自分の持分割合、相手が受け取った金額・期間などを確認でき、不当利得返還請求の要件を満たしている場合は、請求を検討しやすいでしょう。とくに、請求額が大きい場合や、話し合いをしても相手が分配に応じない場合は、書面による請求や調停・訴訟へ進むことも選択肢になります。
一方、共有者間で家賃収入の分配について合意があった可能性がある場合や、請求額を裏付ける資料が乏しい場合は、慎重な判断が必要です。また、請求額が小さい場合や相手に十分な財産がなく回収が難しい場合は、弁護士費用などを差し引くと手元に残る金額が少なくなる可能性があります。
請求すべきか迷う場合は、証拠の内容や請求できる金額、必要な費用、回収の見込みを踏まえて判断しましょう。今後も家賃の分配をめぐるトラブルが続きそうな場合は、不当利得返還請求だけでなく、持分売却などによる共有関係の解消も選択肢になります。
まとめ
共有者の1人が共有名義不動産の家賃収入を独占している場合は、不当利得返還請求によって自分の持分に応じた金額を回収できる可能性があります。まずは持分割合や家賃収入、共有者間の取り決めを確認し、話し合いで解決しない場合は内容証明郵便による請求や調停・訴訟を検討します。
ただし、家賃収入の分配について明示・黙示の合意がある場合は請求が認められないことがあり、消滅時効にも注意が必要です。また、訴訟まで進める場合は、請求額だけでなく弁護士費用や実際に回収できる可能性も踏まえて判断しましょう。
なお、共有者による居住・使用が問題の場合は使用対価の請求、共有関係そのものを解消したい場合は持分売却や共有物分割請求など、不当利得返還請求以外の方法も選択肢になります。今後もトラブルが続きそうな場合は、金銭の回収だけでなく、共有関係から抜ける方法まで含めて検討するとよいでしょう。
