共有名義人が認知症になった際に共有不動産を売却する方法

共有持分を専門とする弊社には「認知症を患う共有者がいる場合に不動産を売却できるのか」といった相談も寄せられますが、実際にこのような疑問を抱える方もいることでしょう。
このようなご相談があった場合、弊社では「売却が絶対にできないわけではありませんが、認知症を患っている共有者がいる場合、法的に有効な同意が得られないケースがあるため売却が難航しやすいです」のようにお答えすることがほとんどです。
前提として、共有名義の不動産全体を売却するには、共有者全員からの同意が必要です。同意を得る方法は法律などで明確に規定されていませんが、売買契約書に共有者全員が署名・押印して同席するのが最も無難な方法です。
しかし、認知症を患っている共有者から同意を得るのは難しいのが実情です。共有名義不動産の売却のための同意は法律行為に該当する行為であり、認知症の進行によって意思能力がない場合にはその方からの同意は法的に無効になってしまうためです。
民法でも「意思能力を欠いた状態で行った契約行為は無効」と定められていることから、たとえ本人からの署名や押印があったとしても有効な契約行為とは認められない場合があるのです。
つまり、認知症を患ってしまった共有者から形式的に同意が得られたとしても、法的には契約自体が無効になるリスクが常につきまとってしまうのです。
共有名義人が認知症になってしまった場合、認知症の共有者の代わりに法律行為を行える成年後見人を選任するのが有効です。これを「成年後見人制度」といい、成年後見人から売却の同意は認知症を患ってしまった共有者からの同意と法的に認められます。
この記事では、共有名義人が認知症になってしまった場合の不動産全体を売却する方法をテーマに、成年後見人制度の申請方法について分かりやすく解説していきます。
なお、成年後見人制度を利用して成年後見人を専任するには、家庭裁判所での手続きが必要になり、実務上は3か月〜6か月程度の期間がかかります。そのため、「共有状態から抜け出したい」といった場合には、不動産全体を売却するのではなく、自身の共有持分を売却することも手です。
弊社は共有持分を専門に買取をする会社です。「持分だけを早く売りたい」といった方から、「自身の状況で共有名義不動産と共有持分のどちらを売却するべきか」といった状況の方までご相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
目次
共有名義人が認知症になると不動産全体の売却が難しくなる
共有持分を専門とする弊社には、共有名義不動産や持分の相談が多く寄せられており、中には「不動産を共有している親が認知症になってしまった」という方からの相談もあります。
ご相談者様の状況などをヒアリングしたうえで適切な対処法を提案させていただきますが、共有名義人が認知症になると不動産全体の売却が難しくなるとまずお伝えするケースが多いです。
その理由としては、下記が挙げられます。
- 共有名義不動産全体を売却するには共有者全員からの同意が必要になるため
- 認知症を患ってしまうと意思能力がないと判断されてしまうリスクがあるため
なお、これは「共有者が認知症になると売却が完全に不可能になる」という意味ではありません。詳しくは「共有名義人が認知症を患っていても成年後見制度を利用すれば不動産全体の売却が可能」で解説しますが、適切な手続きを行うことで共有名義不動産を売却することが可能です。
とはいえ、こういった手続きには家庭裁判所での手続きが必要になり、時間も労力もかかります。
つまり、共有名義人が認知症になった場合は、単独名義の不動産売却よりも手間と時間がかかりやすくなり、その分売却のハードルも上がってしまうと捉えておくのが良いでしょう。
共有名義不動産全体を売却するには共有者全員からの同意が必要になるため
前提として共有名義不動産は、すべての共有者にその不動産を使用する権利が認められています。そのため、共有者の1人が独断で不動産全体を売却することは認められていません。
実際に民法では、共有物について下記のように定められています。
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
e-Gov法令検索 e-Gov「民法(第251条)」
不動産を売却した場合、その所有者は購入者に変更します。そして、売却後は新たな所有者が不動産の建て替えなどを自由に行えることから、共有名義不動産の売却は民法上の「変更」に該当する行為になります。
「変更行為を行うには共有者からの同意を得る必要がある」と定められているために、共有名義不動産全体を売却するには、認知症を患っている共有者を含めた全員から同意を得なければならないのです。
弊社に多く寄せられる相談事例として、「共有者から同意が得られずに不動産全体を売却できない」という相談があります。そのため、不動産を共有している時点で、単独名義の不動産よりも売却が難しい状況にあると言えます。
さらに、認知症を患っている方と共有している場合、認知症という病気の特性上から、その方から合意を得るのが難しいケースもあることでしょう。
つまり、ただでさえ単独名義よりも売却が難航しやすい共有名義不動産において、認知症を患っている方と共有名義であれば、さらに合意形成を図るのが難しくなるために売却が難航しやすくなるのです。
認知症を患ってしまうと意思能力がないと判断されてしまうリスクがあるため
不動産の売買契約は、当事者全員が契約内容を理解したうえで自らの判断で意思表示を行うことが前提になっています。この契約を有効に成立させるために不可欠なのが「意思能力」です。
意思能力とは、法律行為の意味や効果を理解したうえで判断できる能力を指します。
認知症は進行すると判断力や記憶力が低下し、契約内容を十分に理解することが難しくなる場合があります。共有名義不動産を売却する際も、共有者の一人が認知症で意思能力を欠いているとみなされれば、その方の同意は法的に有効とならず、売買契約そのものが無効とされてしまうリスクがあります。
この点について、民法では下記のように規定されています。
法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
e-Gov法令検索 e-Gov「民法(第3条2項)」
共有名義不動産の売買では、すべての共有者が「法律行為の当事者」にあたります。つまり、共有名義不動産の売買が成立するのは、共有名義人に意思能力があると判断された場合であり、意思能力がないと判断されれば売買契約自体が無効になってしまうのです。
なお、意思能力の有無は数値で判断できるものではなく、医師の診断や本人の受け答え、理解の程度などを総合的に見て判断されます。
どのようなケースだと意思能力がないと判断されるかの明確な基準はありませんが、実務上では少なくとも「売買によって共有名義不動産の所有権が買主に移る」「不動産売買による代金の受け取りがある」を理解していなければ意思能力があるとは認められにくいです。
委任状を作成していたとしても売買契約が無効になる
「委任状を作成しておけば認知症を患った共有者がいても共有名義不動産を売却できるのでは」のような相談が弊社に寄せられることもあります。
しかし、認知症を患う共有者がいる場合はそう単純ではありません。委任状を作成していても売買契約が無効になるケースは少なくないのです。
前提として、委任状を作成する行為は、「委任契約」という法律行為にあたります。前述の通り、民法第3条2項では法律行為の当事者に意思能力がなければ、その法律行為は無効になります。
つまり、認知症が進行してしまい、本人が契約内容を理解できない状態で委任状を作成しても、その委任契約は無効になります。
たとえば、認知症の親の印鑑を子どもが用いて委任状を作成し、共有名義不動産を売却したとしても、後日その親に意思能力がなかったと判明すれば契約が遡って無効になるのです。
委任状は一見便利なようで、認知症が関わる場面では効力を失いやすい不安定な手段と言えます。
認知症を患う共有者がいる状態で共有名義不動産を売却する場合、「委任状を作成すれば売買契約できる」と考えるのではなく、後述する正規の対応をとることが現実的な方法と言えるでしょう。
共有名義人が認知症になった場合のトラブル事例
そもそも共有名義の不動産は、単独名義に比べて権利関係が複雑であるため扱いが難しいものです。
そこに「認知症」という病気の特性が加わると、問題はさらに複雑化しやすいです。その結果、共有者としての同意を得るのが難しくなりやすいうえに、仮に同意が得られても契約が無効とされるリスクが生じてしまいます。
つまり、共有名義という特殊な権利関係と、認知症という意思能力に直結する病気の特性が重なることで、売却や管理に関するトラブルはより一層起こりやすくなるのです。
実際に弊社へ寄せられた相談・買取の事例には、認知症を患った共有者がいる不動産に関するものもあります。ここからは、共有名義人が認知症になった場合のトラブル事例を3つ紹介していきます。
認知症を患った共有者からの同意が得られずに売却が頓挫したケース
ご兄弟で共有している実家の売却を希望された方からのご相談です。
共有者のお兄様が認知症を患っており、契約の同意が得られない状態でした。委任状を使う方法も検討されましたが、意思能力がない時点で作成された委任状は無効と判断されるリスクが高く、買主も不安視して取引は成立しませんでした。
結果、売却が進まないまま固定資産税や維持費だけがかかり続け、ご相談者様は「不動産があるのに資産にならない」という大きな負担を抱えてしまったのです。
売却活動中に共有者が認知症と診断されてしまったケース
相談者様は、ご兄弟と共有している空き家を早く売却したいと考えていました。
買主候補も見つかり、価格交渉も大詰めに差し掛かったなか、共有者の一人であるお兄様が認知症と診断されてしまったようです。
不動産売却には全員の同意が不可欠であるため、後見人を選任する必要が出てきました。しかし、家庭裁判所の手続きには数か月単位の時間がかかり、その間に買主が不安を感じて購入を取りやめてしまいました。
結果として売却のタイミングを逃してしまい、再び買主を探すところからやり直しとなってしまいました。
税金や維持費の不公平が生じてしまったケース
親の相続で兄弟3人が共有名義となった土地のご相談です。
共有者の1人が認知症を患っており、固定資産税や管理費用の負担について話し合いができない状況でした。
結果として、残りの2人がやむなく全額を肩代わりすることになりましたが、「なぜ自分たちだけが負担しなければならないのか」という不満が募り、兄弟関係が悪化してしまいました。
さらに、空き地の草刈りや境界フェンスの修繕費用など細かな支出も積み重なり、精神的にも金銭的にも大きな負担となっていました。
共有名義人が認知症を患っていても成年後見制度を利用すれば不動産全体の売却が可能
共有名義人が認知症を患ってしまった場合でも、成年後見制度を利用することで不動産全体の売却が可能になります。
成年後見制度とは、認知症や知的障害などにより判断能力が低下した方に代わって、家庭裁判所が選んだ成年後見人が法律行為を代理で行うための制度のことです。認知症などにより意思決定が難しくなった場合に親族など周囲の人が家庭裁判所に申し立てることで利用できます。
本来、認知症の進行によって本人に判断能力がない場合、委任状を作成したとしても代理人による不動産売買の契約は無効になります。しかし、成年後見制度によって選任された後見人であれば、民法で下記のように権利が認められているため、認知症を患う共有者の代わりに不動産売買を進められます。
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。
e-Gov法令検索 e-Gov「民法(第859条)」
つまり、共有名義人のうち誰かが意思能力を失っていても、後見人が代わって同意を行い、「共有者全員の同意」という要件を満たすことが可能になるのです。
なお、成年後見制度は、大きく分けると「法定後見」と「任意後見」の2種類に分けられます。
法定後見は、家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が後見人を選任する仕組みです。本人の判断能力の程度に応じて、民法で「後見(民法7条)」「保佐(民法11条)」「補助(民法15条)」という3段階が設けられています。
任意後見は、本人が判断能力を失う前に公正証書で契約を結び、将来の後見人候補をあらかじめ指定しておく制度です。実際に任意後見契約が効力を持つのは、本人の判断能力が低下し、家庭裁判所が「任意後見監督人」を選任した時点からとなります。
類型 | 対象となる人 | 選任方法 | 本人の同意 |
---|---|---|---|
法定後見(後見) | 判断能力を常に欠く人(民法7条) | 家庭裁判所が申立てを受けて選任 | 不要 |
法定後見(保佐) | 判断能力が著しく不十分な人(民法11条) | 同上 | 原則不要(ただし代理権付与には本人の同意が必要) |
法定後見(補助) | 判断能力が不十分な人(民法15条) | 同上 | 原則必要 |
任意後見 | 将来判断能力が低下する可能性のある人 | 本人が公正証書で契約、裁判所が任意後見監督人を選任 | 必要 |
成年後見制度の目的は、あくまでも本人の利益を守ることです。そのため、親族が「売却したい」と考えていても、後見人が「本人に不利益」と判断すれば、家庭裁判所の許可は下りない可能性もあります。
さらに、一度後見人が選任されると、原則として本人が亡くなるまで後見は継続します。親族が後見人になった場合は家庭裁判所への定期報告が必要となり、弁護士や司法書士などの専門職後見人がついた場合は報酬が発生します。
共有名義不動産を円滑に売却するために成年後見制度を利用する場合でも、「本人保護のための制度」であることが前提であることを踏まえておきましょう。
成年後見制度を利用して共有名義不動産を売却するまでの流れ
成年後見人の申立てから不動産売却に至るまでには、いくつかのステップを踏む必要があります。
- 共有者に不動産売却の意思があるかを確認する
- 認知症を患う共有名義人の判断能力を確認する
- 家庭裁判所への申立て準備を行う
- 家庭裁判所による審理と調査が行われる
- 家庭裁判所に不動産処分の許可を申立てる
- 仲介や買取で共有名義不動産を売却する
1. 共有者に不動産売却の意思があるかを確認する
前提として、後見人は自由に売却契約の代行ができるわけではなく、「本人の利益を守る」ことが最優先されます。
成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
e-Gov「民法(第858条)」
そのため、認知症を患っている共有者が売却を望んでいる場合にのみ、後見人が売買行為の代行ができるのです。
認知症の進行の程度によりますが、軽度であれば家庭裁判所や調査官が直接本人に売却の意思があるのかを尋ねることもあります。認知症の症状が進行しており、本人に判断能力がない場合には、家族の証言や財産状況などの情報から総合的に本人にとって利益があるかを裁判所や調査官が判断します。
2. 認知症を患う共有名義人の判断能力を確認する
成年後見制度を利用するにはまず、共有者が契約を行える状態かどうかを確認する必要があります。
認知症と診断されていても、症状が軽度であれば意思能力を認められる場合もあります。そのため、医師による診断書が不可欠です。
この診断書は後見開始の申立ての際に家庭裁判所へ提出し、本人の判断能力の程度を示す重要な参考資料となります。
3. 家庭裁判所への申立て準備を行う
民法第7条で定められているように、認知症などによって判断能力がない人については、家庭裁判所への請求によって後見のための審判が必要になります。
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
e-Gov法令検索 e-Gov「民法(第7条)」
申立てができるのは、本人の配偶者や子などの親族、検察官、市町村長などに限られています。申立ての際には、「戸籍謄本」「住民票」「財産目録」「収支状況報告書」「医師の診断書」などの書類を揃える必要があります。
準備には時間がかかるため、早めに司法書士や弁護士といった専門家に相談して進めるのが得策です。
4. 家庭裁判所による審理と調査が行われる
家庭裁判所への申立て後、家庭裁判所は本人・親族との面談、調査官による調査、医師鑑定などを行います。これは後見人が必要かどうか、後見・保佐・補助喉の類型が適切かを判断するために行われます。
実務上では3か月〜6か月ほどかかることが多く、売却を急ぎたい場合であってもこの期間を見込まなければなりません。
審理の結果、家庭裁判所によって後見人が選任された後は、後見人が認知症の共有者を代理して売却の同意を行うことが可能になります。
5. 家庭裁判所に不動産処分の許可を申立てる
不動産の売却は「重要な財産行為」に該当するため、民法で下記のように定められている通り家庭裁判所の許可が必要です。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
e-Gov「民法(第859条3項)」
許可申立てでは、売却理由・価格・代金の使途を裁判所に説明し、本人の利益に資することを証明する必要があります。
6. 仲介や買取で共有名義不動産を売却する
家庭裁判所の許可が下りた後、後見人は認知症の共有者を代理して売買契約を結びます。
成年後見人が不動産を売却する際の具体的な流れは以下の通りです。
- 不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を行う
- 不動産の買主と売買契約を結ぶ
- 家庭裁判所に売却許可を申請する
- 買主から売却の代金を受け取る
- 買主に不動産を引き渡す
成年後見人が不動産を売却する際には、通常の不動産売却手続きに加えて家庭裁判所の許可が必要です。
まず、不動産会社と媒介契約を結び、買主が見つかった後に売買契約を結びます。その後、売却を進めるために家庭裁判所に許可を申請し、許可が下りてから正式に売却が完了します。
裁判所が「売却の必要がない」「売却価格が妥当でない」と判断した場合は、申請が却下されることもあるため、慎重に手続きを進めることが大切です。
成年後見制度を活用した場合の3つの注意点
成年後見制度を利用して不動産を売却する際は、以下の点に注意しましょう。
- 不動産を売却するためには家庭裁判所の許可が必須となる
- 法定後見人は自由に選べるわけではない
- 一度契約した法定後見人は亡くなるまで変更できない
不動産を売却するためには家庭裁判所の許可が必須となる
成年後見人であっても、本人の財産を自由に処分できるわけではありません。不動産を売却する際には、法定後見人の場合は家庭裁判所の許可、任意後見人の場合は任意後見監督人の許可が必要です。これらの許可がないまま不動産を売却した場合、その売買契約は無効とされます。
家庭裁判所は、一般的に以下の内容を元に不動産の売却の許可を行います。
- 売却の必要性
- 本人の生活や看護の状況
- 本人の意向
- 売却条件
- 売却後の代金の保管
- 親族の処分に対する態度
成年後見人の独断ではなく、本人の財産保護に資すると判断された場合に、家庭裁判所による許可が下ります。また、賃貸借契約の締結や抵当権の設定など、不動産に関わる他の契約についても同様に許可が必要です。
法定後見人は自由に選べるわけではない
法定後見制度では、後見人を自由に選べず、最終的には家庭裁判所が判断します。申立人が候補者を挙げることはできますが、家庭裁判所がその適性を調査し、最適と考える人を選任します。そのため、後見人には親族が選ばれることもありますが、弁護士や司法書士といった第三者が選任されるケースが多いのが現状です。
なお、以下の条件に該当する人は法定後見人になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人又は補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をしたい人やその配偶者及び直系血族
一度契約した法定後見人は亡くなるまで変更できない
一度法定後見人として選任されると、原則として本人が死亡するまで辞めることはできません。これは、本人の生活と財産を安定して守るためです。
辞任する場合には、家庭裁判所の許可が必要で、後任者の選定手続きも必要になります。辞任が認められるのは、医師の診断書で被後見人の障害や症状の回復が認められた場合や、後見人が高齢や病気、遠方への転居のため業務継続が難しい場合などに限られます。
「不動産の売却が目的で成年後見人に就任したが、売却が完了した」「報酬が少ない」「手続きが負担に感じる」などの理由では、辞任は認められにくいため、後見人の役割や責任を理解したうえで慎重に判断することが大切です。
共有者が認知症になった場合に共有名義不動産全体を売却する以外の対策
共有者が認知症を患った場合、共有名義不動産を売却するには家庭裁判所でのさまざまな手続きが必要です。実務上では後見人が選定されるまででも3か月〜6か月ほどの期間がかかるため、「他の対策はないか」と考える人もいるかもしれません。
共有者からの同意がない以上は共有名義不動産全体を売却することができませんが、不動産を売却する以外にも共有状態自体を解消する方法はあります。
- 特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立て共有状態を解消する
- 自分の共有持分だけを売却して共有状態から抜け出す
特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立て共有状態を解消する
認知症の共有者がいる場合、特別代理人を選任し、裁判所に「共有物分割請求訴訟」を提起する方法も有効です。
共有物分割請求訴訟とは、裁判所に対して共有状態の解消を求める手続きのことです。裁判所の判決に応じて、共有不動産の物理的な分割(現物分割)や、共有持分を現金で支払う代償分割、または競売による換価分割といった方法で分割を行うことで、共有状態を解消できます。
特別代理人とは、一時的に選ばれる法定代理人で、特定の訴訟行為を目的に家庭裁判所から任命されます。一般的には、弁護士が代理人として選任され、認知症の共有者の権利を代理して訴訟を行います。
特別代理人になるために特別な資格は必要なく、法定後見制度とは異なり、親族が代理人になることも可能です。ただし、家庭裁判所が適任でないと判断した場合は弁護士や司法書士などの専門家が特別代理人に任命されます。
自分の共有持分だけを売却して共有状態から抜け出す
共有名義不動産全体は共有者全員に所有権があり、売却には全員からの同意が必要です。しかし、共有持分のみであれば自身だけに所有権があるため、他の共有者からの同意がなくとも自由に売却が可能です。
そのため、認知症を患っている共有者がおり、その人から同意を得るのが難しい状況で共有状態から抜け出したい場合には持分のみを売却することも1つの手になります。
ただし、共有持分だけを所有していても、その不動産全体を自由に活用することができないことから、居住物件を探しているような一般の人が買主になることはほぼありません。
アパートやマンション1棟を共有しており、すでに賃貸による収益が出ている場合であれば投資家が買主として現れることもありますが、そうでなければ共有持分の買主は専門の買取業者に絞るのが現実的です。
専門の買取業者であれば、認知症を患っている共有者がいる場合の共有持分も買取対象になります。また、信頼できる買取業者であれば、売主だけでなく共有者の利益も優先して買取を進めてもらえるため、「相場よりも安値で買い取る」「強引に買取の営業をかける」といった行為はまずありません。
なお、「クランピーリアルエステート」は、共有持分の買取に特化した専門業者です。全国の物件に対応しており、最短12時間のスピード査定を行なっています。
さらに、1,200を超える弁護士や司法書士などの士業と連携して買取を行うため、認知症を患う共有者がいても家庭裁判所などでの手続きも代行が可能です。
「共有状態からすぐにでも抜け出したい」という方から、「認知症を患う共有者がいるのに持分を売ってもいいのだろうか」と悩んでいる人まで、まずはお気軽にご相談ください。
共有者の認知症でトラブルにならないために行うべき事前対策
高齢の親と不動産を共有している場合など、共有者が認知症になるリスクが高い場合は、以下の対策をしておきましょう。
- 認知症リスクがある方から他の共有者に共有持分を移転する
- 共有者が元気なうちに後見人を指名できる「任意後見契約」を結ぶ
- 家族信託を活用する
認知症リスクがある方から他の共有者に共有持分を移転する
認知症のリスクがある方から他の共有者に共有持分を移転し、共有状態を解消しておくこともトラブルの予防策として有効です。
共有持分の移転方法には、以下2つの方法があります。
- 他共有者への生前贈与
- 他共有者への売却
生前贈与する場合は贈与税に注意が必要
判断能力があるうちに、他の共有者に共有持分を譲渡しておくことも、トラブルを避けるためには有効です。例えば親子で不動産を共有している場合に、不動産全体を子供の単独名義にしておけば、子供だけで自由に不動産の売却や活用が可能になります。
ただし、その場合は贈与税が発生する可能性があるので注意が必要です。贈与税は1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与額から、基礎控除額110万円を差し引いた金額に税率を適用して算出します(暦年贈与)。
60歳以上の直系尊属(親や祖父母)から子や孫に贈与する場合は「相続時精算課税」を選択することも可能です。相続時精算課税とは、贈与者が亡くなった後に相続税と贈与税を一括で納付する方法を指します。この方法を選んだ場合、贈与税は(贈与額-2,500万円)×20%で求めることが可能です。
他共有者に売却する
共有持分を他の共有者に売却することで、共有状態を解消しておく方法もあります。不動産を共有している親族や配偶者に持分を買い取ってもらえないか、相談してみると良いでしょう。
ただし、親族間でのやりとりだからといって、相場を大きく下回る金額で売却すると「みなし贈与」として、贈与税が課税される可能性があります。また、売却価格を相場よりも高く設定した場合は、売買自体が成立しないこともあるでしょう。
売買におけるトラブルを避けるためにも、不動産の成約価格については不動産鑑定を受け、適正な価格を設定することをおすすめします。
共有者が元気なうちに後見人を指名できる「任意後見契約」を結ぶ
任意後見制度は、本人が判断能力のあるうちに後見人を指名し、本人の判断能力が不十分になった後にあらかじめ契約で定めた事項を本人に代わって行う制度です。
本人が元気なうちに任意後見契約を結び、不動産の管理などを後見人に任せられるように契約しておけば、共有不動産のトラブルを避けやすくなるでしょう。
ただし、任意後見制度を利用する場合でも、任意後見人が共有持分を自由に売却できるわけではなく、家庭裁判所が専任した任意後見監督人の許可が必要です。任意後見監督人は親族ではなく、弁護士や司法書士などの第三者の専門家が選ばれることが多くなっています。
家族信託を活用する
家族信託は、不動産や金銭などの財産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる方法です。委託者(財産を信託する人)、受託者(財産を管理・運用・処分する人)、受益者(財産の利益を受ける人)の3者で成り立っています。委託者が元気なうちに家族信託契約を結び、財産の管理を受託者に任せることで、委託者の判断能力が低下しても、スムーズな財産管理や不動産の処分が可能です。
また、家族信託を利用して共有者の1人が受託者となれば、共有持分全体の管理や売却を単独で判断できるため、共有者の判断能力に影響されず、円滑に財産の処分を進められます。
ただし、受託者の権限は信託契約書に明記された内容に基づくため、契約書を作成する際には「不動産の処分に関する権限」を明確に定めておくことが重要です。曖昧な記載があると、受託者の権限が制限される可能性もあるため、信託契約は専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
まとめ
共有不動産を売却するには、共有者全員の合意が必要です。認知症で意思能力が不足している共有者がいる場合、通常の売却手続きは難しくなりますが、成年後見制度を利用すれば売却が可能です。また、共有状態を解消したい場合には、特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立てる方法もあります。
ただし、これらの手続きは裁判所への申し立てが必要です。早期に共有状態を解消したい場合は、自分の持分を第三者に売却することも検討した方がよいでしょう。
また、そもそも共有名義人が認知症になる前に、認知症リスクのある方の持分を他の共有者に移転する、任意後見契約や家族信託を利用するといった対策を講じておくことも重要です。
認知症を患う共有名義人がいる場合のよくある質問
後見人から売却に反対されることはあるのでしょうか?
後見人は民法858条に基づき本人の利益を最優先に判断する立場です。そのため、売却が本人に不利益と判断されれば、後見人からの同意が得られずに取引は成立しません。
さらに不動産売却は民法859条の3で家庭裁判所の許可も必要とされており、後見人と裁判所双方が認めなければ売却は実現できない仕組みです。
成年後見制度を利用すれば必ず不動産売却が認められるのでしょうか?