共有名義人が認知症になってしまった場合に共有不動産を売却する方法
共有名義の不動産を売却するためには、共有者全員の合意が必要です。しかし、共有者の一人が認知症になると意思能力が不十分と判断され、合意を得ることが難しくなり、通常の売却手続きができなくなります。
もし、共有名義人が認知症になってしまった場合でも、法定後見制度を利用すれば不動産を売却することが可能です。法定後見制度とは、判断能力が不十分な人の法律行為をサポートするための制度で、家庭裁判所が選任した後見人を通じて不動産を売却できます。
ただし、法定後見制度を利用するためには裁判所への申し立てが必要になるため、手続きに手間や時間がかかる可能性があります。また、不動産を売却する際にも裁判所の許可が必要です。
なるべく早く共有状態を抜け出したい場合は、自己の共有持分を売却することをおすすめします。自己の共有持分であれば、共有者の同意なく自由に売却できるからです。共有持分を売却する際は、共有持分買取の専門業者に相談してみましょう。相場よりも高値で、スムーズに買い取ってもらえる可能性があります。
この記事では、共有名義人が認知症になってしまった場合に不動産を売却するための方法や手続きを分かりやすく解説します。また、共有名義人が認知症になる前に準備しておくべきことについてもご紹介しますので、参考にしてください。
目次
共有名義人が認知症になると不動産全体の売却が難しくなる
共有名義で不動産を所有している場合、不動産全体を売却するには共有者全員の合意が必要です。しかし、共有名義人が認知症になった場合、その共有者については「意思能力がない」とみなされるため、合意を得られず、売却が困難になります。
もし、不動産売買契約を締結できたとしても、認知症患者が交わした契約は法律的に無効になる可能性が高くなります。他の共有者に売買を任せる委任状についても、認知症患者が作成したものは基本的に無効です。
後々トラブルに発展するリスクもあるため、認知症の共有者がいる場合は無理に不動産全体の売却を進めない方が良いでしょう。認知症の親と不動産を共有している場合などは、後述する「成年後見制度」などを利用して売却を進めることをおすすめします。
また、いち早く共有状態から抜け出したい場合は、自分の持分を売却することも検討してみましょう。
そもそも認知症のリスクが高い共有者がいる場合は持分の取得や家族信託の活用など、意思能力があるうちに適切な対策を講じることが重要です。
共有名義人が認知症になった場合の3つの対処法
共有名義人が認知症になった場合、共有不動産の売却は難しくなります。しかし、このような状況でも、以下の対処法を取ることで共有状態から抜け出すことは可能です。
- 法定後見制度を利用して不動産全体を売却する
- 特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立て、共有状態を解消する
- 自分の持分を売却する
それぞれ詳しくみていきましょう。
法定後見制度を利用して不動産全体を売却する
親が認知症になった場合でも「法定後見制度」を活用することで、共有不動産全体を売却できる可能性があります。
法定後見制度とは、判断能力が低下した人の権利や財産を守るための制度です。認知症などにより意思決定が難しくなった場合に親族など周囲の人が家庭裁判所に申し立てることで利用できます。
裁判所が選定した後見人が、認知症によって判断能力が低下した人に代わって様々な法律行為を行うことが可能です。親の代わりに後見人が不動産売却を進めることも可能になるため、共有名義であっても円滑に売却が進められます。
特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立て、共有状態を解消する
認知症の共有者がいる場合、特別代理人を選任し、裁判所に「共有物分割請求訴訟」を提起する方法も有効です。
共有物分割請求訴訟とは、裁判所に対して共有状態の解消を求める手続きのことです。裁判所の判決に応じて、共有不動産の物理的な分割(現物分割)や、共有持分を現金で支払う代償分割、または競売による換価分割といった方法で分割を行うことで、共有状態を解消できます。
特別代理人とは、一時的に選ばれる法定代理人で、特定の訴訟行為を目的に家庭裁判所から任命されます。一般的には、弁護士が代理人として選任され、認知症の共有者の権利を代理して訴訟を行います。
特別代理人になるために特別な資格は必要なく、法定後見制度とは異なり、親族が代理人になることも可能です。ただし、家庭裁判所が適任でないと判断した場合は弁護士や司法書士などの専門家が特別代理人に任命されます。
自分の持分を売却する
自分の持分であれば、他の共有者の同意を待たずに売却ができるため、比較的スムーズに共有状態を解消することが可能です。第三者への売却も可能なので、たとえば親子関係に不和がある場合や、できるだけ早く共有関係を解消したい場合には有効な方法となるでしょう。
ただし、共有不動産の持分を購入する第三者は多くないため、一般的な不動産売買よりも需要が低い傾向があります。「少しでも早く、なるべく高く売りたい」という場合には、共有持分の買取に特化した専門業者に相談するとよいでしょう。
「クランピーリアルエステート」は、共有持分の買取に特化した専門業者です。全国対応で、最短12時間のスピード査定を行なっています。1200を超える弁護士や税理士、司法書士とのネットワークを活用し、法律や税務のサポートも行っているため、売買手続きや権利調整もスムーズに進みやすいでしょう。
成年後見人の申立て~不動産売却までの流れ
成年後見人の申立てから不動産売却に至るまでには、いくつかのステップを踏む必要があります。
成年後見を申し立てる流れ
成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」の2種類があり、それぞれ申立てから開始までの流れが異なります。
成年後見制度とは?手続きや費用、メリット・デメリットをわかりやすく解説
任意後見制度|本人が後見人を指定する制度
任意後見制度は、本人の判断能力が低下する前に自分で後見人を選んで契約を締結しておく制度です。本人の判断能力が低下した時点で契約が効力を発揮するため、将来の備えとして利用するケースが増えています。
任意後見制度を利用する際の具体的な流れは以下の通りです。
- 後見人と契約内容を決定する
- 契約を締結し公正証書を作成する
- 法務局へ登記を依頼する
- 本人の判断能力が低下・喪失したら任意後見監督人の選任を申し立てる
- 家庭裁判所が任意後見監督人を選任する
- 任意後見契約の効力が発生する
任意後見制度では、信頼できる家族や親しい親戚、司法書士や弁護士など、本人が望む相手を後見人として指定できます。契約の際は公証役場で公証人と本人立ち合いのもと公正証書を作成し、法務局で登記を行います。本人が公証役場に行けない場合、公証人が本人の元へ出向することも可能です。
本人の判断能力が低下した時点で家族や後見人が家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人が選任されると、契約の効力が発生して後見業務が始まります。申立後、任意後見監督人が選任されるまでの期間は1ヶ月程度です。
法定後見制度|本人の意思決定能力が低下してから申し立てる制度
法定後見制度は、本人の判断能力が低下してから家庭裁判所に申し立てる制度で、一般的に親族が申立人になります。
法定後見制度を利用する際の具体的な流れは以下の通りです。
- 家庭裁判所に法定後見制度の利用を申し立てる
- 家庭裁判所で面接を行い、審査をする
- 成年後見人を決定する
- 業務内容を説明し後見業務を開始する
家庭裁判所に必要書類の提出と申し立てを行い、申立人や後見人候補者、認知症になった本人との面接を行います。家庭裁判所が調査結果をもとに後見人を最終決定し、後見業務が開始されます。親族を後見人候補として申請することも可能ですが、弁護士など第三者が選ばれるケースが一般的です。
申立後、後見業務の開始までには3〜4ヶ月程度かかることが多くなっています。
成年後見人選定後の不動産売却の流れ
成年後見人が不動産を売却する際の具体的な流れは以下の通りです。
- 不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を行う
- 不動産の買主と売買契約を結ぶ
- 家庭裁判所に売却許可を申請する
- 買主から売却の代金を受け取る
- 買主に不動産を引き渡す
成年後見人が不動産を売却する際には、通常の不動産売却手続きに加えて家庭裁判所の許可が必要です。まず、不動産会社と媒介契約を結び、買主が見つかった後に売買契約を結びます。その後、売却を進めるために家庭裁判所に許可を申請し、許可が下りてから正式に売却が完了します。
裁判所が「売却の必要がない」「売却価格が妥当でない」と判断した場合は、申請が却下されることもあるため、慎重に手続きを進めることが大切です。
成年後見制度を活用した場合の3つの注意点
成年後見制度を利用して不動産を売却する際は、以下の点に注意しましょう。
- 不動産を売却するためには家庭裁判所の許可が必須となる
- 法定後見人は自由に選べるわけではない
- 一度契約した法定後見人は亡くなるまで変更できない
それぞれの注意点について詳しく解説します。
不動産を売却するためには家庭裁判所の許可が必須となる
成年後見人であっても、本人の財産を自由に処分できるわけではありません。不動産を売却する際には、法定後見人の場合は家庭裁判所の許可、任意後見人の場合は任意後見監督人の許可が必要です。これらの許可がないまま不動産を売却した場合、その売買契約は無効とされます。
家庭裁判所は、一般的に以下の内容を元に不動産の売却の許可を行います。
- 売却の必要性
- 本人の生活や看護の状況
- 本人の意向
- 売却条件
- 売却後の代金の保管
- 親族の処分に対する態度
成年後見人の独断ではなく、本人の財産保護に資すると判断された場合に、家庭裁判所による許可が下ります。また、賃貸借契約の締結や抵当権の設定など、不動産に関わる他の契約についても同様に許可が必要です。
法定後見人は自由に選べるわけではない
法定後見制度では、後見人を自由に選べず、最終的には家庭裁判所が判断します。申立人が候補者を挙げることはできますが、家庭裁判所がその適性を調査し、最適と考える人を選任します。そのため、後見人には親族が選ばれることもありますが、弁護士や司法書士といった第三者が選任されるケースが多いのが現状です。
なお、以下の条件に該当する人は法定後見人になれません。
- 未成年者
- 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人又は補助人
- 破産者
- 被後見人に対して訴訟をしたい人やその配偶者及び直系血族
一度契約した法定後見人は亡くなるまで変更できない
一度法定後見人として選任されると、原則として本人が死亡するまで辞めることはできません。これは、本人の生活と財産を安定して守るためです。
辞任する場合には、家庭裁判所の許可が必要で、後任者の選定手続きも必要になります。辞任が認められるのは、医師の診断書で被後見人の障害や症状の回復が認められた場合や、後見人が高齢や病気、遠方への転居のため業務継続が難しい場合などに限られます。
「不動産の売却が目的で成年後見人に就任したが、売却が完了した」「報酬が少ない」「手続きが負担に感じる」などの理由では、辞任は認められにくいため、後見人の役割や責任を理解したうえで慎重に判断することが大切です。
共有者の認知症でトラブルにならないために行うべき事前対策
高齢の親と不動産を共有している場合など、共有者が認知症になるリスクが高い場合は、以下の対策をしておきましょう。
- 認知症リスクがある方から他の共有者に共有持分を移転する
- 共有者が元気なうちに後見人を指名できる「任意後見契約」を結ぶ
- 家族信託を活用する
- 共有物分割請求を行って共有状態を解消する
認知症リスクがある方から他の共有者に共有持分を移転する
認知症のリスクがある方から他の共有者に共有持分を移転し、共有状態を解消しておくこともトラブルの予防策として有効です。
共有持分の移転方法には、以下2つの方法があります。
- 他共有者への生前贈与
- 他共有者への売却
生前贈与する場合は贈与税に注意が必要
判断能力があるうちに、他の共有者に共有持分を譲渡しておくことも、トラブルを避けるためには有効です。例えば親子で不動産を共有している場合に、不動産全体を子供の単独名義にしておけば、子供だけで自由に不動産の売却や活用が可能になります。
ただし、その場合は贈与税が発生する可能性があるので注意が必要です。贈与税は1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与額から、基礎控除額110万円を差し引いた金額に税率を適用して算出します(暦年贈与)。
60歳以上の直系尊属(親や祖父母)から子や孫に贈与する場合は「相続時精算課税」を選択することも可能です。相続時精算課税とは、贈与者が亡くなった後に相続税と贈与税を一括で納付する方法を指します。この方法を選んだ場合、贈与税は(贈与額-2,500万円)×20%で求めることが可能です。
他共有者に売却する
共有持分を他の共有者に売却することで、共有状態を解消しておく方法もあります。不動産を共有している親族や配偶者に持分を買い取ってもらえないか、相談してみると良いでしょう。
ただし、親族間でのやりとりだからといって、相場を大きく下回る金額で売却すると「みなし贈与」として、贈与税が課税される可能性があります。また、売却価格を相場よりも高く設定した場合は、売買自体が成立しないこともあるでしょう。
売買におけるトラブルを避けるためにも、不動産の成約価格については不動産鑑定を受け、適正な価格を設定することをおすすめします。
共有者が元気なうちに後見人を指名できる「任意後見契約」を結ぶ
任意後見制度は、本人が判断能力のあるうちに後見人を指名し、本人の判断能力が不十分になった後にあらかじめ契約で定めた事項を本人に代わって行う制度です。
本人が元気なうちに任意後見契約を結び、不動産の管理などを後見人に任せられるように契約しておけば、共有不動産のトラブルを避けやすくなるでしょう。
ただし、任意後見制度を利用する場合でも、任意後見人が共有持分を自由に売却できるわけではなく、家庭裁判所が専任した任意後見監督人の許可が必要です。任意後見監督人は親族ではなく、弁護士や司法書士などの第三者の専門家が選ばれることが多くなっています。
家族信託を活用する
家族信託は、不動産や金銭などの財産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる方法です。委託者(財産を信託する人)、受託者(財産を管理・運用・処分する人)、受益者(財産の利益を受ける人)の3者で成り立っています。委託者が元気なうちに家族信託契約を結び、財産の管理を受託者に任せることで、委託者の判断能力が低下しても、スムーズな財産管理や不動産の処分が可能です。
また、家族信託を利用して共有者の1人が受託者となれば、共有持分全体の管理や売却を単独で判断できるため、共有者の判断能力に影響されず、円滑に財産の処分を進められます。
ただし、受託者の権限は信託契約書に明記された内容に基づくため、契約書を作成する際には「不動産の処分に関する権限」を明確に定めておくことが重要です。曖昧な記載があると、受託者の権限が制限される可能性もあるため、信託契約は専門家に相談しながら慎重に進めましょう。
共有物分割請求を行って共有状態を解消する
トラブルを未然に防ぐために、共有物分割請求によって共有関係を解消しておく方法もあります。共有物分割請求は、共有者の一人が他の共有者に対して共有状態の解消を求める手続きです。
まずは共有者同士で話し合いを行い、合意に至らない場合には、裁判所に共有物分割請求訴訟を提起して裁判で解決を図ります。
共有物の分割方法には以下3つがあります。
分割方法 | 分割内容 |
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現物分割 | 不動産を物理的に分割する方法で、共有持分に応じて土地や建物を各共有者に割り振ります。 |
代償分割 | 特定の共有者が不動産を取得し、他の共有者に金銭を支払って代償する方法です。 |
換価分割 | 不動産を売却し、その代金を共有持分に応じて各共有者に分配する方法です。 |
まとめ
共有不動産を売却するには、共有者全員の合意が必要です。認知症で意思能力が不足している共有者がいる場合、通常の売却手続きは難しくなりますが、成年後見制度を利用すれば売却が可能です。また、共有状態を解消したい場合には、特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立てる方法もあります。
ただし、これらの手続きは裁判所への申し立てが必要です。早期に共有状態を解消したい場合は、自分の持分を第三者に売却することも検討した方がよいでしょう。
また、そもそも共有名義人が認知症になる前に、認知症リスクのある方の持分を他の共有者に移転する、任意後見契約や家族信託を利用するといった対策を講じておくことも重要です。