共有名義不動産の売却トラブルは?ケース別の対処法やトラブルを起こさない対策

共有名義不動産の売却でトラブルが起きやすい大きな理由は、不動産全体を売却するには、原則として共有者全員の同意が必要なためです。1人でも反対していたり、判断を先送りしていたりすると売却を進められません。
また、共有者全員が売却自体には同意していても、売却代金の分配で揉めることがあります。売却代金は持分割合に応じて分配するのが基本ですが、一部の共有者だけが固定資産税や修繕費を負担してきた場合、「自分の負担が考慮されないのは不公平だ」と納得できないこともあります。
共有名義不動産の売却で起こりやすいトラブルと、主な対処法をまとめると以下のとおりです。
共有名義不動産は、売却の話がまとまらないまま時間が経つほど、相続によって共有者が増えたり、固定資産税などの維持費が積み重なったりして、解決に必要な調整が増えていきます。「今は決められない」と先送りし続けるよりも、何が原因で売却が止まっているのかを整理し、早めに対応することが大切です。
どうしても不動産全体の売却が難しい場合は、自分の共有持分を売却するなど、別の方法で共有状態を解消することも検討しましょう。
本記事では、共有名義不動産の売却でトラブルが起こりやすい理由や具体的なトラブル例と対処法、放置するリスク、トラブルを防ぐための対策を解説します。あわせて、売却トラブルを解決できない場合に共有状態を解消する方法や、クランピーリアルエステートが実際に対応した解決事例も紹介します。
共有名義不動産の売却でトラブルが起こりやすい理由

共有名義不動産は、複数人で1つの不動産を共有している状態です。不動産全体の売却や管理・活用を進める際には、内容に応じて共有者同士の同意や調整が必要になるため、意見が合わず思うように進められないことがあります。
共有名義不動産の売却でトラブルが起こりやすい背景には、主に次の2つがあります。
- 共有名義不動産全体を売却するには共有者全員からの同意が原則必要なため
- 共有名義不動産の売却で得られた金額は共有者全員で分配する必要があるため
実務上、手を焼くのは「また今度考える」「今は決められない」と返答を先延ばしにされたり、話し合い自体に応じてもらえなかったりして、明確に反対されているわけではないのに売却を進められないケースです。
とくに、共有者同士が家族や親族である場合は、過去の費用負担や不動産への思い入れなども話し合いに影響し、条件面の調整だけではまとまらないこともあります。
共有名義不動産全体を売却するには共有者全員からの同意が原則必要なため

共有名義不動産全体を第三者へ売却するには、原則として共有者全員の同意が必要です。 各共有者はそれぞれ自分の持分を所有しているため、1人の共有者が他の共有者の持分まで勝手に売却することはできません。
そのため、共有者のうち1人でも売却に同意しなければ、不動産全体の売却を進めることはできません。
実務では、「絶対に売りたくない」と明確に反対される場合だけでなく、売却についての返答を先延ばしにされたり、話し合い自体に応じてもらえなかったりして、売却を進められないケースもあります。
共有者全員の意向をそろえる必要があるからこそ、1人との話し合いが進まないだけでも、不動産全体の売却が止まってしまう点が共有名義特有の難しさです。
株式会社クランピーリアルエステート
大江 剛
代表取締役
宅地建物取引士
共有者から売却を反対されている場合の対処法については、次の記事でも詳しく解説しています。
共有名義不動産の売却で得られた金額は共有者全員で分配する必要があるため

共有名義不動産を売却した場合、売却代金は原則として各共有者が持分割合に応じて受け取ります。
たとえば、兄弟2人がそれぞれ2分の1ずつ所有している不動産を3,000万円で売却した場合、それぞれ1,500万円ずつを受け取るのが基本です。
ただし、実務で揉めやすいのは、持分割合そのものよりも「これまで誰がどの費用を負担してきたのか」「誰が不動産を使用していたのか」といった事情です。
たとえば、一部の共有者だけが固定資産税や修繕費を負担していた場合、「自分のほうが多く払ってきたのに、売却代金を持分どおりに分けるのは納得できない」と感じることがあります。
また、特定の共有者だけが不動産を使用していたり、賃料収入を受け取っていたりする場合は、それまでの利用状況や収益についても不満が持ち出され、売却代金の分配だけでは話がまとまらないことがあります。
このように、持分割合とは別に、これまでの費用負担や不動産の使用状況が、売却代金の分配をめぐるトラブルの原因になることがあります。
共有名義不動産の売却で起こりやすいトラブル例と対処法
共有名義不動産の売却トラブルは、「売る・売らない」という意見の対立だけではありません。実務では、売却自体には賛成していても、条件面の調整や共有者への意思確認が進まず、売却が止まるケースもあります。
具体的には、次のようなケースです。
- 売却に反対する共有者との関係が悪化する
- 売却代金の配分で共有者と揉めてしまう
- 売却価格や売却時期について共有者の意見がまとまらない
- 共有者が話し合いに応じず売却を進められない
- 共有者と連絡が取れず売却に必要な同意を得られない
トラブルが起きたときは、「売却への賛否」「価格や分配などの条件」「共有者への意思確認」のどこで話が止まっているのかを整理し、その状況に合った対処をとることが重要です。ここでは、実際の事例も交えながら、それぞれのトラブルと対処法を解説します。
売却に反対する共有者との関係が悪化する

共有名義不動産では、売却を希望する共有者と、現状のまま所有したい共有者で意見が分かれ、話し合いを重ねるうちに関係が悪化することがあります。
◻︎弊社に寄せられた相談事例
兄は「老朽化も進んでいるし、売却して現金化し、平等に分けたい」という考えでしたが、弟は「思い出が詰まった家だから手放したくない」「将来子どもが使うかもしれない」と反対し、話し合いは平行線をたどりました。
共有名義不動産全体の売却には共有者全員の同意が必要なため、弟の反対によって売却を進められず、数年間にわたって固定資産税や維持費の負担が続くことに。売却をめぐる話し合いを重ねるうちに、兄弟間の関係も悪化してしまいました。
このように、売却に反対する理由が感情面にある場合は、固定資産税や維持費などの負担を説明するだけでは納得してもらえず、話し合いが長期化することがあります。
対処法:反対理由を確認し、理由に応じた条件を提示して改めて話し合う
共有者が売却に反対している場合は、まず「なぜ売りたくないのか」を具体的に確認しましょう。反対理由によって、現実的な解決方法が異なるためです。
反対理由ごとに検討できる主な対処法は、次のとおりです。
実務では、何度も話し合っているものの、「なぜ反対しているのか」「その理由に対して何ができるのか」まで整理できていないケースもあります。 単に売却への賛否を確認するだけでなく、反対理由を具体的な条件に置き換えて話し合うことで、どこまでなら合意できるのかを整理しやすくなります。
兄弟で共有名義にしている不動産のトラブルや共有状態を解消する方法については、次の記事でも詳しく解説しています。
売却代金の配分で共有者と揉めてしまう

共有名義不動産では、売却すること自体には全員が賛成していても、売却代金の分け方をめぐって話がまとまらないことがあります。
◻︎弊社に寄せられた相談事例
長年、固定資産税や修繕費を負担してきた長男は、「自分が費用を負担してきた分、売却代金も多く受け取りたい」と主張しました。一方、他の兄弟は「持分は3分の1ずつなのだから、売却代金も同じ割合で分けるべき」と反対しました。
不動産を売却することには全員が賛成していたものの、代金の分け方で意見がまとまらず、売却の話が一時止まってしまいました。
このように、売却自体には合意できていても、それまでの費用負担に差があると、「持分どおりに分けるのは不公平」という不満が出て、売却の話が止まることがあります。
対処法:売却代金は持分割合で分配し、立て替えた固定資産税や修繕費は別途精算する
売却代金は各共有者の持分割合に応じて受け取ることを基本とし、一部の共有者が負担していた固定資産税や修繕費などのうち、精算の対象となる費用は売却代金とは分けて整理します。
固定資産税であれば納税通知書や領収書、振込記録などから実際の負担額を確認します。修繕費についても、領収書や工事内容を確認したうえで、共有者間で精算する費用を整理しましょう。
売却代金の分配と過去の費用負担を最初から一緒に考えるのではなく、まず持分割合に応じた売却代金を整理し、そのうえで精算する費用と金額を別に確認することがポイントです。
共有名義不動産の固定資産税を一部の共有者が立て替えている場合の負担関係や請求方法については、次の記事でも詳しく解説しています。
売却価格や売却時期について共有者の意見がまとまらない

共有者全員が売却に賛成していても、「いくらで売るのか」「いつ売るのか」で意見が分かれ、売却を進められないことがあります。
◻︎弊社に寄せられた相談事例
次男と三男は早めの売却を希望していましたが、長男は「もっと高く売れるまで待ちたい」と考えており、売却価格について折り合いがつかないまま1年以上が経過しました。
その間に購入を希望する買主が現れたこともありましたが、提示された価格が長男の希望額に届かず合意できなかったため、売却には至りませんでした。
全員が不動産を売却すること自体には賛成していたものの、希望する売却価格が異なることで、具体的な売却を進められない状態が続いていました。
このように、売却そのものには合意できていても、希望価格や売却時期について基準を決めていないと、買主が現れた段階で意見が割れ、売却の機会を逃してしまうことがあります。
対処法:査定根拠を共有し、最低売却価格や売却期限を具体的に決める
売却価格について意見がまとまらない場合は、複数の不動産会社から査定を取り、査定額の高さだけでなく、周辺の成約事例や物件の状態など、価格の根拠まで共有しましょう。「高く売りたい」「早く売りたい」とそれぞれの希望だけを主張するのではなく、同じ資料をもとに判断することが重要です。
そのうえで、次のような条件まで具体的に決めておきます。
- いくらで売り出すのか
- いくらまでなら値下げに応じるのか
- 現在の価格でいつまで売却活動を続けるのか
- 一定期間売れなかった場合、いつ・どの程度価格を見直すのか
- いつまでの売却を目指すのか
「売却には賛成」というところまでは共有できていても、こうした具体的な条件まで決められていないケースは少なくありません。
買主が現れてから初めて価格の可否を話し合うのではなく、売却前に「どこまでなら価格を下げられるのか」「いつまで高値での売却を待つのか」まで決めておくことがポイントです。
共有者が話し合いに応じず売却を進められない

共有者の連絡先や居住先がわかっていても、売却について返答してもらえなかったり、話し合いそのものを避けられたりして、売却を進められないことがあります。
◻︎弊社に寄せられた相談事例
離婚当時は、子どもが成人するまでは自宅を残し、成人したタイミングで売却するという方向で話をしていました。
しかし、実際に子どもが成人して売却の話を進めようとすると、相手が具体的な話し合いに応じず、売却価格や時期などを決められない状態に。離婚時にはある程度方向性を共有できていたものの、その後あらためて合意を取ることができず、売却を進められなくなっていました。
このように、以前に「将来売却する」と話していたとしても、実際に売却する時点であらためて共有者の意思を確認できなければ、不動産全体の売却は進められません。
対処法:回答期限を設けた書面で意向を確認し、不動産会社や専門家を介して交渉する
口頭やメッセージで何度連絡しても話し合いに応じてもらえない場合は、売却の希望や条件、回答してほしい内容を整理し、回答期限を設けた書面で意向を確認します。
書面には、たとえば次のような内容を記載します。
- 不動産を売却したい理由
- 現在の査定価格や売却条件
- 売却に賛成・反対のどちらなのか
- 反対する場合はその理由
- いつまでに回答してほしいのか
「売却について話したい」とだけ伝えるよりも、相手が回答すべき内容を具体的にしたほうが、話し合いのきっかけをつくりやすくなります。
また、共有者同士で直接やり取りすると感情的になってしまう場合は、第三者を入れる方法もあります。不動産会社には査定価格や売却条件など取引面の整理を依頼し、共有者間の対立が深く、法的な交渉が必要な場合は弁護士へ相談します。
「何度連絡しても返事がない」という状態のまま待ち続けるのではなく、期限と回答事項を明確にして一度意思確認を行い、それでも進まなければ次の解決方法を検討することが大切です。
共有者と連絡が取れず売却に必要な同意を得られない

共有者の現在の住所や連絡先がわからず、売却について意思確認そのものができないケースもあります。とくに、相続が繰り返されて共有者が増えている不動産では、面識が薄い共有者や、現在の連絡先がわからない共有者が含まれていることもあります。
◻︎弊社に寄せられた相談事例
共有者の1人とは何年も連絡を取っておらず、登記上の住所へ郵便を送っても届かない状態でした。現在の居住先もわからないため、売却について本人の意向を確認できず、不動産全体の売却を進められませんでした。
このように、連絡が取れない共有者がいると、その人の売却意思を確認できないため、不動産全体の売却を進められなくなります。
対処法:登記情報や戸籍の附票などで所在を調査し、確認できなければ裁判所の制度を利用する
共有者と連絡が取れない場合は、まず登記事項証明書で登記上の住所を確認し、必要に応じて住民票や戸籍の附票などから現在の所在を調査します。自分で調査するのが難しい場合は、弁護士や司法書士などの専門家への相談も検討しましょう。
必要な調査をしても共有者の所在を確認できない場合は、裁判所の制度を利用できる可能性があります。たとえば、所在等不明共有者持分譲渡制度を利用すれば、一定の要件のもと、連絡が取れない共有者の持分も含めて不動産全体を売却できる場合があります。
ただし、登記上の住所に郵便が届かないだけで制度を利用できるわけではなく、必要な調査をしても所在を確認できないことが必要です。
行方不明の共有者がいる場合の所在調査や利用できる裁判所の制度については、次の記事で詳しく解説しています。
共有名義不動産を売却せずに放置するリスク
共有名義不動産の売却について意見がまとまらないまま放置すると、「今すぐ売れない」という問題だけで終わらないことがあります。時間が経つほど、費用負担や建物の劣化、相続による共有者の増加など、別の問題が重なっていくためです。
主なリスクは、次のとおりです。
- 不動産全体の売却や活用ができない状態が続く
- 固定資産税や管理費などの負担が発生し続ける
- 建物の老朽化が進み、不動産の価値が下がる可能性がある
- 相続によって共有者が増え、売却の合意形成がさらに難しくなる
- 共有者間の関係がさらに悪化する
共有名義不動産は、時間が経つことで売却しにくい条件が増えることもあるため、「今は話がまとまらないからそのままにしておく」と判断する場合も、将来的な負担まで踏まえて考えることが大切です。
不動産全体の売却や活用ができない状態が続く
共有者間で意見がまとまらないまま共有状態を続けると、不動産全体を売却できないだけでなく、賃貸や建て替え、大規模な改修などの活用も進めにくい状態が続きます。
実務上問題になりやすいのは、単に「今は売れない」ということではなく、共有者間の意思決定に時間がかかることで、売却や活用の機会まで逃してしまう点です。
たとえば、「今の価格なら売りたい」という共有者がいても、他の共有者が判断を先送りしている間に買主が別の物件を購入すれば、同じ条件で再び売却できるとは限りません。賃貸などの活用を検討する場合も、条件や費用負担について共有者間で調整できなければ、話を具体化できないまま時間だけが経過します。
売却も活用も進まない状態が続けば、資産として活かせないまま、固定資産税や管理費などの維持費だけを負担し続けることになります。
売却についてすぐに合意できない場合でも、そのまま結論を先送りするのではなく、「いつまでに方針を決めるのか」「売却以外の活用も検討するのか」など、次に話し合う期限や選択肢を共有者間で決めておくことが大切です。
固定資産税や管理費などの負担が発生し続ける
共有名義不動産は、売却や活用が進んでいなくても、所有している限り固定資産税などの費用が発生し続けます。 戸建てであれば固定資産税・都市計画税のほか、火災保険料、建物の修繕費、庭木の剪定や除草などの管理費用がかかることがあります。マンションであれば、これらに加えて管理費や修繕積立金の支払いも続きます。
民法253条では、共有物の管理費用などは各共有者が持分に応じて負担すると定められています。しかし実際には、一部の共有者が費用を負担しているケースもみられます。とくに誰も住んでいない空き家では、「住んでいない家にお金をかけたくない」と考え、固定資産税以外の修繕費や管理費などの負担に応じない共有者が出てくることもあります。
共有名義不動産にかかる固定資産税・都市計画税については、共有者全員が連帯して納付する義務を負います。とはいえ、納税通知書は原則として共有者の代表者宛に送付され、共有者ごとに納付する仕組みではないため、代表者など一部の共有者が実質的に立て替える状態になることがあります。
実務で問題になりやすいのは、こうした費用負担が一度だけではなく、共有状態を解消するまで積み重なっていく点です。
たとえば、売却に反対している共有者が費用を負担せず、売却を希望している共有者が固定資産税や修繕費などを支払い続けていると、「売却には応じないのに、費用も負担してくれない」という不満が生まれます。こうした状態が数年続けば、売却をあらためて話し合う際に、過去の立替分の精算まで争点となり、さらに話がまとまりにくくなることがあります。
売却を先送りするのであれば、「その間にかかる費用を誰が・どの割合で負担するのか」まで共有者間で決めておくことが重要です。一部の共有者が立て替える場合は、納税通知書や領収書、振込記録なども保管しておきましょう。
建物の老朽化が進み、不動産の価値が下がる可能性がある
共有名義不動産を売却しないまま長期間所有していると、建物の老朽化が進み、売却時の評価が下がる可能性があります。とくに誰も住んでいない空き家は、換気や通水、雨漏りの確認などが十分に行われないことで、カビや木部の腐食、害虫の発生などが進みやすくなります。
実務では、「今すぐ売らなくてもいい」と数年間そのままにしているうちに建物の状態が悪化し、いざ売却しようとしたときには、修繕費や解体費を織り込んだ価格で査定・交渉されるケースがあります。
たとえば、当初は中古住宅としてそのまま売却できる状態でも、雨漏りや腐食などが進めば、買主から修繕費や解体費を考慮した価格交渉を受けることがあります。売却を待っている間に土地の相場が上がったとしても、建物の劣化によって売却条件が悪くなれば、そのメリットを十分に得られないこともあります。
共有者間で売却の結論が出ていない場合は、売却に向けた話し合いを進めるのと並行して、少なくとも換気や通水、雨漏り・外壁・庭木などの状態確認を誰が行うのかは決めておくことが大切です。
【空き家の放置は税負担増・解体費用のリスクもある】
空き家の管理状態が悪化し、市区町村から「管理不全空家等」や「特定空家等」として勧告を受けると、固定資産税等の住宅用地特例が適用されなくなる可能性があります。
小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が6分の1に軽減されているため、特例から外れることで課税標準が最大6倍相当となる場合があります。
さらに、特定空家等について改善命令などに従わず、行政代執行によって建物が解体された場合は、その費用も所有者へ請求されます。国土交通省が紹介する事例では、木造2階建ての空き家の除却費用が約600万円、別の事例では約570万円となっています。
相続によって共有者が増え、売却の合意形成がさらに難しくなる
共有名義不動産を長期間そのままにしていると、共有者の死亡・相続によって持分が次の世代へ引き継がれ、共有者が増えていく可能性があります。
たとえば、兄弟2人が2分の1ずつ所有している不動産で、兄が亡くなり、配偶者と子ども2人が法定相続分で兄の持分を相続したとします。この場合、兄が所有していた2分の1の持分は、配偶者が4分の1、子ども2人がそれぞれ8分の1ずつ承継し、不動産全体では共有者が2人から4人に増えます。
さらに次の相続が発生すれば、それぞれの持分が細分化され、共有者がさらに増えていくこともあります。
共有者が増えた案件で難しいのは「この土地のことはよく知らない」「急いでいないから今は決められない」といった方が含まれ、なかなか全員の意思がそろわないことです。相続を重ねるほど、遠方に住んでいる人や、不動産を見たことがない人、他の共有者とほとんど面識がない人まで権利を持つようになり、意思確認や条件調整にも時間がかかりやすくなります。
加えて、相続登記が済んでいない場合は、売却の話し合いを進める前に、現在の権利者を確認しなければなりません。登記名義人がすでに亡くなっている場合は、相続関係を調査し、必要な相続登記を行ったうえで売却手続きを進める必要があります。
なお、相続登記は2024年4月から義務化されており、不動産を相続したことを知った日から原則3年以内に申請する必要があります。共有名義不動産をそのまま次の世代へ引き継がせないためにも、売却や共有状態の解消について早めに共有者間で話し合っておくことが大切です。
相続登記をしない場合のリスクや手続きについては、次の記事でも詳しく解説しています。
共有者間の関係がさらに悪化する
共有名義不動産をめぐる意見の対立を解決しないまま放置すると、時間の経過とともに共有者間の関係がさらに悪化することがあります。
実務上厄介なのは、時間が経つほど争点が増え、最初は「売るか、残すか」という話だったものが、次第にこれまでの対応や話し合いへの不満まで含む問題に変わっていくことです。
たとえば、売却について何度話しても結論を先送りされたり、一部の共有者だけが不動産の管理や手続きを担っていたりすると、「以前も話を聞いてもらえなかった」「自分ばかり対応してきた」といった不満が残ります。
その結果、あらためて売却価格や時期を話し合おうとしても、現在の条件より過去の経緯への不満が前面に出てしまい、話し合いそのものが進まなくなることがあります。関係がさらに悪化して連絡を避けるようになれば、売却条件を提示しても返答を得られず、共有状態の解消がさらに難しくなります。
共有者間の対立が深まり、当事者同士では話し合いが進まない場合は、無理に直接交渉を続けず、第三者を介して進めることも検討しましょう。売却条件の整理は不動産会社、法的な交渉が必要な場合は弁護士へ相談するなど、状況に応じて専門家を使い分けることが大切です。
共有名義不動産の売却でトラブルを防ぐための対策
共有名義不動産の売却では、買主が見つかってから共有者同士で条件を詰めようとすると、話し合いがまとまらず売却が止まることがあります。トラブルを防ぐには、売却活動を始める前に共有者間で必要な確認や話し合いを済ませておくことが大切です。
具体的には、次の4つを確認しておきましょう。
- 共有者全員で話し合って売却の方針を定める
- 「誰が共有者なのか」「持分割合はどうなっているのか」を正確に確認する
- 売却代金の分配と費用負担・利用状況の精算方法を明確にしておく
- 話し合った内容や費用負担を書面で明確に残しておく
共有者全員で話し合って売却の方針を定める
共有名義不動産の売却では、共有者全員の同意が必要となるため、売却活動を始める前に共有者それぞれの考えを確認しておくことが大切です。
話し合う際は、単に「売却したい」と伝えるだけでなく、共有状態を続ける場合の負担や売却するメリットを伝えるとともに、他の共有者が売却について不安に感じていることも確認しましょう。
たとえば、次のような点を意識して話し合います。
- 共有名義のまま所有を続ける場合に、固定資産税や管理などの負担が続くことを共有する
- 不動産全体を売却すれば、持分割合に応じて売却代金を受け取れることを説明する
- 不動産を残したい理由や、売却に対する不安・懸念がないかを確認する
- 自分が不動産会社とのやり取りや手続きを中心となって進めるなど、他の共有者の負担を減らす方法を検討する
- 居住している共有者がいる場合は、退去時期や住み替え先などについて事前に意向を確認する
とくに、共有者が実際に居住している場合は、売却そのものに反対しているのではなく、「次の住まいが決まっていない」「すぐには退去できない」といった事情から話が進まないこともあります。
共有者が何に不安を感じているのかを売却前に確認し、その負担や懸念をできるだけ減らしたうえで売却の方針をそろえておくことが、トラブルの予防につながります。
「誰が共有者なのか」「持分割合はどうなっているのか」を正確に確認する
共有名義不動産を売却する前に、「誰が共有者なのか」「それぞれどのくらいの持分を持っているのか」を正確に確認しておきましょう。
共有者や持分割合は、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)で確認できます。売却代金は持分割合に応じて分配するのが基本となるため、事前に権利関係を確認しておくことで、売却後の分配をめぐる認識のずれも防ぎやすくなります。
ただし、相続登記が済んでいない場合は、登記上の所有者が亡くなった人のままになっていることがあります。この場合、登記情報だけでは現在の共有者や持分割合を正確に確認できないため、売却前に相続関係を整理しておきましょう。
実務では、売却の話を進めてから「他にも相続人がいた」「認識していた持分割合と違っていた」とわかると、あらためて意思確認や条件調整が必要になります。家族間の認識だけで判断せず、売却活動を始める前に登記情報と相続関係を確認し、誰の同意が必要なのかを確定しておくことがトラブル防止につながります。
売却代金の分配と費用負担・利用状況の精算方法を明確にしておく
共有名義不動産を売却する場合、売却代金は各共有者の持分割合に応じて分配するのが基本です。一方で、固定資産税や修繕費を一部の共有者が立て替えていたり、一部の共有者だけが不動産を使用していたりする場合は、過去の費用負担や利用状況についても整理しておきましょう。
ただし、「これまで多く負担してきたから、その人の売却代金を増やす」とすると、何を根拠に金額を増減させたのかがわかりにくくなります。売却代金自体を持分割合と異なる割合で分配する場合は、内容によって贈与税などの税務上の論点が生じたり、各共有者の譲渡所得の計算との整合性を確認する必要が出たりすることもあります。
そのため、売却代金とは別に、これまでの費用負担や利用状況を確認し、何を精算するのかを事前に整理しておきましょう。
共有者間で精算内容について合意していれば、決済時に売却代金から立替費用などを精算することも可能です。その場合は、共有者ごとの売却代金と精算する項目・金額を分け、精算書や合意書などで内訳がわかるようにしておきましょう。納税通知書や領収書、振込記録などの根拠資料も残しておくと、後から認識のずれが生じにくくなります。
なお、精算の対象や税務上の扱いは費用の内容などによって異なるため、判断が難しい場合は税理士や弁護士などの専門家へ確認してください。
共有名義不動産の固定資産税の負担割合や、一部の共有者が立て替えている場合の精算方法については、次の記事でも詳しく解説しています。
話し合った内容や費用負担を書面で明確に残しておく
共有者全員で売却方針や費用負担、精算方法について合意できたら、その内容は口頭だけで済ませず、合意書などの書面に残しておきましょう。
共有名義不動産の売却では、話し合いから実際の売却までに時間がかかることがあります。その間に「その条件には同意していない」「費用は別の共有者が負担すると思っていた」など認識がずれると、買主が現れてから売却が止まる原因になります。
とくに、売却条件や費用負担、立替費用の精算など、後から意見が分かれやすい内容は書面に残しておくことが大切です。
合意書を作成する場合は、次のような内容を記載しておくとよいでしょう。
共有名義不動産売却に関する合意書
共有者○○、○○および○○は、下記不動産の売却について、以下のとおり合意する。
1.売却する不動産
所在地:
地番:
その他:
2.売却方針
売却方法:
売出価格:
売却を目指す時期:
価格を見直す場合の条件:
3.売却代金の分配
各共有者の持分割合に応じて売却代金を分配する。
4.費用負担・精算
仲介手数料、測量費、解体費その他売却に必要な費用の負担方法:
固定資産税、修繕費その他の立替費用について精算する項目・金額:
5.売却活動の進め方
不動産会社との窓口となる共有者:
内覧対応・必要書類の準備などの担当:
6.居住者がいる場合の対応
退去予定時期:
引き渡しまでに必要な対応:
7.売却条件を変更する場合
売出価格の変更など、当初の条件を変更する場合は、共有者全員であらためて確認する。
作成日:○年○月○日
共有者:
住所:
氏名: 印
共有者:
住所:
氏名: 印
共有者:
住所:
氏名: 印
実務上とくに決めておきたいのは、「どこまで合意済みなのか」「どの段階でもう一度共有者全員に確認するのか」を明確にしておくことです。たとえば、買主から値下げ交渉を受けた際の判断方法まで決めておけば、その都度ゼロから話し合う状態を避けやすくなります。
なお、必要な記載内容は不動産の状況や共有者間の取り決めによって異なります。法的な効力を含めて合意内容を確実に整理したい場合は、弁護士などの専門家へ相談しましょう。
共有名義不動産の売却トラブルを解決できない場合に共有状態を解消する方法
共有名義不動産の売却をめぐって共有者間の意見がまとまらず、不動産全体を売却できない状態が続く場合は、そのまま合意を待ち続けるのではなく、別の方法で共有状態を解消することも検討しましょう。
不動産全体の売却以外で検討できる主な方法は、次のとおりです。
実務では、まず他の共有者に持分を買い取る意思があるかを確認するのが現実的です。他の共有者への売却であれば、新たな第三者が共有関係に加わらず、権利関係が複雑になりにくいメリットがあります。
また、買い取る側にとっても持分が増えることで不動産を利用・処分しやすくなるため、第三者へ持分だけを売却する場合よりも価格面で折り合いがつきやすいことがあります。
他の共有者による買取が難しい場合は、共有持分専門の買取業者など第三者への売却を検討します。自分の持分だけであれば、他の共有者の同意を得ずに売却できるため、全体売却の話し合いが進まない場合でも、自分だけ共有関係から抜けることが可能です。
土地であれば、分筆後に単独名義にしたうえで売却する方法もありますが、十分な面積があるか、分筆後も接道などの条件を満たせるかといった制約があります。また、共有物分割請求は、共有者間の話し合いで解決できない場合でも共有状態の解消を目指せる一方、裁判手続きとなれば費用や時間、共有者との関係への負担も大きくなります。
共有状態を解消する方法は、共有者との関係や不動産の状況によって向き・不向きがあります。各方法のメリット・デメリットや選び方については、次の記事で詳しく解説しています。
クランピーリアルエステートが解決した共有名義不動産の売却トラブル事例
共有名義不動産の売却トラブルは、共有者との関係や連絡状況、売却への意向によって解決方法が異なります。話し合いだけで解決できるケースもあれば、自分の持分を売却するなど、別の方法で共有関係を解消したほうがよいケースもあります。
弊社・株式会社クランピーリアルエステートでは、共有者が売却に反対しているケースや、連絡が取れないケースなど、共有名義不動産特有の事情を抱えた物件の相談・買取に対応しています。
ここでは、実際に弊社が対応した次の3つの事例を紹介します。
- 売却に反対する共有者がいる状態から共有関係を解消した事例
- 共有者と連絡が取れず売却できなかった状態を解決した事例
- 共有持分の売却後に他の共有者との交渉まで対応した事例
※以下の事例は、実際に弊社へ寄せられたご相談をもとに、個人が特定されないよう一部内容を再構成しています。
売却に反対する共有者がいる状態から共有関係を解消した事例

共有者の一人が売却に反対していても、必ずしも不動産全体の売却を諦めなければならないわけではありません。反対している理由を確認することで、全体売却につながることもあります。
兄は実家を売却したいと考えていましたが、弟は反対していました。一方で、固定資産税や維持管理にかかる費用は主に兄が負担しており、共有状態を続けることにも限界を感じていました。
当初は兄の共有持分のみを弊社で買い取る方向で相談を受けていましたが、詳しく状況を確認すると、弟が不動産を残すことに強くこだわっているというよりも、兄弟間の関係が悪化しており、感情的な対立から売却に反対していることがわかりました。
そこで、当事者同士だけで話し合いを続けるのは難しいと判断し、弊社から提携する弁護士をご紹介しました。弁護士が間に入り、それぞれの意向や売却後の条件を整理しながら交渉を進めた結果、弟からも売却への同意を得ることができ、最終的には共有持分だけではなく不動産全体の売却につながりました。
表面上は「売りたい」「売りたくない」という対立に見えても、実際には共有者同士の関係悪化が売却を止めていることがあります。感情的な対立が深く、当事者同士では話し合いが進まない場合は、すぐに持分だけを売却するのではなく、弁護士などの第三者を介することで全体売却の余地がないか確認することも選択肢の一つです。
共有者と連絡が取れず売却できなかった状態を解決した事例

共有者と連絡が取れない場合でも、弁護士などの専門家に相談して所在確認を進め、本人の意向を確認できれば、不動産全体の売却につながることがあります。
もともと兄弟の折り合いは悪く、生前からほとんど交流がありませんでした。相続後は、弟と兄の妻・息子による共有状態となりましたが、兄の妻と息子は不動産を手放したいと考えていました。
そこで弟へ連絡を取ろうとしたものの、郵便物は戻ってきてしまい、把握していた電話番号もすでに変更されていたため、連絡を取ることができませんでした。
当初は、兄の妻と息子が所有する共有持分のみを弊社で買い取る方向で相談を受けていました。しかし、不動産全体を売却できる余地がないか確認するため、弊社から提携する弁護士をご紹介し、弟の所在確認を進めました。
その結果、弟と連絡を取ることができ、意向を確認すると、弟自身も不動産を手放したいと考えていることがわかりました。最終的には共有者全員の意向がそろい、弊社で不動産全体を買い取る形で解決しました。
共有者と連絡が取れないからといって、必ずしも共有持分だけを売却するしかないわけではありません。弁護士などの専門家を通じて所在確認を進めることで、全体売却につながるケースもあるため、まずは専門家へ相談してみましょう。
共有持分の売却後に他の共有者との交渉まで対応した事例

共有持分の売却を検討している方のなかには、「売却後に他の共有者とのやり取りが続くのではないか」と不安に感じる方もいます。
相談者は共有持分を相続したものの、固定資産税の負担は続く一方で、不動産から得られる収益はなく、共有状態から抜けたいと考えていました。
そこで、他の共有者に自分の持分を買い取ってもらえないか交渉しましたが、「買い取るための資金がない」と断られ、話はまとまりませんでした。
共有状態をこのまま続けることにも限界を感じ、弊社へ持分売却の相談をいただきました。ただ、相談者が心配していたのは、持分を売却した後に他の共有者から連絡が来て、責められたり対応を求められたりすることでした。
そこで弊社から、持分買取後は不動産に関する他の共有者との調整を弊社で行うことをお伝えし、相談者の持分を買い取りました。
実際に買取後、他の共有者から相談者へ連絡がありましたが、不動産に関する今後の対応は弊社が行うことを伝えていただき、その後は弊社と残る共有者との間で話し合いを進めました。
話を聞くと、他の共有者も相続によって持分を取得したものの、不動産を今後どうすればよいのかわからず困っている状況でした。最終的には、残る共有者が所有していた持分についても弊社で買い取り、共有状態を解消することができました。
この事例のように、他の共有者との交渉がまとまらない場合でも、自分の持分を売却して共有関係から抜け、その後の共有者との調整を買取業者に任せられるケースがあります。
まとめ
共有名義不動産の売却では、売却への賛否だけでなく、価格や時期、費用負担、売却代金の分配などをめぐって話が止まることがあります。トラブルを防ぐには、売却前に共有者の意向や持分割合、費用の精算方法などを整理し、合意した内容を書面に残しておくことが大切です。
すでに話し合いが進まない場合は、同じ交渉を続けるだけでなく、専門家を介して全体売却を目指す、自分の共有持分を売却するなど、状況に応じて解決方法を切り替えることも検討しましょう。
弊社・株式会社クランピーリアルエステートでは、共有者が売却に反対している場合や連絡が取れない場合、共有持分だけを手放したい場合などのご相談にも対応しています。共有名義不動産の売却でお困りの際は、お気軽にご相談ください。

売却話を先送りし続けない
親族間の共有では「揉めたくないから、もう少し様子を見よう」と売却の話を先送りしているうちに、何年も共有状態が続いてしまうことがあります。
何度話しても具体的な売却条件まで話が進まないのであれば、全体売却の合意を待ち続けるのか、別の方法で共有状態を解消するのかを考えるタイミングです。