小規模宅地等の特例は共有でも適用される?適用される要件や具体的なケースを紹介

小規模宅地等の特例とは、被相続人が居住していた土地や事業に使用していた土地について、一定の要件を満たすことで相続税評価額が最大80%減額される制度です。特例が適用できれば、相続税を大幅に減額することができます。

小規模宅地等の特例は、土地が共有名義であっても一定の要件を満たせば適用することが可能です。具体的な要件は以下のとおりです。

項目 要件
相続方法 相続または遺贈により宅地等の持分を取得した
利用状況 相続開始直前に、被相続人または被相続人と生計を一にしていた親族が、居住・事業・貸付事業などの所定の用途で利用していた
土地の用途 居住用宅地・事業用宅地・貸付事業用宅地に該当する
相続人 配偶者や同居親族など、相続人ごとの要件を満たしている
保有期間 相続税の申告期限まで保有していること(ただし、居住用宅地等を配偶者が取得する場合など、取得者区分によっては保有継続要件が求められないケースがあります)
面積 用途区分ごとに定められた限度面積の範囲内である

減額される割合は50%または80%のいずれかで、居住用や事業用など土地の用途によって異なります。

たとえば、被相続人等の居住の用に供されていた宅地等が「特定居住用宅地等」に該当し、かつ取得者要件などを満たす場合、限度面積(330㎡)までの部分について評価額が80%減額されます。

小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告書に「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」等の必要書類を添付して提出します。土地の相続税申告は複雑な手続きや書類が多いため、迷ったときは税理士に相談するのがおすすめです。

本記事では、小規模宅地等の特例が適用される要件や、適用されるケース・適用されないケースの具体例を紹介します。注意点や共有の計算方法もあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

小規模宅地等の特例は共有でも適用されるケースがある

小規模宅地等の特例は、土地が共有名義であっても、一定の要件を満たしていれば適用されるケースがあります。

まず前提として、小規模宅地等の特例とは被相続人が居住や事業など一定の用途で利用していた土地について、相続税評価額を大幅に減額できる制度です。

特例が適用される限度面積、および減額割合は、土地の利用区分によって以下のように定められています。

利用区分 限度面積 減額割合
居住用に使用されていた宅地等 330㎡ 80%
貸付事業以外の事業用の宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用の宅地等 200㎡
(特定同族会社事業用宅地等に該当する場合は400㎡)
50%
(特定同族会社事業用宅地等に該当する場合は80%)

参照:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

小規模宅地等の特例の要件は細かく定められていますが、大前提として以下3つの要件を満たしている必要があります。

  • 相続または遺贈により土地や共有持分を取得していること
  • 被相続人が相続開始直前まで、その土地を居住用や事業用など一定の用途で利用していたこと
  • 建物または構築物の敷地の用に使用されている宅地であること

共有名義の土地を相続する場合、小規模宅地等の特例が適用されるのは「土地全体」ではなく「相続する共有持分のみ」である点に注意が必要です。配偶者や親族など、相続人の立場によって小規模宅地等の特例を適用できる条件は異なるため、同じ土地の持分を相続する場合でも相続人全員が一律に特例を使えるとは限りません。

たとえば居住用の宅地等を取得する際、配偶者については相続人ごとの要件は定められておらず、基本的な要件さえ満たしていれば特例を適用できます。

一方、配偶者以外の親族が取得する際には「相続開始の直前から相続税申告の期限までその建物に居住しており、かつその宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで有していること」が要件となります。こちらに当てはまらない場合、「被相続人に配偶者がいないこと」「相続開始の直前にその建物に居住していた相続人がいないこと」など細かな要件を満たす必要があります。

このように、小規模宅地等の特例は共有名義でも利用できる可能性がありますが、持分を取得する相続人の立場によって要件が異なります。とくに配偶者以外の相続人は要件が厳しくなるため、適用できるかどうかを慎重に確認しましょう。

小規模宅地等の特例が適用される要件

小規模宅地等の特例が適用される主な要件は以下のとおりです。

  • 相続または遺贈により宅地等を取得していること
  • 被相続人が相続開始直前に当該宅地を利用していたこと
  • 当該宅地が「居住用宅地」「事業用宅地」「貸付事業用宅地」のいずれかに該当すること
  • 特例の適用を受ける相続人が定められた要件を満たしていること
  • 相続税の申告期限まで当該宅地または持分を保有していること
  • 用途区分ごとに定められた限度面積の範囲内であること

相続または遺贈により宅地等を取得していること

小規模宅地等の特例を適用するためには、相続または遺贈により宅地等を取得していることが要件のひとつとなります。生前贈与や売買など、相続以外の方法で取得した土地は対象になりません。

共有名義の土地の場合、この要件は「相続または遺贈によって取得した共有持分であること」と考える必要があります。小規模宅地等の特例は、土地そのものに一律で適用される制度ではなく、相続によって取得した権利、つまり持分ごとに適用可否が判定される制度だからです。

そのため、共有名義の土地であっても、相続によって新たに取得した持分については特例の対象になりますが、生前からすでに保有していた持分については対象外となります。

たとえば、夫婦で土地を2分の1ずつ共有しており、夫が亡くなったケースを考えてみましょう。この場合、相続の対象となるのは、夫が所有していた2分の1の持分のみです。

妻がもともと所有していた2分の1の持分は相続によって取得したものではないため、小規模宅地等の特例の対象にはなりません。仮に土地面積が400㎡だとすると、200㎡の部分にのみ小規模宅地等の特例が適用されます。

共有名義の土地では、まず相続で取得する持分の割合を把握し、そのうえで特例の適用可否を判断していきましょう。

被相続人が相続開始直前に当該宅地を利用していたこと

小規模宅地等の特例を適用するためには、被相続人が相続開始直前に、その宅地を実際に利用していたことが要件のひとつとなります。具体的には、被相続人が居住していた宅地や、事業用として使用していた宅地である場合などが該当します。

ここでいう「相続開始直前」とは、被相続人が死亡する直前の時点を指します。一時的な入院などがあっても、生活の拠点としてその宅地を利用していたのであれば、基本的には要件を満たしているものと判断されます。

また、共有名義の土地であっても、被相続人が相続開始直前まで実際に居住していた、あるいは事業のために利用していたのであれば、小規模宅地等の特例の対象となります。

一方で、その宅地を被相続人以外の共有者が使用していたり、親族に無償で貸し出したりしていた場合などは「被相続人が利用していた宅地」とは認められません。このような場合、被相続人が共有者の1人であっても、小規模宅地等の特例は適用されないため注意が必要です。

当該宅地が「居住用宅地」「事業用宅地」「貸付事業用宅地」のいずれかに該当すること

小規模宅地等の特例を適用するためには、当該宅地が「居住用宅地」「事業用宅地」「貸付事業用宅地」のいずれかに該当している必要があります。

居住用宅地とは、被相続人が生活の拠点として居住していた土地を指します。事業用宅地は、被相続人が営んでいた会社や店舗、工場などの事業のために使用していた土地、貸付事業用宅地は、アパートや駐車場など賃貸事業に利用されていた土地が該当します。

共有名義の土地に被相続人が共有者とともに居住していた場合でも、その他の要件をすべて満たしていれば、居住用宅地として小規模宅地等の特例を適用できます。共有者がいること自体は、居住用宅地としての判定に影響を与えることはありません。

事業用宅地や貸付事業用宅地についても同様で、被相続人が他の共有者とともに事業を行っていた場合であっても、特例を適用できる可能性があります。

ただし、事業用・貸付事業用宅地に小規模宅地等の特例を適用するためには、相続人が事業を引き継いでいること、相続税の申告期限まで事業を継続していることなど、細かな要件が定められています。また、法人の事業用に供されていた宅地では、相続人が法人の役員であることが求められる場合があります。

事業用宅地や貸付事業用宅地は、利用実態や相続後の状況によって適用可否の判断がとくに分かれやすくなっています。判断に迷ったときは、税理士に相談することをおすすめします。

特例の適用を受ける相続人が定められた要件を満たしていること

小規模宅地等の特例は、「誰が相続するのか」によっても適用の要件が異なります。共有名義の場合であっても、相続人ごとに定められた要件を満たしているかどうかが適用可否の判断ポイントとなります。

たとえば、被相続人の居住用に使用されていた宅地の場合、相続人ごとに以下のような要件が定められています。

共有持分の取得者 取得者ごとの要件
配偶者 なし
同居親族 以下の要件をすべて満たすこと
・相続開始の直前から相続税の申告期限までその建物に居住する
・その宅地等を相続開始時から相続税の申告期限まで保有している
上記以外の親族 以下の要件をすべて満たすこと
・日本国籍を有しない居住制限納税義務者または非居住制限納税義務者でない
・被相続人に配偶者がいない
・相続開始直前に、被相続人と同居していた相続人がいない
・相続開始前3年以内に、自己や配偶者、三親等内の親族などが所有する国内の家屋に居住したことがない
・相続開始時点で、現在住んでいる不動産を自分名義で所有したことがない
・相続開始時から相続税の申告期限まで、その宅地または持分を保有している

参照:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

配偶者が居住用宅地を相続した場合は、原則として特別な要件はありません。被相続人と同居していなかった場合でも、土地や共有持分などを取得した際には小規模宅地等の特例を適用できます。

被相続人と同居していた親族が相続する場合は、一定の期間その建物に居住し、かつ取得した共有持分を相続税申告の期限まで保有することが要件となります。

配偶者でも同居親族でもない相続人が居住用宅地を取得する場合には、いわゆる「家なき子特例」の要件が設けられています。こちらは厳しい要件が定められており、該当するケースは非常に少ないのが実情です。

上記の要件に当てはまらない相続人が土地を相続する場合、その相続人が取得した共有持分については、小規模宅地等の特例は適用されません。同じ共有名義の土地であっても、相続人ごとに適用の可否が異なる点に注意が必要です。

相続税の申告期限まで当該宅地または持分を保有していること

小規模宅地等の特例を適用するためには、相続税の申告期限まで、当該宅地または相続によって取得した共有持分を保有していることが要件です。相続税の申告期限は、原則として被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内となります。

こちらの要件は居住用宅地、事業用宅地、貸付事業用宅地のいずれにも共通しており、用途区分による違いはありません。

共有名義の土地の場合、自分が相続によって取得した持分を申告期限まで保有しているかという点で適用可否が決まります。複数の相続人で共有持分を取得する場合でも、特例の適用可否は相続人ごとに個別に判断されます。

そのため、他の共有者が期限前に共有持分を放棄したり第三者に譲渡したりしても、自分が取得した持分を期限まで保有していれば、特例の適用には影響しません。この場合、持分を手放した相続人のみ、小規模宅地等の特例の対象外となります。

小規模宅地等の特例の適用を希望する場合、将来的に土地や共有持分を売却する予定がある場合でも、相続税の申告期限までは保有しておくようにしましょう。

用途区分ごとに定められた限度面積の範囲内であること

小規模宅地等の特例では、宅地等の利用区分ごとに特例を適用できる限度面積が定められています。

一例として、被相続人等の居住用に使用されていた宅地等については、限度面積は330㎡とされています。限度面積を超える部分については、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

仮に土地全体の面積が400㎡ある場合、330㎡までが特例の対象となり、残りの70㎡については特例の適用対象外となります。評価額の減額は、あくまで限度面積の範囲内に限られるという点を押さえておく必要があります。

なお、共有名義の土地の場合、限度面積は土地全体の面積ではありません。まず相続した共有持分の割合を乗じて、対象となる面積を計算する必要があります。たとえば、400㎡の土地を2分の1の持分で相続した場合、その相続人が取得した面積は「400㎡×1/2=200㎡」となります。

被相続人等の居住の用に供されていた宅地等の限度面積は330㎡であるため、このケースでは取得した200㎡すべてが限度面積の範囲内に収まります。そのため、相続によって取得した持分に対応する面積すべてに対し、小規模宅地等の特例を適用することが可能です。

このように、土地の共有持分を相続する場合は、取得した持分に応じた面積が限度面積に収まっているかどうかで判断しましょう。

共有でも小規模宅地等の特例が適用されるケース・適用されないケース

共有でも小規模宅地等の特例が適用されるケース・適用されないケースの具体例を紹介します。

適用されるケース 適用されないケース
・被相続人と同居していた相続人が、共有持分を相続した場合
・配偶者が共有持分を相続した場合
・被相続人が営んでいた事業用宅地を、事業承継者が共有で相続した場合
・賃貸不動産の敷地を、賃貸事業を継続する相続人が共有で相続した場合
・相続人がすでに生前から共有者で、相続では持分を取得していない場合
・被相続人が実際には宅地を利用していなかった場合
・共有者のうち、要件を満たさない相続人が持分を取得した場合
・相続税の申告期限前に、共有持分を売却・放棄した場合

共有でも小規模宅地等の特例が適用されるケース

共有名義の土地であっても、小規模宅地等の特例の基本的な要件を満たしていれば、特例が適用される可能性があります。

ここでは、実務上よく見られる以下のケースを取り上げ、どのような場合に共有でも特例が適用されるのかを具体的に解説します。

  • 被相続人と同居していた相続人が、共有持分を相続した場合
  • 配偶者が共有持分を相続した場合
  • 被相続人が営んでいた事業用宅地を、事業承継者が共有で相続した場合
  • 賃貸不動産の敷地を、賃貸事業を継続する相続人が共有で相続した場合

被相続人と同居していた相続人が、共有持分を相続した場合

居住用宅地については、被相続人と同居していた相続人が共有持分を取得する場合、一定の要件を満たせば小規模宅地等の特例を適用できます。

具体的には、相続開始の直前から相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住しており、かつその共有持分を相続税の申告期限まで保有していることが要件となります。

たとえば、両親と子どもが同一の建物で同居しており、土地は父と母がそれぞれ2分の1ずつ共有していたケースを考えてみましょう。

同居中に父親が亡くなり、母親(配偶者)と子どもの計2名が父の遺産の相続人となりました。話し合いの結果、母親が高齢であることなどを理由に、父の共有持分は子どもが相続することになりました。

この場合、子どもが相続税の申告期限まで引き続きその建物に居住し、相続した共有持分を保有していれば、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。

このように、被相続人と同居していた相続人が共有持分を取得する場合は、居住と保有の要件をクリアするだけで良いため、特例が認められるケースが多いです。共有名義であること自体は問題にはならず、同居していた事実と相続後の状況が判断基準となります。

配偶者が共有持分を相続した場合

居住用宅地については、被相続人の配偶者が共有持分を相続する場合、特別な要件は定められていません。被相続人と同居していなかった場合であっても、基本的な要件を満たしていれば小規模宅地等の特例を適用できます。

たとえば、被相続人である夫が生前に一人で自宅に居住しており、妻は仕事の都合などで別居していたケースを考えてみましょう。

土地は夫婦の共有名義となっており、夫の死亡によって土地の相続が発生しました。他の相続人と話し合った結果、妻が夫の共有持分を取得して単独名義にすることに決まりました。

妻は夫と別居していますが、配偶者には同居などの要件が定められていないため、基本の要件をすべて満たしていれば小規模宅地等の特例を適用することが可能です。

配偶者が共有持分を相続する場合は、被相続人との同居や継続居住などの要件がないため、比較的広く特例が認められる点が特徴です。複数の相続人で共有持分を相続する場合であっても、配偶者が取得する持分については特例が適用される可能性が高いです。

被相続人が営んでいた事業用宅地を、事業承継者が共有で相続した場合

相続開始直前において、被相続人が営んでいた事業用(貸付事業を除く)に使用されていた宅地等を事業承継者が共有で相続する場合、小規模宅地等の特例が適用される可能性があります。土地が共有名義であっても、事業用宅地としての要件を満たしていれば、共有持分に対して特例の適用が可能です。

事業用宅地については、相続人に対して以下の「事業承継要件」と「保有継続要件」が定められています。

  • 相続した宅地・共有持分で営まれていた被相続人の事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限までその事業を営んでいること
  • 相続した宅地・共有持分を相続税の申告期限まで保有していること
たとえば、被相続人が生前に店舗を営んでおり、その敷地を単独名義で所有していたケースを考えてみましょう。

被相続人の死亡後、子ども2人が事業を引き継ぎ、その土地の共有持分を2分の1ずつの割合で相続することになりました。

この場合、相続税の申告期限まで事業を継続し、かつ取得した共有持分を保有していれば、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。

事業用宅地については、共有で相続した場合でも、事業を実際に承継して継続しているかどうかが重要な判断基準となります。

賃貸不動産の敷地を、賃貸事業を継続する相続人が共有で相続した場合

賃貸不動産の敷地についても、被相続人が相続開始直前まで貸付事業を行っており、その事業を相続人が引き継ぐ場合には、小規模宅地等の特例が適用される可能性があります。対象となる貸付事業は、不動産貸付業や駐車場業、自転車駐車場業および準事業に限られます。

貸付事業用宅地についても、事業用宅地と同様に以下の要件が定められています。

  • 相続した宅地・共有持分に係る被相続人の貸付事業を、相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ申告期限までその貸付事業を行っていること
  • 相続した宅地・共有持分を相続税の申告期限まで保有していること
たとえば、被相続人が生前にアパート経営を行っており、その敷地を単独で所有していたケースを考えてみましょう。

被相続人の死亡後、子ども3人がその貸付事業を引き継ぎ、その土地の共有持分を3分の1ずつの割合で相続することになりました。

この場合、相続税の申告期限まで賃貸経営を継続し、かつ取得した共有持分を保有していれば、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。

貸付事業用宅地についても、事業用宅地と同じように、事業を実際に承継して継続しているかどうかが重要な判断基準となります。共有で土地を相続した場合でも、同様の要件が適用されます。

共有でも小規模宅地等の特例が適用されないケース

共有名義の土地を相続する際に、小規模宅地等の特例が適用されないケースもあります。

共有であること自体が問題なのではなく、相続の方法や被相続人の利用状況、相続人ごとの要件、保有期間など、いずれかの基本要件を満たしていないのが主な原因です。

ここでは、実務上よくある以下のケースをもとに、どのような場合に共有で特例が適用されないのかを具体的に解説します。

  • 相続人がすでに生前から共有者で、相続では持分を取得していない場合
  • 被相続人が実際には宅地を利用していなかった場合
  • 共有者のうち、要件を満たさない相続人が持分を取得した場合
  • 相続税の申告期限前に、共有持分を売却・放棄した場合

相続人がすでに生前から共有者で、相続では持分を取得していない場合

被相続人と土地を共有していた相続人であっても、相続によって新たに持分を取得していない場合には、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

小規模宅地等の特例の前提となる要件は、あくまでも「相続または遺贈によって宅地等を取得していること」であり、生前からすでに保有していた持分は対象外となるためです。

たとえば、夫婦で土地を2分の1ずつ共有していたケースを考えてみましょう。

父親が亡くなり、相続人同士で話し合いをした結果、父の持分は子どもが相続することになりました。子どもはすでに自立しており、父親と同居はしていなかったため、小規模宅地等の特例が適用されませんでした。

母親は被相続人の配偶者であるため、同居の有無にかかわらず小規模宅地等の特例が適用される可能性がありますが、今回のケースでは土地の共有持分を相続していません。また、母親がもともと保有していた共有持分は相続によって取得したものではないので、特例の対象外となります。

共有名義であるかどうかにかかわらず、相続や遺贈によって取得していない持分については、小規模宅地等の特例が適用されません。相続で取得した持分は特例が適用される可能性はあるものの、相続人ごとの要件を満たす必要がある点に注意が必要です。

被相続人が実際には宅地を利用していなかった場合

小規模宅地等の特例を適用するためには「被相続人または被相続人と生計を一つにしていた親族が相続開始直前に当該宅地を実際に利用していたこと」が前提条件となります。

そのため、被相続人が土地を所有しているだけで、実際には居住や事業などに利用していなかった場合には、小規模宅地等の特例を適用することはできません。

たとえば、被相続人と配偶者、子どもの3人で土地を共有しており、その土地は子どもが利用していたケースを考えてみましょう。

被相続人と配偶者は別の場所に居住しており、実際に土地を利用していたのは、生計を別にする被相続人の子どものみでした。この場合、「相続開始直前に、被相続人または生計を一にしていた親族が宅地を利用していた」とは認められません。

小規模宅地等の特例の前提条件を満たしていないことから、特例の適用はできないということになります。

共有名義の土地を共有者のうち1人が使用するというのはよくあるケースですが、被相続人が利用していた実態がなければ特例の適用は認められません。

ただし、被相続人以外の親族が宅地を利用していた場合でも、被相続人と生計を一つにしていたのであれば特例の適用が認められる可能性があります。たとえば生活費や医療費などを送金しており、家計を共有していたと考えられる場合には、特例の適用が可能です。

共有者のうち、要件を満たさない相続人が持分を取得した場合

小規模宅地等の特例は、相続人ごとに要件が定められています。そのため、同じ土地を相続した場合でも、相続人によって特例を適用できるかどうかが分かれることがあります。

被相続人の居住用に使用されていた宅地の場合、配偶者が持分を取得する際には、原則として個別の要件は設けられていません。一方で、配偶者以外の親族については、同居や家なき子の特例など、細かな条件を満たす必要があります。

たとえば、被相続人が配偶者と土地を共有しており、子どもは別居していたケースを考えてみましょう。

遺産分割協議の結果、被相続人の持分は配偶者と子どもがそれぞれ2分の1ずつの割合で相続することになりました。この場合、配偶者については、基本的な要件さえ満たしていれば小規模宅地等の特例を適用できます。

一方で、被相続人と別居していた子どもについては、居住用宅地の特例において「被相続人に配偶者がいないこと」が要件の一つとして定められています。そのため、配偶者が存在する今回のケースでは、子どもが取得した持分については特例を適用することができません。

このように、土地を共有で相続する際には、相続人ごとに要件を満たしているかどうかを個別に判断する必要があります。

今回のケースのように、「配偶者には特例が適用されるが、その他の相続人には適用されない」といったパターンは多くみられるため、事前に確認しておきましょう。

相続税の申告期限前に、共有持分を売却・放棄した場合

配偶者以外の親族が小規模宅地等の特例を適用するためには、「相続した宅地や共有持分を相続開始時から相続税の申告期限まで保有すること」が要件として定められています。

そのため、申告期限前に持分を売却したり放棄したりした場合には、特例を適用することはできません。

たとえば、被相続人が単独で所有していた土地を、被相続人の子ども2人が共有で相続したケースを考えてみましょう。

子ども2人は被相続人と同居しており、居住用宅地としての適用要件は満たしていました。しかし、相続税の申告期限前に、子どものうち1人が自分の共有持分を第三者へ売却してしまいます。

この場合、売却した共有持分については、小規模宅地等の特例の対象外となり、特例の適用ができなくなります。

このように、共有で土地を相続する場合でも、特例の適用可否は相続人ごとに判断されます。申告期限前に持分を処分した相続人のみが特例の対象外となるため、他の共有者の持分に影響はありません。

なお、配偶者については「相続税の申告期限まで宅地等を保有していること」という要件が設けられていません。そのため、配偶者が取得した持分については、申告期限前に売却した場合でも、他の基本的な要件を満たしていれば小規模宅地等の特例を適用できます。

共有の場合で小規模宅地等の特例を適用する場合の注意点

共有の場合で、小規模宅地等の特例を適用する場合の注意点は以下のとおりです。

  • 二世帯住宅は共有名義だと構造・登記の違いで小規模宅地の扱いが変わる
  • 共有名義と分筆所有では小規模宅地等の特例の判定方法が異なる
  • 小規模宅地等の特例は利用区分ごとに限度面積・減額割合を分けて考える

二世帯住宅は共有名義だと構造・登記の違いで小規模宅地の扱いが変わる

二世帯住宅の場合、土地や建物が共有名義であっても、小規模宅地等の特例が適用されるとは限りません。とくに注意したいのが、建物の構造や登記の方法によって、「同居」と認められるかどうかの判断が変わる点です。

小規模宅地等の特例では、配偶者以外の親族が適用を受ける場合、被相続人と同居していたかどうかが重要な判断基準となります。二世帯住宅であっても、建物が一棟として登記されておりその建物内で生活していれば、同居と扱われる可能性があります。

一方、二世帯住宅が「区分所有登記」されている場合には注意が必要です。区分所有登記とは、マンションのように建物内の各住戸が独立した不動産として登記されている状態を指します。

この場合、実態としては被相続人と同居していても、法的には別々の建物に居住していると判断され、配偶者以外の同居親族については小規模宅地等の特例の要件を満たさない可能性があります。

重要なのは、住宅の間取りや生活スタイルそのものではなく、登記上どのように扱われているかという点です。完全に分離された構造であっても、単独名義や共有名義で一棟として登記されていれば特例の対象となる可能性がある一方、同じ構造でも区分所有登記されていると取り扱いが変わります。

毎年春ごろに送付される「固定資産税納税通知書」が二世帯分届く場合、その建物は区分所有登記ということになります。区分所有登記は解消することも可能なため、必要に応じて司法書士に相談し、相続が発生する前に対策をしておきましょう。

共有名義と分筆所有では小規模宅地等の特例の判定方法が異なる

相続する土地が共有名義なのか、それとも分筆所有で複数の土地として独立しているのかによって、小規模宅地等の特例の判定方法が異なる点にも注意が必要です。

共有名義は1つの土地に対して複数人が持分を所有している状態であり、小規模宅地等の特例では、土地全体を「1つの宅地」として判定します。

そのため、共有名義の土地が「被相続人と生計を一にする親族の居住用に使用されていた」と認められれば、被相続人が所有していた持分すべてに特例を適用できる可能性があります。たとえ広い土地であっても「土地のどの部分に誰が住んでいるか」が問題になることはほぼありません。

一方、分筆所有の場合は、土地を物理的に分け、それぞれを別の不動産として登記している状態になります。この場合、分筆された土地ごとに「別々の宅地」として特例の判定が行われます。

そのため、「被相続人が所有していた土地」と「実際に親族が居住していた土地」が一致していなければ、小規模宅地等の特例を適用することができません。土地同士が地続きになっていても、分筆所有されていれば別々の土地として扱われます。

たとえば、土地を「父の土地」と「母の土地」に分筆し、それぞれ別々の名義で登記していたケースがあったとしましょう。

父が亡くなり、相続人である子どもが「小規模宅地等の特例を父の相続で適用したい」と考えました。しかし、同居している子どもが住んでいた建物が、実際には母名義の土地の上に建っていた場合、子どもは「父の土地」に居住していたとは認められません。

この場合、子どもは父の土地を利用していないと判断されるため、父が所有していた土地については、小規模宅地等の特例を適用できないことになります。

このように、共有名義と分筆所有とでは小規模宅地等の特例の判定方法が異なっており、結果として相続税に大きな影響を与える可能性があります。相続対象の土地が共有なのか分筆なのかをあらかじめ確認しておきましょう。

小規模宅地等の特例は共有だと面積はどうなる?計算方法を解説

共有名義の土地に小規模宅地等の特例を適用する場合、被相続人が所有していた共有持分に応じて、評価減の対象となる面積を算出する必要があります。

計算方法はシンプルで、基本的には「土地の全体面積×被相続人の持分割合」で計算します。たとえば、土地の面積が360㎡で、被相続人が3分の1の持分を所有していた場合、評価減の対象となる面積は次のように算出します。

360㎡ × 3分の1 = 120㎡

小規模宅地等の特例の要件を満たしている場合、120㎡に対して最大80%評価減が適用されることになります。

なお、居住用宅地等には330㎡という限度面積が定められていますが、共有の場合は「土地全体が330㎡以内かどうか」で判断するのではありません。あくまでも「共有持分に応じて按分した後の面積」が限度面積の範囲内かどうかで判定されます。

そのため、土地全体の面積が大きくても、被相続人の持分割合が小さい場合には、按分後の面積すべてに特例を適用できるケースもあります。

ただし、共有持分の割合だけを見て単純に計算できないケースもあります。たとえば、土地の一部が賃貸に使われている場合や、居住部分と空き地が混在している場合などです。

このようなケースでは、「誰がどの部分を、どのような目的で使っていたのか」という利用実態を踏まえて、評価減の対象となる面積を細かく計算する必要があります。

共有名義の土地は、面積の按分や用途区分の判断を誤りやすく、特例の否認や追徴課税につながるリスクもあります。適用可否や正確な面積を判断するためには、相続税に強い税理士に相談するようにしましょう。

まとめ

小規模宅地等の特例は、相続する土地の評価額を最大80%減額できる制度であり、土地が共有名義であっても所定の要件を満たしていれば適用することが可能です。

特例の適用要件は「相続または遺贈によって宅地等を取得した」「被相続人が相続開始直前に当該宅地を利用していた」など細かく定められており、また相続人の立場によっても要件が異なります。

配偶者が共有持分を取得する場合、特別な要件は定められていません。一方、配偶者以外の相続人については、被相続人と同居していることや、相続税の申告期限まで持分を保有していることなど、複数の条件を満たす必要があります。

とくに共有名義の場合、面積の按分や土地の利用状況などを踏まえて判断する必要があり、適用可否や計算方法が複雑になるケースが多いです。そのため、共有の土地で小規模宅地等の特例を検討する場合は、相続税の経験が豊富な税理士に相談してみてください。

よくある質問

建物が子ども名義でも小規模宅地等の特例は適用できますか?

小規模宅地等の特例では、建物の名義についての要件は定められていません。そのため、土地と建物の名義が異なっていても、取得者が定められた要件を満たしていれば、特例の適用は可能です。

共有名義のマンションでも小規模宅地等の特例は適用できますか?

共有名義のマンションであっても、取得した相続人が定められた要件を満たしていれば、被相続人が有していた敷地部分の持分について特例を適用することが可能です。戸建てと同様、建物部分には特例を適用できない点に注意が必要です。

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