共有名義の土地を分筆するには?流れや費用、分筆できない時の対処法
分筆は、登記簿上1つの土地を複数に分けて登記し直すことで、土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。
分筆をすれば、共有状態を解消し単独所有状態になります。そのため、建て替えや活用、売却など不動産への変更行為を自己判断で行えるほか、共有状態よりも一般市場で売却しやすいなどメリットが多くあります。
ただし、持分の過半数を所有する共有者から合意が取れていることや、面積や境界がはっきりしていることが条件です。そのため、隣地との境界がはっきりしていない場合は隣地の所有者立ち会いのもと、土地家屋調査士による境界確定測量が必要となり、費用や時間がかかる可能性があります。
また、分筆の仕方によっては反対に資産価値が低下したり、固定資産税が上がったりするデメリットもあります。分筆登記をするとしても、土地家屋調査士の報酬に25~100万円程度、所有権移転登記に5~10万円程度の費用がかかるため、分筆が最適な選択肢であるかよく検討しなければなりません。
共有土地を分筆できず持て余す場合、自分の共有持分のみを共有持分専門の買取業者へ売却する方法があります。自分の共有持分の売却には他の共有者の同意は必要ありません。買取業者と価格面で合意できれば、早期に売却可能です。この記事では、共有持分を有する土地を分筆する方法やメリット、デメリットなどについて解説します。
目次
共有名義の土地を分筆するのに満たすべき条件
共有名義の土地を分筆するには、下記の3つの条件をすべて満たしている必要があります。
- 共有者のうち過半数の同意がある
- 隣地所有者との立会いのもと境界を確定できる
- 分筆後の面積が0.01㎡以上
ここからは、上記の条件についてそれぞれ詳しく解説していきます。
共有者のうち過半数の同意がある
以前は、分筆するのに共有者全員の同意が必要でしたが、2023年4月に施行された民法改正によって、過半数の持分を有する共有者が共同で申請を行うことで分筆登記ができるようになりました。
一部の共有者に分筆を反対されている場合や連絡が取れない共有者がいる場合、以前のルールでは分筆ができませんでしたが、現在は分筆が可能となっています。
分筆後の面積が0.01㎡以上
土地の登記に記録できる面積の最小単位が0.01㎡です。0.01㎡未満は切り捨てとなり、登記簿では0.00㎡と記載されてしまうため、実務上0.01㎡未満の土地は分筆登記ができません。
また、自治体によって最低敷地面積が規定されている場合、基準を満たしていない土地には建物が建てられず、売却も困難になります。最低敷地面積は全国で統一されておらず、自治体によって異なるため、自治体の窓口や公式ホームページで確認しましょう。
隣地所有者との立会いのもと境界を確定できる
分筆登記の申請には、隣地との境界が明確であることを証明するための資料(筆界確認書や確定測量図など)を提出しなければなりません。隣地との境界が曖昧な場合は、土地家屋調査士に依頼して境界確定測量を行ってもらう必要があります。
隣地所有者が立ち合いの下で土地家屋調査士に測量を行ってもらい、境界の位置を確認して依頼者と隣地所有者の双方が合意すれば、筆界確認書や確定測量図の作成が可能になります。
隣地所有者に立ち合いを拒否された場合や連絡が取れない場合は、隣地所有者からの合意を得なくても境界を確定できる「筆界特定制度」や、判決によって境界を強制的に確定させる「土地境界確定訴訟」などを利用して境界トラブルを解決しましょう。
共有名義の土地を分筆するメリット
共有する土地を分筆して単独名義とするメリットに、以下の3つが挙げられます。
- 土地の共有状態を解消できる
- 分筆した土地は違った用途で使用できる
- 高値で売れやすくなる
土地の共有状態を解消できる
1つの資産を共有している時点で、単独所有と比べて権利関係は複雑です。もし、共有者の1人が亡くなり相続が発生した場合、その相続人が共有者となりますます権利関係が複雑になる可能性があります。
権利関係が複雑であればあるほど土地の利用や処分についても意見が分かれ、トラブルになりやすいでしょう。
また、土地を第三者へ売却したり、抵当権を設定したりなど、共有物に軽微でない「変更」を加える場合、他の共有者全員の同意が必要です(民法251条)。土地を整地したり、第三者へ賃貸したりする共有物の「管理行為」にも、共有者の持ち分の過半数で決定しなければなりません(民法252条)。
つまり、土地を処分したり活用したりするとしても、他の共有者の同意が必要な分、土地の価値は制限されているといえます。そのため、土地を分筆することで共有状態を解消し、自分の土地を自由に活用できる点は大きなメリットといえます。
分筆した土地は違った用途で使用できる
共有する一筆の土地の中では、「地目」を分けられません。地目とは、土地の登記における「宅地」「山林」「田」「畑」など、土地の用途による区分のことです。
地目によって土地の評価方法が変わりますが、一筆の土地に2つ以上の地目は登録できません。そのため、共有状態のままだと「山林」と「畑」のように複数の使い方ができないデメリットがあります。
しかし、分筆後の土地はそれぞれが独立した土地のため、違う地目ごとの登記も可能です。用途に応じた地目に変更できるため、土地の利用価値が広がります。
高値で売れやすくなる
共有状態の土地を売却する方法として、「土地全体を売却する」もしくは「自分の持ち分だけを売却する」方法があります。土地全体を売却するには他の共有者の同意が必要であり、1人でも同意が得られなければ売却できません。
一方、自分の共有持分については、他の共有者の同意に関係なく自由に売却が可能です。ただし、共有持分だけの売却は、売却自体が難しいうえ、売却できたとしても本来の土地の価値と比べるとかなり低くなります。
なぜなら、共有持分だけを購入しても土地を自由に活用、処分することができないため、需要が少なく購入する人は限られるからです。この点、単独名義の土地であれば、購入者を見つけやすいほか、高値での売却もしやすくなります。
共有名義の土地を分筆するデメリット
一方、共有する土地を分割するうえでデメリットが生じる可能性もあります。
- 過半数の共有者から同意を得るのに手間がかかる
- 形状や面積によっては土地の価値が低下する可能性もある
- 住居のない更地が共有持分になると固定資産税が高くなる
過半数の共有者から同意を得るのに手間がかかる
土地を分筆する行為は、共有物の「軽微変更」にあたるため、過半数の持ち分所有者からの同意が必要です(民法251条)。
共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
土地の分筆には、時間も費用もかかるため反対する共有者が出ることもあり、交渉が必要です。
形状や面積によっては土地の価値が低下する可能性もある
もともと土地面積がそれほど広くない場合、分筆することでさらに土地面積が小さくなると、土地そのものの利用価値が下がり資産価値が下がる場合もあります。また、分筆すると土地の形状がいびつになってしまったり、道路との接道状況が悪くなったりすることで価値が下がる可能性もあります。
もし、共有している状態より資産価値が下がるなら、分筆は避けたほうがよいでしょう。ただし、土地を有効活用できず共有持分の維持費だけを負担し続ける状況であるならば、共有持分専門の買取業者に売却するのもおすすめです。
共有持分専門の買取業者であれば、売却しにくい共有持分でも一定の価格で買い取ってもらえる可能性があります。
住居のない更地が共有持分になると固定資産税が高くなる
建物がある土地の分筆後、更地となった土地を所有することになると固定資産税の負担が増える可能性があります。固定資産税・都市計画税は、住宅用地には税負担が軽減される特例があります。
具体的には、土地面積200㎡までの部分の固定資産税が1/6、都市計画税が1/3になりますが、更地になった場合この特例は適用されません。
そのため、分筆後、建物がない土地を取得した人が固定資産税の金額に驚くケースも少なくありません。ただし、固定資産税は、毎年1月1日時点の所有者に対して課税される税金です。そのため、分筆後、単独所有となった土地に建物を建てる場合、あるいは、分筆した土地を売却する場合でも、同年中に行えば固定資産税が上がることはありません。
共有名義の土地は共有持分に応じて分筆できる
土地の所有形態として、1人が所有する「単有(単独所有)」と複数人で所有する「共有」があります。
共有は、それぞれが一定の割合で土地を所有する形態です。3人で均等に所有する場合はそれぞれ3分の1ずつ土地の権利を有し、それぞれの持ち分を「共有持分」といいます。登記簿上は「持分3分の1」という形で表記されるのが一般的です。
共有する土地は、それぞれの持ち分の割合に応じて分筆できます。
分筆とは、登記簿上1つの土地を複数の土地に分けて登記しなおすことです。一般的には、依頼を受けた土地家屋調査士が手続きします。
分筆された土地それぞれについて登記簿が作成されるため、1つ1つの土地ごとに地目(宅地や田、畑、山林など土地の種類を表す)や権利関係の登記が可能です。
以下、分筆できるケースとできないケース、分割との違いについて解説します
- 土地上に建造物があっても分筆できる
- 市街化調整区域など分筆が不可能な土地もある
- 分筆と分割の違いは「登記簿上でも土地が分かれることになるかどうか」
土地上に建造物があっても分筆できる
更地でなく土地上に建物がある場合でも分筆できます。
このとき、一般的には、分筆後に建物が含まれる土地と建物がない土地に分かれるように分筆案が考えられますが、建物が2つの土地にまたがる場合でも分筆は可能です。
また、土地を分筆すると分筆前と地番が変わります。通常、土地を分筆した場合、分筆前の地番に枝番をつけて新しい地番とします。例えば、「〇〇町一丁目5番」の土地を2つに分筆した場合「〇〇町一丁目5番1」と「〇〇町一丁目5番2」といった形です。
そして、建物がある土地を分筆する場合、分筆後の土地の地番に合わせて建物の所在地を変更しなければなりません。これは建物の登記簿には、土地の所在地(地番)も記載されているからです。
建物が複数の土地(地番)にまたがる場合は、出入口の位置、面積の割合などを勘案して、どちらか1つの地番を選択します。
市街化調整区域など分筆が不可能な土地もある
市街化調整区域などでは、自由に分筆できない場合もあります。都市計画法では、市街化地域と市街化調整区域を定めており、それぞれ下記のような特徴があります。
市街化地域 | ・すでに市街地を形成している ・おおむね10年以内に優先的・計画的に市街化を図る地域 |
---|---|
市街化調整区域 | ・市街化を抑制すべき地域 ・農地や森林を守るのが目的 |
そのため、市街化調整区域内の土地については、過度な開発行為を防止するために、各自治体において最低敷地面積などが定められている場合があります。
また、市街化調整区域以外でも、街の景観や良好な居住環境を維持するために最低敷地面積などの規制が設けられている場合があります。
例えば、横浜市では、市街化区域では原則100㎡以上、市街化調整区域では原則125㎡以上の最低敷地面積の制限を設けています。各自治体で制限内容は異なるため、役所の宅地開発課などで確認しましょう。
なお、分筆できない場合でも、共有持分専門の買取業者であればそのまま買い取ってもらえる場合があります。「共有持分を処分したい」「分筆して単独所有にすることが難しい」などの場合、共有持分専門の買取業者に売却するのもおすすめです。
分筆と分割の違いは「登記簿上でも土地が分かれることになるかどうか」
土地を「分割」することと「分筆」することは、1つの土地を分ける意味では同じですが異なるものです。
分割は、登記簿上は1つの土地のまま任意のラインで土地を分割したと仮定するものです。分割と分筆には、建物を新築するときや土地に抵当権をかける場合に下記のような違いがあります。
分割 | 分筆 | |
---|---|---|
新築するとき | 登記の必要なし | 登記の必要あり |
抵当権をかけるとき | 土地全体に対して抵当権を設定 | それぞれの土地に抵当権を設定 |
法律では1つの土地に対して建てられる建物は1つまでと定められており、敷地内にもう一つ建てたい場合は土地を2つに分ける必要があります。分割の場合、建物が建っている土地と建っていない土地に分け、それぞれの土地が接道義務など建築基準法に適合していれば、登記せずに新築可能です。
一方、分筆では登記簿上も2つの土地に分けるため、それまでとは地番を含めて異なる土地になります。そのため、新築した場合は登記が必要です。
また、土地に抵当権を設定する場合も分割は土地全体に抵当権が設定されます。そのため、分割後に更地となった土地に新築する場合、すでに建物が建っている土地にも抵当権が設定されてしまいます。分筆であればそれぞれの土地に抵当権が設定されるため、新築する土地のみに抵当権を設定可能です。
共有名義の土地を分筆する流れ
ここでは、共有名義の土地を分筆する流れを解説します。
- 土地家屋調査士に分筆手続きを依頼する
- 土地家屋調査士が登記簿上の境界や現地の状態を調査する
- 分筆案を作成する
- 役所の担当者に現地で確認してもらう
- 隣接する土地所有者に立ち会ってもらい、分筆案の確認を行う
- 境界の目印となる「境界標」を現地に設置する
- 土地分筆登記を実施する
- 所有権移転登記を実施する
土地家屋調査士に分筆手続きを依頼する
まずは、土地家屋調査士に分筆手続きの依頼をすることから始まります。このとき、共有土地の地図や図面、売買契約書など取得するに至った経緯を記した書類など、土地の状況が分かりやすくなるよう参考になる資料を準備しておきましょう。
土地家屋調査士の業務内容について、土地家屋調査士法第3条では次のように規定されています。
- (1)不動産の表示に関する登記について必要な土地または家屋に関する調査または測量
- (2)不動産の表示に関する登記の申請手続きまたはこれに関する審査請求の手続きについての代理
上記の通り、土地分筆登記は土地家屋調査士の専門分野といえます。法律上は、土地所有者自ら行うことも可能ですが、専門的な知識や測量技術、図面作成が必要なことを考えると難しいでしょう。
なお、土地家屋調査士は、日本土地家屋調査士会連合会のホームページで地域ごとに検索できます。自分で探す場合、ごまかしがない適正報酬の土地家屋調査士を選ぶには、相見積もりをとるのがおすすめです。
とくに、登録免許税や公図の取得など誰が行っても同じ費用をごまかしていないか確認すると、真摯な調査士であるか見抜けます。不動産会社や住宅会社からも紹介してもらえますが、紹介料などが見積もりに反映される場合がある点に注意が必要です。
土地家屋調査士が登記簿上の境界や現地の状態を調査する
土地家屋調査士が土地の現況を調査する際、法務局に登記されている内容と一致しているか確認する必要があります。そのため、法務局で次のような必要書類を取得しておきましょう。
- 公図:土地の位置や形状を確定させるための法的な地図
- 地積測量図:土地の地積(面積)の測量結果を示す法的な図面
- 登記事項証明書:不動産の所在地や面積、所有者などの権利関係を記した資料
上記をもとに現地の境界や状況が一致しているかを確認します。
土地分筆登記をするためには、土地の境界が確定していることが必要です。隣地との境界が明確でない場合や、現地の境界が地積測量図と一致しない場合は境界確定測量を行います。
境界確定測量は、すべての隣地所有者との同意を含めて、境界を特定する測量です。道路との境界も含めて、自分と隣地所有者、役所の担当者立ち合いのもと境界を確定させ同意書を得る作業が必要なため、時間がかかります。
共有名義の場合、共有者全員で立ち会うのが原則ですが、代表者のみの立ち合いで行うケースもあります。公道に面している境界を確定する場合、役所に境界確認申請書を提出し、境界確認の指示を待つなどの時間が必要です。
分筆案を作成する
分筆する土地に隣接する土地や道路など、すべての境界が確定できてはじめて分筆案を作成します。分筆案とはいえ、役所や隣地所有者に対する説明資料として使うものであるため、正確に作成してもらわなければなりません。
また、分筆案を作成時には土地の面積だけでなく、分筆後の形状や道路との関係に注意する必要があります。土地の資産価値はいろいろな要素で決まるため、不整形の土地や間口が狭く奥行きが長い土地などは、活用しづらく価値は低くなる傾向です。
また、前面道路との接道状況が悪ければ、「日当たりが悪い」「車の出し入れがしづらい」などで土地の評価は下がりやすくなります。なお、土地上に建物を建てるには、原則として4m以上の幅員の建築基準法上の道路に2m以上接道していることが必要です。
接道義務を満たさない土地は再建築できないなど、活用方法が大きく制限され資産価値も下がります。
このように、共有者に公平な分筆案を作成するうえでは、土地面積だけで一概に判断できず、道路や分筆後の土地の活用しやすさによって、土地の価値が変わる点に注意が必要です。
役所の担当者に現地で確認してもらう
分筆案の作成後、役所の担当者に現地を確認してもらいます。事前に準備した資料と分筆案をもとに、境界や分筆案に問題がないかを確認します。
隣接する土地所有者に立ち会ってもらい、分筆案の確認を行う
役所担当者との確認作業が終わると、隣地所有者の確認が必要です。隣接する土地所有者全員の立ち合いのもと分筆案を確認してもらいます。
このとき、通常は隣地所有者との間で、境界を確認したことを証する「筆界(境界)確認書」という書類を取り交わします。筆界確認書は、下記の状況にあることを確認する書類で、両方が署名・捺印し、それぞれ1通ずつ保管します。
- 土地の境界について両当事者に認識が一致していること
- 土地の境界について争いがないこと
境界の目印となる「境界標」を現地に設置する
役所、隣地所有者との確認が終わり境界が確定したら、境界標を設置します。境界標は土地の境界を点や線の位置で表すための標識です。コンクリート杭や石杭、プラスティック杭、金属標、金属鋲などの種類があります。
境界標は、道路工事や電柱工事、車などに踏まれ移動、破損する場合もありますので、金属鋲やコンクリート杭など破損しにくいものを使うとよいでしょう。境界標を設置する際には、分筆案に問題がないかどうかを役所や隣地所有者に改めて確認をしてもらいます。
土地分筆登記を実施する
境界標の設置が終わったら、法務局で分筆登記を申請します。分筆登記に必要な資料は次のとおりです。
- 登記申請書
- 筆界確認書(境界の同意書、境界の協定書など)
- 地積測量図
- 現地案内図
- 委任状
土地分筆登記の申請は自分でもできますが、委任状を作成し、測量を依頼した土地家屋調査士にそのまま代行してもらうのが一般的です。
所有権移転登記を実施する
土地分筆登記が完了しても土地の名義を変えない間は、分筆した土地それぞれを共有している状態です。単独名義にするためには、分筆後の土地それぞれの共有持分を共有者間で交換する所有権移転登記が必要です。
ここまでの手続きをすべて終了すると、土地分筆登記が完了したことになります。
共有名義の土地を分筆するには最低2週間かかる
土地の分筆登記にかかる期間は2週間~半年程度かかります。これは、隣地との境界が確定しているかどうかによって大きく変わります。隣地との境界が確定している場合は、境界確定測量を行う必要がないため、法務局に必要書類を提出すれば2週間程度で手続きが完了します。
一方、隣地との境界が曖昧な場合は、境界確定測量を行って境界をはっきりさせなければなりません。この境界確定測量は通常3~4ヶ月程度かかりますが、隣地所有者と境界を巡ってトラブルに発展した場合や所在が不明な場合はそれ以上の期間を要するケースもあります。
土地の分筆に必要な費用
土地分筆登記にかかる費用として、以下の3つが挙げられます。
- 土地家屋調査士の報酬|25万~100万円程度
- 分筆登記の費用|1,000円
- 所有権移転登記費用|5~10万円程度
土地家屋調査士の報酬|25万円から100万円程度
分筆登記の多くを占めるのが土地家屋調査士の報酬であり、25~100万円程度が1つの目安となります。ただし、報酬については、隣地の動向や面積、境界点数などに左右されるため、定額で〇〇万円などと提示できないことがほとんどです。
確定測量が未了であれば、依頼内容により費用は数十万~100万、面積が広いと100万~数百万かかる現場もあります。反対に、境界が確定している土地であれば、10万~20万程度で完了できる場合もあります。土地家屋調査士の一般的な報酬の内訳は次のとおりです。
- 調査費用:10万円~
- 測量費用:10万円~
- 資料作成費用(境界確認書など):10万円程度
- 官民境界確定図の作成費:10万円程度
- 境界標の設置費(材料費込):10万円~
- 土地分筆登記費用:5万円~
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分筆登記の費用|1,000円
分筆登記を行うと、1筆の土地につき1,000円の登録免許税が課税されます。例えば、1筆の土地を2筆に分筆した場合は2,000円、3筆に分筆した場合は3,000円です。
登録免許税は、課税額分の収入印紙を登記申請書の余白や別紙に貼りつけ、分筆登記の申請時に提出すれば納税できます。収入印紙は郵便局や市役所、法務局などで購入可能です。
所有権移転登記費用|5~10万円程度
分筆後の土地を共有名義から単独名義にするため、所有権移転登記が必要です。費用はおおむね5~10万円が目安で内訳は以下の通りです。
- 登録免許税:土地の課税標準価格の4/1,000
- 司法書士報酬:5万円程度
- 必要書類(境界確認書、地積測量図、現地案内図)の取得費用:2,000円程度
登録免許税の計算のもとになる課税標準価格は、原則として、市区町村の固定資産課税台帳で登録された価格(固定資産税評価額)になります。
自分が所有している共有名義の土地は分筆すべき?分筆の判断ポイント
冒頭で紹介した条件は、分筆するのに必要な条件です。分筆の条件は満たしていても、分筆により土地の価値が下がってしまったり費用や時間がかかったりとデメリットの方が大きい場合は分筆するべきではありません。
そのため、分筆が適した方法なのか判断するために、下記のポイントも考慮するのがおすすめです。
- 土地の形状や大きさ・法律上の制約はどうか
- 分筆するコストと手間に見合うか
- 他の共有者との関係性や利用目的はどうか
- 相続によって権利関係が複雑になりそうか
ここからは、それぞれのポイントについて解説するので、分筆ができる条件を満たしている方は参考にしてみてください。
土地の形状や大きさ・法律上の制約はどうか
土地を分筆する際には、土地の形状や面積、法的な制約も考慮しなければなりません。たとえば、分筆後の土地が著しく狭くなったりいびつな形になったりして活用しにくい場合は、土地の価値が大きく低下してしまいます。
とくに、分筆後の土地が接道義務を果せるかは分筆するか判断するうえで重要なポイントです。接道義務とは、土地が幅員4m以上の道路に2m以上接していなければならないというルールのことであり、満たせていない場合は再建築不可物件として扱われます。
そのため、建物の新築や建て替えができず、使用用途が限られるため土地の価値が下がるデメリットがあります。ほかにも、地域によっては条例で土地の最低面積が別で定められているケースもあるので、分筆後の土地に法律上の制約がかからないか、価値は大きく低下しないか分筆前に確認しておきましょう。
分筆するコストと手間に見合うか
前述の通り、分筆には測量や登記手続きが必要なため、状況によっては大きなコストや手間が発生します。とくに、隣地との境界がはっきりしていない場合は土地境界確定測量を隣地の所有者立会いのもとおこなわなければなりません。
土地境界確定測量が必要な場合、隣地との境界を確定させるだけで40~50万円の費用のほか、期間も3~4か月かかります。これに加えて、登記変更や税務処理の手間もかかるため、分筆のメリットがこれらのコストを上回るかを考慮する必要があります。
他の共有者との関係性や利用目的はどうか
共有者同士の意見が合わなかったり土地の利用方法や管理に関する争いがあったりする場合、分筆で単独所有にすることでトラブルを防げる可能性が高いです。
とくに、一方が住居を建てたいが、もう一方は駐車場に利用したい場合のように各共有者が異なる用途で土地を利用したい場合は、それぞれの利用目的に合った形で土地を分割して単独所有にしたほうが便利です。
また、共有名義の土地は売却や譲渡が共有者全員の同意を必要とするため、手続きが煩雑になります。各自が自由に売買や譲渡を希望する場合は、分筆して単独名義にするのが良いでしょう。
しかし、共有者間での関係が良好で特に問題なく土地を管理・利用できている場合は、分筆しない選択もあります。分筆は費用も手間もかかるのため、分筆しなくても不自由しないのであれば無理に分櫃する必要はありません。
相続によって権利関係が複雑になりそうか
共有名義の土地は、将来的に相続が発生した際に分割や相続手続きがさらに複雑化しやすいため、相続問題を未然に防ぐには事前に分筆することが有効な場合があります。
分筆すべきかどうかの判断は、共有者間の関係、利用目的の違い、将来の売却や相続の見通し、費用対効果など、多くの要因を総合的に検討する必要があります。特に、相続は法的な観点や手続きの複雑さが絡むため、弁護士や土地家屋調査士などの専門家に相談するのが望ましいです。
共有名義の土地を分筆できない場合の対処法
ここまで共有名義の土地を分筆した場合について解説しましたが、分筆の同意が得られない場合もあります。その場合どのような対処法が考えられるのでしょうか。
- 共有者全員の同意を得て土地全体を売却する
- 自分の共有持分を他の共有者に売却する
- 自分が土地全部を買い取る
- 過半数の同意が得られないなら「共有物分割請求」で土地の分割を交渉する
- 自分が所有する共有持分を買取業者に売却する
共有者全員の同意を得て土地全体を売却する
土地を分割する同意が得られなくても、交渉次第では土地全体の売却の同意が得られる可能性があります。分筆にかかる費用も不要ですし、分筆による資産価値の低下も避けられるでしょう。
自分の共有持分を他の共有者に売却する
他の共有者であれば、共有持分に関して直接の利害関係人であるため、知らない第三者と共有するより自分が買い取った方が良いと考える場合もあります。
また、他の共有持分を取得することで、土地面積だけでなく接道状況や間口が広くなるなど土地が活用しやすくなり、資産価値が上がることも期待できるためメリットは大きいです。
特に、共有者が1人しかいない場合は、売却することで単独名義になるため、話はスムーズに進みやすいといえます。ただし、他の共有者に売却する場合次の点に注意しましょう。
- 個人間売買は避ける
- 他の共有者の持分割合て揉める可能性がある
- 購入者の資金計画
共有不動産は親族関係で共有していることも多く、他の共有者への売却を不動産会社を通じて行わずに個人間売買で進めるケースもあります。ただし、不動産会社を介さずに売買することによるリスクは少なくありません。
特に売買価格については、双方が納得できる公平な価格で決められない可能性があります。売買契約から引渡しまでの手続きについても、売主・買主双方の義務を契約書にしっかり記載しないとトラブルになるリスクも高いです。
また、他の共有者に持分を売却すると、共有者間の持ち分割合も変わります。共有不動産の管理行為は持分の過半数以上で決められるため、他の共有者から「なぜ自分に売却しなかったのか」と責められる可能性も高いです。
そのため事前に他の共有者全員に持分割合の売却を検討している旨を伝えるなどの配慮が必要な場合もあるでしょう。さらに、共有持分を購入する場合、購入者は住宅ローンのような低金利の融資を活用できません。現金で購入できるだけの資力があればいいですが、購入する共有者の資金計画にも配慮が必要です。
自分が土地全部を買い取る
もし資金に余裕があれば、他のすべての共有者と交渉し、持分を買い取ることで単独所有にするのも方法の一つです。単独名義であれば、土地を駐車場やさまざまな事業で活用できるほか、登記簿上の地目を自由に設定できます。
他の共有者が共有持分の処分に困っている可能性もあるので、他の共有者に打診してみるのもよいでしょう。
過半数の同意が得られないなら「共有物分割請求」で土地の分割を交渉する
分筆に対して他の共有者から同意を得られない場合、「共有物分割請求」で土地の分割を交渉できます。共有物分割請求とは、共有状態の分割を他の共有者に請求することであり、共有者であればいつでも誰でも請求可能です。
基本的には共有者同士での話し合いから始まりますが、当事者のみでは話がまとまらない場合は「共有物分割請求調停」を申し立てましょう。共有物分割請求調停では、調停委員の立ち合いのもと、裁判所で共有物分割へ向けた話合いをおこないます。
第三者である調停委員が立ち会うことで、冷静に話合いがしやすく、話合いの結果として記録された調書は法的な効力を持つため、一旦合意した内容を後から蒸し返されるリスクを減らせます。
ただし、調停委員が立ち会うとはいえ、あくまでも当事者同士での話合いがベースです。話し合いがまとまらない場合もあります。
その場合、共有物分割請求訴訟へと駒を進めます。共有物分割請求訴訟とは、裁判所に共有状態の解消方法を決めてもらう裁判手続きです。
共有物分割請求では、訴訟提起の前に必ず調停を行わなければならない調停前置主義は取られていないため、解決を急えでいたり調停しても話合いがまとまる見込みが薄かったりする場合などは、調停を経ずに訴訟を提起することも可能です。
共有物分割請求を起こす際の注意点
共有物分割請求で訴えても、必ずしも自分の希望どおりに分割できるとは限りません。下記の3つのなかから裁判所が下した方法で分割されます。
現物分割 | 共有物を分筆などで物理的に分割する |
---|---|
換価分割 | 土地を売却して売却収入を持分の割合に応じてわける |
代償分割 | 他の共有者へ持分に応じた金銭を支払う |
現物分割や代償分割が難しく、換価分割の判決が出た場合、競売の落札代金を分割することで売却収入が減る可能性があります。また、下記のようなデメリットも多いためなるべく避けたい方法です。
- 訴訟手続きには時間と手間がかかる
- 弁護士費用などの金銭的負担がある
- 他の共有者との関係が悪化する可能性がある
自分が所有する共有持分を買取業者に売却する
前述の通り、分筆や共有者間の売買にも反対されている場合は共有物分割請求を起こす方法がありますが、デメリットも多いためなるべく避けるのがベターです。持分の売却は他の共有者の同意が不要なため、買取業者と価格面で合意できれば早期の売却できます。
クランピーリアルエステートでは、売却が難しい共有持分の買取を全国で行っております。訳あり、トラブルを抱えた物件でも士業専門家と連携しながら対応できますので、お気軽にご相談ください。売却査定のご依頼も承っております。
まとめ
共有する土地は、共有持分に応じて分筆できます。土地の分筆登記は土地家屋調査士に依頼することが一般的であり、長ければ2~3カ月以上の期間を要し、土地の状況に応じて、数十万円から百万円を超える費用が必要です。
ただ、土地を分筆することで共有関係を解消し、自由に土地活用、売却できるうえ、単独名義になることで資産価値が高くなることもあります。
その一方、分筆方法によっては逆に資産価値が下がるケースや固定資産税の負担が増える可能性などありますので注意が必要です。
共有する土地を分筆するには、共有者全員の同意が必要です。同意が得られない場合もありますし、資金面を含めて他の共有者に自分の持ち分を買い取ってもらうことが難しいこともあるでしょう。
そのような場合、共有持分専門の買取業者に売却する方法があります。共有持分のみの売却であれば、他の共有者の同意なくできますし、買取価格で合意できれば、早期の売却も可能です。
ぜひ参考にしてください。