共有持分に抵当権を設定したらどうなる?注意点や競売前後の権利関係を解説

「新しく事業を始めるための資金が欲しい」「急な出費があり、親族に内緒でお金を借りたい」といった理由から、不動産を担保にした資金調達を検討する方は、実務上珍しくありません。
不動産のうち、共有持分への抵当権設定は、他の共有者の同意を得ることなく単独で行えます。共有持分も正式な所有権の一部であるため、自分の持分割合のみを担保にすることは法律上認められているのです。
とはいえ、共有持分の実務に携わってきた弊社としては、共有持分への抵当権設定はそこまで推奨していません。設定する場合でも、慎重に判断することをおすすめいたします。
前提として、自分の借金が原因で担保にした共有持分を差し押さえられても、他の家族の持分まで差し押さえられることはありません。しかし、差し押さえ後に裁判所の競売で共有持分が売却されると、見ず知らずの事業者や投資家などの第三者が落札し、家族と不動産を共有することになってしまいます。
事業者や投資家が共有持分を落札する目的は、共有持分を活用して利益を得ることです。利益を出すために、持分を持つ家族に対して共有物分割請求や持分売買の交渉を持ちかけたり、裁判沙汰に巻き込んだりするリスクが想定されます。
さらに、共有持分は一般的な不動産と比べて担保としての価値が低く見積もられるため、「ハイリスクなわりに大した金額を借りられない」という実態も、推奨しにくい理由の1つです。
それでも、リスクを承知で共有持分に抵当権を設定する場合は、通常の不動産と同じような流れで手続きを進めていきます。
- 債権者と金銭消費貸借契約や抵当権設定契約を締結する
- 債権者や司法書士と協力して抵当権設定登記を行う
- 必要に応じて登記事項証明書を取得して債権者に提出する
本記事では、共有持分に抵当権を設定するリスクやトラブル事例、抵当権設定の具体的な流れ、必要な費用・書類などを、法的な解釈や実務上の実態も踏まえて解説します。
目次
共有持分だけに抵当権は設定できる
不動産全体ではなく、共有持分だけに抵当権を設定することは可能です。共有持分に設定した抵当権は、不動産全体に設定した場合と同様に、民法第369条などの規定通りに扱われます。
(抵当権の内容)
第三百六十九条 抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
2 地上権及び永小作権も、抵当権の目的とすることができる。この場合においては、この章の規定を準用する。
e-Gov法令検索 民法第369条
これはあくまで、「自分の共有持分だけを担保にする」という状態であり、他の共有者の持分そのものに直接影響を及ぼすことはありません。仮に自分の共有持分が差し押さえられたとしても、同じ不動産を共有している他の人の持分が影響を受けることはありません。
持分はあくまで共有者だけの財産ですから、「保証人でもないのに、他人の借金のせいで自分の財産が売られるはずはない」ということです。
共有名義不動産全体に抵当権が付いている場合は、不動産全体が担保になります。こう考えると、持分だけの抵当権設定は通常のケースと大きく異なると言えるでしょう。
「共有持分だけに抵当権を付けることは珍しいのでは」と思われるかもしれませんが、実務上は一般的でないものの、一定数の事例は存在します。例えば法務局のオンライン申請の資料でも、登記の目的の例として「持分抵当権設定」が記載されています。また、弊社にも「抵当権付きの共有持分を買い取ってくれないか」という相談が少なからず寄せられてきました。
弊社の経験上、自ら共有持分に抵当権を設定するケース、または抵当権付きの共有持分を所有するケースとしては、次のようなものがあります。
- 共有持分を担保にできるローンを組んでお金を借りる
- 他人の借入について物上保証人になる際の担保として用いる
- 親から相続した共有持分にすでに抵当権が設定されている
では、共有持分に抵当権を気軽に設定してよいかというと、そうではなく、慎重に考える必要があります。なぜなら、自分の共有持分が債権者に差し押さえられて売却されると、見知らぬ第三者が代わりに不動産の共有者になってしまうためです。
他の共有者からすれば、自分の持分は無事だとしても、「突然、見ず知らずの業者が権利関係に入り込んでくる」という事態に直面することになります。
次の章では、弊社の見解として、共有持分に抵当権を設定するのは避けたほうがよい理由について解説します。
共有持分に抵当権設定するのはあまり推奨できない
これまで数多くの共有持分の実務にかかわってきた専門家として、共有持分に抵当権を設定するのはあまり推奨できません。
「自分の共有持分の抵当権が行使されても他の人に直接的な影響はない」というのは、あくまで他の共有者の持分に変化がないという意味です。自分の持分が競売などで売却されてしまうと、第三者と共有状態になる家族や親戚の人間関係に、間接的な悪影響が出る可能性が高くなります。
また、上記のリスクを抱えてしまうわりには、持分の担保価値が低いため大きな借り入れができないという非効率さも、持分への抵当権設定を推奨しにくい理由の1つです。
以下では、共有持分に抵当権を設定する際のリスクや、共有持分の担保価値の低さなどについて、詳しく見ていきましょう。
抵当権が行使されると他の共有者との人間関係が破綻するリスクがある
共有持分に抵当権を設定した場合の深刻なリスクとして、抵当権実行後の人間関係の悪化が挙げられます。
共有持分を担保にした借入が返済不能に陥ると、金融機関などの債権者は抵当権を行使して、持分を売却して債権を回収します。その過程で共有持分の所有権は持分を購入した人に移るため、他の共有者はその購入者と不動産を共有しなければなりません。
「自分自身が会ったこともない人と不動産を持ち合う」という事態を想像していただければ、不動産の利用方法や処分方針をめぐって揉めやすいのでは、と想像がつくと思います。
実際に弊社も、不動産実務のなかで「第三者との共有状態」に起因するトラブルをこれまで数多く見てきました。基本的に共有者の多くは家族や親戚であるため、近しい間柄で人間関係が破綻し、数年以上にわたってギクシャクするケースも珍しくありません。
以下では、これまでの弊社の相談事例のうち、「第三者と他の共有者の共有状態が原因となったトラブル」のなかでも、とくに多かったものを紹介します。
- 親族間で「勝手に担保に入れた」「なぜ事前に相談しなかったのか」と感情的対立が発生し、話し合いができないほど関係がこじれる
- 差し押さえを通じて家族や親戚に借金がバレて失望され、離婚や絶縁などの事態に陥る
- 共有持分売却後に共有者と疎遠となってしまい、不動産管理や相続などについて話し合いができなくなる
共有名義不動産は、もともと意見の対立があると処分や活用が止まりやすい財産です。そのため、共有持分への抵当権設定によって、さらに人間関係が破綻しやすくなるリスクがあります。
共有持分競売後に共有者の親族がトラブルに巻き込まれるリスクがある
共有持分が競売などで第三者のものになると、子ども・配偶者・同居親族などが裁判や交渉対応に巻き込まれるリスクがあるのが厄介な点です。
第三者が共有持分の所有権を得ると、共有名義不動産における正式な共有者になります。つまり、共有名義不動産に対して一定の影響力を持つうえに、法律で認められた範囲で権利行使や一定の実務上の行為ができるというわけです。
前提として、共有持分は一般の個人からの需要がほとんどないことから、競売で落札するのは基本的に事業者や投資家です。そして事業者や投資家は、落札した持分を収益化するために共有名義不動産に対してさまざまなアプローチを仕掛けます。
例えば、共有持分を1%でも持つ共有者は民法第256条における「共有物分割請求」によって、共有状態の解消をいつでも求める権利があります。他の共有者は、原則として共有物分割請求を拒否できません。
さらに、話がまとまらなければ「共有物分割請求訴訟」によって裁判沙汰にまで発展するリスクがあります。落札者が裁判も辞さないタイプだった場合、共有者の親族は数か月以上の時間や数十万円以上の弁護士費用の負担を強いられるかもしれません。
共有物分割請求以外にも、「落札した共有持分を買い取ってほしい」「単独名義にしたいから、持分を自分に売ってほしい」といった、持分の売買交渉を持ちかけられるケースもあります。
仮に、家族が住んでいる実家の共有持分に抵当権を設定した場合を想像してみてください。自分の持分が競売で売却された後、住んでいる家族が突然「家をどうすればよいのか」「協議の結果によっては、実家から立ち退かなければならないのか」という重い決断を迫られる可能性があります。
自分だけの問題だと思って担保に入れたとしても、実際には他の共有者との関係悪化や親族への波及を招くおそれがあります。
例えば、前述した共有物分割請求訴訟で「換価分割」が命じられた場合、共有名義不動産全体を売却して現金化しなければなりません。話し合いの結果や法律判断によっては、共有不動産全体がなくなってしまう可能性があります。
法定地上権に関してトラブルになる可能性がある
抵当権が行使され、共有持分が競売で売却された際にもう1つ注意しておきたいのが、「法定地上権」に関する争いです。
法定地上権とは、同じ敷地における建物と土地の所有者が異なった場合、一定の要件を満たせば建物の所有者が土地を使用できる権利のことです。
例えば、「土地と建物の両方を所有するA」が、「抵当権の行使により競売にかけられ、Bが落札した」という場合、法定地上権が認められれば、落札者であるBはAの土地を合意なく使用できます。
この法定地上権は、実は建物の共有持分のみを取得した場合でも適用される可能性があります。競売で第三者が持分だけを落札した場合でも、法定地上権が認められれば、その第三者は建物の共有者として土地を合意なく使用できるのです。
| 法定地上権が認められるための4つの要件 | 概要 |
|---|---|
| 抵当権の設定当初から土地上に建物がある | 共有持分に抵当権を設定した際、すでにその共有持分が属する不動産が土地の上に建てられている |
| 抵当権設定時に土地と建物の所有者が同じ | 共有持分に抵当権を設定した際、その共有持分が属する不動産と土地の所有者が同じ人である |
| 土地と建物の両方または一方に抵当権が設定されている | 共有持分に抵当権を設定した時点で、要件は満たしていると考えられる |
| 抵当権行使(競売)によって土地と建物の所有者が別々になる | 競売によって落札者に所有権が移転したことで共有持分と土地の所有者が別々になると要件を満たせる |
なお、実際に法定地上権が認められるかどうかは、個々の事情を含めて総合的に判断されます。法定地上権をめぐり、最高裁まで裁判で争われたケースも存在します。
これらを踏まえると、法定地上権を巡って法的な争いが発生するリスクも、共有持分への抵当権設定を推奨しない理由の1つと言えるでしょう。
以下では、落札者に共有持分の所有権が移った後の、法定地上権の取り扱いについて解説します。
ここでは、あらためて抵当権にまつわる基本的な権利の概要をおさらいしておきます。
| 抵当権にまつわる権利 | 概要 |
|---|---|
| 抵当権 | ・借金の担保として不動産に設定される権利 ・返済ができなくなった場合、債権者はその不動産を競売して債権回収を図れる |
| 地上権 | ・他人の土地を使って建物や工作物などを所有するための権利 ・地上権を持つ人は、土地の所有者の許可なく建物の売却や転貸が可能 |
| 法定地上権 | ・競売などによって土地と建物の所有者が分かれた場合に、一定の要件を満たすと法律上成立する地上権 ・要件を満たした場合にのみ法定地上権が認められる |
建物所有者は土地を使い続けられる
法定地上権が認められた場合、共有持分の落札者は建物所有者の1人として、建物が属する土地を使い続けることができます。
土地所有者は地代を請求できる
法定地上権が成立した場合、土地の所有者は共有持分を取得した落札者に対して、地代を請求できます。共有持分といえども正式な所有権の一部であり、落札者は「土地所有者の土地を借りて建物の所有や使用を認められている」と解釈できるためです。
実際に、民法第388条では、地代の請求について言及があります。
(法定地上権)
第三百八十八条 土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。
e-Gov法令検索 民法第388条
落札者は建物を利用する権利が守られる一方で、土地の所有者は土地をみすみす無償で使わせることにはならないということです。
法定地上権が成立した場合の地代相場は、年間で「固定資産税と都市計画税の合計額の3~5倍程度」に設定するのが実務上一般的です。実際の地代は当事者間の話し合いで決定しますが、折り合いがつかなければ裁判で決着させる選択肢もあります。
とはいえ実際のところ、落札者が自らの意思で共有持分を数年以上にわたって所有するケースは、そこまで多くないでしょう。
持分を落札する一般的な目的は、「他の持分をすべて自分が取得し単独名義にしてから活用する」「他の共有者に転売する」といった方法で利益を得ることだからです。そのため、地代の金額について話し合うというより、今後の共有持分の取り扱いについて落札者と協議するケースが多いと思われます。
共有持分の担保価値が低いので借入金額が少ない傾向がある
人間関係や裁判沙汰のリスクを承知のうえで、共有持分に抵当権を設定したとしても、実際に借入できる金額は少ない傾向があります。なぜなら、共有持分自体の担保価値が低いためです。
なぜ共有持分の担保価値が低いかというと、一般の個人や事業者からの需要が少なく、差し押さえたところで高値で売れないためです。共有持分の購入が一般の市場から敬遠される理由を、以下でまとめました。
- 「他の共有者の同意がなければ全体売却やリフォームなどができない」という法律上の制限がある
- 他の共有者とトラブルになる可能性がある
- 不動産全体を単独名義にするには、共有物分割請求や持分買取などの対応が必要になる
上記の背景もあり、共有持分を担保にお金を貸す金融機関がそもそも少ない点にも注意が必要です。持分を担保として認めてくれるローンもありますが、融資審査では持分割合、共有者の人数、居住者の有無、建物の有無などがより慎重に見られます。
このように、共有持分を担保とした借入は法律上可能だとしても、実務上は実現可能性が低い資金調達法と言わざるを得ません。
共有持分を担保にお金を借り入れるのは難しいのですが、前述の通り、持分を担保にした借入に対応する金融機関は存在します。
もし、「東京の一等地にあるなど不動産自体の価値が高い」「共有者同士のトラブルが少ない」「借入を申し込む共有者自体の収入や資産額に問題がない」といった共有持分であれば、借入額が上がる可能性もあります。
必ずしも、共有持分を担保にしてお金を借りるのは、不可能というわけではありません。
共有持分に抵当権設定することのリスク|事例を踏まえて紹介
「抵当権を設定した共有持分を買い取ってほしい」「抵当権付きの共有持分を相続してしまい困っている」といった相談は、弊社にも寄せられることがあります。
以下では、抵当権が設定された共有持分の売却を検討する方が実際に直面したリスクについて、事例を交えて紹介します。
借入を返済できず共有持分を差し押さえられたせいで他の共有者と揉める
兄弟で相続した実家において、相談者様の弟が自分の共有持分だけを担保に借入をしていたケースです。
弟は、新しく事業を立ち上げるための資金調達として、都内にある実家の共有持分を担保にノンバンクから1,000万円の融資を受けました。
しかし、結果として事業は軌道に乗せられず廃業となり、800万円が返済できないまま共有持分が差し押さえられ、競売で売却されました。その際、所有権は落札した都内の個人投資家に移ることに。
実家から離れて地方で暮らしていた相談者様は、持分の落札者から突然「持分売買について都内で協議したい」と連絡が届き、大変困惑したとのことでした。
そして相談者様は弟に対して「なぜ勝手に担保に入れたのか」「事前に一言も相談がなかった」と不信感が強まり、兄弟関係が一気に悪化してしまいました。
このようなケースでは、相談者本人も「まさかここまで家族との関係が悪くなるとは思わなかった」と話されることが少なくありません。共有持分への抵当権設定は、自分の借入の問題で済まず、他の共有者との人間関係そのものを壊す原因になり得るのです。
抵当権が付いた共有持分を子どもが相続して対応を求められた
相談者様は、父親が亡くなった際に経営していたアパートの共有持分を相続する予定でした。
しかし、相続財産調査のなかでその共有持分に抵当権が付いていたことが発覚。調べてみると、父親は親族に内緒で共有持分を担保にお金を借りており、まだ200万円程度の返済が残っていたそうです。
相続時には買取業者への任意売却などを検討したものの、条件の折り合いがつかなかったため、一旦は他の相続財産や自己資金を使って債務を返済することに。返済手続きや抵当権抹消登記などについて、忙しいなかで相談者様が対応したとのことです。
しかし、結局は別件で他の共有者と揉めることになり、弊社に持分売却の相談をいただきました。
この事例からわかるのは、共有持分に抵当権を設定したまま名義人が亡くなると、その後に対応を迫られるのは子どもや配偶者などの相続人ということです。
そうなると、「このまま相続してよいのか」「相続放棄を検討すべきか」「売却して整理できないか」など、専門的で重い判断をご家族が迫られることになります。さらに、他の共有者からも「今後どうするのか」「競売になる前に整理できないのか」と説明を求められ、精神的な負担が一気に大きくなるでしょう。
落札者が共有物分割請求を行い他の共有者が裁判沙汰に巻き込まれる
最後の事例は、一般の相談者様からではなく、「競売で持分を落札した不動産買取業者」から弊社に寄せられたご相談です。
地方で不動産買取事業を展開していた相談者様は、これからの事業拡大を見据えて共有持分の取り扱いを増やしていく方針を打ち出していました。そこで、競売に出されていた親族3人で所有していたという建物の共有持分を落札し、提携弁護士にサポートを依頼して他の共有者と持分買取についての話し合いの場を設けることに。
しかし、他の2人の共有者からの反発が非常に大きく、ときには強い言葉で非難されました。話し合う余地もないと判断した相談者様は、最終手段として共有物分割請求を起こすことにしました。
ところが、話し合いのなかでもまったく折り合いがつかず、「訴訟に移行するべきか」と本格的に検討することになったそうです。
他の共有者が訴訟を止めてほしいと懇願してきたことや、訴訟にかかるコストが膨大になることなども相まって、「やはり持分買取事業は難しい」と、損切りのような形で弊社に相談をいただきました。
このケースでは訴訟には移行しなかったものの、状況によっては本当に裁判沙汰に発展していた可能性があります。「まさか裁判までするわけがないだろう」と思われるかもしれませんが、不動産実務において共有物分割請求訴訟を起こされる可能性はゼロではないのです。
共有持分の抵当権設定で知っておきたい権利関係の注意点
さまざまなリスクを考慮したうえで共有持分に抵当権を設定する場合は、「自分の共有持分だけに抵当権を設定するケース」と「不動産全体に抵当権を設定するケース」とで異なる法的な位置付けや実務上の影響を、確認しておきましょう。
共有持分の抵当権設定で知っておきたい権利関係の注意点は、以下の通りです。
- 抵当権設定時に他の共有者の同意は必要ない
- 自分の共有持分のさらに一部だけに抵当権を設定することはできない
- 抵当権が共有名義不動産全体に影響を及ぼすことはない
- 抵当権は複数の不動産に設定できる
- 債務を完済すれば設定した抵当権を抹消できる
抵当権設定時に他の共有者の同意は必要ない
自分の共有持分のみに抵当権を設定する場合、他の共有者の同意は不要です。
共有持分は、各共有者が持つ独立した財産権であり、自分の持分の範囲内であれば民法第206条に基づいて自由に使用や処分ができるためです。
(所有権の内容)
第二百六条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
e-Gov法令検索 民法第206条
例えば、共有者が親で「借金することを親に知られたくない」という場合でも、親に隠したまま持分を担保に融資を受けられます。しかし、借入分の返済が滞って差し押さえられると、親から「なぜ今まで隠していたんだ」と迫られて、関係性が大きく悪化するリスクがあります。
一方で、共有不動産全体に抵当権を設定する場合は、共有者全員の同意が必要になります。差し押さえられて共有不動産全体が売却された場合は共有者全員に影響が及ぶことから、民法における「変更行為(処分行為)」に該当するためです。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条
なお、共有持分単体への設定なら同意が不要とはいえ、実際には事前に他の共有者にも相談しておくことを推奨します。
「共有持分に抵当権設定するのはあまり推奨できない」で前述した通り、他の共有者も共有物分割請求や持分買取交渉などに巻き込まれる可能性があり、後から発覚すると「なぜそのような重要なことを勝手に進めた」と強く反発されるリスクが高いためです。
自分の共有持分のさらに一部だけに抵当権を設定することはできない
共有持分への抵当権は設定できますが、持分の一部だけを担保にすることはできません。
例えば、自分が30%の共有持分を所有している場合、そのうちの15%だけに抵当権を設定することは認められません。共有持分を担保に入れて借り入れた場合、差し押さえられたら自分の持分がすべて売却されます。
抵当権が共有名義不動産全体に影響を及ぼすことはない
前述の通り、差し押さえなどが実行されたとしても、共有持分の抵当権が共有名義不動産全体に法的な影響を及ぼすことはありません。共有持分だけに抵当権を設定した場合でも、他の共有者の持分については担保の対象にはならないということです。
ただし、抵当権の実行によって持分が競売で売却され第三者が共有者になった場合は、共有物分割請求、持分買取交渉、賃貸借関係の調整など、他の共有者に及ぶ間接的な影響に注意が必要です。
抵当権は複数の不動産に設定できる
共有持分に抵当権を設定する際、自分が所有する他の不動産もまとめて担保に設定できます。
例えば、親から「実家の共有持分50%」「実家の土地すべて」「親が持っていたマンション」の3つを相続していた場合、共有持分50%以外の土地やマンションにもまとめて抵当権を付けて、融資を受けることが可能です。
持分単体では融資審査に通るのが難しい場合でも、他の不動産を一緒に担保にしておけば、審査上プラスに働きやすいでしょう。
「不動産を担保にお金を借りたいけれど、借入額をもう少し増やしたい」という場合は、「共有持分を担保として追加する」という戦略も有効な選択肢となります。
なお、共同担保にしたからといって、必ずしも審査に通過できるわけではないので注意してください。
債務を完済すれば設定した抵当権を抹消できる
通常の不動産の抵当権と同じく、共有持分を担保にして借り入れた場合でも、その債務を完済すれば抹消できます。
共有持分だけに付いた抵当権でも基本的な抹消の考え方は同じで、債務を完済した後に「抵当権抹消登記」を行う必要があります。逆に言えば、手続きをしなければ自動的に外れることもありません。
共有持分の抵当権抹消登記は、抵当権を設定した金融機関の担当者との共同申請で進めます。この際、他の共有者の同意は必要ありません。
共有持分に抵当権を設定する際の具体的な流れ
共有持分に抵当権を設定する流れは、通常の抵当権設定と大きくは変わりません。申請類型も特別なものではなく、登記実務上は「〇〇持分抵当権設定」として扱われます。
抵当権設定は、大まかには以下の流れで進められます。
- 金融機関と金銭消費貸借契約および抵当権設定契約を締結する
- 抵当権設定登記を実施する
- 登記事項証明書を取得して金融機関に提出する
金融機関と金銭消費貸借契約および抵当権設定契約を締結する
まずは共有持分を担保にした「金銭消費貸借契約」を締結します。
ただし、金銭消費貸借契約を締結できるのは、原則として債権者による審査に通過した場合のみです。審査では、融資するかどうかについて、共有持分の担保価値や共有者の人数、申込者の支払能力、信用情報などを総合的にチェックして判断を下します。
金銭消費貸借契約と同時に、「抵当権設定契約」も締結します。
抵当権設定契約を締結した後、債権者と一緒に抵当権設定登記を実施することで初めて抵当権が登記簿に反映され、対外的にも権利関係が明確になります。
なお、実務上は「金銭消費貸借兼抵当権設定契約書」として1枚の書類にまとめるのが一般的です。
抵当権設定登記を実施する
債権者と金銭消費貸借契約および抵当権設定契約を締結したら、共有持分が属する不動産を管轄する法務局にて、「抵当権設定登記」を実施しましょう。
登記は原則として、登記義務者である共有持分の所有者と、登記権利者となる債権者の共同申請で行います。登記手続きには、抵当権設定契約書、登記識別情報または登記済証、印鑑証明書などが必要です。
なお、登記申請は専門性の高い手続きになるため、基本的には司法書士による代理申請が行われます。対応する司法書士は、債権者側が指定するケースが実務上一般的です。
登記事項証明書を取得して金融機関に提出する
法務局への抵当権設定登記が完了した後は、法務局から「登記事項証明書」を取得し、金融機関に提出します。
金融機関は、この公的な証明書を見ることで「たしかにうちの抵当権が設定されているな」と最終確認を行います。なお、債権者によっては提出しなくてもよい場合があるため、事前に取得の必要があるのかを確認しておくことを推奨します。
共有持分の抵当権設定登記に必要な書類
共有持分の抵当権設定登記時に必要な書類は、以下の通りです。
| 共有持分の抵当権設定に必要な書類 | |
|---|---|
| 登記申請書 | ・登記の目的、原因、当事者、不動産の表示、課税価格、登録免許税額などを記載する書類 ・法務局の公式サイトでダウンロード可能 |
| 登記識別情報または登記済証 | ・共有持分が属する建物の権利者であることを証明するための情報 ・再発行できないため、紛失している場合は「本人確認情報」や「事前通知制度」などの代替手段で対応 |
| 印鑑証明書 | ・作成後3か月以内のもの ・市区町村役場やコンビニなどで手続きして入手 |
| 身分証明書 | マイナンバーカードや運転免許証など |
| 共有持分の所有者の実印 | 債務者である共有持分の所有者は実印が必要になる |
| 住民票や戸籍の附票 | ・現在の住所と登記簿上の住所が異なる場合に必要 ・抵当権設定登記と一緒に住所変更登記を行う |
| 戸籍謄本や本籍地入りの住民票 | ・現在の氏名と登記簿上の氏名が異なる場合に必要 ・抵当権設定登記と一緒に氏名変更登記を行う |
| 委任状 | 司法書士に代理申請を依頼する場合に必要 |
| 抵当権設定契約書 | 基本的には債権者側が用意 |
共有持分の抵当権設定だからといって、通常の不動産の場合と必要な書類は変わりません。
共有持分の抵当権設定登記にかかる費用
共有持分の抵当権設定登記を行う場合、数万円~数十万円の費用がかかります。登録免許税という高額な税金がかかるうえに、司法書士に代理申請を依頼する費用も加わるため、数十万円の出費を見込んでおく必要があるでしょう。
共有持分の抵当権設定登記には、以下の費用がかかります。
- 登録免許税
- 司法書士報酬
- 証明書取得費用などの実費
例えば、「債権額2,000万円で登録免許税の税率が0.4%」「司法書士費用が4万円」「必要書類の発行手数料が2,000円」の場合、合計費用は12万2,000円になります。
登録免許税|債権額に対して税率は0.4%
登録免許税とは、抵当権設定登記や抵当権抹消登記など、登記手続きの際に国に納める税金です。
共有持分の抵当権設定の場合は、「債権額 × 税率0.4%」が登録免許税の金額です。例えば、債権額が1,000万円であれば、登録免許税は4万円になります。
もし持分を担保にするローンが「新築や増改築などの住宅取得資金の貸付け等に係るもの」だった場合は、税率が0.1%に軽減されます(2027年3月31日まで)。
ちなみに、債務をすべて返済した後に行う抵当権抹消登記の登録免許税は、1件あたり1,000円です。
司法書士への報酬相場|3〜5万円程度
抵当権設定登記を司法書士に依頼する場合の報酬相場は、1件あたり3万~5万円です。
ただし、共有持分の案件は、共有者の関係や対象不動産の確認に手間がかかることもあるため、事案が複雑であれば数万円程度高くなる可能性もあります。実際にいくらになるかは、代理申請を依頼する司法書士事務所に直接確認しましょう。
その他費用|数百円~数千円程度
抵当権設定登記に必要な書類は、取得する際に1枚あたり数百円ほどの手数料がかかります。細かい金額は自治体ごとに若干の変動があるものの、大まかには以下の金額がそれぞれかかります。
| 必要書類 | 1枚あたりの手数料 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | ・書面請求:600円 ・オンライン請求(送付):520円 ・オンライン(窓口交付):490円 |
| 印鑑証明書 | 300円程度 |
| 住民票 | 300円程度 |
| 戸籍謄本 | 450円 |
参考:法務局「登記手数料について」
上記の取得にかかる手数料以外には、法務局や金融機関に向かう交通費や郵送費などの実費が別途かかる場合があります。
共有持分の抵当権が行使されたらどうなる?
万が一、抵当権が行使されて共有持分が売却され、第三者が取得した場合はどうなるのでしょうか。
抵当権が設定されているからといって、ある日突然「共有持分を差し押さえます」と債権者から連絡がくるわけではありません。抵当権が行使されるのは、債権者からの支払い催促を何度も無視し、数か月以上返済を滞納して「期限の利益(分割で支払う権利)」を失った場合です。
最後に、共有持分の抵当権が行使される場合の大まかな流れを解説します。
債権者から督促・催告などが行われる
共有持分を担保にした借入の返済が滞った場合、返済の遅れが生じた段階で、債権者側から督促や催告が行われるのが一般的です。
督促とは、支払期限が過ぎても返済がない場合に、「支払いが遅れています」と返済を強く促す通知です。この段階で具体的な法的措置が行われることはありませんが、原則として返済が遅れた日数に応じて遅延損害金の支払い義務が生じます。
督促や電話連絡などに応じず滞納を続けると、次に催告が行われます。催告はいわゆる最後通牒であり、「これ以上返済が滞れば法的措置に移行します」という強い意志表示です。
催告後も滞納が続くと、債権者はいよいよ具体的な法的措置を講じます。
まず行われるのが、残った債務の一括返済請求です。一括返済ができなければ、保証会社による代位弁済などが行われた後、いよいよ抵当権の行使によって共有持分が差し押さえられます。
なお、共有持分が差し押さえられる前に、債権者から「任意売却」を提案されるケースがあります。
滞納を続けていると、共有持分の差し押さえだけではなく、原則として信用情報機関に異動情報が登録されてしまいます。
異動情報への登録とは世間一般で言う「ブラックリストに載る」ということで、新しい借入やクレジットカードの発行、スマートフォンの分割購入などが原則としてできなくなります。
債権者が共有持分を競売にかけて現金化する
返済不能などで抵当権が実行されると、債権者は担保不動産競売を裁判所に申し立てます。申し立てが受理されると、共有持分の所有者に「競売開始決定の通知」が届き、裁判所の執行官による現況調査や共有持分の入札に進みます。
なお、共有持分の売却代金を返済に充てても債務が残る場合は、残りの債務の返済は当然ながら免除されません。
共有持分の所有権が落札者に移る
競売で落札者が代金を納付すると、その共有持分の所有権は落札者に移ります。競売の場合、代金が全額納付された後に、裁判所の職権によって所有権移転登記が行われます。
所有権が落札者に移った後は、一般的に、他の共有者と落札者との間で、共有物分割請求の協議や持分売買交渉などが行われるのが実務上一般的です。
なお、競売で誰も共有持分を落札しなかった場合は、債権者が再度競売を申し立てるか、特別売却に移行します。特別売却とは、入札や競り売り以外の特別な売却方法です。
特別売却は、期間中に先着順で買受けの申出を受け付けるのが基本です。
まとめ
共有持分のみに抵当権を設定し、金融機関などから借り入れるケースは実務上存在します。持分を担保として認めてくれる民間ローンも存在するため、いざというときの資金調達手段として覚えておくのもよいでしょう。
とはいえ、当記事で解説した通り、共有持分に抵当権を設定すると、差し押さえ後の競売によって見知らぬ第三者と共有状態になるリスクがあります。他の共有者の持分に直接の影響がない反面、落札者とのトラブルを背負うことになる可能性があります。
「他の共有者が設定を許可してくれた」「持分を担保にしても返済するあてがある」といった場合は、債権者と金銭消費貸借契約・抵当権設定契約を結び、抵当権設定登記に進んでください。本当に抵当権が行使されてしまわないよう、事前に借入後の資金計画や収支などを慎重に検討してから手続きを行いましょう。

