共有持分も相続登記が必要!やり方・手順・費用など相続登記の完全ガイド

不動産の共有持分を相続する際には、相続登記をおこなわなければなりません。2024年4月1日からは相続登記が義務化されたため、不動産の相続があることを知った日から3年以内に相続登記を済ませなければ、10万円以下の過料の対象となります。
とはいえ、実際に弊社にも相談が寄せられることもありますが、権利者が複数人いる共有持分の相続登記となると手続きの進め方に不安を覚えることでしょう。
共有状態にある不動産でも単独名義の不動産でも、登記手続きの流れの大枠は変わりません。しかし、申請書類の記入内容や税金の計算方法などで細かな違いがあるため、司法書士に相談しながら進めるのがベストです。
もしも共有者との意見があわず相続登記が進まないという状況に陥っている場合、自分の共有持分のみを買取業者に売却し、共有状態を解消するのも一つの手段です。
当サイトを運営するクランピーリアルエステートでは、相続に際して権利問題が発生した不動産の買取を積極的におこなっています。
不動産トラブルに強い弁護士事務所と連携し、共有持分の相続登記や親族間トラブルのお悩みを解決することが可能です。共有持分の相続や登記手続きに悩んでいる方は、ぜひ当社にご相談ください。
本記事では、共有持分を相続する際の相続登記の手続きの概要や手続きの流れ、費用などについて解説します。相続登記をしなかったらどうなるのか、また共有持分を相続するとどのようなリスクがあるのかについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
目次
共有持分を相続するなら相続登記をする必要がある
土地や建物など不動産の共有持分を相続する際には、「相続登記(名義変更)」の手続きをおこなう必要があります。とくに相続人が複数人いるケースでは、持分割合を明確にしておかないと、後々の売却や処分がスムーズにできなくなるおそれがあります。
相続登記は、不動産に対する自分の権利を第三者に主張・証明するための重要な制度です。登記簿謄本に氏名が記載されることで、はじめてその人が法的な所有者として認められます。
とはいえ、実際には相続登記がされないまま放置され、あとからトラブルに発展するケースも少なくありません。
たとえば、「祖父→父→自分」という相続の流れのなかで、父親が祖父名義のまま土地を使用し、さらに父親が亡くなってしまったような場合です。このとき、父親の兄弟など他の親族が「祖父名義の土地であれば、自分にも相続する権利があるのではないか」と主張し、相続人同士で意見が対立してしまうことがあります。
また、相続時に登記手続きされないまま相続が繰り返された場合、現在の名義人が誰なのかわからなくなったり、共有者が行方不明になったりするケースもあります。
実際に弊社でも、共有持分の相続に関して相談を受けることが多く、以下のような買取事例がありました。
さらに、他の共有者との関係も良好ではなく、直接のやりとりを避けたいというご希望でした。そこで弊社が調査と査定を行い、共有持分を買い取らせていただくことで、問題の早期解決と資産整理につながりました。
上記のように、名義人が複数いる共有名義の不動産の場合、権利関係は非常に複雑なものになります。実際に、適切に相続登記がおこなわれず、全国で所有者がわからない不動産が増加し、社会問題となっています。
このような背景があることから、2024年4月1日から「相続登記の義務化」が開始されました。相続登記の義務化について詳しくは後述しますが、不動産を相続したことを知った日から3年以内に登記をおこなう必要があり、正当な理由なく放置した場合には、10万円以下の過料の対象になります。
共有持分の相続があることを知ったときは、司法書士などの専門家に相談のうえ、速やかに相続登記の手続きを進めましょう。
共有持分の相続が発生する具体的なケース
共有持分の相続が発生する具体的なケースの例は、以下のとおりです。
- 相続によって単独名義だった不動産を複数人で共有するケース
- 共有名義だった不動産が相続によって単独名義になるケース
- 相続前から共有名義だった不動産でさらに共有者が増えるケース
それぞれのケースについて、次の項目から詳しくみていきましょう。
私道の共有持分も登記が必要となる
相続する不動産に私道が含まれている場合も、相続登記が必要です。私道は周辺の所有者と共有しているケースが多く、所有感覚が薄れやすいため、登記を忘れてしまうケースが少なくありません。
また、固定資産税が非課税になる私道もあり、納税通知書に記載されていない場合には、相続人が存在に気づかないこともあります。名義を放置すると、後にトラブルになる可能性もあるため注意が必要です。
私道の共有持分があるかどうかを確認するためには、名寄帳を利用するのが有効です。名寄帳では、同じ市町村内で被相続人が所有していた不動産を一覧で確認できます。市区町村の役所で申請すれば取得可能です。
相続によって単独名義だった不動産を複数人で共有するケース
親が単独名義で所有していた不動産を、もう一方の親や兄弟姉妹など複数の相続人が引き継ぐことで共有状態になるケースがあります。
たとえば、遺産分割協議では話がまとまらず「とりあえず法定相続分に従って、それぞれが持分を取得する」という場合に、共有持分の相続が発生します。
それぞれが共有持分を取得するのは公平な分け方の一つですが、将来的に売却や建て替えなどをおこなう際には、共有者全員の同意が必要になります。仮に共有者間の意見がまとまらなければ、不動産を活用できないという状況に陥ってしまうリスクもあります。
実際に、弊社クランピーリアルエステートでも、相続によって不動産を複数人で共有したことにより、トラブルに発展した共有持分を買い取らせていただいた事例があります。
売主様は実家に住んでおらず、家族関係も良くなかったため、不動産を正当な価格で処分したいと希望されていました。しかし、実家に住む他の共有者から一方的な条件での譲渡を求められ、話し合いが困難に。結果として、ご自身の持分を弊社で買取し、共有状態を解消されました。
トラブルを避けるためにも、相続で共有状態になった場合は、できるだけ早い段階で単独名義への変更や買取などを検討することが大切です。
共有名義だった不動産が相続によって単独名義になるケース
もともと夫婦や親子などで共有していた不動産で、一方の共有者が亡くなり、その持分を他の共有者が相続することで、単独名義に変わることがあります。たとえば、残された配偶者や子どもが唯一の相続人であるケースや、他の相続人が相続放棄や持分の譲渡をおこなったケースなどが該当します。
このようなケースでは、相続登記によって持分が統合され、結果的に不動産は単独名義となります。
相続に際して単独名義になる場合、不動産の売却や建て替えなどの判断を1人でおこなえるようになるため、活用の自由度が上がります。ただし、相続登記をしなければ単独名義にならず、自由な活用ができない点には注意が必要です。
相続登記を放置すると過料の対象になるだけでなく、自分が亡くなったときに相続人の権利関係が複雑化する恐れがあるため、速やかに相続登記を進めましょう。
相続前から共有名義だった不動産でさらに共有者が増えるケース
もともと共有名義だった不動産で、共有者の一人が亡くなり、その持分を複数の相続人が引き継ぐことで、共有者の数が増えていくケースがあります。
上記のような相続を繰り返すと、共有持分が細分化されていき、誰が何割の権利を持っているのか把握しづらくなってしまいます。
また、共有者が遠方に住んでいたり、面識がなかったりすることもあり、不動産の利用や売却をめぐって意見がまとまらず、トラブルに発展するリスクも高くなるでしょう。
実際に、弊社クランピーリアルエステートでも、両親から相続した土地を兄弟で共有していたところ、兄が亡くなり、その持分を姪が相続して共有関係が続いているケースでご相談を受けた事例があります。
自分の相続人に迷惑をかけないためにも、早い段階で共有関係を見直し、単独名義化や持分整理などを検討することが望ましいといえるでしょう。
共有持分を相続登記しないとどうなる?
共有持分の相続登記をしなければ、以下のようなリスクが生じます。
- 10万円以下の過料の対象になる
- 権利が枝分かれして複雑化する
- 売却できなくなる
それぞれのリスクについて、次の項目から詳細を確認していきましょう。
10万円以下の過料の対象になる
2024年4月1日から、法改正により相続登記が義務化されました。
不動産を相続したことを知った日から、3年以内に正当な理由なく登記をしなかった場合、10万円以下の過料を科される可能性があります。相続登記の義務化は、共有持分についても同様です。
不動産登記法でも、相続登記について以下のように記載されています。
第七十六条の二 所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。
不動産登記法 第七十六条の二|e-Gov 法令検索
なお、2024年4月よりも前に相続した不動産についても、3年の猶予期間を経て、2027年3月31日までに申請しなければ、同様に10万円以下の過料の対象となります。
登記をしなかった事情が「正当な理由」に当たるかどうかは、法務局が個別の事情を考慮して判断します。たとえば「連絡が取れない共有者がいる」「共有者の所在が不明」など共有不動産特有の理由のほか、「経済的に困窮している」「重病で手続きができない」などが挙げられます。
権利が枝分かれして複雑化する
共有持分を相続登記しないまま放置すると、名義人と実際の所有者が一致しなくなり、次の相続でさらに共有者が増える原因になります。
共有不動産はもともと権利者が複数人いるため、1人の共有者が亡くなるたびに、共有持分がさらに複数の相続人へ分配され、持分の細分化が加速します。
長期間登記をしないまま相続が繰り返されると、共有者が数十人単位になってしまうことも珍しくありません。
実際に弊社に寄せられた相談事例としては、京都府にある不動産において相続が繰り返されたことで、最終的に16人で共有していた物件がありました。相談者は誰が共有者なのかすらわからない状況であり、不動産の活用が難しかったために共有持分の売却相談に至ったようです。
共有者が増えれば増えるほど、売却や利用に必要な同意を得るのが困難になり、結果的に不動産が「活用できないマイナスの資産」になってしまうリスクが高まります。
売却できなくなる
相続登記を行わなければ、不動産の売却はできません。登記簿が被相続人の名義のままでは、自分の権利を証明できず、契約や所有権移転登記が不可能になるためです。
相続登記をしなければ売却ができない点は、不動産全体を売却する場合も、自分の共有持分のみを売却する場合も同様です。
不動産全体を売却するためには、それぞれの相続人が相続登記を完了させたうえで、共有者全員の同意を得なければなりません。また、共有持分の売却には、登記簿上で持分が自分の名義に移転している必要があります。
相続時点では売却する予定がないからと登記せず放置した場合、いざ売却しようとしたときには権利関係が複雑化しており、話し合いでは結論がまとまらないことも考えられます。
売却をするかどうかにかかわらず、相続が発生した際には早めに登記を済ませておくことが大切です。
共有持分の相続登記をする方法には2つのパターンがある
共有持分を相続する場合、状況に応じた手続きを行わなければなりません。登記申請書にも相続の目的を記載する必要があります。
- 所有権移転登記:単独名義の不動産を複数人で相続した場合
- 持分移転登記:共有名義の不動産を複数人で相続した場合
共有名義で不動産を相続することになったときの申請について確認しましょう。
所有権移転登記:単独名義の不動産を複数人で相続した場合
単独名義の不動産を複数人で相続し、新たに共有状態となる場合は、不動産の所有権が移ったことを申請する「所有者移転登記」をおこないます。登記申請書の目的欄には「所有権移転」と記載します。
所有権移転登記をおこなうケースとして、前述した「相続によって単独名義だった不動産を複数人で共有するケース」が該当します。たとえば、父親が単独所有していた不動産を母と子で相続することになった場合、単独から共有になるため、所有権移転登記が必要です。
なお、共有状態になった不動産は売却や建て替えなどに全員の同意が必要になるため、登記とあわせて今後の活用方針を早めに整理しておくことが望ましいでしょう。
持分移転登記:共有名義の不動産を複数人で相続した場合
共有名義の不動産を複数人で相続する場合は、持分の権利を新しい名義人へ移す「持分移転登記」をおこないます。このうち、元の名義人の持分を残さず、まるごと新しい名義人に権利を移転することを「持分全部移転登記」と呼びます。
たとえば、夫婦名義で不動産を所有しており、夫が亡くなったために夫の持分をすべて妻が相続する場合や、夫(父親)の持分を妻と子2人で相続する場合などです。登記申請書の目的欄には「○○(被相続人の氏名)持分全部移転」と記載します。
持分移転登記は、前述した「共有名義だった不動産が相続によって単独名義になるケース」や「相続前から共有名義だった不動産でさらに共有者が増えるケース」が該当します。
単独名義になるケースであれば権利関係が整理されますが、共有者が増えるケースの場合は権利関係が複雑化するリスクがあります。たとえば、兄弟姉妹で両親の共有不動産を相続した後に共有者の一人が亡くなった場合、甥姪など血縁関係が遠い人物が共有者となり、連絡が取りにくくなるでしょう。
相続人が増えれば増えるほど、持分割合は細分化されて共有者が増加するため、複数人で共有不動産を相続する場合は、登記と合わせて今後の方針を検討することが大切です。
相続登記申請までの流れ
所有権移転登記であっても持分移転登記であっても、登記を申請する流れに大きな違いはありません。共有持分の相続登記申請をするまでの主な流れは、以下のとおりです。
- 相続財産を特定する
- 遺産分割協議を行う
まずは、相続登記を申請する前の流れを確認しておきましょう。
相続財産を特定する
最初に行うのは、相続財産の特定です。不動産の登記手続きでは、地番(法務局が定める住所)や土地の面積、現在の権利関係などから、相続対象となる不動産を特定する必要があります。
とくに重要なのが「地番」です。住民票上の住所(住居表示)とは異なるもので、一般的に登記簿上の地番と住民票上の住所はほぼ一致しません。この地番は、遺産分割協議や登記申請書への記載が必要となります。
相続財産を特定するに当たって、必要となる書類の取得場所は以下のとおりです。
書類 | 取得場所 |
---|---|
土地・建物のそれぞれの登記事項証明書(全部事項証明書) | 法務局 |
登記済権利証・登記識別情報・登記完了証 | 法務局 |
名寄帳 | 市町村役場 |
固定資産税納税通知書 | 市町村役場より毎年4~5月ごろに送付 ※再発行不可 |
また、共有持分を相続する際には、不動産の特定とあわせて相続人の特定も重要です。とくに共有不動産で権利関係が枝分かれしているなどの事情がある場合、相続人の特定に時間がかかることも考えられるため、早めに動き出す必要があります。
相続人を特定するに当たっては、役所に申請して「被相続人の出生から死亡までの一連の戸籍謄本」を取得しましょう。
遺産分割協議を行う
共有持分の相続登記では、各相続人が取得する持分割合を決める必要があります。
遺言書が残されている場合、遺言に従って持分割合や相続財産の配分を決めるのが原則です。一方、遺言書が残されていない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、各相続人の持分割合を決めていきます。
遺産分割協議とは、相続人全員で誰がどの財産をどれだけ相続するかを話し合い、合意する手続きです。遺言書が残されている場合でも、相続人全員が合意すれば遺産分割協議によって共有持分を含めた相続財産の配分を決めることが可能です。
持分割合の相続割合は、原則として自由に決めて問題ありません。たとえば「AとBで2分の1ずつ取得する」「Aが持分をすべて取得する代わりに、Bが現金を取得する」などです。
なお、相続財産が共有不動産しかない場合、上記のように他の財産での調整ができません。この場合、法定相続分に応じて共有持分を分けるか、一部の相続人が持分をまとめて取得して他の相続人へ金銭を支払うか、相続人全員で不動産を売却するかのいずれかになります。
話し合いの結果は、遺産分割協議書にまとめて記載します。そして、相続人全員が署名・捺印(又は記名・押印)して、それぞれ1通ずつ所持します。遺産分割協議書を作成した時点でその内容に合意したことになるため、相続人全員が合意しない限り、内容を変更することはできません。
相続登記申請の流れ
誰がどの財産を相続するのか、共有不動産の持分割合をどうするのかが決まったら、相続登記申請を進めていきます。
- 必要となる書類を集める
- 法務局に申請書類を提出する
- 固定資産税の支払いを行う
必要書類の収集は特に時間と手間がかかるため、時間がないという場合は司法書士に依頼しましょう。
必要となる書類を集める
まず、相続登記と申請に必要な書類を作成・収集します。役場や法務局で取得するものもあれば、申請者や相続人で作成するものもあります。
書類 | 取得場所 |
---|---|
登記事項証明書・登記簿謄本 | 法務局 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 ※本人・その配偶者・直系親族の戸籍謄本については最寄りの市区町村役場でも可 |
被相続人の住民票の除票 | 被相続人が最後に住んでいた市区町村役場 |
相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 ※本人・その配偶者・直系親族の戸籍謄本については最寄りの市区町村役場でも可 |
相続人全員の住民票 | 住所地の市区町村役場 |
相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市区町村役場 |
固定資産評価証明書 | 市町村役場より毎年4~5月ごろに送付 |
書類 | 作成書類 |
---|---|
登記申請書 | 様式・記載例は法務局Webサイトに掲載 |
遺産分割協議書 | 相続人の合意後に作成 |
相続関係説明図 | 様式・記載例は法務局Webサイトに掲載 |
参照:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等|法務局
共有持分の場合でも必要書類に違いはありませんが、登記申請書には必ず「持分〇分の〇」のように割合を記載する必要があります。とくに共有者が複数いる場合、割合の記載漏れや誤りがあると補正指示が出され、登記完了までに時間がかかる可能性があるため注意が必要です。
相続登記申請書の書き方については、「共有持分の相続登記に必要な「相続登記申請書」の書き方」で詳しく紹介しています。
法務局に申請書類を提出する
書類が用意できたら、窓口申請・郵送申請・オンライン申請のいずれかの方法で書類を提出します。
窓口申請は、管轄する法務局の窓口に必要書類を持ち込む方法です。管轄法務局とは、”不動産の所在地”を管轄する法務局です。どこでもよいわけではないので、法務局のWebサイトで確認しましょう。
参照:各法務局のホームページ|法務局
不動産の所在地が遠方の場合は、郵送による申請も可能です。書留やレターパックなど追跡機能や書類の到着を確認できる方法で送ると安心でしょう。書類の原本の返送が必要な場合は、返信用封筒と切手を同封します。
申請用総合ソフトをインストールして、申請者情報の登録を行えば、オンライン申請もできます。ただし、完全にオンラインで手続きを完結させることはできません。書類のうち被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本など一部の書類は電子署名付きの電子文書として発行できないため、法務局に持参または送付する必要があります。
参照:不動産の所有者が亡くなった(相続の登記をオンライン申請したい方)|法務局
申請後、法務局で書類の審査が行われ、登記が完了すると「登記識別情報通知書」が交付されます。登記識別情報通知書には、不動産の登記識別情報が記載されています。登記識別情報通知書に記載されている登記識別情報は名義人としての本人確認のための重要な情報であり、後の登記手続きでも必要なので、通知書は厳重に管理しなければなりません。
なお、共有持分の相続登記でも、申請方法は単独所有の登記と変わりません。
固定資産税の支払いを行う
相続登記を行うと、不動産の新しい名義人には翌年以降の固定資産税の支払いが求められます。
共有持分の場合、固定資産税は共有者の連帯納付となり、全相続人に支払い義務が発生します。ただし、納付書は代表者1人に送付され、代表者が全額まとめて納付します。
その他の共有者は、持分割合に応じた各々の納付額を代表者に支払わなければなりません。支払いが滞る共有者がいると代表者の負担が増えるため、事前に負担方法や精算のルールを取り決めておくとよいでしょう。
共有持分の相続登記に必要な「相続登記申請書」の書き方
共有持分の相続登記をする際には、相続登記申請書を法務局に提出する必要があります。
相続登記申請書には、登記の目的や相続人の氏名、共有持分の場合は持分割合などについて記載します。法務局の公式サイトでは、相続登記申請書の記載例が公開されています。
ただし、不動産が単独名義か共有名義かによって書き方が異なるため注意が必要です。
ここでは、以下2つのパターンの書き方について、例を挙げて紹介します。
- 相続によって単独所有だった不動産が共有名義になる場合の書き方
- すでに共有状態だった不動産の共有持分の相続がある場合の書き方
相続によって単独所有だった不動産が共有名義になる場合の書き方
相続によって単独所有だった不動産が共有名義になる場合の書き方について、以下のケースを例に紹介します。
- 被相続人:田中 一夫(東京都新宿区在住、土地の単独所有者)
- 相続人:長男「田中 太郎」、次男「田中 次郎」、長女「田中 花子」
- 法定相続分:各3分の1でそのまま相続する
- 対象不動産:東京都世田谷区○○番地
登記の目的 所有権移転
原 因 令和6年6月1日 相続
相続人 東京都練馬区○○
田中 太郎 持分3分の1
東京都杉並区○○
田中 次郎 持分3分の1
東京都世田谷区○○
田中 花子 持分3分の1
不動産の表示
所 在 東京都世田谷区○○
地 番 123番
地 目 宅地
地 積 120.00㎡
添付書類
1 被相続人の出生から死亡までの戸籍
2 相続人の戸籍
3 相続人の住民票
4 相続関係説明図
5 固定資産評価証明書
登録免許税 課税価格 × 0.004
登記申請先 東京法務局世田谷出張所
令和6年7月15日
申請人 東京都練馬区○○
田中 太郎
電話:03-XXXX-XXXX
今回のケースでは、もともと父親の単独名義だった不動産を相続するため、相続人が新規で持分を取得する形になります。そのため、登記の目的は「所有権移転」となります。
また法定相続分での相続であるため、持分割合はそれぞれ「持分3分の1」と記載します。なお、持分割合を記載するときの注意点として、「1/3」ではなく「3分の1」のように、日本語の文章表記に寄せて書くべきとされています。
すでに共有状態だった不動産の共有持分の相続がある場合の書き方
すでに共有状態だった不動産の共有持分の相続がある場合の書き方について、以下のケースを例に紹介します。
- 被相続人:山本 英夫(建物の持分2分の1を保有していた)
- もう1人の共有者:山本 和子(配偶者、持分2分の1を継続所有)
- 相続人:息子「山本 一郎」単独で英夫の持分2分の1を相続
- 対象不動産:東京都板橋区△△
登記の目的 所有権移転
原 因 令和6年4月10日 相続
相続人 東京都板橋区△△
山本 一郎 持分2分の1
不動産の表示
所 在 東京都板橋区△△
家屋番号 456番
種 類 居宅
構 造 木造2階建
床面積 1階 60.00㎡ 2階 55.00㎡
添付書類
1 被相続人の戸籍一式
2 相続人の戸籍・住民票
3 相続関係説明図
4 固定資産評価証明書
登録免許税 課税価格 × 0.004(持分2分の1分のみ)
登記申請先 東京法務局板橋出張所
令和6年7月15日
申請人 東京都板橋区△△
山本 一郎
電話:03-YYYY-YYYY
今回のケースでは、夫婦で共有していた不動産を被相続人の子どもが新規で取得することになるため、登記の目的は「所有権移転」となります。
また、配偶者がすでに2分の1の持分を所有しているため、子どもが取得する分の持分割合は「2分の1」と記載します。
共有持分の相続登記を行う場合の費用
相続登記では、下記の費用の支払が必要です。
- 登録免許税:固定資産税評価額×0.4%
- 必要書類を取得するための費用:5,000~1万円
- 司法書士に支払う報酬:10万円程度
相続登記にかかる費用は、一般的に不動産を相続する人が負担します。複数人で相続する場合は、相続財産の割合に応じて費用を分担するケースが一般的です。
それぞれの費用の計算方法について、詳しく紹介します。
登録免許税:固定資産税評価額 × 持分割合 × 税率0.4%
登録免許税とは、登記の手続きをするために国に納める税金です。
所有権移転登記の理由によって税率は異なりますが、相続の場合は土地でも建物でも「固定資産税評価額の税率0.4%」が課されます。なお、遺言によって法定相続人ではない人に不動産を遺贈する場合の税率は2%です。
共有持分の場合は、評価額に持分割合を掛けた金額をもとに計算します。
また、持分割合が均等でない場合も同様に計算します。
たとえば、Aが2分の1、BとCが4分の1ずつ持分を取得するとします。この場合、持分が2分の1の相続人は「3,000万円×50%×0.4%=6万円」、持分が4分の1の相続人は「3,000万円×25%×0.4%=3万円」ずつの支払いとなります。
なお、相続登記の登録免許税には期間限定で免税措置が設けられています。相続した土地の固定資産税評価額が100万円以下であれば、2027年3月31日までの間、0.4%の登録免許税が免税されます。
参照:国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
参照:法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」
必要書類を取得するための費用:5,000円~1万円
法務局や市町村役場で書類を取得するためには、1通あたり数百円の費用がかかります。
相続人が妻と子供だけというシンプルな相続でも、5〜10通の書類を発行しなければならないので、書類の収集にはトータルで5,000〜1万円の費用が必要になるでしょう。
書類 | 発行手数料 |
---|---|
登記事項証明書・登記簿謄本 | 480~600円 |
戸籍謄本 | 1通450円 |
除籍謄本 | 1通750円 |
住民票・除票 | 1通200~400円 |
印鑑証明書 | 1通200~400円 |
固定資産評価証明書 | 1通200~400円 |
名寄帳 | 1通200~300円 |
※市町村役場で取得する書類の手数料は自治体によって異なる
司法書士に支払う報酬:10万円程度
相続登記の申請手続きを司法書士に依頼する場合、10万円程度の報酬が発生します。
日本司法書士連合会が2024年に行った「報酬に関するアンケート」によると、相続登記の司法書士の報酬の全体平均値は5万円~8万円台でした。
なお、報酬額は法律で定められていないため、依頼先の事務所や不動産の所在地、依頼内容、評価額などによって大きく変動します。書類の収集代や交通費を別途請求する事務所もあるため、契約前には金額だけでなく対応業務の範囲も確認しておくことが大切です。
共有持分を相続することのリスク
ここまで弊社に寄せられた相談事例を紹介したように、共有持分を相続するとさまざまなトラブルの種になることも多いです。具体的にいえば、共有持分を相続することによる、主なリスクは以下のとおりです。
- 不動産全体の売却や改築をしたいときに他の共有者と揉める
- 相続などで権利関係が複雑になる
- 突然見知らぬ人と共有関係になる
- 共有物分割請求訴訟を起こされる可能性がある
- 税金や維持管理費の負担で揉める
- 共有持分だけでは売却が難しい
共有持分の相続では、自分だけの判断で不動産を売却・活用できないため、方針の違いや利害の衝突が起こりやすくなります。
また、共有者の死亡や持分売却によって見知らぬ第三者と共有関係になるケースもあり、関係が悪化すると訴訟に発展する恐れもあります。
さらに、維持管理費や固定資産税の負担割合をめぐって揉めることも多いです。負担を感じて最終的に売却を望んでも持分だけでは買い手がつかず、長期的に負担を抱え続けるリスクもあります。
共有名義不動産のトラブルを防ぐには共有状態から抜け出すのも1つの手
共有名義の不動産にはさまざまなリスクが付いて回るため、トラブルを回避するためには共有状態から抜け出すのも一つの手段です。共有状態を解消する方法は以下のとおりです。
- 生前に不動産を売却してもらう
- 換価分割を行う
- 代償分割を行う
- 現物分割により不動産の分割を行う
- 相続後に他の共有者の持分を買い取る
- 相続後に自分の持分を売却する
- 相続放棄する
方法①生前に不動産を売却してもらう
法定相続人が複数いる場合、相続になると共有状態になることが予想されます。利用・活用する予定のない不動産であれば、相続が発生する前に売却してもらうと、売却や登記にかかる手間も最低限に抑えられます。
たとえば、親が所有する空き家を生前に売却して現金化しておけば、相続時には現金を法定相続分に応じて分けるだけで済み、売却や名義変更の手間や費用を大幅に減らせます。
生前に不動産を売却してもらう方法が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
---|---|
・不動産を使う予定がなく、現金で遺産分割したい ・相続時の手続きを簡略化したい |
・不動産をそのまま利用したい、または残したい ・不動産の売却に家族の同意が得られない |
方法②換価分割を行う
換価分割とは、不動産全体を売却して、売却代金を相続人の持分割合に応じて分配する方法です。
たとえば、評価額3,000万円の不動産を3人の相続人で3分の1ずつ相続する場合、不動産を売却して得られた3,000万円をそれぞれ1,000万円ずつ受け取ります。
現金で分割できるため、相続人同士で不動産の利用方法を話し合う必要がなく、平等に分けやすい点が特徴です。ただし、相続人の中に売却に反対する人がいる場合や、市場価格で売却できない場合は実現が難しくなります。
換価分割が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
---|---|
・現金でスムーズに分けたい ・不動産の利用予定がない |
・相続人の中に不動産を残したい人がいる ・不動産を希望価格で売却できない可能性がある |
方法③代償分割を行う
代償分割とは、特定の相続人が不動産全体を取得し、不動産を取得する相続人が他の相続人に持分に見合った金銭(代償金)を支払う方法です。
たとえば、評価額3,000万円の不動産を3人で相続する場合、1人が不動産全体を取得し、残りの2人にそれぞれ1,000万円ずつ代償金を支払います。
不動産を残したい人と現金化したい人の両方の希望を満たせる方法ですが、代償金を用意できるだけの資金力が必要となります。
代償分割が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
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・不動産を手放さずに相続したい ・代償金を支払える資金がある |
・代償金の準備が難しい ・不動産の評価額に納得できない相続人がいる |
方法④現物分割により不動産の分割を行う
現物分割とは、登記簿上の1つの土地を複数に切り分けて登記する「分筆」によって共有状態を解消し、それぞれが単独名義で相続する方法です。
たとえば、600㎡の土地を3人で分ける場合、200㎡ずつに分筆し、それぞれの単独名義で登記します。建物は物理的に分けることが難しいため、主に土地の相続で用いられます。
共有状態を避けられる反面、分割によって土地の形状や面積が変わって評価額が下がったり、建築基準法上の要件を満たせず建物を建てられなくなったりするケースもあります。
現物分割が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
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・土地を単独名義で取得したい ・分筆できるだけの広い面積がある |
・土地の価値が下がるのを避けたい ・建物や狭小地などで不動産の分割が難しい |
方法⑤相続後に他の共有者の持分を買い取る
複数人で相続し、相続後に他の共有者の持分を買い取ることで、結果的に単独名義で不動産を所有できる、または売却できる方法です。
たとえば3人で均等に相続した3,000万円の不動産を1人がすべて取得したい場合、残り2人の持分(各1,000万円相当)をそれぞれに支払って買い取ります。
他の共有者と買取金額の合意を得られれば可能ですが、トラブルになっている場合や他の共有者が持分を所有し続けたい場合には向きません。
相続後に他の共有者の持分を買い取る方法が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
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・不動産を単独で所有して活用したい ・共有者同士の関係が良好で、交渉がスムーズに進められる |
・共有持分の購入資金を用意できない ・妥当な買取価格を提示しているにもかかわらず納得してもらえない |
方法⑥相続後に自分の持分を売却する
相続後に、自分の持分を第三者に売却する方法です。赤の他人(個人)に売却すると、他の共有者とトラブルになりかねないため、一般的には他の共有者または不動産買取業者に売却します。
他の共有者が買取を拒否した場合や金額の合意を得られない場合、他の共有者とやり取りせずに手放したいという場合は、不動産買取業者に売却するのがよいでしょう。
ただし、通常の不動産買取業者では共有持分のみの買取を行っていないことも多く、共有不動産専門の買取業者に相談するのがおすすめです。
弊社クランピーリアルエステートでも、共有持分の買取を専門に行っており、多数の買取実績があります。通常の不動産会社に断られた案件でも対応可能なため、ぜひお気軽にご相談ください。
相続後に自分の持分を売却する方法が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
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・共有関係からできるだけ早く抜け出したい ・他の共有者と売却条件の合意が得られない ・交渉や手続きの手間を減らしたい |
・不動産を将来的に活用する予定がある ・共有者が買取業者と同等の価格で共有持分の買取を希望している |
方法⑦相続放棄する
相続発生時に相続放棄をすることで、共有持分を相続しないという方法です。
不動産の共有持分を引き継がずに済みますが、相続放棄は不動産だけを対象にすることはできません。預貯金や株式などのプラスの財産、借金や税金などのマイナスの財産も含め、すべて放棄する必要があります。
また、相続放棄の手続きには期限があり、原則として相続開始から3か月以内におこなわなければなりません。
相続放棄が向いているケース・向いていないケースは以下のとおりです。
向いているケース | 向いていないケース |
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・不動産を含め、相続財産を一切引き継ぎたくない ・借金や税金などマイナスの財産が多い |
・不動産以外に相続したい財産がある |
まとめ
共有持分を相続する際には、相続登記の手続きが必要です。
2024年4月1日から相続登記が義務化されたため、原則として不動産の相続があることを知った日から3年以内に手続きをしなければなりません。手続きを怠ると10万円以下の過料を科せられたり、権利関係が複雑化して活用や売却が困難になったりする恐れがあります。
共有状態の不動産はトラブルの原因になりやすいため、リスクを避けたい場合は早期に共有関係を解消することを検討しましょう。他の相続人と話し合い、持分を集約したり不動産全体を売却したりなど、将来に不利益を残さないよう対応していきましょう。
ただし、相続人が複数いる場合、意見がまとまらないケースも少なくありません。その場合、自分の共有持分のみを買取業者に売却する方法がおすすめです。
「自分が相続した持分のみを売却したい」「他の相続人と連絡を取らずに売却したい」という場合は、共有持分を専門に買い取っているクランピーリアルエステートにご相談ください。
よくある質問
共有持分の相続登記は自分だけで申請できますか?
共有持分の相続登記は、原則として相続人全員での共同申請が必要です。亡くなった方の持分を複数人で相続する場合、法定相続人全員の署名・押印がなければ登記は受理されません。ただし、自分が単独でその持分を相続することが遺言や遺産分割協議で決まっている場合には、単独で申請することが可能です。
共有者が相続登記に協力しない場合はどうすれば良いですか?
前述のとおり、共有持分の相続登記は原則として共有者全員でおこなう必要がありますが、法定相続分どおりに登記する場合に限り、一部の相続人のみで申請することが可能です。法定相続分による登記は「共有財産の保存行為」とみなされるためです。ただし、その後に遺産分割協議がまとまったり、相続放棄があったりすると、あらためて登記をやり直す必要があります。結果的に手間や費用が増えるリスクもあるため、まずは話し合いで解決を試みましょう。