夫が死亡したら家の相続はどうなる?相続の基本ルールから税金・トラブルまで徹底解説

夫が死亡した場合、「家の相続はできる?」「住宅ローンが残っている場合の返済義務はどうなるのか」などの不安を抱える方も多いのではないでしょうか。

原則として、夫が死亡した際には法定相続人が家を相続することになります。

法定相続人とは、民法で定められた「被相続人の財産を相続する権利を持つ人」のことです。配偶者は常に相続人となり、同時に相続する人は以下の順位で優先されます。

  • 第1順位:子ども(死亡している場合は孫)
  • 第2順位:両親(死亡している場合は祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹(死亡している場合は甥姪)

被相続人に子どもがいる場合、家を相続するのは「配偶者と子ども」になります。子どもがいない場合は「配偶者と両親」、両親が亡くなっている場合は「配偶者と兄弟姉妹」のように、状況に応じて相続人が変わります。

家をどのように相続するのかは、法定相続分を考慮しつつ遺産分割協議で分け方について話し合って決定します。

夫が亡くなった時点でその家に住んでいた場合、配偶者は「配偶者居住権」を取得することで、その家に居住する権利を得ることが可能です。配偶者居住権は売却や転貸ができない代わりに、所有権より評価額が低く抑えられるため、家に住みながら預貯金など別の財産を多く相続できるメリットがあります。

話し合いがまとまったら遺産分割協議書を作成し、法務局で相続登記(名義変更)の手続きを行いましょう。相続した内容に基づいて相続税を納めれば、家の相続手続きは完了です。

なお、相続登記は2024年4月から義務化されているため、相続から3年以内に申請をしなければなりません。そのため、遺産分割協議で家を相続する人が決まった段階で、速やかに相続登記の手続きを進めましょう。

相続登記の手続きは自分でもできますが、専門知識が必要になるため、司法書士に代行してもらうケースが多いです。配偶者居住権など特例制度が適用できるかどうかも含め、迷ったときは司法書士に相談してみてください。

弊社クランピーリアルエステートは、家の相続や売却に関する悩みを抱えている方の負担を少しでも軽くすることを理念の1つとしています。

相続した家については、弁護士や司法書士など法的手続きを行える連携士業の紹介から不動産買取までをワンストップで支援できる体制を整えています。

夫が死亡した家の売却に関する悩みを抱えている方は、ぜひお気軽にクランピーリアルエステートまでご相談ください。

目次

夫が死亡すると誰が家を相続する?相続の基本ルールを踏まえて解説

夫が死亡した場合、家の相続人は法定相続人で決まるのが原則です。

夫の単独名義で家を所有していた場合はもちろん、夫婦の共有名義で所有していたい場合にも、夫の持分を法定相続人が相続することになります。

なお、夫が遺言書を残していた場合は、原則としてその内容が優先されます。相続人同士で遺産分割協議を行う必要もなく、遺言書の内容に従って相続すれば問題ありません。

ここでは、「夫が死亡した際に誰が家を相続するのか」という基本的な仕組みについて解説していきます。

家の相続人は法定相続人で決まるのが原則

夫が死亡した場合、家を相続できる人は法律で定められた法定相続人で決まるのが原則となります。

法定相続人とは、民法上、被相続人(死亡した夫)の財産を相続する権利を持つ人のことで、範囲は配偶者と血族に限定されています。これは、民法において以下のように定められています。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。
引用元:民法|e-Gov

配偶者は常に相続人となりますが、事実婚の相手や元配偶者は法定相続人には含まれません。配偶者と同時に相続する人には、以下のような順位が定められています。

  • 第1順位:子ども(死亡している場合は孫)
  • 第2順位:両親(死亡している場合は祖父母)
  • 第3順位:兄弟姉妹(死亡している場合は甥姪)

夫が死亡して家を相続する際には、まず誰が法定相続人になるのかを確認するところから始めます。夫の出生から死亡までの戸籍をすべて取得し、法定相続人を洗い出しましょう。

なお、家の名義人である夫が死亡したときは、居住している家族が安定して暮らせるよう、妻や子どもが家を相続するのが基本です。

子どもがいなければ夫の両親や兄弟姉妹が相続権を持つことになりますが、遺産分割協議で「家は妻が取得し、その他の財産を法定相続分に従って分ける」という内容に全員が合意すれば問題ありません。

ただし、主な遺産が家しか残されていない場合、家を誰が取得するかについて意見が分かれることもあります。そのような場合は「配偶者居住権」を取得することで、被相続人(夫)の配偶者はそのまま家に住み続けることが可能です。

配偶者居住権とは、夫名義の家に住んでいた場合に、相続で家の所有権を別の相続人が取得したとしても、家賃を支払うことなく配偶者がその家に住み続けられる権利のことです。

仮に家の所有権の一部を両親や兄弟姉妹が取得することになったとしても、配偶者居住権さえ取得すれば、住む家を失うことはありません。そのため、遺産分割協議で家の相続について揉めてしまったときは、配偶者居住権を取得する方向で動きましょう。

なお、配偶者居住権についての詳細は「配偶者居住権を利用すれば相続せずに死亡した夫名義の家に居住できる」の項目で詳しく解説しているため、あわせて参考にしてみてください。

夫の遺言書がある場合はその内容が優先される

夫が死亡した場合、家の相続は法定相続人の順位に従いますが、有効な遺言書がある場合はその内容が優先されます。

遺言書に家を誰に相続させるかが明記されていれば、相続人同士で協議を行う必要はありません。たとえば、遺言書に「家は妻に相続させる」と記載されていれば、他の相続人の同意を得なくても妻が家を取得することが可能です。

遺言書は以下3つの種類があり、それぞれ作成方法や開封方法が異なります。

遺言書の種類 作成方法 開封方法
自筆証書遺言 遺言書の全文を被相続人が自筆で記載して作成する方法 家庭裁判所で検認が必要
公正証書遺言 公証人が遺言の内容を聞き取って作成する方法 家庭裁判所での検認は不要
秘密証書遺言 遺言の内容を秘密にし、公証人に存在のみを証明してもらう方法 家庭裁判所で検認が必要

自筆証書遺言や秘密証書遺言を勝手に開封すると、5万円以下の過料の対象となるため、必ず家庭裁判所で検認手続きを行いましょう。公正証書遺言は公証役場で作成されているため検認が不要となっており、検認をしなくても開封することが可能です。

なお、遺言書に従って家などの遺産を分ける場合には、「遺留分」の侵害について注意する必要があります。

たとえば、相続財産が家のみで、遺言書に「家は妻に相続させる」と記載されていたとします。妻以外の法定相続人は財産を一切受け取ることができず、本来の相続分を侵害されていることになります。

このような場合、遺産を受け取れなかった法定相続人には「遺留分」という最低限の取り分を請求する権利があります。もしも遺留分侵害額請求を受けた場合、家を取得した人は遺留分に相当する金銭、または家の所有権の一部を渡さなければなりません。

遺留分を請求する権利があるのは、第1順位の子どもと、第2順位である両親までです。第3順位である兄弟姉妹には、遺留分を請求する権利はありません。

このように、遺言書の内容は原則として優先されるものの、遺留分を侵害する可能性がある点には注意が必要です。生前に遺言書を書いてもらえそうな場合は、遺留分を侵害しないよう配慮した内容にしてもらいましょう。

夫が死亡した場合の家の相続シミュレーション

夫が死亡した場合、どのように家を相続するのかは、法定相続人や人数、残された財産などによって異なります。

ここでは、以下の3つのパターンに分け、夫が死亡した場合の家の相続をシミュレーションして紹介します。

  • 相続人が配偶者と子どもの2人の場合
  • 相続人が配偶者と夫の母の2人の場合
  • 相続人が配偶者と夫の兄弟の3人の場合

なお、シミュレーションでは法定相続分で分ける場合を想定していますが、遺産分割協議で合意が得られれば、法定相続分以外の割合で遺産を分けることも可能です。法定相続分に従って分ける場合のシミュレーションとして参考にしてみてください。

相続人が配偶者と子どもの2人の場合

夫が死亡し、相続人が妻と子どもの2人である場合、法定相続分は以下のようになります。

  • 妻:2分の1
  • 子:2分の1

たとえば、評価額4,000万円の家と現金1,000万円が残されており、遺産総額が5,000万円だったとします。法定相続分に従う場合、それぞれが取得すべき金額は以下のとおりです。

  • 妻:2,500万円
  • 子:2,500万円

家を妻が単独で相続するのであれば、妻は4,000万円相当の遺産を取得することになります。

この時点で、妻の取得額は本来の相続分(2,500万円)を超えているため、妻は子どもに対して不足分を代償金として支払うことになります。子どもは現金1,000万円を受け取り、残りの不足分1,500万円を妻から支払ってもらうことで、合計2,500万円を取得できます。

代償金の支払いが難しい場合、家の所有権を「妻2分の1、子ども2分の1」というように共有名義で取得する方法もあります。この場合、現金1,000万円は法定相続分に基づき、妻500万円、子ども500万円で分けることになります。

このように、相続人が妻と子どもの場合は、家とその他の財産のバランスを調整すれば公平に分配することが可能です。

相続人が配偶者と夫の母の2人の場合

夫が死亡し、子どもがいない場合、法定相続人は配偶者と夫の両親となります。

たとえば相続人が配偶者と夫の母の2人である場合、法定相続分は以下のようになります。

  • 妻:3分の2
  • 夫の母:3分の1

たとえば、評価額4,000万円の家と現金2,000万円が残されており、遺産総額が6,000万円だったとします。法定相続分に従う場合、それぞれが取得すべき金額は以下のとおりです。

  • 妻:4,000万円
  • 夫の母:2,000万円

家を妻が単独で相続する場合、妻は4,000万円分の遺産を取得することになります。この時点で、妻の取得額は本来の相続分(4,000万円)と一致するため、夫の母に対する代償金の支払いは不要です。

夫の母は現金2,000万円をそのまま取得することで、法定相続分どおりの相続となります。

もしも妻が現金の取得を希望する場合、夫の母と共有名義で家を相続するか、配偶者居住権を取得して遺産の取得額を下げるという方法があります。

たとえば、「妻が3分の2、夫の母が3分の1」という割合で家を共有すれば、現金2,000万円は法定相続分に従い、妻が約1,333万円、夫の母が約666万円に分ける形で調整できます。

ただし、家を共有名義にすると後からトラブルに発展する可能性があるため、義両親と同居しているなど特別な事情がない限り、妻の単独名義で取得するようにしましょう。

なお、配偶者居住権の計算は非常に複雑であるため、司法書士や弁護士などの専門家に依頼して遺産の分割方法について調整してもらうのがおすすめです。

相続人が配偶者と夫の兄弟の3人の場合

夫が死亡し、子どもも両親もいない場合、法定相続人は配偶者と夫の兄弟姉妹となります。

たとえば相続人が配偶者と夫の兄弟の3人である場合、法定相続分は以下のようになります。

  • 妻:4分の3
  • 夫の兄弟:4分の1(1人あたり8分の1)

評価額4,000万円の家と現金4,000万円が残されており、遺産総額が8,000万円だったとします。法定相続分に従う場合、それぞれが取得すべき金額は以下のとおりです。

  • 妻:6,000万円
  • 夫の兄弟:2,000万円(1人あたり1,000万円)

家を妻が単独で相続する場合、妻は4,000万円分の遺産を取得します。本来の相続分(6,000万円)には届かないため、妻は現金4,000万円のうち2,000万円を受け取ることで、合計6,000万円の取得額となり、法定相続分に一致します。

一方、夫の兄弟は現金4,000万円のうち2,000万円を取得することで、法定相続分どおりの相続となります。兄弟が2人なら、各1,000万円ずつ分ける形です。

なお、妻が現金を多めに受け取ることを希望する場合、一例として「妻4分の3、兄弟4分の1」のように家を共有する方法もあります。この場合、現金は妻3,000万円、兄弟1,000万円(1人あたり500万円)に分ける形で調整できます。

ただし、前述したとおり共有名義は後からトラブルを招く可能性があるため、夫の兄弟など関係性の薄い人が共有者になるのは避けることをおすすめします。できるだけ家は妻の単独名義で取得し、その他の財産で調整する形を目指しましょう。

住宅ローンが残っている場合に家の相続はどうなる?

夫が死亡した時点で住宅ローンが残っている場合、残債の返済義務は原則として相続人に引き継がれることになります。

ただし、住宅ローン契約時に団体信用生命保険に加入しているかどうかによって、返済義務の有無が異なります。

  • 団体信用生命保険に加入している:遺族に返済義務は原則ない
  • 団体信用生命保険に加入していない:返済義務が生じる

団体信用生命保険に加入している:遺族に返済義務は原則ない

団体信用生命保険とは、住宅ローン契約者が死亡した場合に、保険金でローン残高が完済される保険のことです。

団信とも呼ばれ、加入条件を満たしている場合には、住宅ローンの契約時の加入が必須となっているケースが多いものです。そのため、夫が死亡した際にはまず団信の加入有無を確認し、金融機関に連絡を取って必要書類などの案内を受けましょう。

ただし、団信に加入していたとしても、住宅ローンの契約内容や返済状況によっては、必ずしも返済が免除されるとは限りません。たとえば以下のようなケースでは、遺族に返済義務が残る可能性があります。

  • 住宅ローンの返済を延滞していた場合
  • 夫婦の共同で住宅ローンを組んでいる場合

多くの金融機関では、支払われた利息の一部を保険料として団信に充当しています。そのため、返済が滞ると保険料も支払われない状態となり、団信の契約自体が失効してしまうことがあります。契約が失効していると、契約者が死亡しても保険金は支払われず、ローンはそのまま残ってしまいます。

また、夫婦の共同名義で住宅ローンを組んでいた場合にも注意が必要です。共同名義の住宅ローンには「連帯保証」「連帯債務」「ペアローン」などの種類があり、それぞれ団信の扱いが異なります。

連帯保証や連帯債務では主債務者が死亡すればその分は完済されますが、連帯保証人や連帯債務者は団信の対象外となるため、その人が死亡しても返済は免除されません。ただし、金融機関によっては連帯債務者にも団信に加入できる商品があるため、契約書で確認してみましょう。

ペアローンの場合は、夫婦それぞれが別々にローン契約を結び、双方が団信に加入します。夫が死亡した際には夫のローンは完済されますが、妻のローンはそのまま残る仕組みとなっており、引き続き返済を続けなければなりません。

このように、団信に加入していても契約形態によって返済義務が残るケースがあるため、住宅ローンの契約内容を事前に確認しておくことが大切です。

団体信用生命保険に加入していない:返済義務が生じる

夫が団体信用生命保険に加入していなかった場合、住宅ローンの返済義務は相続人へ引き継がれるのが原則です。そのため、夫が遺した家に住み続ける場合、家を相続した人が返済義務を負うことになります。

しかし、妻の収入状況や家計の事情によっては、相続した住宅ローンの返済を続けることが難しいこともあります。そのような場合には、以下いずれかの対処法を検討することになります。

  • 金融機関に返済条件の見直しを相談する
  • 金利の低い住宅ローンへ借り換えをする
  • 家を売却して住宅ローンの返済に充てる

まずは金融機関に返済条件の見直しを相談し、返済期限の延長や毎月の返済額の軽減が可能かどうかを確認しましょう。金融機関の判断次第にはなりますが、返済条件が緩和されれば、そのまま家に住み続けることが可能です。

もしも条件変更が認められなかった場合、金利の低い住宅ローンへ借り換える方法があります。金利負担が下がれば毎月の返済額を抑えることができますが、借り換えには数十万円程度の諸費用がかかります。また、借り換え先の審査に通る必要があるため、すべての家庭が利用できるとは限りません。

上記2つの方法が取れない場合、家を売却して住宅ローンの返済に充てるという選択肢が考えられます。売却価格がローン残高を上回れば完済が可能なので、住み替えもスムーズに進められるでしょう。

夫が死亡した場合に家を相続するまでの流れ

夫が死亡した場合に、家を相続するまでの主な流れは以下が基本となります。

  1. 遺言書の有無を確認する
  2. 法定相続人を調査する
  3. 相続財産と金額を調査する
  4. 相続人全員で遺産分割協議を行う
  5. 遺産分割協議書を作成する
  6. 相続登記に必要な書類を取得する
  7. 法務局で相続登記を申請する
  8. 相続税申告を行って相続税を納付する

1.遺言書の有無を確認する

夫が死亡した場合、まず最初に遺言書があるかどうかの確認をしましょう。遺言書が残されている場合、原則としてその内容が優先されるため、遺産の分け方や相続する人を決定する前に遺言書の確認が必要です。

遺言書を探す際は、夫の机や棚、金庫、荷物、実家など心当たりのある場所を順番に確認していきます。見つからなければ、お住まいの地域にある公証役場に問い合わせ、遺言書を作成した履歴がないかを確認しましょう。

前述したとおり、遺言書には「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類があります。

自筆証書遺言や秘密証書遺言を開封する際には家庭裁判所での検認手続きを行う必要があるため、勝手に開封しないよう注意しておきましょう。公正証書遺言が見つかった場合は、検認手続きは不要です。

遺言書の有無を確認せずに相続を進めてしまうと、あとから遺言書があったことが発覚した際に、相続手続きがすべてやり直しになってしまいます。そのため、必ず遺言書の有無を確認してから次の手続きに進みましょう。

2.法定相続人を調査する

遺言書の有無が確認できたら、次に「誰が法定相続人にあたるのか」を明確にしていきます。

夫が死亡した場合、配偶者は常に相続人となり、同時に相続する人は「子ども」「夫の両親」「夫の兄弟姉妹」の順番で優先されます。ただし、元配偶者や事実婚のパートナーなどは相続人にはなりません。

法定相続人を確認するためには、夫の出生から死亡までの戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得します。戸籍謄本には、夫の婚姻歴や子どもの有無、過去に認知した子どもなど、相続人に関係する重要な情報が記載されており、相続手続きでは必須の書類です。

なお、夫の血縁関係を把握している場合でも、必ず戸籍謄本を取得して相続人を調査するようにしましょう。

弊社でも実際にあった事例ですが、「法定相続人が妻と子どもだけだと思っていたら、後から非嫡出子(婚外の子ども)がいたことが発覚した」というケースがあります。非嫡出子にも遺産を相続する権利があるため、後から存在が発覚すると相続手続きをやり直さなければなりません。

相続人調査の際には必ず戸籍謄本を取得し、法律上の相続人をすべて洗い出したうえで手続きを進めることが大切です。

3.相続財産と金額を調査する

相続人の調査が完了したら、次に相続財産と金額の調査を進めていきます。

相続人と同様、後から新たな財産が発覚すると相続手続きがやり直しになってしまうため、夫の通帳や証券会社の書類、保険証券、ローンの契約書類などを一つずつ丁寧に確認しましょう。

なお、相続財産には現金や家などのプラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も含まれます。代表的な財産の一覧は以下のとおりです。

プラスの財産 マイナスの財産
・預貯金
・家などの不動産
・有価証券
・生命保険の解約返戻金
・自動車
・貴金属
・家財道具
・住宅ローン
・借金
・未払いの税金
・損害賠償債務

財産の洗い出しが完了したら、次にそれぞれの財産の金額について確認していきます。

家など不動産の金額については、固定資産税評価額や実勢価格(時価)、地価公示価格などいくつかの評価基準が存在します。どの基準を採用するのかは、後の遺産分割協議で話し合って決めることになります。

たとえば、固定資産税評価額は、市区町村から毎年送付される「固定資産税評価証明書」で確認できます。実勢価格や地価公示価格は、国土交通省の「不動産情報ライブラリ」で地域ごとに掲載されています。

相続財産と金額の確認が完了したら、調査した内容を「財産目録」として取りまとめておきましょう。

4.相続人全員で遺産分割協議を行う

相続人と相続財産が確定したら、次に行うのが遺産分割協議です。遺産分割協議とは、法定相続人全員で集まり、「どの財産を・誰が・どのように相続するのか」を話し合う手続きのことです。

話し合いの方法には決まりはなく、対面だけでなく、電話やオンライン会議など相続人が参加しやすい方法で進めることができます。相続人が遠方に住んでいる場合などは、電話やオンライン会議を提案し、全員が参加できるよう日程を調整しましょう。

遺産分割協議そのものには期限はありませんが、相続放棄の手続きは相続開始から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があります。また、相続税の申告と納付は相続開始から10ヶ月以内です。

上記の期限を踏まえると、夫が死亡してから1〜3ヶ月以内に遺産分割協議を行い、内容を取りまとめておくのが望ましいでしょう。

5.遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議が完了した後は、取り決めた内容を「遺産分割協議書」に記載し、相続人全員が署名・捺印します。遺産分割協議書とは、協議で取り決めた内容に相続人全員が合意していることを証明するための書類です。

遺産分割協議書の形式に決まりはありませんが、以下の内容は必ず記載する必要があります。

  • 被相続人の氏名・死亡日・本籍地・最後の住所地
  • 相続人が合意したことを示す頭書
  • 相続財産と取得する人の氏名
  • 後から財産が発見された場合の分割方法
  • 後から協議で決めた内容を覆さないための清算条項
  • 相続全員の署名・捺印

相続財産については、銀行名や口座番号まで詳細に記載する必要があります。

家の場合は、土地の所在地・地番・地積、建物の構造や床面積などの記載が必要です。家の詳細な情報を確認するためには、法務局で登記簿謄本(登記事項証明書)を取り寄せましょう。窓口のほか、郵送やインターネットで取得することが可能です。

遺産分割協議書は、パソコンか手書きのいずれかで作成します。手書きの場合は、改ざんを防ぐためにボールペンを使用しましょう。自分で作成することも可能ですが、内容に不備がないか不安な場合は、司法書士に作成を代行してもらうのがおすすめです。

遺産分割協議書を作成した後は、原則として後からその内容を覆すことはできません。一度合意した後に協議の内容を変更する場合、相続人全員の合意を得たうえで再度話し合う必要があります。

そのため、遺産分割協議書を作成する際には、内容に問題がないかをあらためて確認してから署名・捺印をするようにしましょう。

なお、家を共有名義で相続する場合の遺産分割協議書の書き方については、以下の記事で詳しく解説しているため、あわせて参考にしてみてください。

6.相続登記に必要な書類を取得する

遺産分割協議が完了したら、夫の家を相続する人は相続登記(名義変更)の手続きを進める必要があります。まずは相続登記に必要な以下の書類を集めましょう。

必要書類 取得先
登記申請書 法務局の窓口または公式サイト
夫の戸籍全部事項証明書 本籍地の市区町村
夫の住民票の除票または戸籍の附票 住民票の除票:住所地の市区町村
戸籍の扶養:本籍地の市区町村
相続人全員の戸籍謄本 本籍地の市区町村
相続人全員の印鑑証明書 住所地の市区町村
家を取得する人の住民票 住所地の市区町村
固定資産課税明細書 毎年4月頃に市区町村が送付
遺産分割協議書 相続人が作成
遺言書 被相続人が作成
相続関係説明図 相続人が作成

遺言に従って相続する場合は遺言書、遺産分割協議に基づいて相続する場合は遺産分割協議書が必要となります。なお、印鑑証明書は遺産分割協議書の印鑑と照合するために用いられるため、遺言書に従って相続する場合は必要ありません。

固定資産課税明細書は毎年4月頃に送付されるものですが、紛失してしまった場合は、市区町村の窓口で「固定資産評価証明書」を再発行してもらうことが可能です。固定資産評価証明書を取得できるのは相続人や代理人などに限定され、身分証明書や戸籍謄本などを提出する必要があります。

必要書類がすべて揃ったら、次に相続登記の手続きに進みます。

参照:相続による所有権の登記の申請に必要な書類とその入手先等|法務局

7.法務局で相続登記を申請する

次に、法務局で相続登記を申請し、夫の家の名義を相続人へ変更します。

申請方法は法務局の窓口のほか、郵送やオンラインにも対応しています。オンライン申請を行う場合は、マイナンバーカード(通知カード不可)やICカードリーダライタが必要になります。

相続登記の申請について不安がある場合、法務局の窓口で提出し、不備がないかを対面でチェックしてもらう方法がおすすめです。明らかな不備がある場合は、その場で何を訂正すれば良いのかを教えてもらえます。

なお、家の相続登記をしないまま放置すると、相続人の世代交代によって権利関係が複雑化するおそれがあります。また、名義が夫のままになっていると、家が不要になった際、売却や賃貸などの手続きを進めることができません。

さらに、令和6年4月1日からは相続登記が義務化されており、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内、または遺産分割協議が成立した日から3年以内に登記を済ませる必要があります。

正当な理由なく期限を過ぎた場合は、10万円以下の過料の対象となるため注意が必要です。

このように、相続登記を放置するとさまざまなリスクが生じるため、家の相続についての話し合いがまとまったら、速やかに手続きを行いましょう。

8.相続税申告を行って相続税を納付する

相続登記が済んだら、最後に相続税の申告と納付を行います。

まずは遺産総額が「基礎控除額」を超えているかどうかを確認しましょう。詳しい計算方法は「夫が死亡して家を相続する場合にかかる税金」で解説しますが、遺産総額が基礎控除額より少ない場合は相続税が発生せず、申告手続きも不要です。

遺産総額が基礎控除額を超える場合は相続税申告が必要となるため、税務署へ必要書類を提出して相続税を納付します。夫の家を相続した場合の相続税申告で必要な書類は以下のとおりです。

  • マイナンバー確認書類(マイナンバーカードや通知カードなど)
  • 身分証明書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
  • 夫の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 夫の戸籍の附票または住民票の除票
  • 相続人の戸籍謄本および印鑑証明書
  • 相続人の住民票または戸籍の附票
  • 遺言書または遺産分割協議書
  • 固定資産税明細書
  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 地積測量図または公図の写し

相続税の申告期限は、夫が死亡した日の翌日から10ヶ月以内です。納付も申告と同時に行う必要があり、現金での一括納付が原則となります。

納税額が大きい場合は、延納で分割払いをする方法もありますが、手続きが複雑になるため、必要に応じて税理士に相談するようにしましょう。相続税の申告・納付は期限を過ぎると延滞税が発生するため、早めに準備を進めておくことが大切です。

夫が死亡して家を相続する場合にかかる税金

夫が死亡して家を相続する際には、以下3つの税金が発生します。事前にどの程度の税金がかかるのかを確認しておき、早めに納税資金を用意しておきましょう。

税金 課税のタイミング 税率
相続税 家などの遺産を相続したとき 10%~55%
登録免許税 法務局で相続登記の申請するとき 固定資産税評価額の0.4%
不動産取得税 相続人以外の人が不動産を取得したとき 固定資産税評価額の4%
(軽減税率:3%)

相続税

相続税とは、夫が死亡して家や現金などの財産を相続したとき、一定額を超える遺産を取得した場合に課される税金です。

相続すれば必ず課税されるわけではなく、相続財産の合計額が基礎控除額を超えたときだけ相続税が発生します。基礎控除額は以下の計算式で求められます。

基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

たとえば、相続人が妻と子ども2人で合計3人の場合、「3,000万円+(600万円×3人)」で基礎控除額は4,800万円となります。家の評価額と預貯金などを合わせた遺産総額が4,800万円以下であれば相続税はかからず、原則として相続税申告も必要ありません。

相続税が発生しそうな場合は、まず家を含む遺産の課税価格がいくらなのか、以下の計算式で算出します。

課税価格=遺産総額-非課税財産-マイナスの財産-葬儀費用

非課税財産とは墓地や墓石、仏壇など、マイナスの財産とは借金や住宅ローン(団信未加入の場合)などが該当します。これらを課税価格から差し引くことで、相続税の負担を減らすことができます。

課税価格を計算したら、次に基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を求めます。最後に、課税遺産総額を相続人ごとに分け、取得金額に応じて以下の税率をかけ、相続税額を計算する流れになります。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

参照:相続税の税率|国税庁

相続税のシミュレーション

相続税が実際にどの程度発生するのか、以下の事例をもとにシミュレーションを行いました。

  • 相続人:妻と子ども2人(合計3人)
  • 家の評価額:3,000万円
  • その他の財産:2,000万円
  • 非課税財産:50万円
  • マイナスの財産:200万円
  • 葬儀費用:150万円

まずは以下の計算式で基礎控除額を算出します。

基礎控除額:3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円

次に、以下の計算式で課税価格を算出し、先ほど計算した基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を求めます。

課税価格:6,000万円(遺産総額)−50万円(非課税財産)−200万円(マイナスの財産)−150万円(葬儀費用)=5,600万円
課税遺産総額:5,600万円−4,800万円=800万円

法定相続分に従って遺産を取得する場合、妻は400万円、子ども2人はそれぞれ200万円に対して相続税が発生することになります。最後に、各相続人の法定相続分に税率をかけて相続税を算出します。

妻:400万円×10%=40万円
子ども:200万円×10%=20万円(1人あたり)

今回のシミュレーションでは、妻が40万円、子ども1人あたり20万円の相続税を負担するという結果になりました。

相続税は超過累進課税であるため、遺産の取得金額が多くなるほど税率も高くなり、納税額も高額になってしまいます。

とくに、都心部や人気エリアの家は評価額が上がりやすく、税負担も重くなる傾向にあります。あらかじめ相続税がどの程度になるのかを計算しておき、納税資金を準備しておきましょう。

登録免許税

登録免許税とは、夫が死亡して家を相続した際に、名義を相続人へ変更するための相続登記を行うときに発生する税金です。家や土地などの不動産を相続するときには、必ず登録免許税を支払ったうえで相続登記の申請を行います。

相続による名義変更の場合、登録免許税は以下の計算式で求められます。

登録免許税=不動産の固定資産税評価額 × 0.4%

たとえば、家の固定資産税評価額が2,000万円で、妻が単独で相続するケースを想定すると、登録免許税は以下のように計算できます。

2,000万円 × 0.4%=8万円

今回のケースの場合は、8万円の登録免許税を納付したうえで、相続登記の申請を行うことになります。

登録免許税は原則として現金による一括納付で行い、金融機関で支払った領収書を登記申請書に添付する必要があります。なお、オンラインで相続登記を申請する場合、電子納付が可能です。

家の評価額によって納税額が大きく変わるため、相続登記を行う前に固定資産税評価証明書で金額を確認し、必要な資金をあらかじめ準備しておきましょう。

参照:登録免許税の税額表|法務局

不動産取得税

不動産取得税とは、家や土地を購入したり誰かから贈与を受けたりした際に、その不動産を取得した人に課される税金です。

夫が死亡し、妻などの相続人が家を取得する場合には、不動産取得税はかかりません。相続は「本人が自由意思で不動産を取得したわけではない」と考えられており、課税対象外として扱われるためです。

ただし、夫の遺言によって相続人ではない第三者が家を取得するケースでは、不動産取得税が発生します。

たとえば、妻と子どもが相続人の場合に、夫の遺言書に「家は母に譲る」と書かれていたとします。この場合、不動産の取得は相続ではなく遺贈(贈与)とみなされ、夫の母は不動産取得税を支払わなければなりません。

不動産取得税の計算方法は以下のとおりです。

不動産取得税=固定資産税評価× 税率

固定資産税評価額は、毎年市区町村から送付される「固定資産税の課税明細書」で確認できます。

不動産取得税の標準税率は4%ですが、平成20年4月1日から令和9年3月31日の間に取得した不動産については、以下の軽減税率が適用されます。

不動産の種類 税率
土地 3%
家屋(住宅) 3%
家屋(住宅以外) 4%

不動産取得税を納付する際は、まずお住まいの地域にある税事務所に申告を行います。その後、都道府県から納付書が送付されてくるので、記載されている納付方法に従って不動産取得税を一括で納めます。

不動産取得税のシミュレーション

不動産取得税が実際にどの程度発生するのか、以下の事例をもとにシミュレーションを行いました。

  • 相続人:妻と子ども
  • 家の取得者:夫の母
  • 家の固定資産税評価額:2,000万円
  • 税率:3%(軽減税率)

このようなケースの場合、夫の母は相続人には当たらないため、不動産取得税を支払う必要があります。不動産取得税の計算式は以下のとおりです。

2,000万円×3%=60万円

今回のシミュレーションでは、夫の母が60万円の不動産取得税を負担するという結果になりました。相続人以外の人が家を相続すると、多額の税負担が発生する点には注意が必要です。

夫が死亡した際に家の相続による税金を軽減できる制度

夫が死亡した際、家の相続によって多額の税負担が発生するケースがあります。そのような場合でも住居を失うことがないよう、以下のような特例が用意されています。

  • 小規模宅地等の特例
  • 相続財産譲渡時の取得費の特例
  • 相続空き家の3000万円特別控除
  • 配偶者の相続税額の軽減

小規模宅地等の特例

夫が死亡して家を相続する場合、一定の条件を満たすことで「小規模宅地等の特例」を利用できます。

小規模宅地等の特例は、家の土地(自宅敷地)について相続税の計算に用いる評価額を大幅に減額できる制度であり、土地を相続する方の大半が適用しています。

具体的には、夫が亡くなる直前まで居住していた家の土地を相続した場合、最大330㎡までの部分について土地の評価額を80%減額できます。

たとえば、家の土地の評価額が3,000万円、面積が330㎡以内で、妻が相続するケースを考えてみましょう。この場合、小規模宅地等の特例の特例が適用されれば、土地の評価額は以下のようになります。

3,000万円 ×(1−80%)=600万円

土地の相続税評価額が600万円にまで圧縮され、相続税の課税対象額が大きく減額されることがわかります。相続税の大幅な節税につながるため、夫の家とあわせて土地を相続する際には、小規模宅地の特例の適用可否を必ず確認しましょう。

参照:相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

相続財産譲渡時の取得費の特例

夫が死亡し、妻や子どもが夫名義の家を相続した後、その家を売却する場合には「相続財産譲渡時の取得費の特例」が適用できる可能性があります。

家を売却して利益が出た場合には、譲渡所得税という税金が発生します。通常、家や土地を売却したときの譲渡所得は、売却価格から取得費や譲渡費用を差し引いて計算します。取得費は家の購入費用、譲渡費用は家の売却にかかった費用のことです。

相続財産譲渡時の取得費の特例が適用されれば、譲渡所得税を計算する際に相続税の一部を取得費として加算できるため、結果的に譲渡所得税を抑えられます。

相続財産譲渡時の取得費の特例の適用条件は以下のとおりです。

  • 相続または遺贈によって家を取得している
  • 取得した家に相続税が課されている
  • 相続開始日の翌日から相続税の申告期限(10か月後)の翌日以後3年以内に、家を売却している

なお、取得費として加算できるのは相続税の全額ではありません。取得費に加算できる税額は以下の計算式で求めます。

取得費加算額=相続税額 ×(売却する家の相続税評価額 ÷ 相続人の課税価格)

たとえば、相続税の課税価格が4,000万円、家の相続税評価額が2,000万円で、500万円の相続税を納付したケースを想定します。この場合、取得費加算額は以下のように計算できます。

500万円 ×(2,000万円 ÷ 4,000万円)=250万円

つまり、譲渡所得税の計算において、夫の家の取得費として250万円を上乗せできることになります。

家の相続で相続税の支払いが発生し、かつ相続した家の売却を検討している場合は、相続財産譲渡時の取得費の特例を適用して譲渡所得税の負担を軽減しましょう。

参照:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例|国税庁

相続空き家の3000万円特別控除

夫が死亡した後、夫名義の空き家を相続して売却した場合には、「相続空き家の3000万円特別控除(被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例)」が適用できる可能性があります。

特例が適用されれば、家の売却で発生した譲渡所得から最大3,000万円を控除でき、譲渡所得税を大幅に減らすことが可能です。

相続空き家の3000万円特別控除が適用されるのは、夫が生前に一人で暮らしていた自宅を相続し、その家や敷地を売却する場合です。ただし、すべての空き家が対象になるわけではなく、以下の要件を満たす必要があります。

  • 昭和56年5月31日以前に建てられた家屋であること(マンションは対象外)
  • 相続開始の直前に、夫以外に住んでいる人がいなかったこと
  • 売却先が親族など特別な関係者ではないこと
  • 相続後、家を事業や賃貸などに使っていないこと
  • 売却価格が1億円以下であること
  • 相続の開始から3年を経過する年の12月31日までに売却が完了していること

上記の条件を満たせば、家の売却で発生した譲渡所得から最大3,000万円まで控除できます。ただし、令和6年1月以降の売却で相続人が3人以上いる場合は、控除額が2,000万円に下がる点に注意が必要です。

たとえば、夫名義の家と土地を相続した後に売却し、2,800万円の売却益(譲渡所得)が生じたケースを想定します。特定の適用要件を満たしていれば、2,800万円の売却益は3,000万円の控除枠内に収まるため、課税される所得は0円になります。

相続空き家の3000万円特別控除を適用すれば、譲渡所得税を大幅に減額できるため、夫が一人で住んでいた家を売却する場合は適用可否を確認してみてください。

参照:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例|国税庁

配偶者の相続税額の軽減

夫が亡くなり、妻が家や預貯金などの遺産を相続する場合には、「配偶者の相続税額の軽減」という特例を利用できます。

配偶者の相続税額の軽減は、妻が実際に取得した遺産額が以下のどちらか多い方までであれば、相続税が発生しないというものです。

  • 1億6,000万円まで
  • 妻の法定相続分に相当する金額まで

つまり、妻が相続する家や財産の取得金額が大きい場合でも、一定の範囲内であれば相続税がかからない可能性があります。

たとえば妻が相続する家や財産の総額が1億6,000万円以下であれば、相続税はかかりません。1億6,000万円を超えていたとしても、法定相続分の範囲内で相続するのであれば相続税は発生せず、税負担を大幅に抑えられます。

ただし、配偶者の相続税額の軽減は、実際に妻が取得した遺産をもとに計算されます。相続税の申告期限(夫の死後10か月以内)までに遺産分割が終わっていない財産は、原則として軽減の対象外となるため、注意が必要です。

配偶者の相続税額の軽減を受けるためには、相続税の申告書に「妻がどの財産を取得したかわかる書類(遺産分割協議書や遺言書)」を添えて提出します。

なお、相続税の申告後に遺産分割が成立した場合は、成立日の翌日から4か月以内に更正の請求を行うことで軽減を適用できます。

参照:配偶者の税額の軽減|国税庁

夫が死亡して家を相続する際のトラブル事例

相続や訳あり物件の買取を専門とする弊社では、夫が死亡して家を相続する際にトラブルが発生したというご相談をいただくことがあります。ここでは、弊社に寄せられた以下のトラブル事例について紹介します。

  • 義理の母と相続割合をめぐって揉めた事例
  • 再婚家庭で前妻の子との間で相続手続きが進まなかった事例
  • 住宅ローンが残り生活が立ち行かなくなった事例
  • 子どもとの共有名義になり意見が対立した事例
  • 相続登記を放置したことで相続人が増えた事例

義理の母と相続割合をめぐって揉めた事例

義理の母と相続割合の認識が食い違い、名義変更が進まなかった事例です。

妻であるご相談者様が住んでいた家は夫の単独名義となっていましたが、法定相続人には奥様と義母が含まれており、義母は「家の半分は私の取り分」と強く主張していました。
そのため遺産分割の話し合いが進まず、相続登記の期限も迫る中で奥様は精神的にも追い詰められていました。
ご相談者は早めに不動産を整理して生活を立て直したい一方、義母は自身の相続分を確保したいとの考えから譲らず、協議は長期化してしまいます。
そこで当社が間に入り、双方の意向を確認しながら調整を進めた結果、義母が持つ相続分を一括で買い取る形で決着しました。奥様と義母の双方が納得できる形で手続きが完了し、無事に売却まで進めることができました。

夫の両親など、義理の親族が相続人に含まれるケースでは、相続割合の認識がずれてしまい、協議がまとまらないことがあります。

法定相続分については、司法書士や弁護士などを介して説明してもらうと、関係性の薄い相続人からの納得も得やすくなります。また、売却を検討している場合には、司法書士や弁護士などと連携している不動産会社に相談しましょう。

再婚家庭で前妻の子との間で相続手続きが進まなかった事例

再婚家庭で前妻の子どもも相続人となり、連絡が取れず相続が滞った事例です。

ご相談者様は、夫が再婚で前妻との間に子どもがいる奥様でした。
夫が亡くなり家の相続登記を進めようとした際、前妻の子も法定相続人として相続に関わる必要があることがわかりました。しかし、夫の前妻とは疎遠になっており連絡先もわからず、協議がまったく進まない状況に陥ってしまいます。
ご相談者様だけでは解決が難しいため、まずは当社連携の士業を紹介。相続人調査から前妻の子どもへ正式な連絡ルートを確保するまで、連携する司法書士がサポートしました。
そのうえで丁寧に意向を確認し、持分を当社が買い取る形で整理する方法をご提案しました。結果として奥様は争いを避けながら家を引き継ぐことができ、相続手続きも無事に完了しました。

再婚家庭では、疎遠になった前配偶者の子どもが相続人に含まれるため、連絡が取れないことが大きな障害になります。相続人調査を自力で進めるのは難しい部分もあるため、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。

住宅ローンが残り生活が立ち行かなくなった事例

住宅ローンが残ったまま夫が亡くなり、返済が続いて生活が困窮した事例です。

夫の急逝後、家の住宅ローンが2,000万円以上残っていた奥様からのご相談でした。
ご相談者様は団体信用生命保険(団信)で完済されると思っていましたが、名義や健康告知の問題から適用されず、ローンが継続することになります。ご相談者様は収入が限られており、毎月の返済が困難な状況に陥ってしまいます。
返済の目途が立たないことから、弊社へご相談いただき、任意売却を進めるために必要な金融機関との日程調整や、手続きの流れについてのご案内を行い、弁護士と連携しながら売却手続きをサポートしました。

住宅ローンが残っている状態で相続が発生すると、今回のケースのように団信が適用できない場合もあり、遺族の負担が急激に増えることがあります。

返済が難しいと感じた場合は、債務整理を専門とする弁護士に相談のうえ、家を処分することも検討しましょう。自己破産や任意売却など、状況に応じた適切な方法を提案してもらえます。

子どもとの共有名義になり意見が対立した事例

共有名義で家を相続したことで、家の扱いをめぐって親子間で対立が生じた事例です。

夫の死後、家を奥様と2人の子どもが共有名義で相続することになりました。奥様はこれまでどおり住み続けたいと考えていましたが、子どもたちは将来の負担を懸念して売却を希望しました。
共有名義のままでは売却も管理も進まず、固定資産税や修繕費などの負担でも意見が対立してしまいます。双方の意向がすれ違い、話し合いがまとまらない状況でした。
そこで弊社が「共有持分の買い取り」という選択肢をご提案し、お子様2人には相場に基づいた買取価格をご提示しました。
そのうえでご家族の皆様と日程調整や手続きの段取りを進め、結果としてお子様の共有持分を弊社が買い取る形で共有状態が解消されました。

共有名義で家を相続すると、意見の違いによって対立が生まれる原因となってしまいます。

夫が死亡した後も家に住み続けたい場合は、できるだけ共有名義ではなく妻の単独名義で相続するようにしましょう。すでに共有名義で相続している場合、司法書士や専門の不動産会社などに相談し、共有名義を解消する方向で動くのがおすすめです。

相続登記を放置したことで相続人が増えた事例

相続登記をしないまま放置したことで、相続人が増えてしまい、家の扱いが複雑になってしまった事例です。

夫が亡くなられた後も名義を変更せず暮らしていた奥様からのご相談でした。
数年後に義母が亡くなったことで、ご主人の相続が義兄弟へと移り、家の相続人が2人から5人へ増えてしまいました。
相続人が増えたことで話し合いが進まず、名義が確定しないため売却も相続登記も進まない状態でした。

弊社では、提携する司法書士と連携しながら相続関係の確認や手続きに必要な情報整理を行いつつ、相続人の皆様へ順番に連絡を取り、売却に向けた日程調整や手続きの流れをご案内しました。

その結果、相続人全員が売却に同意され、最終的には当社が全員の共有持分を一括して買い取ることで、複雑化していた共有問題の解消に至りました。

相続登記を放置してしまうと、相続人が世代をまたいで増えていき、手続きが複雑化してしまいます。今回のケースでは夫の兄弟へ相続が引き継がれましたが、仮に兄弟も死亡していた場合、甥や姪が代襲相続をするため、さらに手続きが困難になります。

夫が死亡して家を引き継ぐ場合は問題を放置せず、速やかに相続人同士で話し合って相続登記の手続きを進めましょう。手続きに不安がある場合は、司法書士に相続登記を代行してもらうとスムーズに進みます。

配偶者居住権を利用すれば相続せずに死亡した夫名義の家に居住できる

配偶者居住権とは、夫が死亡した後も、妻が夫名義の家に無償で住み続けられるようにするための制度です。

家の所有権を相続しなくても、居住する権利を確保できるため、住まいを失うリスクを避けられる点が大きな特徴です。長期(終身)と短期の2種類があり、短期の場合は6ヶ月間、長期の場合は妻が亡くなるまで無償で居住できます。

配偶者居住権は、令和2年4月から導入された新しい制度で、夫婦の一方が亡くなった際、残された配偶者の住まいを守る目的で設けられました。また、>配偶者居住権は評価額が低く算定されるため、妻が現金など他の財産をより多く受け取りやすくなるというメリットもあります。</span

配偶者居住権を利用するには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  • 残された妻が法律上の配偶者であること
  • 夫が亡くなった時点で、妻がその家に実際に住んでいたこと
  • 遺産分割協議・遺言・死因贈与・家庭裁判所の審判のいずれかで居住権を取得すること

上記の条件がそろうと、妻は所有権を持たなくても住み続けることができます。

なお、配偶者居住権は所有権とは異なるため、妻が家を自由に売ったり貸したりすることはできません。リフォームや増改築、賃貸などの利用変更を行う場合は、所有権者全員の承諾が必要になります。

また、夫が家を配偶者以外の人と共有していた場合、配偶者居住権は設定できません。

さらに、配偶者居住権を第三者に対して主張するためには、法務局での登記が必要です。登記は妻と家の所有者が共同で申請する必要があるため、所有者とは良好な関係を築く必要があります。

配偶者居住権を取得するためには専門知識も必要となるため、利用を検討する際は司法書士など専門家に相談しながら進めましょう。

参照:配偶者居住権とは|法務局

まとめ

夫が死亡した場合、残された家は法定相続人が相続することになります。妻(配偶者)は常に相続人となり、同時に相続する人は子ども・両親・兄弟姉妹の順で優先されます。

遺言書があれば原則としてその内容に従いますが、遺言書がないケースでは遺産分割協議で家をどのように相続するのかを話し合って決めることになります。家にそのまま住み続けたい場合は、基本的に妻の単独名義で相続する方向で調整するのがおすすめです。

もしも他の相続人が家の所有権を希望しており、話し合いが進まない場合には、配偶者居住権を取得することでそのまま家に住み続けることが可能です。

相続税を抑えられるメリットもあるため、司法書士や弁護士などの専門家にも相談しつつ、配偶者居住権の取得を検討してみてください。

弊社クランピーリアルエステートでは、相続不動産の取引実績を豊富に有しており、夫が死亡した場合の家の相続・売却に関するご相談もお受けしています。

司法書士や弁護士をはじめとする専門家と連携しており、相続登記や相続人間の話し合いが必要になる場面では、適切な士業をご紹介しながら手続きの流れをご案内します。法的な対応が必要な部分は提携士業が担当し、弊社は不動産の買取や売却までのサポートを行います。

家の相続や売却でお困りの方は、ぜひ弊社までお気軽にご相談ください。

よくある質問

夫が残した家に住宅ローンが残っている場合、相続放棄するとどうなりますか?

相続放棄をした場合、相続人としての地位を失うため、住宅ローンの返済義務もなくなります。ただし、妻が連帯保証人になっている場合は例外で、相続放棄をしても保証人として返済義務が残ります。
また、相続放棄は家だけでなく預貯金などすべての財産を放棄する扱いになるため注意が必要です。さらに、住宅ローンに団信が付帯しているケースでは、名義や告知内容によっては保険金で返済が完了することもあります。相続放棄をする前に、団信の加入状況も必ず確認しておきましょう。

夫の両親が相続人に入る場合、妻が優先的に家を取得する方法はありますか?

遺言書が残されており、「妻に家を相続させる」と記載されていれば、妻が家を優先的に取得できます。遺言書が残されていない場合、義両親を含めた相続人全員で遺産分割協議を行い、家を妻が引き継ぐことに同意してもらう必要があります。
もしも同意を得るのが難しい場合でも、条件を満たせば配偶者居住権を取得することで、所有権を持たずとも家に住み続けることができます。

こんな記事も読まれています