共有者全員持分全部移転とは?登記申請書の書き方や手続きの流れ

共有者全員持分全部移転とは、共有名義不動産について、共有者全員の持分すべてをまとめて移転する場面で使われる登記上の表現のことです。

たとえば、共有者全員で不動産全体を第三者へ売却する場合や、共有者全員の持分を特定の受贈者側へ贈与する場合などに使われます。

混同されやすい登記手続きとの違いは、移転する持分の範囲です。

所有権移転は、一般には不動産の所有権を別の人へ移す登記を指します。単独名義の不動産を移転する場面では「所有権移転」と整理されることが多い一方、共有名義不動産で共有者全員の持分を同じ原因・同じ日付で移す場合は、登記目的として「共有者全員持分全部移転」と記載されることがあります。

また、共有持分全部移転は、一部の共有者が自分の持分全部を移転する場面で使われます。これに対して、共有者全員持分全部移転は、共有者全員の持分全部をまとめて移転する点が特徴です。

ただし、共有者全員の持分を移転する内容であっても、常に共有者全員持分全部移転として整理できるとは限りません。実際に手続きを進める前に、少なくとも次の点を確認しておきましょう。

  • 共有者全員から同意を得ていること
  • 共有者全員が意思能力を有していること
  • 登記上の名義人が現在の権利関係と一致していること
  • 共有者全員の登記原因と原因日付が同じであること

もっとも、実務上はこれらの条件を問題なく満たせるケースばかりではありません。

実際には「共有者の一部が反対している」「共有者の判断能力が低下しており、有効な意思表示ができるか確認が必要になる」「相続登記が未了で現在の権利関係を整理できない」といった事情により、不動産全体の売却や名義整理に向けた準備が進まず、結果として登記手続きまでたどり着けないケースも少なくありません。

また、登記申請書を共有者全員持分全部移転として作成しても、実際には共有持分全部移転や別の登記として整理すべき内容であれば、法務局から補正を求められたり、申請内容の見直しが必要になったりする可能性があります。共有名義不動産では、誰の持分を、誰へ、どの原因で移転するのかを正確に整理することが重要です。

本記事では、共有者全員持分全部移転の意味や他の登記手続きとの違い、手続きの流れ、必要書類、登記申請書の書き方、費用などを解説します。

あわせて、共有名義・共有持分の買取業者である弊社に寄せられる相談事例や実務上の着眼点を踏まえ、手続きが止まりやすいケースや、共有者全員持分全部移転ができない場合の代替案もわかりやすく説明します。

※「共有者全員持分全部移転」は法律上の独立した制度名ではなく、共有名義不動産において、複数の共有者の持分を同じ登記原因・同じ原因日付でまとめて移転する場合に用いられる登記実務上の表現です。本記事では、共有者全員の持分すべてを移転する一般的なケースを中心に解説します。

目次

共有者全員持分全部移転とは共有者全員の持分すべてを一括で移転する登記手続き

共有者全員持分全部移転とは、共有名義不動産について、共有者全員がそれぞれの持分全部を、同じ登記原因・同じ原因日付で一括して移転する登記手続きです。一部の共有者だけが持分を移すのではなく、「全員の持分が一括で移転される」という点が大きな特徴です。

典型的なのは、共有者全員で不動産全体を第三者へ売却するケースです。

たとえば、兄弟3人で相続した土地全体を第三者へ売却する場合、兄弟3人それぞれの持分全部を、買主側へまとめて移転します。登記上は共有者全員の持分が一括で買主へ移るため、兄弟3人はその土地の共有者ではなくなります。買主が1人であれば、土地は買主の単独名義になります。

このように共有者全員で不動産全体を売却できれば、共有状態を一度に整理できます。ただし、不動産全体の売却には共有者全員の合意が必要なため、実務上は1人でも反対している、連絡が取れないといった事情があると手続きが進まないことがあります。

共有者全員持分全部移転と他の登記手続きの違い

共有者全員持分全部移転と混同されやすい登記手続きには、所有権移転・共有持分全部移転・持分一部移転があります。

それぞれの違いは、移転前が単独名義なのか共有名義なのか、どの権利・持分を移すのかで整理するとわかりやすいです。

登記の種類 移転前の名義 移転する権利・持分
共有者全員持分全部移転 共有名義 共有者全員の持分全部
所有権移転 単独名義 不動産全体の所有権
共有持分全部移転 共有名義 一部の共有者の持分全部
持分一部移転 共有名義 一部の共有者の持分の一部

これらの登記手続きは名称が似ているため、自分で登記申請書を作成する際に混同しやすい部分です。自分で登記申請をする場合は、「登記の目的」欄や申請書の記載内容を誤らないよう、それぞれの違いを確認しておきましょう。

所有権移転|単独名義の不動産を別の人へ移転する登記

所有権移転とは、単独名義の不動産の所有権を別の人へと移す登記です。

具体的には、次のようなケースが該当します。

  • Aさん単独名義の不動産を、Bさんへ売却する場合
  • Aさん単独名義の不動産を、Bさんへ贈与する場合
  • Aさん単独名義の不動産を、Bさんが相続する場合
  • Aさん単独名義の不動産を、Bさん・Cさんが相続して共有名義になる場合
  • Aさん単独名義の不動産を、離婚に伴う財産分与でBさんへ移す場合

実務上、混乱しやすいのが相続です。たとえば、親の単独名義だった不動産を子ども2人が相続し、相続後に子ども2人の共有名義になるケースもあります。この場合、相続後は共有名義になりますが、移転前の不動産は親の単独名義です。

そのため、移転前の登記名義が親の単独名義である場合は、共有者全員の持分全部を移す「共有者全員持分全部移転」ではなく、「所有権移転」として扱われます。

共有者全員持分全部移転との違いは、移転前の登記名義が共有名義なのか、単独名義なのかにあります。

共有持分全部移転|一部の共有者が持分全部を移転する登記

共有持分全部移転とは、共有者の一部が、自分の持分全部を別の人へ移す登記です。

具体的には、次のようなケースが該当します。

  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、Aさんが自分の持分全部を売却する場合
  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、Aさんが自分の持分全部を贈与する場合
  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、Aさんが亡くなり、Aさんが持っていた持分全部を相続人が取得する場合
  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、財産分与によりAさんの持分全部をBさんへ移転する場合

なお、共有持分全部移転では、他の共有者へ持分を移すケースもあれば、共有者ではない第三者へ移すケースもあります。

実務上、混乱しやすいのが「全部」という言葉です。共有持分全部移転の「全部」とは、不動産全体のことではなく、移転する共有者が持っている持分全部を指します。

たとえば、相続によって兄弟2人の共有名義になった不動産を2分の1ずつ共有している場合に、兄だけが自分の持分2分の1を第三者へ売却するとします。この場合、移転するのは兄が持っている持分全部だけであり、弟の持分は移転しません。

そのため、共有者全員の持分を移す「共有者全員持分全部移転」ではなく、兄の持分だけを移す「共有持分全部移転」として扱われます。

共有者全員持分全部移転と共有持分全部移転は、どちらも共有持分を移す登記ですが、共有者全員の持分全部を移すのか、一部の共有者の持分全部を移すのかが大きな違いです。

持分移転登記については、次の記事でも詳しく解説しています。

持分一部移転|共有者が持分の一部だけを移転する登記

持分一部移転とは、共有者が自分の持分のうち、一部だけを別の人へ移す登記です。

具体的には、次のようなケースが該当します。

  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、Aさんが自分の持分の一部を売却する場合
  • Aさん・Bさんの共有名義の不動産について、Aさんが自分の持分の一部を贈与する場合
  • Aさん・Bさんが夫婦共有名義の不動産について、財産分与によりAさんの持分の一部をBさんへ移転する場合

相続では、亡くなった共有者が持っていた持分全体が相続の対象になるのが通常です。そのため、持分一部移転の典型例としては、相続よりも、売買・贈与・財産分与などが挙げられます。

また、持分一部移転では、持分の移転先は他の共有者に限られず、共有者ではない第三者になることもあります。

実務上、混乱しやすいのが「一部」という言葉です。持分一部移転の「一部」とは、共有者が持っている持分のうち、一部の割合だけを移転することを指します。

たとえば、親子で共有している不動産について、親が将来的な名義整理を見据えて、自分の持分の一部だけを子どもへ贈与するケースがあります。この場合、親は持分の一部を移転しますが、残りの持分は引き続き親が保有します。

持分全部を移すわけではないため、登記としては「共有持分全部移転」ではなく、「持分一部移転」として扱われます。なお、親子間で持分を移す場合でも、贈与税などの税金が発生する可能性があるため、事前に税理士などへ確認しておくとよいでしょう。

共有者全員持分全部移転と持分一部移転は、どちらも共有持分に関する登記ですが、共有者全員の持分全部を一括で移すのか、一部の共有者の持分の一部だけを移すのかが大きな違いです。

持分一部移転については、次の記事も参考にしてみてください。

共有者全員持分全部移転が使われる主なケース

共有者全員持分全部移転は、共有者全員の持分を買主側・受贈者側へまとめて移転し、不動産全体の名義を変える場面で使われます。

具体的には、次のようなケースが該当します。

  • 共有者全員で不動産全体を第三者へ売却する場合
  • 共有者全員で不動産全体を第三者へ贈与する場合
  • 住宅ローンの返済が困難な共有名義不動産全体を任意売却する場合

実務上は、「共有者の1人に持分を集約するケース」と混同されることがあります。しかし、共有者全員持分全部移転は、共有者全員の持分すべてを、同じ登記原因・同じ原因日付で買主側・受贈者側へまとめて移転する場合に使われる登記です。

共有者の1人が他の共有者の持分すべてを取得する場合は、取得する共有者本人の持分は移転しません。そのため、誰の持分を誰へ移転するのかに応じて、登記目的を個別に整理する必要があります。

共有者全員で不動産全体を第三者へ売却する場合

共有者全員が同じ売買契約に基づいて不動産全体を第三者へ売却する場合は、共有者全員持分全部移転の登記が使われます。

共有名義の不動産全体は、共有者の1人だけの判断では売却できません。自分の共有持分のみを売却する場合とは異なり、不動産全体を売却するには、共有者全員が売主となり、それぞれの持分すべてを買主側へ移転する必要があります。

たとえば、兄弟2人で共有している実家を第三者へ売却する場合、兄弟2人全員が売買契約に合意し、それぞれの持分すべてを買主側へ移転します。共有者全員の持分が買主側へまとめて移るため、登記目的として「共有者全員持分全部移転」と整理されます。なお、買主は1人とは限らず、夫婦など複数人で取得するケースもあります。

ただし、実務上は、不動産全体の売却が必ずしもスムーズに進むとは限りません。売却価格だけでなく、売却代金の分け方や引き渡し時期、測量・残置物撤去などの負担について共有者間で認識がずれていると、契約直前で話が止まることもあります。

第三者へ不動産全体を売却する場合は、登記手続きだけでなく、売却条件についても事前に共有者全員で整理しておくことが重要です。

共有名義不動産の売却については、次の記事でも詳しく解説しています。

共有者全員で不動産全体を第三者へ贈与する場合

共有者全員で不動産全体を第三者へ贈与する場合にも、共有者全員持分全部移転の登記が使われます。

贈与の場合も、売買同様に、共有者全員がそれぞれの持分すべてを受贈者側へ移転することが前提です。ただし、贈与は受贈者の受諾によって成立する契約であるため、共有者全員の合意だけでなく、受贈者側が贈与を受けることに同意している必要があります。

たとえば、夫婦で共有している自宅を子どもに贈与する場合、夫婦それぞれが持っている持分すべてを子どもへ移転します。共有者全員の持分すべてが受贈者側へ移るため、登記目的として「共有者全員持分全部移転」と整理されます。なお、受贈者は1人とは限らず、子ども2人など複数人で取得するケースもあります。

ただし、無償で不動産を移転する贈与の場合、受贈者に贈与税や不動産取得税がかかる可能性があります。共有者全員が合意していても、税負担を確認しないまま進めると、後から想定外の費用が発生するおそれがあります。

実務上も、親族間で不動産を引き継がせる目的で贈与を検討するケースはあります。ただし、贈与では贈与税や不動産取得税が問題になりやすく、相続や売買とは税負担の出方が異なります。贈与によって共有名義を整理する場合は、登記手続きだけでなく、税務上の影響も事前に確認しておくことが重要です。

住宅ローンの返済が困難な共有名義不動産全体を任意売却する場合

住宅ローンの返済が困難となり、共有名義不動産全体を任意売却する場合にも、共有者全員持分全部移転の登記が使われることがあります。

任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなり、通常の売却ではローンを完済できない場合などに、金融機関や保証会社などと抵当権抹消の条件を調整したうえで不動産を売却する方法です。共有名義不動産全体を任意売却する場合は、共有者全員が売主となり、それぞれの持分すべてを買主側へ移転する必要があります。

たとえば、夫婦共有名義の自宅について住宅ローンの返済が困難となり、金融機関と調整したうえで第三者へ売却するケースが該当します。この場合、夫婦それぞれの持分が買主側へ移転するため、登記目的として「共有者全員持分全部移転」と整理されます。

ただし、任意売却では、共有者全員の合意だけでなく、住宅ローンを借りている金融機関との調整も必要になります。抵当権が設定されている不動産では、売却代金でローンを完済できるか、完済できない場合に抵当権を抹消してもらえるかなどを確認しなければなりません。

実務上も、共有者間では売却に合意していても、金融機関との条件調整や、売却後に残るローンを誰がどのように返済するかで手続きが止まるケースがあります。任意売却で共有名義不動産を売却する場合は、登記手続きだけでなく、ローン残債・抵当権抹消・売却後の返済条件まで含めて整理しておくことが重要です。

任意売却については、次の記事でも詳しく解説しています。

共有者全員持分全部移転を行うための前提条件

共有者全員持分全部移転は、共有者全員の持分すべてを買主側・受贈者側へまとめて移転する登記手続きです。

ただし、共有者全員が売却や贈与に合意していても、登記名義や契約内容が整っていなければ、そのまま手続きを進められないことがあります。

共有者全員持分全部移転を行う際は、少なくとも次の点を確認しておきましょう。

  • 共有者全員から同意を得ていること
  • 共有者全員が意思能力を有していること
  • 登記上の名義人が現在の権利関係と一致していること
  • 共有者全員の登記原因と原因日付が同じであること

実務では、他の登記手続きと混同され、そもそも共有者全員持分全部移転に該当しないケースもあります。まずは該当する手続きかどうかを確認し、誰の持分を、誰へ、どの原因で移転するのかを整理しておくことが重要です。

また、相続登記が未了の場合は、共有者全員持分全部移転の前に、現在の権利関係を登記に反映させる手続きが必要になることもあります。

ここでは、実務上つまずきやすいポイントも交えながら、共有者全員持分全部移転を行う前に確認すべき前提条件を整理します。

共有者全員から同意を得ていること

共有者全員持分全部移転を行うには、共有者全員の同意が必要です。

共有者全員持分全部移転は、共有名義不動産全体を売却・贈与する場面で使われる登記手続きです。不動産全体を売却・贈与する場合は、共有者全員が移転の内容に同意し、それぞれが自分の持分を買主側・受贈者側へ移転する必要があります。

共有者の1人は、自分の共有持分を単独で売却することはできますが、他の共有者の持分まで勝手に処分することはできません。そのため、不動産全体を第三者へ移転するには、共有者全員が売主または贈与者として手続きに関与することが前提になります。

なお、共有物に重要な変更を加える場面でも、民法第251条では他の共有者の同意が必要とされています。

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
引用元:民法|e-Gov 法令検索

不動産全体の処分や名義変更を進める場面では、こうした共有関係の制約を踏まえ、共有者全員の意思確認を行う必要があります。

もっとも、実務上は共有者全員の同意をそろえることは、言葉でいうほど簡単ではありません。実務でも、不動産全体の売却には賛成していても、売却価格・代金の分け方・引き渡し時期などで意見が分かれ、話し合いが止まっているケースがあります。

このような場合は、売却条件を共有者間で整理し、対立が強いときは弁護士へ、登記手続きの進め方に不安があるときは司法書士へ相談することも検討しましょう。

また、口頭の合意だけでは、契約直前に認識の違いが出るおそれがあるため、条件がまとまった段階で、価格・費用負担・引き渡し条件などを書面で残しておくことも重要です。

共有者全員が意思能力を有していること

共有者全員持分全部移転を行うには、共有者全員が売却や贈与の内容を理解し、自分の意思で判断できる状態であることが必要です。

意思能力を欠いた状態で行われた法律行為は、民法第3条の2においても無効になると定められています。

第三条の二 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは、その法律行為は、無効とする。
引用元:民法|e-Gov 法令検索

意思能力とは、売却や贈与によって自分の持分が移転すること、その結果として不動産に関する権利を失うことなどを理解し、判断できる能力をいいます。単に署名や押印ができるだけでは足りず、手続きの意味を理解しているかが問題になります。

たとえば、認知症や病気の影響で契約内容を理解することが難しい場合、有効な意思表示ができず、売却や贈与の手続きを進められない可能性があります。

ただし、認知症の診断があるだけで、必ず意思能力がないと判断されるわけではありません。共有者の判断能力に不安がある場合は、無理に署名や押印を進めず、司法書士や弁護士に相談し、成年後見制度の利用が必要かを確認しましょう。

共有者が認知症になった際の対処については、次の記事も参考にしてみてください。

登記上の名義人が現在の権利関係と一致していること

共有者全員持分全部移転を行うには、登記上の名義人と、実際に持分を移転する人が一致している必要があります。

つまり、売主や贈与者になる人が、登記簿上も共有者として記載されている状態でなければなりません。たとえば、親から相続した土地を相続人が売却する場合は、まず相続登記によって、亡くなった親名義から現在の相続人名義に変更されていることが前提になります。

登記上の名義人と現在の権利関係が一致していない典型例は、親や祖父母が亡くなった後も、不動産の名義がそのままになっているケースです。

亡くなっている人を売主や贈与者として共有者全員持分全部移転を行うことはできないため、まず相続登記によって現在の権利関係を登記に反映させる必要があります。相続人が複数いる場合は、戸籍の収集や遺産分割協議が必要になり、共有者全員持分全部移転に進むまで時間がかかることもあります。

また、相続登記が済んでいても、登記上の住所や氏名が現在の内容と異なる場合は注意が必要です。転居によって登記上の住所が古いままになっているケースや、結婚・離婚によって氏名が変わっているケースでは、住所変更登記や氏名変更登記が必要になります。

なお、住所・氏名などの変更登記は令和8年4月1日から義務化されており、所有権の登記名義人は、住所や氏名に変更があった日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。

令和8年4月1日より前に住所や氏名が変わっている場合も対象になるため、売却や贈与の直前だけでなく、登記上の住所・氏名が現在の内容と一致しているか早めに確認しておきましょう。

実務上も、登記簿上は親や祖父母の名義のままになっている、相続人が増えて誰が権利者なのか把握できていない、住所や氏名が昔のままになっているといったケースは珍しくありません。

共有者全員持分全部移転を進める前に、登記事項証明書を取得し、名義人・住所・氏名・持分割合が現在の権利関係と一致しているかを確認しておきましょう。

共有者全員の登記原因と原因日付が同じであること

共有者全員持分全部移転として登記するには、共有者全員の持分移転について、登記原因と原因日付がそろっている必要があります。

登記原因とは、売買・贈与など、持分を移転する理由のことです。たとえば、兄弟2人で共有している実家を買主側へ売却する場合、兄弟2人が同じ売買契約に基づき、同じ原因日付でそれぞれの持分すべてを移転するのであれば、共有者全員持分全部移転として登記できます。

一方で、共有者全員の持分が同じ取得者側へ移る場合でも、1人は売買、もう1人は贈与として移転する場合や、持分移転の日付が共有者ごとに異なる場合は、共有者全員持分全部移転としてまとめることはできません。

この場合は、共有者全員持分全部移転として一括で申請するのではなく、登記原因や原因日付ごとに分けて整理する必要があります。

そのため、登記前には、売買・贈与などの原因が混在していないか、契約日や持分移転の日付が共有者ごとに分かれていないかを確認しておくことが重要です。

共有者全員持分全部移転の手続きの流れ

共有者全員持分全部移転は、共有者全員の合意に基づき、全員の持分すべてを買主側・受贈者側へ移す登記手続きです。手続きの基本的な流れは、次のとおりです。

  1. 共有者全員で移転条件に合意する
  2. 必要書類を準備する
  3. 不動産所在地を管轄する法務局に申請する
  4. 登記完了後に登記事項証明書で内容を確認する

共有者全員持分全部移転の大まかな流れは上記のとおりですが、共有者全員の合意内容や必要書類が整っていないと、法務局から補正や追加書類の提出を求められることがあります。事前に全体の流れを把握し、どの段階で何を確認すべきか整理しておきましょう。

1.共有者全員で移転条件に合意する

共有者全員持分全部移転を行うには、まず共有者全員で移転条件に合意する必要があります。単に「売却する」「贈与する」と決めるだけでなく、誰の持分を、誰へ、どの原因で移転するのかを整理しておくことが重要です。

具体的には、次のような内容を確認しておきましょう。

  • 売買・贈与など、持分を移転する原因
  • 共有者全員の持分すべてを移転する内容になっているか
  • 買主側・受贈者側が誰になるのか
  • 売買代金や代金の分け方
  • 費用負担や引き渡し条件
  • 契約日や持分移転の日付

贈与の場合は、共有者側が贈与に合意しているだけでなく、受贈者側が贈与を受けることに同意しているかも確認しておきましょう。

また、共有者全員持分全部移転として登記するには、共有者全員の登記原因と原因日付がそろっていることも必要です。原因や日付が共有者ごとに異なる場合は、共有者全員持分全部移転としてまとめられないため注意が必要です。

実務では、移転条件が曖昧なまま進めたことで、必要書類を集めた後や契約書を作成する段階で、共有者間の認識違いが表面化することがあります。

契約書や登記書類の準備に進んだ後で認識の違いが出ないよう、価格・代金の分け方・引き渡し条件などは早い段階で具体的に決め、条件がまとまったら書面に残しておきましょう。

2.必要書類を準備する

移転条件がまとまったら、登記申請に必要な書類を準備します。詳しくは「共有者全員持分全部移転のために必要な書類」で解説しますが、共有者全員持分全部移転では、次のような書類が必要になります。

  • 登記申請書
  • 登記原因証明情報(売買契約書・贈与契約書など)
  • 登記識別情報
  • 印鑑証明書
  • 住所証明情報
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状

必要書類に不備があると、法務局から補正や追加提出を求められ、手続きが長引くことがあります。そのため、書類を準備する段階で、どの書類が必要になるのかを確認しておくことが重要です。

共有者全員持分全部移転では、登記申請書の作成や添付書類の確認が必要になるため、第三者への売買や抵当権が関係するケースでは、司法書士に依頼して進めることが一般的です。司法書士に依頼する場合は、案内に従って印鑑証明書や登記識別情報などを準備し、必要書類を提出する流れになります。

ただし、共有者が複数いる場合は、書類の取得や署名押印に時間がかかることもあります。司法書士に依頼する場合でも、余裕をもって準備を進めましょう。

3.不動産所在地を管轄する法務局に申請する

必要書類がそろったら、不動産所在地を管轄する法務局に登記申請を行います。

申請先は、所有者の住所地ではなく、対象となる不動産の所在地を管轄する法務局・登記所です。たとえば、所有者が東京に住んでいても、不動産が神奈川県にある場合は、その不動産所在地を管轄する法務局に申請します。

登記申請は、窓口への提出、郵送、オンライン申請によって行えます。ただし、オンライン申請には利用環境や電子署名などの準備が必要になります。

自分で申請する場合は、管轄法務局の登記手続案内を利用し、申請書の記載内容や添付書類に不足がないか確認しておくとよいでしょう。ただし、法務局の案内では個別の法律判断や契約内容の妥当性までは確認してもらえません。

申請書の作成や添付書類の判断に不安がある場合は、司法書士へ依頼すると進めやすくなります。共有者間の対立や契約条件をめぐって法的な判断が必要な場合は、弁護士への相談も検討しましょう。

4.登記完了後に登記事項証明書で内容を確認する

登記申請が受け付けられると、法務局で申請内容や添付書類の審査が行われます。

内容に問題がなければ、1〜2週間程度で登記が完了することもありますが、法務局の混雑状況や申請内容によってはさらに時間がかかる場合があります。管轄法務局の登記完了予定日も確認しておきましょう。

登記完了後は、登記事項証明書を取得し、名義人・持分割合・登記原因などが申請内容どおりに反映されているかを確認しましょう。

なお、登記完了後には登記識別情報も通知されますが、通知を受けるのは、新たに登記名義人となる買主側・受贈者側の申請人です。売主や贈与者として持分を移転した共有者に新しく発行されるものではないため、混同しないよう注意しましょう。

共有者全員持分全部移転で起こりやすい失敗と対処法

共有者全員持分全部移転は、自分で申請することも可能です。しかし、慣れない手続きの場合、申請前の準備や登記申請の段階で書類不備や確認漏れが見つかり、手続きが止まってしまうことがあります。

とくに、次のような点でつまずきやすいため、事前に確認しておきましょう。

  • 登記原因や日付が共有者ごとに異なり、別の登記手続きになる
  • 登記申請書と登記原因証明情報の内容が一致していない
  • 共有者が多い・遠方にいることで書類の回収や署名押印に不備が出る

法務局から補正や追加提出を求められると、完了までに時間がかかるだけでなく、共有者への再連絡や書類の再取得が必要になることもあります。

自分で申請すれば司法書士報酬を抑えられますが、共有者の人数が多い場合や、登記原因・必要書類の判断に不安がある場合は、司法書士へ依頼したほうが申請内容や添付書類を整理しやすいケースもあります。

実務上起こりやすい失敗を把握したうえで、自分で申請できそうか、司法書士に依頼すべきかを判断しましょう。

登記原因や原因日付が共有者ごとに異なり、別の登記手続きになる

共有者全員持分全部移転では、共有者全員の登記原因と原因日付がそろっていることが前提です。ところが実務では、共有者全員持分全部移転として申請するつもりで準備を進めていたものの、内容を確認すると別の登記手続きに該当するケースもあります。

たとえば、夫婦で共有している不動産を子どもへ移す場合に、夫は代金を受け取って持分を売却し、妻は無償で持分を贈与するとします。このケースでは、最終的に子どもへ持分が集約されるとしても、夫婦で登記原因が異なります。

そのため、共有者全員持分全部移転として一括で処理するのではなく、共有持分全部移転として共有者ごとに分けて整理する必要があります。登記申請上も、夫持分・妻持分のように、誰の持分を、どの原因で、いつ移転するのかを個別に確認しなければなりません。

登記申請書や登記原因証明情報を作成する段階で原因や日付の違いに気づくと、申請書や登記原因証明情報を作り直し、共有者ごとに手続きを分ける必要が生じることがあります。

登記をスムーズに進めるためにも、事前に契約書や登記原因証明情報の内容を確認し、売買・贈与などの原因が混在していないか、契約日や持分移転の日付が共有者ごとに分かれていないかを整理しておきましょう。

登記申請書と登記原因証明情報の内容が一致していない

共有者全員持分全部移転を自分で申請する場合、登記申請書と登記原因証明情報の内容が一致しておらず、法務局から補正を求められることがあります。

たとえば、夫婦で共有している不動産を子どもへ売却し、夫婦それぞれの持分すべてを子どもへ移転するケースを考えてみましょう。売買契約書では、契約日を2026年4月1日とし、「2026年4月30日の残代金の支払いと同時に所有権を移転する」と定めているとします。

この契約書の定めに従えば、登記原因の日付は、所有権が移転する2026年4月30日となるのが通常です。それにもかかわらず、登記申請書や登記原因証明情報に契約日である2026年4月1日を登記原因の日付として記載すると、契約書上の所有権移転日と登記書類の内容が一致しません。

同じように、登記原因、売主・買主などの当事者、移転する持分割合が書類ごとにずれている場合も、補正の対象になる可能性があります。

登記申請前に、登記申請書・登記原因証明情報・契約書などを見比べ、誰の持分を、誰へ、どの原因で、いつ移転するのかが一致しているかを確認しておくと、補正を防ぎやすくなります。

共有者が多い・遠方にいることで書類の回収や署名押印に不備が出る

共有者全員持分全部移転では、共有者全員分の署名押印や、印鑑証明書・委任状などの書類をそろえる必要があります。そのため、共有者の人数が多い場合や遠方に住んでいる共有者がいる場合は、想定よりも書類の回収に時間がかかることがあります。

たとえば、兄弟3人で共有している実家を売却するケースを考えてみましょう。1人が遠方に住んでいる場合、契約書や委任状を郵送でやり取りすることがあります。このとき、署名欄の記入漏れ、押印漏れ、印鑑証明書の同封漏れ・期限切れなどがあると、再度書類を送り直したり、印鑑証明書を取得し直したりする必要が生じます。

書類の不備に気づくのが登記申請の直前になると、共有者への再連絡や書類の再取得が必要になり、申請予定日が遅れることがあります。

対処法としては、書類を送る前に、記入する箇所・押印する箇所・同封する書類を共有者ごとに整理しておくことが大切です。郵送でやり取りする場合は、返信期限や返送方法もあわせて伝えておくと、書類の回収漏れを防ぎやすくなります。

書類の再送や押印確認が何度も発生しそうな場合は、自分だけで進めるよりも、司法書士に依頼して必要書類や押印箇所を確認してもらうほうが現実的なケースもあります。

共有者全員持分全部移転のために必要な書類

共有者全員持分全部移転では、登記申請書だけでなく、持分を移転する共有者の登記識別情報や印鑑証明書、新しく名義人になる人の住所証明情報などが必要になります。

一般的に必要となる書類は、次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 登記原因証明情報(売買契約書・贈与契約書など)
  • 登記識別情報
  • 印鑑証明書
  • 住所証明情報
  • 固定資産評価証明書
  • 委任状

弊社が共有名義不動産の買取を進めるなかでも、共有者間で売却の方向性はまとまっているものの、登記識別情報が見つからない、印鑑証明書の取得が遅れる、登記上の住所が現在の住所と異なるといった理由で手続きが止まるケースがあります。

また、相続登記や住所変更登記などが済んでいない場合は、共有者全員持分全部移転の前に別の登記手続きが必要になることもあるため、早い段階で司法書士に確認しておくとよいでしょう。

登記申請書

登記申請書とは、法務局に対して共有者全員持分全部移転の登記を申請するための書類です。

登記申請書の書式は、法務局の窓口で入手できるほか、法務局の公式サイトからダウンロードすることも可能です。

以下は、法務局が公開している登記申請書様式の一例です。


出典:不動産登記の申請書様式について|法務局

登記申請書には、登記の目的、登記原因、原因日付、権利者・義務者、課税価格、登録免許税などを記載します。

たとえば、売買で共有者全員の持分を第三者へ移転する場合と、贈与で特定の人へ持分を集約する場合では、記載内容が変わります。具体的な記載方法は、後述の「共有者全員持分全部移転の場合の登記申請書の書き方」で解説します。

共有者全員持分全部移転では、売買契約書・贈与契約書などの登記原因を示す書類や、登記事項証明書、固定資産評価証明書などを確認しながら登記申請書を作成します。

登記の目的・原因日付・権利者と義務者・課税価格・登録免許税の金額が資料とずれていると、法務局で補正を求められることがあります。そのため、申請書を作成する前に、記載の根拠となる書類をそろえておくことが大切です。

登記申請書の作成および申請は、本人が行うことも可能です。共有者が少ない親族間の贈与で、抵当権や住所変更、相続登記未了などの問題がなく、必要書類もそろっているケースでは、自分で申請を進める方もいます。

一方で、第三者への売買や買取業者への売却、住宅ローン・抵当権が関係するケースでは、契約や決済、抵当権抹消などの手続きとあわせて登記申請を進めることが多くなります。取引全体に影響する不備を避けるため、司法書士に登記申請書の作成から申請まで依頼するのが一般的です。

登記原因証明情報

登記原因証明情報とは、「どのような理由で持分を移転するのか」を法務局に示すための書類です。

共有者全員持分全部移転では、共有者全員で第三者へ売却する「売買」や、特定の人へ無償で持分を移す「贈与」が主な登記原因になります。

主に必要となる書類は、次のとおりです。

  • 売却する場合:売買契約書など
  • 贈与する場合:贈与契約書など

本人が申請する場合は、売買契約書や贈与契約書など、登記原因となる事実がわかる書類を用意するのが基本です。

ただし、契約書に「誰が・誰に・どの不動産の持分を・いつ移転したのか」が明確に書かれていない場合は、登記原因証明情報として使うために、登記用の書面を別途作成することがあります。

また、司法書士に依頼する場合は、契約書の内容をもとに、登記申請に必要な情報を整理した登記原因証明情報を作成することもあります。

ポイント

【相続や離婚をきっかけに名義を整理する場合】
相続人間の遺産分割や、離婚に伴う財産分与で不動産の名義を整理する場合は、共有者全員持分全部移転ではなく、別の登記目的や登記原因で申請することがあります。

たとえば、遺産分割では遺産分割協議書、財産分与では財産分与契約書や離婚協議書などが必要になるケースがあります。

売買・贈与とは必要書類や登記の流れが異なるため、相続や離婚をきっかけに名義を整理する場合は、自分のケースでどの登記手続きが必要になるのかを司法書士に確認するとよいでしょう。

売買契約書など売買を証明する書類

売買契約書とは、不動産の売買について、売主と買主が合意した内容をまとめた書類です。共有者全員持分全部移転では、共有者全員が売主となり、それぞれの持分全部を買主へ移転する内容を契約書に記載します。

売買契約書は法務局や自治体で取得するものではなく、売主・買主の合意内容をもとに作成する書類です。不動産会社の仲介で売却する場合や、買取業者へ売却する場合は、基本的に不動産会社が売買契約書を作成します。

一方で、親族間や知人同士で直接売買する場合は、自分たちで売買契約書を作成することも可能です。ただし、共有名義不動産の売買では、代金配分や登記への協力、引渡し条件などを明確にしておかないと、あとから共有者間で認識の違いが生じるおそれがあります。

そのため、個人間売買であっても、売買条件や契約書の内容は不動産会社などに確認し、登記に必要な記載や申請手続きについては司法書士に確認しながら進めるとよいでしょう。

共有名義不動産の売買では、売買代金の総額だけでなく、各共有者への代金配分、所有権移転の時期、固定資産税の清算、引渡しの条件なども整理しておく必要があります。ここが曖昧なままだと、登記の段階ではなく、決済や代金分配の段階で共有者間の認識違いが表面化することがあります。

たとえば、共有者2名が第三者へ不動産全体を売却する場合の売買契約書は、以下のような内容になります。

売買契約書

売主 山田太郎、佐藤花子(以下、あわせて「甲」という)と、買主 鈴木一郎(以下「乙」という)は、後記不動産の売買について、以下のとおり契約を締結する。

第1条(売買の合意)
甲は、甲らが共有する後記不動産の所有権全部を、各自の共有持分全部の移転により乙へ売り渡し、乙はこれを買い受ける。

第2条(売買代金および支払い)
売買代金は、金〇〇〇〇万円とする。
乙は甲に対し、本契約締結時に手付金として金〇〇万円を支払い、令和〇年〇月〇日までに残代金として金〇〇万円を支払う。
手付金は、残代金支払いの際に売買代金の一部に充当する。

第3条(所有権の移転および登記)
本件不動産の所有権は、乙が売買代金の全額を支払ったときに乙へ移転する。
甲は乙に対し、前項の代金受領と引き換えに、共有者全員持分全部移転登記の申請手続きに協力する。

第4条(引渡し)
甲は、乙から売買代金の全額を受領したときに、本件不動産を現状のまま乙へ引き渡す。

第5条(公租公課等の清算)
本件不動産にかかる固定資産税等の公租公課は、引渡日の前日までの分を甲、引渡日以降の分を乙が負担する。

第6条(代金の配分)
甲らの間における売買代金の配分は、各共有者の持分割合に応じて行う。ただし、甲らが別途合意した場合は、その合意に従う。

(物件の表示)
所在:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番:〇番〇
地目:宅地
地積:〇〇.〇〇平方メートル

以上のとおり契約が成立したため、本契約書を売主および買主の人数分作成し、各自署名押印のうえ、各1通を保有する。

令和〇年〇月〇日

売主(甲)
住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:山田太郎     印

住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:佐藤花子     印

買主(乙)
住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:鈴木一郎     印

贈与契約書など贈与を証明する書類

贈与契約書とは、贈与者が不動産の持分を無償で譲り、受贈者がそれを受け取ることに合意した内容をまとめる書類です。共有者全員持分全部移転では、共有者全員がそれぞれの持分全部を特定の人へ贈与するケースなどで作成します。

贈与契約書も、法務局や自治体で取得する書類ではなく、贈与者と受贈者の合意内容をもとに作成する書類です。親族間の贈与では自分たちで作成することもありますが、登記に使うためには「誰が・誰に・どの不動産のどの持分を・いつ贈与したのか」がわかる内容にしておく必要があります。

また、贈与では登記費用だけでなく、贈与税や不動産取得税が発生する可能性もあります。そのため、共有名義を贈与で整理する場合は、司法書士に登記書類を確認してもらい、税金については税理士にも相談しながら進めるとよいでしょう。

共有者2名がそれぞれの持分全部を1人に贈与する場合の贈与契約書は、以下のような内容になります。

贈与契約書

贈与者 山田太郎、佐藤花子(以下、あわせて「甲」という)と、受贈者 山田花子(以下「乙」という)は、後記不動産の共有持分の贈与について、以下のとおり契約を締結する。

第1条(贈与の合意)
甲は、甲らが共有する後記不動産について、各自の共有持分全部を乙に贈与し、乙はこれを承諾する。

第2条(対象となる持分)
甲らが乙に贈与する持分は、以下のとおりとする。

山田太郎 持分2分の1
佐藤花子 持分2分の1

第3条(所有権の移転および登記)
本件共有持分の所有権は、令和〇年〇月〇日に乙へ移転する。
甲は乙に対し、共有者全員持分全部移転登記の申請手続きに協力する。

第4条(登記費用等の負担)
本件登記に必要な登録免許税、司法書士報酬その他の費用は、乙の負担とする。ただし、甲乙が別途合意した場合は、その合意に従う。

第5条(公租公課の負担)
本件不動産にかかる固定資産税等の公租公課については、所有権移転日を基準として、甲乙協議のうえ清算する。

(物件の表示)
所在:〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番:〇番〇
地目:宅地
地積:〇〇.〇〇平方メートル

以上の合意が成立した証として、本契約書を甲乙の人数分作成し、各自署名押印のうえ、各1通を保有する。

令和〇年〇月〇日

贈与者(甲)
住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:山田太郎     印

住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:佐藤花子     印

受贈者(乙)
住所:〇〇県〇〇市〇〇町
氏名:山田花子     印

登記識別情報

登記識別情報とは、不動産の名義人となった際に法務局から通知される、本人確認のための情報です。以前の「登記済権利証」に代わるもので、登記申請の際に、現在の登記名義人本人からの申請であることを確認するために使用されます。

共有者全員持分全部移転では、共有者全員がそれぞれの持分を手放すため、原則として登記義務者となる共有者全員分の登記識別情報または登記済権利証が必要です。

登記識別情報通知のサンプルは、以下のとおりです。

登記識別情報通知の見本
出典:登記識別情報通知の見本|法務局

共有名義不動産では、共有者全員が自分の登記識別情報を保管しているとは限りません。弊社が共有不動産の売却に関わるなかでも、代表者の1人がまとめて保管していたり、親が管理していた書類の中に紛れていたりして、決済前に所在確認が必要になるケースがあります。

なお、登記識別情報は再発行できません。紛失している場合でも登記できないわけではありませんが、司法書士による本人確認情報の作成や、法務局からの事前通知など、通常とは別の手続きが必要になることがあります。

その分、売買や贈与の手続きに時間がかかる可能性があるため、共有者全員持分全部移転を進める前に、各共有者が登記識別情報または登記済権利証を保管しているか確認しておきましょう。

印鑑証明書

印鑑証明書とは、市区町村に登録した実印が本人のものであることを証明する書類です。共有者全員持分全部移転では、売主や贈与者など、持分を移転する共有者全員の印鑑証明書が必要になります。


出典:印鑑登録証明書サンプル|青梅市

印鑑証明書は、市区町村の窓口やコンビニ交付サービスなどで取得できます。手数料は自治体によって異なりますが、1通300円程度が目安です。登記申請に使う印鑑証明書は、原則として発行後3ヵ月以内のものが必要になるため、取得時期にも注意しましょう。

共有名義不動産では、共有者が別々の場所に住んでいることも多く、全員分の印鑑証明書を集めるだけでも時間がかかる場合があります。実務でも、一部の共有者が印鑑証明書をすぐに取得できず、決済日を調整するケースがあります。

そのため、共有者全員持分全部移転を進める場合は、契約や登記申請の直前になって慌てないよう、誰の印鑑証明書が必要なのか、いつまでに取得するのかを早めに確認しておくことが大切です。

住所証明情報

住所証明情報とは、新しく名義人になる人の住所を証明するための書類です。共有者全員持分全部移転では、買主や受贈者など、登記によって新たに権利を取得する人の住所を確認するために提出します。

個人が名義人になる場合は住民票、法人が名義人になる場合は会社法人等番号や法人の登記事項証明書などが住所証明情報として用いられます。

住民票は市区町村の窓口やコンビニ交付サービスなどで取得でき、手数料は自治体によって異なりますが、1通200円〜300円程度が目安です。法人の登記事項証明書は法務局で取得でき、手数料は書面請求で1通600円、オンライン請求で郵送受け取りの場合は520円、窓口受け取りの場合は490円です。

住所証明情報は、基本的に買主や受贈者など「新しく名義人になる人」が用意する書類です。売主や贈与者など、現在の名義人が持分を手放す側であれば、住所証明情報そのものは通常必要ありません。

親族間の売買や贈与を自分たちで進める場合は、誰が新しく名義人になるのかを確認し、その人の住民票などを用意します。不動産会社や司法書士を通して手続きを進める場合は、必要書類の案内を受けられることが多いため、誰の住民票や法人書類が必要なのかを確認しながら準備しましょう。

ただし、売主や贈与者など、現在の登記名義人の住所が登記簿上の住所と異なる場合は注意が必要です。この場合は住所証明情報ではなく、共有者全員持分全部移転の前に住所変更登記が必要になることがあります。

実務でも、売主側の現住所と登記簿上の住所が一致せず、事前に住所変更登記から整えるケースがあります。手続きを進める前に、登記事項証明書の住所と現在の住所が一致しているか確認しておくとよいでしょう。

固定資産評価証明書

固定資産評価証明書とは、不動産の固定資産評価額を確認するための書類です。共有者全員持分全部移転では、登録免許税を計算する際に固定資産評価額を用いるため、固定資産評価証明書が必要になります。

固定資産評価証明書は、不動産が所在する市区町村の窓口で取得できます。東京23区内の不動産であれば、都税事務所で取得します。手数料は自治体や証明する物件数によって異なりますが、1通または1件あたり300円〜400円程度が目安です。

土地と建物の両方を移転する場合は、土地・建物それぞれの評価額を確認します。また、私道部分や共有道路の持分がある場合などは、評価証明書の取得方法や登録免許税の計算で確認が必要になることがあります。

弊社の買取実務でも、建物だけでなく私道持分や附属建物が登記されているケースでは、必要な評価証明書が不足していて、司法書士から追加取得を求められることがあります。登記申請前には、移転対象となる不動産が土地だけなのか、建物や私道持分も含むのかを確認しておくことが大切です。

委任状

委任状とは、司法書士などの代理人に登記申請を依頼するための書類です。本人が法務局に申請する場合は不要ですが、司法書士に共有者全員持分全部移転の登記申請を依頼する場合は、委任状を作成します。

共有者全員持分全部移転では、売主・買主、贈与者・受贈者など、登記に関わる当事者が複数になることがあります。そのため、誰がどの登記手続きを司法書士に委任するのかを明確にしておく必要があります。

実務上は、司法書士が委任状の書式を用意し、売主・買主、贈与者・受贈者など、登記申請を委任する当事者が署名・押印する流れが一般的です。共有者が遠方に住んでいる場合は、委任状の郵送や押印のやり取りに時間がかかることもあります。

弊社が共有不動産の買取を進める際も、共有者の一部が遠方に住んでいる、仕事の都合で書類の返送が遅れるといった理由で、決済日程を調整するケースがあります。司法書士に依頼する場合は、委任状をいつまでに準備する必要があるか、早めに確認しておきましょう。

共有者全員持分全部移転の場合の登記申請書の書き方

共有者全員持分全部移転の登記申請書は、登記原因によって記載内容が変わります。ここでは、共有者全員持分全部移転で主に使われる「売買」と「贈与」の登記申請書について、記載例と注意点を解説します。

  • 売買の場合の登記申請書の作成方法
  • 贈与の場合の登記申請書の作成方法

なお、以下で紹介するテンプレートはあくまでもサンプルです。実際の申請では、不動産の登記内容や持分割合、契約内容によって記載内容が変わるため、そのまま使うのではなく、司法書士に確認したうえで作成してください。

売買の場合の登記申請書の作成方法

売買を原因として共有者全員持分全部移転を行う場合は、共有者全員が持分を手放す側となり、買主が新しく名義人になります。

以下の事例をもとに、登記申請書の記載例を確認しましょう。

【事例】
山田太郎さんと佐藤花子さんは、登記事項証明書に記載された土地を2分の1ずつの持分割合で共有している。

その後、山田太郎さんと佐藤花子さんは、令和8年2月1日に買主である鈴木一郎さんと売買契約を締結し、同日付で売買を原因として、各自の共有持分全部を鈴木一郎さんへ移転することとなった。

このケースにおける登記申請書の記載例は以下のとおりです。

登記申請書

登記の目的  共有者全員持分全部移転

登記原因   令和8年2月1日 売買

権利者    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 鈴木一郎

義務者    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 山田太郎

       住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 佐藤花子

添付情報
 登記原因証明情報
 登記識別情報
 印鑑証明書
 住所証明情報
 固定資産評価証明書
 代理権限証明情報(代理申請の場合)

令和8年2月1日申請 〇〇法務局

申請人    権利者 鈴木一郎
       義務者 山田太郎
       義務者 佐藤花子

代理人    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       司法書士 〇〇〇〇 印

課税価格   金〇〇〇〇万円

登録免許税  金〇〇〇〇円

不動産の表示
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇平方メートル

※上記は、共有者全員が同じ売買契約に基づき、令和8年2月1日に所有権が移転したケースを想定した記載例です。実際の登記原因日付は、契約締結日ではなく、契約内容に基づいて所有権が移転した日を記載するのが通常です。事案によって記載内容は変わるため、そのまま使用せず、司法書士に確認してください。

売買を原因とする共有者全員持分全部移転では、登記申請書の「登記原因」欄に、所有権が移転した日付と「売買」を記載します。

売買では、契約締結日と残代金の支払日が異なることがあります。契約書で「残代金の支払いと同時に所有権が移転する」と定めている場合は、契約締結日ではなく、残代金支払日が登記原因日になることもあるため、売買契約書や登記原因証明情報と登記申請書の内容をそろえることが重要です。

また、義務者には、持分を移転する共有者全員を記載します。登記事項証明書上の共有者が1人でも漏れていると、その人の持分は移転できず、共有者全員持分全部移転として申請できない可能性があります。申請書を作成する前に、登記事項証明書で現在の共有者と持分割合を確認しましょう。

贈与の場合の登記申請書の作成方法

贈与を原因として共有者全員持分全部移転を行う場合は、持分を無償で譲る共有者全員が持分を手放す側となり、受贈者が新しく名義人になります。

以下の事例をもとに、登記申請書の記載例を確認しましょう。

【事例】
山田太郎さんと佐藤花子さんは、登記事項証明書に記載された不動産を2分の1ずつの持分割合で共有している。

その後、山田太郎さんと佐藤花子さんは、令和8年2月1日付で、受贈者である山田花子さんに対し、各自の共有持分全部を無償で譲り渡すことに合意し、贈与契約を締結した。

このケースにおける登記申請書の記載例は以下のとおりです。

登記申請書

登記の目的  共有者全員持分全部移転

登記原因   令和8年2月1日 贈与

権利者    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 山田花子

義務者    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 山田太郎

       住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       氏名 佐藤花子

添付情報
 登記原因証明情報
 登記識別情報
 印鑑証明書
 住所証明情報
 固定資産評価証明書
 代理権限証明情報(代理申請の場合)

令和8年2月1日申請 〇〇法務局

申請人    権利者 山田花子
       義務者 山田太郎
       義務者 佐藤花子

代理人    住所 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目〇番〇号
       司法書士 〇〇〇〇 印

課税価格   金〇〇〇〇万円

登録免許税  金〇〇〇〇円

不動産の表示
所在 〇〇県〇〇市〇〇町〇丁目
地番 〇番〇
地目 宅地
地積 〇〇.〇〇平方メートル

※上記は、共有者全員が同じ贈与契約に基づき、令和8年2月1日に所有権が移転したケースを想定した記載例です。贈与契約書で所有権移転日を別に定めている場合は、その日付を登記原因日として記載します。実際の記載内容は事案によって変わるため、そのまま使用せず、司法書士に確認してください。

贈与を原因とする共有者全員持分全部移転では、登記申請書の「登記原因」欄に、贈与によって所有権が移転した日付と「贈与」を記載します。贈与契約書で所有権移転日を別に定めている場合は、その日付と登記申請書の登記原因日を一致させる必要があります。

贈与は売買代金の支払いがないため、贈与の意思や対象となる持分を契約書上で明確にしておくことが重要です。贈与契約書や登記原因証明情報には、「誰が、誰に、どの不動産のどの持分を、いつ贈与したのか」がわかるように記載しましょう。

共有者全員がそれぞれの持分を特定の受贈者へ贈与する場合は、贈与者となる共有者全員を義務者欄に漏れなく記載しましょう。

また、贈与では登記手続きだけでなく、贈与税や不動産取得税が発生する可能性があります。親族間で共有名義を整理する目的で贈与を行う場合でも、登記申請書だけを整えればよいわけではないため、登記手続きは司法書士、贈与税や不動産取得税などの税金は税理士や税務署などに確認しながら進めるとよいでしょう。

共有者全員持分全部移転でかかる費用・税金の一覧

共有者全員持分全部移転では、登記申請時に登録免許税がかかるほか、司法書士に依頼する場合は報酬、必要書類を取得するための実費が発生します。

また、売買や贈与など登記原因によっては、登記手続きとは別に譲渡所得税・贈与税・不動産取得税・印紙税などがかかる可能性もあります。

とくに共有名義不動産では、共有者ごとに売却代金の配分や税金の負担が変わることもあるため、手続きを進める前に費用の全体像を確認しておきましょう。

費用・税金の種類 目安費用・税率
登録免許税 売買:固定資産税評価額の2%
※土地の売買による所有権移転登記は、令和11年3月31日まで1.5%
※一定の住宅用家屋については、別途軽減税率が適用される場合あり
贈与:固定資産税評価額の2%
司法書士への報酬 約4万円〜10万円
※共有者の人数が多い場合、住所変更登記・抵当権抹消・本人確認情報の作成・相続登記などをあわせて依頼する場合は、上記より費用が高くなることがあります。
必要書類の取得費 1通あたり数百円〜600円程度
※共有者の人数や取得する書類の通数によって、合計では数千円程度、書類が多い場合は1万円前後かかることもある
登記手続き以外で発生する可能性がある税金 譲渡所得税:課税譲渡所得 × 税率
※短期譲渡所得は39.63%、長期譲渡所得は20.315%

贈与税:(贈与財産の価額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額
※税率は10%〜55%

不動産取得税:課税標準額 × 税率
※原則4%。土地・住宅は令和9年3月31日まで3%、住宅以外の家屋は原則4%

印紙税:契約書の記載金額に応じて課税
※不動産売買契約書は、令和9年3月31日まで軽減措置あり

※登録免許税の軽減措置は、土地の売買、住宅用家屋、長期優良住宅などで適用期限や要件が異なります。実際に申請する際は、最新の税率と適用要件を確認してください。

登録免許税

登録免許税とは、共有者全員持分全部移転の登記申請を行う際に国へ納める税金です。登録免許税は、原則として固定資産税評価額に税率をかけて計算します。

共有者全員持分全部移転で主に使われる売買・贈与の場合、登録免許税の目安は次のとおりです。

  • 売買:固定資産税評価額の2%
  • 土地の売買による所有権移転登記:固定資産税評価額の1.5%(令和11年3月31日まで)
  • 贈与:固定資産税評価額の2%

売買では、土地の所有権移転登記に軽減税率が適用されるため、土地と建物で税率が異なることがあります。そのため、土地と建物をまとめて移転する場合は、それぞれの固定資産税評価額を分けて計算します。

たとえば、固定資産税評価額が土地2,000万円・建物1,000万円の場合、売買を原因とする共有者全員持分全部移転の登録免許税は、次のように計算します。

【土地と建物を売買する場合】
土地:2,000万円 × 1.5% = 30万円
建物:1,000万円 × 2% = 20万円
合計:50万円

【土地のみを売買する場合】
2,000万円 × 1.5% = 30万円

【建物のみを売買する場合】
1,000万円 × 2% = 20万円

※上記は、土地の売買に1.5%、建物の売買に2%を用いた計算例です。一定の住宅用家屋では、建物についても別途軽減税率が適用される場合があります。

贈与を原因とする共有者全員持分全部移転では、土地・建物ともに原則として固定資産税評価額の2%で登録免許税を計算します。

【土地と建物を贈与する場合】
土地:2,000万円 × 2% = 40万円
建物:1,000万円 × 2% = 20万円
合計:60万円

【土地のみを贈与する場合】
2,000万円 × 2% = 40万円

【建物のみを贈与する場合】
1,000万円 × 2% = 20万円

登録免許税は、登記申請時に納付します。本人申請の場合は、登録免許税額に応じて、収入印紙を貼付する方法や、金融機関などで納付した領収証書を提出する方法があります。司法書士に登記を依頼する場合は、登録免許税を実費として司法書士に預け、申請手続きとあわせて納付してもらう流れが一般的です。

固定資産税評価額が高い不動産ほど登録免許税の負担も大きくなります。また、共有名義不動産では、土地・建物のほかに私道持分や附属建物が登記されているケースもあるため、固定資産評価証明書を取得したうえで、移転対象となる不動産ごとに概算額を確認しておきましょう。

司法書士への報酬

司法書士への報酬は、共有者全員持分全部移転の登記申請を司法書士に依頼した場合に発生する費用です。登記申請書の作成、必要書類の確認、法務局への申請などを依頼する対価として支払います。

日本司法書士会連合会の報酬アンケートでは、所有権移転登記の報酬平均として、贈与は5万3,902円、売買は5万6,678円、登記識別情報または登記済権利証を提供できず本人確認情報の作成が必要な売買では9万4,887円と示されています。

共有者全員持分全部移転の司法書士報酬も、まずは約4万円~10万円程度を目安にするとよいでしょう。

ただし、共有者の人数が多い場合や、共有者が遠方に住んでいる場合は、本人確認・必要書類の確認・委任状のやり取りに手間がかかります。

弊社が共有不動産の買取を進める際も、登記識別情報の紛失、登記上の住所と現住所の不一致、住宅ローンの残債、私道持分や附属建物の確認などにより、司法書士の確認範囲が広がるケースがあります。

このような場合は、本人確認情報の作成や住所変更登記、抵当権抹消登記などが追加で必要になり、報酬が目安より高くなることもあります。

司法書士へ依頼する際は、報酬額だけでなく、どこまでの業務が含まれているのかも確認しておきましょう。共有者全員持分全部移転だけの費用なのか、住所変更登記や抵当権抹消登記、必要書類の取得代行まで含むのかによって、最終的な支払額は変わります。

費用を比較する場合は、複数の司法書士事務所に見積もりを取り、報酬額・実費・追加費用の有無を確認してから依頼先を選ぶとよいでしょう。

必要書類の取得費

共有者全員持分全部移転では、登記申請に必要な書類を取得するための費用もかかります。1通あたりの金額は大きくありませんが、共有者の人数や移転する不動産の数によって通数が増えるため、合計では数千円程度、書類が多い場合は1万円前後かかることもあります。

主な必要書類の取得費は、次のとおりです。

書類の種類 取得先 取得費の目安
登記事項証明書 法務局 書面請求:600円
オンライン請求・送付:520円
オンライン請求・窓口交付:490円
印鑑証明書 市区町村 1通200円〜300円程度
住民票 市区町村 1通200円〜300円程度
固定資産評価証明書 市区町村
※東京23区は都税事務所
1通または1件あたり300円〜400円程度

登記事項証明書は、法務局で取得できます。手数料は、書面請求で600円、オンライン請求で郵送受け取りの場合は520円、窓口受け取りの場合は490円です。

印鑑証明書や住民票は、市区町村の窓口やコンビニ交付サービスなどで取得できます。手数料は自治体によって異なりますが、1通200円〜300円程度が目安です。

固定資産評価証明書は、不動産が所在する市区町村で取得します。東京23区内の不動産であれば、都税事務所で取得します。手数料は自治体によって異なりますが、1通または1件あたり300円〜400円程度が目安です。土地と建物の両方を移転する場合や、私道持分・附属建物がある場合は、取得する証明書の通数が増えることがあります。

取得費そのものは大きくありませんが、書類が不足すると決済日や登記申請日がずれることもあるため、早めに必要書類と通数を確認しておきましょう。

登記費用については、次の記事でも詳しく解説しています。

登記手続き以外で発生する可能性がある税金

共有者全員持分全部移転では、登録免許税や司法書士報酬のほかに、取引内容によって別の税金が発生することがあります。

具体的には、次のような税金が発生する可能性があります。

  • 譲渡所得税:売買によって利益が出た場合に、売主側にかかる
  • 贈与税:贈与によって基礎控除110万円を超える財産を受け取った場合に、受贈者側にかかる
  • 不動産取得税:売買や贈与で不動産を取得した場合に、買主・受贈者側にかかる
  • 印紙税:不動産売買契約書などの課税文書を作成する場合にかかる

これらの税金は、登記申請時に必ず発生するものではなく、売買・贈与の内容や利益の有無によって課税されるかどうかが変わります。

とくに自分で登記申請を進める場合は、登録免許税や必要書類の取得費だけに目が向きやすく、譲渡所得税・贈与税・不動産取得税・印紙税などを見落としてしまうことがあります。

共有者ごとの手取り額や取得者側の負担額を把握するためにも、登記費用だけでなく、売買・贈与に伴う税金まで確認しておきましょう。

譲渡所得税

譲渡所得税とは、不動産を売却して利益が出た場合に、売主側にかかる税金です。ここでは、所得税・復興特別所得税・住民税をまとめて「譲渡所得税」として説明します。

譲渡所得税は、売却価格そのものにかかるのではなく、売却価格から取得費や譲渡費用などを差し引いた「課税譲渡所得」に対して課税されます。

譲渡所得 = 売却価格 −(取得費 + 譲渡費用)

譲渡所得税 = 課税譲渡所得 × 税率

取得費とは、不動産を購入したときの代金や購入時の諸費用などです。譲渡費用には、売却時の仲介手数料や測量費、売買契約書の印紙代などが含まれることがあります。

税率は、不動産の所有期間によって変わります。

区分 税率
短期譲渡所得 39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
長期譲渡所得 20.315%(所得税15.315%、住民税5%)

短期譲渡所得か長期譲渡所得かは、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで判断します。共有名義不動産では、共有者ごとに取得時期が異なることもあるため、それぞれの所有期間を確認する必要があります。

ここでは、長期譲渡所得に該当する共有持分を売却し、譲渡所得が300万円出たケースを例に計算します。

■条件
売却価格:1,000万円
取得費:600万円
譲渡費用:100万円
所有期間:5年超のため長期譲渡所得に該当

■譲渡所得の計算
1,000万円 −(600万円 + 100万円)= 300万円

■譲渡所得税の計算
300万円 × 20.315% = 60万9,450円

なお、共有名義不動産の場合、共有者ごとに取得時期や取得費が異なることがあります。

たとえば、兄弟で共有している不動産でも、一方は購入時からの共有者、もう一方は相続で持分を取得した共有者というケースでは、譲渡所得税の計算が共有者ごとに変わる可能性があります。

そのため、共有者全員で不動産を売却する場合でも、税額を全員一律で考えるのではなく、各共有者の取得時期・取得費・持分割合を確認したうえで、税理士や税務署に相談するとよいでしょう。

贈与税

贈与税とは、無償で財産を受け取った人にかかる税金です。共有者全員持分全部移転を贈与で行う場合、共有持分を受け取る受贈者に贈与税がかかる可能性があります。

贈与税は、1年間にもらった財産の合計額から基礎控除110万円を差し引き、その残額に税率をかけて計算します。

贈与税 = (贈与財産の価額 − 基礎控除110万円)× 税率 − 控除額

贈与税の税率は、課税価格に応じて10%〜55%です。贈与税には「一般贈与財産用」と「特例贈与財産用」の税率があり、贈与者と受贈者の関係によって使用する税率が異なります。

以下は、父母や祖父母などの直系尊属から、18歳以上の子や孫へ贈与する場合に用いる「特例贈与財産用」の税率表です。

【特例贈与財産用の税率表】

基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% 0円
400万円以下 15% 10万円
600万円以下 20% 30万円
1,000万円以下 30% 90万円
1,500万円以下 40% 190万円
3,000万円以下 45% 265万円
4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円

たとえば、父母が共有している不動産について、父母それぞれの共有持分全部を18歳以上の子へ贈与するケースを考えます。子が受け取る共有持分の評価額が合計1,000万円だった場合、贈与税は次のように計算します。

■条件
贈与財産の価額:1,000万円
基礎控除:110万円
税率:30%
控除額:90万円

■課税価格の計算
1,000万円 − 110万円 = 890万円

■贈与税の計算
890万円 × 30% − 90万円 = 177万円

親族間で共有名義を整理する場合、「売買代金を支払わないなら負担が少ない」と考えられることがあります。しかし、不動産の評価額が高い場合は、贈与税の負担が大きくなることがあります。

また、兄弟間・夫婦間・第三者への贈与では、一般贈与財産用の税率を用います。特例贈与財産用より税額が高くなるケースもあるため、贈与者と受贈者の関係を確認したうえで税額を計算しましょう。

贈与者と受贈者の関係や、同じ年に受けた他の贈与によって税額が変わるため、贈与で名義を整理する場合は、登記を進める前に税理士や税務署に確認することをおすすめします。

不動産取得税

不動産取得税とは、不動産を取得した人にかかる都道府県税です。共有者全員持分全部移転を売買や贈与で行う場合は、買主や受贈者など、不動産の持分を取得する人が課税対象になります。

不動産取得税は、原則として次のように計算します。

不動産取得税 = 課税標準額 × 税率

売買や贈与で不動産を取得する場合、税率は原則4%です。ただし、土地や住宅については令和9年3月31日まで3%に軽減されています。

たとえば、課税標準額が土地2,000万円・住宅1,000万円の場合、不動産取得税の基本的な計算イメージは次のとおりです。

■土地と住宅を取得する場合
土地:2,000万円 × 3% = 60万円
住宅:1,000万円 × 3% = 30万円
合計:90万円

■土地のみを取得する場合
2,000万円 × 3% = 60万円

■住宅のみを取得する場合
1,000万円 × 3% = 30万円

※土地・住宅について、令和9年3月31日までの軽減税率3%を適用した場合の単純計算です。宅地の課税標準を2分の1にする特例や住宅控除などは反映していません。

不動産取得税には、住宅の控除や宅地の課税標準を2分の1にする特例などが適用される場合があります。実際の税額は上記の計算例より低くなることもあるため、まずは都道府県税事務所に軽減措置の対象になるか確認しましょう。

贈与税など他の税金も含めて負担額を確認したい場合は、税理士に相談するのも一つの方法です。

印紙税

印紙税とは、不動産売買契約書などの課税文書を作成する際にかかる税金です。

共有者全員で不動産全体を第三者へ売却する場合、売買契約書に記載された契約金額に応じて、所定の収入印紙を貼付します。

不動産売買契約書については、記載金額が10万円を超えるものを対象に、令和9年3月31日まで軽減措置があります。以下の表は、軽減措置適用後の主な印紙税額です。

契約書の記載金額(売却金額) 税額
100万円超500万円以下 1,000円
500万円超1,000万円以下 5,000円
1,000万円超5,000万円以下 1万円
5,000万円超1億円以下 3万円

たとえば、売買契約書の記載金額が3,000万円の場合、貼付する収入印紙は1万円です。売買契約書の原本を複数通作成する場合は、それぞれの契約書に印紙が必要になるため、何通作成するのか、誰が印紙代を負担するのかを事前に確認しておきましょう。

印紙税そのものは登録免許税や譲渡所得税と比べると大きな金額になりにくいものの、売却時の諸費用として見落とさないようにしましょう。

共有者全員持分全部移転で起こりやすいトラブルと対処法

共有者全員持分全部移転は、共有者全員の協力を前提に進める手続きです。そのため、共有者全員の同意や必要書類がそろっていない場合、登記上の名義と現在の権利関係が一致していない場合などは、手続きがスムーズに進まないことがあります。

共有者全員持分全部移転で起こりやすいトラブルは、主に次のとおりです。

  • 移転条件や税金の認識違いで共有者間の合意が崩れる
  • 共有者の一部と連絡が取れず同意や書類を集められない
  • 住宅ローンや抵当権が残っており金融機関との調整が必要になる
  • 相続登記が未了で現在の権利関係を整理できない

共有者間で認識の違いや連絡不通が生じると、登記申請そのものに進む前の段階で手続きが止まってしまうこともあります。

実務上は、登記申請そのものよりも、移転条件の合意、共有者との連絡、住宅ローンや相続登記の整理など、登記前の段階でトラブルになるケースが少なくありません。

手続きが途中で止まらないよう、事前に起こりやすいトラブルと対処法を確認しておきましょう。

移転条件や税金の認識違いで共有者間の合意が崩れる

共有者全員持分全部移転は、共有者全員の持分をまとめて移転する登記手続きです。そのため、登記原因や原因日付だけでなく、移転条件や費用負担、税金の扱いについて共有者間で認識がずれていると、手続きが途中で止まることがあります。

たとえば、共有名義不動産を第三者へ売却する場合は、売却代金の配分、固定資産税や管理費の未精算分、仲介手数料・登記費用の負担者などを事前に決めておく必要があります。

贈与として共有者全員の持分を移転する場合も、贈与税の負担をめぐって認識違いが起こることがあります。共有者全員の持分を取得する人が「売買代金が発生しない名義変更」と考えていても、贈与税がかかる可能性があるため、手続き前に確認しておきましょう。

弊社でも、共有者全員で不動産全体を売却する予定だったものの、条件面の認識違いから話し合いが止まったケースがありました。

相続をきっかけに兄弟が共有名義となった戸建てで、不動産全体の売却を進めようとした事例です。

兄は「長年自分が固定資産税や修繕費を負担してきたため、その分を売却代金から先に精算したい」と主張し、弟は「登記上の持分割合どおりに分けるべき」と考えていました。その結果、買主候補が見つかっていたにもかかわらず、売買契約まで進めない状態になっていました。

このケースでは、兄から「自分の共有持分だけでも先に売却できないか」と弊社へご相談がありました。

売却・贈与のどちらで共有者全員持分全部移転を行う場合でも、認識違いで手続きが止まらないように、移転条件や費用負担を事前に整理しておくことが大切です。

具体的には、次のような点を確認しておきましょう。

  • 売却代金をどのように配分するか
  • 固定資産税・管理費・修繕費などの未精算分をどう扱うか
  • 仲介手数料・司法書士報酬・必要書類の取得費を誰が負担するか
  • 贈与税・譲渡所得税・不動産取得税などが発生する可能性があるか
  • 無償譲渡や低額譲渡にあたる場合、税務上どのように扱われるか
  • 合意内容を売買契約書・贈与契約書・財産分与契約書などに反映できているか

共有者の一部と連絡が取れず同意や書類を集められない

共有者全員持分全部移転を行うには、原則として共有者全員の同意や登記に必要な書類をそろえる必要があります。そのため、共有者の一部と連絡が取れない場合、他の共有者が売却や贈与に合意していても、手続きを進められないことがあります。

弊社でも、不動産全体を売却したいものの、共有者の一部と連絡が取れず、共有持分のみの売却相談につながったケースがあります。

先祖代々の土地を兄弟や親族など複数名で共有していたものの、一部の共有者と連絡が取れず、売却手続きが止まっていた事例です。

共有者の大半は土地全体の売却に同意していましたが、遠方に住む親族と連絡が取れず、売買契約や登記に必要な意思確認・書類準備を進められませんでした。その結果、買主候補が見つかっていたにもかかわらず、売却時期の見通しが立たない状態になっていました。

このケースでは、共有者全員での売却がすぐには難しかったため、複数の共有者から「自分たちの共有持分だけでも先に売却できないか」と弊社へご相談がありました。

このような場合、まずは共有者の連絡先がわかるかどうかで対応が変わります。連絡先がわかる場合は、電話やメールだけでなく、書面で移転条件や回答期限を伝え、やり取りの記録を残しておきましょう。

一方、共有者の所在がわからない場合は、戸籍の附票や住民票など取得できる資料をもとに所在調査を行います。それでも所在を確認できないときは、裁判所への申立てが必要となる所在等不明共有者に関する制度の利用を検討します。

具体的には、次のような制度があります。

  • 所在等不明共有者持分取得制度:所在等がわからない共有者の持分を、他の共有者が取得するための制度
  • 所在等不明共有者持分譲渡権限付与制度:所在等がわからない共有者の持分を含めて、不動産全体を第三者へ譲渡する権限を裁判所から付与してもらう制度

ただし、これらの制度は裁判所への申立てが必要であり、利用できる場面や手続きに条件があります。共有者と連絡は取れるものの回答が得られない場合や、所在調査・裁判所への申立てなど法的対応が必要になりそうな場合は、弁護士へ相談するのも1つの方法です。

所在等不明共有者に関する制度については、次の記事も参考にしてみてください。

住宅ローンや抵当権が残っており金融機関との調整が必要になる

住宅ローンや抵当権が残っている不動産は、共有者全員が売却・贈与に合意していても、共有者間の合意だけでは手続きを進めにくいことがあります。

抵当権が登記上残ったまま売却することも理論上は可能ですが、通常の売買では買主側から抵当権抹消を求められるのが一般的です。そのため、事前に金融機関へ確認し、抵当権抹消の見通しを立てておく必要があります。

住宅ローンや抵当権が残っている場合の対応は、主に次のように整理できます。

状況 必要な対応
ローンは完済しているが、抵当権の登記が残っている 金融機関から抵当権抹消に必要な書類を受け取り、抵当権抹消登記を行ってから売却や名義変更に進む
売却代金や自己資金でローンを完済できる 金融機関に残債や完済手続きを確認し、決済時にローン完済・抵当権抹消登記・所有権移転登記を同時に行う
売却代金や自己資金でローンを完済できない 金融機関に相談し、任意売却の承諾を得られるか確認する
贈与によって名義変更をする ローン契約上の問題がないか、事前に金融機関へ確認する

住宅ローンが残っている場合は、売却後もローンを払い続けるつもりであっても、金融機関に確認しないまま売却や名義変更を進めるのは避けるべきです。住宅ローンは、ローン契約者や不動産の名義、利用状況などを前提に融資されているのが一般的なため、契約上の問題が生じる可能性があります。

売却時の対応は、売却代金や自己資金でローンを完済できるかどうかによって変わります。

たとえば、共有名義のマンションを3,000万円で売却し、住宅ローン残債が2,500万円ある場合は、売却代金でローンを完済できます。この場合、決済日に買主から売却代金を受け取り、その資金でローンを完済したうえで、抵当権抹消登記と所有権移転登記を同時に行う流れが一般的です。

一方、売却見込み額が2,000万円で、住宅ローン残債が2,500万円ある場合は、売却代金だけではローンを完済できず、抵当権抹消の段取りを組めません。このような場合は、金融機関に相談し、任意売却の承諾を得られるか確認する必要があります。

また、贈与によって共有者全員の持分を移転する場合も注意が必要です。たとえば、夫婦共有名義のマンションを子どもへ贈与しようとしても、住宅ローンが残っている場合は、金融機関に確認せず名義変更を進めるとローン契約上の問題が生じる可能性があります。

そのため、住宅ローンや抵当権が残っている場合は、売却・贈与のどちらで共有者全員持分全部移転を行う場合でも、まず金融機関に相談し、ローン完済の可否や抵当権抹消の流れを確認しておきましょう。

任意売却については、次の記事も参考にしてみてください。

相続登記が未了で現在の権利関係を整理できない

相続登記が未了の不動産は、登記上の名義人が亡くなった人のままになっているため、そのままでは共有者全員持分全部移転の手続きへ進められません。

共有者全員で売却や贈与に合意していても、登記上の名義人と現在の権利関係が一致している必要があるため、先に相続登記を行う必要があります。

弊社でも、不動産全体の売却相談を受けた際に、相続登記が未了であることがわかり、提携している司法書士へつないで相続登記から対応したケースがあります。

先代から相続した土地について、相続人全員で売却を進めようとしたものの、登記名義が亡くなった父のままになっていた事例です。

相続人同士では売却に合意していましたが、登記上の名義が現在の権利関係と一致していなかったため、そのままでは買主への所有権移転登記まで進められませんでした。

このケースでは、弊社への売却相談後、提携している司法書士へつなぎ、戸籍資料の収集、相続人の確認、相続人間で合意した内容をもとにした遺産分割協議書の作成、相続登記を進めてもらいました。相続登記によって現在の相続人名義に整理したうえで、あらためて不動産全体の売却手続きに進む流れとなりました。

相続登記が未了の場合は、共有者全員持分全部移転の手続きに入る前に、まず登記事項証明書で現在の名義人を確認しましょう。登記名義人が亡くなった人のままであれば、戸籍資料の収集、相続人の確定、遺産分割協議の有無を確認したうえで、相続登記から進める必要があります。

とくに、相続登記を長期間放置している場合は、次の相続が発生して相続人が増えていることがあります。

何世代も前の名義が残っている場合や、相続人の人数が多い場合は、戸籍収集や権利関係の整理が複雑になりやすいため、司法書士に相談しながら進めるとよいでしょう。ただし、遺産分割の内容で相続人同士が対立している場合は、弁護士への相談も検討が必要です。

なお、相続登記は、原則として「不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内」、または「遺産分割協議で不動産を取得する人が決まった日から3年以内」に行う必要があります。相続登記が未了のままになっている場合は、共有者全員持分全部移転の手続きに入る前に、早めに対応しましょう。

相続登記の流れについては、次の記事も参考にしてみてください。

共有者全員持分全部移転ができない場合の代替案

共有者全員持分全部移転は、共有者全員が売却・贈与などの移転内容に合意していることが前提になります。そのため、共有者の一部が反対している、連絡が取れない、必要書類を準備してもらえないといった場合は、不動産全体をまとめて移転する手続きが進まないことがあります。

弊社が共有名義不動産の所有者を対象に実施したアンケート調査でも、回答者の42%が「共有名義が原因で困ったことやトラブルがある」と回答しました。

さらに、トラブルを経験した方の悩みの内訳を見ると、売却の可否や処分方針などの「売却・処分」に関する内容が32%と最も多く、共有名義不動産では出口をめぐって悩む方が多いことがうかがえます。

トラブルの原因

調査主体:株式会社Clamppy
調査日:2026年3月5日〜3月26日
調査方法:インターネット調査
調査対象:共有名義の不動産を所有する全国の男女
有効回答数:492名

このように、共有名義不動産は全員の足並みがそろわないと、不動産全体の売却・処分や名義の整理が進まず、出口の段階で行き詰まるケースがあります。

ただし、共有者全員持分全部移転ができないからといって、自分の共有持分を手放したり、現金化したりできないわけではありません。不動産全体をまとめて移転するのが難しい場合でも、自分の共有持分だけを整理する方法を検討できます。

自分の共有持分を手放したい、または現金化したい場合の代表的な代替案は、次のとおりです。

  • 他の共有者に自分の共有持分を買い取ってもらう
  • 共有持分のみを買取業者などの第三者に売却する
  • 共有物分割請求を検討する

実務上は、まず他の共有者への売却を検討しやすいですが、話がまとまらない場合や早く現金化したい場合は、買取業者など第三者への共有持分売却も選択肢になります。それでも解決が難しい場合は、共有物分割請求を検討する流れが現実的です。

他の共有者に自分の共有持分を買い取ってもらう

共有者全員で不動産全体を移転する手続きが進まない場合でも、他の共有者が取得に前向きであれば、自分の共有持分だけを買い取ってもらう方法があります。

他の共有者に売却する場合は、価格が「不動産全体の市場価格 × 持分割合」に近づきやすい傾向があります。買い取る側にとっても、持分割合を増やせる、共有者の人数を減らせる、将来的に不動産全体を動かしやすくなるといったメリットがあるためです。

ただし、実際の価格は共有者間の合意によって決まるため、次の計算結果はあくまで交渉時の目安として考えましょう。

たとえば、不動産全体の市場価格が3,000万円で、自分の持分割合が3分の1の場合、次の金額が交渉の出発点になります。

3,000万円 × 1/3 = 1,000万円

ただし、これはあくまで目安であり、必ずその金額で売却できるわけではありません。実際には、固定資産税や修繕費の未精算分、誰が不動産を使用しているか、売却時期、支払方法などを踏まえて調整することになります。

また、この方法はあくまで任意の売買です。相手に買い取る義務があるわけではないため、価格や支払時期、登記費用の負担などで合意できなければ成立しません。

実務上も、共有者間で「買い取る意思はある」と言われていても、具体的な金額や支払時期が決まらず、話し合いが長期化するケースがあります。そのため、口頭の約束だけで進めず、売買価格・支払方法・登記手続きの期限を早めに書面で整理しておくことが大切です。

共有持分のみを買取業者などの第三者に売却する

他の共有者が買い取りに応じない場合や、話し合いを続けること自体が負担になっている場合は、自分の共有持分のみを買取業者などの第三者に売却する方法もあります。

共有持分は、不動産全体ではなく自分の持分だけであれば、原則として他の共有者の同意がなくても売却できます。そのため、共有者全員持分全部移転のように全員の合意を待たなくても、自分の持分を手放して現金化できる可能性があります。

買取業者へ共有持分を売却する場合は、「不動産全体の市場価格 × 持分割合 × 1/3〜1/2程度」が目安になるケースが多いです。

他の共有者へ売却する場合より価格が低くなりやすいのは、買取業者が取得後に他の共有者との協議や持分整理を行う前提で査定するためです。調整にかかる期間・費用・不確実性を査定額に織り込むため、理論上の持分価格より低くなる傾向があります。

不動産全体の市場価格が3,000万円、持分割合が3分の1のケースで考えると、理論上の持分価格と買取業者への売却目安は次のようになります。

理論上の持分価格:3,000万円 × 1/3 = 1,000万円
買取業者への売却目安:1,000万円 × 1/3〜1/2 = 約330万円〜500万円

弊社の買取実績を見ても、最終的な買取価格が「市場価格 × 持分割合 × 1/2程度」となったケースが38%、「市場価格 × 持分割合 × 1/3程度」となったケースが31%でした。全体としても、1/3〜1/2程度の価格帯に収まるケースが多い傾向があります。

買取価格

※弊社の共有持分買取実績をもとに、2018年2月〜2025年12月の期間を対象として集計しています。対象件数や集計内容は2025年12月時点の社内集計に基づきます。実際の買取価格を保証するものではなく、物件条件や共有関係によって価格は変動します。

もちろん、すべての共有持分がこの目安どおりに売却できるわけではありません。実際の買取価格は、物件の立地や築年数、持分割合、共有者との関係、居住者の有無、住宅ローンや相続登記の状況などによって変動します。

とはいえ、価格よりも早く共有関係から離れることや、共有者との交渉を続ける負担を減らすことを優先したい場合は、共有持分のみの売却が現実的な選択肢になることがあります。

共有物分割請求を検討する

共有者同士の話し合いで解決できない場合は、共有物分割請求を検討する方法もあります。共有物分割請求とは、共有状態の解消を求める法的手続きです。

共有物分割請求では、共有者同士の協議でまとまらない場合、最終的には裁判所が分割方法を判断します。主な分割方法は次のとおりです。

  • 現物分割:土地を分筆するなど、不動産そのものを物理的に分ける方法
  • 代償分割(価格賠償):共有者の1人が不動産を取得し、他の共有者に金銭を支払う方法
  • 換価分割:裁判所が競売を命じ、不動産を換価した代金を共有者間で分ける方法

ただし、法律上は共有物分割請求を行うことができますが、請求すれば必ず希望どおりの方法で共有状態を解消できるわけではありません。裁判所が不動産の性質や共有者の事情を踏まえて分割方法を判断するためです。

また、手続きに時間や費用がかかるうえ、裁判所の判断によっては不動産が競売にかけられ、通常の売却より低い価格で手放すことになる可能性もあります。

そのため、共有物分割請求は、他の共有者への売却や共有持分のみの売却などを検討しても解決が難しい場合の選択肢として考えるのが現実的です。法的手続きに進む可能性がある場合は、早めに弁護士へ相談し、見通しや費用を確認しておきましょう。

共有物分割請求については、次の記事でも詳しく解説しています。

まとめ

共有者全員持分全部移転は、共有名義不動産について共有者全員の持分全部を、同じ登記原因・同じ原因日付で一括して移転する登記手続きです。共有者全員で不動産全体を第三者へ売却する場合などに用いられます。

手続きを行うには、共有者全員の同意があること、共有者全員が意思能力を有していること、登記上の名義人と現在の権利関係が一致していることなどを確認する必要があります。

共有者全員持分全部移転を検討している場合は、早い段階で共有者全員の意向、現在の登記名義、住宅ローンや抵当権の状況を確認しておきましょう。あらかじめ確認しておくことで、必要書類の準備や金融機関との調整を進めやすくなります。

登記申請書の作成や必要書類の判断に不安がある場合は司法書士へ、共有者間で争いがある場合や移転条件・代金配分で対立している場合は弁護士へ相談し、進め方を確認するとよいでしょう。

よくある質問

売却や贈与に反対する共有者がいる場合はどうすればよいですか?

売却や贈与に反対する共有者がいる場合、共有者全員の持分をまとめて移転する「共有者全員持分全部移転」は、原則として進められません。共有名義の不動産全体を第三者へ売却したり、特定の1人へ持分を集約したりするには、共有者全員が同じ移転条件に合意する必要があるためです。

一方で、自分が所有している共有持分のみであれば、原則として他の共有者の同意を得ずに売却や贈与を行うことが可能です。ただし、農地や担保権が設定されている不動産など、物件や権利の状況によっては別途確認が必要になる場合があります。

ただし、共有持分だけを購入する買主は限られやすく、不動産全体を売却する場合と比べて価格が下がりやすい点には注意が必要です。また、贈与の場合は受け取る側の同意や贈与税の問題も生じるため、事前に条件を整理しておく必要があります。

実務上は、不動産全体として売却・移転できたほうが価格面では有利になりやすいため、まず共有者全員で合意できる可能性を確認することが大切です。合意が難しい場合には、自分の共有持分のみを売却・贈与する方法を検討する流れになります。

共有者間で対立が深い場合や、法的手続きも視野に入る場合は、早めに弁護士へ相談するとよいでしょう。

共有持分の処分については、次の記事を参考にしてみてください。

共有者全員持分全部移転は、共有者の1人が未成年の場合でも可能ですか?

共有者の1人が未成年の場合でも、親権者などの法定代理人が未成年者を代理することで、共有者全員持分全部移転を行える場合があります。

ただし、親権者と未成年者の利益が対立するケースや、同じ親権に服する未成年者同士で利害が対立するケースでは、親権者がそのまま代理できず、家庭裁判所で特別代理人の選任が必要になることがあります。

たとえば、親が未成年者の持分を取得する場合、親と未成年者が共同相続人として遺産分割協議を行う場合、未成年者の取得分や代金配分に影響する合意をする場合には注意が必要です。

未成年者は、売買や贈与、遺産分割など不動産の権利移転を伴う法律行為を単独で有効に進めることが原則としてできません。

そのため、共有者の中に未成年者がいる場合は、親権者による代理で足りるのか、特別代理人の選任が必要なのかを、事前に司法書士や弁護士へ確認しておくことが重要です。

共有者に未成年者がいる場合の共有名義の取り扱いについては、次の記事で詳しく解説しています。

共有者間で売買価格や配分について揉めたときはどうすればよいですか?

共有者間で売買価格や配分をめぐって対立している場合は、早めに弁護士へ相談し、交渉の進め方や合意書の内容、必要に応じた調停・訴訟などの選択肢を確認するとよいでしょう。

弁護士に相談することで、不動産会社の査定額や不動産鑑定評価などの資料をもとに、代金配分、費用負担、合意書の内容、交渉方針などを法的な観点から整理しやすくなります。すでに対立が深い場合には、弁護士による代理交渉や、共有物分割請求などの法的手続きを検討することもあります。

共有名義不動産のトラブルを弁護士に相談するメリットについては、次の記事を参考にしてみてください。

共有者全員持分全部移転は司法書士に依頼せず自分で申請できますか?

共有者全員持分全部移転は、司法書士に依頼せず自分で申請することも可能です。

ただし、登記申請書だけでなく、登記原因証明情報、登記識別情報または登記済権利証、印鑑証明書、住所証明情報、固定資産評価証明書などをそろえる必要があります。また、売買・贈与など、登記原因によって必要書類や申請書の記載内容が変わります。

共有者の人数が多い場合は、共有者全員の意思確認や書類の収集、登記原因・日付・持分割合の確認に手間がかかります。記載ミスや書類不足があると、法務局から補正を求められ、登記完了までに時間がかかることもあります。

また、住宅ローンや抵当権が残っている場合は、登記手続きだけでなく、金融機関との完済・抹消条件の調整も必要になることがあります。

共有者の人数が多い、相続登記が未了、住宅ローンや抵当権が残っている、共有者の中に未成年者や判断能力に不安がある人がいる、といったケースでは、自分で進めるよりも司法書士へ相談したほうがよいでしょう。

共有者間で争いがある場合や、売却条件・代金配分で対立している場合は、司法書士だけでなく弁護士への相談も検討が必要です。

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