共有名義不動産は建て替え・取り壊し可能?条件や注意点、流れを解説
共有名義不動産が老朽化し、建て替えや取り壊しを希望している人の中には、「勝手に取り壊していいのか」「共有者の同意を得られなかったらどうなるのか」といったことで悩んでいる人もいるのではないでしょうか。
共有名義不動産の建て替え・取り壊しには、共有者全員の同意が必要です。同意なく取り壊すと、損害賠償請求をされたり「建造物損壊罪」に問われたりするおそれがあります。
ただし、建物倒壊の危険性がある場合は同意がなくても取り壊しが可能です。倒壊のおそれがある建物を解体する行為は、共有者の同意を必要としない「保存行為」と判断されるためです。
なお、住宅ローン返済中なら金融機関の許可が必要です。共有者の同意があっても、金融機関の許可がなければ建て替え・取り壊しできないことを念頭に置いておきましょう。
建て替え・取り壊しにかかる費用は、共有持分割合に応じて負担するのが一般的です。主に以下の費用が必要になるほか、印紙税や登記費用などの諸費用がかかります。
- 取り壊しの費用相場:120〜320万円程度
- 建て替えの費用相場:3,500万円程度
ほかの共有者から同意を得られないときは、共有状態の解消を検討しましょう。共有者の持分を買い取って自身の「単独所有」にするのが理想的ですが、話し合いがスムーズに進まない可能性もあります。
共有状態を解消するには、「共有物分割請求訴訟」を申立てる方法もありますが、「自分の持分だけを売却し、共有関係から抜ける」という選択肢もあります。持分を売却する際は、持分専門の買取業者に相談するとよいでしょう。
この記事では、共有名義不動産の建て替え・取り壊しの条件や注意点、流れについて解説します。費用相場も紹介しているため、建て替え・取り壊しを検討している人はぜひ参考にしてください。
目次
共有名義不動産でも条件を満たせば建て替え・取り壊しが可能
共有名義の不動産でも、以下に挙げる一定の条件を満たせば建て替えや取り壊しは可能です。
- 共有者全員の同意を得ている
- 住宅ローンが完済後か、金融機関が建て替え・取り壊しを許可している
- 建物倒壊の危険性がある
それぞれの条件について詳しく解説します。
共有者全員の同意を得ている
共有者全員の同意があれば、共有名義不動産の建て替え・取り壊しが可能です。
共有不動産については、「持分所有者が単独でできること」「共有者全員の同意を得ないとできないこと」などが民法で定められており、建て替え・取り壊しは共有者全員の同意が必要な「処分・変更行為」にあたるためです。
同意の有無 | 行為 | 内容 |
---|---|---|
共有者全員の同意が必要 | 処分・変更行為 | ・増改築を伴う大規模なリフォーム ・建物の解体 ・建物全体の売却 など |
共有者の過半数の同意が必要 | 管理行為 | ・短期間の賃貸利用 ・資産価値を高めるためのリフォーム など |
同意が不要 | 保存・使用行為 | ・現状維持目的の修繕やリフォーム ・共有不動産の使用 ・共有持分のみの売却 など |
(共有物の変更)
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
(引用元:e-Gov法令検索「民法 第二百五十一条」)
たとえば不動産を3人で共有しており、そのうち1人が建て替えや取り壊しを検討しているときは、あとの2人から同意を得る必要があります。
同意を得られなければ、建て替えも取り壊しもできません。同意を得られない場合は、共有不動産を単独所有にしたり共有状態を解消したりといった方法を検討することをおすすめします。
共有不動産を単独所有にする方法は「共有者から建て替えや取り壊しの同意を得られないなら他の共有者の持分の買取を検討する」、共有状態の解消方法については「持分の買取もできず共有名義不動産を手放したいなら共有状態の解消を試みる」でそれぞれ解説しています。ぜひ参考にしてください。
なお、共有不動産の危険性については以下の記事で詳しく解説しています。こちらもあわせてチェックしてみてください。
住宅ローン完済後か、金融機関が建て替え・取り壊しを許可している
住宅ローンを組んで共有不動産を購入した場合は、共有者全員の同意に加え、住宅ローンをすでに完済しているか、返済中でも金融機関の許可があれば建て替え・取り壊しが可能です。
なぜなら住宅ローンを利用する際、金融機関は土地や建物に対して担保権の一種である「抵当権」を設定するのが一般的であるためです。
中には担保を必要としない「無担保ローン」もあります。しかし、抵当権を設定している場合は建物を取り壊すことで担保物件としての価値が損なわれ、金融機関から住宅ローン契約違反とみなされるおそれがあります。
そのため、共有不動産の建て替えや取り壊しは「基本的にはローンを完済してから行う必要がある」と思っておきましょう。
住宅ローン返済中に建物の取り壊しや建て替えを行いたいなら、金融機関から事前に承諾を得なければなりません。承諾なしに取り壊しや建て替えを実行すると、契約違反として「期限の利益」を損失し、ローンの一括返済を求められる可能性があるため注意しましょう。
一定の期日が来るまでの間、返済をしなくても良い利益のこと
ローンの一括返済を求められると、まとまった金額が必要になります。資金力に不安がある場合は「住宅ローンの借り換え」も視野にいれておきましょう。
建物倒壊の危険性がある
倒壊の危険性がある建物は、共有者の同意がなくても取り壊しが可能です。老朽化し倒壊するおそれがある建物の解体は、変更ではなく「保存行為」と判断されるためです。
注意点は、建物が倒壊して隣人や通行人などに損害を与えると、損害賠償請求されるおそれがある点です。
損害賠償責任は倒壊した不動産の所有者が負わなければなりません。ケースによっては賠償金額が億を超えることもあるため、倒壊の危険性があるなら早急に解体したほうがよいでしょう。
なお、倒壊の危険性があるとまではいえず、「単に家が古くなって資産価値がなくなった」「もう利用することはない」といった事情では、同意なく取り壊す理由としては不十分です。
また、倒壊の危険がある場合でも、いくら単独での解体が可能とはいえ、共有者に無断で取り壊してしまうとトラブルになる可能性があります。建物を取り壊したいときは、事前に共有者へ解体する旨を伝えておいたほうがよいでしょう。
共有不動産を建て替え・取り壊しする際の注意点
共有不動産の建て替えや取り壊しには、以下のような点に注意する必要があります。知らずに実行してしまうと、さまざまなトラブルに発展するおそれがあります。
- 話し合いが長引く可能性がある
- 同意を得ないと損害賠償請求や罪に問われるおそれがある
- 未登記でも同意なく取り壊しはできない
- 固定資産税額決定後に取り壊さないと減税措置が適用されない
それぞれの注意点を詳しく見ていきましょう。
話し合いが長引く可能性がある
建て替え・取り壊しに関する話し合いが長引く可能性があります。共有者が多い場合や共有者同士の折り合いが悪いケースでは、意見がまとまりにくいためです。
「いつまでに解体を済ませたい」という期日があるなら、余裕を持って協議を始めましょう。
また、取り壊しや建て替えにかかる費用の概算があると、話し合いが具体的かつスムーズに進みやすいです。解体工事業者に見積をしてもらっておくことをおすすめします。
同意を得ないと損害賠償請求や罪に問われるおそれがある
他の共有者の同意が得られないからといって、無断で建て替えや取り壊しを実行すると、損害賠償請求をされたり罪に問われたりする可能性があるため注意が必要です。
場合によっては、刑法に規定されている「建造物損壊罪」に該当することもあります。
(建造物等損壊及び同致死傷)
他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の懲役に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
(引用元:e-Gov法令検索「刑法 二百六十条」)
建造物損壊罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。有罪になると懲役刑が科せられ、判決によっては刑務所に収監されてしまう可能性もあります。
建て替えや取り壊しは、必ず共有者全員の同意を得てから行うようにしましょう。
未登記でも同意なく取り壊しできない
共有不動産が「未登記建物」でも、共有者全員の同意がなければ取り壊せません。
法務局に不動産の情報を登録する「登記」を行っていない建物のこと。登記をしていないと建物の所在や構造といった情報がわからないだけでなく、所有権を証明できない。
不動産を取得したら1カ月以内に「建物表題登記」をしなければなりませんが、まれに登記がされておらず、所有者が誰かわからない状態の未登記建物が存在します。
共有している土地に未登記建物が建っている場合、誰のものかわからないからと勝手に取り壊してはいけません。建物が建っているということは、未登記であっても必ず誰かに所有権があるためです。
所有者が亡くなっているなら、その相続人に権利があります。もし所有者に相続人が存在せず遺言も残されていなければ、最終的には国の所有物となります。
未登記建物があるときは、まずは所有者を調べてから適切な方法で解体を進める必要があります。未登記建物の所有者を調べる方法は以下のとおりです。
- 建物が建築されたときの土地所有者に確認する
- 「建築計画概要書」を確認する
建物が建築されたときに土地所有者だった人が、建物の所有者である可能性が高いです。現在の所有者と異なるなら、当時の土地所有者に確認しましょう。
すでに亡くなっているなら相続人に確認し、相続人も把握していない場合は、相続人から委任状をもらって「固定資産税課税台帳」や「名寄せ帳」を閲覧するという手段もあります。
そのほか、市区町村役場で建築確認の内容がわかる「建築計画概要書」を確認するのもよいでしょう。建物があまりに古いと建築確認自体が行われておらず情報が確認できませんが、建築当時に建築確認がされていれば、概要書から建物の所有者がわかります。
ただ、当時の土地所有者やその相続人と面識がない場合、自分で調査するのはハードルが高いと感じる可能性があります。未登記建物の所有者がわからないときは、その時点で司法書士を頼ったほうがよいでしょう。
なお、通常は取り壊し後に「建物滅失登記」を申請する必要がありますが、未登記建物の場合はそもそも登記が存在しないため、市区町村役場に「家屋の滅失届」を提出します。
固定資産税額決定後に取り壊さないと減税措置が適用されない
固定資産税額が決定したあとに共有不動産を取り壊さないと、減税措置が適用されません。
住宅敷地の固定資産税・都市計画税を減額できる「住宅用地の特例」が適用されるのは、「税額が決定する1月1日時点で、所有する土地に人が住むための建物が建っている場合」であるためです。
言い換えると、「1月1日に建物が建っていないと特例が受けられない」ということです。
たとえば12月31日に取り壊す予定なら、1日延ばして1月1日に解体しましょう。そうすると、税額決定のタイミングに建物が建っている状態になるため減税措置の対象になります。
とくに取り壊しを急がなければならないような事情がなければ、1月1日以降に取り壊すようにしましょう。
また、住宅用地の特例には「小規模住宅用地」と「一般住宅用地」の2種類があり、それぞれ固定資産税と都市計画税の減額率が異なります。
区分 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
小規模住宅用地 (200㎡以下の部分) |
評価額の1/6に減税 | 評価額の1/3に減税 |
一般住宅用地 (200㎡を超える部分) |
評価額の1/3に減税 | 評価額の2/3に減税 |
たとえば敷地面積が300㎡の戸建住宅の場合、そのうち200㎡が「小規模住宅用地」、残りの100㎡が「一般住宅用地」として特例が適用されます。つまり、「土地に住宅が建っているだけで減税効果がある」といえます。
特例の減額率は大きいため、取り壊しや建て替えを検討するときは、固定資産税額が決定するタイミングを考慮してスケジュールを組みましょう。
土地・建物の所有者が異なる場合、土地の所有者は建物を取り壊せない
土地と建物の所有者が異なる場合、土地の所有者は勝手に建物を取り壊せません。建物を取り壊せるのは建物の所有者だけであり、いくら土地が自分のものでも、建物を取り壊す権限はないためです。
自分の土地にある他人の建物を取り壊したいなら、建物所有者と話し合い、建物を取り壊してもらうよう交渉する必要があります。
建物が共有不動産なら、共有者全員の同意を得なければなりません。所有者が単独でも、所有者が亡くなっているときはその相続人全員の同意が必要になります。
なお、建物の所有者や相続人から同意を得られない場合、相手に建物を撤去させるための訴訟「建物収去土地明渡請求訴訟」を提起するという手段があります。
ただし、自分で対応するのはハードルが高いでしょう。建物の所有者が土地所有者と異なり、話し合いが難しい・面識がないといったケースであれば、弁護士を頼ることをおすすめします。
共有名義不動産を建て替え・取り壊しするときの流れ
共有不動産を建て替え・取り壊すときの流れは以下のとおりです。
- 共有者全員から建て替え・取り壊しの同意を得る
- 共有名義不動産を取り壊して更地にする
- 取り壊しから1カ月以内に「建物滅失登記」を申請する
- 更地に新しい共有名義不動産を建て替える
- 建物完成後1カ月以内に「建物表題登記」を申請する
- 「建物保存登記」や「抵当権設定登記」などを申請する
ただし、同意を得るにも共有者が亡くなっているときや音信不通の場合など、ケースによってはこのとおりに進まない可能性があることを念頭に置いておきましょう。
1.共有者全員から建て替え・取り壊しの同意を得る
まずは、共有者全員から建て替え・取り壊しの同意を得ます。「共有者全員の同意を得ている」でも解説したとおり、共有不動産の建て替えや取り壊しには共有者全員の同意が必要であるためです。
ただし、以下のような事情から、共有者と連絡が取れないケースも存在します。
- 共有者が亡くなっている場合:相続人から同意を得る
- 共有者が認知症の場合:成年後見人から同意を得る
- 共有者やその所在が不明の場合:「所在等不明共有者持分取得申立て」を行う
このような場合、名義人全員からすぐに同意を得ることは難しいでしょう。
ここでは、「誰から同意を得ればよいのか」や同意を得る方法、所在等不明共有者がいるときの対応についてケース別に解説します。
共有者が亡くなっている場合は相続人から同意を得る
共有者が亡くなっている場合は相続人から同意を得る必要があります。不動産の所有者が亡くなると、その持分は相続人に引き継がれるためです。そのため、亡くなった共有者の相続人(=新たな共有者)から同意を得なくてはなりません。
共有持分が誰に相続されているかは、不動産の「登記事項証明書」で確認しましょう。登記事項証明書は法務局の証明書発行窓口、またはオンラインで取得できます。
そのほか、法務省の「登記情報提供サービス」を利用して、インターネット上で登記上の所有者を確認する方法もあります。登記事項証明書とは異なり証明書としては利用できませんが、その場ですぐに取得できるため、「とりあえず相続人を確認したい」ときにおすすめです。
取得方法 | 手数料 |
---|---|
窓口請求・窓口受取 | 600円 |
オンライン請求・郵送 | 500円 |
オンライン請求・窓口受取 | 480円 |
登記情報提供サービスで登記情報を取得 | 331円 ※所有者の情報のみであれば141円 |
参照:登記手数料について|法務省
参照:登記情報提供サービスの利用料金等一覧|法務省
共有者が認知症の場合は「成年後見人」から同意を得る
共有者が認知症の場合は「成年後見制度」を利用し、共有者本人ではなく「成年後見人」から同意を得ます。共有者が認知症になり、意思決定能力を失うと、建て替えや取り壊しに関する同意を得られなくなるためです。
認知症や精神障害などによって判断能力が低下した人に代わって、財産の管理や法律行為を行う人のこと。成年後見人には「法定後見」と「任意後見」がある。
法定後見 | すでに判断能力が低下している人に対し、家庭裁判所が後見人を選任する |
---|---|
任意後見 | 判断能力が残っている内に、本人の意思によって後見人を決めておく |
任意後見によって後見人が決まっている人は、その後見人と連絡を取って同意を得ましょう。
後見人が決まっていないなら、家庭裁判所に対して成年後見人を選任申立てを行います。申立てができるのは、本人または本人の四親等以内の親族です。
ただし、選任申立てには手間と時間がかかります。そのため、早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談するのがおすすめです。
また、共有者に高齢者がいる場合、認知症になる前に親族間売買や贈与などによって共有持分の所有権を移動させておくのも対策として有効です。
関連記事:成年後見人による不動産の売却方法を解説!居住用・非居住用のケース別で紹介|イエコン
共有者やその所在が不明の場合は「所在等不明共有者持分取得申立て」を行う
同意を得る方法とは少々異なりますが、共有者が誰かわからない・誰かはわかるが所在がわからないために同意を得られないときは、「所在等不明共有者持分取得申立て」を行うのが有効です。
他の共有者がわからない・どこに住んでいるのかわからない場合に、所在等不明共有者の持分を不明共有者以外の共有者が取得できるようにする手続きのこと。
申立ては不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して行い、申立人は持分の時価に相当する額の金銭を供託する(国の機関である供託所に預ける)必要がある。
申立てが認められれば不明共有者の持分を取得できるため、不明共有者の同意を得る必要がなくなります。持分を買い取れるだけの資力がなければ選択できませんが、不明共有者がいるケースでも建て替え・取り壊しを諦めずに済む点は大きなメリットといえるでしょう。
2.共有名義不動産を取り壊して更地にする
共有者全員の同意を得られたら、次に不動産を取り壊して更地にします。
不動産の取り壊しは、解体業の免許を持つ業者に依頼しなければなりません。悪質な解体業者に依頼するとトラブルに巻き込まれるおそれがあるため、業者選びは慎重に行いましょう。
悪質な解体業者に依頼した場合に起こり得るトラブルは以下のとおりです。
- 不当な追加工事で予算を大幅に超える
- 無許可で解体する
- 近隣に対して配慮をしない
- 損害賠償保険に加入していない
- 廃棄物を不法投棄する
これらのトラブルを回避するためには、適切な解体業者選びが重要です。解体業者を選ぶ際は、以下の点を確認しましょう。
- 解体工事業登録済みまたは建設業許可済みか
- 損害賠償保険に加入済みか
- 担当者の対応は誠実か
- 解体費用は高額すぎないか
- 下請けではなく自社で工事を行っているか
はじめに見つけた1社にすぐ決めてしまわず、複数の業者を比較することも大切です。
また、解体を進める前には「住宅ローンの残債がないか」「固定資産税額決定後か」を確認しておきましょう。
取り壊しにかかる費用の詳細については、「取り壊しにかかる費用は120〜320万円程度」で後述します。
3.取り壊しから1カ月以内に「建物滅失登記」を申請する
建物を取り壊したら、1カ月以内に「建物滅失登記」を申請しましょう。申請先は「不動産の所在地を管轄する法務局」です。様式と記載例は法務局のHPからダウンロードできます。
注意点は、申請を怠ると「10万円以下の過料が課せられる可能性がある」点です。実際にペナルティを受けるケースはあまりありませんが、念のためきちんと申請しておきましょう。
登記の中でも、不動産の売買や相続の際に行う「所有権移転登記」は関係者全員が共同で行わなければなりませんが、建物滅失登記は共有者のうち1人が単独で申請できます。
なお、建物滅失登記は自分でも申請できる比較的簡単な登記ですが、建て替え後に行う「建物表題登記」を依頼する場合はまとめて「土地家屋調査士」に依頼するのが一般的です。
4.更地に新しい共有名義不動産を建て替える
更地にした土地に、新たな建物を建築します。施工は建設業許可を持つ建設業者へ依頼しましょう。
建て替え工事は、一般的に以下のようなスケジュールで進めます。業者選びから竣工(新築工事完了)までは早くても8カ月ほどかかるため、各工程にかかる期間と流れを把握しておくとスムーズです。
- 予算やプランを業者と話し合い比較・検討する(着工の約6カ月前)
- 建て替え業者を決める(着工の約5カ月前)
- 建て替え業者を契約する(着工の約4カ月前)
- プラン決定、見積もりの提出(着工の約2カ月前)
- 各種申請・仮住まいへ引っ越し(着工の約1カ月前)
- 既存の共有物件の取り壊し(着工)
- 基礎工事~棟上げ(着工から約1カ月後)
- 竣工(着工から約2~5カ月後)
建て替えにかかる費用相場は、「建て替えにかかる費用は3,500万円程度」で後述します。
5.建物完成後1カ月以内に「建物表題登記」を申請する
建物が完成したら、1カ月以内に「建物表題登記」を申請しなければなりません。怠ると10万円以下の過料が課せられるため注意しましょう。
(建物の表題登記の申請)
新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から一月以内に、表題登記を申請しなければならない。
(引用元:e-Gov法令検索「不動産登記法 第四十七条」)
(過料)
第三十六条、第三十七条第一項若しくは第二項、第四十二条、第四十七条第一項(第四十九条第二項において準用する場合を含む。)、第四十九条第一項、第三項若しくは第四項、第五十一条第一項から第四項まで、第五十七条、第五十八条第六項若しくは第七項、第七十六条の二第一項若しくは第二項又は第七十六条の三第四項の規定による申請をすべき義務がある者が正当な理由がないのにその申請を怠ったときは、十万円以下の過料に処する。
(引用元:e-Gov法令検索「不動産登記法 第百六十四条」)
表題登記とは、建物の物理的な状況を記録するための登記です。登記を行うことで、以下の情報が法務局に備わります。
- 建物の所在
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
- 所有者の住所・氏名
表題登記は土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。自分でも申請できますが、現地調査や建物の計測、建物図面の作成など、専門知識が必要になるためハードルが高いでしょう。
土地家屋調査士や司法書士への依頼は、多くの場合建築業者が行います。自分で手配する必要があるかどうか、業者に確認しておきましょう。
なお、建て替えた建物の共有持分割合は、「新築した建物の費用負担割合」に応じて登記します。建て替え費用の負担割合と登記された持分割合が異なると、差額分に「贈与税」が発生する可能性があるため注意しましょう。
たとえば、親子で所有する共有不動産の建て替え費用3,500万円を父親が全額負担した場合、本来なら新しく建った建物は100%父親の所有となります。しかし登記の際に、父と子の持分を50%ずつにすると父から子へ50%分を贈与したとみなされます。
父 | 子 | |
---|---|---|
建築費用の負担額 | 3,500万円 | 0円 |
登記された共有持分 | 50% | 50% |
費用の負担額と共有持分の差額 | -1,750万円 | +1,750万円 |
上記のケースでは、「子が費用負担していない1,750万円を父から子へ贈与した」とみなされ、1,750万円に対して贈与税が課せられます。
贈与税が課せられるのは、受取人(この場合は子)です。たとえ夫婦や親子といった家族間の贈与であっても、納税の義務がある点に注意しましょう。
6.「建物保存登記」や「抵当権設定登記」などを申請する
建物表題登記のあとは、「建物保存登記」や「抵当権設定登記」を申請します。
その不動産の所有者を証明するための登記。保存登記を行うことで、第三者に対して所有権を主張できるようになる。また、保存登記をしていないと抵当権を設定できない。
「抵当権」を不動産に設定するための登記。住宅ローンを組んで建物を建てる場合、建物とその敷地に設定することが多い。抵当権を設定すると、ローンの返済が滞ったときに債権者である金融機関が抵当権の対象物を競売にかけ、そこから債権を回収する。
保存登記は前述した「表題登記」のように義務化されていないため、申請しなくてもペナルティはありません。
ただし、抵当権を設定するなら保存登記を行っておく必要があります。また、保存登記が完了していないと所有権移転登記もできないため、共有不動産を今後売却する可能性があるなら申請しておくことをおすすめします。
抵当権設定登記は、住宅ローンを組む際に、融資の条件になることがほとんどです。
なお、保存登記は自分でも申請できますが、保存登記と抵当権設定登記は同時に申請するのが一般的であり、抵当権設定登記を司法書士以外の人が行うことを金融機関が良しとしない場合が多いです。そのため、通常は保存登記と抵当権設定登記をまとめて司法書士に依頼します。
建物の建て替えや取り壊し費用の相場
共有不動産の建て替え・取り壊しにかかる一般的な費用相場は以下のとおりです。
- 平均的な住宅の取り壊し費用:120~320万円程度
- 平均的な住宅の建て替え費用:3,500万円程度
- 諸経費:固定資産税評価額や専門家への依頼の有無などによる
建物の構造や面積によって価格は変動しますが、取り壊しにも建て替えにも決して安くはない費用がかかります。相場をしっかりと把握し、準備しておきましょう。
取り壊しにかかる費用は120〜320万円程度
住宅の取り壊しにかかる費用は、建物の構造によって価格が変動します。たとえば木造よりも軽量鉄骨造、軽量鉄骨造よりも鉄筋コンクリート造のほうが解体費用は高くなります。
一般的な住宅(30〜40坪)を解体する際にかかる費用の、構造別相場は以下のとおりです。
構造 | 解体費用(坪単価) | 解体費用(30坪) | 解体費用(40坪) |
---|---|---|---|
木造 | 4~5万円 | 120~150万円 | 160~200万円 |
軽量鉄骨造 | 6~7万円 | 180~210万円 | 240~280万円 |
鉄筋コンクリート造 | 7~8万円 | 210~240万円 | 280~320万円 |
平均的な住宅の解体にかかる費用相場は120〜320万円程度です。
なお、自治体によっては、空き家の解体費用や建て替え費用の補助制度が用意されている場合があります。取り壊してしまってからでは補助を受けられなくなる可能性があるため、共有不動産を取り壊す前に建物のある自治体へ相談してみるのがおすすめです。
建て替えにかかる費用は3,500万円程度
建物の建築費は、延床面積によって金額が変わります。国土交通省が調査した首都圏の建築費用データを見てみましょう。
調査年(年度) | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 |
---|---|---|---|---|---|
建築費(万円) | 3,558 | 3,301 | 3,510 | 4,077 | 5,050 |
延床面積(㎡) | 116.9 | 117.2 | 113.1 | 125.0 | 143.4 |
建築費単価(万円) | 30.4 | 28.2 | 31.0 | 32.6 | 35.2 |
上記のデータによると、2018〜2022年の5年間における新築注文住宅の延床面積の平均は123.12㎡、約37.2坪です。また、建築費平均は3,899万円、坪単価は104.78万円です。
つまり、平均的な35坪の注文住宅を立てる場合、仮に坪単価を100万円とすると建築費用は3,500万円程度必要だとわかります。もちろん使用する建材や設備、仕様によっても金額は変動しますが、平均的な住宅を建築するなら「一般的に3,500万円程度の費用が必要である」と覚えておきましょう。
建物の建て替え・取り壊しにかかる諸経費
取り壊し・建て替えの費用以外にも、以下のような諸経費がかかります。
費用の種類 | 金額(目安) |
---|---|
印紙税 | ・解体工事:1,000円程度 ・建て替え工事:1万円程度 |
建物滅失登記費用 | 1,000〜3,000円程度 ※自分で申請する場合 |
建物表題登記費用 | 5,000〜1万円程度 ※自分で申請する場合 |
共有持分移転登記費用 | 固定資産評価額×2% |
土地家屋調査士への報酬 | ・建物滅失登記:5万円程度 ・建物表題登記:8〜10万円程度 |
司法書士への報酬 | ・建物保存登記:5万円程度 ・抵当権設定登記:3万円〜 |
建物保存登記の登録免許税 | 建物の価額×0/4% |
抵当権設定登記の登録免許税 | 債権額×0.4% |
火災保険、地震保険料 | 3万円程度(初年度) |
上記はあくまでも目安であり、実際にいくらかかるかは状況によって異なります。
専門家の報酬額については、事前に見積もってもらうことも可能です。いくらかかるか気になるときは、事前に見積もってもらうとよいでしょう。
参照:印紙税額|国税庁
建て替え・取り壊し費用は共有持分割合に応じて負担する
建て替え・取り壊し費用は共有持分割合に応じて負担するのが一般的です。共有物の管理にかかる費用は、「持分割合に応じて費用を負担するべき」とするのが民法の考え方であり、共有不動産の取り壊し・建て替えは共有物の管理行為にあたるためです。
(共有物に関する負担)
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
(引用元:e-Gov法令検索「民法 第二百五十三条」)
登記簿謄本に記録される持分割合は、建物を取得するのにかかった費用のうち、「どのくらいの割合を負担したか」によって決まります。
なお、不動産の取得費には下記が含まれます。
- 建物の購入代金(建築費用)
- 税金(不動産取得税、登録免許税、印紙税など)
- 測量費
- 整地費や建物の解体費用
- 設備費
- 地盤改良費
- 借入金利子
共有者から建て替えや取り壊しの同意を得られないなら他の共有者の持分の買取を検討する
共有者全員から同意が得られず、不動産の建て替えや取り壊しができないときは、他の共有者から持分を買い取ることを検討しましょう。
他の共有者から持分をすべて買い取ると、共有不動産を自分の単独所有にできます。この方法を「全面的価格賠償」といいます。
持分をすべて買い取るためある程度まとまった資金が必要ですが、建物全体を1人で所有できるようになる分自由に取り壊しや建て替えが可能です。
ただしこの方法は、「他の共有者が買取に応じてくれる」のが前提条件です。
また、買取に関しての話し合いが長引く可能性もあるため、必ずしもスムーズに話が進むとは限りません。金銭面や今後の管理が楽になるなど、持分を売却するメリットを伝えながら交渉しましょう。
持分の買取もできず共有名義不動産を手放したいなら共有状態の解消を試みる
単独所有が無理なら、共有状態の解消を検討しましょう。共有状態を解消するには、主に以下の方法があります。
- 不動産全体を売却する
- 自分の持分を放棄する
- 自分の持分を売却する
- 「共有物分割請求」を行う
ただし、不動産全体を売却するには共有者全員の同意が必要です。また、一般的な不動産会社は持分のみの買い取りに応じてくれないことがほとんどです。共有持分を売却する際は、専門の買取業者へ依頼しましょう。
それぞれ解説します。
共有名義の解消方法と解消しない場合のリスクについては、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
不動産全体を売却する
共有者全員が売却に同意しているなら、共有不動産全体の売却が可能です。不動産全体であれば、相場価格で売却できる可能性が高く、売却で得た金銭は持分割合に応じて分ければよいためトラブルになりにくいというメリットがあります。
他の共有者が「建物を建て替える気はないが売るのは賛成」という考えなら、不動産全体の売却を提案するのも1つの手段でしょう。
ただし前述のとおり、不動産全体の売却には「共有者全員の同意が必要」です。1人でも反対している人がいると売却できません。反対している人がいるなら、このあと紹介する他の2つの方法を検討しましょう。
自分の持分を放棄する
他の共有者から建て替え・取り壊しの同意が得られず、「持分を所有していても意味がない」なら、自分の持分を放棄するという方法があります。
放棄するのは「自分の持分の所有権」であるため、自分の意思で自由に放棄でき、放棄した持分は他の共有者が取得します。
(持分の放棄及び共有者の死亡)
第二百五十五条 共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。
引用元:e-Gov法令検索「民法第二百五十五条」
ただし「自由に放棄できる」とはいっても、登記申請の際は他の共有者の協力を得なければなりません。「持分放棄による所有権移転登記」は、持分を放棄する共有者だけでは申請できないためです。
また、放棄してしまうと一銭もお金になりません。そのため、放棄を選択するくらいなら、「自分の持分のみの売却」を検討したほうがよいでしょう。
自分の持分のみの売却については、このあと解説します。
自分の持分を売却する
建て替え・取り壊しの同意も共有不動産全体を売却することに対する同意も得られないなら、自分の共有持分のみを売却することをおすすめします。自分の持分であれば、自分の意思のみで売却でき、他の共有者の協力も必要ありません。
なお、共有持分の売却先には、主に以下の2つがあります。
- 他の共有者
- 第三者(共有持分専門の買取業者)
他の共有者の中に、買取を希望していて持分を買い取れるだけの資力がある人物がいるなら、買い取ってもらうのもよいでしょう。
共有者の中に買い取ってくれそうな人がいないときは、共有持分専門の買取業者に売却することをおすすめします。
豊富な相談実績を誇る「株式会社クランピーリアルエステート」なら、士業と連携し共有持分をスピーディーに買取ります。仲介業者のように仲介料がかからないほか、すでにトラブルになっている案件でも対応可能です。
共有持分の売却なら、ぜひ一度お問い合わせください。
共有物分割請求を行う
共有状態を解消するには、「共有物分割請求」を行うのも1つの方法です。共有物分割請求を行えば、以下の3つのうちいずれかの方法で共有状態を解消することになります。
- 現物分割:共有名義の不動産を物理的に分割する
- 代償分割:共有者間で持分を売買する
- 換価分割:共有名義不動産を売却し、売却益を共有者で持分割合に応じて分割する
前述した「全面的価格賠償」は上記のうち「代償分割」にあたります。
建物は物理的に分割できないため、分割請求の対象に建物が含まれている場合、現物分割は選択できないケースがほとんどです。
また、換価分割を行うと不動産そのものを手放すことになります。
そのため今ある共有名義不動産を取り壊し、建て替えたいときは、必然的に代償分割(全面的価格賠償)を求めることになるでしょう。
共有物分割請求は、他の共有者が提案に同意してくれるかどうかによって以下の段階に分けられます。
- 共有物分割協議:共有者のみで話し合いをする
- 共有物分割調停:調停委員を交えて話し合いをする
- 共有物分割請求訴訟:裁判によって共有物の分割方法を決定してもらう
共有者同士の協議で話がまとまればそれに越したことはありませんが、どうしても提案に応じてくれない場合は訴訟へ発展する可能性もあります。裁判では必ずしも自身の望む分割方法になるわけではないため、なるべく話し合いで解決するのがおすすめです。
なお、「協議」は必須です。調停は必ずしも行う必要はありませんが、協議を行わずはじめから「訴訟」を申立てることはできません。
共有物分割請求訴訟の費用や手順については、以下の記事でわかりやすく解説しています。ぜひ参考にしてください。
共有者の同意が得られない場合は弁護士に相談しよう
共有者から取り壊しや建て替えの同意が得られない場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
共有不動産に関する話し合いは、それぞれの利害や感情がぶつかり長期化することが多々あります。結局話がまとまらず、裁判に発展するケースも珍しくありません。
不動産トラブルに強い弁護士なら、法的知識や経験、過去の判例などから、依頼主の望みに沿った方法で解決へと導いてくれるでしょう。
他の共有者との交渉を代行してくれるため、ストレスを軽減できるのも弁護士に相談するメリットです。また、裁判になった際も「全面的価格賠償」を勝ち取ってくれる可能性が高まります。
まとめ
共有名義不動産を建て替え・取り壊す際の条件や注意点、流れについて解説しました。
共有不動産の取り壊しや建て替えは、基本的に他の共有者全員の同意がないと行えません。同意を得ずに取り壊しや建て替えを強行すると、罪に問われる可能性があるため注意しましょう。
また、取り壊しは「減税措置が受けられるタイミング」で実行するのも重要です。
共有者全員から同意が得られない場合に取れる手段は、他の共有者の持分を買い取って単独所有にするか、共有物分割請求を行うことです。
しかし、持分の買取や分割請求が必ずしもスムーズに進むとは限りません。最終的に訴訟に発展することもあるため、話し合いで同意が得られなければ不動産トラブルに強い弁護士へ相談するのがおすすめです。
それでも自分の希望どおりにならないときは、共有状態を解消するため、自身の持分を共有持分専門の買取業者へ売却することも検討しましょう。