共有持分を相続放棄したい方が絶対に知っておきたいこと!共有持分は「相続後に売却」がおすすめ
共有持分は相続放棄できます。
ただし、遺産のうち「共有持分のみ」を相続放棄することはできません。その理由は、相続放棄とはプラスの財産とマイナスの財産をすべて放棄することだからです。
確かに共有持分を相続する場合、他の共有者とのトラブルが生じる可能性があるため、相続放棄を選択したい方もいるでしょう。
しかし、預貯金や株式などといったプラスの遺産が多い場合は、相続放棄によってそれらすべても放棄することになり、損をしてしまう恐れがあります。そのため、他の遺産は相続したいけれど、共有持分の面倒ごとには巻き込まれたくない場合は一旦、共有持分を相続しておき、その後すぐに売却することをおすすめします。
ちなみに、自分の共有持分を売却するのに共有者の同意は不要で、独断で行えます。他の共有者や専門の買取業者に売却しましょう。
今回は、共有持分の相続放棄ついて詳しく解説しますので、相続放棄をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
共有持分は相続放棄が可能
共有持分を相続する場合、「不動産を共有する場合の5つのリスク」でも解説するように、他の共有者とのトラブルが発生するリスクも伴うので相続したくないという方もいるでしょう。
結論から言うと相続人は共有持分を相続放棄できます。
相続放棄するには、相続放棄申述書を家庭裁判所へ提出して手続きを行います。
相続放棄の詳しい手続きについてはこちらの記事を参照ください。
ただし「共有持分のみ」を相続放棄することはできない
ただし、相続財産のうち、共有持分のみの放棄はできません。
なぜなら、先述の通り相続放棄とは、一切の財産の相続を放棄することであるためです。
そのため、共有持分のみの相続を放棄するといった、特定の遺産に対してだけ相続を放棄することはできません。
共有持分を相続放棄するとどうなるのか
次に、共有持分の相続放棄によって何が起こるのか、ケース別にて解説します。
共有持分を相続放棄した場合、基本的には次の相続順位の相続人に相続権が移ります。
また、すべての相続人が相続放棄を選択したり、そもそも相続人がいない場合、遺産を管理・清算する相続財産管理人が選任され、債権者への支払いに充てます。もし、支払い後に共有持分が残っている場合は、家庭裁判所によって選ばれた特別縁故者が受け取ることになります。
共有持分を相続放棄して他に相続人がいる場合
法定相続人が相続順位で決まることを前提に、共有持分を相続放棄して他に相続人が存在する場合、どうなるのか見てみましょう。
一例として、以下のケースを紹介します。
- 夫と妻、長男、長女の4人家族
- 夫と妻の共有名義の不動産がある
- 持分割合はそれぞれ1/2ずつ
- 夫が死亡して相続が発生
- 長女が相続放棄を選択
上記の場合、長女が相続放棄を選択したことで相続人ではなくなります。よって、配偶者の妻が夫の共有持分の1/2を、長男が夫の共有持分億1/2をそれぞれ相続することになります。
もう1つ例を挙げてみましょう。
- 夫と妻、長女の3人家族
- 夫と妻の共有名義の不動産がある
- 持分割合はそれぞれ1/2ずつ
- 夫が死亡して相続が発生
- 長女が相続放棄を選択
- 夫の父親は存命
この場合、長女が相続放棄によって相続の権利を失うため、妻が夫の共有持分の2/3、夫の父が共有持分の1/3をそれぞれ取得することになります。
相続人全員が相続放棄したり、そもそも相続人がいなかったりする場合
相続人全員が相続放棄したり、そもそも相続人がいなかったりする場合は、遺産として遺された共有持分はどうなるのでしょうか。
この状況について、民法第255条には以下のように明記されています。
ただし、すぐに他の共有者に帰属するわけではありません。この場合、相続財産清算人を選任し、債権者への支払いなどを行う必要があります。
支払いが完了してさらに共有持分が残っている場合は、他の相続財産とともに特別縁故者に対する財産分与の対象となります。
被相続人と特別な関係にあって、生計を共にしていた人や特に親しかった友人などの第三者が、特別縁故者になり得ます。
不動産を共有する場合の5つのリスク
不動産を共有する場合、以下に挙げる5つのリスクが伴います。
- 他共有者の利用を防げない
- 自由に不動産全体を売却できない
- 自由に不動産全体を賃貸できない
- リフォームしたい場合も他共有者の許可が必要
- さらなる相続によって共有者が際限なく増えてしまう
このようなリスクが発生するのは、共有不動産に対する行為に対して、以下のような制限が設定されているためです。
行為 | 行為の内容 | 行為の具体例 | 行為の制限 |
---|---|---|---|
変更行為 |
・共有物の形に変更を加える ・共有物の性質に変更を加える |
・共有不動産の売却 ・共有不動産の増改築など |
共有者全員の同意が必要 |
管理行為 | 共有物を利用する行為 | 共有不動産の賃貸借契約 | 共有者の持分価格における過半数の同意が必要 |
保存行為 | 共有物の現状を維持する行為 |
・共有不動産の修繕 ・共有不動産の不法占拠者への明け渡し請求など |
共有者が独断で対応可能 |
不動産を共有で相続する場合のリスクについて詳しく解説します。
他共有者の利用を防げない
共有状態にある不動産では、他の共有者が不動産を利用するのを防げません。
共有名義の不動産では、すべての共有者が不動産全体に対する使用収益権を持っているためです。
共有名義の不動産では、各共有者の持分割合が設定されています。しかし、持分割合に関係なく、共有者は不動産全体を使用する権利があります。
そして、他の共有者は、他の共有者が不動産を使用するのを妨げることはできません。
そのため、共有者の誰かが不動産を利用したいと視聴した場合、すべての共有者の協議によって使用の是非を決定する必要があります。
また、不公平にならないように、使用できない人に対して使用する人が金銭を支払うことについても話し合わなければなりません。
事前に協議をしておかなければ、後からトラブルに発展する恐れもあります。
自由に不動産全体を売却できない
共有で相続した不動産全体は、特定の共有者が自由に売却することができません。
共有不動産の売却は変更行為に該当するため、共有者全員の同意が必要になるためです。
これは、民法第251条に明記されています。
例えば、不動産を4人で共有している場合、4人全員が同意しない限り、不動産全体の売却は不可能です。
不動産全体の売却を希望する場合は、他の共有者からの同意を得るための協議や交渉が必要になります。
関連記事:共有不動産を共有者全員で売却する流れ!注意点やトラブルの対処法なども解説
自由に不動産全体を賃貸できない
共有状態にある不動産は、ある共有者が第三者に貸し出したいと考えても、自由に賃貸には出せません。
これは、共有物の管理行為に該当するためです。
共有物の管理行為を行うためには、各共有者の持分価格に従い、過半数の同意を得る必要があります(民法第252条)。
仮に、収益目的で不動産を相続した場合でも、共有名義にしてしまうと、共有者の同意がなければ収益化はできなくなります。
リフォームしたい場合も他共有者の許可が必要
不動産を共有で相続した場合、リフォームをするにも他の共有者の同意が必要になる場合があります。
共有不動産の現状を維持するためのリフォームは、どの共有者でも単独で行えます。
しかし、資産価値を高めるリフォームや、軽微ではない(補修の範囲を超える)リフォームを行う場合は、共有者の持分における過半数の同意が必要です。
そのため、共有名義で相続した場合、必要なリフォームを行えない可能性があり、不動産価値が下がる恐れがあります。
さらなる相続によって共有者が際限なく増えてしまう
不動産が共有状態の場合、相続が重なることで共有者が増えてしまうリスクがあります。
例えば、不動産の共有者の1人が亡くなった場合、共有持分が相続されることになります。法定相続人が複数存在すれば、その分共有者が増えてしまうのです。
また、共有者の自分が死亡した場合、自分の子どもや孫に共有持分を相続させることになります。
相続が繰り返されるたびに共有者が増加し、誰が共有者なのか把握することすら難しくなる状況が発生する恐れもあるでしょう。
共有者が増加するほど権利関係が複雑になるほか、変更行為や管理行為のための同意を得ることが難しくなるため、トラブルが発生しやすくなるのです。
仮に、不動産全体の売却を求める際は、共有者を探すことから始めなければならないこともあるでしょう。
共有持分は相続放棄せずに売却する方が良い
もし、上記のような共有持分のリスクを避けたいがために相続放棄を選択すると、預貯金や株式などといったプラスの遺産までも放棄してしまいます。
そのため、他の遺産は相続したいけれど、共有持分の面倒ごとには巻き込まれたくない場合、相続放棄よりも、一度相続してからすぐに売却する方がよいでしょう。
ここでは、相続後に共有持分を売却する方法について解説します。具体的な方法は以下のとおりです。
- 他共有者に自分の持分を売却する
- 専門の買取業者など第三者に自分の持分を売却する
それぞれ詳しく解説します。
なお、共有名義不動産の売却方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
他共有者に自分の持分を売却する
相続後に自分の共有持分を売却したい場合、他の共有者に売るという方法があります。
同じ不動産の共有者に相談ができる人がいる場合は、自分の持分を買い取ってもらえないか持ちかけてみるといいでしょう。
ただし、この場合は売却金額で揉める可能性があるため、不動産鑑定を受けて金額を決めることをおすすめします。
鑑定には費用がかかるものの、国による不動産の評価方法によって鑑定してもらえるため、双方が納得できる可能性が高いといえます。
また、不動産鑑定の結果は公的な証拠資料としても利用可能なため、売却後のトラブルも避けられるでしょう。
専門の買取業者など第三者に自分の持分を売却する
相続後に共有持分を売却したいなら、第三者に自分の持分を売却する方法もあります。
第三者にあたるのは、個人や投資家、不動産買取業者などです。
ただし、共有持分は自由に活用できないため、個人や投資家が購入することはほぼありません。そのため、共有持分の買い取りを専門に行う業者に売却を依頼することになります。
専門の買取業者であれば、共有持分の買取実績と買取後のノウハウを豊富に持っているため、買い取ってもらいやすいといえます。
ただし、業者によって提示される買取価格が異なるため、複数の業者に査定を依頼して比較することが大切です。
なお、共有持分の売却はクランピーリアルエステートにご相談ください。
共有持分も買取実績が豊富で、売却しづらい不動産も高額で買い取ります。また、弁護士や司法書士など士業とも連携しており、共有持分の売却をしっかりサポートいたします。
また、共有持分の売却相場について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
それでも共有持分を相続放棄した方が良いケース
ここでは、共有持分を相続放棄した方がいいケースについて解説します。以下に該当する場合は、共有持分の相続放棄を検討した方がいいでしょう。
- プラスの財産よりマイナスの財産が上回っている場合
- 相続トラブルを避けたい場合
それぞれ詳しく解説します。
マイナスの財産が多い場合
遺産のうち、マイナスの財産が多い場合は、相続放棄を選択した方がいいでしょう。
相続放棄を選択することで、借金やローンの返済といったマイナスの財産の相続を避けられるためです。
マイナスの財産が多い状況(債務超過)で全ての遺産を相続した場合、遺産によって支払いきれない債務を、相続人が支払っていかなければなりません。
また、税金や保険料の未払いがあった場合、自己破産をしても免責とはならないため、相続人が不利益を被ることになります。
なお、債務超過かどうか判断が難しい場合は、限定承認の検討が必要です。
限定承認を選択した場合、資産と負債を差し引いてプラスなら相続でき、マイナスの場合は相続しなくて済みます。
具体的な財産の調査方法は以下のとおりです。
- 相続財産の負債額を調査する
- プラスの財産を調査する
- プラスの財産とマイナスの財産を比較する
相続財産の負債額を調査する
相続放棄の是非を判断するためには、被相続人が遺した負債額を把握することが大切です。
まずは、相続財産における負債額を調査しましょう。
法定相続人は、被相続人の個人信用情報を調査する権限を持っています。そのため、信用情報機関に対して被相続人の情報開示請求を行い、債務残高やローンなどの返済状況を調べられます。
個人信用情報を扱う機関は、以下の3つです。
- CIC(株式会社シー・アイ・シー)
- JICC(株式会社日本信用情報機構)
- KSC(全国銀行個人信用情報センター)
各信用情報機関に対して、郵送やインターネットなどを通じて情報開示請求を行いましょう。なお、開示請求の手順は、信用情報機関によって異なるため、それぞれの公式サイトで確認しましょう。
プラスの財産を調査する
相続放棄の判断のためには、マイナスの財産だけではなく、プラスの財産の調査も必要です。
被相続人の遺産のうち、プラスの財産が多い場合は、相続放棄を選択しない方がいいケースもあるからです。
プラスの財産の調査は以下のように行います。
- 金融機関の預貯金を調査する
- 株式などの有価証券を調査する
- 仮想通貨、保険積立金、ゴルフ会員権などを調査する
- 不動産の有無を調査する
- 貴金属や自動車、美術品などを調査する
遺産のうち、プラスの財産の方が多く、相続放棄のデメリットが多くなる場合は、相続を承認したうえで、自分の共有持分の売却を検討した方がいいでしょう。
もし、持分の売却を検討する場合は、事前に相続する持分の価値を調べておくのがおすすめです。
ただし、共有持分の価格を個人で調べるのは難しいため、専門業者に調査を依頼した方がいいでしょう。
共有持分の買い取り価格は、不動産全体のうちの持分割合といったような単純な計算では算出されないためです。
不動産の立地や共有者の人数、土地と建物の持分が揃っているかによって異なるほか、調査を依頼する業者によっても変動するためです。
複数の共有持分の買取業者に調査を依頼して、提示される金額から価値を把握したうえで、利用したい買取業者を選びましょう。
プラスの財産とマイナスの財産を比較する
プラスの財産とマイナスの財産を調査できれば、それぞれの総額を比較しましょう。
プラスの財産額が上回っている場合は相続を承認し、マイナスの財産が上回っている場合は、相続放棄を選択することを検討してください。
なお、プラスの財産が多くて相続を承認して、相続登記を行ったうえで、自分の共有持分を売却すると、手にできる金銭が多くなるメリットがあります。
状況によって適切な選択が異なりますので、十分に検討して判断してください。
相続トラブルを避けたい場合
相続トラブルを避けたい場合も、共有持分を相続放棄した方がいいでしょう。
相続が発生した際に遺言書がなく、かつ相続人が複数いる場合は、遺産分割協議によって遺産の分け方を決定する必要があります。
遺産分割協議は全員が合意しないと成立しないため、相続人同士で揉めた場合は、遺産分割調停や審判の結果を仰ぐことになり、解決するまでに数年かかるケースもあります。
相続放棄を選択すれば、初めから相続人ではなかった扱いとなるため、遺産分割協議に参加する必要はなく、調停に発展しても参加は不要です。
共有持分を相続放棄する場合の3つの注意点
共有持分を相続放棄する場合、以下の注意点があります。
- 相続放棄には期限がある
- 相続財産に手を付けていたら相続放棄ができない
- 一度相続放棄すると撤回できない
それぞれ詳しく解説します。
相続放棄には期限がある
相続放棄は、相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に行う必要があります。
この期限までに相続放棄や限定承認を選択しなかった場合、相続を単純承認(通常通り相続すること)したとみなされます。
プラスの財産よりも、借金やローン、税金の滞納などの負債が多い場合、それらも引き継ぐことになるため注意が必要です。
期限内に相続放棄の是非を判断できるよう、相続が発生した際はできるだけ早く財産調査を行いましょう。
相続財産に手を付けていたら相続放棄ができない
相続放棄をする前に、相続財産に手を付けている場合、相続放棄は選択できません。
例えば、被相続人の財産を使ってしまった場合、民法上の法定単純承認に該当するため、相続放棄ができなくなります。
相続放棄の是非を選択するためにも、被相続人の財産には手を付けないようにしましょう。
一度相続放棄すると撤回できない
一度相続放棄を選択すると、その後に撤回することはできません。
例えば、財産調査の後に、被相続人に想定外の財産が見つかった場合でも、相続放棄を選択した後であれば、引き継ぐことはできません。
これは、相続放棄の期限(相続開始から3ヶ月)内であっても、撤回不可能です。
そのため、相続財産に関する調査を入念に行い、そのうえで相続放棄を選択するかどうか慎重に判断する必要があるでしょう。
まとめ
共有持分は相続放棄できますが、それのみを相続放棄することはできません。
共有持分の所有にはさまざまなリスクが伴うため相続放棄したい方もいるでしょう。
しかし、相続放棄は一切の財産を放棄することなので、もしプラスの遺産が多ければ、相続後に自分の共有持分を売却すると良いでしょう。
本記事を参考に共有不動産の相続放棄の是非について、しっかり考えてみてください。