【ひな形付き】共有名義不動産の売却で委任状が必要なときとは?注意点についても解説

【ひな形付き】共有名義不動産の売却で委任状が必要なときとは?注意点についても解説

共有名義不動産を売却することになったものの、なかなか共有者との都合がつかなかったりやむを得ない事情があったりなどで、「手続きを代理人に一任したい」と考えている人もいるのではないでしょうか。

共有者が共有名義不動産の売却に立ち会えない場合、代理人を立て委任状を作成する必要があります。自分の持分だけでなく「不動産全体」を売却するなら、原則共有者全員の立ち会いが必要であるためです。

委任状は、以下の流れで作成します。

  1. 代理人を決める
  2. 委任内容を決める
  3. 必要な書類を集める
  4. 委任状を作成する

また、フォーマットはとくに決まっていませんが、以下のように記載すべき事項はあります。

  • 売買物件の表示
  • 権限の範囲
  • 売却の条件
  • 委任状の有効期限
  • 委任状の日付
  • 委任者の住所・氏名
  • 受任者の住所・氏名

なお、委任状を作成するときは、「委任内容を明確に記載する」「捨印を押印しない」といった点に注意しながら作成する必要があります。

自分で作成するのが不安なら、司法書士や弁護士に作成を依頼するのもよいでしょう。そのまま代理人になってもらうことも可能であるため、無理だと感じたら相談することをおすすめします。

この記事では、共有名義不動産売却に使用する委任状に関する注意点や作成の流れについて解説します。トラブルを回避するためのひな形も用意しているため、ぜひ作成に役立ててください。

共有名義の不動産売却で委任状が必要なシーンとは?

共有名義の不動産売却で委任状が必要になるのは、以下のような理由で共有者が売買契約時に立ち会えないケースです。

  • 売却する不動産が遠方にある
  • 共有者がケガや病気で動けない・入院している
  • 都合のつかない共有者がいる

自分の持分だけを売却するなら、自分の意思だけで売却できます。

しかし「共有名義の不動産全体」を売却するなら、原則共有者全員の立会いが必要です。

なぜなら共有者は、売却によって所有権を失うことになるためです。たとえ利益を得られるとしても、それぞれが自分の意思で契約しなければなりません。

たとえば持分が100分の1など、わずかな割合しか有していないケースでも同様です。

多人数で共有する物件を売却する場合、「売却する不動産が遠方にある」「共有者が入院している」といった事情から、共有者全員が売却に立ち会えないこともあります。

そのような場合には委任状を作成し、家族・親族やほかの共有者、司法書士などの専門家に代理人として立ち会ってもらうことが可能です。

【委任状とは】
代理人が代理権を有していることを証明するための書類。代理人に選ばれた人が委任者本人の代わりに「法律行為」を行い、その行いによって生じた効果は委任者におよぶ。

共有名義の不動産売却で使う委任状作成の流れ

共有名義の不動産売却に使用する委任状は、以下の流れで作成します。

  1. まずは代理人を決める
  2. 代理人が決まったら、委任する内容をできるだけ細かく決める
  3. 「印鑑登録証明書」や「住民票」など、委任状作成に必要な書類を集める
  4. 集めた書類をもとに委任状を作成する

それぞれ流れに沿って解説します。

1.代理人を決める

まずは「代理人を誰にするか」を決めます。家族・親族や共有者、弁護士・司法書士といった専門家に依頼するケースが一般的です。

代理人には特別な基準や条件などが定められていないため、委任する側が委任状を作成し、代理人を指名すれば誰でも代理人になれます。

しかし、誰でもなれるからといって「誰を選んでもよい」というわけではありません。不動産売買では大きな金額が動くケースが多く、安易に選ぶとトラブルになるおそれがあるためです。

たとえば、「2,000万円の不動産を1,500万円で売ってほしい」と買主から値引き交渉を持ちかけられたとします。

このとき、代理人が委任者の意見を聞かずに了承した場合でも「委任者の意思」であるとみなされるため、委任者は代理人に委任したことによって500万円損をする結果になります。

なお、共有者の中から代表者を立てて取引するケースもありますが、関係が良好でない場合はトラブルになる可能性があるため注意が必要です。人選は慎重に行う必要があることを念頭に置いておきましょう。

信頼のおける相手か、費用をかけて専門家に依頼することをおすすめします。共有者間の関係が良好なら、共有者のうち1人が共有者全員の代理人になるのもよいでしょう。

共有持分の売却を弁護士に依頼するメリットや費用については、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。

2.委任する内容を決める

代理人が決まったら、「何をどこまで委任するか」を決めます。代理人に与える権限を明確にしておかないと、売却トラブルに発展してしまうおそれがあるためです。

よくある売却トラブルには、委任者の意向に背くような条件に了承したり、勝手に値引きに応じたりといったことがあります。また、中には買主と共謀し、値引きに応じる代わりに謝礼をもらうなどの不正を働くケースもあります。

権限が不明確な場合、代理人が勝手なことをしても「委任状の内容に反している」とはいえません。そのため、委任事項はできるだけ細かく設定し、余計な権限を与えないようにする必要があるでしょう。

委任状の内容については、次章で詳しく解説します。

3.委任状作成に必要な書類を集める

委任内容が決まったら、委任状作成に必要な書類を集めます。

委任状作成には、以下の書類が必要です。

書類名 取得場所・方法など 手数料
委任者・代理人の
印鑑登録証明書+実印
市区町村役場・地区センター・コンビニなど
(印鑑登録証明書)
200〜300円
委任者の住民票の写し
または戸籍附票
市区町村役場・地区センター・コンビニなど 200〜300円
委任者・代理人の
本人確認書類
運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど
(顔写真つき)
売却する不動産の
登記事項証明書
法務局・郵送・オンライン 480〜600円

委任者も代理人も、印鑑登録証明書+実印が必要です。

印鑑登録証明書は、取得から3カ月以内のものでなければなりません。共有者に押印してもらう作業に時間がかかりそうなときは、早い段階で取得してしまうと期限が切れてしまう可能性があるため、取得のタイミングを調整しましょう。

住民票や戸籍附票、印鑑登録証明書は市区町村役場や地区センターなどで取得できます。「コンビニ交付」に対応している市区町村であればコンビニでも取得可能ですが、取得にはマイナンバーカードが必要です。

注意点は、印鑑登録証明書を市区町村役場や地区センターで取得するときは「印鑑登録カード」が必要なのに対し、コンビニでは「マイナンバーカード」でしか取得できない点です。

そのほか、委任者と代理人それぞれの本人確認書類も用意する必要があります。顔写真つきのものが必要ですが、なければ不動産会社に確認しましょう。

なお、委任状に不動産の情報を正しく記載するために「登記事項証明書」の取得もおすすめします。

【登記事項証明書とは】
法務局に備わっている登記の情報を記載した証明書のこと。土地・建物の所在や地目(土地)、構造(建物)、所有者情報などが確認できる。

登記事項証明書は取得方法によって手数料が異なります。

  • 窓口請求・窓口受取:600円
  • オンライン請求・郵送:500円
  • オンライン請求・窓口受取:480円

参照:コンビニ交付|地方公共団体情報システム機構
参照:登記事項証明書(土地・建物),地図・図面証明書を取得したい方|法務局

4.委任状を作成する

委任状作成に必要な書類を取得したら、委任状を作成します。

委任状には、法律で定められているフォーマットが存在しません。そのため、必要な事項が記載されていればコピー用紙やメモ帳などでも問題なく、ある程度は委任者の好きなように作成できます。

ただし、不動産会社によっては指定の書式が用意されている場合があるため、作成前に確認しておいたほうがよいでしょう。

また、パソコンでの作成も可能ですが、委任者・代理人(受任者)の住所・氏名はそれぞれが自書する必要があります。パソコンで作成するなら、住所・氏名以外のところのみ入力し、住所・氏名の箇所は空けておきましょう。

なお、委任状の通数は、1通にまとめても共有者1人につき1通ずつ用意しても構いません。共有者の人数や遠方の人が多いケースは押印してもらうのに時間がかかるため、1通ずつ用意し一斉に発送したほうが早い可能性があります。状況に合わせて用意しましょう。

物件や共有者が多く、委任状が複数枚にわたるときは、前後のページにまたがって押印する「契印」が必要です。

不動産売却時で使用する委任状を作成するときの注意点

不動産売却で使用する委任状を作成するときは、以下の点に注意しましょう。

  • 委任内容は明確に記載しておく
  • 委任状の一番下に「以下余白」と記載する
  • 捨印を押印しない
  • 委任状の有効期限を記載する
  • 実印を使用して印鑑証明書も添付する

それぞれ解説します。

委任内容は明確に記載しておく

委任内容は明確に記載しましょう。拡大解釈されるとトラブルのもとになるため、代理人に委任したいことだけを限定して記載することが重要です。

たとえば、以下のような内容を記載します。

  • 不動産の売買契約の締結に関する権限
  • 売買代金受領に関する権限
  • 所有権移転登記に関する権限

代理人の権限を広げてしまうため、「すべて」「一切の件」といった表現は避けたほうが無難です。反対に、「代理人に行ってほしくないこと」を挙げておくのもよいでしょう。値引き対応をさせないために、「条件変更の際は委任者に相談する」といったルールを設けておくことも大切です。

そのほか、「白紙委任状」にも注意が必要です。

【白紙委任状とは】
委任内容が記載されていない状態の用紙に署名・押印し、内容を代理人に任せること。認められた代理権の範囲を超えて法律行為を行う「表見代理」などの契約トラブルが起こるおそれがある。

売買契約に不慣れで「すべて任せたい」と思っても、白紙委任は行わないようにしましょう。

白紙委任=権限を無制限に認めるのと同じです。代理人が委任状を用意する場合でも、完成した委任状に目を通し、こちらに不利な内容が書かれていないことを確認してから署名・押印することをおすすめします。

委任状の一番下に「以下余白」と記載する

委任状が完成したら、委任状の一番下に「以下余白」と記載しましょう。

委任内容の下に余白があると、あとから余白部分に内容を書き加えられる可能性があるためです。とくに大きな余白ができる場合は要注意です。

あわせて、文末には「以上」と記載しましょう。「ここで完結である」という意思表示になるため、勝手に内容を追記されることを回避できます。

行間などにも追記できないよう、余分なスペースをつくらず詰めて作成することをおすすめします。

捨印を押印しない

「捨印を押さない」ようにすることも注意点の1つです。

【捨印とは】
委任内容の訂正に備え、委任状の余白部分にあらかじめ押印しておくこと。捨印があれば、あらためて押印したり委任状を作成し直したりといった手間をかけずに訂正できる。

押印後にミスが判明した場合、訂正のために再度押印してもらう必要があります。

そのため、訂正の手間を考えてあらかじめ捨印をもらっておくことがありますが、あまりおすすめできません。捨印が押された委任状は、代理人が勝手に内容を変更したり委任事項を加えたりできるためです。

せっかく隙のない委任状を作成しても、捨印を押すことでいくらでも変更可能になってしまい、自分の意思を無視した内容の委任状になるおそれがあります。代理人から捨印を求められることがありますが、内容の改ざんを防ぐためにも、安易に押印に応じないようにしましょう。

「共有持分を勝手に売り出されたらどうなるか」について知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。

委任状の有効期限を記載する

委任状には、必ず委任状自体の「有効期限」を記載しましょう。

有効期限を記載しておけば、「代理人の代理権がいつまで有効なのか」が一目でわかるためです。また、トラブルの際、「代理人に対してたしかに委任した」という証明にもなります。

有効期限を明記しなければ、いつまでも委任状の効力が続くため、売買契約が成立しなかったときでも代理権が失われず、委任状を悪用されたり流用されたりといったリスクがあります。トラブル回避のため、日付は「月日」まできちんと記載するようにしましょう。

なお、有効期限は数カ月〜半年程度に設定することが一般的です。

実印を使用して印鑑証明書も添付する

委任状への押印は実印を使用し、印鑑登録証明書を添付しましょう。

委任状の形式には法的なルールがありません。そのため使用する印鑑は実印ではなく、たとえば三文判でも問題ありません。

しかし、不動産売買は高額な取引であるケースが多いため、実印による押印+印鑑登録証明書を求められることが一般的です。実印は、「間違いなく本人の印鑑である」という証明であり、委任状の印影が実印であると証明できる印鑑登録証明書を添えることで信用度が格段に上がります。

一方で、誰でも購入できる三文判などでは簡単に委任状を偽造できるため、「本当に代理人なのか」と買主が不安に感じる可能性があります。とくに「シャチハタ」は契約向きではないため、やめておきましょう。

もし印鑑登録を行っていない場合は実印を用意し、市区町村役場で印鑑登録を行うことをおすすめします。

【ひな形】不動産売却時の委任状

ここまで不動産売却時の委任状を作成する際の流れや注意点について解説してきました。

ここでは実際に記載する内容や委任状のひな形を紹介します。

  • 委任状には代理人の住所・氏名や不動産の表示、委任の範囲などを記載する
  • 委任状はここまでで解説したポイントやここで紹介するひな形を参考にしながら作成する

委任状に記載する内容

委任状には、以下のような内容を記載します。

売買物件の表示 ・土地:所在・地番・地目・地積
・建物:所在・家屋番号・種類・構造・床面積
権限の範囲 ・不動産の売買契約の締結に関する権限
・売買代金受領に関する権限
・所有権移転登記に関する権限
売却の条件 ・売却金額
・手付金額
・引渡し予定日
・売買契約を解除する際の解約金
・公租公課(固定資産税など)の分担起算日
・禁止事項
委任状の有効期限 委任から数カ月〜半年程度(目安)
委任状の日付 代理人に委任をした日
委任者の住所・氏名 委任する人の署名+実印での押印
受任者の住所・氏名 代理人の署名+実印での押印

上記に加え、「不動産売買契約の締結の権限を代理人に委任する」旨を文書内に記載します。

委任状のひな形

ここでは、委任状のひな形を紹介します。

これまでに解説したポイントや、以下のひな形を参考にしながら作成してみましょう。

署名・押印した委任状はコピーをし、保管しておきましょう。

共有名義不動産の売却に必要な委任状のひな形

共有名義不動産を売却するときの流れ

共有名義不動産を売却するときの流れは以下のとおりです。

  1. まずは共有者を調査し確定する
  2. 売却について共有者全員の合意を得たうえで「合意書」を作成する
  3. 不動産会社と媒介契約(「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」)を結ぶ
  4. 売買価格や引渡し条件などに双方が合意したら買主と売買契約を結ぶ
  5. 売買物件の引渡し・売買代金の決済を行う
  6. 共有名義不動産の売却によって利益が出たときは確定申告を行う

流れに沿って解説します。

1.共有者を確定する

まず、共有者を調査し確定します。

相続の発生によって、亡くなった共有者の前婚での子どもや認知した婚外子といった面識のない人に代替わりしている可能性があるためです。知らないうちに、共有者が自分の持分を売却しているケースもあります。

現在の共有者は、「登記事項証明書(登記簿)」で確認できます。委任状を作成する際に使用するため、取得しておきましょう。

登記事項証明書の取得方法は以下のとおりです。

  • 法務局の証明書発行窓口
  • 郵送請求
  • オンライン請求

そのほか、ネット上で登記情報を確認できる「登記情報提供サービス」を利用する方法もあります。個人の場合は登録費用に300円かかりますが、所有者が確認できる「所有者事項の情報」であれば141円で取得可能です。

また、「登記記録の全部の情報」を取得すれば、登記事項証明書のように登記官の認証文や職印がないため証明書としては利用できませんが、登記事項証明書と同じ内容が確認できます。

登記情報提供サービスであればその場ですぐに取得できるため、法務局に出向けず郵送も待てないという場合におすすめです。

なお、共有者の所有権移転登記時点の住所は登記事項証明書に記載されていますが、その後転居などで行方がわからなくなった場合は、「不在者財産管理人制度」を利用するとよいでしょう。

【不在者財産管理人制度とは】
行方がわからなくなった「不在者」の財産を管理する人を裁判所が選ぶ制度のこと。不在者財産管理人は、不在者との関係性や利害関係の有無を考慮して選任され、ときには弁護士や司法書士といった専門家が選ばれる。

参照:登記情報提供サービス|一般財団法人民事法務協会
参照:不在者財産管理人選任|裁判所

2.売却について共有者全員の合意を得る

共有者が確定したら、共有名義不動産を売却することについて共有者全員から合意を得ます。

共有名義不動産全体を売却するには、共有者全員の合意が必要であるためです。共有者のうち、1人でも売却に反対していると売却できません。

共有者の合意がなければ、持分専門の買取業者に自分の持分のみ売却することを検討しましょう。

共有者全員の合意が得られた場合は、あとから「合意した覚えはない」などと言われないために、「合意書」の作成をおすすめします。

【合意書とは】
話し合いの合意内容を書面化したもの。訴訟に発展した場合、当事者が合意した証拠として利用できる。

共有者の同意なしに家を売却する方法については、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。

3.不動産会社と媒介契約を結ぶ

共有者全員の合意が得られたら、不動産会社と媒介契約を結びます。不動産を売却する場合、不動産会社と媒介契約を結び仲介してもらうケースが多いです。

なお、媒介契約には以下の3種類があります。

一般媒介契約 同時に複数の不動産会社と契約できる
専任媒介契約 不動産会社1社としか契約できないが、売主本人が買主を探し売却することは可能
専属専任媒介契約 不動産会社1社としか契約できず、その1社が仲介した買主以外には売却できない

「一般媒介契約」は自由度の高さが魅力ですが、同業他社にとられると利益にならないため、不動産会社が積極的に販売活動をしてくれない場合があります。

「専任媒介契約」は、不動産会社に買主を探してもらいながら自分でも探せる点はメリットといえるでしょう。しかし、営業担当者の力量次第では売却までに時間がかかる可能性があります。

「専属専任媒介契約」は、不動産会社が積極的に販売活動をしてくれる傾向にあり早く売れやすいですが、途中解約できない・自分で探した買主に売却できないといったデメリットがあります。

なお、不動産会社と契約するには、以下の書類が必要です。

  • 登記識別情報通知(権利証)
  • 共有者全員の身分証明書・住民票または戸籍附票・印鑑証明書+実印
  • 委任状
  • 境界確認書・境界確定図

そのほか、位置図(住宅地図・都市計画図など)や公図があると相談がスムーズに進みます。

公図とは、法務局に備わっている、土地の形状や隣地との関係がわかる地図のことです。登記事項証明書と同様に、法務局の窓口やオンラインで取得できます。

4.買主と売買契約を結ぶ

買主が見つかり、売買価格や引渡し条件などに売主・買主の双方が合意したら売買契約を結びます。売買契約を行う場所にとくに決まりはありませんが、不動産会社の事務所や自宅、弁護士・司法書士の事務所などで行われるのが一般的です。

売買契約書・重要事項説明書の内容を確認し、当事者それぞれが署名・押印します。

【重要事項説明書とは】
支払方法や契約解除の際の規定などが記載された書面のこと。「宅地建物取引士」から買主に対して説明が行われる。

そのほか、手付金も契約日当日に支払われます。

5.引渡し・決済

買主と売買契約を締結したら、物件の引渡しと売買代金の決済を行います。引渡しと決済は同日中に行うことが多く、さらに所有権を売主から買主へと移す「所有権移転登記」の手続きも同時に行います。

売買物件に「抵当権」が設定されているなら、「抵当権抹消登記」も必要です。

【抵当権とは】
住宅ローンなどの借入をする際に、債権者が土地や建物に設定する権利のこと。ローンの返済が滞ったときに対象の不動産を競売にかけ、債権者が優先的に弁済を受けられる。
登記の種類 登記の内容 申請者・費用負担者
所有権移転登記 所有権を売主から買主に変更するための登記 買主
抵当権抹消登記 不動産に設定された「抵当権」を消すための登記 売主

所有権移転登記は買主が行うのが一般的です。それに対し、抵当権抹消登記は売主が行います。

抵当権は、住宅ローンを完済しても自然に消えるものではありません。「登記事項証明書」を確認し、抵当権が残っている場合は抹消登記を申請しましょう。

なお、登記は自分でも申請できますが、登記の専門家である「司法書士」に依頼するケースが多いです。抵当権抹消登記なら、司法書士に依頼しても1〜2万円程度で済むことが多いため、それほど大きな負担にならないでしょう。

6.確定申告

不動産売却で利益が発生したら確定申告が必要です。

「利益が発生した」といえるのは、以下の計算式で「譲渡所得」がプラスになるケースです。

譲渡所得=売買価格ー不動産取得にかかった費用(購入価格ー減価償却費)ー売却にかかった費用

上記のとおり計算し、ゼロやマイナスになるなら「利益が発生した」とはいえないため確定申告は不要です。また、プラスになる場合でも、住宅売却による譲渡所得については、以下のように節税が期待できる特例があります。

  • 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
  • 特定の居住用財産の買換えの特例

「自分が居住している家を売った」「売主と買主が親子や夫婦などの特別な関係でないこと」といった要件を満たせば、税金が軽減される可能性があります。不動産売却で利益が出たときは、特例の要件に該当するかを確認してみるとよいでしょう。

なお、特例の適用によって譲渡所得が非課税になる場合は確定申告が必要です。共有名義不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日に行いましょう。

参照:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁
参照:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁

共有名義不動産の売却方法について詳しく知りたいときは、以下の記事を参考にしてください。

まとめ

共有名義不動産の売却で委任状が必要なケースや注意点について解説しました。

共有名義不動産を売却する場合、売買契約に立ち会えないなら委任状を作成し、代理人を立てなければなりません。不動産の所有者は、原則売買契約に立ち会う必要があるためです。

委任状を作成する際は、まず代理人と委任内容を決め、必要書類を集めたうえで作成しましょう。

決まったフォーマットが存在しないためある程度自由に作成できますが、代理人によっては代理権を超えて契約を行う場合もあります。そのため「委任内容を明確に記載する」「捨印を押印しない」といった注意点を守りながら、慎重に作成する必要があるでしょう。

記事の中で紹介したひな形を参考に、不利な契約にならない委任状を作成してください。

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