共有名義不動産売却の委任状の作成方法!委任状のひな形や作成ルールも紹介

共有名義不動産を売却する際、共有者全員の同意と関与が原則として必要になります。しかし実際の現場では、「全員が同時に手続きを進めるのが難しい」というケースが非常に多くあります。
特に、共有者が遠方に住んでいたり、連絡が取りづらい状態だったりする場合、「売却の手続きを1人でまとめて進めることができないか」というご相談は少なくありません。このようなケースでは、委任状を活用して代表者が手続きを進められるようご提案することもあります。
不動産売却における委任状とは、共有者の一人が契約や登記などの手続きを他人に代理してもらう際に用意する書類です。たとえば、媒介契約の締結、売買契約の署名、登記手続き、決済などを一人の代表者が行う場合に必要となります。
実際に、共有名義不動産売却のどのような場面で委任状が必要となるのか、どのように準備・作成していくのかについて、簡単にまとめましたので参考にしてみてください。
| 項目 | 実務におけるポイント |
|---|---|
| 委任状が必要になるタイミング |
媒介契約、売買契約、決済・引渡しなどの各段階で、共有者全員が手続きに関与できない場合に必要となる。 特に「売買契約日や決済日に全員が立ち会えない」ケースは非常に多く、委任状が取引成立の前提になることもある。 |
| 委任状の作成方法 |
決まった書式はないが、実務上は物件情報・委任内容・有効期限・署名・実印などを明記するのが通例。 さらに、印鑑証明書や本人確認書類の添付が求められることが多く、共有者間でのスムーズな連携が鍵となる。 |
当記事では、共有名義不動産売却に使用する委任状に関する注意点や作成の流れについて解説します。トラブルを回避するためのひな形も用意しているため、ぜひ作成に役立ててください。
目次
共有名義不動産の売却で用意する委任状とは?
共有名義の不動産を売却する際には、原則として名義人全員の合意と署名が必要であることが民法第251条によって定められています。
(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索
つまり、共有名義不動産を売却するには、共有者全員が売却の意思を持ち、それぞれが契約書に署名・押印し、登記手続きにも関与しなければなりません。しかし、実際にはすべての共有者が揃って不動産会社や司法書士のもとに出向くことは難しい場面が多くあります。
当社は共有名義・共有持分の買取を扱っていますが、このような相談は非常に多く、特に「共有者の一部が非協力的」「遠方に住んでいて動けない」といった理由で、売却をスムーズに進められないケースが多数を占めています。
こうした現場で活用されているのが「委任状」です。
委任状とは、特定の法律行為を他人に代わって行ってもらうための書面のことで、共有名義不動産の売却においては、共有者の1人が他の共有者の代理人として手続きを進めるために用意されます。
不動産売却における委任状は、一般的な事務手続きの委任とは異なり、重要な意味を持ちます。というのも、不動産の売却は所有権移転という法的に重大な行為であり、当事者の意思を正確に証明する必要があるからです。
実際の取引現場でも、「共有者の一部が高齢で判断能力に不安がある」「疎遠になっていて直接のやり取りができない」といった背景から、代理による売却を希望するケースが頻繁にあります。そうした際、委任状を適切に用意しておくことで、共有名義不動産の売却を止めずに済む可能性が高まります。
ただし、委任状の書き方や内容に不備があると、手続きが進まなかったり、後でトラブルになる可能性もあります。そのため、内容をきちんと整えたうえで、早めに委任状を準備しておくことが重要です。
共有名義不動産の売却で委任状が必要なシーン
共有名義の不動産を売却する際、共有者全員が一緒に売却手続きに立ち会うことができれば、委任状は必ずしも必要ではありません。しかし、実際にはすべての共有者が同じタイミングで動けるとは限らず、現場では委任状を使って代理で進めるケースが非常に多く見られます。
たとえば、共有名義不動産の売却で委任状の準備が実務上ほぼ必須なケースとしては下記が挙げられます。
- 共有者が遠方に住んでいる
- 高齢や病気などで共有者が手続きに参加できない
- 共有者間の関係が疎遠で、連絡や意思確認が難しい
- 一部の共有者が売却には同意しているが、契約や決済に参加できない
共有名義不動産の売却で委任状が必要なケースの中でも、特に多いのが共有者が遠方に住んでいる場合です。相続などで兄弟姉妹が共有者となり、各地に分かれて暮らしていると、全員の予定を合わせて一度に動くのは難しいこともあるでしょう。
当社でも、「遠方にいる状態で売却を進めたい」というご相談をいただくことがあり、その際には委任状を作成して代表者が手続きを進める方法をご提案することも少なくありません。
このように、共有者全員がそろって売却のために動けるケースは決して多くありません。だからこそ、共有名義不動産の売却時に委任状を準備するのは早い段階から検討しておくべき実務的なポイントだと言えます。
【ひな型つき】共有名義不動産を売却する際の委任状の作成方法
委任状の作成は、共有者ご本人が行う必要がありますが、実務上は「何をどこまで書けばいいのか分からない」という声も多く、当社では下記のようなひな型をご案内する形でサポートすることがあります。

※ひな型は本記事の解説用として作成したものです。実際の不動産売却に使用する際は、必ずご自身の状況に合わせて記載内容を調整するようにしてください。
委任状には、記載すべき情報がいくつかあります。内容が不足していたり、曖昧な表現があると、共有名義不動産の売却手続きが進まない可能性があるため注意が必要です。
以下の項目が、一般的に委任状に記載される内容です。実際の状況に応じて、必要な項目を過不足なく盛り込むことが大切です。
| 売買物件の表示 | ・土地:所在・地番・地目・地積 ・建物:所在・家屋番号・種類・構造・床面積 |
|---|---|
| 権限の範囲 | ・不動産の売買契約の締結に関する権限 ・売買代金受領に関する権限 ・所有権移転登記に関する権限 |
| 売却の条件 | ・売却金額 ・手付金額 ・引渡し予定日 ・売買契約を解除する際の解約金 ・公租公課(固定資産税など)の分担起算日 ・禁止事項 |
| 委任状の有効期限 | 委任から数カ月〜半年程度(目安) |
| 委任状の日付 | 代理人に委任をした日 |
| 委任者の住所・氏名 | 委任する人の署名+実印での押印 |
| 受任者の住所・氏名 | 代理人の署名+実印での押印 |
なお、実務上では、いくつかの典型的なミスが原因で手続きが進まなくなるケースがあります。たとえば、不動産の所在地や地番が登記簿の記載と一致しておらず、再提出が必要になったり、委任の範囲が曖昧なまま提出されたことで、登記の申請が受理されなかったというケースもあります。
取引全体に大きな影響を与える可能性があるため、委任状は慎重に準備し、可能であれば事前に専門家の確認を受けておくのが得策です。
共有名義不動産売却の委任状のひな形
以下は、共有名義不動産を売却する際に一般的に参考とされる委任状の書式例です。実際の売却手続きにおいて委任状を準備する際のイメージとしてご覧ください。
なお、委任状の作成には法律的な確認や判断が必要となる場合があります。ご自身の取引内容に応じた正確な書式が必要な場合は、司法書士などの専門家にご相談のうえ、正式な文書として作成してください。
受任者住所 ◯◯県◯◯市◯◯区◯◯◯ー◯ー◯
受任者氏名 ◯◯ ◯◯
記
私は、下記不動産に関し、私が有する共有持分(◯分の◯)の売却について、令和◯年◯月◯日付の不動産売買契約に関する一切の権限を、上記の者に委任します。
委任する権限は以下のとおりです。
1. 当該不動産の売買契約の締結に関する権限
2. 所有権移転登記その他一切の登記手続に関する権限
3. 売買代金および手付金の受領に関する権限
【不動産の表示】
土地[所在]◯◯区◯◯◯丁目
[地番]◯◯番◯◯
[地目]宅地
[地積]◯◯.◯◯㎡
建物[所在]◯◯区◯◯◯丁目
[家屋番号]◯◯番◯◯の◯
[種 類]共同住宅
[構 造]鉄筋コンクリート造2階建
[面 積]1階 ◯◯.◯◯㎡/2階 ◯◯.◯◯㎡
委任者住所 ◯◯県◯◯市◯◯区◯◯◯ー◯ー◯
委任者氏名 ◯◯ ◯◯
印
令和 年 月 日
以下余白
共有名義不動産売却時の委任状の記載例
共有名義不動産を売却する際、委任状に記載する内容は、共有者の関係性によって大きく変わるわけではありません。
しかし、実務上は「誰が誰に委任するのか」「どのような意図で代理を依頼するのか」といった背景によって、記載の仕方や受け取る側の確認内容が微妙に変わってくるケースもあります。
ここからは、兄弟・親子・夫婦のパターン別に、共有名義不動産売却の委任状の記載例をご紹介します。あくまで参考用ではありますが、実際に委任状を作成する際のイメージとしてご活用ください。
兄弟の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例
兄弟の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例は、下記の通りです。
【今回の状況】
- 相続で取得した不動産を兄弟で2分の1ずつ共有している
- 弟が代表して売却を進め、兄が弟に委任する
- 兄は遠方に住んでおり、現地での立ち会いが難しい
受任者住所 東京都新宿区○○○-○-○
受任者氏名 山田 太郎(弟)
記
私は、下記不動産に関し、私が有する共有持分(2分の1)の売却について、令和○年○月○日付の不動産売買契約に関する一切の権限を、上記の者に委任します。
1. 売買契約の締結
2. 所有権移転登記その他の登記手続
3. 売買代金及び手付金の受領
【不動産の表示】
土地[所在]東京都世田谷区○○○丁目
[地番]123番45
[地目]宅地
[地積]120.00㎡
建物[所在]東京都世田谷区○○○丁目
[家屋番号]123番45の1
[種類]居宅
[構造]木造2階建
[床面積]1階 60.00㎡/2階 60.00㎡
委任者住所 大阪府大阪市北区○○○-○-○
委任者氏名 山田 一郎(兄)
印
令和○年○月○日
以下余白
※この記載例は、兄弟間での委任を想定した一例です。実際には不動産の状況や持分割合、委任する内容などに応じて適宜調整が必要です。使用する際は専門家への確認をおすすめします。
親子の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例
親子の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例は、下記の通りです。
【今回の状況】
- 親子で住宅を2分の1ずつ共有している
- 高齢の父親が手続きが難しいため、息子が代表で売却を進める
- 父親の判断能力に問題はない
受任者住所 神奈川県横浜市西区○○○-○-○
受任者氏名 佐藤 太郎(息子)
記
私は、下記不動産に関し、私が有する共有持分(2分の1)の売却について、令和○年○月○日付の不動産売買契約に関する一切の権限を、上記の者に委任します。
1. 売買契約の締結
2. 所有権移転登記その他の登記手続
3. 売買代金及び手付金の受領
【不動産の表示】
土地[所在]神奈川県横浜市港北区○○○丁目
[地番]78番90
[地目]宅地
[地積]95.00㎡
建物[所在]神奈川県横浜市港北区○○○丁目
[家屋番号]78番90の2
[種類]居宅
[構造]鉄骨造2階建
[床面積]1階 47.50㎡/2階 47.50㎡
委任者住所 神奈川県横浜市港北区○○○-○-○
委任者氏名 佐藤 一夫(父)
印
令和○年○月○日
以下余白
※この記載例は、親から子への委任を想定した一例です。実際には不動産の状況や持分割合、委任する内容などに応じて適宜調整が必要です。使用する際は専門家への確認をおすすめします。
夫婦の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例
夫婦の共有名義不動産を売却する際の委任状の記載例は、下記の通りです。
【今回の状況】
- 住宅ローンを夫婦で組んで取得した物件で、それぞれの持分割合は1/2
- 妻が契約・決済に立ち会えず、夫が代表で売却を進める
- 売却に関しては夫婦間で合意している
受任者住所 千葉県千葉市美浜区○○○-○-○
受任者氏名 田中 一郎(夫)
記
私は、下記不動産に関し、私が有する共有持分(2分の1)の売却について、令和○年○月○日付の不動産売買契約に関する一切の権限を、上記の者に委任します。
1. 売買契約の締結
2. 所有権移転登記その他の登記手続
3. 売買代金及び手付金の受領
【不動産の表示】
土地[所在]千葉県千葉市中央区○○○丁目
[地番]456番78
[地目]宅地
[地積]110.00㎡
建物[所在]千葉県千葉市中央区○○○丁目
[家屋番号]456番78の3
[種類]居宅
[構造]木造2階建
[床面積]1階 55.00㎡/2階 55.00㎡
委任者住所 千葉県千葉市中央区○○○-○-○
委任者氏名 田中 花子(妻)
印
令和○年○月○日
以下余白
※この記載例は、夫婦間での売却代理を想定した一例です。実際には不動産の状況や持分割合、委任する内容などに応じて適宜調整が必要です。使用する際は専門家への確認をおすすめします。
共有名義の不動産売却で使う委任状作成の流れ
共有名義の不動産売却に使用する委任状は、以下の流れで作成します。
- まずは代理人を決める
- 代理人が決まったら、委任する内容をできるだけ細かく決める
- 「印鑑登録証明書」や「住民票」など、委任状作成に必要な書類を集める
- 集めた書類をもとに委任状を作成する
1.代理人を決める
共有名義不動産の売却で委任状を作成する際にはまず「代理人を誰にするか」を決めます。家族・親族や共有者、弁護士・司法書士といった専門家に依頼するケースが一般的です。
代理人には特別な基準や条件などが定められていないため、委任する側が委任状を作成し、代理人を指名すれば誰でも代理人になれます。
しかし、誰でもなれるからといって「誰を選んでもよい」というわけではありません。不動産売買では大きな金額が動くケースが多く、安易に選ぶとトラブルになるおそれがあるためです。
たとえば、「2,000万円の不動産を1,500万円で売ってほしい」と買主から値引き交渉を持ちかけられたとします。
このとき、代理人が委任者の意見を聞かずに了承した場合でも「委任者の意思」であるとみなされるため、委任者は代理人に委任したことによって500万円損をする結果になります。
なお、共有者の中から代表者を立てて取引するケースもありますが、関係が良好でない場合はトラブルになる可能性があるため注意が必要です。人選は慎重に行う必要があることを念頭に置いておきましょう。
信頼のおける相手か、費用をかけて専門家に依頼することをおすすめします。共有者間の関係が良好なら、共有者のうち1人が共有者全員の代理人になるのもよいでしょう。
2.委任する内容を決める
代理人が決まったら、「何をどこまで委任するか」を決めます。代理人に与える権限を明確にしておかないと、売却トラブルに発展してしまうおそれがあるためです。
よくある売却トラブルには、委任者の意向に背くような条件に了承したり、勝手に値引きに応じたりといったことがあります。また、中には買主と共謀し、値引きに応じる代わりに謝礼をもらうなどの不正を働くケースもあります。
権限が不明確な場合、代理人が勝手なことをしても「委任状の内容に反している」とはいえません。そのため、委任事項はできるだけ細かく設定し、余計な権限を与えないようにする必要があるでしょう。
3.委任状作成に必要な書類を集める
委任内容が決まったら、委任状作成に必要な書類を集めます。
委任状作成には、以下の書類が必要です。
| 書類名 | 取得場所・方法など | 手数料 |
|---|---|---|
| 委任者・代理人の 印鑑登録証明書+実印 |
市区町村役場・地区センター・コンビニなど (印鑑登録証明書) |
200〜300円 |
| 委任者の住民票の写し または戸籍附票 |
市区町村役場・地区センター・コンビニなど | 200〜300円 |
| 委任者・代理人の 本人確認書類 |
運転免許証・マイナンバーカード・パスポートなど (顔写真つき) |
– |
| 売却する不動産の 登記事項証明書 |
法務局・郵送・オンライン | 480〜600円 |
委任者も代理人も、印鑑登録証明書+実印が必要です。
印鑑登録証明書は、取得から3カ月以内のものでなければなりません。共有者に押印してもらう作業に時間がかかりそうなときは、早い段階で取得してしまうと期限が切れてしまう可能性があるため、取得のタイミングを調整しましょう。
住民票や戸籍附票、印鑑登録証明書は市区町村役場や地区センターなどで取得できます。「コンビニ交付」に対応している市区町村であればコンビニでも取得可能ですが、取得にはマイナンバーカードが必要です。
注意点は、印鑑登録証明書を市区町村役場や地区センターで取得するときは「印鑑登録カード」が必要なのに対し、コンビニでは「マイナンバーカード」でしか取得できない点です。
そのほか、委任者と代理人それぞれの本人確認書類も用意する必要があります。顔写真つきのものが必要ですが、なければ不動産会社に確認しましょう。
なお、委任状に不動産の情報を正しく記載するために「登記事項証明書」の取得もおすすめします。
法務局に備わっている登記の情報を記載した証明書のこと。土地・建物の所在や地目(土地)、構造(建物)、所有者情報などが確認できる。
登記事項証明書は取得方法によって手数料が異なります。
- 窓口請求・窓口受取:600円
- オンライン請求・郵送:500円
- オンライン請求・窓口受取:480円
4.委任状を作成する
委任状作成に必要な書類を取得したら、委任状を作成します。
委任状には、法律で定められているフォーマットが存在しません。そのため、必要な事項が記載されていればコピー用紙やメモ帳などでも問題なく、ある程度は委任者の好きなように作成できます。
ただし、不動産会社によっては指定の書式が用意されている場合があるため、作成前に確認しておいたほうがよいでしょう。
また、パソコンでの作成も可能ですが、委任者・代理人(受任者)の住所・氏名はそれぞれが自書する必要があります。パソコンで作成するなら、住所・氏名以外のところのみ入力し、住所・氏名の箇所は空けておきましょう。
なお、委任状の通数は、1通にまとめても共有者1人につき1通ずつ用意しても構いません。共有者の人数や遠方の人が多いケースは押印してもらうのに時間がかかるため、1通ずつ用意し一斉に発送したほうが早い可能性があります。状況に合わせて用意しましょう。
物件や共有者が多く、委任状が複数枚にわたるときは、前後のページにまたがって押印する「契印」が必要です。
不動産売却時で使用する委任状を作成するときの注意点
共有名義不動産売却で使用する委任状を作成するときは、以下の点に注意しましょう。
- 委任内容は明確に記載しておく
- 委任状の一番下に「以下余白」と記載する
- 捨印を押印しない
- 委任状の有効期限を記載する
- 実印を使用して印鑑証明書も添付する
委任内容は明確に記載しておく
委任内容は明確に記載しましょう。拡大解釈されるとトラブルのもとになるため、代理人に委任したいことだけを限定して記載することが重要です。
たとえば、以下のような内容を記載します。
- 不動産の売買契約の締結に関する権限
- 売買代金受領に関する権限
- 所有権移転登記に関する権限
代理人の権限を広げてしまうため、「すべて」「一切の件」といった表現は避けたほうが無難です。反対に、「代理人に行ってほしくないこと」を挙げておくのもよいでしょう。値引き対応をさせないために、「条件変更の際は委任者に相談する」といったルールを設けておくことも大切です。
そのほか、「白紙委任状」にも注意が必要です。
委任内容が記載されていない状態の用紙に署名・押印し、内容を代理人に任せること。認められた代理権の範囲を超えて法律行為を行う「表見代理」などの契約トラブルが起こるおそれがある。
売買契約に不慣れで「すべて任せたい」と思っても、白紙委任は行わないようにしましょう。
白紙委任=権限を無制限に認めるのと同じです。代理人が委任状を用意する場合でも、完成した委任状に目を通し、こちらに不利な内容が書かれていないことを確認してから署名・押印することをおすすめします。
委任状の一番下に「以下余白」と記載する
委任状が完成したら、委任状の一番下に「以下余白」と記載しましょう。
委任内容の下に余白があると、あとから余白部分に内容を書き加えられる可能性があるためです。とくに大きな余白ができる場合は要注意です。
あわせて、文末には「以上」と記載しましょう。「ここで完結である」という意思表示になるため、勝手に内容を追記されることを回避できます。
行間などにも追記できないよう、余分なスペースをつくらず詰めて作成することをおすすめします。
捨印を押印しない
「捨印を押さない」ようにすることも注意点の1つです。
委任内容の訂正に備え、委任状の余白部分にあらかじめ押印しておくこと。捨印があれば、あらためて押印したり委任状を作成し直したりといった手間をかけずに訂正できる。
押印後にミスが判明した場合、訂正のために再度押印してもらう必要があります。
そのため、訂正の手間を考えてあらかじめ捨印をもらっておくことがありますが、あまりおすすめできません。捨印が押された委任状は、代理人が勝手に内容を変更したり委任事項を加えたりできるためです。
せっかく隙のない委任状を作成しても、捨印を押すことでいくらでも変更可能になってしまい、自分の意思を無視した内容の委任状になるおそれがあります。代理人から捨印を求められることがありますが、内容の改ざんを防ぐためにも、安易に押印に応じないようにしましょう。
「共有持分を勝手に売り出されたらどうなるか」について知りたい人は、以下の記事を参考にしてください。
委任状の有効期限を記載する
委任状には、必ず委任状自体の「有効期限」を記載しましょう。
有効期限を記載しておけば、「代理人の代理権がいつまで有効なのか」が一目でわかるためです。また、トラブルの際、「代理人に対してたしかに委任した」という証明にもなります。
有効期限を明記しなければ、いつまでも委任状の効力が続くため、売買契約が成立しなかったときでも代理権が失われず、委任状を悪用されたり流用されたりといったリスクがあります。トラブル回避のため、日付は「月日」まできちんと記載するようにしましょう。
なお、有効期限は数か月〜半年程度に設定することが一般的です。
実印を使用して印鑑証明書も添付する
委任状への押印は実印を使用し、印鑑登録証明書を添付しましょう。
委任状の形式には法的なルールがありません。そのため使用する印鑑は実印ではなく、たとえば三文判でも問題ありません。
しかし、不動産売買は高額な取引であるケースが多いため、実印による押印+印鑑登録証明書を求められることが一般的です。実印は、「間違いなく本人の印鑑である」という証明であり、委任状の印影が実印であると証明できる印鑑登録証明書を添えることで信用度が格段に上がります。
一方で、誰でも購入できる三文判などでは簡単に委任状を偽造できるため、「本当に代理人なのか」と買主が不安に感じる可能性があります。とくに「シャチハタ」は契約向きではないため、やめておきましょう。
もし印鑑登録を行っていない場合は実印を用意し、市区町村役場で印鑑登録を行うことをおすすめします。
委任状があっても共有名義不動産を売却できないケース
共有名義の不動産を売却する際に「委任状があれば大丈夫」と考える方も多いですが、実務の現場では、委任状を用意していても売却が進められないケースが存在します。
弊社は共有持分・共有名義の不動産を専門に取り扱っており、日々数多くのご相談を受けていますが、以下のようなケースでは委任状が効力を持たず、売却が一時停止・中断されることが少なくありません。
- 認知症を患っていて意思能力がない共有者がいる場合
- 1人でも売却に反対する共有者がいる場合
- 委任者が途中で撤回・意思変更した場合
- 共有者が死亡してしまい相続が発生した場合
このように、委任状が揃っていても売却できない事例は現場でたびたび発生します。リスクを回避し、確実に売却を進めるには、実務経験のある専門業者や司法書士と連携することが不可欠です。
認知症を患っていて意思能力がない共有者がいる場合
売却契約を有効に締結するには、「契約者が自身の行為を理解・判断できるだけの意思能力を有していること」が前提となります。たとえ委任状が用意されていても、委任者が認知症などにより意思能力を欠いていると判断される場合、委任そのものが無効となるおそれがあります。
実務では、司法書士による意思確認の面談時に発覚し、登記が通らず売却手続きがストップすることがあります。このような場合は家庭裁判所で成年後見制度を利用し、後見人が代理で意思表示を行う必要があります。非常に時間と労力を要するため、事前に共有者の健康状態を確認しておくことが重要です。
1人でも売却に反対する共有者がいる場合
共有不動産を全体として売却するためには、共有者全員の合意が不可欠です。委任状を取得できていない共有者が1人でもいれば、原則として物件全体の売却は成立しません。
弊社にも「一部の共有者とは連絡が取れない」「1人だけ反対している」といった理由で売却が進められず、持分のみの売却をご検討いただくケースが多く寄せられます。全体売却にこだわるのではなく、共有状態を解消するために段階的に進めるという選択肢も検討すべきです。
委任者が途中で撤回・意思変更した場合
委任状は、あくまで「委任者の意思」に基づく書類です。したがって、委任状を提出したあとであっても、委任者が「売却は取りやめたい」と意思を変更すれば、その時点で代理人は権限を失い、売却手続きを進めることができません。
特に、契約直前での撤回は買主とのトラブルにも発展しかねません。実務では、司法書士や不動産会社が再度意思確認を行うことで回避を試みることもありますが、最終的には本人の意思が最優先となります。
共有者が死亡してしまい相続が発生した場合
委任状の効力は、原則として委任者の死亡により消滅します。つまり、売却手続きの途中で共有者が亡くなってしまった場合、その委任状は無効となり、相続人全員による新たな同意が必要となります。
弊社でも、「相続が発生したことで話が複雑になり、売却まで長期化してしまった」というケースが少なくありません。高齢の共有者がいる不動産では、スムーズな売却を優先して早めに動き出すことをおすすめします。
共有名義不動産を売却するときの流れ
共有名義不動産を売却するときの流れは以下のとおりです。
- まずは共有者を調査し確定する
- 売却について共有者全員の合意を得たうえで「合意書」を作成する
- 不動産会社と媒介契約(「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」)を結ぶ
- 売買価格や引渡し条件などに双方が合意したら買主と売買契約を結ぶ
- 売買物件の引渡し・売買代金の決済を行う
- 共有名義不動産の売却によって利益が出たときは確定申告を行う
流れに沿って解説します。
1.共有者を確定する
まず、共有者を調査し確定します。
相続の発生によって、亡くなった共有者の前婚での子どもや認知した婚外子といった面識のない人に代替わりしている可能性があるためです。知らないうちに、共有者が自分の持分を売却しているケースもあります。
現在の共有者は、「登記事項証明書(登記簿)」で確認できます。委任状を作成する際に使用するため、取得しておきましょう。
登記事項証明書の取得方法は以下のとおりです。
- 法務局の証明書発行窓口
- 郵送請求
- オンライン請求
そのほか、ネット上で登記情報を確認できる「登記情報提供サービス」を利用する方法もあります。個人の場合は登録費用に300円かかりますが、所有者が確認できる「所有者事項の情報」であれば141円で取得可能です。
また、「登記記録の全部の情報」を取得すれば、登記事項証明書のように登記官の認証文や職印がないため証明書としては利用できませんが、登記事項証明書と同じ内容が確認できます。
登記情報提供サービスであればその場ですぐに取得できるため、法務局に出向けず郵送も待てないという場合におすすめです。
なお、共有者の所有権移転登記時点の住所は登記事項証明書に記載されていますが、その後転居などで行方がわからなくなった場合は、「不在者財産管理人制度」を利用するとよいでしょう。
行方がわからなくなった「不在者」の財産を管理する人を裁判所が選ぶ制度のこと。不在者財産管理人は、不在者との関係性や利害関係の有無を考慮して選任され、ときには弁護士や司法書士といった専門家が選ばれる。
2.売却について共有者全員の合意を得る
共有者が確定したら、共有名義不動産を売却することについて共有者全員から合意を得ます。
共有名義不動産全体を売却するには、共有者全員の合意が必要であるためです。共有者のうち、1人でも売却に反対していると売却できません。
共有者の合意がなければ、持分専門の買取業者に自分の持分のみ売却することを検討しましょう。
共有者全員の合意が得られた場合は、あとから「合意した覚えはない」などと言われないために、「合意書」の作成をおすすめします。
話し合いの合意内容を書面化したもの。訴訟に発展した場合、当事者が合意した証拠として利用できる。
共有者の同意なしに家を売却する方法については、以下の記事で解説しています。ぜひ参考にしてください。
3.不動産会社と媒介契約を結ぶ
共有者全員の合意が得られたら、不動産会社と媒介契約を結びます。不動産を売却する場合、不動産会社と媒介契約を結び仲介してもらうケースが多いです。
なお、媒介契約には以下の3種類があります。
| 一般媒介契約 | 同時に複数の不動産会社と契約できる |
|---|---|
| 専任媒介契約 | 不動産会社1社としか契約できないが、売主本人が買主を探し売却することは可能 |
| 専属専任媒介契約 | 不動産会社1社としか契約できず、その1社が仲介した買主以外には売却できない |
「一般媒介契約」は自由度の高さが魅力ですが、同業他社にとられると利益にならないため、不動産会社が積極的に販売活動をしてくれない場合があります。
「専任媒介契約」は、不動産会社に買主を探してもらいながら自分でも探せる点はメリットといえるでしょう。しかし、営業担当者の力量次第では売却までに時間がかかる可能性があります。
「専属専任媒介契約」は、不動産会社が積極的に販売活動をしてくれる傾向にあり早く売れやすいですが、途中解約できない・自分で探した買主に売却できないといったデメリットがあります。
なお、不動産会社と契約するには、以下の書類が必要です。
- 登記識別情報通知(権利証)
- 共有者全員の身分証明書・住民票または戸籍附票・印鑑証明書+実印
- 委任状
- 境界確認書・境界確定図
そのほか、位置図(住宅地図・都市計画図など)や公図があると相談がスムーズに進みます。
公図とは、法務局に備わっている、土地の形状や隣地との関係がわかる地図のことです。登記事項証明書と同様に、法務局の窓口やオンラインで取得できます。
4.買主と売買契約を結ぶ
買主が見つかり、売買価格や引渡し条件などに売主・買主の双方が合意したら売買契約を結びます。売買契約を行う場所にとくに決まりはありませんが、不動産会社の事務所や自宅、弁護士・司法書士の事務所などで行われるのが一般的です。
売買契約書・重要事項説明書の内容を確認し、当事者それぞれが署名・押印します。
支払方法や契約解除の際の規定などが記載された書面のこと。「宅地建物取引士」から買主に対して説明が行われる。
そのほか、手付金も契約日当日に支払われます。
5.引渡し・決済
買主と売買契約を締結したら、物件の引渡しと売買代金の決済を行います。引渡しと決済は同日中に行うことが多く、さらに所有権を売主から買主へと移す「所有権移転登記」の手続きも同時に行います。
売買物件に「抵当権」が設定されているなら、「抵当権抹消登記」も必要です。
住宅ローンなどの借入をする際に、債権者が土地や建物に設定する権利のこと。ローンの返済が滞ったときに対象の不動産を競売にかけ、債権者が優先的に弁済を受けられる。
| 登記の種類 | 登記の内容 | 申請者・費用負担者 |
|---|---|---|
| 所有権移転登記 | 所有権を売主から買主に変更するための登記 | 買主 |
| 抵当権抹消登記 | 不動産に設定された「抵当権」を消すための登記 | 売主 |
所有権移転登記は買主が行うのが一般的です。それに対し、抵当権抹消登記は売主が行います。
抵当権は、住宅ローンを完済しても自然に消えるものではありません。「登記事項証明書」を確認し、抵当権が残っている場合は抹消登記を申請しましょう。
なお、登記は自分でも申請できますが、登記の専門家である「司法書士」に依頼するケースが多いです。抵当権抹消登記なら、司法書士に依頼しても1〜2万円程度で済むことが多いため、それほど大きな負担にならないでしょう。
6.確定申告
不動産売却で利益が発生したら確定申告が必要です。
「利益が発生した」といえるのは、以下の計算式で「譲渡所得」がプラスになるケースです。
上記のとおり計算し、ゼロやマイナスになるなら「利益が発生した」とはいえないため確定申告は不要です。また、プラスになる場合でも、住宅売却による譲渡所得については、以下のように節税が期待できる特例があります。
- 居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
- 特定の居住用財産の買換えの特例
「自分が居住している家を売った」「売主と買主が親子や夫婦などの特別な関係でないこと」といった要件を満たせば、税金が軽減される可能性があります。不動産売却で利益が出たときは、特例の要件に該当するかを確認してみるとよいでしょう。
なお、特例の適用によって譲渡所得が非課税になる場合は確定申告が必要です。共有名義不動産を売却した翌年の2月16日〜3月15日に行いましょう。
まとめ
共有名義不動産の売却で委任状が必要なケースや注意点について解説しました。
共有名義不動産を売却する場合、売買契約に立ち会えないなら委任状を作成し、代理人を立てなければなりません。不動産の所有者は、原則売買契約に立ち会う必要があるためです。
委任状を作成する際は、まず代理人と委任内容を決め、必要書類を集めたうえで作成しましょう。
決まったフォーマットが存在しないためある程度自由に作成できますが、代理人によっては代理権を超えて契約を行う場合もあります。そのため「委任内容を明確に記載する」「捨印を押印しない」といった注意点を守りながら、慎重に作成する必要があるでしょう。
記事の中で紹介したひな形を参考に、不利な契約にならない委任状を作成してください。

