共有名義不動産売却の委任状の作成方法【ひな形付き】|書き方・必要書類・注意点

共有名義不動産全体を売却する場合、原則として共有者全員からの同意が必要です。

とはいえ、共有者全員が売買契約や決済の場に直接立ち会わなければならないわけではありません。売却には同意しているものの、遠方に住んでいる、仕事や入院などで当日参加できないといった共有者は、代理人へ手続きを委任できます。

その際に、本人が代理人へどの手続きを任せたのかを示すために作成するのが委任状です。

◻︎共有名義不動産売却の委任状のイメージ
不動産売却 共有名義 委任状 ひな形

※ひな型は本記事の解説用として作成したものです。実際の不動産売却に使用する際は、必ずご自身の状況に合わせて記載内容を調整するようにしてください。

委任状には、不動産売却用として全国共通の一律の法定書式があるわけではありません。一方で、対象となる不動産や共有持分、代理人へ任せる権限、売却条件などが曖昧だと、契約直前に内容の修正や作り直しが必要になる可能性があります。

共有名義不動産の売却で使う委任状について、記入する主な項目と作成時の注意点をまとめましたので参考にしてみてください。

委任状に記入する主な項目 概要 作成時の注意点
委任者・受任者(代理人)の氏名・住所 誰が誰に代理権を与えるのかを明確にする 本人確認書類などと表記をそろえ、本人以外が勝手に作成しない
対象不動産の表示 どの土地・建物について委任するのかを特定する 住所ではなく、登記事項証明書を確認しながら所在・地番・家屋番号などを正確に記載する
共有持分 委任者がどの持分を所有しているのかを示す 相続登記が未了の場合は、現在の権利関係を整理してから記載する
委任する権限 売買契約、価格交渉、代金受領、引渡しなど、何を任せるかを定める 「一切の権限」のような広すぎる委任は避け、必要な権限だけを具体的に書く
売却条件 最低売却価格、引渡日、条件変更の可否などを定める 価格変更や代金受領の可否など、重要な条件は代理人の判断範囲を明確にする
委任日・有効範囲 いつ、どの取引について委任するのかを示す 今回の売却手続きに限る旨や有効期間を定め、流用リスクを抑える

当記事では、共有名義不動産売却の委任状のひな形を示しつつ、各項目の書き方や必要書類、注意点を実務的な観点から解説します。所有権移転登記などの登記申請を司法書士へ任せる際には、通常、実際の登記内容に合わせた別の委任状を使用するため、その違いについても後半で説明します。

なお、共有者の一部が売却に反対している、連絡が取れない、相続登記が済んでいないなど、委任状だけでは不動産全体の売却を進めにくい場合は、弊社クランピーリアルエステートへご相談ください。共有持分の査定や、現在の権利関係で検討できる売却方法をご案内します。

共有名義不動産の売却で委任状を使うときの基本ルール

共有名義不動産の売却で委任状を使う場合は、まず「売却には同意しているが、本人が手続きに参加できない」のか、「本人の売却意思そのものを確認できない」のかを分けて考える必要があります。

委任状は、本人に代わって契約や決済などを行う権限を代理人へ与えるためのものです。売却に反対している共有者の同意を代わりに作り出したり、本人と連絡が取れない状態のまま他の共有者が委任したことにしたりするための書類ではありません。

実務で起こりやすい誤解でもありますので、まずは共有名義不動産の売却で委任状を使うときの基本ルールを説明していきます。

  • 共有者が売却に同意していれば、立ち会えなくても委任状で手続きを任せられる
  • 委任状があっても共有者全員の同意がなければ不動産全体は売却できない

共有者が売却に同意していれば、立ち会えなくても委任状で手続きを任せられる

共有者本人に売却意思があり、代理人へ有効に権限を与えられる状態であれば、契約日や決済日に本人が立ち会えなくても、委任状を作成して代理人に手続きを任せることができます。

たとえば、実務上は次のようなケースで委任状を利用することがあります。

状況 委任状を使うときの考え方
共有者が遠方に住んでいる 売却意思を確認したうえで、売買契約や決済など、本人が参加できない手続きを代理人へ委任する
仕事・病気・入院などで契約や決済に参加できない 本人が売却条件を理解し同意していることを前提に、参加できない手続きだけを代理人へ任せる
共有者が海外に住んでいる 本人の売却意思・意思能力を確認し、本人確認や署名証明など必要な手続きを事前に確認して代理取引を進める

民法第99条では、代理人が権限の範囲内で本人のために行った意思表示は、本人に直接その効力が生じるとされています。そのため、「代理人に任せれば自分には関係ない」のではなく、代理人がどこまで本人に代わって判断できるのかを委任状で明確にすることが重要です。

株式会社クランピーリアルエステート 大江 剛 代表取締役 宅地建物取引士

専門家のコメント

弊社への相談でも、共有者が遠方に住んでいたり、仕事の都合で契約・決済に参加できなかったりするケースがあります。このような場合、委任状を用意するだけでなく、本人確認や原本書類の郵送にかかる時間まで考えて準備することが重要です。特に決済日が決まってから代理対応を伝えると、書類の準備が間に合わないこともあるため、立ち会えないことが分かった段階で不動産会社や司法書士へ伝えておくと手続きを進めやすくなります。

委任状があっても共有者全員の同意がなければ不動産全体は売却できない

共有名義不動産全体を通常の売買で売却するには、原則として共有者全員が売却に同意している必要があります。

一方で、「共有者全員の同意が必要」ということと、「共有者全員が同じ場所で契約や決済に立ち会う必要がある」ということは別です。

たとえば3人で共有する不動産について3人とも売却には賛成しているものの、1人だけ遠方に住んでいる場合、その1人が適切な委任状を作成して他の共有者などへ代理権を与えれば、本人が当日参加できなくても手続きを進められる場合があります。

反対に、1人が売却そのものに反対している場合、その人の同意を委任状で補うことはできません。本人と連絡が取れず、売却意思を確認できない場合も同様です。

つまり、委任状は「全員が売却に同意しているものの、全員が直接動けない」という問題を解決する手段と考えると分かりやすいでしょう。

【ひな形付き】共有名義不動産売却の委任状の作成方法・書き方

共有名義不動産の売却で使う委任状には、全国共通の一律の法定書式が定められているわけではありません。そのため自分で作成することもできますが、すでに依頼している不動産会社や司法書士から指定書式を渡されている場合は、その書式を使用するのが基本です。

以下は、共有者の1人が、他の共有者や親族などへ売買契約・決済を委任する場合を想定したひな形です。

委 任 状


受任者住所 __________________
受任者氏名 __________________


私は、下記不動産のうち私が所有する共有持分について、上記受任者を代理人と定め、次の権限を委任します。


【対象不動産】
土地
所在:__________________
地番:__________________
地目:__________________
地積:__________________


建物
所在:__________________
家屋番号:________________
種類:__________________
構造:__________________
床面積:_________________


委任者の共有持分:__分の__


【委任する権限】
1.上記不動産の売買契約を締結すること
2.売買価格その他の売買条件について交渉すること
3.売買契約に基づく手付金・残代金を受領すること(この権限を委任する場合のみ記載)
4.上記不動産の引渡しを行うこと
5.上記各事項に付随し、売買契約・決済を行うために必要な手続きをすること


【売却条件】
最低売却価格:金______円
引渡し予定日:__年__月__日まで
上記の最低売却価格を下回る場合、その他重要な売買条件を変更する場合は、事前に委任者の承諾を得ること。


本委任の有効期間:__年__月__日まで


__年__月__日


委任者住所 __________________
委任者氏名 __________________ 印


以上

※上記は、売買契約・決済等を他の共有者や親族などへ委任する場合の記載例です。実際に必要な権限や本人確認方法は取引ごとに異なるため、署名・押印前に不動産会社や司法書士へ確認してください。所有権移転登記などの登記申請を司法書士へ委任する場合は、通常、登記内容に応じた別の委任状を使用します。

委任状を作るときは、単にひな形を埋めるのではなく、次の5点を順番に確認すると内容を整理しやすくなります。

1.委任者・受任者(代理人)の住所・氏名を記載する

最初に、誰が誰へ代理権を与えるのかを特定できるよう、委任者と受任者の住所・氏名を記載します。

住所・氏名は、本人確認書類や現在の公的書類と食い違いがないように記載してください。登記簿上の住所・氏名が現在と異なる場合には、売却に伴う登記手続きの前提として住所・氏名の変更登記が必要になることがあります。

なお、委任状の文章を委任者本人が一から手書きで作らなければならないわけではありません。不動産会社などが用意した書式に必要事項を入力して使用する方法もあります。重要なのは、委任者本人が委任内容を理解し、自分の意思で代理権を与えていることです。

2.売却する不動産と共有持分を正確に記載する

委任状には、どの不動産について代理権を与えるのかを特定できるよう、登記事項証明書を確認しながら対象不動産を記載します。

不動産 主に確認する項目
土地 所在・地番・地目・地積
建物 所在・家屋番号・種類・構造・床面積
共有持分 委任者が登記上所有している持分割合

不動産の「住所」と登記上の「所在・地番」は同じとは限りません。固定資産税の通知書や普段使っている住所表記だけを見て書くのではなく、登記事項証明書の記載に合わせて物件を特定するのが安全です。

特に、相続した共有不動産について委任状を作る場合は、相続登記の状況も先に確認してください。

相続した共有不動産では、被相続人名義のまま相続登記が終わっていない状態で売却相談が寄せられることもあります。このような場合は、将来取得する予定の持分をそのまま委任状へ記載するのではなく、現在の登記名義と相続関係を確認し、必要な相続登記を整理してから進めます。

委任状に記載する持分は「相続する予定の割合」ではなく、売却時点で誰がどの権利を持つのかを確認して記載することが重要です。

相続人申告登記は相続登記の申請義務を簡易に履行する制度ですが、それだけで相続した不動産を売却できる状態になるわけではありません。法務省も、相続した不動産を売却する場合には別途相続登記が必要になると案内しています。相続が絡む場合は、必要に応じて司法書士へ相続登記から確認してもらいましょう。

3.代理人へ委任する権限を具体的に記載する

委任状で最も重要なのは、代理人に何を任せるのかを具体的にすることです。

不動産売却では、単に「売却を任せる」といっても、次のように複数の手続きがあります。

  • 不動産会社との媒介契約を締結する
  • 買主と売買契約を締結する
  • 売買価格や引渡日などを交渉する
  • 手付金・残代金を受領する
  • 物件を引き渡す

このうち、本人が自分で行う手続きまで代理人へ任せる必要はありません。「売却に関する一切の権限を委任する」とだけ書くより、実際に代理人へ任せたい行為を列挙する方が、代理権の範囲を確認しやすくなります。

また、売買契約・決済を任せる代理人と、所有権移転登記を申請する代理人は分けて考えます。登記申請は司法書士へ委任するのが一般的であり、実際の登記内容に合わせて司法書士が用意した委任状を使用することが多いためです。

4.売却価格・引渡日など代理人が変更できる条件を決める

代理人へ契約締結権限を与える場合は、権限の種類だけでなく、「代理人がどこまで自分の判断で売却条件を変更できるのか」まで決めておくことが重要です。

たとえば、2,000万円以上で売却したいのであれば、「最低売却価格2,000万円」と明記する方法があります。また、「価格や引渡日など重要な条件を変更するときは、委任者の承諾を得る」と定めておけば、代理人だけの判断で想定外の条件に変更されるリスクを抑えられます。

売却条件として検討したい主な項目は、次のとおりです。

  • 売却価格または最低売却価格
  • 手付金の金額
  • 引渡し予定日
  • 固定資産税などの精算基準
  • 契約解除・違約金に関する条件
  • 条件変更時に本人の承諾を必要とするか

特に、売買契約を締結する権限と、売買代金を受領する権限は別に考えてください。代理人が契約だけを担当し、残代金は委任者本人の口座へ直接振り込む形にすることも考えられます。実際の決済方法を不動産会社へ確認したうえで、代金受領権限まで委任する必要があるか決めましょう。

5.委任日・委任者情報・必要に応じて有効期間を記載する

最後に、委任日と委任者の住所・氏名を記載し、取引で求められる方法に従って署名・押印します。

委任状の有効期間は、法律上すべての委任状に必須の記載事項というわけではありません。ただし、不動産売却のために作るのであれば、対象となる取引を限定し、必要に応じて「○年○月○日まで」と有効期間を設定しておくと、別の取引へ流用されるリスクを抑えられます。

署名を自書するか、実印を押すか、印鑑登録証明書を添付するかなどは、委任する手続きや本人確認方法によって異なります。「この形式なら法律上必ず有効」と自己判断するのではなく、実際に書面を受け取る不動産会社や司法書士へ事前に確認してください。

共有名義不動産売却の委任状を作成するときの注意点

委任状を作る際は、形式を整えることだけでなく、代理人の権限を必要以上に広げないことが重要です。また、兄弟・親子・夫婦など共有者同士の関係によって基本項目が変わるわけではありませんが、委任状を作る前に確認すべき事情は異なります。

共有者との関係性が違っても委任状の基本項目は変わらない

兄弟・親子・夫婦のいずれであっても、対象不動産、共有持分、委任者・受任者、委任する権限、売却条件など、委任状の基本となる項目は共通です。

そのため、兄弟用・親子用・夫婦用と別々のひな形を探すより、共通の基本形を使い、関係性ごとに売却前の確認事項を追加する方が実務的です。

共有者の関係・状況 委任状を作る前に確認したいこと
兄弟・相続人同士 相続登記が終わっているか、現在の所有者・持分割合が確定しているか
親子 高齢の親が売却と委任の内容を理解して自分で判断できる状態か
夫婦・元夫婦 住宅ローンや抵当権の状況、離婚・財産分与が絡む場合は現在の権利関係
海外在住の共有者 本人確認方法、印鑑登録証明書を用意できない場合に必要となる署名証明・在留証明等

白紙委任や「一切の権限」のような広すぎる委任は避ける

委任内容が空欄のまま署名・押印する白紙委任や、「売却に関する一切の権限を委任する」とだけ記載する方法は避けた方が安全です。

民法第99条により、代理人が代理権の範囲内で本人のために行った契約は、原則として本人に直接効果が帰属します。つまり、代理人へ広い権限を与えた後に「その条件では売るつもりはなかった」と考えても、代理人が権限内で契約していれば簡単にはなかったことにできません。

対象不動産を特定したうえで、「売買契約を締結する」「価格交渉をする」「残代金を受領する」など、実際に任せる行為を具体的に記載しましょう。

価格変更・代金受領など重要な権限は特に明確にする

代理人へどの権限を与えるかを決めるときは、特に価格変更と金銭受領の扱いを明確にします。

「売買契約を任せる」ことと「最低価格を下回る値下げまで任せる」ことは同じではありません。同様に、「契約を任せる」ことと「数千万円になることもある残代金を代理人が受領できるようにする」ことも別です。

本人が判断したい事項は、委任状の中で「変更には本人の事前承諾が必要」と明記し、代理人だけで決められる事項との境界を作っておきましょう。

捨印や大きな余白を安易に残さない

委任状には、後から重要な内容を書き加えられるような大きな余白を残さないことも大切です。末尾へ「以上」「以下余白」などを記載する方法は、後から内容を追加されにくくする対策の一つです。

ただし、「以上」「以下余白」の記載自体が委任状の法定要件というわけではありません。重要なのは、完成後の書面に後から重要事項を追加・変更できる余地をできるだけ残さないことです。

捨印についても、軽微な訂正をしやすくなる一方で、本人が確認していない修正につながる可能性があります。不動産会社や司法書士から求められた場合でも、どの範囲の訂正に使用するのかを確認したうえで対応してください。

インターネットのひな形をそのまま使う前に不動産会社・司法書士へ確認する

インターネット上のひな形は、委任状に何を書くのかを把握するためには役立ちます。しかし、実際の不動産売却では、共有者の人数や共有持分、代理人へ任せる範囲、売買代金の受領方法だけでなく、相続登記が終わっているか、住宅ローンや抵当権が残っているか、共有者本人の意思をどのように確認するかなど、案件ごとに確認すべき内容が異なります。

そのため、インターネットのひな形へ署名・押印してから「この内容では手続きを進められない」とならないよう、委任状を完成させる前に、実際の取引を担当する不動産会社や司法書士へ状況を伝え、使用する書式と必要な手続きを確認することをおすすめします。

委任状とあわせて共有名義不動産の売却で準備する書類

共有名義不動産を代理人が売却する場合、委任状以外にも本人確認や登記手続きなどのために書類を求められます。ただし、以下の書類がすべて「委任状を作るための法定必須書類」というわけではありません。

実際に必要となる書類は、代理人へ任せる手続きの範囲、不動産会社や買主側の本人確認方法、買主が利用する金融機関、登記の内容などによって異なります。

主に準備・確認するもの 実務上の用途・確認ポイント
本人確認書類 委任者・代理人の本人確認に使用する。利用できる書類は不動産会社や司法書士へ確認する
実印・印鑑登録証明書 本人の意思確認などのため取引で求められることが多い。必要性や有効期間の扱いは使用先へ確認する
登記識別情報通知・登記済権利証 所有権移転登記などで必要になる。見当たらない場合でも直ちに売却不能になるわけではないため、司法書士へ対応方法を確認する
登記事項証明書 対象不動産、現在の登記名義人、共有持分、抵当権などの登記状況を確認する
住民票・戸籍附票など 登記簿上の住所と現在の住所が異なる場合などに、住所のつながりを確認するため使用することがある
海外在住者の署名証明・在留証明など 日本の印鑑登録証明書等を用意できない場合などに必要となることがある。国・居住状況によって異なるため事前確認が必要

特に注意したいのが、「書類を持っていないこと」と「売却できないこと」を同じ意味だと考えないことです。弊社には、権利証を他の共有者が保管している、手元にないといった相談も寄せられていますが、登記識別情報等が見つからない場合には別の本人確認手続きで対応できることがあります。

一方で、相続登記が終わっていない、登記簿上の住所・氏名が現在と異なる、抵当権が残っているといった場合は、売却に先立って登記手続きが必要になることがあります。委任状だけを完成させるのではなく、「現在の登記のまま決済まで進められるか」を司法書士へ確認しておくと、契約後に手続きが止まるリスクを抑えられます。

共有名義不動産売却の代理人は誰にすればよい?

売買契約や決済を任せる代理人について、「共有者でなければならない」といった一律の決まりがあるわけではありません。ただし、不動産売却では重要な契約や金銭の受領を任せる可能性があるため、単に身近な人を選ぶのではなく、任せる役割に応じて選ぶことが重要です。

弊社への問い合わせでは、高齢の親などに代わって子どもや配偶者が相談窓口になるケースがあります。ただし、家族が本人に代わって不動産会社へ相談していることと、その家族が売買契約や決済まで代理できることは別です。

家族が査定依頼や連絡窓口を担当していても、それだけで売却の代理権が生じるわけではありません。本人に代わって売買契約や決済まで行うのであれば、本人の売却意思を確認したうえで、必要な代理権を委任状によって明確にします。

代理人の候補 向いているケース・役割
他の共有者 共有者全員の売却方針が一致しており、1人が代表して契約・決済を進める場合
家族・親族 売却条件を正確に共有でき、契約や金銭を扱う相手として十分に信頼できる場合
弁護士 共有者間ですでに紛争があり、法的な交渉や調整も含めて依頼する必要がある場合
司法書士 主に所有権移転登記などの登記申請を委任する場合

ここで注意したいのは、司法書士へ登記を依頼することと、不動産売却全体の代理人にすることは別という点です。本記事のひな形は、他の共有者や親族などへ売買契約・決済を任せる場合を想定しています。登記申請は、実際の登記内容に合わせて司法書士へ別途委任するのが一般的です。

また、売買代金の受領まで任せるのであれば、「信頼できるか」だけでなく、本当に代理人が代金を受け取る必要があるかも確認してください。契約だけを代理人に任せ、売買代金は本人名義の口座へ受け取るなど、取引に応じた方法を不動産会社へ相談するとよいでしょう。

委任状で共有名義不動産を売却できないケース

委任状は、本人の売却意思を新たに作り出したり、整理できていない権利関係を解決したりするための書類ではありません。

つまり、委任状を用意できるかだけでなく、現在の所有者・持分が確定しているか、共有者本人の売却意思・委任意思を確認できるかまで確認しなければ、実際の売却には進めません。

以下のような場合は、通常の委任状だけでは不動産全体の売却を進められません。

共有者が売却そのものに反対している

共有者の1人が不動産全体の売却そのものに反対している場合、その人の代わりに他の共有者が委任状を作成して売却を進めることはできません。

共有名義不動産全体を売却するには、原則として共有者全員に売却意思が必要だからです。委任状を使えるのは、本人が売却に同意し、そのうえで自分の手続きを代理人へ任せる場合です。

一方で、不動産全体の売却がまとまらなくても、自分が所有する共有持分まで売却できなくなるわけではありません。自分の共有持分は、原則として他の共有者の同意を得ずに売却できます。全体売却の合意形成が難しい場合は、自分の持分のみを売却する方法も選択肢になります。

共有者と連絡が取れず売却意思を確認できない

共有者と連絡が取れないケースは、「売却に反対しているケース」と分けて考える必要があります。

売却に反対している場合は本人の意思が確認できていますが、連絡が取れない場合は、そもそも売却に賛成なのか反対なのか、代理人へ手続きを任せる意思があるのかを確認できません。

弊社への相談でも、共有者との連絡不能が原因で不動産全体の売却や相続登記が進まないケースがあります。これは「売却に反対されている」のではなく、そもそも本人の意思を確認できないため手続きが止まっている状態です。

本人の売却意思・委任意思を確認できないまま、他の共有者が代わりに委任状を作成して手続きを進めることはできません。まずは共有者の所在や現在の権利関係を確認し、必要に応じて所在等不明共有者に関する制度などを検討します。

共有者に売却・委任の意思能力がない

共有者が認知症などの場合でも、診断名だけを理由に一律に「委任状を作れない」「不動産を売却できない」と判断するわけではありません。重要なのは、本人が売却や委任の意味と結果を理解し、自分で判断できる意思能力があるかです。

民法では、意思能力を有しなかったときにした法律行為は無効とされています。そのため、本人に売却・委任の意味を理解して判断できる意思能力がない場合、新たに委任状を作成して家族へ売却を任せる方法では進められません。

このような場合は、成年後見制度などを検討することになります。また、成年被後見人の居住用不動産を成年後見人が処分する場合には、家庭裁判所の許可が必要です。

本人が高齢だからという理由だけで先回りして家族名義の委任状を用意するのではなく、本人の状態に不安がある場合は、売買契約を進める前に不動産会社や司法書士、必要に応じて弁護士などへ相談してください。

委任者が死亡して相続が発生している

売却手続きを委任していた共有者が死亡した場合、原則として、その人から受けていた委任・代理権は終了します。生前に作成した委任状があるからといって、死亡後もそのまま代理人が売却を続けられるわけではありません。

まず、亡くなった共有者の持分を誰が承継したのかを確認し、必要な相続登記などを行ったうえで、新たな権利者の意思に基づいて売却を進めます。

このとき、「相続人が複数いるから全員が必ず同じ持分を取得する」と決めつけるのも適切ではありません。遺言や遺産分割などによって最終的な権利者が変わるため、誰が売主になるのかを整理してから委任状を作成してください。

株式会社クランピーリアルエステート 大江 剛 代表取締役 宅地建物取引士

専門家のコメント

委任状の相談として始まっても、確認すると相続登記や共有者との連絡、本人の意思能力など、別の問題が原因で売却が止まっていることがあります。そのため実務では、委任状の文面を詰める前に「現在の名義人は誰か」「本人の売却意思を確認できるか」「売却前に必要な手続きが残っていないか」を確認します。何が売却を止めているのかを先に特定すると、委任状で対応できるのか、別の手続きが必要なのかを判断しやすくなります。

委任状を使って共有名義不動産を売却する流れ

委任状を使う場合でも、通常の不動産売却そのものの流れが大きく変わるわけではありません。ここでは、代理人を立てる場合に追加で確認・対応したい部分に絞って説明します。

1.共有者全員の売却意思と現在の登記名義を確認する

まず、登記事項証明書などで現在の登記名義人と持分割合を確認し、そのうえで共有者全員に不動産全体を売却する意思があるかを確認します。

特に相続した不動産では、「兄弟で共有する予定だと思っていたが、被相続人名義のまま相続登記が終わっていない」「亡くなった共有者の相続人が複数おり、現在の権利関係を整理できていない」といった状態もあります。

委任状を作る相手が現在の権利者なのか、委任状へ記載する持分割合が現在の権利関係と一致しているのかを最初に確認することが重要です。相続登記などが必要な場合は、委任状だけを先に作成するのではなく、司法書士等へ相談して売却までに必要な手続きを整理します。

2.手続きに参加できない共有者と代理人を決める

売却に同意している共有者のうち、誰が売買契約や決済へ直接参加できないのかを確認し、その人の代理人を決めます。

共有者の1人が代表になる場合でも、家族・親族へ依頼する場合でも、本人の売却条件を正確に理解し、本人の意思に沿って行動できる人を選びます。

3.代理人へ任せる権限・売却条件を決める

売買契約の締結、価格交渉、手付金・残代金の受領、引渡しなどから、実際に代理人へ任せる手続きを決めます。

同時に、最低売却価格や引渡日、重要な条件変更時に本人の承諾を必要とするかなど、代理人が自分で判断できる範囲も決めてください。

4.不動産会社・司法書士へ代理取引であることを伝える

委任状を自作する前に、不動産会社へ「共有者の一部が契約・決済に参加できず、代理人を立てる予定」であることを伝えます。所有権移転登記を担当する司法書士が決まっている場合は、司法書士にも早めに共有してください。

使用する委任状の書式、本人確認の方法、必要書類、原本の提出時期などをこの段階で確認しておくと、署名・押印後の作り直しを避けやすくなります。

5.委任状と必要書類を準備する

確認した書式に沿って委任状を作成し、本人確認書類や印鑑登録証明書など、取引で求められた書類を準備します。

共有者が遠方・海外にいる場合は、原本の郵送や本人確認に時間がかかることもあるため、決済日から逆算して準備してください。

6.代理人が委任された範囲で売買契約・決済を行う

代理人は、委任状に記載された代理権の範囲内で売買契約や決済を行います。

途中で価格や引渡日などの条件が変わり、委任状で代理人だけでは判断できない内容になった場合は、本人の承諾を取り直すなどの対応が必要です。「委任状があるから何でも代理人だけで決められる」と考えないようにしてください。

7.所有権移転登記は司法書士等へ依頼して進めるのが一般的

決済時には、売主から買主への所有権移転登記を行います。不動産売買の実務では司法書士へ登記申請を委任することが一般的です。

その際は、本記事で紹介している売買契約・決済用の委任状をそのまま使うのではなく、登記内容に応じて司法書士が用意する委任状などを使用します。

一般的な共有名義不動産の売却方法や仲介・買取の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。

共有名義不動産売却の委任状に関するよくある質問

売買・決済を任せる委任状と登記を任せる委任状は同じものですか?

同じものとしてまとめず、別に用意するのが一般的です。

本記事のひな形は、他の共有者や親族などへ売買契約・決済を任せる場合を想定しています。一方、所有権移転登記などの登記申請は司法書士へ委任することが多く、実際に申請する登記内容に合わせた委任状を別途使用します。

共有者全員が委任状を作る必要がありますか?

共有者全員が委任状を作る必要があるわけではありません。

売買契約や決済へ本人が直接参加する共有者は、自分の手続きを代理人へ任せるための委任状は不要です。委任状が必要になるのは、自分が行うべき手続きを代理人へ任せる共有者です。

ただし、共有名義不動産全体を売却するのであれば、原則として委任状の有無とは別に共有者全員の売却意思が必要です。

委任状は自分で作成できますか?手書きする必要はありますか?

不動産売却用の委任状に全国共通の一律の法定書式があるわけではないため、自分で作成することもできます。また、文面すべてを本人が手書きしなければならないという一律のルールもありません。

重要なのは、委任者本人が内容を理解し、自分の意思で代理人へ権限を与えていることです。不動産会社や司法書士から指定書式を渡されている場合は、自作のひな形より指定書式を優先してください。

共有者が海外に住んでいても委任状で売却できますか?

本人に売却意思・意思能力があり、適切に代理権を与えられるのであれば、海外在住の共有者が代理人へ売却手続きを委任することも可能です。

ただし、日本国内の印鑑登録証明書を用意できない場合などは、署名証明や在留証明など別の書類を求められることがあります。必要な書類や本人確認方法は居住国や取引内容によって異なるため、委任状を作成する前に不動産会社・司法書士へ確認してください。

共有者が認知症でも委任状を作れば売却できますか?

認知症という診断名だけで一律に判断することはできません。

本人が売却や委任の意味を理解して判断できる意思能力があれば、状況に応じて本人の意思に基づく手続きを検討できます。一方で、売却・委任の意味を理解できる意思能力がない場合、新たな委任状を作って家族へ売却を任せる方法では進められません。

この場合は成年後見制度など別の方法を検討する必要があります。

作成した委任状は後から撤回できますか?

委任関係は、原則として当事者から終了させることができます。ただし、撤回したつもりでも代理人や取引関係者に伝わっていなければ、実務上のトラブルにつながります。

撤回する場合は、代理人だけでなく、売却を依頼している不動産会社、買主、登記を担当する司法書士などへ速やかに連絡し、すでに渡した委任状の原本も可能な限り回収してください。

また、撤回前に代理人が与えられた権限の範囲内ですでに売買契約を締結している場合、後から委任状を撤回しただけで締結済みの契約まで当然になかったことになるわけではありません。売却をやめたい場合は、契約状況を確認したうえで不動産会社や弁護士等へ相談しましょう。

まとめ

共有名義不動産の売却で委任状を使うのは、共有者本人は売却に同意しているものの、売買契約や決済に直接参加できない場合です。共有者全員の売却意思が必要であることと、全員が同じ場所で手続きへ立ち会う必要があることは分けて考えましょう。

委任状には全国共通の一律の法定書式があるわけではありませんが、少なくとも対象不動産・共有持分・代理人・委任する権限・売却条件を具体的にし、代理人がどこまで本人に代わって判断できるのかを明確にすることが重要です。

また、インターネット上のひな形へそのまま署名・押印するのではなく、実際の取引を担当する不動産会社や司法書士に、使用する書式・本人確認方法・必要書類を先に確認してから完成させると、契約直前の作り直しを防ぎやすくなります。

一方で、共有者が売却に反対している、連絡が取れない、売却・委任を判断できる意思能力がない、相続登記などの前提手続きが終わっていないといった場合は、委任状だけでは解決できません。何が売却を止めているのかを先に整理し、それぞれに必要な対応を進める必要があります。

共有者全員での不動産全体の売却が難しく、「自分の共有持分だけでも売却したい」「共有状態から抜けたい」と考えている場合は、共有持分を専門に取り扱うクランピーリアルエステートへご相談ください。共有者との関係や登記状況などを確認したうえで、持分のみの売却を含め、状況に応じた選択肢をご案内します。

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