共有名義で片方死亡したときの相続登記はどうすればいい?申請書の書き方や相続税の計算など徹底解説

共有名義の不動産で片方が死亡した場合、その人の共有持分は原則として相続人が引き継ぐことになります。不動産の共有者が自動的に持分を取得できるわけではありません。

共有名義の片方が死亡した際の相続登記は、以下の流れが基本となります。

手順 概要
遺言書の有無を確認 被相続人(片方の共有者)が遺言書を残しているかどうかを調べる
相続人を調査 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して相続人を漏れなく調査する
相続財産を調査 不動産以外にどのような財産が残されているのかを調査する
遺産分割協議を実施 遺言書がない場合は相続人全員で遺産の分け方を協議し、合意した内容を遺産分割協議書に記載する
相続登記を申請 共有持分の名義変更は、登記の目的を「(被相続人)持分全部移転」などとして申請するのが一般的です(具体の記載は事案・不動産の構成で異なる)。

相続登記は2024年4月から不動産登記法によって義務化されています。

原則として「不動産を相続で取得したことを知った日」から3年以内に申請が必要です。さらに、遺産分割が成立した場合は、その成立日から3年以内に分割内容に沿った登記が必要です。

正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象となり得るため、共有名義の不動産で片方が死亡した際には、速やかに相続を進めましょう。

また、共有持分を複数の相続人で相続すると、共有者が増えてしまい、売却や管理、固定資産税の負担などをめぐってトラブルに発展するリスクが高まります。そのため、できるだけ共有名義での相続は避け、単独名義で相続するようにしましょう。

遺産分割協議や相続登記の進め方で迷っているときは、不動産登記の専門家である司法書士や弁護士への相談がおすすめです。

司法書士に相談すれば、相続登記に必要な書類収集・申請手続きについて助言を受けたり、申請代理を依頼したりできます。「遺産分割の内容で争いがある」「合意形成が難しい」という場合は、弁護士への相談も検討しましょう。

弊社クランピーリアルエステートでは、共有名義の不動産や相続登記によって生じる負担を少しでも軽減することを理念の1つとして掲げています。

共有不動産や共有持分の買取実績を豊富に有しており、共有名義の片方が死亡したケースなど複雑な案件でも柔軟に対応しています。また、弁護士や司法書士などの専門家とも連携しており、必要に応じてご紹介することが可能です。

共有名義不動産の売却や相続登記のことでお困りの方は、ぜひクランピーリアルエステートまでご相談ください。

目次

共有名義で片方死亡した際の共有持分は相続人が引き継ぐのが原則

共有名義の不動産で片方が死亡した場合、その人が持っていた共有持分は、原則として法定相続人が引き継ぐことになります。もう一方の共有者が自動的に共有持分を引き継ぐわけではないため、注意が必要です。

法定相続人とは、民法で定められた「相続する権利を持つ人」のことです。民法では、相続人について以下のように定められています。

(子及びその代襲者等の相続権)
第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第八百八十九条 次に掲げる者は、第八百八十七条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二 被相続人の兄弟姉妹

(配偶者の相続権)
第八百九十条 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索

つまり、配偶者は常に相続人となり、同時に相続する人は「子どもなどの直系卑属」「両親などの直系尊属」「兄弟姉妹」の順で優先されることになります。

たとえば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合、法定相続人は「配偶者と子ども」になり、両親や兄弟姉妹に相続権はありません。

子どもがいなければ両親、両親がいなければ兄弟姉妹のように、相続権が移っていきます。離婚や死亡などで配偶者がいない場合でも、優先順位に変更はありません。

また、相続人ごとに法定相続分(相続の割合)も異なります。実際の遺産分割協議では、以下の法定相続分を参考に遺産の相続について取り決めることになります。

相続人 法定相続分
配偶者と子ども 配偶者:2分の1
子ども:2分の1(複数人の場合は人数で等分)
配偶者と両親 配偶者:3分の2
両親:3分の1(複数人の場合は人数で等分)
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1(複数人の場合は人数で等分)

共有名義の片方が死亡した場合、法定相続人が持分を引き継ぐことになるのが原則であり、遺産の相続割合は法定相続分を参考にするという点を押さえておきましょう。

共有名義で片方死亡した場合の相続登記の流れ

共有名義で片方死亡した場合の相続登記の流れは以下が基本となります。

  1. 遺言書の有無を確認する
  2. 相続人を確定する
  3. 相続財産を調査する
  4. 遺産分割協議を行う
  5. 相続登記を行う

1.遺言書の有無を確認する

共有名義の不動産で片方が死亡した場合、最初に確認すべきなのが遺言書の有無です。

遺言書が残されていれば原則としてその内容に従って相続するため、「誰が共有持分を引き継ぐのか」「どのように名義を変更するのか」が大きく左右されます。

遺言書は、被相続人の自宅や金庫、親族が預かっている書類の中に保管されていることもあれば、公証役場で管理されているケースもあります。相続の手続きを始める前に、心当たりのある場所を丁寧に探し、遺言書の有無をしっかりと確認しましょう。

なお、遺言書には主に以下3つの種類があり、それぞれで作成方法や開封方法が異なります。

遺言書の種類 概要 開封方法
自筆証書遺言 遺言者が自筆で全文を記載する方法 家庭裁判所で検認する
秘密証書遺言 自筆で作成した遺言書の存在のみを公証役場で証明してもらう方法 家庭裁判所で検認する
公正証書遺言 公証役場で公証人が遺言者の希望を聞き取って作成する方法 家庭裁判所の検認は不要

自筆証書遺言と秘密証書遺言は、偽装や改ざんを防ぐために家庭裁判所で検認を受ける必要があります。公正証書遺言については、公証役場で遺言の内容が保管されているため、検認は必要ありません。

注意したいのは、遺産分割協議を終えた後に遺言書が見つかるケースです。この場合、すでに決めた相続内容は無効になることがあり、原則として遺言書の内容に従って相続をやり直すケースもあります。結果として、手続きに余計な時間や手間がかかってしまいます。

そのため、共有名義で片方が死亡して相続登記を行う際には、後からトラブルにならないよう、最初の段階で必ず遺言書の有無を確認しておきましょう。

2.相続人を確定する

遺言書の有無が確認できたら、次に相続人を確定させる必要があります。遺産分割協議は相続人全員の参加が前提となるため、相続人調査をせずに進めることはできません。

相続人を調査する際は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて取得します。戸籍は結婚や離婚、養子縁組、本籍地の移動などによって新しく作られるため、最新の戸籍から1つ前の本籍地をたどり、出生時までさかのぼって確認していきましょう。

相続人調査を十分に行わないまま遺産分割協議を進めてしまうと、後から新たな相続人の存在が判明する可能性があります。その場合、すでに成立した協議が無効となり、相続の手続きをやり直さなければなりません。

弊社でも実際にあった事例ですが、「共有名義で片方が死亡し、配偶者と子どもがいたので相続人調査をせずに相続登記を進めたところ、後から非嫡出子の存在が発覚した」というケースがあります。

そのため、相続人が明らかな場合であっても、共有名義で片方が死亡した際には相続人調査をしっかりと行いましょう。戸籍の収集や確認に不安がある場合は、相続に詳しい司法書士などに相談することで抜け漏れを防ぎやすくなります。

3.相続財産を調査する

相続人が確定したら、次に行うのが相続財産の調査です。遺産分割協議は、「どのような財産が、どれだけ残されているのか」を把握したうえで進める必要があるためです。

相続財産はプラスの財産だけではなく、借金などマイナスの財産も含まれます。具体的な財産の例は以下のとおりです。

プラスの財産 マイナスの財産
・不動産
・現金
・預貯金
・有価証券
・貴金属
・自動車
・生命保険金
・損害賠償請求権
・知的財産権など
・借金
・ローン残債
・未納の税金
・未払いの医療費
・損害賠償債務など

プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが多い場合、そのまま相続すると、相続人が借金まで引き継ぐことになってしまいます。そのため、相続財産の調査結果によっては、相続放棄や限定承認といった手続きを検討したほうがよい場合もあります。

相続放棄は、被相続人の財産や負債を一切引き継がずに放棄する手続きです。
限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を清算する手続きです。

相続放棄や限定承認の手続きをするためには、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申し立てを行う必要があります。

共有名義で片方が死亡した際の相続登記を進めるうえでも、相続財産の内容を正確に把握しておくことは重要です。財産の全体像が分からないまま判断してしまうと、後から借金やローンが発覚して遺産総額がマイナスになるおそれもあるため、必ず相続財産の調査を行いましょう。

相続財産の調査が完了したら、「財産目録」として財産の一覧を書面にまとめておきます。

4.遺産分割協議を行う

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰が、どの財産を、どのように相続するのか」を決めます。

共有名義の不動産で片方が死亡したケースでも、被相続人が持っていた共有持分を誰が引き継ぐのかを遺産分割協議で決めたうえで、相続登記を行うことになります。

遺産分割協議は、必ずしも全員が集まって行う必要はありません。相続人が遠方に住んでいる場合、電話やオンライン会議などを利用して進めることも可能です。重要なのは、相続人全員が遺産分割協議で取り決めた内容に合意していることです。一人でも同意しない相続人がいる場合、協議は成立しません。

遺産分割協議で合意に至ったら、その内容を遺産分割協議書として書面にまとめます。遺産分割協議書は、後からトラブルになるのを防ぐための重要な書類であり、共有名義で片方が死亡した場合の相続登記を申請する際にも必要です。

相続人全員の合意が得られた時点で速やかに遺産分割協議書を作成し、署名・捺印をして大切に保管しておきましょう。

5.相続登記を行う

遺産分割協議によって不動産の分け方が決まったら、次に相続登記を行います。共有名義の不動産で片方が死亡した場合、被相続人の共有持分を取得することになった相続人が法務局で相続登記を申請し、名義変更をする必要があります。

相続登記を申請する際には、登記申請書や戸籍謄本、遺産分割協議書などの必要書類をそろえて管轄の法務局に提出します。書類に不備がなければ、申請からおおむね1〜2週間程度で登記が完了します。

なお、相続登記は令和6年4月1日から義務化されており、不動産を相続したことを知った日から3年以内、または遺産分割が成立した日から3年以内に申請しなければなりません。正当な理由なく期限を過ぎた場合は、10万円以下の過料の対象となります。

相続登記は、必要書類の収集や登記申請書の作成など、慣れていないと負担が大きい手続きです。相続登記を確実に進めたい場合や、手続きに不安がある場合は、司法書士に依頼することも検討してみてください。

参照:相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)|法務局

共有名義人が片方死亡した際の相続登記申請書の書き方

夫婦で共有していた不動産の名義人が片方死亡し、被相続人の子どもが新たに持分を取得する場合、一例として法務局に提出する登記申請書は以下のように記載します。

登記申請書
登記の目的  所有権移転

原 因    令和6年4月10日 相続

相続人    東京都板橋区△△
       山本 一郎 持分2分の1

不動産の表示 
所 在   東京都板橋区△△
家屋番号  456番
種 類   居宅
構 造   木造2階建
床面積   1階 60.00㎡ 2階 55.00㎡

添付書類  
1 被相続人の戸籍一式
2 相続人の戸籍・住民票
3 相続関係説明図
4 固定資産評価証明書

登録免許税  課税価格 × 0.004(持分2分の1分のみ)

登記申請先  東京法務局板橋出張所

令和6年7月15日

申請人    東京都板橋区△△
山本 一郎
電話:03-YYYY-YYYY

※テンプレートはあくまで例であるため、そのまま使うのではなく、司法書士に相談して正式に作成してください。

ここでは以下のポイントに分け、共有持分を取得する際の登記申請書の書き方を解説します。

登記の目的や原因

共有名義で片方が死亡したケースの場合、登記の目的には、「所有権移転」と記載します。今回の事例では、夫婦で共有していた不動産を子どもが新たに取得する形になるためです。

原因の欄には、相続が発生した日付を記載のうえ、「相続」と書きます。

日付は、遺産分割協議が成立した日ではなく、原則として被相続人が亡くなった日を記載します。厳密にいうと戸籍謄本に記載の死亡年月日とあわせる必要があるため、誤りがないよう注意が必要です。

共有持分を取得する相続人

「相続人」の欄には、相続人の住所と氏名を記載するのですが、住民票や戸籍謄本などの添付書類と表記を一致させる必要があります。住所の表記ゆれや氏名の漢字違いがあると、法務局から差し戻しを受ける原因になります。

また、共有名義の不動産で片方が死亡した場合は、被相続人が有していた共有持分を相続によって引き継ぐことになるため、相続人ごとに取得する持分の割合も記載します。

たとえば、被相続人が持分2分の1を所有しており、その持分を1人の相続人が引き継ぐ場合は「持分2分の1」といった形で記載します。登記申請書に記載する持分は、遺言書や遺産分割協議書の内容と一致していなければなりません。

登記申請書と添付書類の内容に相違があると、相続登記の手続きが進まないおそれがあるため、注意が必要です。

不動産の表示

「不動産の表示」の欄には、所在地や地番、家屋番号のほか、建物の場合は種類や構造、床面積なども記載します。対象となる不動産を特定する重要な項目であるため、記載内容に誤りがないよう注意が必要です。

不動産の表示は、登記事項証明書に記載されている内容と完全に一致させることが基本です。登記事項証明書とは、不動産の情報が記載された書面のことであり、法務局で取得できます。

土地と建物がある場合は、それぞれについて正確に記載し、登記事項証明書の内容をそのまま転記する形で作成しましょう。

添付書類の一覧

相続登記を申請する際には、登記申請書のほかに相続関係を証明するための書類をあわせて法務局へ提出する必要があります。

そのため、添付書類の一覧には、法務局へ提出する書類名をすべて記載します。たとえば、「被相続人の戸籍一式」「相続人全員の戸籍謄本」「遺産分割協議書」「固定資産評価証明書」といった形です。

遺言書の有無や相続人の構成によって提出書類が変わるため、事前に法務局の案内を確認したり、司法書士などの専門家に相談したりしながら添付書類を用意しましょう。

登録免許税

相続登記申請書には、登録免許税の金額も記載します。登録免許税は、不動産の名義変更を行う際に国へ納める税金です。

相続による所有権移転の登録免許税は「課税価格 × 0.004」で計算します。課税価格には、固定資産評価証明書に記載されている評価額を用います。

ただし、共有名義の不動産で片方が死亡した場合は、不動産全体の評価額ではなく、相続によって取得する共有持分の部分のみが課税対象になります。たとえば、被相続人が不動産の持分2分の1を所有しており、その持分を相続人が引き継ぐ場合は「持分の2分の1」の評価額を基に登録免許税を計算します。

共有名義で片方が死亡した際の相続登記では、取得する持分の割合を正しく把握したうえで、登録免許税を算出しましょう。

共有名義人が片方死亡した場合の相続税の計算方法

共有名義人が片方死亡し、その持分を相続で引き継ぐ場合、相続税が発生する可能性があります。ただし、相続税には基礎控除枠が設定されているため、持分を相続したからといって必ず相続税がかかるわけではありません。

相続税が発生するのか、また発生する場合はいくらになるのかの計算手順は以下のとおりです。

  1. 課税対象額を計算する
  2. 課税対象額から基礎控除額を差し引く
  3. 法定相続分で按分する
  4. 相続税の総額を計算する
  5. 納税額を計算する

課税対象額を計算する

相続税の計算を行う際、まず最初に確認するのが課税対象額です。課税対象額とは、相続によって取得する財産の価額を合計した金額のことです。

実際に相続税を計算する際には、不動産だけでなくすべての相続財産を合算して算出しますが、今回は相続財産が「共有名義の不動産の持分のみ」であるケースを想定して説明します。

共有名義の不動産で片方が死亡した場合、相続税の課税対象となるのは、不動産全体の評価額ではなく、被相続人が保有していた共有持分のみです。そのため、まずは不動産の相続税評価額を確認し、そこに被相続人の持分割合を掛けて課税対象額を計算します。

たとえば、共有名義の不動産の相続税評価額が9,000万円で、被相続人の持分が2分の1だった場合、課税対象額は次のようになります。

9,000万円 × 1/2 = 4,500万円

なお、共有持分以外にも相続財産がある場合、上記で算出した金額にすべての相続財産の金額を足すことになります。相続財産に漏れがあると相続税を正しく計算できないため、調査の段階ですべての財産を洗い出しておきましょう。

課税対象額から基礎控除額を差し引く

課税対象額を算出した後は、そこから基礎控除額を差し引き、相続税の課税対象となる金額であるかどうかを確認します。

基礎控除額は、相続税などに設定されている非課税枠であり、法定相続人の人数に応じて異なります。基礎控除額の具体的な計算方法は以下のとおりです。

基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

上記の計算式で算出した基礎控除額を超えた部分についてのみ、相続税の対象となります。

ここでは、先ほどのシミュレーションを引き続き用いて考えてみましょう。共有名義の不動産の評価額が9,000万円で、被相続人の持分が2分の1だった場合、課税対象額は4,500万円でした。仮に法定相続人が2人であれば、基礎控除額は「3000万円+(600万円×2人)=4,200万円」となります。

この場合、課税対象額4,500万円から基礎控除額4,200万円を差し引くと、300万円が残ります。そのため、このケースでは300万円が相続税の計算対象となる金額です。

なお、課税対象額が基礎控除額以下であれば、相続税は発生せず、相続税申告も不要となります。取得した財産が基礎控除を上回っている場合は、次の計算手順に進みましょう。

法定相続分で按分する

次に、先ほど計算した金額を法定相続分で按分します。法定相続分の按分は、相続人が複数人いる場合に、各相続人の税額を計算するために行います。

ここではシミュレーションとして、課税対象額から基礎控除額を引いた金額が300万円で、法定相続人が被相続人の配偶者と子どもの計2人であるケースを考えてみましょう。この場合の法定相続分は、配偶者が2分の1、子どもが2分の1です。

この条件で按分すると、各相続人に割り当てられる金額は以下のようになります。

配偶者:300万円×1/2=150万円
子ども:300万円×1/2=150万円

なお、子どもが2人以上いる場合、配偶者に割り当てられる金額は変わりませんが、子どもに割り当てられる金額は人数に応じて異なります。たとえば、子どもが2人の場合は以下のようになります。

配偶者:300万円×1/2=150万円
子どもA:300万円×1/4=75万円
子どもB:300万円×1/4=75万円

この場合、配偶者は150万円に、子どもA・Bはそれぞれ75万円に対して相続税が発生することになります。

相続税の総額を計算する

法定相続分で按分した金額が算出できたら、次に相続税の総額を計算します。

各相続人に割り当てられた金額ごとに税率を当てはめ、算出した税額を合計していきます。相続税の速算表は以下のとおりです。

遺産の取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10%
1,000万円超から3,000万円以下 15% 50万円
3,000万円超から5,000万円以下 20% 200万円
5,000万円超から1億円以下 30% 700万円
1億円超から2億円以下 40% 1,700万円
2億円超から3億円以下 45% 2,700万円
3億円超から6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

参照:相続税の税率|国税庁

たとえば、課税対象額から基礎控除を差し引いた金額が300万円で、法定相続分により配偶者と子どもにそれぞれ150万円ずつ割り当てられたケースを想定してみましょう。

この場合、遺産の取得金額が1,000万円以下であるため、適用される税率は10%で、控除額はありません。計算方法は以下のようになります。

150万円×10%=15万円

配偶者と子どもが支払う相続税は、それぞれ15万円ということになります。これらを合算すると、相続税の総額は30万円です。

なお、相続税は超過累進課税であるため、遺産の取得金額が高額になるほど相続税も高くなります。

たとえば、課税対象額から基礎控除を差し引いた金額が1億2,000万円だったとします。法定相続人が配偶者と子ども2人での場合、法定相続分は配偶者が6,000万円、子ども2人がそれぞれ3,000万円ずつとなります。

このケースの場合、法定相続分に従って遺産を取得するのであれば、配偶者と子どもが支払う相続税は以下のようになります。

配偶者:6,000万円×30%-700万円=1,100万円
子ども:3,000万円×15%-50万円=400万円

つまり、相続税の合計金額は1,900万円ということになります。

納税額を計算する

相続税の総額が算出できたら、最後に相続人ごとの納税額を計算します。

ここで用いるのは法定相続分ではなく、実際に相続した割合です。遺言書や遺産分割協議によって法定相続分とは異なる割合で相続する場合は、この段階で正しい納税額を計算しましょう。

先ほどのシミュレーションでは、課税対象額から基礎控除を差し引いた金額が1億2,000万円で、相続税の総額は1,900万円という結果になりました。今回は、法定相続分とは異なる割合で遺産を相続するものとし、配偶者が1億円、子ども2人が2,000万円(各1,000万円)の遺産を取得したと家庭します。

配偶者の取得割合は全体の6分の5、子ども1人あたりは12分の1となります。この割合をもとに、各相続人の納税額を計算します。

配偶者:1,900万円×5/6=約1583万円
子ども:1,900万円×1/12=約158万3,000円(1人あたり)

ただし、配偶者については「配偶者控除」が適用されるため、相続税が大幅に減額されます。

具体的には、1億6,000万円まで、または法定相続分の範囲内のいずれか多いほうまでの金額に対しては相続税がかかりません。シミュレーションのケースでは配偶者の相続額は1億円であるため、実際の納税額は0円となります。

そのため、今回のケースで相続税を納める必要があるのは子ども2人のみとなります。子ども1人あたりの納税額は約158万3,000円なので、合計で約316万6,000円の納税が必要です。

配偶者は相続における税金の負担が少ないため、共有名義で片方が死亡した場合、配偶者が中心となって持分を取得するケースも多くみられます。

配偶者以外の相続人が持分を取得する場合は、事前に不動産の評価額を調べ、どの程度の相続税が発生するのかシミュレーションしておき、納税資金を準備しておくことが大切です。

参照:配偶者の税額の軽減|国税庁

共有名義で片方死亡した場合に起こり得るトラブル!実際の相談事例を紹介

共有不動産や共有持分の買取を専門とする弊社では、共有名義で片方が死亡した場合の不動産の売却についてご相談をいただくことも多く、なかにはトラブルを抱えている案件もあります。

ここでは、実際にあった以下のトラブル事例をピックアップして紹介します。

  • 相続人が増えて共有名義不動産に関する意見がまとまらなかった事例
  • 相続人が所在不明で相続が進まなかった事例
  • 共有名義不動産の固定資産税や管理費を誰が負担するかで揉めた事例
  • 生前同居していた相続人が住み続けて他の相続人と対立した事例

相続人が増えて共有名義不動産に関する意見がまとまらなかった事例

相続人が増えてしまい、共有名義不動産の活用方針に関する意見がまとまらなかった事例です。

兄弟2人で共有していた実家でしたが、兄の死亡後、兄の持分を甥姪3人が相続し、計4名の共有状態に。
「売却したい人」「残しておきたい人」で意見が割れ、何年も話し合いが進まない状況に陥っていました。
共有関係の複雑化により一般の不動産会社では扱いが難しいと断られ、当社へご相談されました。弊社は弁護士や司法書士などの士業と連携しており、今回の事例では提携する弁護士・司法書士等をご案内し、手続き面は各専門家が対応できる体制を整えたうえで、当社でご相談者様が所有する共有持分を買取りました。

共有名義で片方が死亡した場合、被相続人の持分を複数人が相続するケースも多く、結果として共有者が増えて意思決定が難しくなります。

共有不動産を売却するためには原則として共有者全員の同意が必要となるため、意見が対立すると長期間にわたり身動きが取れなくなります。さらに、共有関係が複雑になると、一般の不動産会社では対応が難しいとして相談を断られるケースも少なくありません。

そのため、共有名義で片方が死亡した後に相続登記を行う際は、できるだけ単独名義にすることを検討してみてください。協議がまとまらない場合、弁護士や司法書士などの専門家に相談して相続登記を進めるのがおすすめです。

相続人が所在不明で相続が進まなかった事例

相続人の一部と連絡が取れず、相続手続きそのものが長期間止まってしまった事例です。

共有者が亡くなり、その持分を相続した親族の一部と何年も連絡が取れず、遺産分割も売却も進まない状態が続いていたケースです。
一般の不動産会社では扱えないと断られたため、当社へご相談いただきました。
士業が判明している相続人の範囲での相続関係の確認や、必要となる書類の整理を進め、その上で、当社では連絡が取れている相続人の保有する共有持分のみを買取。所在不明者がいても、可能な範囲で共有状態から抜け出すことができました。

共有名義で片方が死亡した際、相続人全員の協力が得られなければ、遺産分割協議や相続登記を進めることができません。とくに、相続人が所在不明となっている場合、連絡が取れないこと自体が大きな障害となり、結果的に不動産が長期間放置されてしまうことがあります。

本来であれば、所在不明の相続人がいる場合には、家庭裁判所で不在者財産管理人の選任を申し立てて相続手続きを進めるのですが、時間と費用の負担がかかってしまいます。

「どうしても不動産全体を相続したい」などの事情がない限り、連絡が取れる相続人で法定相続分の持分のみを相続登記するなどの対応が現実的な選択肢となります。持分のみの売却であれば相続人や共有者の同意は必要ないため、不要になった時点で共有名義から抜け出すことも可能です。

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共有名義不動産の固定資産税や管理費を誰が負担するかで揉めた事例

相続後の費用負担をめぐって対立が生じ、共有名義不動産の維持管理が困難になった事例です。

親の死亡後、兄弟3人が共有者となったものの、固定資産税や空き家管理費について「誰がどれだけ負担するのか」で対立。費用負担の偏りによって関係が悪化し、維持管理もままならない状態になっていました。
士業が共有持分に関する権利関係の確認や、持分移転に必要な書類の整備を行い、法的な手続きが滞りなく進められる状況を整備。その後、当社がご相談者様の共有持分を買取ることで、費用負担から解放され、長年のストレスを解消することができました。

共有名義の不動産では、固定資産税や修繕費、管理費といった維持コストの負担をめぐって、共有者同士でトラブルになるケースが少なくありません。

維持コストは持分割合に応じた負担が原則ですが、実際には「使っていないのに支払っている」「一部の共有者だけが負担している」といった不平不満が生じやすいです。共有名義で片方が死亡した後、相続登記までは無事に済ませたとしても、費用負担のルールを明確に決めていなければ関係悪化を招くおそれがあります。

すでに共有者同士の関係性が悪化している場合は、不動産を使用していない人が共有持分を売却するなどの対応が現実的な解決策となります。

生前同居していた相続人が住み続けて他の相続人と対立した事例

生前に同居していた相続人がそのまま住み続けたことで、共有名義不動産の扱いをめぐって意見が対立した事例です。

亡くなった親と同居していた兄が引き続き実家に住み続け、他の相続人である妹・弟は売却を希望していたケースです。
話し合いは兄が応じず前に進まず、「持分だけでも整理したい」ということで当社に相談がありました。
士業が相続関係の確認や、共有持分の移転に必要な書類の作成を担当し、法的な手続きに支障がない状態を整えました。その上で、当社がご相談者様の共有持分を買取ることで、将来的なトラブルリスクを避けたいという希望を実現できました。

共有名義の不動産は、共有者全員に使用する権利があるため、住み続けること自体は問題ありません。ただし、住んでいる人と住んでいない人とで利害が分かれやすく、売却や活用方針について意見が対立しやすい傾向があります。

そのため、共有名義で片方が死亡した後は、相続登記まで完了させたうえで「将来的にどのように不動産を扱うのか」を早めに決めておくことが大切です。

「どうしても売却したいが、居住している共有者の納得が得られない」という場合には、自分の持分のみを売却することで、共有名義から抜け出すことも検討しましょう。

共有名義人の片方死亡による相続トラブルを回避する対策

共有名義の不動産で片方が死亡した場合に、相続トラブルを回避するための対策は以下のとおりです。

  • 生前贈与を行う
  • 遺言書を作成する
  • 家族信託を利用する

生前贈与を行う

生前贈与とは、共有名義人の片方が生存中に、持分など自分の財産を特定の相手に無償で譲り渡すことを指します。共有名義で片方死亡した際の相続トラブルを避けるための対策として、用いられることがある方法です。

相続の場合、法定相続人や法定相続分のルールに従って遺産を分けることになりますが、生前贈与であれば、特定の相続人や家族にのみ持分を譲渡することも可能です。結果として、「相続後に不動産の共有者が増えてしまい、意見がまとまらなくなる」といった事態を未然に防げる可能性があります。

一方で、共有持分を生前贈与する際には、以下のような注意点もあります。

  • 年間110万円の基礎控除を超える贈与には贈与税が課される
  • 贈与は口約束でも成立するが、登記申請の際に贈与契約書が必要になる
  • 他の相続人に特別受益を主張され、相続財産の取り分が減るおそれがある
  • 贈与者が認知症などにより判断能力を欠いていた場合、あとから贈与が無効と判断される可能性がある

このように、生前贈与は共有名義で片方死亡した後の相続トラブルを回避する有効な手段になり得ますが、税金の負担が増えたり相続発生時に不利になったりするリスクがあります。

共有持分の生前贈与を検討する場合は、税理士や司法書士などの専門家に相談しながら慎重に判断しましょう。

遺言書を作成する

遺言書を作成しておけば、本人の意思に沿った形で遺産の分け方を指定できます。共有名義の不動産についても、あらかじめ遺言書を用意しておくことで、「片方が死亡した際に誰が共有持分を引き継ぐのか」を明確にすることが可能です。

共有名義で片方が死亡した場合、相続人が複数いると共有者が増えて権利関係が複雑化し、売却や管理の方針をめぐってトラブルに発展するケースも多いです。

そこで、単独名義になるように共有持分の承継先を指定しておけば、遺産分割協議で揉めたり共有者が増えたりするリスクを抑えられます。たとえば、夫婦で不動産を共有している場合に「共有持分は配偶者に承継する」と遺言書に記載すれば、片方の配偶者の単独名義として相続登記ができます。

注意点として、遺言書を作成する際には遺留分も考慮する必要があります。

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められている、最低限の遺産の取り分のことです。たとえば配偶者と子どもが相続人のケースにおいて、「すべての遺産を配偶者に相続させる」といった内容の遺言を残した場合、子どもの遺留分を侵害していることになります。

遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額請求を申し立てる権利を持ちます。そのため、遺言で特定の相続人の遺留分を侵害している場合、あとから遺産分割が修正される可能性があります。

共有持分を特定の相続人にのみ承継して欲しい場合でも、他の相続人とのバランスを考慮して遺言を作成することが大切です。

また、遺言書は形式や内容に不備があると、効力が認められないおそれがあります。そのため、共有持分を確実に相続したい場合は、公証役場で依頼して公正証書遺言を作成しましょう。公正証書遺言は、遺言者と証人2名が立会いのもとで公的に作成されるため、無効になるリスクを抑えられます。

家族信託を利用する

家族信託とは、信頼できる家族や親族と契約を結び、自分の財産の管理や運用、処分を任せる制度のことです。

共有名義の不動産についても家族信託の利用が可能で、近年では認知症対策として活用されるケースが増えています。また、共有名義で片方が死亡した場合の相続トラブルを防ぐ手段として、事前に検討されることも多いです。

家族信託では、当事者間の合意があれば、契約内容を比較的柔軟に設計できます。

たとえば共有名義の不動産について、「自分が死亡した際には配偶者に共有持分を引き継がせ、その配偶者が死亡した後は、子どもに承継させる」といった順序をあらかじめ設定できます。

このように、将来の承継先を段階的に指定しておくことで、相続人が増え、権利関係が複雑化する事態を防ぎやすくなります。

また、家族信託を利用すれば、共有者の片方が判断能力を失った場合でも、信託契約に基づいて受託者が不動産の管理や処分を行えるため、売却や管理が滞るリスクを抑えられます。

一方で、家族信託には注意点もあります。家族信託は契約に基づく制度であるため、契約内容を理解し、判断できる状態でなければ締結できません。認知症を発症してからでは契約が成立しないため、早めに準備を進めることが大切です。

まとめ

共有名義の不動産で片方が死亡した場合、被相続人が所有していた共有持分は、原則として相続人が引き継ぎます。もう一方の共有者が自動的に持分を取得するわけではないため、相続手続きの段階を踏んで持分を取得しましょう。

遺言書がある場合は原則としてその内容に従いますが、残されていない場合は遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するのかを決めます。内容が確定したら、法務局で相続登記を申請し、不動産の名義を正式に変更します。

また、相続によって一定額以上の財産を取得した場合には、相続税の申告と納付が必要です。相続税は、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に申告し、納付しなければなりません。

共有名義で片方が死亡した際には、遺産分割協議や相続登記、税金の支払いなど、複雑な点が多数あります。手続きの進め方に不安があるときは、司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

弊社クランピーリアルエステートでは、共有不動産や共有持分の買取実績を豊富に有しており、複雑な案件でも柔軟に対応しています。相続登記が必要となる場面では、連携している司法書士や弁護士をご紹介させていただくことも可能です。

「共有名義の不動産を整理したい」「相続登記ができず売却が進められない」などのお悩みを抱えている方は、ぜひ弊社までご相談ください。

よくある質問

共有名義で片方が死亡した際、持分だけ放棄することはできますか?

共有名義の不動産で片方が死亡した場合に、持分だけを選んで放棄することはできません。相続放棄を選択すると、共有名義の持分だけでなく、他の相続財産も含めて一切引き継がないことになります。そのため、相続財産の中で持分だけが不要な場合は他の相続人に承継してもらうか、相続後に売却や持分放棄などの手続きを取る必要があります。

共有名義で片方が死亡した際、住宅ローンが残っているとどうなりますか?

団体信用生命保険に加入している場合には、住宅ローンの残債が完済されるため、相続人や他の共有者がローン返済を引き継ぐ必要はありません。
一方、団体信用生命保険に加入していない場合や保険の適用対象外となるケースでは、住宅ローンの残債は相続財産として扱われます。そのため、他の共有者や相続人が住宅ローンの返済義務を引き継ぐことになります。

共有名義で片方が死亡した後、相続登記は必ず全員分まとめて行う必要がありますか?

共有名義の不動産で片方が死亡した後の相続登記は、遺言書や遺産分割協議の内容に基づき、相続人全員でまとめて行うのが基本です。
ただし、法定相続分で登記する場合は財産の保存行為とみなされるため、相続人の1人が単独で相続登記を申請することも可能です。遺産分割協議がまとまらない場合や、相続人の一部と連絡が取れない場合などには、まず法定相続分で相続登記を行い、持分売却などで共有名義を整理するのが良いでしょう。

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