共有物分割請求訴訟をどこよりも分かりやすく解説!費用や手順についても説明
共有不動産を持っていることで、他の共有者と揉めるなどトラブルを抱えているために共有状態を解消したいと考えている人もいるのではないでしょうか。
共有状態を解消する方法の1つとして、「共有物分割請求訴訟」があります。共有物分割請求訴訟とは、裁判所を通じて共有状態を解消するための訴訟です。
分割の可否から分割方法まですべて裁判所の判断に委ねられるため、複数人で相続し共有名義となっている不動産の分割や、夫婦で購入した不動産を公平に分けられます。ただし、分割方法は「現物分割」「換価分割」「価格賠償」の3種類のなかから裁判所が決めるため、必ずしも自身の望む結果になるとは限りません。
分割方法 | 内容 |
---|---|
現物分割 | 共有物を物理的に分割する |
換価分割 | 共有物を売却して売却益を分割する |
価格賠償 | 分割の際の差額を金銭などで補償する |
判決によっては不動産を手放すことになったり、相手へ現金を支払うことになったりする可能性もあります。そのため、メリットとデメリットの両方を理解したうえで、訴訟を申し立てるか判断するのが重要です。
自分に有利に裁判を進めるためには、専門的な知識を持つ弁護士へ依頼するのがおすすめです。この記事では、他にも訴訟の流れや訴訟にかかる費用なども解説します。共有物分割請求訴訟を考えている人は、ぜひ参考にしてください。
目次
共有物分割請求訴訟は裁判所を通じて共有状態を解消するための訴訟
共有物分割請求訴訟とは、共有名義不動産の共有状態の解消を求めて裁判所へ申し立てる訴訟です。
不動産の共有状態とは1つの不動産に対して複数の人間が所有権を持つことであり、珍しいケースではありません。ただし、維持費の負担額でもめたり、不動産を占拠する共有者が出てきたりなど、共有者間でさまざまなトラブルが起こる可能性があります。
また、大規模な改修や不動産全体の売却など共有者1人の一存では不動産を自由に利用するのが難しいケースがあるため、不動産の活用については共有者全員で話し合い同意を得なければなりません。
話し合いが進まない場合やこれ以上共有状態を続けられないと言った場合には、裁判所へ共有物分割請求訴訟を申し立てて共有状態を解消することになります。
共有物分割請求訴訟が行われる2つの例
共有物分割請求訴訟が行われるケースには、主に2つの理由が挙げられます。
- 複数人で相続し共有名義となっている不動産の分割
- 夫婦で購入した不動産の離婚による分割
それぞれのケースを詳しく見ていきましょう。
複数で相続し共有名義となっている不動産の分割
誰かが亡くなり法定相続分に従って遺産分割を行う際に、不動産は物理的に分割するのが難しいため共有名義として複数人で相続するケースは少なくありません。代表的なケースとしては、兄弟で実家を相続する場合が考えられるでしょう。
たとえば兄と弟で実家を相続し、どちらかが住み続ける場合は公平に不動産を活用できないことになります。その場合、固定資産税の負担についての不満や賃貸借契約を結ぶか否かなど煩わしい問題が出てくる可能性が高いです。
また、相続した実家を売却したり改築したりといった際には、共有者である兄弟の同意を得なくてはいけません。兄弟間で共有不動産の活用について意見がまとまらず、話し合いで解決できないような場合に共有物分割請求訴訟が行われます。
夫婦で購入した不動産の離婚による分割
結婚後に不動産を購入する際、お互いが出資して夫婦の共有名義とするケースもよく見られます。離婚時には夫婦の共有財産は基本的にすべて分割されるため、夫婦の共有財産である不動産も分割できます。
一般的に、不動産は財産分与としてそのままどちらかが所有することが多いです。しかし、どちらが所有するのか、売却して換金するのか、意見がまとまらない場合は共有物分割請求を選択するのも可能です。
共有物分割請求訴訟を行うべきケース
共有物分割請求訴訟を行うべきケースとしては、主に下記の4つが挙げられます。
- 共有物分割協議に他の共有者が応じてくれない
- 共有物分割協議で意見がまとまらない
- 不動産を占拠する共有者を追い出したい
- 不動産を現金化したいが他の共有者から同意が得られない
ここからは、上記のケースについてそれぞれ詳しく解説していきます。
共有物分割協議に他の共有者が応じてくれない
共有物分割請求訴訟では和解が成立した場合を除き、裁判所が共有物の分割方法を決めます。裁判所が下した判決には法的な強制力があるため、他の共有者の同意は必要なく、共有者全員は裁判所が決めた方法に従って共有状態を解消しなければなりません。
話し合いに応じてくれない共有者も判決は無視できないので、強制的に共有状態を解消できます。
共有物分割協議で意見がまとまらない
共有物分割請求訴訟では、最終的に裁判所が分割方法を決定するため、意見がまとまらない状態でも強制的に共有状態を解消可能です。なお、共有物分割請求訴訟を起こしても、裁判所が判決を下す前に共有者同士で話し合って和解が成立すれば、その内容に従って共有状態を解消できます。
不動産を占拠する共有者を追い出したい
不動産が共有状態の場合、各共有者は不動産全体を使用する権利を有しているため、原則として不動産を占拠している共有者を追い出せません。
しかし、共有物分割請求訴訟を起こせば、不動産を単独で所有することを主張できます。その主張が認められれば、不動産を占拠する共有者は不法占拠になるため、所有者の正当な権利として不動産の明け渡しを請求可能です。
不動産を現金化したいが他の共有者から同意が得られない
共有物分割請求訴訟で換価分割の判決が下されれば、他の共有者の意思に関係なく不動産全体が競売にかけられるため、強制的に現金化できます。ただし、競売での落札相場は市場価格の5~7割程度なので、裁判の費用や手間がかかる割に手元に残るお金がそれほど多くはないというデメリットがあります。
自己持分のみなら他の共有者の同意を得なくても単独で売却できるため、現金化を目的としているのであれば、自己の共有持分を売却することも検討してみましょう。
共有物分割請求訴訟で共有物分割を行う3つの判決パターン
共有物分割請求訴訟では、以下の3つの中からいずれかの判決が下されます。
- 現物分割
- 換価分割
- 価格賠償
それぞれの詳しい内容と、具体的にどのようなケースが当てはまるかを解説します。
共有物そのものを分割する「現物分割」
現物分割とは、共有物を物理的に分けることです。法的には現物分割が原則とされており、公平性も高いと考えられているためまずは現物分割が可能かどうかを検討します。
たとえば、100㎡の土地が2人で1/2ずつ共有している共有物となっている場合、それぞれが土地を50㎡ずつ所有するように「分筆」で分けられます。
とはいえ、共有不動産の場合は現物分割ができないケースが多く、特に一戸建てなどの建物は物理的に分けられません。土地の分筆も接道状況やそもそもの面積、埋没されている水道管やガス管の状況などを考慮すると現実的でないケースが多くあります。
以上の理由から、共有不動産の分割においては現物分割以外の解決方法となることが多いといえるでしょう。
共有物の売却代金を共有者で分ける「換価分割」
換価分割とは、不動産を競売にかけてその売却代金を持分割合に応じて分ける方法です。共有物の分割は原則として現物分割となりますが、できない場合は換価分割が採用されるケースが多いでしょう。
現物分割ができないケースは、以下の2通りです。
- 建物など物理的に分割するのが難しいケース
- 現物分割をすることで共有物の価値が著しく損なわれるケース
共有物が建物の場合、物理的に分割が難しいのは先に説明した通りです。「共有物の価値が著しく損なわれるケース」は、共有している土地が狭い場合に当てはまるケースが多いです。
狭い土地を分割するとさらに狭くなり、その土地を利用するのが難しくなってしまいます。そのような場合、価値が著しく損なわれると判断され現物分割ができません。
上記の場合に用いられる換価分割は売却金額を分けるため、公平に分割請求を解決できる方法です。しかし、共有不動産を手放すことになったり、競売にかけられたりするため、一般的な評価額よりも低い金額で売られてしまうデメリットもあります。
分割の際の差額を金銭などで補償する「価格賠償」
共有物を分割した際に、差額を金銭などで保証することを「価格賠償」といいます。
- 1人が共有物をすべて引き取る代わりに他の共有者へ持分相当の金銭などを支払う「全面的価格賠償」
- 共有物を現物分割した際に出た差額分を金銭などで支払う「一部価格賠償」
それぞれのケースについて、具体例を交えて解説します。
1人が共有物を引き取る代わりに他共有者に金銭などを支払う「全面的価格賠償」
共有物を分割するのではなく1人が他の共有者の持分をすべてもらい、その対価として持分相当の金銭などを他の共有者へ支払うのを「全面的価格賠償」といいます。
たとえば、1,000万円の価値がある不動産をAとBそれぞれ1/2ずつの割合で共有しているとします。全面的価格賠償でAが不動産全体を引き取る場合、AはBに対して持分1/2に当たる500万円を支払うことになります。
全面的価格賠償は、不動産が他人の手に渡ることなく共有状態を解消するのに有効な手段です。しかし、判例によって特別に認められてきた分割方法であり、いつでもできるわけではありません。
全面的価格賠償が採用されるかどうかはさまざまな事情を考慮して決められますが、裁判所が特に重視するのが支払い能力です。不動産を取得する人物、上記の例でいうAに、Bへ対価を支払うだけのお金がないと全面的価格賠償は利用できません。
そのため、全面的価格賠償で不動産を取得したいと考えている場合には、それだけの支払い能力があると証明する必要があります。
共有物を現物分割した際の差額を金銭などで支払う「一部価格賠償」
先述した「現物分割」で、分割した不動産の価値に差が出た場合にその差額を金銭などで支払うのが「一部価格賠償」です。
具体的な例を挙げると、100㎡の土地を2人で1/2ずつ共有している場合は、50㎡ずつに土地を分筆します。それぞれ同じ50㎡ですが、接道状況や面している方角などで土地の価値は異なります。
片方が南向き、もう片方が北向きでは、一般的に南向きの方が価値が高くなるでしょう。このような場合に、価値が劣る土地を取得した人へ、価値の高い土地を取得したほうが差額を支払います。
ただし、先述の通り現物分割によって共有物の価値が著しく損なわれる場合には、一部価格賠償も利用できません。
共有物分割請求訴訟を行う3つのメリット
共有状態を解消する手段として有効な「共有物分割請求訴訟」ですが、行うことでどのようなメリットがあるのでしょうか。主に考えられるメリットは以下の3つです。
- 裁判所に決定を委ねることができる
- 判決に強制力がある
- 客観的で公平な価格の提示を見込める
それぞれどういった点がメリットなのかを、詳しく解説します。
裁判所に決定を委ねられる
共有物分割請求訴訟では、当事者ではなく裁判所が法律に則り分割方法を決定します。共有者同士では、互いの感情や計算が邪魔をして話し合いが難航し、一向に共有状態が解消できない場合もあるでしょう。
しかし裁判所が下した決定であれば、共有者全員が冷静に受け入れられるかもしれません。
判決に強制力がある
民法251条に定められている通り、共有者は他の共有者の同意なしに共有物に変更を加えることはできません。
民法第二百五十一条(共有物の変更)
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
引用:e-Gov法令検索|民法
しかし、裁判所の決定には強制力があるため、共有者の同意は必要ありません。判決に納得できない共有者がいたとしても、判決が下された以上は従う必要があります。
そのため、話し合いがまとまらないものの、どうしても共有状態を解消したい場合は、共有物分割請求訴訟を申し立てるのが得策といえるでしょう。
客観的で公平な価格の提示を見込める
前述の通り、裁判所が決定する分割方法には「現物分割」と「換価分割」「代償分割(価格賠償)」の3種類があります。
もし、持分を取得する人が代償金を他の共有者に支払う「代償分割」を共有者間で決めておこなう場合、相手側の言い値を基準にすると不公平が生じる可能性が高いです。
共有物分割請求訴訟なら、裁判所が指定する不動産鑑定士の鑑定を元に判断するため、根拠のある公平な価格が提示されます。払う方も受け取る方も、納得して分割できるでしょう。
共有物分割請求訴訟を行う4つのデメリット
共有物分割請求訴訟にはメリットがある一方で、もちろんデメリットもあります。
- 自分の望む結果になるとは限らない
- 換価分割の場合は売却価格が低くなる可能性がある
- 解決するまでに時間と費用がかかる
- 共有者同士の関係が悪化する
分割請求訴訟を申し立てる前に、メリットとデメリットの両方を理解し、メリットの方が上回るかどうかをよく考えましょう。
自分の望む結果になるとは限らない
共有物分割請求訴訟で判定を下す裁判官は誰の味方でもなく、完全に中立の立場です。不動産の状況などさまざまな条件を加味して解消方法を決定するため、不動産を手放すことになったり自分が相手へ金銭を支払ったりする必要がでてくる可能性もあります。
そのため、建物が競売にかけられるなど、場合によっては共有者全員が金銭的に損をすることもあるでしょう。
どうしても不動産を手放したくない場合や安価での売却を避けたい場合、また金銭的損失を負いたくない場合は、持分を売却したり、持分放棄を行ったりなど他の解消方法を検討するのがおすすめです。
換価分割の場合は売却価格が低くなる可能性がある
前述の通り、不動産の場合は現物を分けるのが困難なことがほとんどです。代償分割をするにも資金が足りないなど難しい場合には、換価分割が選択されます。
現金を分割するため公平性が高く、一見良く思える換価分割ですが、競売にかけられるため一般的な相場よりも売却価格が低くなる可能性が高いです。手に入る金額が想定よりも少なくなることがあるため、注意しましょう。
解決するまでに時間と費用がかかる
共有物分割請求訴訟の判決が出て共有状態が解消されるまでは、半年から数年ほどかかることがほとんどです。判決に納得ができず控訴審や上告審にもつれ込んだり、事実確認が必要になったなどの理由で口頭弁論が行われたりすると、さらに裁判期間が延びてしまいます。
裁判が長引くとそれだけでストレスが大きくなるだけでなく、弁護士費用が嵩むため費用面でも苦しくなるかもしれません。
そのため、弁護士費用をあまりかけたくない人や、なるべく早く共有状態を解消したい人には共有物分割請求訴訟は向いていないといえるでしょう。
共有者同士の関係が悪化する
話し合いで共有状態の解消を決める場合は、合意を目指して話し合います。しかし、裁判となるとお互いが対立して争うことになるため、共有者との関係が悪化する可能性が高いです。
裁判には時間もお金もかかるため、時には修復不可能なほどこじれてしまう恐れもあります。すでに関係が良くない場合は思い切って訴訟を起こすのも1つの方法ですが、まだ話し合いの余地が残っているのなら話し合いで解決するのが望ましいでしょう。
共有物分割請求訴訟の流れ
共有物分割請求訴訟に限らず、基本的に突然訴訟は起こせないため、まずは協議が不調に終わったことを証明するために「共有者全員で共有物分割協議を行う」必要があります。その後、以下のような流れで訴訟が行われていきます。
- 共有者全員で共有物分割協議を行う
- 弁護士に相談する
- 裁判所に対し共有物分割請求訴訟を申し立てる
- 被告に対して訴状や呼出状を送付する
- 裁判が開始され
- 判決・和解または上告
各段階でするべきことや注意する点は異なります。時間のかかる裁判ですが、なるべくスムーズに進められるよう流れを理解しておきましょう。
1.共有者全員で共有物分割協議を行う
前述したように、いきなり訴訟を起こすことはできません。まずは共有者全員で協議をし、協議がまとまらなかったことを証明する必要があります。
対面や電話、メール、Web会議、郵便など協議の形は問いませんが、協議の様子を録音したり郵便の際は内容証明便で送るなど、内容や結論を証明できるように残しておきましょう。
また、協議の手段の1つとして「共有物分割調停」を利用する方法もあります。共有物分割調停は、裁判所で行われる共有者同士の話し合いです。
他の裁判では、訴えを起こす前に調停を経ないといけない「調停前置主義」がとられていますが、共有物分割請求訴訟にはその必要はありません。そのため、共有者間で協議をするか調停を利用するのかは、状況に合わせて選ぶと良いでしょう。
2.弁護士に相談する
共有物分割協議で話し合いがまとまらない場合は、共有物分割請求の実績が豊富な弁護士に相談しましょう。
当事者同士で話し合うとお互いに感情的になって話し合いが進まないことも少なくありませんが、弁護士に間に入ってもらえば冷静な状態で話し合いがしやすいため、スムーズにトラブルを解決できる可能性が高まります。
それでも話し合いがまとまらず、共有物分割請求訴訟に進んだ場合も弁護士なら代理人になってもらえるため、複雑な法的手続きも弁護士に任せられます。
3.裁判所に対し共有物分割請求訴訟を申し立てる
協議を行っても意見がまとまらない場合は、裁判所に対して共有物分割請求訴訟を申し立てることになります。先述した通り、共有者間で協議を行っている場合は調停を行わなくても申し立て可能です。
不動産の所在地か、被告の住所地を管轄する地方裁判所へ申し立てましょう。申し立ての際に必要な書類は以下の通りです。
- 収入印紙
- 訴状の正本及び副本
- 不動産の固定資産評価証明書
- 不動産の全部事項証明書(登記簿謄本)
- 切手代
印紙代は不動産の固定資産評価額によって異なりますが、一般的には3~5万円程度必要と考えておくと良いでしょう。
また、訴状は弁護士が作成し、副本を自分以外の共有者全員に配布する必要があります。固定資産評価証明書は不動産所在地の役所で、登記簿謄本は法務局で取得します。ほかにも、自身の主張を立証するための書類が必要になる場合もあります。
4.被告に対して訴状や呼出状を送付する
訴訟を申し立てると、1ヶ月ほどで裁判所から各共有者へ先述した訴状の副本の送達と呼出状の送付がおこなわれます。
呼出状とは、民事訴訟において原告及び被告に口頭弁論の期日を知らせ出頭を命じる書面です。他の共有者は呼出状が届いた時点ではじめて訴訟を起こされたと気づき、口頭弁論期日に備えて主張や立証の準備を進めます。
また、もし口頭弁論当日に裁判所へ出頭できない場合は、呼出状に同封された答弁書に訴訟に対する意見など必要事項を記入し、口頭弁論期日の一週間前までに提出しないといけません。
出席と答弁書の提出どちらも行わない場合は、原告の主張が判決となる可能性があります。
5.裁判が開始される
第1回口頭弁論期日が開かれると共に、裁判が開始されます。裁判では原告が提出した訴状と被告の答弁書、口頭弁論などから各共有者の主張が審理されます。
なお、第1回口頭弁論期日で裁判が終わることはほぼありません。その後約1ヶ月おきに口頭弁論期日や弁論準備手続期日(弁論準備室で非公開の手続きとして行われる)を行い、十分に審理が尽くされたと裁判所が判断するまで原告と被告が主張・反論を繰り返します。
何度も出廷するのは仕事や家庭の都合上難しい人もいるかもしれませんが、弁護士に依頼している場合は弁護士に出席してもらえます。必ずしも当事者が出席しなければいけないというわけではありません。
6.判決・和解または上告
原告・被告双方の主張や立証を審理し、裁判所が判決を言い渡します。しかし、実際には判決が下される前に裁判所から和解勧告を受けることも多いです。双方が互いの主張に対して納得できる部分があれば、和解を受け入れると良いでしょう。判決を待つよりも早期に解決できるケースが多いのも和解のメリットです。
和解を受け入れない場合は、裁判所の判決を待つことになります。判決に対して不服がある場合は、判決書が届いてから2週間位内に控訴を申し立てましょう。期間内に申し立てがない場合は、言い渡された判決が確定し共有物の分割が行われます。
共有物分割請求訴訟にかかる費用は50~150万円が相場
共有物分割請求訴訟にかかる費用には弁護士費用や裁判費用などさまざまなものがありますが、主に支払うことになる費用と相場は以下の通りです。
内容 | 費用相場 |
---|---|
弁護士費用 | 40~60万円程度 |
不動産鑑定費用 | 20~30万円程度 |
裁判費用 | 5万円程度 |
弁護士への報奨金や、不動産鑑定士への依頼の有無などでも異なりますが、共有物分割請求訴訟を申し立てるのに必要な費用の相場は50~150万円程度です。
弁護士費用:40~60万円程度
自分に有利な条件で分割請求を解決するなら、専門的な知識を持つ弁護士への依頼は欠かせません。弁護士費用は「着手金」と「報奨金」に分かれていて、着手金は弁護士へ依頼した時点で支払うものです。
報奨金は裁判が終わったあと、分割によって得た経済的利益の額に応じて支払います。着手金と報奨金のどちらも相場はおよそ20~30万円と考えておきましょう。
ただし、報奨金は弁護士事務所によって異なります。複数の事務所に見積もりを依頼し、比較検討すると良いでしょう。
不動産鑑定費用:20~30万円程度
共有物の価値を正しく把握し、公平な判決を下すために裁判では不動産鑑定を命じられるケースがあります。その場合は不動産鑑定士に鑑定を依頼するのですが、鑑定料は「建物のみ」「土地のみ」「土地建物両方」のいずれを鑑定するかによって異なります。
また、対象不動産の評価額によっても鑑定費用は変動しますが、一般的な住宅であれば20~30万円程度が相場です。
不動産鑑定以外に、不動産業者の査定書を利用するケースもあります。査定書は無料で入手できますが、査定書による評価額に共有者全員の合意が得られなければ不動産鑑定士の鑑定が必要になります。
裁判費用:5万円程度
「共有物分割請求訴訟の流れ」で触れた通り、裁判を申し立てる際には原告側が訴状に貼付する「印紙代」と裁判所が当事者に書面を送付する際の「切手代」を負担しなければなりません。
印紙代は不動産の固定資産評価額によって下記のように変動します。
- 土地の場合:固定資産評価額の1/6
- 建物の場合:固定資産評価額の1/3
上記を計算し、さらに持分割合を乗じます。こうして算出された金額によって裁判所の手数料(印紙代)が決まりますが、共有物分割請求訴訟の場合は3~5万円程度となるのが一般的です。
切手代は被告が1人の場合は6,000~8,000円程度です。被告が2人以上いる場合は、1人増えるごとに約2,000円ずつが加算されます。
共有物分割請求は相続遺産に対して訴訟できない
遺産共有の場合は、原則として共有物分割請求ができません。遺産共有とは、遺産分割協議が成立しないまま複数の法定相続人が相続遺産を共有している状態をいいます。
この場合は共有物分割請求ではなく、遺産分割によって共有物を分割する必要があります。まずは遺産分割協議で遺産の分割方法について話し合い、法定相続人全員が合意すれば遺産共有状態を解消できます。
遺産分割協議が成立しない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てて、調停委員を交えて話し合いをします。調停も不成立であれば自動的に遺産分割審判に移行し、審判官が遺産の分割方法を決めることになります。
共有物分割請求以外で共有状態を解消する方法
共有物分割請求以外で共有状態を解消する方法としては、主に下記の4つが挙げられます。
- 共有持分を放棄する
- 他の共有者に自己持分を売却する
- 他の共有者に自己持分を贈与する
- 買取業者に自己持分を売却する
ここからは、上記の方法についてそれぞれ詳しく解説していきます。
共有持分を放棄する
自己の共有持分を放棄すれば、共有関係を解消できます。共有持分の放棄は自分の意思で自由で決められるため、他の共有者の同意を得る必要はありません。ただし、共有持分を放棄する際の持分移転登記は、他の共有者全員と共同で申請する必要があります。
他の共有者に登記申請を協力してもらえない場合は、登記引取請求訴訟をすれば単独での登記申請が可能です。
ただし、登記引取請求訴訟は費用も時間もかかるため、他の共有者に登記申請を拒否された場合や連絡が取れない共有者がいる場合は、持分放棄以外の方法で共有状態を解消した方が得策だといえます。
他の共有者に自己持分を売却する
他の共有者に自己持分を売却すれば、共有関係を解消できるだけでなく、売却益も得られます。共有持分は市場での需要が低いため、一般の買い手を見つけるのは難しく、売却相場も通常の不動産の市場価格よりも低くなるのが一般的です。
しかし、他の共有者なら自己の持分割合が増えて不動産の活用の幅が広がったり、持分割合が100%になれば不動産を単独で所有できたりなど買い手としての大きなメリットがあります。
そのため、購入に応じてもらえる可能性が高いです。ただし、この方法は他の共有者に買取の意思があり、かつ持分を買い取るだけの資金がなければ成立しません。共有持分の買取をお願いしても、共有者がそれに必ず応じてくれるとは限らないので注意しましょう。
他の共有者に自己持分を贈与する
贈与する場合、相手は自分の意思で決められるほか、他の共有者の同意を得る必要もありません。ただし、贈与は贈与者と受贈者双方の合意がなければ成立しないため、贈与する共有者からは合意を得る必要があります。
また、共有持分の贈与も贈与税の課税対象となります。贈与した共有持分の評価額が基礎控除額の110万円を超える場合、贈与を受けた共有者は翌年の確定申告時に贈与税を申告・納税しなければなりません。
共有持分の評価額は非課税枠を大幅に超えるケースが多く、想定以上の贈与額が課される可能性もあるため、事前に贈与する相手に説明しておきましょう。
買取業者に自己持分を売却する
他の共有者に自己持分を売却するのが難しい場合は、買取業者への売却も検討してみましょう。買取業者に共有持分を査定してもらい、提示された査定額に納得すれば売買が成立します。
ただし、買取業者に売却する場合の売却相場は、市場価格の2分の1~3分の1程度です。仲介を利用するよりもスムーズに売却できる反面、売却価格は低くなってしまうので注意しましょう。
また、買取業者が共有者になると、他の共有者にもしつこく売却を迫ったり、共有物分割請求訴訟を起こされたりといったトラブルに発展しやすいです。他の共有者に迷惑をかけたくない場合は、買取業者に売却する前に一度相談しておいた方がいいでしょう。
まとめ
共有者との協議が合意に至らない場合に、共有物分割請求訴訟は共有状態を解消するための有効な手段となります。とはいえ、判決によっては必ずしも自分の思う通りの分割方法にならない、訴訟には費用がかかるなどデメリットもあります。もし不動産を手放してでも共有状態を解消したい場合は、共有持分の売却も視野に入れると良いでしょう。
ただし、共有持分は一般的な不動産仲介業者では買い取ってくれないケースがほとんどです。共有持分は専門の共有名義不動産買取業者へ依頼しましょう。クランピーリアルエステートなら、共有持分の高値買取が可能です。共有持分の売却を検討しているなら、ぜひ問い合わせてみてください。