兄弟での共有名義不動産はトラブルのもと!実際に起きたトラブル事例と解決法

親が所有していた不動産を相続するにあたって、兄弟で平等に分けたいからと「共有名義にするか迷っている」「共有名義にする予定がある」という場合は、別の手段を再検討することをおすすめします。

実は共有名義の不動産では、利用方法の意見の対立や管理費の支払に関する揉め事、一部の共有者による占有などトラブルが発生しやすいため、まだ名義変更していないのであれば、できるだけ共有状態を避けたほうが得策といえます。

不動産以外の財産で相続する金額を調整したり、対象の不動産を売却して現金で分配したりと、共有名義で不動産を相続しない方法はいくつかあります。

弊社クランピーリアルエステートは、共有持分を専門とする買取業者です。これまで共有名義に関する相談や買取の実績があり、兄弟で不動産を共有したことでトラブルが起きてしまった方からの相談事例は多々あります。

本記事では、実際に起きてしまったトラブル事例を踏まえて、共有名義の不動産の専門家として兄弟での共有名義不動産のトラブルについて解説していきます。また、「すでに遺産分割協議に合意してしまった」「名義変更を済ませてしまった」という人向けに、不動産の共有状態の解消方法についてもお伝えします。

なお、弊社は1,200を超える士業と連携しながら、共有名義不動産によるトラブルの対応や将来的なトラブルの回避をサポートできます。兄弟で不動産を共有する予定がある場合や既に共有状態になっている場合は、ぜひクランピーリアルエステートにご相談ください。

兄弟での共有名義不動産がトラブルのもとになりやすい理由

共有名義の不動産には、兄弟間でのトラブルにつながりやすい性質があります。その大きな理由は、1つの不動産に対して複数人が権利を持ち、法律上の意思決定に全員の関与が必要となる場面が多いからです。

そもそも共有名義とは、1つの不動産を複数人で共同所有する形態のことです。兄弟の場合は相続をきっかけに共有名義になることが多く、確かに「物理的に分けにくい土地や建物を公平に分配できる」というメリットがあります。

しかし、共有名義では各共有者に「使用する権利」と同時に「維持管理や税金を負担する義務」が発生します。そのため、「不動産をどのように使うか」「固定資産税は誰がいくら負担するか」などをその都度調整しなければならないのです。

兄弟の関係が良好で、活用方針や費用分担について全員の意見が一致している場合は大きな問題になりません。しかし、現実にはこのようなケースは少なく、時間の経過とともに考え方がずれてしまい、共有者間で意見が対立してトラブルに発展することも珍しくありません。

実際に弊社にも「初めは共有者全員が不動産の活用や費用負担に納得していても、長年共有を続けると共有者同士で意見が対立してトラブルに発展してしまった」という方からご相談が多々寄せられます。

つまり兄弟で不動産を共有名義にすると、形式上は平等に分配できますが、実際には「不動産を売りたい人と残したい人」、「維持管理の費用を払える人と払いたくない人」のように衝突が起きやすくなり、最終的には兄弟間でトラブルに発展してしまうケースが多いのです。

兄弟での共有名義不動産で実際に起きたトラブル事例

兄弟に限りませんが、共有名義で不動産を所有するとトラブルが起こりやすいです。起こりやすいトラブルを大別すると、大まかには下記のようなケースに分けられます。

  • 不動産の売却や活用について共有者と意見が対立してしまう
  • 固定資産税の支払いをめぐりトラブルになる
  • 管理費用や維持管理の負担をめぐりトラブルになる
  • 他の共有者が勝手に共有持分を売却してしまう
  • 他の共有者に共有名義の不動産を占有される
  • 配偶者や子供、孫もトラブルに巻き込まれる

共有持分の専門業者である弊社では、兄弟間でトラブルが起きてしまった相談・買取の事例が多々あります。ここからは、共有名義不動産で実際に起きたトラブル事例について、弊社の相談・買取の実績をもとに紹介していきます。

不動産の売却や活用について共有者と意見が対立してしまった事例

共有名義になっている不動産は、共有者1人の独断で売却・活用することができません。これは、一部の共有者によって勝手に不動産を売却されたり賃貸に出されたりすれば、他の共有者の所有者としての権利を守れないためです。

実際に弊社の事例として、兄弟間で売却したい人としたくない人で意見が対立してしまった事例があります。

東京都板橋区宮本町の古家つき土地の事例。相続によって兄弟2名で土地を共有しており、土地を売りたい弟と売りたくない兄で意見が対立していました。

元々兄弟は仲が悪かったようで、すぐにケンカになってしまい売却の足並みはなかなか揃わなかったために弊社にご相談いただきました。

兄とは意見が合わないままでしたので、土地全体の売却は諦めて、共有持分を弊社で買い取らせていただきました。

共有不動産を売却する場合、共有者全員の同意が必要になることが民法251条で規定されています。また、賃貸に出す場合、共有者の持分割合の過半数で決定することが民法252条で規定されています。

「共有物の変更」
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
e-Gov法令検索 民法第251条

「共有物の管理」
共有物の管理に関する事項(中略)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。e-Gov法令検索 民法第252条

■共有物の「変更」と「管理」とは
共有物の変更とは、共有物の性質を変える行為。例えば、共有名義になっている不動産を、取り壊す・第三者に売却する・借入の担保にするなどが該当する。共有物の管理とは、共有物の性質を変えない範囲での利用・改良を目的とする行為。例えば、共有名義になっている不動産を、第三者に賃貸する・リフォームする・土地を整地するなどが該当する。

共有者が単独の判断で行えるのは、壊れた箇所の修繕や抹消登記請求など、不動産の現状を維持する行為(共有不動産の保存行為)に限られます。つまり、共有名義というだけで、自由に売却したり賃貸したりすることができないのです。

固定資産税の支払いをめぐりトラブルになった事例

共有名義不動産における固定資産税は、各共有者がそれぞれの持分割合に基づいて負担するように法令で定められています。

各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
e-Gov法令検索 民法第253条

法令ではこのように定められていますが、実務上は「共有者が固定資産税を払ってくれない」「代表者だけで固定資産税を負担している」というケースは珍しくありません。その結果、固定資産税を払わない共有者と感情的なトラブルが起きてしまうことがあります。

実際に弊社の事例として、固定資産税の負担について兄弟間でトラブルが起きてしまった事例があります。

東京都杉並区の事例。姉弟で戸建を相続し共有名義になりましたが、建物には弟が住んでいました。

本来は姉と弟の2人で固定資産税を負担しなければなりませんが、弟は途中から固定資産税を払わなくなってしまったようです。

売却も提案したようですが返事をもらえず、「高齢のため子供たちに負動産を相続させたくない」とのご相談をいただき、今回のケースでは弊社が共有持分を買い取らせていただきました。

固定資産税の支払いは個々の共有者が行うのではなく、代表者1人が全額を納付し、他の共有者に持分割合に応じた金額を請求します。代表者は一時的に、他の共有者が支払うべき税金を肩代わりすることになるのです。

代表者は、固定資産税の肩代わりと納付の手間という負担を負います。さらに、他の共有者から代表者への支払いが送れる、支払いをしない人がいると支払いを催促しなければならず、時間的にも精神的にも負担が増します。一方で、催促のタイミングや方法によっては、代表者からの催促に対して他の共有者が不満を抱く可能性があります。

お金に関しては特にトラブルになりやすいため、兄弟間の関係悪化に繋がりかねません。

管理費用や維持管理の負担をめぐりトラブルが起きた事例

不動産を所有する場合、固定資産税以外にも電気代や水道代、火災保険料といった維持管理のための費用がかかります。共有名義不動産においては、固定資産税と同様に維持管理費もすべての共有者が負担しなければなりません。

しかし、実際には代表者1人が立て替えて後から他の共有者へ請求することになるため、他の共有者が応じてくれないなどのトラブルに発展するのです。

実際に弊社の事例として、維持管理費の負担について兄弟間でトラブルが起きてしまった事例があります。

両親から相続したアパートを兄弟2人で共有名義にしたケースです。兄の家族は遠方に住んでおり、実際の管理は地元に住む弟が担っていました。

建物が築30年を超え、共用部分の外壁塗装や屋根修繕、共用廊下の電球交換や清掃など、日常的な維持管理に費用がかかっていました。「入居者がいる以上、最低限の修繕や清掃は必要」と相談者の弟は考えており、見積書を兄に送って折半を求めたようです。

しかし、兄は「自分は現地に行けないし、入居者からの家賃で十分まかなえるはずだ」と費用負担を拒否。弟が一人で立て替え続けた結果、「なぜ自分だけが管理と費用を背負うのか」という不満が募り、兄弟仲が悪化してしまいました。

折り合いがつかなかったため、今回のケースでは弊社が弟の共有持分を買い取らせていただきました。

代表者以外の共有者としても、管理業者と直接やり取りを行っていないため、「請求される費用は妥当なものなのか」「余分な依頼をしているのではないか」などと不満を抱くことがあるでしょう。

なお、共有名義不動産では、共有者それぞれが不動産を管理する義務が生じます。不動産の維持管理を業者に依頼せず、自分たちだけで行う場合、「誰が不動産まで行って、手入れを行うのか」といった点でもトラブルが起きやすいです。

人が住まなくなった不動産は傷みやすく、そのまま放置しておくと、不動産価値の下落や地域の治安悪化、犯罪リスクの上昇、特定空き家に指定されることによる固定資産税の上昇(最大6倍)など多くの問題に繋がるため、かならず維持管理は行わなければなりません。

かかる費用は持分割合に応じて分割できますが、不動産の維持管理にかかる手間や時間を平等に割り振ることは困難です。

投資用不動産では、代表者が実際に管理をしている代表者が管理にかかる実費や手間賃を収入から差し引くことになるでしょう。この場合は、利益の分配をめぐってトラブルになることも予想できます。

他の共有者が勝手に共有持分を売却してしまった事例

他の共有者が共有持分を売却してしまい、見ず知らずの他人や不動産買取業者と不動産を共有することになるケースもあります。

共有名義の不動産は共有者全員の同意がないと売却できないとお伝えしましたが、これは不動産全体を売却する場合の話で、自分の共有持分のみであれば共有者個人が単独の判断で売却することが可能です。兄弟間でさえトラブルになる共有不動産の維持管理なので、第三者と不動産を共有するとなれば、それまで以上に維持管理や話し合いが難航する可能性は十分にあります。

実際に弊社の事例として、共有持分を第三者に売却されてしまった兄から相談をいただいた事例があります。

兄弟2人で実家を相続した共有名義の不動産の事例。兄は「思い出のある家なので残したい」と考えていましたが、弟は「空き家のままでは維持費が負担になる」と主張し、意見の折り合いがつかないまま数年が経過していたようです。

そんな中、弟が兄に相談することなく、自分の持分だけを不動産業者に売却しました。突然、見知らぬ第三者が共有者として登場し、その業者から持分買取の営業が頻繁に行われたことで、相談者は大きな不安を抱えることになりました。

最終的には、兄から弊社にご相談をいただき、兄の共有持分を弊社が買取することになりました。

なお、不動産買取業者が共有持分を買い取るのは、将来的に不動産全体を所有して売却または活用するためです。不動産会社が他の共有者の持分を所有した後は、話し合い、または共有者分割請求訴訟を提起され、他の共有者の持分を買い取るために動くことになります。

共有物分割請求訴訟を起こされると、起こされた側の共有者は必ず対応しなければならないため、新たに共有者となった不動産買取業者とのトラブルが起きる恐れも出て来ます。

■共有物分割請求訴訟とは
共有物分割請求訴訟とは、裁判所を通じて共有物の分割方法を決め、共有状態の解消を行う訴訟。共有者であれば全員に共有物分割請求訴訟を提起する権利があり、他の共有者は原則として共有物分割請求を拒否することはできない。

他の共有者に共有名義の不動産を占有された事例

特定の共有者に共有不動産を占有された場合、他の共有者が占有者を立ち退かせるのは非常に困難です。一般的な賃貸では可能な、明け渡し請求や立ち退き請求もできません。

民法249条において、共有者であれば不動産のすべてを使用する権利が保証されています。もちろん何の対価もなく自分の持分を超えて使用できるわけではなく、自己持分を超える共有不動産の使用する共有者に対しては家賃として対価を支払う義務が規定されています。

「共有物の使用」
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。
2 共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。
3 共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。e-Gov法令検索 民法第249条

ただし、法律で認められているのは、自己持分を超える使用に対して相応の対価を支払う義務です。よって、一部の共有者が共有不動産を占有しても、法律的に問題があるわけではないため、原則として明け渡し請求や立ち退き請求が認められないのです。占有された他の共有者は、占有者に対して家賃を請求することしかできません。

実際に弊社の事例として、兄弟で共有していた不動産で弟に占有されてしまった事例があります。

両親の相続により、兄弟2人で実家を共有名義にしました。兄はすでに自宅を所有しており実家には住んでいませんでしたが、弟は「せっかく空いているのだから」と勝手に実家で生活を始めました。

当初は「一時的な利用だろう」と兄も黙認していたようですが、弟は家賃も支払わず、固定資産税や修繕費などの維持費の負担も一切しません。兄が「せめて費用は折半してほしい」と求めても、弟は「自分が管理しているから問題ない」と応じませんでした。

その結果、兄は不動産を利用できないにもかかわらず費用だけを負担する立場になり、兄弟関係は悪化。「このままでは解決できない」として弊社にご相談いただきました。

不動産の明け渡し請求・立ち退き請求のハードルは非常に高く、費用も時間もかかります。たとえ占有者が家賃を支払っていなかったとしても、明け渡し請求・立ち退き請求が認められず、占有状態を解消できないままで終わることも大いにあり得ます。

配偶者や子供、孫もトラブルに巻き込まれる

共有不動産が怖いのは、単に兄弟間で共有状態になるだけでなく、配偶者や子供、孫まで共有者になり得るところにあります。今は問題が起きなくても、将来的にトラブルが起きるリスクが増大してしまうのです。

相続に際して不動産を共有名義にすることは、一見すると平等に遺産を分けたように感じられるでしょう。しかし、不動産の所有者が亡くなると、遺言書や遺産分割協議で単独名義での相続を決めない限り、原則として相続人全員が不動産を相続し、共有することになります。

例えば、今回の相続で兄1人・弟1人が共有名義で不動産を相続した場合、持分割合は1/2ずつです。後に、兄が亡くなって兄の妻と子供1人が所有権を相続、弟が亡くなって弟の妻と子供2人が不動産の所有権を相続するとどうなるでしょう。この場合、不動産の共有者が5人に増えることになり、持分割合は細分化されます。

相続持分による不動産の相続が何代も続けば、ねずみ算式に共有者が増え、どんどんと共有者同士の繋がりが薄くなり、誰が共有者であるのか把握することさえ難しくなるのです。誰が共有者か分からなくなれば、共有者全員を探し出さないと話し合いを始めることもできません。

実際に弊社へ寄せられた相談として、不動産の相続が何代も続いてしまった事例があります。

登記名義人が8人兄弟の区分マンションで、さらに兄弟の相続があった事例。
相続人は3世代・20名近くに上り、それぞれ居所の都道府県が異なっていました。売却に非協力的な共有者もおり、相続手続きが難航していたところで弊社への相談に至ったようです。

「関係が悪い共有者がいる」「認知症の共有者がいる」などの理由から、相続人全員での売却は困難だったため、弊社が共有持分を買い取りいたしました。

相続で不動産を兄弟の共有名義になるのを避ける方法

それでは、相続によって不動産を兄弟の共有名義にしないためには、どうすればよいのでしょうか。

  • 遺産分割協議で話し合う
  • 相続放棄をする
  • 遺言書を作成してもらう
  • 家族信託を利用する
  • 親に不動産を売却してもらう
  • 兄弟の1人がすでに共有者の場合は共有者である兄弟が親の持分を買い取る

現在の状況に合わせて、共有名義にする以外の手段を検討しましょう。

遺産分割協議で話し合う

相続が発生している場合であれば、遺産分割協議で話し合って不動産を誰かの単独名義にする、または不動産を売却してしまうのが、最も後々揉めない解決策といえるでしょう。

■遺産分割協議とは
相続人全員で、亡くなった人の財産をどのように分割するのか、だれがどれだけ受け取るのかを話し合うこと。遺産分割協議では、相続人全員が話し合い、全員が結論に納得・合意する必要がある。後から言った言わないにならないよう、遺産分割協議書に結果を文面でまとめ、全員が署名・記名・認印での押印などを行って合意をしたことを残す。

不動産を共有名義にしなくても、平等に財産を相続する方法はあります。

■遺産分割の方法①現物分割
現物分割とは、不動産の形状や性質を変えずに分配する方法。例えば、兄が不動産を相続して弟は預貯金を相続する場合や、土地を分筆して相続する場合が該当する。
■遺産分割の方法②代償分割
代償分割とは、特定の相続人が財産(現物)を相続する代わりに、他の相続人に代償金を与える方法。例えば、兄が不動産を相続する代わりに、兄は弟に対して相続分に見合った現金を支払うことで遺産を分割する。
■遺産分割の方法①換価分割
換価分割とは、現金以外の財産を売却して、得た現金を相続人で分配する方法。不動産の場合、不動産全体を売却できれば、持分割合のみを売却するよりも、相続人1人あたりが受け取れる金額が大きくなる。

遺産分割では、必ずしも全員が平等に財産を受け取らなければならないという法律はありません。そのため、場合によっては「田舎の土地で自分は行くこともないから」「○○さんが住んでいるなら」と相続人同士で財産を譲ることもあります。

遺産分割協議がまとまらない場合、裁判所を介して調停をしたり訴訟を起こしたりして解決することも可能です。将来的にトラブルにならないよう、相続に際して発生した財産の分割については相続時に解決しておくほうがよいでしょう。

相続放棄をする

相続放棄によって、不動産の共有者(=名義人)になることを拒否できます。

相続放棄は相続人としての権利や義務を一切引き継がず、全ての遺産の相続を拒否することです。相続放棄を行うと、最初から相続人ではなかったとみなされ、不動産を相続しないことはもちろん、その他の財産についても相続できません。自分の相続したい財産だけ相続して、不動産のみを放棄することはできないので注意が必要です。

■相続放棄で放棄することになる財産
・プラスの財産:預貯金・不動産・貴金属・宝石・有価証券 など
・マイナスの財産:借入金・未払い金・保証債権・連帯債権・公租公課 など

相続放棄を検討するのであれば、「マイナスの財産がプラスの財産が上回る場合」「財産を放棄してまで、他の相続人と一切の関わりを持ちたくない場合」などに限定した選択肢となります。

なお、相続放棄を選択するには、相続できることを知ってから3ヶ月以内であり、被相続人が亡くなって一切の相続を受けていないことが条件です。被相続人の積立保険の解約返戻金を受け取ったり、遺産分割協議を行ったりした場合は、相続する意思があるとみなされ、相続放棄ができなくなります。

遺言書を作成してもらう

被相続人が存命の場合は、遺言書を作成してもらい、相続方法や分割について指定してもらうとよいでしょう。特に、兄弟が不仲な場合や、多忙で話し合いの時間が確保できない場合、不動産を譲ると口頭で被相続人と約束している場合には遺言書の作成が有効です。

遺言は法律行為の1つです。法的に定められた様式で記載されている遺言書があれば、相続人全員が遺言書に従わないことを合意する場合を除き、遺産分割においては遺言書の内容が優先されます。遺言書として効力を持つのは、現在のところ「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類です。

  • 自筆証書遺言:自筆証書遺言とは、遺言者が遺言の全文・指名・日付を手書きし、押印した遺言
  • 秘密証書遺言:遺言書の内容を秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言
  • 公正証書遺言:遺言者が遺言内容を公証役場の公証人(公証業務を行う国家機関)に伝え、公証人が筆記して作成される遺言

誰でも作成できる自筆証書遺言や秘密証書遺言では、法律で定められた様式を満たせていない場合も多く、効力が認められないことも珍しくありません。確実に効力を持つ遺言状を作成するためには、公正証書遺言を選ぶほうがよいでしょう。

さらに、たとえ遺言状が法的に定められた様式を満たしていても、内容に問題があれば遺言状の内容が認められず、相続トラブルに発展することもあります。相続トラブルが発生しないよう遺言状を作成したい場合は、弁護士に相談してアドバイスを受けながら作成するようにしましょう。

家族信託を利用する

家族信託で財産の管理や処分を家族に委託すれば、将来の共有状態やトラブルを回避した不動産の相続を行うことが可能です。

■家族信託
家族信託とは、委託者(=財産の所有者)が、委託者(=家族)に財産を預け、受益者(=財産から生じる利益を受ける人)のために財産(=信託財産)を管理・処分してもらう財産管理手法。一般的には財産を持つ親を委託者兼受益者に設定し、子供が委託者として親の財産を管理する。委託者が認知症や要介護で意思能力が喪失した際に資産が凍結されるのを防ぐために活用されている。

この家族信託契約を結んでおくことにより、委託者の意向に沿って、家族に財産が継承される仕組みを作ることができます。被相続人を委託者・受益者に、相続人の1人を受託者に、被相続人の死後は全ての相続人を受益者に設定すれば、受託者である相続人は委託者の死後に自分の意思で不動産を管理・処分することができます。そして、受益者には、不動産の売却や賃貸で得た利益が分配されます。

家族信託を利用すれば、不動産の管理者を定め、共有状態を回避しつつその他の相続人に対して財産を残すことができるのです。

家族信託を利用すると、今回の相続で不動産を譲り受けた相続人が亡くなったときに発生する相続「二次相続」の対策も可能です。例えば、委託者が「自分の死後は兄に、兄の死後は兄の長男(孫)に不動産を引き継がせる」というスキームで信託契約を結べます。

なお、家族信託では共有不動産全体でも共有持分だけでも信託財産の対象として指定できます。

参考:家族信託の手続きを自分で行う流れを紹介!後悔しないためのポイントとは

被相続人が存命のうちに不動産を売却してもらう

被相続人が存命のうちに不動産を売却してもらえれば、そもそも不動産の相続が発生せず、相続トラブルや共有状態による問題は起きません。現金であれば、遺産分割は不動産を分割するよりも簡単です。

どうせ売るのであれば、「遺産分割協議の換価分割と変わらないのでは?」と考えがちですが、現実問題として親が亡くなった後に「不動産をどう処分するのか」揉めることは珍しくありません。親が生きているうちに、不動産をどうするのか話し合っておくことで、遺言書を作成したり家族信託を利用したりといった方法も選択できます。

不動産を所有するつもりがないのであれば、親に不動産の売却を依頼して、必要であれば兄弟とよく相談しておきましょう。

兄弟の1人がすでに共有者の場合は共有者である兄弟が親の持分を買い取る

被相続人と相続人がすでに不動産を共有名義で所有している場合、共有者である相続人が親の持分を買い取っておくことで、被相続人が亡くなった際の共有持分の相続を回避できます。

例えば、父親と兄が共有名義で二世帯住宅を購入した場合。そのまま父親が亡くなってしまえば、父親の持分は兄と弟が分割して相続することになり、兄弟間の共有状態が発生します。一方で、父親が生きている間に、兄が父親の持分を買い取っておけば、父親が亡くなっても弟への相続は発生しません。

ただし、親子間の売買が、相続時の兄弟間のトラブル要因になることもあります。例えば、兄が親から安く共有持分を譲ってもらったとして、弟が遺産を多く相続すべきだと主張するケースです。兄弟の誰かが親から不動産を買い取る場合は、必ず他の兄弟・姉妹にも説明をして、必要であれば売買契約を結ぶ際に立会人として一筆もらっておくとよいでしょう。

既に兄弟で不動産を共有している場合は共有状態を解消しよう

兄弟間で不動産を共有名義で所有している場合、さまざまなトラブルが発生するリスクがあります。そのため、下記のような手段で早めに共有状態を解消しましょう。

  • 共有不動産全体を第三者に売却する
  • 共有者に共有持分を売却する
  • 共有名義の土地を分筆する
  • 自分の共有持分だけを第三者に売却する
  • 自分の共有持分を放棄する
  • 共有物分割請求訴訟を起こす

兄弟間のトラブルは、本人と家族の人生や、他の親族との関係性に悪影響を及ぼします。共有不動産はトラブルになりやすいため、大きなトラブルに発展する前に共有状態を解消しておくことをおすすめします。

まとめ

今回は、兄弟が共有名義の不動産を所有することになった、または共有名義で相続しそうになっている人向けに、「不動産を共有名義にするのは避けたほうが良い」といわれている理由について紹介しました。共有名義の不動産は、不動産の売却・活用から、維持・管理、管理費・税金の支払いまでさまざまなトラブルの原因となりかねません。また、今回の相続ではトラブルにならなくても、子どもや孫の代でトラブルになるリスクもあります。

トラブルを防止するためには、できるだけ不動産の共有状態になることを回避することが重要です。被相続人となる両親が存命の場合は、相続が発生する前に不動産を売却してもらうか、遺言状や家族信託で相続トラブルが発生しないように準備を進めましょう。

「すでに共有状態にある不動産を所有している」「共有不動産を相続する」という場合は、クランピーリアルエステートにご相談ください。当社は共有持分を専門に買取を行っており、親族間での相続トラブルへの対応経験も豊富です。弁護士や司法書士などの士業事務所との連携も強みで、将来的なトラブル回避からご相談いただけます。兄弟で不動産を共有名義にするのか迷っている場合はぜひご相談ください。

兄弟の共有名義不動産に関するよくある質問

兄弟が共有名義で不動産を所有するのはどんな場合がありますか?

■実家など親が名義人の不動産を兄弟で相続した場合
兄弟が共有名義になる大半は、親が亡くなった際に親名義の不動産を相続するケースです。遺産分割を話し合うための遺産協議や、被相続人が相続する人を指定できる遺言状で共有名義での相続を避けない限り、法定相続分の共有持分を相続することになるため不動産の共有状態が発生します。

■兄弟が共同生活を行う家を購入した場合
稀なケースではありますが、兄弟が共同で生活するための不動産を購入することで兄弟間で共有名義になることがあります。兄弟ではペアローンが組みにくいため、基本的には頭金を支払う人とローンを組む人を分けて資金を調達することになるでしょう。

相続手続きが完了した後に名義変更を行うことは可能ですか?

相続手続きが完了した後に対象の不動産の名義を変更することは可能です。ただし、登録免許税が再度発生するうえ、不動産を譲り受ける人には贈与税が課税される可能性があります。

これは、民法上では遺産分割協議を行った後の協議のやり直しを認めていますが、税務的には原則として再協議を認めておらず、名義変更が相続ではなく贈与とみなされるためです。遺産分割協議が法的に無効とみなされるケースを除き、贈与税を回避しての名義変更は困難だと考えましょう。

一方で、法定相続分に従って相続登記を行っていたケースでは、相続手続き後の名義変更でも贈与税が発生しないこともあります。例えば、遺産分割の話し合いがまとまらず、とりあえず法定相続分での相続登記を行った場合です。絶対に贈与税が発生しないとは言い切れませんが、相続手続き完了後に遺産分割協議が行われたことが認められれば、贈与ではなく相続とみなされ、贈与税が発生しないことが考えられます。

不動産を兄弟で共有名義にするメリットはありますか?

兄弟で不動産を共有名義にするメリットはあるものの、デメリットと比較すると、わざわざ選択するほどの魅力はないといえるでしょう。

■不動産を兄弟で共有名義にするメリット①遺産分割協議がスムーズに進む
兄弟全員が相続して共有名義にすれば、特定の誰かだけが遺産を受け取れるという不公平な事態は発生しません。そのため、遺産分割協議はスムーズに進むでしょう。ただし、いつかは不動産の維持管理や売却・活用について話し合わなければなりません。

■不動産を兄弟で共有名義にするメリット②売却時にかかる譲渡所得税が減税される
将来的に不動産を売却する場合に、共有名義にしておくことで譲渡所得税を節税できる可能性があります。居住用財産(マイホーム)を売却すると、3,000万円の特別控除が適用されます。共有不動産の場合、共有者はそれぞれ控除を受けられるため、単独で相続するよりも不動産を共有名義にするほうがトータルの控除額が大きくなることがあるのです。

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