離婚時に共有名義不動産を名義変更しないリスクは?名義変更の手続きや費用も解説

「離婚後に共有名義の不動産をどうすべきかわからない」といったご相談をいただくことがあります。

実際に弊社で配偶者と共有名義で不動産を所有した経験がある人を対象に、「離婚後は共有名義から名義変更しましたか」とアンケートを実施しました。その結果は以下のとおりです。

アンケートによると、約8割の人が単独名義への変更や売却などで共有名義を解消している一方、離婚後も名義変更をしていない方もいることがわかります。

離婚後も共有名義で名義変更していない場合、不動産の活用方法に制限がかかり、さらには維持管理費の負担や住宅ローンの滞納などのリスクを抱えることになります。また将来的に権利関係が複雑になり、子どもや親族に迷惑をかけることになりかねません。

そのため、夫婦で不動産を所有している場合は、離婚時や離婚後に必ず共有名義を解消するようにしましょう。

離婚時に名義変更をするためには、財産分与の協議をおこない、夫婦どちらの名義に変更するのかを決める必要があります。双方の合意が取れれば法務局で持分移転登記をおこない、単独名義に変更します。

すでに離婚や財産分与が完了している場合は、以下の方法で共有名義を解消しましょう。

  • 元配偶者と協議し、持分移転登記で共有名義不動産を単独名義にする
  • 元配偶者から合意を得て共有名義不動産全体を売却する
  • 自分の共有持分だけを売却して共有状態から抜け出す

離婚成立から時間が経ってしまっても、2年以内であれば財産分与を原因とした持分移転登記が可能です。また、自身も元配偶者も不動産が不要な場合は、協力して共有名義不動産全体を売却する方法もあります。

名義変更の合意形成が難しい場合や、元配偶者との交渉が進まない場合には、自分の共有持分だけを売却して共有状態を解消することも手です。共有持分の買取業者に依頼すれば、トラブルを抱えた不動産でもスムーズに買い取ってもらえます。

なお、弊社クランピーリアルエステートでは、共有によるトラブルの解決を目指して共有持分の買取を専門的におこなっています。法律や税務の専門家と連携し、複雑なケースにも対応しているため、共有名義のまま不動産を抱えてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

目次

離婚後も共有名義のままで名義変更していない場合のリスク

離婚後に不動産を共有名義のまま放置すると、思わぬトラブルに発展する可能性があります。実際、弊社にも「離婚後に元配偶者と不動産のことでトラブルになった」「元配偶者と連絡が取れず問題を解決できない」などの相談が多く寄せられています。

離婚後も共有名義のままで名義変更していない場合の具体的なリスクとしては、以下のようなものがあります。

  • 不動産の売却やリフォームが自由にできない
  • 元配偶者からの同意がなければ不動産を担保にしたローンが組めない
  • 固定資産税や維持管理費の負担で元配偶者と揉めやすい
  • 離婚後も居住する人と家を出て行く人で不公平が生じやすい
  • 住宅ローンが残っている場合は片方が滞納してしまうリスクがある
  • 元配偶者が持分を勝手に売却して知らない人と共有状態になることがある
  • 将来的に相続人が増えて権利関係が複雑になる

不動産の売却やリフォームが自由にできない

離婚後に不動産を共有名義のままにしていると、売却や建て替え、賃貸などの重要な判断を単独ではおこなうことができません。

民法第251条および第252条では、共有物の取り扱いに関して以下のように定められています。

(共有物の変更)
第二百五十一条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
(共有物の管理)
第二百五十二条 共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索

ここでいう「変更」とは、売却や建て替えなど不動産の形状や使い方に大きな影響を及ぼす行為を指します。「管理」とは、リフォームや賃貸契約など不動産を利用したり収益を得たりすることを目的とした行為を意味します。

共有名義不動産における法律行為は「変更行為」「管理行為」「保存行為」の3つに分類され、それぞれ求められる同意の条件が異なります。

行為 内容 同意の条件
変更行為 ・不動産の売却
・建物の解体
・建物の建て替え・増改築
・不動産への抵当権設定
共有者全員の同意が必要
管理行為 ・リフォーム
・不動産の賃貸契約
共有持分の過半数分の同意が必要
保存行為 ・建物の修繕(雨どいや屋根、配管の修理、外壁の補修など)
・軽微なリフォーム(壁紙の交換など)
・無断で土地を使用している人への明け渡し要求
・無権利者の抹消登記
・火災や災害時の建物滅失登記
共有者の合意は必要なし

売却や建て替えなどの変更行為は、不動産の性質そのものを変えてしまうことから、共有者全員の同意が必要です。そのため、夫婦の一方が反対すれば実行に移すことができません。

リフォームや賃貸契約などの管理行為は、共有持分の過半数の同意があれば進められます。たとえば、夫3分の2、妻3分の1のような割合で持分を所有している場合、夫は妻の同意なしに管理行為を実行できます。一方、夫婦で2分の1ずつの割合で持分を共有している場合は、単独で管理行為の実行をすることはできません。

建物の修繕や軽微なリフォームなど、共有物の現状を維持する保存行為のみ、単独でも実行できます。

このように、共有名義では不動産を思うように活用できない場面が多く、将来的なトラブルの原因にもなります。

元配偶者からの同意がなければ不動産を担保にしたローンが組めない

不動産を担保に設定して金融機関から借入をおこなう場合にも、共有者全員の同意が求められます。

前述したとおり、不動産の形状や使い方に大きな影響を及ぼす行為は民法上の「変更行為」にあたり、単独で実行することはできません。不動産を担保にすると抵当権が設定され、売却など処分の自由が制限されることから「変更行為」に該当します。

不動産担保ローンは、生活資金の確保や新たな住宅購入の頭金などに利用されることが多く、一般的な無担保ローンに比べて低金利で借りられるという利点があります。

しかし、共有名義の状態では元配偶者から同意を得なければ担保設定ができず、ローンを組むこともできません。実際に借入を検討する場合には、元配偶者と交渉し、同意を取り付ける必要があります。

固定資産税や維持管理費の負担で元配偶者と揉めやすい

離婚後も共有名義を続けていると、固定資産税や都市計画税、修繕費などの維持管理費をめぐってトラブルが生じやすくなります。不動産は所有しているだけで必ず固定資産税や維持費が発生するため、費用の分担が大きな問題になりやすいです。

原則として、これらの費用は共有持分の割合に応じて負担することになります。たとえば、夫婦で2分の1ずつ持分を所有しており、維持管理費が合計20万円発生した場合、1人あたり10万円ずつを負担します。

注意点として、固定資産税や都市計画税は代表者宛てにまとめて請求が届く仕組みになっており、共有者全員に個別で届くわけではありません。そのため、代表者が一時的に全額を支払い、あとから元配偶者に請求する流れになるのが基本です。

その際、元配偶者と連絡が取れなかったり支払いを拒まれたりすれば、代表者が事実上すべての費用を負担せざるを得ません。反対に代表者が滞納すれば、他の共有者に連帯納付義務が及び、支払いを迫られることになります。支払わなければ延滞税が加算され、最悪の場合は不動産の差し押さえに発展するリスクがあります。

なお、立て替えた費用に関しては、民法第442条に基づく求償権を行使することで、過去10年まで遡って請求できます。ただし、法的手続きを含む煩雑な対応が必要になるため、現実的には精神的・時間的な負担が大きいでしょう。

共有者が固定資産税を滞納した際の対処法については、下記の記事でも詳しく解説しています。

離婚後も居住する人と家を出て行く人で不公平が生じやすい

共有名義のまま離婚すると、どちらかが不動産に住み続け、もう一方は家を出て行くというケースが多くみられます。

居住を続ける側は、引き続き家を利用できるメリットを享受できます。一方、出ていく側は新たに住む家を探さなければならないうえ、所有権を持っている以上、住んでいなくても固定資産税や維持管理費の負担義務が生じます。

将来的に賃貸や売却で収益化するとしても、共有者全員の同意がなければ進められないため、出て行く側は資産価値を実感できないまま所有を続ける形になってしまいます。

このように、共有名義のまま離婚すると「住む人だけが利益を受け、出て行く人には実質的なメリットがない」という不公平が生じます。トラブルの火種にもなりかねないため、離婚時には共有名義を解消するのが望ましいでしょう。

住宅ローンが残っている場合は片方が滞納してしまうリスクがある

離婚時に住宅ローンが残っている不動産を共有名義のままにしておくと、片方が滞納してしまうリスクがあります。

離婚によって生活費や収入が変化し、従来どおりの返済が難しくなるケースは少なくありません。さらに、家を出た側が「住んでいないのだから払いたくない」と主張し、支払いを渋ることもあります。

住宅ローンは夫婦のどちらかが主たる契約者であっても、もう一方が連帯保証人や連帯債務者になっているケースが多いです。そのため、返済が滞ったときには連帯債務者や連帯保証人に返済請求が及び、重い負担を抱えることになります。

返済ができなければ、最終的には債権者によって不動産が差し押さえられ、競売にかけられてしまう可能性があります。たとえ当事者同士で「離婚後は妻が引き続き住んでも良い」と取り決めたとしても、金融機関や競売で購入した第三者には通用しません。

このように、住宅ローンの返済が滞ると、強制的に退去せざるを得なくなるリスクがあります。

元配偶者が持分を勝手に売却して知らない人と共有状態になることがある

離婚後も共有名義を続けていると、元配偶者が持分を第三者に売却してしまう可能性があります。

不動産全体を売却するためには共有者全員の同意が必要ですが、持分は各共有者が自由に処分できる財産とされており、他の共有者の同意は不要です。つまり、相手が持分を勝手に売却しても違法行為には該当しないため、止めることはできません。

実際、離婚後の関係悪化が原因で、嫌がらせや報復を目的に持分が第三者に売却されるケースも見られます。結果として、これまで夫婦で共有していたはずの不動産を面識のない第三者と共有することになってしまいます。

第三者が共有者になると、家に住んでいる場合には賃料の請求を受けたり、知らない第三者の出入りを認めざるを得なかったりするなど、生活環境が変わってしまいます。さらに、共有物分割請求を申し立てられれば、不動産の売却や競売に発展するリスクもあります。

このように、元配偶者に持分を勝手に売却されると、大きな不利益を被ることになります。

将来的に相続人が増えて権利関係が複雑になる

離婚後に共有名義のまま不動産を所有し続けると、自分や元配偶者のどちらかに相続が発生した際、権利関係がさらに複雑化します。

たとえば自分が亡くなった場合、自分の持分は子ども、子どもがいなければ親や兄弟などが相続します。同様に、元配偶者が亡くなれば、その持分は元配偶者の相続人に承継されます。

仮に元配偶者が再婚して子どもがいる場合には、再婚相手や子どもが新たに共有者となり、これまで面識のない人々と不動産を共同で管理することになります。

共有者が増えるほど、不動産を売却したり活用したりする際には多くの同意が必要となり、話し合いが難航しやすくなります。さらに、時間の経過とともに相続が重なれば、権利関係は枝分かれしていき、誰がどの程度の権利を持っているのかを整理することすら困難になります。

このように、共有名義を放置したままにすると、自分だけでなく将来的に子どもや親族にまで迷惑をかける可能性があります。相続による権利関係の複雑化を防ぐためにも、離婚の段階で共有状態を解消し、単独名義にしておくことが大切です。

なお、共有持分を所有し続けるリスクについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

離婚後も共有名義のままで名義変更していないことで起きてしまったトラブル事例

離婚後も共有名義のまま名義変更をしていないと、元配偶者との間でトラブルが発生するケースが多くみられます。

ここでは、弊社に寄せられた元配偶者との共有不動産に関するご相談の中から、実際に起きたトラブルを例に挙げて紹介します。

  • 元配偶者と連絡が取れず、売却が進まなかった事例
  • 元配偶者が売却に反対して空き家のまま放置された事例
  • 元配偶者が住宅ローンを滞納して返済請求を受けた事例
  • 元配偶者が持分を業者に売却し、強引な交渉を受けた事例
  • 共有名義が原因でリフォーム資金の融資を受けられなかった事例
  • 固定資産税の負担をめぐって対立が深刻化した事例
  • 元配偶者に家賃相当額を求められて対立した事例

元配偶者と連絡が取れず、売却が進まなかった事例

元配偶者と連絡が取れず、不動産の売却が進まなかった事例です。

離婚時に「一旦は共有のままにして、後で名義を整理しよう」と合意していましたが、その後元夫と音信不通になってしまいました。

売却や名義変更のために必要な書類への署名が得られず、不動産は動かせないまま長期間放置されることとなります。元配偶者の所在が不明になっていたことから、最終的に弊社へご相談が寄せられました。

このように、他の共有者と連絡が取れないと、不動産の売却や名義変更が一切進められず、資産を活用できないまま放置せざるを得なくなります。時間が経つほど状況が悪化するため、離婚時に共有状態を解消しておくことをおすすめします。

元配偶者が売却に反対して空き家のまま放置された事例

元配偶者が売却に反対し、不動産が空き家のまま放置されてしまった事例です。

離婚後は、どちらも住んでいない状態で共有名義の家が残っていました。元夫は固定資産税や維持管理費の負担が重いことを理由に売却を希望しましたが、元妻が「子どもの思い出があるため手放したくない」と強く反対しました。

意見がまとまらず、その間も税金や維持費は毎年発生し続け、相談者は「資産のはずなのに負担ばかり増える」と感じる状況に陥りました。問題の解決を図るため、最終的に弊社へご相談いただきました。

このように、共有名義のままでは一方が売却を希望しても相手が反対すれば処分できず、空き家が放置されてしまうことがあります。維持費や税金だけが積み重なり、資産価値を有効に活用できない状態が続くため、離婚時に共有名義を解消することが大切です。

元配偶者が住宅ローンを滞納して返済請求を受けた事例

元配偶者が住宅ローンを滞納したことで、元妻に返済請求が及んだ事例です。

離婚後も住宅ローンの名義を整理しなかったため、元夫が返済を滞らせたときに、連帯債務者だった元妻にも金融機関から督促状が届きました。

元妻は「離婚後は自分に関係ない」と考えていましたが、契約上は返済義務が残っており、急に家計へ負担がのしかかったことで大きな不安を抱えることになりました。
返済を継続することが難しく、最終的には売却も視野に入れつつ、弊社へご相談が寄せられました。

住宅ローンを共有名義のままにしていると、一方が滞納した際にもう一方に請求される場合があります。思わぬ返済請求や生活への影響を避けるためにも、離婚時に住宅ローンと不動産の名義を整理しておく必要があります。

元配偶者が持分を業者に売却し、強引な交渉を受けた事例

元配偶者が持分を業者に売却したことで、生活が脅かされた事例です。

離婚後も共有名義のままにしていたところ、元夫が自身の持分を買取業者に売却しました。売却先は、共有持分のみを安く買い取り、強引に交渉を進める悪質な業者だったようです。

業者は「すぐに持分を買い取れ」「応じなければ裁判を起こす」などと強引に迫り、元妻は自宅での生活に不安を抱える状況となりました。信頼できる相手ではないと判断し、最終的に弊社へご相談が寄せられました。

共有状態を放置していると、相手が持分を第三者へ売却し、意図せず見知らぬ業者と共有関係を持つリスクがあります。場合によっては、強引な交渉や訴訟を受ける可能性もあるため、共有状態を放置するのは非常に危険といえます。

共有名義が原因でリフォーム資金の融資を受けられなかった事例

共有名義を放置していたために、リフォーム資金を借りられなかった事例です。

築30年を超える自宅に住み続けていた元妻は、水回りや屋根の老朽化が進んでいたため、修繕工事を計画しました。

金融機関に融資を申し込んだものの「共有名義のままでは審査が通せない」と断られ、元夫の同意書の提出を求められました。しかし、すでに元夫とは疎遠になっており、協力を得られず工事は止まったまま生活に支障が生じました。

「共有名義を解消しておけばローンが組めたのに」と後悔されながら、最終的に弊社へご相談いただきました。

このように、共有名義を放置していると融資の審査が通らず、必要な修繕やリフォームができないケースがあります。結果として生活に直接影響を及ぼすこともあるため、離婚時には住む側の単独名義にしておくことが望ましいです。

固定資産税の負担をめぐって対立が深刻化した事例

固定資産税の負担をめぐって、元配偶者との対立が続いた事例です。

離婚後も自宅を共有名義のままにしていた夫婦は、元妻がそのまま住み続ける一方で、元夫は別の場所で生活していました。

元夫は「もう住んでいないのだから固定資産税は払いたくない」と主張し、元妻は「共有者である以上、負担するのは当然」と反論します。その結果、毎年の支払いをめぐって衝突が続きました。

税金は必ず発生するため回避できず、感情的な対立は長期化していきます。
資産としての価値よりも金銭的・精神的な負担が大きくなり、共有状態の解消を目的として、弊社へご相談が寄せられました。

前述したとおり、固定資産税は所有者全員に納税義務があるため、住んでいないからといって免れることはできません。共有状態を続ければ負担をめぐる争いが絶えず、長期的なトラブルに発展する恐れがあります。

元配偶者に家賃相当額を求められて対立した事例

居住の有無をめぐり、金銭的な負担が争点となった事例です。

離婚後、共有名義の自宅に元妻が居住を続ける一方、元夫は家を出て別の生活を始めました。

しばらくすると、元夫は「自分も共有者なのだから家賃相当を払うべきだ」と主張するようになりました。元妻は「財産分与で住むことを認められているのに納得できない」と反発し、双方の言い分は平行線をたどります。

使用権や金銭負担をめぐるトラブルが絶えず、生活の安定が揺らぐ状況となったため、専門的な解決を求めて弊社へご相談いただきました。

共有名義のまま離婚すると、時間が経ったあとに「家賃を支払ってほしい」と求められるケースがあります。離婚後の生活を安定させるためにも、基本的には居住する側の名義に変更するようにしましょう。

離婚時に共有名義不動産を名義変更するには財産分与を行う必要がある

離婚に際して、共有名義不動産の名義変更をするためには、まず財産分与について協議をおこなう必要があります。

財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産を公平に分ける制度です。不動産や預貯金、自動車などの名義が夫婦のどちらか一方にあっても、婚姻中に築いた財産であれば共有財産とみなされ、夫婦で2分の1ずつ分けるのが基本です。

民法第768条では、財産分与について以下のように規定されています。

(財産分与)
第七百六十八条 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
引用元: 民法|e-Gov 法令検索

民法では明確に「夫婦で2分の1ずつ財産を分ける」と記載されているわけではありませんが、裁判の実務においては2分の1ずつの分配が基本と考えられています。

そのため、財産分与の際には2分の1ずつを目安に分配をおこないましょう。なお、双方が合意すれば財産分与の割合を変更しても問題はありません。

たとえば、夫婦が以下の財産を所有していたとします。

  • 不動産(共有名義):時価2,000万円(ローンなし)
  • 預貯金:600万円

この場合、合計2,600万円を2分の1に分けるのが基本であり、それぞれ1,300万円ずつ受け取るのが目安となります。仮に妻が不動産を単独で取得する場合には、預貯金600万円に加え、本来受け取るはずの財産分与1,300万円の不足分として、700万円を夫に支払う必要があります。

ただし、前述のとおり財産分与の2分の1ルールはあくまでも裁判上の考え方なので、双方が合意すれば「妻が不動産を取得し、夫が現預金を取得する」という形で分けることも可能です。

不動産の名義変更をするためには、まず財産分与の協議をおこない、誰が不動産を引き継ぐのかを決める必要があります。スムーズに名義変更を進めるためにも、双方が納得できる形での財産分与を目指しましょう。

住宅ローンが残っている場合は債権者との協議が必要になる

離婚に伴って不動産の名義変更を行う際、住宅ローンが残っている場合には、債権者である金融機関との調整が必要な場合があります。

多くの金融機関では「契約者が住宅に居住していること」を契約の条件としています。そのため、名義変更によってこの条件を満たせなくなると、ローン契約違反と判断され、住宅ローンの残債を一括で請求されるリスクがあります。

具体的なイメージは下記のとおりです。

名義変更が認められる可能性のあるケース:居住者と債務者が同一
夫が住宅ローンの債務者で、共有名義不動産の持分を妻から夫に移転。夫が引き続き住宅に住み、ローンも支払い続ける場合は「居住者と債務者が同一」であるため、名義変更が認められる可能性があります。

名義変更が認められないケース:居住者と債務者が別
夫が住宅ローンの債務者でありながら、共有名義不動産の持分を夫から妻に移転。離婚後は妻が住宅に住み続け、夫がローンを支払い続ける場合は「居住者と債務者が別」であるため、名義変更が認められない可能性が高いです。共有名義のまま妻が住むとした場合も、債務者である夫が居住者でなくなるため、名義変更が認められないでしょう。

このように、名義変更には金融機関の許可が必要なケースもあるため、住宅ローンの名義や契約条件をしっかり確認しておきましょう。

居住者と債権者が別の場合は、居住者となる人が単独で住宅ローンを組み直す(借り換える)方法もあります。そのうえで持分移転登記を行い、単独名義にします。ただし、収入や信用状況によっては、ローン審査が通らないケースもあります。

ローンの組み直しが難しい、もしくは名義変更の条件を満たせない場合は、不動産自体を売却して現金化し、財産分与を行う方法もあります。

離婚時に共有名義不動産の住宅ローンが残っているケースについては、下記の記事も参考にしてみてください。

離婚に伴う共有名義不動産の名義変更にかかる税金・費用

離婚に伴う財産分与で、共有名義不動産を単独名義に変更する場合は、以下のような費用が発生する場合があります。

  • 登録免許税|登記の際に発生する
  • 司法書士への報酬|司法書士へ依頼する場合にかかる
  • 譲渡所得税|財産分与で持分を譲渡した側に課される場合がある
  • 贈与税|財産分与で持分を受け取った側に課される場合がある
  • 不動産取得税|財産分与で持分を受け取った側に課される場合がある

ただし、通常の財産分与であれば、贈与税や不動産取得税が課されることはほとんどなく、譲渡所得税についても「3,000万円特別控除」などの特例があるため、課税されるケースは稀です。

登録免許税|登記の際に発生する

登録免許税とは、不動産の登記手続きを行う際にかかる税金です。

税額は登記の内容によって異なりますが、離婚に伴う財産分与による持分移転登記の場合は、以下の計算式で求められます。

固定資産税評価額 × 移転する持分の割合 × 0.02(1000分の20)

例)評価額3,000万円の不動産で、持分1/2を移転する場合の登録免許税
3,000万円 × 1/2 × 0.02 = 30万円

原則として、登録免許税は持分を取得する側が負担しますが、夫婦間の話し合いによって費用を分担したり、相手方が全額負担したりするケースもあります。費用負担のバランスも含め、事前にしっかり協議しておくことが大切です。

司法書士への報酬|司法書士へ依頼する場合にかかる

持分移転登記を司法書士に依頼する場合は、司法書士報酬がかかります。司法書士報酬は自由化されており、金額に明確な決まりはありませんが、実際には3万円~5万円程度に設定している事務所が多いです。

また、司法書士が法務局へ登録免許税を代理納付するため、報酬とあわせて登録免許税分も預ける必要があります。

登記手続きは自分で行うことも可能ですが、申請書類の準備や登記原因の証明など、専門的で煩雑な作業が多く、不備があると再提出になるケースもあります。書類の再取得や修正のために、離婚後も元配偶者と連絡を取る必要が生じる可能性もあります。

そのため、確実かつスムーズに手続きを進めたい場合は、司法書士に依頼するのがおすすめです。書類の不備や手続きミスを防げるだけでなく、手間や精神的な負担も大きく軽減できます。

譲渡所得税|財産分与で持分を譲渡した側に課される場合がある

マイホームを手放す場合には、多くのケースで「居住用財産の3,000万円特別控除」が適用されます。そのため、離婚による不動産の財産分与で譲渡所得税が発生するケースは少ないです。

ただし、以下のような条件に該当する場合は、持分を譲渡した側に譲渡所得税が課される可能性があります。

  • 共有名義不動産の持分を譲渡(名義変更)した際に、取得時よりも評価額が大幅に上がっている場合
  • 特別控除の要件を満たさない場合(居住していないなど)

譲渡所得税とは、取得価格よりも高い価格で不動産を譲渡した際に生じる税金です。税率は不動産の所有期間によって、以下のように異なります。

所得の区分 所有期間 税率
長期譲渡所得 5年超 所得税:15.315%
住民税:5%
合計:20.315%
短期譲渡所得 5年以下 所得税:30.63%
住民税:9%
合計:39.63%

参照:長期譲渡所得の税額の計算|国税庁
参照:短期譲渡所得の税額の計算|国税庁

離婚による持分移転登記では、原則として譲渡益が発生しにくく控除もあるため、実際に税金が発生するケースは限られています。不安な場合は、税理士などの専門家に相談して判断を仰ぐと安心です。

マイホームを売ったときの特例|国税庁

贈与税|財産分与で持分を受け取った側に課される場合がある

本来、財産分与は婚姻期間中に築いた共有財産を公平に分ける制度であるため、通常は贈与税の対象にはなりません。

しかし、以下のようなケースでは「財産分与を装った贈与」とみなされ、持分を受け取った側に「贈与税」が課される可能性があります。

  • 受け取った不動産の価額が、財産形成への貢献度に対して著しく多い場合
  • 贈与税や相続税の支払いを免れるため、離婚を利用したと判断される場合

贈与税には年間110万円の基礎控除があり、それを超える金額に対して課税されます。しかし、通常の離婚による財産分与では、明らかに不自然な金額でない限り、贈与税が課されることはほとんどありません。

不動産取得税|財産分与で持分を受け取った側に課される場合がある

離婚による財産分与で共有名義不動産の持分を取得した場合、通常であれば不動産取得税は課されません。

財産分与は夫婦の協力によって築いた共有財産の清算であり、課税対象外とされているためです。

ただし、財産分与された不動産の価額が不自然に多い場合や、贈与税や相続税の回避のための形式的な離婚と判断される場合は、財産分与ではなく贈与とみなされ、持分を受け取った側に不動産取得税を課されます。

名義変更を目的とした持分移転登記の費用については、下記の記事も参考にしてみてください。

離婚後も共有名義で名義変更していない場合の対策

離婚後も共有名義のまま放置してしまうと、売却や活用のたびに相手の同意が必要となり、トラブルや手続きの停滞につながります。

将来の負担を避けるためには、状況に応じて早めに対策を取ることが大切です。離婚後も共有名義の名義変更していない場合の具体的な対策は以下のとおりです。

  • 持分移転登記で共有名義不動産を単独名義にする
  • 不分割特約を結び、共有物分割請求されないようにする
  • 元配偶者から合意を得て共有名義不動産全体を売却する
  • 自分の共有持分だけを売却して共有状態から抜け出す

持分移転登記で共有名義不動産を単独名義にする

離婚によって共有名義の不動産を整理する場合、時間が経過していても財産分与を原因とした持分移転登記は可能です。

ただし、財産分与の請求権には離婚から2年という期限があり、これを過ぎると相手に対して法的に財産分与を求めることができなくなります。

共有名義の不動産を単独名義にするためには、共有者全員の合意を得たうえで、持分移転登記の手続きをおこなう必要があります。スムーズに進めるためにも、早めに協議を開始し、名義変更に関する合意形成を図りましょう。

もしも合意が得られない場合や、2年以内に財産分与が成立しない場合は、裁判所に「共有物分割請求訴訟」を申し立てる方法もあります。共有物分割請求訴訟とは、共有者同士の話し合いで共有状態を解消できない場合に、裁判所が不動産の分割方法を決定する手続きのことです。

ただし、共有物分割請求訴訟は裁判所の判断で分割方法が決められるため、自分の希望通りにならないことも多く、また弁護士への依頼も必要となります。

裁判を起こすと金銭的・精神的な負担が生じるため、可能であれば元配偶者と合意のうえで持分移転登記をおこない、共有名義の不動産を単独名義に変更しましょう。

不分割特約を結び、共有物分割請求されないようにする

離婚後も事情があって共有名義をすぐに解消できない場合は「不分割特約」を結んでおき、元配偶者から共有物分割請求をされないようにしておきましょう。

共有物分割請求は、不動産の持分を分割・清算したいという請求であり、原則として拒否できません。請求を受けた際は、まず共有者同士で協議をおこないます。協議がまとまらず、相手が家庭裁判所に申し立てをすれば、調停や裁判で分割方法を決めることになります。

共有物分割請求をされると時間や費用がかかるだけでなく、不動産を手放すことになったり金銭的に不利な形で分割されたりしてしまいます。

このような事態を防ぐために有効なのが、不分割特約です。不分割特約とは、共有者間で「一定期間、共有物を分割しない」と取り決める契約で、共有者の合意があれば最長5年間まで有効です。期間満了後は更新することも可能です。

ただし、特約の内容が不明確だったり、信義則に反すると判断されたりした場合は、効力を否定される可能性があります。また、元配偶者が持分を第三者に売却した場合、その第三者と改めて特約を結ばない限り効力は及びません。

上記の注意点も踏まえたうえで、共有名義をすぐに解消できない状況にある場合は、不分割特約を結ぶことを検討しましょう。

元配偶者から合意を得て共有名義不動産全体を売却する

配偶者との合意が得られる場合は、共有名義不動産全体を売却することも検討しましょう。

アンダーローン(住宅ローン残債<売却価格)の場合は、売却益を財産分与するだけなので、手続きも比較的スムーズに進みやすいです。

一方、オーバーローン(住宅ローン残債>売却価格)の場合は、金融機関が売却に同意しない限り、原則として不動産を売却できません。

オーバーローンの状態で売却したいのなら、債権者である金融機関の同意を得て、住宅ローンが残った状態で不動産を売却する「任意売却」を検討しましょう。金融機関の判断次第ですが、競売よりも高値で売れるのが基本であるため、経済的な負担を軽減できます。

なお、弊社クランピーリアルエステートでは、共有名義不動産の買取を専門的におこなっており、複雑な事情を抱えた物件でもスムーズに現金化が可能です。「手早く売却して共有状態を解消したい」という場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

自分の共有持分だけを売却して共有状態から抜け出す

不動産全体を売却するためには共有者全員の合意が必要ですが、自分の共有持分だけであれば単独で売却することが可能です。

そのため、元配偶者との話し合いが進まず、共有名義不動産全体の売却が難しい場合には、自分の持分のみを売却して共有状態から抜け出す方法も選択肢となります。

ただし、共有持分は不動産そのものではなく、あくまでも所有権の一部であるため、利用や処分に制限がかかります。需要が限られることから、一般の買主が見つかりにくく、売れ残ってしまうリスクがあるのが現実です。

このような事情から、共有持分を売却する場合は、通常の不動産市場よりも、共有持分や訳あり不動産を専門的に扱う買取業者に相談することをおすすめします。

弊社クランピーリアルエステートでは、共有持分や訳あり物件の買取に特化しており、複雑な権利関係が絡むケースでもスムーズな解決をサポートしています。元配偶者との共有状態から早く抜け出したい方や、持分のみを手放して現金化したい方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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まとめ

離婚後も不動産を共有名義のままにしておくと、不動産の活用が自由にできないだけでなく、維持管理費や権利関係でトラブルに発展する可能性があります。

共有名義不動産のリスクを避けるためには、離婚時に財産分与をおこない、できるだけ早い段階で共有名義を解消しておくことが大切です。可能であれば持分移転登記による名義変更を早期に済ませ、夫婦どちらかの単独名義に変更しておきましょう。

また、夫婦2人の合意が得られるのであれば、不動産全体を売却して利益を公平に分ける選択肢もあります。協力が難しい場合、自信の持分のみを売却し、共有状態を解消することも可能です。

なお、弊社クランピーリアルエステートでは、共有不動産や共有持分の買取を専門的におこなっています。

全国の弁護士・税理士とも連携し、法律や税務の面でも安心してご相談いただける体制を整えています。離婚後の共有名義不動産でお困りの方は、ぜひお気軽にご相談ください。

よくある質問

共有持分を放棄できる?

共有名義不動産における共有持分の放棄は、本人の意思のみで可能です。夫婦の共有名義不動産の場合、放棄した持分は、共有者である配偶者に帰属します。

ただし、実際に持分を放棄するには「持分移転登記」の手続きが必要です。持分移転登記を行うには、移転先となる共有者の協力が不可欠なため、実務上は相手方の同意や書類の準備が求められます。放棄の意思があっても、相手との関係や協議の状況によっては、スムーズに手続きが進まないこともあります。

共有持分の放棄については、下記の記事も参考にしてみてください。

離婚で共有名義を解消するベストなタイミングはいつ?

離婚が成立する前後に、財産分与の一環として共有名義を解消するのが最もスムーズです。離婚してから時間が経つと連絡が取りにくくなったり、相手の経済状況が変わったりして手続きが難航する可能性が高くなります。

離婚後、共有名義のままどちらかが亡くなった場合はどうなる?

離婚後に共有名義のまま亡くなった場合、持分はその人の相続人に承継されます。再婚していれば配偶者やその子ども、していなければ両親や兄弟姉妹などが相続人となります。結果的に元配偶者の再婚相手や親族と共有関係になる可能性があり、権利関係がより複雑になります。

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