親子共有名義で親が死亡したらどうなる?相続手続き・費用・税金、生前対策を解説

親子共有名義の不動産を所有している人のなかには、「親が亡くなったら不動産の名義はどうなるのだろう」と疑問を感じている人もいるのではないでしょうか。
結論からいうと、共有名義の不動産であっても、共有持分はそれぞれが独立した財産として扱われます。そのため、親が亡くなった場合、親が持っていた共有持分は相続財産となり、共有者である子に自動的に引き継がれるわけではありません。
親が亡くなった場合の相続パターンは、大きく分けて次の2つです。
| 相続パターン | 内容 |
|---|---|
| 共有者である子が「親の共有持分」を相続し、単独名義になる |
・相続人が共有者である子1人のみの場合 ・遺産分割協議において、他の相続人全員が「共有者である子が親の持分を引き継ぐ」ことに合意した場合 |
| 法定相続人全員で「親の共有持分」を相続し、共有名義になる | ・配偶者や子などが法定相続分に従って、親の共有持分を分けた場合 |
共有者が増えると意思決定が難しくなるため、一般論としては「共有者である子にまとめる」方向が検討されやすいです。ただし、他の相続人の状況(遺留分・代償金の準備等)によって最適解は変わるため、具体的には専門家に確認しましょう。
相続手続きは、一般的に次の流れで進みます。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産を調査する
- 遺産分割協議を行う
- 法務局で相続登記をする
- 相続税の申告・納付をする
遺産分割協議で、他の相続人全員が合意すれば、共有者である子が親の共有持分を相続することが可能です。しかし、1人でも反対する相続人がいると協議は成立せず、名義を整理できないケースもあります。
そのため、将来的に共有者である子が確実に親の共有持分を引き継ぎ、単独名義にしたい場合は、遺言書を作成してもらう、生前贈与や売買によって名義を整理しておくなど、生前対策を検討しておくことが重要です。
本記事では、親子共有名義で親が死亡した場合にどうなるのかを中心に、相続のパターンや手続きの流れ、必要な費用・税金について解説します。あわせて、相続時に共有名義を避けるべき理由や、共有を避けるための具体的な方法、生前対策についても詳しく紹介します。
目次
親子共有名義で親が死亡した場合「親の共有持分」は相続財産として扱われる
親子共有名義とは、親と子それぞれが不動産の所有権割合である「共有持分」を所有している状態です。この共有持分は、それぞれが独立した財産として扱われるため、親が死亡すれば、その持分は相続財産として扱われます。
共有名義であっても、共有者である子に自動的に引き継がれるわけではありません。
たとえば、3,000万円の不動産を親と子が1,500万円ずつ出して購入した場合、親と子はそれぞれ1/2ずつの共有持分を持つことになります。この状態で親が亡くなると、親の1/2の持分は相続財産となります。
相続人が共有者である子1人だけであれば、その子が親の持分を相続します。一方で、兄弟姉妹や配偶者など他の相続人がいる場合は、全員に相続する権利があります。そのため、誰が親の共有持分を引き継ぐのかについて、遺産分割協議で話し合う必要があります。
親子共有名義で親が死亡した場合の相続パターン
親子共有名義の不動産で親が死亡した場合、親が持っていた共有持分を「誰がどのように引き継ぐか」によって、その後の名義の状態が変わります。相続の進め方によっては、単独名義になる場合もあれば、新たに共有名義になる場合もあります。
- 単独名義になるケース|共有者である子が「親の共有持分」を相続する
- 共有名義になるケース|法定相続人全員で「親の共有持分」を相続する
単独名義になるケース|共有者である子が「親の共有持分」を相続する
親が持っていた共有持分を、共有者である子がすべて相続した場合、子の単独名義の不動産になります。
このケースに該当するのは、相続人が共有者である子1人のみの場合や、遺産分割協議において、他の相続人全員が「共有者である子が親の持分を引き継ぐ」ことに合意した場合です。
その結果、もともと子が持っていた持分と、相続によって取得した親の持分が合わさり、不動産全体を子1人が所有する形になります。
単独名義になると、売却や名義変更、担保設定などの手続きは、原則として所有者である子1人の判断で進められます。共有状態が解消されるため、将来的なトラブルも起こりにくくなります。
共有名義になるケース|法定相続人全員で「親の共有持分」を相続する
親の共有持分を法定相続人全員で分けて相続する場合は、相続人が新たな共有者となり、共有名義の状態が継続します。
このケースは、遺言書がなく、配偶者や子などが法定相続分に従って、親の共有持分を分けた場合に該当します。
法定相続では、配偶者や子、兄弟姉妹など、民法で定められた順位と割合に基づいて相続人が決まります。その結果、もともと親子2人の共有名義だった不動産が、相続後は複数人による共有名義へと変わることもあります。
共有名義不動産は、売却時に共有者全員の同意が必要です。また、リフォームや短期の賃貸契約についても、共有持分の過半数分の同意が求められます。親の相続をきっかけに共有者の人数が増えると、意見がまとまりにくくなり、結果として不動産を動かせなくなるリスクが高まります。
【法定相続の優先順位・法定相続分とは?】

法定相続人は、亡くなった人との関係によって優先順位が定められています。
- 配偶者=常に相続人
- 第1位:子ども/子どもがいない場合は孫/子・孫がいない場合はひ孫
- 第2位:父母/父母がいない場合は祖父母
- 第3位:兄弟姉妹/兄弟姉妹がいない場合は甥・姪
法定相続分とは、相続人が2人以上いる場合に、各相続人が取得できる財産の割合を民法で定めたものです。相続人の組み合わせによって、法定相続分は以下のように異なります。
| 相続人の構成 | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者・子ども | 配偶者:1/2 子ども:1/2 ⇒子どもが2人なら、1人あたり1/4ずつ |
| 配偶者・両親 | 配偶者:2/3 両親:1/3 ⇒父母健在なら、1人あたり1/6ずつ |
| 配偶者・兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 ⇒兄弟姉妹2人なら、1人あたり1/8ずつ |
親子共有名義で親が死亡した場合の相続のシミュレーション
親子共有名義の不動産の相続では、相続人の構成によって、最終的な名義や持分が異なります。ここでは、父と長男が不動産を共有名義で所有していたケースを例に、以下の相続人構成ごとにシミュレーションを行います。
- 父と長男の共有名義で他の相続人がいない場合
- 父と長男の共有名義で母親が相続人の場合
- 父と長男の共有名義で母親と弟が相続人の場合
- 父と長男の共有名義で母親と姉と弟が相続人の場合
・不動産の評価額:3,000万円
・父と長男が、それぞれ1/2ずつの共有名義
・父が死亡し、父の共有持分(1/2)が相続の対象となる
父と長男の共有名義で他の相続人がいない場合
父と長男が不動産を1/2ずつ共有している状態で、父が亡くなり、相続人が長男1人のみだった場合を考えます。
この場合、父が持っていた1/2の共有持分(評価額1,500万円)は、すべて長男が相続します。その結果、長男は、もともとの自分の持分1/2と、相続によって取得した父の持分1/2を合わせ、不動産全体(評価額3,000万円)を単独で所有することになります。
共有状態が解消されるため、売却や名義変更などの手続きも、長男1人の判断で進められます。
父と長男の共有名義で母親が相続人の場合
父が亡くなり、相続人が母親と長男の2人だった場合を考えます。
遺言書がなく、法定相続分に従って相続すると、父の共有持分1/2は、母親と長男で分けることになります。この場合、父が持っていた1/2の共有持分(評価額1,500万円)を、法定相続分に従って、母親と長男それぞれ1/2ずつ相続します。(\)
結果として、持分と評価額は以下のようになります。
母親:相続分1/4(750万円)
不動産は長男と母親の共有名義となり、共有者が2人になります。
父と長男の共有名義で母親と弟が相続人の場合
父が亡くなり、相続人が母親・長男・弟の3人だった場合を考えます。
遺言書がなく、法定相続分に従って相続すると、父の共有持分1/2は、母親と子ども2人で分けることになります。この場合、父が持っていた1/2の共有持分(評価額1,500万円)を、法定相続分に従って、母親が1/2、長男と弟がそれぞれ1/4ずつ相続します。
法定相続分に従うと、父の共有持分2分の1は、母親が2分の1、子ども2人で残りを分ける形になります。
結果として、持分と評価額は以下のようになります。
母親:相続分1/4(750万円)
弟:相続分1/8(375万円)
※父の共有持分は全体の1/2であり、そのうち子どもが相続する割合は1/2です。このケースでは子どもが2人のため、子ども1人あたりの相続分は1/8となります。
不動産は長男・母親・弟の3人による共有名義となり、以前よりも共有者の人数が増えることになります。
父と長男の共有名義で母親と姉と弟が相続人の場合
父が亡くなり、相続人が母親・長男・姉・弟の4人だった場合を考えます。
遺言書がなく、法定相続分に従って相続すると、父の共有持分1/2は、母親と子ども3人で分けることになります。この場合、父が持っていた1/2の共有持分(評価額1,500万円)を、法定相続分に従って、母親が1/2、子ども3人で残りの1/2を均等に相続します。
結果として、持分と評価額は以下のようになります。
母親:相続分1/4(750万円)
姉:相続分1/12(250万円)
弟:相続分1/12(250万円)
※父の共有持分は全体の1/2であり、そのうち子どもが相続する割合は1/2です。さらに、その分を子どもの人数で分けるため、1人あたりの持分は1/12となります。
不動産が4人の共有名義となり、意思決定に関わる人数がさらに増えます。相続人が多くなるほど、売却や活用についての話し合いが難しくなる傾向があります。
親子共有名義で親が死亡した場合の相続手続きの流れ
親子共有名義の不動産で親が亡くなった場合、親が持っていた共有持分は相続財産となります。そのため、親の共有持分を含め、相続財産の分け方を決める「相続手続き」を行う必要があります。
また、共有持分を引き継いだ相続人は、不動産の名義を変更する「相続登記」を行わなければなりません。
手続きの主な流れは以下のとおりです。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人を確定する
- 相続財産を調査する
- 遺産分割協議を行う
- 法務局で相続登記をする
- 相続税の申告・納付をする
遺言書の有無を確認する
相続手続きで最初に行うのが、遺言書の有無の確認です。遺言書がある場合は、原則としてその内容が優先されます。
たとえば、遺言書に「長男(共有者)に親の共有持分を相続させる」といった記載がある場合は、その内容に従って遺産分割を行います。
遺言書は以下のような場所で保管されている可能性があります。
- 自宅(机の引き出し、タンス、金庫、仏壇など)
- 法務局(自筆証書遺言保管制度を利用している場合)
- 公証役場(公正証書遺言を作成している場合)
- 銀行の貸金庫
- 信託銀行
- 弁護士や司法書士事務所
なお、自宅で自筆遺言書を見つけた場合は、家庭裁判所で「検認」の手続きを行う必要があります。遺言書をその場で開封してしまうと、民法第1,005条に基づき、5万円以下の過料に科される可能性があります。
遺言書が見つからない場合は、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」によって、相続財産の分け方を決めることになります。
ただし、遺産分割協議後に遺言書が発見されると、協議をやり直さなければならないため、必ず遺言書の有無を十分に確認しておきましょう。
相続人を確定する
相続手続きでは、「誰が相続人になるのか」を正確に把握する必要があります。相続人を誤って認識したまま手続きを進めると、後からトラブルになるおそれがあるためです。
相続人を調べるには、亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの戸籍謄本を取得します。戸籍を順に確認することで、結婚や離婚、養子縁組などの履歴が分かり、法律上の相続人を漏れなく特定できます。
親族が把握している範囲だけで相続人を判断してしまうと、前妻との間に子どもがいた場合など、想定していなかった相続人が後から判明することがあります。
すでに遺産分割協議が終わっていても、新たな相続人が見つかれば、協議をやり直さなければなりません。そのため、相続手続きの初期段階で、必ず相続人の調査と確定を行いましょう。
なお、2024年3月から始まった戸籍証明書の広域交付制度により、現在は多くの戸籍謄本を全国どこの市区町村役場でも取得できます。一部の古い戸籍は本籍地での取得が必要な場合もありますが、以前に比べて相続人調査の手続きは負担が軽減されています。
相続財産を調査する
相続では、プラスとマイナスの財産すべてを引き継ぎます。そのため、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借金や未払いの税金・医療費といったマイナスの財産も含めて調査しましょう。
もし借金などのマイナスの財産が多い場合には「相続放棄」という選択肢もあります。ただし、相続放棄には期限があり、相続の開始を知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。そのため、できるだけ早く財産調査に取りかかることが重要です。
相続財産の主な種類と調べ方は以下のとおりです。
| 相続財産の種類 | 調べ方 |
|---|---|
| 預貯金 | 通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物を確認し、該当する銀行で残高を調べる |
| 有価証券(株・投資信託など) | 証券会社からの通知や配当書類を確認し、取引先の証券会社に問い合わせる |
| 不動産 | 固定資産税の通知書や登記情報を確認し、所有している土地・建物を把握する |
| 生命保険(死亡保険金) | 保険証券や郵便物、通帳の入出金履歴から契約の有無を確認する |
| 自動車 | 車検証や保険書類を確認し、名義や所有状況を把握する |
| 貴金属・骨董品 | 自宅の保管場所や遺品整理時に確認し、必要に応じて査定を受ける |
| 借金・ローン | 契約書、請求書、口座引き落とし履歴などから借入の有無を確認する |
| 未払い費用 | 税金、医療費、公共料金などの請求書や督促状を確認する |
| クレジットカード残高 | カード会社からの請求書や利用明細を確認する |
| 保証債務 | 借入の保証人・連帯保証人になっていないか契約書類を確認する |
親子共有名義の不動産に住宅ローンの残債がある場合は、まずローンの契約内容を確認しましょう。
親が単独で住宅ローンを組んでいた場合は「団体信用生命保険(団信)」が付いている可能性があります。この場合、ローン契約者である親が亡くなると、保険によって住宅ローンの残債が完済されます。
一方で 、リレーローンやペアローンなど場合は、団信に加入しているのが子どものみというケースもあり、親が亡くなっても住宅ローンの返済義務が残ることがあります。
そのため、親の死亡後は、住宅ローンの有無や団信の加入状況を確認し、できるだけ早めに金融機関へ連絡することが大切です。
なお、財産の種類が多い場合や、複数の金融機関・遠方の不動産が関係している場合は、個人での調査が難しいこともあります。その場合、税理士や弁護士などの専門家に財産調査を依頼することをおすすめします。
遺産分割協議を行う
遺言書がない場合は、相続人全員で話し合う「遺産分割協議」によって、相続財産の分け方を決めます。たとえば、「親の共有持分は、もともと共有者である長男が相続し、現金は次男が相続する」など、具体的な分割方法を決めます。
「親子共有名義の不動産の相続で共有名義を避けるべき理由」で詳しく解説しますが、実務では、不動産を共有名義で相続したことでトラブルに発展するケースが少なくありません。
そのため、可能であれば、共有者である子が親の共有持分を引き継ぎ、単独名義にする形が望ましいといえます。具体的な方法については、「親子共有名義の不動産の相続で共有名義を避ける方法」で解説します。
分割方法について相続人全員が合意したら、その内容を「遺産分割協議書」として書面にまとめ、全員が署名と押印を行います。遺産分割協議書は、相続登記や相続税の申告の際に必要となる重要な書類で、後から認識の食い違いが生じるのを防ぐ役割もあります。
なお、話し合いで合意に至らない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて、解決を図ることになります。
遺産分割協議書の作成については、以下の記事も参考にしてみてください。
法務局で相続登記をする
遺言書の内容や遺産分割協議によって、親の共有持分を誰が引き継ぐかが決まったら、法務局で相続登記を行います。相続登記とは、不動産の名義を、亡くなった親から相続人へ変更する手続きのことです。
相続登記は、2024年4月1日から義務化されています。そのため、「不動産を相続したことを知った日」または「遺産分割協議が成立した日」から3年以内に手続きを行う必要があります。期限内に相続登記を行わなかった場合、10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めに対応することが大切です。
相続登記の申請は、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。申請方法は、窓口申請や郵送申請のほか、「登記・供託オンライン申請システム」によるオンライン申請も可能です。
相続登記に必要となる主な書類は、以下のとおりです。
| 書類 | 取得方法 |
|---|---|
| 登記申請書 | 法務局の窓口、もしくは法務局のホームページで申請書と記載例をダウンロードして作成する。 |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 |
広域交付制度の利用による、近隣の市区町村役場で取得可能。マイナンバーカードがあれば、コンビニ交付も可能な自治体もある。一部の古い戸籍は、各本籍地の市区町村役場で取得する。 費用:1通350~450円程度 |
| 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 |
被相続人の住所地または本籍地の市区町村役場で取得。 費用:1通300~400円程度 |
| 相続人全員の現在の戸籍謄本 |
広域交付制度の利用による、近隣の市区町村役場で取得可能。マイナンバーカードがあれば、コンビニ交付も可能な自治体もある。一部の古い戸籍は、各本籍地の市区町村役場で取得する。 費用:1通350~450円程度 |
| 共有持分を相続する人の住民票 |
共有持分を相続する人の住所地の市区町村役場で取得。マイナンバーカードがあれば、コンビニ交付も可能。 費用:1通200〜300円程度 |
| 不動産の固定資産評価証明書 |
不動産所在地の市区町村役場で取得。 費用:1通300〜400円程度 |
| 相続人全員の印鑑証明書 |
各相続人の住所地の市区町村役場で取得。マイナンバーカードがあれば、コンビニ交付も可能。 費用:1通200〜300円程度 |
| 遺言書 | 被相続人が作成したもの。 |
| 遺産分割協議書 | 相続人全員が合意し、作成したもの。 |
書類に不備がなければ、申請から1週間から10日程度で登記が完了し、新しい名義人宛てに登記識別情報通知(いわゆる権利証)が交付されます。
必要書類が多く、自分でそろえるのが難しい場合や、記載内容に不安がある場合は、司法書士に依頼して相続登記を進める方法もあります。
共有持分の相続登記や申請書の書き方については、以下の記事でも詳しく解説しています。
相続税の申告・納付をする
相続登記が完了したら、相続税の申告が必要かどうかを確認しましょう。
「相続税」で詳しく解説しますが、相続税は、相続財産の合計が、基礎控除額「3,000万円 + 600万円 × 相続人の数」を超える場合に発生します。相続財産の合計が基礎控除額の範囲内であれば、相続税の申告は不要です。
一方で、相続財産の合計が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告と納付を行う必要です。申告期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヵ月以内」と定められています。期限を過ぎると、延滞税や加算税がかかるおそれがあるため、余裕をもって準備を進めることが大切です。
親子共有名義の不動産を含む相続では、共有持分の評価や他の財産とのバランスによって、相続税の計算が複雑になりやすい傾向があります。また、遺産の分け方によって税額が変わるケースもあります。
そのため、相続税がかかりそうな場合や判断に迷う場合は、税理士などの専門家に相談しながら進めると安心です。
親子共有名義の不動産の相続と手続き後にかかる費用・税金
親子共有名義の不動産を相続する際には、名義変更や書類準備などにさまざまな費用がかかります。さらに、相続手続きが完了した後も、不動産を所有し続ける限り、固定資産税や管理費といった継続的な費用負担が発生します。
- 必要書類の取得費用:5,000円〜1万円程度
- 登録免許税:固定資産税評価額 × 持分割合 × 0.4%
- 司法書士報酬:約5万〜15万円程度
- 相続税:(相続財産 - 基礎控除額) × 10~55%
- 固定資産税や管理費:固定資産税は「固定資産税評価額 × 1.4%」が目安で、建物の修繕や管理にかかる費用などは別途発生する
必要書類の取得費用
「法務局で相続登記をする」で解説したとおり、相続登記を行うためには、戸籍謄本や住民票、印鑑証明書など、さまざまな書類をそろえる必要があります。これらの書類の取得費用は、全体でおおよそ5,000円から1万円程度が目安です。
被相続人の戸籍が複数の市区町村に分かれている場合や、相続人の人数が多い場合は、取得する書類の枚数が増え、その分費用も高くなる傾向があります。また、郵送請求を利用する場合は、手数料に加えて郵送料がかかり、費用がかさみやすいです。
登録免許税
親の共有持分を相続人の名義に変更する「相続登記」を行う際には、登録免許税がかかります。登録免許税は、不動産の権利を移す際に課税される税金です。
共有持分の相続の場合は、次の計算式で算出します。
たとえば、固定資産税評価額が3,000万円の不動産について、親が1/2の共有持分を持っており、その持分を相続登記する場合は、次のように計算します。
司法書士報酬
親の共有持分について相続登記を行う際、司法書士に手続きを依頼すると、司法書士報酬として5万円から15万円程度の費用がかかります。
相続登記のみを依頼する場合に比べて、相続財産の調査や遺産分割協議書の作成などもあわせて依頼すると、その分費用は高くなる傾向があります。そのため、依頼する前に、どこまでの業務を任せるのかを確認しておきましょう。
司法書士の報酬は事務所ごとに異なるため、事前に見積もりを取り、複数の事務所を比較したうえで依頼すると安心です。
司法書士に依頼すると費用はかかりますが、必要書類の収集や登記申請書の作成、法務局への提出までを代行してもらえます。法務局の窓口は平日のみのため、仕事を休まずに手続きを進めたい人にとっては、負担を大きく減らせるでしょう。
相続税
相続財産の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。相続財産の合計額とは、親が持っていた共有持分だけでなく、預貯金や有価証券、不動産など、相続の対象となるすべての財産を合算した金額を指します。
基礎控除額と相続税は、次の計算式で求めます。
相続税:(相続財産の合計額 - 基礎控除額) × 税率(10~55%)
たとえば、父が亡くなり、法定相続人が子ども3人の場合、基礎控除額は4,800万円です。この場合、相続財産の合計額が4,800万円以下であれば、相続税はかかりません。
一方、相続財産の合計が5,000万円の場合は、基礎控除額を超えるため、相続税が発生します。計算式は以下のとおりです。
相続税:(5,000万円 - 4,800万円) × 10% = 20万円
なお、相続税は「超過累進課税」という仕組みが採用されており、相続財産の額が大きくなるほど、適用される税率も高くなります。税率は、課税対象となる金額に応じて次のように定められています。
| 金額 | 税率 | 控除金額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | – |
| 1,000万円超3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
参照:国税庁|相続税の税率
共有名義不動産の相続税については、以下の記事も参考にしてみてください。
固定資産税や管理費
親の共有持分を相続する場合は、相続手続きにかかる費用だけでなく、相続後に継続して発生する費用についても把握しておきましょう。
まず、不動産を所有し続ける限り、毎年固定資産税の支払いが発生します。固定資産税は「固定資産税評価額 × 1.4%」で計算されます。立地や面積、建物の内容によって金額は異なりますが、年間で10万〜20万円前後となるケースが多く見られます。
また、不動産の維持や管理にかかる費用も発生します。戸建ての場合は、外壁や屋根、設備の修繕費などが必要になることがあります。マンションの場合は、管理費や修繕積立金といった費用が継続的にかかります。
親が生存していた間は、固定資産税や管理費を親子で折半していたケースも多いでしょう。しかし、親が亡くなり、単独名義になれば、これらの費用をすべて自分で負担することになります。
共有名義人が亡くなった際の固定資産税や管理費用については、以下の記事でも詳しく解説しています。
親子共有名義の不動産の相続で共有名義を避けるべき理由
親子共有名義の不動産で親が亡くなった場合、可能であれば、もともとの共有者である子が親の共有持分を引き継ぎ、不動産を単独名義にする形が望ましいといえます。
相続人全員で親の共有持分を相続し、そのまま共有名義にしてしまうと、後々トラブルに発展しやすいためです。
実際に、共有名義で相続した結果、不動産を自由に使えなくなったり、共有者同士の意見が対立したりするケースは少なくありません。弊社にも、共有名義による不動産トラブルについて、多くの相談が寄せられています。
親子共有名義の不動産の相続で、共有名義を避けたほうがよい主な理由は、次のとおりです。
- 不動産の活用・処分がスムーズに進みにくいため
- 維持管理費や居住状況を巡って、共有者間でトラブルになりやすいため
- 相続のたびに共有者が増え、権利関係が複雑化しやすいため
ここでは、弊社が実際に対応してきた共有名義に関する相談事例を交えながら、なぜ共有名義を避けるべきなのかを詳しく解説します。
不動産の活用・処分がスムーズに進みにくいため

共有名義で相続すると、売却や賃貸などの活用を行う際に、他の共有者との調整が必要になります。不動産に関する行為は、その内容によって必要となる同意の範囲が異なり、思うように判断を進められないケースが少なくありません。
共有名義不動産における主な行為と、必要な同意の条件は次のとおりです。
| 行為 | 具体例 | 同意の条件 |
|---|---|---|
| 変更行為 |
・不動産の売却 ・建物の解体 ・建物の建て替え ・増改築 ・長期の賃貸借契約(5年超) ・不動産への抵当権設定 など |
共有者全員の同意が必要 |
| 管理行為 |
・大規模なリフォーム ・短期の賃貸借契約(5年以内) ・宅地の整地 など |
共有持分の過半数分の同意が必要 |
| 保存行為 |
・建物の修繕 ・軽微なリフォーム ・不法占拠者への明け渡し請求 ・無権利者名義の抹消登記請求 ・火災や災害時の建物滅失登記 など |
共有者の合意は必要なし |
売却や長期の賃貸など重要な判断は、共有者全員の同意が必要です。そのため、売却したいと考えても、他の共有者の意見が一致せず、不動産を動かせないまま時間だけが過ぎてしまうケースも珍しくありません。
以下は、弊社が実際に対応したトラブル事例です。
不動産は空き家の状態だったため、長男は早期売却を希望しましたが、次男は「まだ売る時期ではない」と反対しました。意見が対立し、売却の話が進まないまま固定資産税や管理の負担だけが続く状況に。
最終的に弊社に相談が寄せられ、長男の共有持分を買い取りを行い、問題を解決しました。
共有名義不動産は、共有者同士の合意が得られないと売却や活用ができなくなります。しかし、不動産を所有し続ける限り、固定資産税や維持管理費は発生し続けるため、結果として負担だけが残る「扱いづらい財産」になってしまうこともあります。
そのため、相続の際は共有名義にはせず、親子共有名義であれば、共有者である子の単独名義にすることをおすすめします。
維持管理費や居住状況を巡って、共有者間でトラブルになりやすいため
共有名義で不動産を相続した場合、不動産の維持管理費や居住状況を巡ってトラブルになることがあります。
不動産にかかる固定資産税や維持管理費は、原則として共有者全員が持分割合に応じて負担します。しかし実際には、「一部の共有者だけが支払っている」「住んでいないのに負担したくない」といった不満が生じ、話し合いがこじれてしまうことも少なくありません。
また、共有名義の不動産に一部の共有者だけが居住している場合、居住していない共有者から、家賃に相当する使用料の支払いを求められることがあります。こうした請求をきっかけに、関係が悪化してしまうケースも見られます。
以下は、弊社が実際に対応したトラブル事例です。
その後、長女から「自分の持分がある以上、家賃を支払ってほしい」と言われるようになりました。長男は、固定資産税の支払いや建物の修繕、母の介護などを担ってきた経緯もあり、納得できずに対立が深まりました。
売却による解決を提案しても、長女は「思い出の家だから売りたくない」と反対。最終的に、長男は居住をやめ、弊社に相談をいただきました。
他の共有者は、家賃に相当する使用料を請求できるとされていますが、固定資産税の負担状況や建物の修繕の経緯など、さまざまな事情が絡み、実務上はトラブルに発展するケースも少なくありません。トラブルを避けるためにも、相続の際に共有名義にするのは避けるのが望ましいといえます。
なお、共有名義不動産の賃料請求については、以下の記事でも詳しく解説しています。
相続のたびに共有者が増え、権利関係が複雑化しやすいため
共有名義のまま不動産を相続すると、相続が繰り返されるたびに共有者が増え、権利関係が複雑になりやすい問題があります。
たとえば、当初は兄弟2人の共有名義だった不動産でも、兄が亡くなり、その持分を子ども2人が相続すれば、共有者が3人になります。さらに弟も亡くなり、その子どもたちが相続することになれば、共有者はさらに増え、不動産の権利関係はますます分かりにくくなっていきます。
共有者が増えれば増えるほど、不動産に関する意思決定は難しくなります。実務でも、「共有者全員の意見がそろわない」「そもそも現在の共有者が誰なのか分からない」といった理由で、不動産を売却できないケースは少なくありません。
以下は、弊社が実際に対応した事例です。
結果として、不動産は「長男の子ども2人・次男・長女」の4人による共有名義となりました。次男は「このままでは共有者が増え続け、自分が亡くなったときに子どもへ負担を残してしまうのではないか」と不安を感じ、弊社に相談されました。
2024年4月1日から相続登記は義務化されましたが、実務では、いまだに登記が行われていないケースも珍しくありません。相続登記をしないまま放置すると、次の相続が発生した際に、さらに権利関係が複雑になるリスクがあります。
共有名義ならではのトラブルについては、以下の記事でも詳しく解説しています。
親子共有名義の不動産の相続で共有名義を避ける方法
親子共有名義の不動産は、親が生存している間は大きな問題が起こらなくても、親の死亡をきっかけに相続が発生すると、共有名義が原因でトラブルになるケースがあります。
そのため、相続の際には、将来の負担やトラブルを見据えて共有名義を避けることをおすすめします。
具体的には、次のような方法によって、共有名義を避けたり、共有状態を解消したりすることが可能です。
- 共有者である子が親の持分を相続し、単独名義にする
- 不動産を売却し、売却代金を相続人で分け合う
- 一旦共有名義で相続し、自分の共有持分のみを売却して共有関係から抜ける
共有者である子が親の持分を相続し、単独名義にする
親子共有名義の不動産では、共有者である子が親の共有持分を相続し、不動産を単独名義にすることで、相続後の共有名義を避けることができます。
ただし、親の共有持分は相続財産となるため、遺産分割協議において、他の相続人全員の合意を得ることが前提です。公平性を保つためには、不動産以外の財産とのバランスや、金銭の支払いを組み合わせて調整する必要があります。
単独名義にする代表的な方法としては、「代償分割」と「現物分割」があります。
代償分割
共有者である子が親の共有持分を相続する代わりに、他の相続人へ金銭を支払う方法です。不動産を単独名義にできる一方で、代償金を用意する必要があります。
不動産の評価額が4,000万円で、父と長男がそれぞれ2分の1ずつ共有していたケースを考えます。
相続の対象となるのは、父の共有持分2,000万円です。
法定相続人は、長男と次男の2人とします。
この場合、長男が父の共有持分2,000万円を相続し、不動産を単独名義にします。その代わりに、次男へ1,000万円の代償金を支払うことで、相続人間のバランスを取ることができます。
代償分割は、不動産を手放したくない場合や、すでに共有者である子がその不動産に住んでいる場合に向いています。ただし、代償金を支払えるだけの資金が必要になります。
現物分割
不動産や預貯金、車などの財産を、そのままの形で相続人に割り当てる方法です。不動産以外の財産が十分にある場合は、代償金を用意しなくても単独名義にできます。
不動産の評価額が4,000万円で、父と長男が2分の1ずつ共有していたケースを考えます。
相続の対象は、父の共有持分2,000万円と、父が残した預貯金2,000万円です。
法定相続人は、長男と次男の2人とします。
この場合、長男が父の共有持分2,000万円を相続し、次男が預貯金2,000万円を相続することで、金額のバランスを取りつつ、不動産を長男の単独名義にすることができます。
現物分割は、不動産以外の財産がある場合に選択しやすい方法です。ただし、実際の相続では、共有持分の評価額と、預貯金など他の財産の金額が、必ずしも同額になるとは限りません。
そのため、多少の金額差が生じる場合でも、相続人全員が「共有者である子が親の共有持分を相続することに納得している」ケースで選ばれることが多いでしょう。
不動産を売却し、売却代金を相続人で分け合う
不動産全体を売却し、売却代金を相続人全員で分け合えば、共有名義を避けられます。この方法は、遺産を現金に換えて分けることから「換価分割」と呼ばれます。
不動産を現金化して分けるため、分配の公平性を保ちやすいのが特徴です。共有者である子が不動産に住んでいない場合は検討しやすいでしょう。
ただし、不動産全体を売却して換価分割を行うためには、相続人全員の合意を得る必要があります。
不動産の評価額が4,800万円で、父と長男が2分の1ずつ共有していたケースを考えます。
相続の対象となるのは、父の共有持分2,400万円です。
法定相続人は、長男と次男の2人とします。
この場合、不動産全体を売却して4,800万円を現金化したとすると、売却代金は次のように分けることができます。
長男:もともとの持分2,400万円 + 父の共有持分の半分1,200万円 = 合計3,600万円
次男:父の共有持分の半分1,200万円
換価分割を選択すれば、不動産の共有関係を解消しつつ、相続人それぞれが現金で相続することが可能です。「不動産を所有し続ける必要がない」「将来の管理やトラブルを避けたい」と考えている相続人が多い場合に向いています。
一旦共有名義で相続し、自分の共有持分のみを売却して共有関係から抜ける
相続人全員の合意が得られず、代償分割や現物分割、換価分割といった方法が難しい場合には、一旦共有名義で相続し、自分の共有持分だけを売却して共有関係から抜けるという選択肢もあります。
共有持分の売却は、他の共有者の同意は必要なく、自分の判断で売却可能です。不動産に住む予定がない場合や、所有にこだわりがない場合に向いています。
本来は、他の共有者が自分の持分を買い取ってくれるのが理想ですが、話し合いがまとまらないケースも少なくありません。そのような場合は、共有持分の買取業者に依頼する方法があります。買取業者は直接持分を買い取ってくれるため、現金化が早いのが利点です。
一方で、共有持分の買取価格は、不動産全体を市場で売却した場合に比べて、低くなる傾向があります。買取業者は、買取後の権利関係の整理や維持管理などのコストを差し引いて査定額を出すため、その分、価格は低くなります。
とはいえ、相続人同士の話し合いを続ける負担や、共有トラブルから早く抜け出したいと考える場合には、有効な選択肢といえるでしょう。
弊社「株式会社クランピーリアルエステート」も、共有持分の買取に対応しています。まずは、無料相談や査定を通じて、ご自身の状況を整理してみてください。
共有名義の解消方法、共有持分の売却相場や買取事例については、以下の記事でも詳しく解説しています。
親子共有名義の不動産を「子(共有者)の単独名義」にするための生前対策
親子共有名義の不動産は、親が亡くなった際の相続でトラブルが起こることがあります。こうしたリスクを減らすためにも、親が元気なうちに、以下のような生前対策を行うことをおすすめします。
- 「親の共有持分」を子(共有者)が引き継げるように遺言書を作成しておく
- 「親の共有持分」を子(共有者)に生前贈与しておく
- 子(共有者)が親の共有持分を買い取って単独名義にする
「親の共有持分」を子(共有者)が引き継げるように遺言書を作成しておく
親子共有名義の不動産について、親が生前に遺言書を作成しておけば、親の共有持分を誰が引き継ぐのかをあらかじめ指定できます。
遺言書で「現在、共有者である子に親の共有持分を相続させる」と明記しておくことで、相続時に共有者が増えるのを防ぎ、単独名義へ移行しやすくなります。
ただし、遺言書を作成する際には、「遺留分」に配慮する必要があります。遺留分とは、一定の相続人に法律上認められている最低限の取り分のことです。
たとえば、親の共有持分をすべて長男に相続させる内容にした場合、他の相続人から不公平だと感じられ、将来、遺留分を請求を巡ってトラブルに発展するおそれがあります。
そのため、「共有持分は子(共有者)に相続させる代わりに、預貯金は別の相続人に相続させる」といった形で、全体のバランスを考えた内容にすることが大切です。
また、遺言書は、法律で定められた方式に従って作成しなければ、効力が認められない場合があります。確実に効力を持たせたい場合は、公証役場で作成する公正証書遺言を利用する方法があります。
さらに、自筆で作成した遺言書についても、法務局で保管できる自筆証書遺言保管制度を利用すれば、紛失や改ざんのリスクを減らすことができます。
「親の共有持分」を子(共有者)に生前贈与しておく
親子共有名義の不動産を、将来的に共有者である子の単独名義にしたい場合、親の共有持分を生前に贈与しておく方法もあります。相続を待たずに名義を整理できるため、相続時の話し合いによるトラブルを避けやすくなります。
生前贈与には、親の共有持分を一括で贈与する方法のほか、 税負担を考慮して制度を活用する方法があります。代表的なものが「暦年課税による生前贈与」と「相続時精算課税制度による生前贈与」です。
| 暦年課税による生前贈与 |
暦年課税とは、1年間に贈与を受けた財産の合計額が110万円以下であれば、贈与税がかからない仕組みです。この制度を利用して、親の共有持分を少しずつ子へ贈与していけば、贈与税がかかりません。 ただし、不動産の共有持分を毎年贈与する場合、その都度、名義変更の登記が必要になり、登録免許税や登記費用が毎年発生します。その結果、贈与税を抑えられても、登記費用の負担が大きくなり、かえってコストがかかるケースもあります。 そのため、共有持分について暦年課税を使った生前贈与は、実務上は慎重に判断されることが多く、事前に税理士や司法書士といった専門家へ相談することが望ましいといえるでしょう。 |
|---|---|
| 相続時精算課税制度による生前贈与 |
相続時精算課税制度は、生前贈与された財産にかかる贈与税を、贈与者が亡くなった時の相続税でまとめて精算する制度です。一定の条件を満たす親から子への贈与について、累計2,500万円まで贈与税がかかりません。 この制度を利用すれば、親の共有持分を比較的まとまった金額で子に贈与し、早い段階で単独名義にすることも可能です。 一方で、相続時精算課税制度を一度選択すると、その後は同じ親からの贈与について暦年課税を選択することはできません。 ただし、2024年以降は、特別控除2,500万円とは別に、年間110万円までの基礎控除が創設されました。この110万円分については、贈与税がかからず、相続時に相続財産へ加算されることもありません。 |
不動産の共有持分を生前に整理する目的であれば、暦年課税よりも、相続時精算課税制度のほうが現実的な選択肢といえます。
ただし、将来の相続財産全体や税負担のバランスによって適した方法は異なるため、制度を選ぶ際には税理士などの専門家に相談しながら検討することをおすすめします。
贈与時に作成する贈与契約書については、以下の記事も参考にしてみてください。
子(共有者)が親の共有持分を買い取って単独名義にする
共有者である子が、親の共有持分を生前に買い取り、単独名義にする方法もあります。親の共有持分に相当する代金を支払って所有権を取得するため、贈与や相続とは異なり、売買によって名義を整理できます。
この方法を選べば、相続が発生する前に共有状態を解消できるため、相続時の遺産分割協議や名義調整が不要になります。親にとっては、生前に不動産関係を整理できる安心感があり、子にとっても、不動産を単独名義で自由に管理・活用できるようになる点がメリットです。
一方で、この方法を取るには、子側にまとまった資金が必要になります。また、相場よりも著しく低い金額で売買を行った場合には、実質的な贈与とみなされ、贈与税が課される可能性がある点にも注意が必要です。
親子間の売買であっても、不動産会社や司法書士などの専門家に相談しながら、不動産の評価額や売買条件に問題がないかを確認したうえで進めることが大切です。
共有持分を売買する際の売買契約書の作成については、以下の記事でも詳しく解説しています。
まとめ
親子共有名義の不動産で親が亡くなった場合、親が持っていた共有持分は相続財産として扱われます。共有者である子に自動的に持分が移るわけではないため注意が必要です。
相続人が複数いる場合、親の共有持分を相続人全員で引き継ぎ、共有名義を続けることも可能ですが、共有名義は不動産の活用や売却、費用負担を巡ってトラブルに発展しやすい傾向があります。そのため、相続の段階でできるだけ共有状態を避け、単独名義にまとめることをおすすめします。
また、相続時に親の共有持分をどうするかで揉めそうな場合は、親が元気なうちに遺言書を作成してもらう、生前贈与や売買によって名義を整理しておくなど、生前対策を検討しておくことも有効です。
すでに親の共有持分を巡って話し合いが難航している場合には、不動産を売却するという選択肢もあります。共有名義や共有持分の扱いでお悩みの際は、共有持分の買取を専門とする弊社の無料相談をご利用ください。
よくある質問
相続した不動産を売却した場合に発生する費用・税金は?
相続した不動産を売却すると、主に以下の費用・税金が発生します。
| 項目 | 概要・計算方法 | 目安の金額 |
|---|---|---|
| 譲渡所得税 |
売却で利益(譲渡所得)が出た場合に課税される税金。 譲渡所得は「売却価格 −(取得費+譲渡費用)」で計算。 ※相続の場合、取得費は被相続人の取得費を引き継ぐ |
所有期間5年超:20.315%/所有期間5年以下:39.63% |
| 印紙税 | 不動産売買契約書を作成する際にかかる税金。契約金額に応じて収入印紙を貼付。 | 1,000円〜3万円程度(契約金額による) |
| 仲介手数料 | 不動産会社に仲介を依頼して売却した場合の報酬。法律で上限が定められている。 | 売却価格×3%+6万円+消費税(上限)※800万円以下は上限33万円(税込) |
なお、相続した不動産の売却では、一定の条件を満たすことで譲渡所得税を軽減できる特例が使える場合もあります。税額は状況によって大きく変わるため、売却前に確認しておくことが大切です。
親子共有名義の不動産の相続で、相続税を軽減できる特例は?
親子共有名義の不動産を相続する場合でも、一定の条件を満たせば「小規模宅地等の特例」を利用できることがあります。この特例は、自宅の敷地などについて、要件を満たすことで土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
配偶者がいない場合でも、被相続人と同居していた子どもがその不動産を相続するケースなどでは、適用対象となることがあります。ただし、同居の状況や相続後の利用方法など、細かな条件があるため、親子共有名義であっても必ず使えるわけではありません。
相続税の負担に大きく影響する特例のため、適用できるかどうかは事前に確認しておくことが大切です。
親子共有名義の不動産で親が死亡した場合、相続放棄すればトラブルを避けられますか?
相続放棄をしても、必ずしもトラブルを避けられるとは限りません。
相続放棄をすると、親の共有持分は他の法定相続人(兄弟姉妹など)が相続することになり、結果として新たな共有関係が生じる可能性があります。そのため、かえって不動産の権利関係が複雑になるケースもあります。
親に多額の借金があり、負債を引き継ぎたくない場合には相続放棄が有効なこともありますが、親子で共有名義になっている不動産では、安易な相続放棄が解決策にならないことが多い点には注意が必要です。
トラブルを避けるためには、相続放棄を選ぶ前に、遺産分割や売却など他の方法も含めて検討することが重要です。
相続放棄については、以下の記事も参考にしてみてください。

