共有名義の不動産の相続トラブル6選!揉める原因や相続前後での解決策を解説

共有名義不動産(共有不動産)は、同じ不動産を複数人が所有することになるため、権利関係がどうしても複雑になります。すると、「不動産をどう活用するか」「誰が管理するのか」などで、共有者同士が揉めることも珍しくありません。
そして共有名義不動産は、相続においてもトラブルが発生しやすい財産です。
たとえば共有名義不動産は、活用や管理について他の共有者(共有名義不動産における他の所有者)の同意が必要になると民法で定められてます。また、共有持分(共有者ごとの所有権の割合)は通常の不動産と同じく相続対象になるため、共有持分からさらに権利分割が発生して共有者が増え続ける懸念があります。
もし相続した不動産が共有名義だと、以下の共有名義関係の相続トラブルの発生が考えられるでしょう。
- 不動産の売却や利用方法で共有者・相続人と意見が分かれて争いになる
- 不動産の維持管理費や税金関係の負担を公平にするのが難しく偏りが出る
- 誰かが実家などを独占利用し使用範囲や賃料について揉める
- 家賃収入がある不動産だと収益配分や管理担当で不満が出る
- 共有持分を勝手に売却される
- 連絡が取れない共有者が出て同意を得るのが難しくなる
共有名義における相続トラブルを回避・解消するには、「単独名義にする」「存命中に相続先や管理方法を決めておく」「遺産分割協議で共有名義を解消する」「自分の共有持分を売却する」「相続放棄してそもそも相続自体をなかったことにする」といった方法が挙げられます。
相続前の共有名義トラブルの予防策 | 相続時・相続後の共有名義トラブルの解消方法 |
---|---|
・遺言書を書いてもらう ・生前贈与にてあらかじめ共有持分割合や所有者を決めておく ・共有名義不動産全体や共有持分を売却して現金化してもらう ・共有持分を放棄してもらう ・親が元気なうちに家族信託にしておく |
・遺産分割協議で共有名義を解消する ・相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄する ・共有名義不動産全体や共有持分を売却する ・共有持分を放棄して他の共有者へ帰属させる ・他の共有者から共有持分を買い取って自分の単独名義にする ・土地なら分筆登記してそれぞれ単独名義にする |
ただしいずれの方法も共有者・相続人同士の理解と納得が大切になるため、事前にしっかりと話し合っておきましょう。
共有名義の相続トラブルを解消したいときは、不動産の専門家へ相談するのも手です。相続・遺産分割協議・共有物分割請求についてなら、不動産や相続に強い弁護士への依頼をおすすめします。問題解決だけではなく共有持分の売買まで検討するなら、訳あり物件専門の買取業者へ相談すれば、スピーディーな買取や買取後の取り扱いを任せることが可能です。
この記事では、共有名義の不動産における相続トラブルの原因や具体的な事例、相続前後にてできる相続トラブルの回避・解消方法、共有物分割請求、相続トラブルの回避・解消で知っておきたい注意点などを解説します。
目次
共有名義の相続トラブルが多い原因は?
共有名義の相続トラブルが多い原因は、相続時に発生する「所有権の分割」と「共有名義不動産の取り扱いにおける同意の必要性」の2つが挙げられます。
まず共有名義不動産とは、同じ不動産を複数人が共有で保有している状態です。共有名義不動産における所有権の割合(1つの不動産のうち1/3の所有権を有しているなど)は、共有持分と呼びます。
共有名義不動産となる理由として、主に次のものが挙げられます。
- 両親が2人でお金を出し合って不動産を購入していてもともと共有名義だった
- 兄弟で不動産を相続してそれぞれに共有持分が発生した
- 相続時の遺産分割協議で共有名義となることが決まった
共有名義不動産は、要するに「多くの人間が同じ不動産に対して影響力を持っている状態」です。そのため、不動産の活用や処分を進めるには意見のすり合わせが必要となり、話し合いのなかでトラブルが発生する可能性が上がります。
とくに相続が絡むと、より問題が複雑化する傾向にあります。
たとえば「親が亡くなった後、離れて暮らして長年連絡を取っていなかった兄弟で実家が共有名義になった」といったケースだと、実家の処遇について疎遠になった兄弟同士で話し合う必要が出てきます。所有権の同意の有無などの問題に加えて、話し合いに齟齬が出ないか、そもそも連絡がつくのかといった問題も出てくるでしょう。
また共有名義不動産は、単独名義不動産よりもメリットが少ない点も問題として挙げられます。不動産を共有名義で所有するメリットは次の通りです。
- 共有持分だけの売却でも「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の対象になるので共有者の人数分だけ節税できる可能性がある
- 不動産でも法的に公平な相続になる
言い換えれば、共有名義のメリットは上記の2つしか主に挙げられません。これから紹介する相続トラブルのリスクと比較したとき、受けられるメリットの恩恵のほうが大きいというケースはそこまで多くないでしょう。
以下では、共有名義不動産で相続トラブルが起きやすくなる原因を見ていきます。
参考:国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
共有名義の相続で権利分割が続くと複雑化するから
共有名義不動産の相続は、通常の不動産とほぼ同じ扱いです。遺産分割協議や遺言での指定などがなければ、原則として法定相続でおこなわれます。つまり、相続人の数だけ共有持分の所有権がどんどん分割され、より多くの名義人が発生する危険性があります。
共有名義不動産を法定相続でおこなう場合、通常の相続と同じく相続順位に応じます。原則として法定相続の対象は、「配偶者+相続順位が高い人」です。法定相続においては、「相続順位第1位+第2位」といった、異なる相続順位同士の組み合わせになることはありません。
被相続人の共有持分が、相続人の相続順位に応じて分配されます。
- 配偶者:原則として配偶者は必ず相続人となる
- 第1位:子ども
- 第2位:被相続人の直系尊属(親や祖父母)
- 第3位:被相続人の兄弟姉妹
すでに共有名義となっている不動産を相続する場合だと、共有者となっている被相続人の共有持分のみが相続対象です。他の共有者が持っている共有持分は、相続されずにそのままです。
父・母・子ども2人の家庭で、父の死亡によって、相続が発生したときのケースを見ていきましょう。
父が、父の兄弟Aと建物を共有名義で1/2を持っていたとします。もし父が亡くなると、父の共有持分1/2が母・子ども2人へ相続され、共有持分割合は次の通りになります。
- 父の兄弟A:1/2
- 母:1/4
- 子ども:1/8ずつ
さらにその後、子どもが亡くなって孫の代ヘ相続となると、共有持分がより細かく分割される可能性が高いです。
具体的な法定相続人の相続分は以下のとおりです。
相続順位の組み合わせ | 法定相続分 |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者:1/2 子ども:1/2÷相続対象の子どもの数 |
配偶者と被相続人の父母 | 配偶者:2/3 父母:1/3 |
配偶者と被相続人の兄弟姉妹 | 配偶者:3/4 兄弟姉妹:1/4 |
配偶者の他に被相続人の子ども、父母、兄弟姉妹がいない | 配偶者:1/1 |
被相続人の子どものみ | 子ども:1/1 |
被相続人の父母のみ | 父母:1/1 |
被相続人の兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹のみ:1/1 |
このように共有名義不動産を法定相続でおこなっていくと、相続のたびに権利分割されて複雑化してしまいます。所有権が複雑化すると、「共有者が誰かわからない」「知らない人が共有者になっていた」といった事態となり、共有名義不動産の売却や活用を決めるときに大きな障害となるでしょう。
仮にあなたが相続した不動産が共有名義のままだと、あなたの子どもや孫が同じ不動産を相続したときに大きなトラブルに巻き込まれるかもしれません。共有名義のままで不動産の相続が続くと、次世代に負担を残してしまうことになります。
なお、相続順位が関わってくるのは法定相続のみです。相続時に遺産分割協議をおこなう、遺言書にて相続先に指定があるなどの状況だと、相続順位や割合に左右されない相続とすることが可能です。
以下では、法定相続以外のケースについて解説します。
参考:法務省「法定相続人」
参考:国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」
遺産分割協議が行われるケース
遺産分割協議とは、相続財産をどのように分割するのかを、相続人全員で話し合うことです。相続人全員が合意した内容をまとめた「遺産分割協議書」を作成すれば、法定相続に囚われない柔軟な相続が可能となります。
そして共有名義不動産においても、遺産分割協議の効力は同じです。たとえば「相続人の子どもがA・Bと2人いるが、Aにのみ実家を相続させる」と遺産分割協議で合意を得られれば、実家は子どもAの単独名義にできます。
また、被相続人の介護を担当していた相続人などには「寄与分」が考慮され、法定相続分を超える財産での相続が認められる制度が存在します。
遺言書にて共有名義の不動産の取り扱いが指定されていたケース
遺言書とは、被相続人が自分の財産をどう相続させるかの意思を書面として残したものです。遺言書の効力は非常に強力で、「正しい形式での作成」「遺言内容に問題なし」「遺言書を書いた人が認知症ではない」などの要件を満たしていれば、法定相続や遺産分割協議よりも優先されます。共有名義不動産の相続においても、遺言書は通常の不動産のときと同じ効力です。
極端な例だと、遺言書で「自分の共有持分を、相続人の子どもA・Bではなくお世話になった友人へ」など、相続人以外の人物へ自分の相続財産を渡せます(相続人以外と指定すると相続ではなく遺贈扱いになる)。
売却やリフォームなどの行為に同意が必要になるから
共有名義不動産に関して売却やリフォームなどの一定の行為をするときには、他の共有者からの一定以上の同意が必要になると民法で定められています。
たとえば、あなたが大規模なリフォームを希望しても、他の共有者全員に反対されるとリフォームはできません。他の共有者の同意を無視してリフォームを強行することは、不法行為に該当します。
民法第251条に定められた、共有名義不動産に行える行為と行為をするための要件は以下の通りです。
行為 | 行為の内容 | 実施するための要件 |
---|---|---|
処分・変更行為 | ・不動産に性質や用途に変更を加えること ・売却、取り壊し、抵当権の設定、長期賃貸借契約など |
共有者全員の同意が必要 |
管理行為 | ・不動産の性質・用途の変更までは行かない管理・改良のこと ・変更行為までは行かないリフォーム、短期賃貸借契約など |
全共有者の共有持分割合の過半数の同意が必要 |
保存行為 | ・不動産の状態を維持すること ・老朽化の修繕、不法施隠居者の追い出しなど |
他の共有者の同意なしで可能 |
参考:e-Gov法令検索「民法」
法的な同意の必要性が存在するため、共有名義不動産は普通の不動産よりも管理が難しくなります。そのため、共有名義不動産の相続後にさまざまなトラブルが想定されます。
ただし、共有持分のうち自己持分だけの売却なら「自分の所有物を売却するだけ」という扱いになるので、他の共有者の同意は必要ありません。とはいえ、他の共有者も同様の権利を有することから、先に共有持分を売却されることによるトラブルも懸念されます。
共有名義における具体的な相続トラブル事例6選と主な解決策
共有名義の相続トラブルが多い原因は?不動産の権利関係をおさらいで解説した「共有名義不動産を相続したときにトラブルとなる原因」は、具体的にどのような相続トラブルを引き起こすのでしょうか。
ここからは、下記の「共有名義における具体的な相続トラブル6選」と解決策をまとめました。
- 不動産の売却や利用方法で共有者・相続人と意見が分かれて争いになる
- 不動産の維持管理費や税金関係の負担を公平にするのが難しく偏りが出る
- 誰かが実家などを独占利用し使用範囲や賃料について揉める
- 家賃収入がある不動産だと収益配分や管理担当で不満が出る
- 共有持分を勝手に売却される
- 連絡が取れない共有者が出て同意を得るのが難しくなる
不動産の売却や利用方法で共有者・相続人と意見が分かれて争いになる
共有名義不動産の相続は複数の共有者・相続人がかかわってくるため、単独名義不動産よりも多くの意見・思惑が出てくる可能性が高いです。そのため、共有名義不動産の売却や利用方法について共有者や相続人同士で意見が分かれ、話がまとまらなくなるトラブルが想定されます。
具体的な相続トラブルの例は次の通りです。
- 相続した実家を取り壊したいが、共有者である兄弟の1人が思い出を理由に同意をしない
- 相続したアパートを貸し出して活用しようと考えたが短期賃貸借契約での活用について共有持分の過半数の同意を得られない
- 相続した実家のリフォーム・リノベーションについての共有者からの同意を得られたが、工事内容について意見が分かれている
意見が分かれてしまう場合でも、話し合いによって粘り強く妥協点を探っていくのが正攻法です。
また、相続時・相続後の共有名義トラブルの解消法や話し合いで解決しないなら「共有物分割請求」でトラブルに対応するなどで解説する方法にて、共有名義状態そのものを解消するという解決法も考えられます。
不動産の維持管理費や税金関係の負担を公平にするのが難しく偏りが出る
原則として共有名義不動産における維持管理費や納税は、共有者全員で公平に負担すべきと法律で定められています。
根拠となる法律 | 概要 |
---|---|
民法第253条 | 各共有者は、共有持分割合に応じて共有物の管理費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う |
地方税法第10条の2 | 共有物などから生じた物件または共同行為に対する地方団体の徴収金(固定資産税など)は、納税者が連帯して納付する義務を負う(連帯納税義務) |
参考:e-Gov法令検索「民法第253条」
参考:e-Gov法令検索「地方税法第10条の2」
ただし共有者が多いと、「管理責任や税金支払いが特定の共有者へ集中する」「誰かがやるだろうと判断して誰も不動産を管理しない」というトラブルに発展するリスクがあります。
たとえば、固定資産税の支払いでよくあるトラブルを紹介します。
共有名義不動産の固定資産税や都市計画税の納税通知書は、原則として共有名義1件に対し、1人の代表者宛に届く仕組みです。納税通知書が届いたら、代表者が全額支払ってから他の共有者から徴収する、または先に他の共有者から納税分を徴収してから支払うなどの方法で納税します。
しかし代表者が固定資産税を全額支払った後に、他の共有者が代表者が代わりに負担した分の支払いを拒否するトラブルが存在します。支払い拒否は不法行為であるため、支払いの催促・裁判を通じた強制執行なども可能ですが、手続きにかかる費用・労力・時間の浪費や人間関係の悪化は避けられません。
維持管理費や税金の負担を公平にするには、共有名義とする際にしっかりと負担割合を明確にすることが大切です。事前に法律や実態に基づいた負担割合を決定し合意を得ていれば、仮にお金を支払わない共有者がいても、事前の決まりを根拠にして支払いを請求しやすくなります。
共有名義人が不動産を独占利用し使用範囲や賃料について揉める
共有名義不動産として相続して共有者が複数人いる状態だと、特定の共有者が不動産の独占利用するリスクがあります。
具体的なトラブルの例は次の通りです。
- 実家を相続した後に、共有者である兄弟が占有してしまった
- 共有名義の賃貸アパートの一室を利用しているにもかかわらず、家賃を支払わない共有者がいる
しかし共有者が共有名義不動産を占有していても、明け渡し請求は原則として認められません。道義的にはともかく、共有者は自分が持つ所有権分の権利を使っているだけです。これは民法上認められている権利の行使であり、法律違反とは言えないのです。
占有しているせいで「他の共有者が住めない」という状況でも、話し合いによって立ち退きをお願いする、共有持分を買い取る、共有物分割請求をおこなうなどでしか対応できません。
しかし一方で、共有名義不動産を利用している共有者に対し、共有持分割合に応じた家賃を「不当利得返還請求」によって請求できます。たとえば占有者の共有持分が1/2だった場合、当該不動産の家賃(主に家賃相場の金額)✕1/2を占有者に対して請求可能です。請求にしたがわないときは、不当利得返還請求訴訟によって裁判で争うこともできます。
家賃収入がある不動産だと収益配分で不満が出る
相続した共有名義不動産に家賃収入が発生していると、収益配分や管理担当に関して不満が出るトラブルが想定されます。たとえば、「特定の共有者が家賃収入を独占している」などが考えられます。
共有名義不動産の家賃収入の分配は、共有持分割合に応じておこなわれるのが原則です。家賃収入が30万円で1/3ずつの共有持分を持つ共有者3人がいる場合は、それぞれ10万円ずつ分配されます。ただし、不動産の管理費用や修繕費用を特定の共有者が負担しているときは、負担分を考慮して家賃配分を増やすケースもあります。
共有持分割合や管理担当の範囲から逸脱し、不当に家賃を独占する者がいるときは、不当利得返還請求によって独占者に対して賃料の返還を求めることが可能です。
共有持分を勝手に売却される
共有名義不動産における自己持分のみなら、他の共有者の同意を得ずに売却できます。逆に言えば、自分以外の共有者が共有持分を第三者へ売却すると、面識のない法人や個人と同じ不動産を共有する状態になります。
もし共有持分の売却先が悪質な業者だと、嫌がらせや強引な交渉などによって、他の共有者を追い出そうとするトラブルが想定されるでしょう。ときには、交渉の余地なくある日突然共有物分割請求訴訟を起こされ、対応に追われるかもしれません。
共有物分割請求自体は正当な権利の行使ではあるものの、こちらの意見をほぼ聞くことなく半ば強引に訴訟まで移行されると一気に話がこじれてしまいます。
とはいえ、他の共有者による共有持分の売却行為や売却先の選定は、こちらで関与することはできません。無断で売却されることを防ぐには、普段から共有者同士でコミュニケーションを取り、共有持分売却の前に相談してもらえるような良好な関係性を築いておくのが大切です。話し合いのなかで、信頼できる業者や他の共有者への売却にしてもらったり、遺産分割協議・共有物分割請求などでの解決を模索したりなどをおこないましょう。
売却されてしまった後の場合は、「自分も共有持分を売却して共有名義から外れる」「その共有者から共有持分を買い取る」などを検討しましょう。すでに嫌がらせなどが発生しているときは、早めに弁護士や警察へ相談することを推奨します。
連絡が取れない共有者が出て同意を得るのが難しくなる
共有名義不動産ならではの問題として、一部の共有者と連絡が取れないというものがあります。共有名義不動産は「変更行為や管理行為には他の共有者の同意が必要」という法律上、いくら連絡が取れないからといって、当該共有者を無視して売却やリフォームを進めることは原則として認められません。
どうしても共有者と連絡が取れないときは、民法第251条や第252条に定められた手続きによって解決できる可能性があります。この手続きは、連絡が取れない共有者以外の共有者の同意によって、売却やリフォームを決定できるようにするためのものです。必要な調査を経て所在等不明の証拠を提出した後、裁判所より一定期間の公告をおこなったうえで、裁判所が行為をできるか否かを判断します。
また民法第262条の2に基づいて、一定の手続きを経たうえで連絡がつかない共有者の共有持分を取得できるようになっています。
上記の手続きは、2023年4月より施行された改正民法により可能となりました。
同じく、共有者が認知症となって判断能力がなくなるケースもトラブルの元です。認知症の共有者が同意すると言っても「意思能力がない」と判断されるため、認知症の共有者から同意を得るのは実質的に不可能となります。もし認知症の共有者が売買契約を結んでも、その契約は無効になる可能性が高くなります。
共有者が認知症になったときは、「法定後見制度」の利用や「特別代理人を立てて共有物分割請求を申し立てる」などの解決方法が考えられます。とはいえ裁判所が絡んでくる複雑な手続きになるため、共有者が完全な認知症となる前に共有持分の移転、共有状態の解消、家族信託の活用などの事前対策を講じるほうが、スムーズかつ確実に問題を解決できるでしょう。
相続前にできる共有名義トラブルの予防策
共有名義不動産を相続したり、相続後に共有名義となったりすることで発生するトラブルは、相続前に対策できる可能性があります。相続前にできる共有名義トラブルの予防策は次の通りです。
- 遺言書を書いて単独名義として相続もらう
- 生前贈与にてあらかじめ共有持分割合や所有者を決めておく
- 不動産全体を売却して現金化しておく
- 親が元気なうちに家族信託にしておく
それぞれの詳細を見ていきましょう。
遺言書を書いて単独名義として相続もらう
遺言書にて共有名義の不動産の取り扱いが指定されていたケースでも解説した通り、遺言書の効力は原則として遺産分割協議や法定相続よりも優先されます。そのため、親など将来被相続人になることが想定される人に遺言書を書いてもらい、相続時は遺言通りに進むようにすればトラブルを回避しやすくなります。
たとえば遺言書にて「実家は子どもAの単独名義として相続させる」と指定しておけば、相続時に共有名義となることを避けられるでしょう。遺言書で単独名義とすると決められているのですから、原則として他の相続人の意見に関係なく相続が成立します。
共有名義にまつわる相続トラブルを避けるための遺言書作成のポイント
- 相続人が2人以上いるときでも1人に相続させて単独名義にする
- 可能であれば相続財産となっている不動産すべてを単独名義で相続させる
- 遺留分侵害にならないよう不動産以外の財産分配にも注意する
- 遺言内容はしっかりと話し合って決める
上記でとくに注意したいのは、遺留分侵害です。もし「実家は子どもAにすべて相続させて、他の財産は子どもAとBへ公平に分ける」といった遺言だと、不動産の分だけ子どもBへの相続財産が少なくなり、遺留分侵害になる可能性があります。
そのため、子どもAへ不動産をすべて相続させる分、子どもBへは他の財産を渡すようにするなどで調整する必要があります。相続財産において、相続人へ認められた遺留分の割合は次の通りです。
被相続人との関係 | 相続財産における遺留分の割合 |
---|---|
配偶者と子ども | 配偶者:1/4 子ども:1/4÷相続対象の子どもの数 |
配偶者と被相続人の父母 | 配偶者:1/3 父母:1/6 |
配偶者と被相続人の兄弟姉妹 | 配偶者:1/2 兄弟姉妹:なし |
配偶者の他に被相続人の子ども、父母、兄弟姉妹がいない | 配偶者:1/2 |
被相続人の子どものみ | 子ども:1/2 |
被相続人の父母のみ | 父母:1/3 |
被相続人の兄弟姉妹のみ | 兄弟姉妹のみ:なし |
遺留分を侵害したときは、相続人から遺留分侵害額請求がおこなわれる可能性があります。遺言書の書き方や作成の流れについては、以下の記事にて詳しく解説しています。
生前贈与にてあらかじめ共有持分割合や所有者を決めておく
生前贈与とは、親など将来被相続人になる人が、生きているうちに無償で贈与をおこなう契約です。相続は相続順位や遺産分割協議などに相続内容が左右される反面、生前贈与なら「誰に」「何を」「どれくらい」を贈与者・受贈者の合意の下で決定できます。
不動産の生前贈与によってあらかじめ共有持分割合や贈与先を決めておけば、相続人同士での争いや共有名義の発生を防ぐことが可能です。不動産を贈与する時期も自由にできるため、不動産に関するさまざまな契約や設備などの引き継ぎもやりやすくなるでしょう。
生前贈与をおこなうと、受贈者(贈与を受ける人)は相続税ではなく贈与税の納税が発生します。贈与方法や贈与に関する控除制度を利用すれば、相続税よりも節税につながるのもメリットと言えるでしょう。ただし、生前贈与は贈与者の死亡前7年以内におこなわれていると、贈与税ではなく相続税の対象になります。
生前贈与での対応を検討するなら、可能な限り早めに親と話し合ってどうするのかを決めておくのがよいでしょう。
不動産全体を売却して現金化しておく
共有名義不動産の相続トラブルは、そもそも不動産を複数人で所有している状態が原因となるケースがほとんどです。そこで不動産を共有名義で所有するのではなく、不動産そのものを売却して現金化し、得られた現金を共有者や相続人へ分配する方法で相続トラブルを回避できます。
3,000万円の価値がある不動産を3人兄弟が相続する場合、共有持分を1,000万円分ずつに分けるのではなく、あらかじめ売却して3,000万円の現金にして相続時に1,000万円ずつ分配する。
相続前にすでに共有名義不動産となっている場合は、共有者全員の同意を得たうえで売却して、現金として相続します。事前に不動産を現金化しておくメリットは、主に次の通りです。
- 現金なら共有者や相続人へ公平に分配しやすい
- 不動産の管理の必要性や固定資産税・維持管理費の支払いがなくなる
- 不動産全体の売却jなら共有持分単独で売却するケースと異なり、通常の不動産と同じ市場価格で一般の買主に売却しやすくなる
親が元気なうちに家族信託にしておく
家族信託とは、不動産などの財産を持つもの(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に当該財産の管理・処分を任せる仕組みです。家族信託で親の不動産の管理・処分についてあらかじめ信託されていれば、親が認知症になったときも受託者である家族が売却や取り壊しなどの判断ができるようになります。
つまり、共有者が認知症になっても受託者が代わりに共有名義不動産の処遇について同意するか否かを決められます。家族信託は、親の認知症によるトラブルへの対策として非常に有効な手段です。
また、さまざまな手続きと制約が存在する成年後見制度と比較して、相続税対策や生前贈与、不動産活用などの面で柔軟な対応ができるメリットがあります。さらに家族信託なら、「自分が亡くなった後は妻へ相続、妻が亡くなった後は次男に相続」といった、二次相続を指定できるのも特徴です。
家族信託を進めるときは、まず家族間で話し合って信託の目的を決めましょう。話し合いがまとまったら信託契約書を作成し、公正証書化します。
家族同士の契約関係とはいえ、契約内容はしっかりと固めておくことが大切です。司法書士や弁護士、税理士などの専門家に相談しながら、適切な契約書を作成します。契約の不備があると、家族信託が無効になったり家族間の争いになったりなどのトラブルになるかもしれません。
契約書を作成したら、財産名義を受託者に移し、信託登記を行います。金銭も一緒に信託する場合は、管理専用の口座の作成も必要です。
なお、共有持分を家族信託する場合のメリットやデメリットについて詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
参考:共有持分を家族信託するメリット・デメリットは?トラブル回避の例も解説
相続時・相続後の共有名義トラブルの解消法
共有名義不動産に関するトラブルが予防できなかったときでも、相続時・相続後の手続きによってはトラブルを回避できます。相続時・相続後の共有名義トラブルの解消方法は、主に次の通りです。
- 遺産分割協議で共有名義を解消する
- 相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄する
- 共有者全員で協力し不動産全体を売却する
- 自分の共有持分を他の共有者や第三者に買い取ってもらう
- 他の共有者から共有持分を買い取って単独名義にする
- 土地なら分筆登記で物理的に分けてそれぞれ単独名義にする
遺産分割協議で共有名義を解消する
遺産分割協議が行われるケースにて解説した遺産分割協議なら、協議のなかで共有名義を解消する方法について話し合いができます。話し合いのなかで合意した内容を遺産分割協議書に記載すれば、協議内容に法的効力を持たせられます。
共有名義を解消できる、遺産分割方法は主に以下の3つです。
- 現物分割
- 代償分割(価格賠償)
- 換価分割
現物分割
現物分割とは、遺産である不動産や株式などの性質を変えずに相続人に分配する方法です。相続する不動産が共有名義になる場合または共有名義だった場合だと、共有持分割合などに応じて分筆などで対応します。
現物分割のメリットとデメリットは以下の通りです。
現物分割のメリット | 現物分割のデメリット |
---|---|
・各共有者の単独所有となる ・土地を現物分割した場合、土地を自由に活用・運用できる ・手続きが簡単 ・不動産評価を巡るトラブルが少ない |
・分割した土地の面積が一定程度なければ活用・運用しづらい ・不公平な相続になりやすい ・土地を分筆できない恐れがある ・土地の分筆によって土地の価値が下がる恐れがある ・建物は現実的に分割できない |
現物分割の大きなメリットは、分割後の不動産が単独所有になることです。土地を分割(分筆)した場合は、その後の土地を自由に活用できます。手続きが簡単なことに加え、不動産評価を巡るトラブルが発生しにくい点もメリットといえます。
一方、土地が広くなければ自由に活用するのが難しくなるほか、分割によって土地の価値が下がり、公平な相続ができない恐れがあります。また、建物については物理的に分割できないため、現実的には共有名義不動産が土地である場合にしか利用できないデメリットがあります。
代償分割(価格賠償)
代償分割(価格賠償)とは、一部の共有者もしくはすべての共有者の持分を買い取って共有状態を解消する方法です。
代償分割には、分割後の不動産価値の差を調整するために金銭を支払う一部価格賠償と、共有者が他の共有者の持分をすべて買い取る全面的価格賠償があります。
代償分割のメリットとデメリットは以下の通りです。
代償分割のメリット | 代償分割のデメリット |
---|---|
・相続トラブルを回避できる ・遺産分割が複雑になるのを回避できる ・相続税が低くなるケースがある |
・持分の買い取りに資金が必要になる ・代償金額で揉める恐れがある ・所得税や贈与税が発生する恐れがある |
代償分割によって共有持分を買い取った場合、買い取った共有持分の価額分だけ相続人へ金銭を支払うことから、不動産を共有持分割合で分けるよりも公平になりやすいのがメリットです。また、共有名義による不動産の権利の分散がなくなるため、遺産分割の区分や交渉内容が複雑にならないのも利点です。
被相続人と同居していた相続人による相続の場合、小規模宅地等の特例が適用されるため、相続税を節税できる可能性があります。相続人が居住している場合、代償分割はおすすめの方法です。
一方、代償分割には他の共有者の共有持分を買い取る資力が必要になるほか、代償金額で他の共有者と揉める恐れがあるのがデメリットです。また、代償分割を選択した場合、共有者それぞれに贈与税や所得税が発生するケースがあり、想定以上のコストがかかる場合もあります。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却して取得した金銭を法定相続人で分配する方法です。不動産全体を売却した後に、相続割合などに準じて金銭を相続人で分け合います。
すでに共有名義となっている不動産を換価分割する場合は、他の共有者の同意を得たうえで全体を売却し、各共有者の共有持分割合に応じて売却益を分配します。その後、被相続人の共有持分割合分の金銭を相続人で分けます。
換価分割のメリットとデメリットは以下の通りです。
換価分割のメリット | 換価分割のデメリット |
---|---|
・遺産を公平に分割できる ・不動産評価を巡るトラブルを回避できる ・代償金を支払う必要がない |
・不動産を安く売却しなければならない恐れがある ・諸経費によって取得金額が目減りする ・不動産を失う ・譲渡所得税が発生するケースがある |
換価分割では、金銭で相続人に分配できるため、不動産と比較して不公平になりにくいほか、不動産評価でのトラブルが起きることがありません。代償分割と異なり他の共有者へ代償金を支払う必要がないため、資力がなくても選択できる方法です。
一方、不動産を売り急いだ場合、安価で不動産を売却せざるを得なくなることがあるほか、売却にかかる諸経費によって、取得できる金銭が減ってしまう恐れがあります。
また、売却によって不動産を失うことになるほか、売却によって利益が発生した場合は、相続税に加えて譲渡所得税が発生するケースがあるのがデメリットです。
相続開始を知ってから3か月以内に相続放棄する
相続前に共有状態を避ける方法として、相続放棄という選択肢があります。
相続放棄とは、被相続人の財産や負債などを受け継ぐ権利や義務を放棄することです
相続放棄を選択した場合、資産と負債の両方を相続できる権利を失います。つまり共有名義から外れられるため、共有名義不動産と無関係となります。また相続放棄は、「初めから相続人ではなかった扱い」になることから、遺産分割協議に参加する必要もなくなります。
とくに、被相続人の遺産にマイナスの財産(=借金)が多い場合は、相続放棄を選択するのがおすすめです。
ただし、一部の財産は相続して不動産の共有持分のみを放棄する、といった選択はできません。仮に不動産以外に多額の金銭や株式などを相続できる権利を有していても、相続放棄するとプラスの財産を得る権利も一緒に放棄することになります。
また、相続放棄を申し立てられるのは、相続開始を知った日から3か月以内です。期限をすぎると、原則としていかなる場合も相続放棄は認められなくなります(事情によっては例外あり)。
自分の共有持分を他の共有者や第三者に買い取ってもらう
「共有名義不動産全体の売却について同意を得られない」「自分だけでも共有名義から外れたい」という場合は、自分の共有持分を他の共有者や第三者に買い取ってもらえないか検討してみてください。
自分の共有持分を手放して所有権がなくなれば、自分は完全に共有名義不動産と法的に無関係となり、管理や納税の必要性がなくなります。自己持分のみの売却なら他の共有者の同意が不要であるため、共有名義不動産全体の売却よりも簡単に進められるのがメリットです。
また、通常の不動産を売却したときと同じように、共有持分の売却益を得られます。
共有持分の売却先は、「他の共有者」または「第三者(主に不動産買取業者)」の2つに実質限られます。共有持分単独での売却だと、一般的な層からの需要がほぼないからです。
共有持分を売却するときは、不動産会社や不動産鑑定士の資格取得者などから査定を受けておくと、相手が納得しやすい売却価格を設定しやすくなります。
他の共有者へ売却する場合
他の共有者へ売却する場合、売却相場は「共有名義不動産の価額✕共有持分割合」になります。他の共有者にとっては、共有持分割合が増える=共有名義不動産への影響力が高くなるという図式になるため、第三者へよりも高額で売却しやすくなります。
ただし、他の共有者に買取の意思がなければ成立しません。共有者は必ずしも共有持分をほしがるとは限らないので、売却できないときは第三者に売ることを検討しましょう。
第三者へ売却する場合
共有持分の売却先となる第三者は、主に共有持分買取に対応している買取業者を指します。買取業者とは、不動産を買い取ってリフォーム等をした後、不動産を転売や賃貸して利益を挙げるビジネスです。
共有持分を取り扱う買取業者なら、一般的な層には売却が難しい共有持分でも適切に査定して買い取ってくれます。また仲介と異なり売却先を探す必要がないため、1週間〜1か月程度で売れるのも買取業者を利用するメリットです。
ただし、第三者へ売却する場合の共有持分の売却相場は「共有名義不動産の価額✕共有持分割合✕1/2~1/3」と、他の共有者へ売るときよりも低くなる傾向があります。
また、共有持分を勝手に売却されるでも少し触れたように、悪質な買取業者に売却するとさまざまなトラブルの引き金になるリスクがあります。買取業者へ売却する際は、共有持分の買取実績や評判をチェックしたり、無料相談で担当者の雰囲気を見たりなどで、買取業者の良し悪しを判断することを推奨します。
もし共有持分を売却したい場合は、クランピーリアルエステートにご相談ください。
共有持分の売却方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
また、共有持分の売却相場について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
同意を得られるなら共有者全員で協力し不動産全体を売却する
もし共有者全員の同意を得られるなら、共有名義不動産全体を第三者へ売却するのもよいでしょう。自分の共有持分だけ売却するときと比較して、以下のメリットがあります。
- 共有名義だけを売却するより売却価格が高く設定しやすい
- 一般の人への需要が見込めるため不動産仲介でも売却しやすくなる
- 不動産所有の負担自体がなくなるため自分以外の共有者同士の争いもなくなる
他の共有者から共有持分を買い取って単独名義にする
他の共有者の共有持分を自分がすべて買い取れば、共有名義状態を解消して自分の単独名義の不動産として所有できます。不動産を手放す必要がないため、実家などの不動産を引き続き活用していきたい人におすすめの共有名義トラブルの回避方法です。
買取を成立させるには、他の共有者との交渉や買い取るための資金の準備が必要です。買取価格は、「共有名義不動産の価額✕共有持分割合」が目安になるでしょう。なお、相続時の遺産分割協議では「代償分割」と呼ばれる方法になります。
土地なら分筆登記で物理的に分けてそれぞれ単独名義にする
共有名義になる不動産が土地である場合は、「分筆」によって共有状態を解消できます。分筆とは、登記簿に登録された1つの土地を複数に区分し、区分ごとに登記し直して単独名義とする手続きです。共有名義不動産の場合だと、一般的には共有持分割合に応じた区分をして登記します。
分筆のメリットは、共有者全員が不動産を手放す必要がなく、それぞれで自由に活用できる点です。共有持分の現金化をしたくない共有者がいても、説得しやすくなります。
ただし、土地の分筆には以下の注意点があります。
- 分筆するには共有者の過半数の同意が必要となる
- 土地を分ける際に土地の形状、接道面積、日当たり、区分方法などのさまざまな要素を考慮する必要がある
- 分筆方法を誤ると地形などが歪になり資産価値が一気に低下する
- 分筆するには土地家屋調査士による調査、役所の担当者のチェック、土地分筆登記・所有権移転登記などが必要になる
- 数十万円~数百万円の費用がかかる
なお、相続時の遺産分割協議では「現物分割」と呼ばれる方法となります。
話し合いで解決しないなら「共有物分割請求」でトラブルに対応する
「共有名義不動産の扱いについて話し合いがまとまらない」という場合なら、「共有物分割請求」によってトラブルに対応する方法があります。
共有物分割請求とは、共有名義不動産の共有状態の解消を、他の共有者へ求める手続きです。共有物分割請求は民法第256条にて規定されており、共有物分割請求がおこなわれたときは、法的強制力によって話し合いや協議で決定した共有物の分割を他の共有者は拒否できません。
共有物分割請求は、共有物分割請求調停によって裁判所で話し合うか、共有物分割請求訴訟で裁判所にて争うかのいずれかで進めます。共有物分割請求には調停前置主義(訴訟提起の前に調停をおこなう必要がある決まり)がないため、いきなり訴訟で争うことも可能です。
訴訟を起こせば、裁判所が強制的に共有物の分割方法(現物分割、代償分割、換価分割など)を定めてくれるため、他の共有者の同意がなくても共有状態を解消できます。裁判所の判断ということで、共有物の分割方法に納得しやすいメリットもあります。
一方で、他の共有者との関係がさらに悪化したり、共有状態を解消できるまでに時間がかかったりするのがデメリットです。また、裁判所が決めた分割方法が、共有者が望む方法にならない場合もある点には注意しなければなりません。
訴訟は共有不動産がある住所地、もしくは訴訟を受ける人(被告)の住所地を管轄する地方裁判所に申し立てます。
申し立てに必要な書類は以下のとおりです。
- 訴状の正本および副本
- 共有不動産の固定資産評価証明書
- 登記簿謄本(全部事項証明書)
- 収入印紙
- 郵便料金
共有物分割請求訴訟について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
相続手続き関係で知っておきたい注意点
共有名義不動産における相続手続きをおこなう際は、以下の注意点を意識しておきましょう。
- 相続人の確定と相続財産の調査を早めに進める
- 相続登記が義務化されたので確実に行う
- 相続税の確定申告・準確定申告・納税を忘れないようにする
相続人の確定と相続財産の調査を早めに進める
相続をスムーズに進めるには、相続人が誰かを早く確定させること、および存在する相続財産には何があるか・いくらになるのかなどについて早めに調査を進めるようにしましょう。相続人や相続財産が確定しないと、遺産分割協議が無効となったり後から相続内容・金額が変更になって揉めたりなどのトラブルが想定されます。
調査は、自分で行うか、もしくは専門家に調査を依頼します。調査にかかる目安は1ヶ月から2ヶ月程度となるため、被相続人の初七日から被相続人が死亡してから2ヶ月までを目安に調査を行います。
なお、調査には数千円から数万円の費用がかかりますが、専門家に依頼する場合は追加で10万円から30万円程度が必要です。
相続登記が義務化されたので確実に行う
親などから不動産を相続したときは、相続登記を忘れないようにしましょう。
相続登記は、2024年4月1日より義務化されました。相続登記で被相続人から相続人へ名義を変更する手続きをしないと、共有持分の売却や贈与時に被相続人名義のままになるため、契約が無効となる可能性があります。
また、正当な理由なく相続登記の申請を怠ったときは、10万円以下の過料が科される可能性があります。相続登記の期限は、所有権の取得を知ってから3年以内です。
なお遺産分割協議中に相続登記をおこなっていないときは、「潜在的共有状態」とみなされて法定相続人が共有している状態として扱います。
相続税の確定申告・準確定申告・納税を忘れないようにする
不動産や金銭などに限らず、相続した財産は原則として相続税の対象です。
相続税の申告・納付の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内と決められています。例えば、1月6日に被相続人が亡くなった場合、その年の11月6日が申告・納付の期限となります。
期限までに申告しなかった場合や、実際の財産額よりも少ない金額で申告した場合は、加算税や延滞税が加算される恐れがあります。
期限は必ず守り、正しく申告することが大切です。期限までに遺産分割協議が終わらない場合は、法定相続分通りに遺産を分割したと仮定して申告し、具体的な分割方法や割合が決まってから、修正申告もしくは更正の申告を行えば問題ありません。
また、被相続人に関する準確定申告も忘れてはなりません。
準確定申告とは、相続人が年の途中で死亡した人のその年に1月1日から死亡した日までに確定した所得金額や税額の計算を行い、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に所得税の申告をすることです。被相続人に一定の収入があった場合は、相続人が確定申告を行わなければなりません。
なお、準確定申告によって所得税の支払いが必要になった場合、納税義務は相続人に発生します。申告先・納付先は、死亡した人の住所を管轄する税務署となります。
なお、共有名義不動産の相続税申告をする流れや計算方法について詳しく知りたい場合は、以下の記事を参照してください。
相続関係の手続きや訴訟は弁護士や司法書士へ相談するのがおすすめ
相続関係の手続き(相続人調査や登記など)や訴訟を進めたいときは、弁護士や司法書士などの専門家へ相談するのがよいでしょう。相続関係の手続きは専門知識や経験がなければ正しく進めるのが難しいうえに、各手続きに設けられた期限に間に合わなくなる可能性があるからです。相続関係の調査や訴訟は弁護士、登記関係は司法書士に依頼するのがよいでしょう。
また弁護士や司法書士なら、個々の共有状態や相続関係に応じて、適切なアドバイスをしてくれます。
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共有名義不動産や相続対象となっている不動産の売却を検討しているときは、訳あり物件専門の買取業者である「クランピーリアルエステート」へご相談ください。
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まとめ
実家を兄弟の共有名義で相続した場合、さまざまなトラブルが発生します。共有状態が継続されても、不動産を自由に活用できないため、できるだけ早く共有名義を解消することを考えましょう。
実家を兄弟で相続する予定がある人や、すでに相続した人は、本記事を参考に問題を解決しましょう。